綾野剛×大友啓史が掴んだ映画の可能性「観たことのない映画ができた」
では一見すると土のような料理が出ます。見た目だけで言えば、どんな味かまったくわからない。でも世界一のレストランに美味しいですよと出されたら食べてみようかという気持ちになる。そこですよね、今の日本映画に必要なものは。今、日本映画はそこから始め直さなきゃいけない気がしています」(綾野)
笑って泣ける映画ももちろん素晴らしい。だけど、エンドロールが終わるまで自分がどんな感情にさらされるのかわからない、そんな映画ももっと世に出てしかるべきだ。
「僕はこの『影裏』を本当に面白い作品だと思っているし、観たことのない映画ができた、少なくとも僕の人生にはなかった映画ができたという自信がある。『影裏』をやって、映画ってまだ全然可能性があると再確認しました」(綾野)
冷静に、だけどその皮膚から熱が迸るような口調で、綾野は想いを込める。
ふと我に返ったように、横にいる大友監督に「頭おかしいんですよ、大友さんは」と冗談めかしてボールを振ると、大友監督も「お互い様ですからね、頭おかしいのは」と投げ返す。その短いやりとりに、信頼の二文字が浮かぶ。
「僕はそんなに大それたことは考えていないんですよ。もともとはテレビドラマをつくっていて、映画界に来て10年。