映画作家・大林宣彦「“余命三カ月がん”は撮影に役立った」
『たった2日間で余命が3カ月も減るっていうのは大変なことだぞ』と思いましたよ。ですが、自分でも不思議なほどネガティブな気持ちはいっさいなかった。それはやはり、伝えなければいけないメッセージがあるから。命懸けで撮らなければならない映画があるからなんです。僕には、大先輩から託された“遺言”があります」
50歳のとき、大林さんは黒澤明監督の映画『夢』のメイキングを作るために連日のように、撮影現場で彼の間近にいる機会があった。すると、ある日、黒澤監督はこんなことを話し始めたという。
『大林くん、人間というのは本当に愚かなものだ。いまだに戦争もやめられない』
そして、こう続けた。
『けれども、人間はなぜか映画というものもつくったんだな。映画には必ず世界を戦争から救う、世界を平和に導く、美しさと力があるんだ』
「僕はこの言葉を約30年、ずっとかみ締めてきたんです。そしていま……時代はだんだんと変わってきて、僕たちのすぐ横にも戦争があるんじゃないか、そういう皮膚感覚を持つようになりました。