32歳で完全に視力を失い…難病を患っても医師になった理由「限定的な視野に縛られていた」
1年後にはいよいよ手元の教科書の文字が見えにくくなってきました。そんな中、医学部6年生は一番勉強しないといけない学年。それはもちろん、目の前に国家試験を控えているからです。しかし勉強は捗はかどりません。教科書やテスト問題が見えにくいという物理的な理由もありましたが、それ以上に、私を勉強から遠ざけたのは私の心の問題でした。
「目が見えなくなるのに、医師を目指す意味があるのだろうか」。そんな思いが頭をよぎるようになり、だんだん勉強に気持ちが入らなくなっていったのです。
1年後の自分の状態がどうなっているか分からない。
5年後、10年後はもっと分からない。
そんな状態で、医師を目指して何になる?
ぐるぐると思考の迷路に迷い込んでいた状態ですから、なんとか卒業はできたものの国家試験はめでたく不合格となりました。
さぁ、これからどうしたものか。途方に暮れる気持ちはもちろんありました。ただ、その一方で、不思議な気持ちが私のもとに訪れました。まさかの解放感です。
国家試験に落ちたことで、突然人生がフリーになったと言いますか、決められたレールから外れることができたと言いますか、奇妙な感覚に包まれたのです。