『フェラーリ』マイケル・マン監督インタビュー。「人生は映画のようにシンプルではない」
圧巻なのは、劇中でエンツォがオペラハウスに足を運ぶシーンだ。ここでは舞台上で展開される歌唱に乗せて、エンツォ、ラウラ、リナなど複数の登場人物の過去と現在が並行して描かれる。幸福な時間も、苦しみも、怒りも喜びも、不条理な出来事もすべてが混ざり合っている本作を象徴するシーンだ。
「そう言ってもらえるのはうれしいです。あのシークエンスでは回想(フラッシュバック)が描かれますが、観客にデータを伝えるようなものではなく、彼らの感情を描くフラッシュバックになっています。本作で描かれるエンツォの苦々しさ、不誠実さ、彼の人生の二面性をまず描き、エンツォとラウラが息子を失ったことを悼み、双方に敵対心や皮肉めいた感情を抱いていることを描いた上で、そのカウンターとして“エンツォとラウラの関係がはじまった頃”を描きました。まだ小さな家で暮らしている若い夫婦には喜びがあった。私がここで描きたかったのは過去の出来事ではなく、かつてあった感情や感覚なのです。
実は私はこれまでオペラをたくさん聞いてきたわけではありません。しかし、オペラについて考える中で私が思ったのは、オペラで表現される感情は“テクニカラー”だということです。