『本心』池松壮亮、石井裕也インタビュー。「今作は“記憶を記録すること”の映画」
田中さんはレジェンドと言っても過言ではない俳優さんですから、僕も撮影前は身構えました(笑)。でも、田中さんは撮影しながら、こちらの要求だったり、会話を受けてどんどん変化し、凄みを増していく。だから苦労したり、無意味に気をつかうようなことはまったくなくて、撮影しながらとにかく「最高だった」という記憶しかないです。
この映画に登場する“母”は、息子の朔也や、彼女を知る人たちの記憶によって構成されている。そして、VFになった“母”との会話を受けて、さらに変化を遂げていく。ポイントはこの“母”が実在の人間であろうが、仮想的な存在であろうが、結局は“本心”は目には見えない、ということだ。私たちは相手の心が見えない。相手に関する記憶も変化していく。
本作はAIや未来社会、テクノロジーを扱っているが、本作はどこまでいっても“人間と記憶”についての物語が語られる。
池松今作は“記憶を記録すること”の映画だとも思いました。黒澤明の『生きものの記録』というタイトルの映画がありますが、そういうイメージがありました。記憶で形成される母と、欲望の歴史を生きてきた私たち人間の現在地の記録。そしてこれからの人間の領域の物語であるとも思いました。