『本心』池松壮亮、石井裕也インタビュー。「今作は“記憶を記録すること”の映画」
そして、そんな“母”を名優・田中裕子が演じた。
池松この小説を読んで、母のイメージとしてはっきりと浮かんでいたのが田中裕子さんでした。そのことは石井さんにもお伝えしました。でもまさか本当に田中裕子さんが演じてくださるとは思っていませんでした。撮影現場の田中さんは、VFの役を演じる中で、あらゆることを超越して演じられているような印象がありました。田中さんが人間的なことを選べば選ぶほどに、本物の母を感じると同時に、そこによりAI的なものを感じる。愛おしくて、かけがえがなくて、遠く感じる……田中さんが見事に演じてくださったと思っています。石井『本心』というタイトルの映画に出演する俳優は自ずと“本心”が試されるはず。
だから俳優としてはその時点でちょっとイヤだと思うんです。“本心とは何か?”を問うことは、結局のところ“芝居とは何か?”を問うことになる。さらに言うと、VFは絶えずその存在の真偽を問われ続けるものでもあります。それって“俳優”と同じなんじゃないかと思ったんです。だから普通に考えたら、僕のような凡人には想像もできないような好奇心がないと、VF役は受けてもらえないと思うんです。ですから、この映画は田中さんの並外れた好奇心がなければ絶対に成り立たなかったと思っています。