ワシントン・ナショナル・オペラの《ホフマン物語》にオランピア役で出演するためで、スミ・ジョーさんとのWキャストで、私が歌うのは9月14日。11日はゲネプロの予定でした。私は朝から部屋で練習していて、日本の母からの電話で事件を知ったんですね。劇場がペンタゴンの隣の駅ということもあり、ゲネプロは中止、街の中心からも避難するようにと連絡がありました。外に出ると、小型戦闘機が低空でビュンビュン飛び交い、警察なのか軍なのか、武装した人がたくさん立っていて、戦争というのはこうやって始まるのかなと怖くなりました。
人の集まる劇場は攻撃の目標になりやすいし、私たち日本人の感覚だと公演は中止ですよね。でも予定どおりにやったんです。いつも明るく冗談ばかり言っている劇場スタッフもさすがに神妙な面持ちで、開演前に、いつもはやらない円陣を組みました。
『一人でもお客さんが来てくれるなら、この時間だけでもショッキングな状況を忘れてもらって、楽しんで帰ってもらえるように頑張りましょう』。
そうは言っても、私はお客様は来ないだろうと思っていたんです。私は仕事で来ているわけですから、もし何かあっても仕方のないことだと覚悟していますが、お客様はご自分の安全を優先すればいいわけですから。