2023年12月22日 17:00
キース・へリングがNYの地下鉄駅に描いた理由とは? 密着取材で見た「サブウェイ・ドローイング」の現場(文:村田真)
Photo by (C)Makoto Murata
1982年の暮れも押し迫ったある日、ぴあの矢内社長に呼び出された。またなにかヘマでもしでかしたかと思ったら、ニューヨークに行ってキース・ヘリングに会ってこいとの話だった。その年ぴあは本誌以外に第2の雑誌『カレンダー』誌を創刊したのだが、売れ行きが芳しくないため翌春リニューアルすることになっていた。その表紙をキースに描いてもらい、リニューアル版第1号で「キース・ヘリング特集」をすることになったのだ。
入社6年目を迎えていたぼくは、美術担当としてそれなりに充実した日々を送っていたが、一抹の不安も抱えていた。その年の秋、初めてヨーロッパを訪れ、ヴェネツィア・ビエンナーレやドクメンタなどの現代美術の洗礼を受ける一方、行く先々で目にした古典美術の厚みに圧倒され、急に日本のアートシーンが色褪せて見えてしまったのだ。それから2カ月後の初のニューヨーク行きのオファーである。ヨーロッパとはまた違ったアートシーンが見られるはず、快諾したのはいうまでもない(てか社長命令だから断れるはずもない)。
『キース・ヘリング展アートをストリートへ』展示風景よりキース・へリングが描き下ろした雑誌『カレンダー』(月刊『ぴあ』別冊)