2022年3月11日 11:00
夫・椎名誠も舌を巻く“冒険家”で作家の渡辺一枝さん「チベットの鳥葬に父の最期を重ねて」
母はそう言って自宅を増築し、保育園を設立してしまう。
「母も、幼い私をあちこち預けながら苦労して働いていたから、保育園の重要性を感じていたんだと思います」
一枝さんは、保育士の資格を取得。生まれた子どもを預けながら保育士として働き始めた。
「じつは、保育士になるまで小さい子どもは苦手でした。でも実際に関わってみたら、ものすごく楽しくて。赤ん坊って、言葉も話せないし歩けもしないのに、すごい勢いでさまざまなものを吸収していくでしょう。その過程に関われることに喜びを感じたんです」
一方で、2人目の子どもが生まれた矢先、椎名さんから、勤めていた会社を「辞めたい」と切り出される。
「私、『いいんじゃない』って言ったの。
クズ拾いでもなんでもやれば生活できる。私も保母をしているんだから、って。だって気持ちよく働いてほしいじゃない」
一枝さんの理解もあってか、そのあと椎名さんは、瞬く間に売れっ子作家の階段を駆け上がった。
長期の取材旅行で留守にすることも多い椎名さんだったが、自宅にいるときは子どもの面倒をよく見てくれるよき父親だった。
保育士と子育てを両立させ、充実した日々を送っていた一枝さんに転機が訪れたのは41歳のとき。