映画作家・大林宣彦「“余命三カ月がん”は撮影に役立った」
「がんになって余命宣告されても、僕はそれを決して後ろ向きには捉えませんでした。むしろ、がんになったことで、映画の大きなテーマでもある『命の自由』を描くことに大いに役立ったように思えた。余命3カ月という現実を抱え込んで撮影に臨めたことが、映画にとってはとてもよかったと思っているんです。『花筐』のヒロインは肺病(肺結核)。いまのがんと同じように、あの時代は多くの人が恐れた病です。映画では、運命の男の恋愛を描きます」
40年前に映画化を企画したとき、肺病も治るし戦争にも行かなくなった現代を生きる大林さんには、「彼らの切迫感を表現することは無理だな」という思いがあったという。
「しかし、いまは戦争の気配を強く感じる世の中になった。原作者の檀さんも肺がんで亡くなりましたが、期せずして同じ病いになった。
正直言うと僕は本気で『うれしい』と思ったんですよ。それがいちばんの力になった。最初のカットは肺病のレントゲン写真を見るシーンでしたからね。辻褄が合いすぎているというか……僕はこの運命に従おうと、腹を決めて撮影に臨んだのです。