2023年12月22日 17:00
キース・へリングがNYの地下鉄駅に描いた理由とは? 密着取材で見た「サブウェイ・ドローイング」の現場(文:村田真)
彼自身ゲイであり、またHIVに感染していることを隠さなかったし、エイズ救済のための活動にも力を注いだ。彼にとって生きることと絵を描くことは一致していたのだ。ただの落書き小僧でないことは明らかだった。
『キース・ヘリング展アートをストリートへ』展示風景より「サブウェイ・ドローイング」シリーズ
森アーツセンターギャラリーで開催中の『キース・ヘリング展 アートをストリートへ』には、地下鉄の黒い紙に描いた「サブウェイ・ドローイング」も7点ほど出ている。ほかのカラフルな作品に比べれば地味だが、キースにとってはもちろん、ニューヨークのグラフィティシーンにとっても、また現在のバンクシーをはじめとするストリートアートカルチャーにとっても大変に貴重なもの。というのも、これら「サブウェイ・ドローイング」は1980年代前半に描かれたおそらく数百、数千点のうちのごく一部にすぎないが、その大半は描いた直後から消されたり破棄されたりして残っていないからだ。キース本人もその場で描いて、その場にいた人に楽しんでもらえれば十分で、「作品」として残そうなんて思っていなかったに違いない。その潔さ、散り際の見事さはキース・ヘリングの生き方そのままである。