くらし情報『夫・椎名誠も舌を巻く“冒険家”で作家の渡辺一枝さん「チベットの鳥葬に父の最期を重ねて」』

2022年3月11日 11:00

夫・椎名誠も舌を巻く“冒険家”で作家の渡辺一枝さん「チベットの鳥葬に父の最期を重ねて」

必ず帰るから一枝をたのむ』と言い残して出ていったそうです」

一枝さんの出生から、わずか半年あまり。7月末のことだった。

まもなく迎えた敗戦。父の行方はわからないまま、1年後、一枝さんは母におぶわれ日本へ引き揚げる。

母は静岡の分教場に教師の職を得たため、一枝さんは5歳まで山梨の親戚宅で育てられた。ようやく母と暮らせるようになったのは、上京し、小学校にあがる直前のこと。

「母はよく私にハルビンで父と過ごした楽しかった思い出を聞かせてくれた。でも私は、幼いころから〈自分は侵略地で生まれた〉という負い目を感じていたんです。
『なぜ侵略地に渡ったの?』『なぜ父の出征を止めなかったの?』と尋ねることもできないまま、きれいな思い出話ばかりする母に反発を抱いていました」

母もまた、一枝さんが“引き揚げ者”として差別されないように、と厳しく育てた。

そのおかげか、学校の成績はいつも優秀だった。一方で、自然も大好きで、中学から大学まで山岳部に所属。高校では、生徒会の副会長でありながら、「今日は授業を受ける気がしないので山に行ってきます」と、授業をすっぽかすような型破りな一面もあった。

そんな一枝さんが、当時から夢中になっていたものがある。

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