2023年1月29日 06:00
末期がんや難病の患者に希望を与えるトラベルドクター・伊藤玲哉さんの挑戦!
ここで伊藤さんの医師としての最初の転機が訪れた。
「いわゆるご高齢の方とか、終末期の患者さんを診ていて、生きていることって何なのかと違和感を持ち始めたんです。その方が歩きたいと言っても、転倒のリスクがあるから許可しない。むせこみのある方がお水を飲みたいといっても、誤嚥したら危ないからやめておきましょうとなる。結果、患者さんたちは、病室の天井を見ているしかない。『早く死にたい』と口にする方もいました……」
リスクを避けることを優先するあまり、患者にしっかり向き合えないのが日本の医療全般の常識だった。
ベッドでの身体抑制を受けたり、水分は点滴でしか与えられない患者も少なくない。本人が望んでいなくても延命を家族が主張すればやらざるをえない。
「自分は何のために医者になったんだろう」と違和感ばかりが膨らんでいったという。
そんなある日の回診で、病室を出ようとしたときだった。ふだんは無口な、がんの終末期の男性から、「旅行に行きたい」と呼び止められた。「えっ!?」と驚いて聞き返すと「行きたい」という。
「僕にはそれが“生きたい”に聞こえたんです。そうか、行くことは生きることなんだよな、と。