ふと気付くと、喫茶&スナックの中にも人がおり、『虹む街』の世界が動き出した。
男は乾燥を終えた大量のタオルを億劫そうに畳み始める。喫茶&スナックの中では店主であろう女性と車椅子の女性がなにやら会話しているようだ。街には雨が降っていて、人通りはほとんどない。雨音くらいしか聞こえない中で、バンと音を立てて、コインランドリーの管理人らしき女性が入ってくる。電気をつけ、洗濯機を傘でガチャガチャと叩き、チェックしている女性。タオルを畳んでいる男性は気にする様子もないので、いつものことなのだろう。女性は、傘でほじくりだしたゴミを手づかみで捨て、その手で自販機で買ったチーズバーガーを食べる。
その熱さに驚く声で、やっと人の声が聞けた。
そこからは、小学生の女の子と母親らしきふたりが中国語で会話をしながら中華料理店に帰って来たり、別の言語を話す男性たちが洗濯をしに来たり、少しずつ声や音が増えていく。筆者は日本語以外は理解できないのだが、親子の温かな雰囲気の声や、男性たちの笑い声に、自分の心がじわじわと和んでいくのを感じる。普段なら気にも留めないような風景に、自分がどんな感情を呼び起こされているのか意識したのは初めてだった。