くらし情報『東出昌大がカズオ・イシグロ原作の公演で初舞台』

2015年5月19日 11:50

東出昌大がカズオ・イシグロ原作の公演で初舞台

短い髪に簡素な白シャツでたたずむ東出は、いかにも純朴な青年といった風情。だが、ふと立ち止まって風に耳を澄ますシーンでは、“才能を持つ者”を表す、まっすぐで強い目力が印象的だ。さらにエロイーズから個人レッスンを受けるシーンは、昨年から実際にチェロの練習を重ねてきたというだけあって、楽器を抱えるポーズがピタリと決まっていた。またエロイーズとの哲学めいた会話のやりとりはまだ硬さが見られたものの、身のこなしの美しさは抜群。グレーの壁に白い家具、弱くゆらめくシャンデリアといった抑制されたセットと違和感なくなじみ、原作の静謐な空気を上手く伝えていた。

一方の、“才能もないのに有名であり続ける女”リンディと、“才能はあるのに売れない”スティーブンとの会話は赤裸々だ。ビバリーヒルズのホテルでたまたま隣り合ったふたりは、どちらも整形手術後の療養中で、顔にグルグルと包帯を巻いている。妻に逃げられ自棄になって手術を受けたスティーブンを演じる近藤の声音には自嘲がにじむが、進んで手術を受けたらしいリンディ役の安田の声は、屈託なく可憐だ。
最初はそんなリンディを毛嫌いしていたスティーブンだが、口論の末に彼女の本当の姿を知る過程が興味深い。

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