勘三郎さんも愛した辨松が廃業 コロナで消えた“歌舞伎座の味”
右近さんなんて『嘘だろ!』と言って、うちを惜しんでくださったって。そんなこと聞くとね、本当にありがたいと思いますね。女優のうつみ宮土理さんもね、《やめちゃうの残念だけど、いままでありがとう》って、わざわざ自筆のお手紙をくださいました。
そうやってね、ごひいきにしてくださった皆さんが『おいしかった』『ありがとう』と言ってくださるのが何よりうれしいですよ。最終日にもね、これまでほぼ毎日買いに来てくれた女性のお得意さまが、『これからどうしたらいいの?』って言うんですよ。そんで、涙こぼしながら『いままでありがとう』って。これには、僕もグッときました。本当なら、こっちが感謝の言葉を述べなきゃなんないのにね。
皆さんからそうやって『ありがとう』と言われて、ああ、辨松の社長やってきて、ここまで全うしてきてよかったなと、本当にそう思いましたよ。それにしても……。ここまで静かな銀座は初めて。まるでゴーストタウンだ」
閉店の日、4月にしては冷たい雨がそぼ降るなか、猪飼さんと幹部ら3人が店頭に姿を見せた。そして、万感の思いをかみしめるように、歌舞伎座に向かって深々と頭を下げる。こうして木挽町辨松は、152年という長い歴史に幕を閉じた。
「女性自身」2020年5月26日号 掲載