焦った表情にもお坊っちゃんらしい甘い雰囲気がにじむウエンツと、主人を見守る穏やかな笑顔ながら冷静に助言する里見は、改めてハマり役と思えた。
一方、バセットの姪スティッフィーに扮する高橋は意外にもコケティッシュなたたずまいで、役作りはすでに進んでいる様子。高橋に加えてモトや右近らミュージカル経験が豊富なキャストからは、小道具を取り出すタイミングをそれぞれ演出家に提案するなど、この座組みの風通しの良さが見てとれる。それはきっと、いわゆる“大御所”でありながらスタッフの説明に真摯にうなずき、熱心に台本に目を通す里見や、バーティ役に没入してその感情を追いつつ、一つひとつの動きをスタッフと熱心に確認する座長・ウエンツの姿勢によるところが大きいのだろう。
真剣勝負な稽古が長めに続くと、質問をニコニコとスタッフに投げかけて場を和ますのはムードメーカーの右近だ。さらに取材中、モトが床で滑って転ぶハプニングが起きたのだが、「大丈夫ですか」と心配げな高橋の横に近づいたのはウエンツ。「(モトの髪の毛にかけて)ツルツルだから…と言ってあげて」とささやき、高橋が申し訳なさそうに「ツルツル…」と繰り返すと、スタッフ陣もつい吹き出して稽古場が笑いに包まれた。