くらし情報『バロック界の巨匠鈴木雅明が語る『第九』の魅力』

バロック界の巨匠鈴木雅明が語る『第九』の魅力

第1楽章はこれが本当にソナタ形式なのかといった感じでとりとめがないにもかかわらず、緊張感がずっと持続していくのです。とても良くできた見事な曲だと思います。

●バッハ演奏との違いは

全く違う頭で取り組まないとだめですね。ベートーヴェンの音楽はずっと人間的で、個人的に語りかけてくるような音楽です。一方バッハの方は、個人的な感情というのとはちょっと違う。バッハはニュートンのように、我々の目には見えない自然界の美しい法則を耳に聞こえるようにしてくれたのです。まさにバッハがニュートンのような人だと言われる由縁です。ところがベートーヴェンは決してニュートン的ではない。
もっと人間臭くて、人生の苦しみをどうやって昇華していくかといった葛藤が常にあったのです。それが音楽に現れています。「ハイリゲンシュタットの遺書」を書いた1802年頃には、耳も聞こえなくなり失恋もして本当につらい時期だったわけです。でもその後に『オリーブ山上のキリスト』や交響曲第3番『英雄』を書いて復活するわけです。更に耳が聞こえなくなって苦しい思いはあったのだろうけれど、それを音楽で乗り越えていく力を感じます。無骨ながら人付き合いもうまくやっていたのでしょう。

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