2017年5月9日 18:05
嘘を真実に変えたのは民衆だった『パレード』稽古レポ
製作発表で森が「主人公は言う間でもなくフランク夫妻ですが、もうひとり主役がいるとしたら、彼らを追い詰める民衆ではないか」と話したその存在。観客はもしかしたらこの「民衆」に自分を重ねる人も多いかもしれない。反ユダヤ主義を扇動する男(新納慎也)にアッサリ煽られる民衆、真犯人の調子のいい証言に踊らされる民衆、ザワザワした声がいつしか強い「殺せ!」という叫びになる。火の粉が風に煽られ大きく燃え広がり、真実を焼き尽くすさまを見たようだった。
セットは奥に並んだ民衆の姿もよく見える八百屋舞台。中央が回転すると並んだ民衆が壁のように視界を遮る瞬間があり、その向こう側を見せなくしていたのも印象的だった。ちなみに石丸と堀内以外の全員がこの名もなき民衆を演じるという。
森は、例えば“お辞儀がちょっと深い”など妥協なき姿勢が印象的。
特に裁判の最後、レオの陳述の歌唱シーンでは、声のトーンや一歩踏み出すタイミング、レオの思いが溢れ出す瞬間など、石丸と話し合いながら繊細に作り上げていて、そうやって生まれたシーンは、それまでの民衆の高揚を断ち切るほどに胸に強く響く印象的なものになっていた。重く深く繊細なテーマの作品だが、どの場面も驚くほど理解しやすいのは森の演出、そして実力派揃いのキャストによる芝居、歌唱の賜物。