このとき、桃太郎さんは続けて不思議なことを言ったという。
「『いずれ姉さんに三味線、弾いてもらうことになるよ』って。あっちは何げなしに言ったんだろうけど。思えばそれが縁だったんだね」
桃太郎さんの言葉どおり、しばらくすると祐子さんは彼の三味線を弾くようになった。
■2人目の夫は穏やかそのもの。「桃太郎と一緒になって、本当に幸せだった」
「三味線、続けるなら出ていけ!」
祐子さんが曲師としてふたたび多忙になり始めると、嫉妬深い夫はこう怒鳴りつけたという。
「『三味線やめて家にいろ』と言うんだ。でも、私は三味線も浪曲も好きだから。
それに、曲師が本当に足りなかった。これはもう出ていくしかない、そう思った」
祐子さんは家を出て、4畳半一間のアパートで別居生活を始めた。
「桃太郎の三味線は弾いてたし、内職もやったけど。一人暮らしとなると家賃、生活費とぜんぜん足りない。だから、千住のやっちゃ場(市場)の喫茶店で働きました」
朝4時から喫茶店勤務。正午に仕事を終え、バスに飛び乗り浅草へ向かう。そんなダブルワークをしばらく続けた。
「やっぱり育ちがあんまりよくないんだね。
借金取りが来たのを見て育ったから。