『本心』池松壮亮、石井裕也インタビュー。「今作は“記憶を記録すること”の映画」
その一方で、描かれている世界の表層が極めて特異なものであるからこそ、本質やテーマが浮かびあがると思ったんです。小説『本心』にはリアルアバターやVFなどの難しい要素が出てくるんですけど、だからこそ「愛」とか「生きること」という普遍的なテーマが生々しく浮かび上がってくる。この小説の世界観を描くことで、これまで自分が描いてきた「愛の可能性」とか「生きることは?」というテーマを何倍にも増幅して描くことができるのではないかと思いました。
石井監督が語る通り、本作には未来的なガジェットや設定が登場するが、その根底には石井監督がこれまでに繰り返し描いてきたモチーフがしっかりと息づいている。郊外のボロ家で共同生活する男女のドラマを通して人間のパワフルさと不完全さを描き出してみせた長編第一作『剥き出しにっぽん』、息子を失った母の彷徨のドラマを描く『ばけもの模様』、幼少期に病によってこの世を去った自身の母をモチーフにした『茜色の焼かれる』、失踪した母をめぐる一家の奔走を描く『愛にイナズマ』など、石井作品は初期作から近作まで、その視点は一貫している。池松近未来という設定の中で本作にある様々な対比構造、生と死、過去と未来、本心と言葉、宇宙の距離と人間の距離、そうしたことを用いることで、石井さんが近年描いてきた実存、存在の陰りと実感、この世界への執着と愛着、そうしたものがより際立ち、大きなスケールの中で描けるのではないかと思いました。