阿川佐和子とヤマザキマリが語る 認知症母にやさしくなれるまで
それで私のクローゼットから着替えを探したけど、パンツではなく、靴下の引出しを開けてしまったのだと」
マリ「親の排せつの失敗は、娘もついつい情けない気持ちになったりするけど……」
阿川「考えてみたら、隠すこと自体がカワイイじゃんて思うようになりました」
マリ「認知症になって、とても自由に生きられている部分もありますからね」
阿川「うちは圧倒的に父が強かったんです。絶対君主的で、それによって家族が振り回されていました。でも母は、『なんでそんなに言うことを聞けるの?』って思うくらい従順だったんです。だから私は、きっと7歳年上の父が早く死ぬだろうし、そうしたら母を旅行に連れていったりして、家庭の束縛から解放してあげようって、ずっと思っていたんです。それなのに、母が先にボケてしまって、悔しかったですよ」
マリ「それは無念」
阿川「でもね、ボケてみると、100%不幸だとはいえない。むしろ母は自己主張が強くなりましたよ。入院中だった父が『お前の作ったちらし寿司が食べたい』と言いだしたときも、さらっと『あーちらし寿司ですね、そこの百貨店に売っていますよ』って」
マリ「素晴らしい!」
阿川「いま、母はとても自由に愉快に生きているんです。