そこに共感してもらえるんやないかなと思いますし、今はもう死語になってしまった、“もどかしさ”とか“奥ゆかしさ”という言葉が、思い出される作品になるんじゃないかなと思っています」。
共演者には、妹に田中美佐子、貞二郎に錦織一清らが揃う。「みなさん真面目で芝居に対して真摯で、学ぶべきところの多い方たちばかりです。まだまだ産みの苦しみの最中ですが、何とかみんなで頑張って作っていきたいですね」。ただし、「舞台のうえでは苦しんで稽古したことは絶対にお見せしません。私らがどんなに大変やったかは、お客さんには関係ない。お客さんにはとにかく気楽に観に来ていただいて、楽しんでいただけたらそれでいいんです」ときっぱり。その言葉には、藤山直美という役者が見せるものに人が惹かれずにはいられない理由が表れている。
「私、自分が称賛されたり褒められたりすることは、別にいらないんです。それより、“ああ、この話面白かったな”と喜んでいただけるのがいちばん。ただ、そう思ってもらうのは簡単なことじゃないですから。だから、役者をやってる限りは苦しみ続けるんやと思います」。本当に観客のためだけに作られるまさしく庶民の芝居。初秋の明治座で堪能してほしい。