監督と考える。映画『人数の町』が描く世界は本当にディストピアなのか?
「映画の前半はすごくコンセプチュアルに描いてきた」という荒木監督は映画の後半でギアを入れ替えて物語を進める。ここが本作の最大の注目ポイントだ。「脚本を書く段階からずっと考えていて、周囲から“お前はちゃんと恋愛が描けるのか?”みたいな話にもなったんですけど(笑)、誰かの知恵を借りたりしないで自分に正直に書いてみようと。それぞれのキャラクターに言いたいことをちゃんと言わせて、やりたいように行動させてみようと思ったんです」
その結果、蒼山と紅子は惹かれあい、町からの脱出を目指す。しかし、脱出してどうする? 外に出て何が変わる? だからこそ荒木監督は主人公たちが町から脱出できるかどうかではなく、ふたりの心の動きやドラマにフォーカスをあてている。
「なぜ相手を好きになるのかを理屈で描くのはつまらないことだと思っていました。俳優も戸惑ったりはしていなくて、むしろチャレンジしてやろうって感じで演じてくれましたね。恋愛ってものが、現代で唯一許された狂気だってことはいつも思ってます。
唯一許されていて、誰でも発揮していい狂気。好き合ってしまったふたりに文句のつけようはないし、管理のしようがない。そのことは常になんとなく考えていることです」