鷹のような女性とカッコイイ悪役。河瀬直美の『トスカ』
三戸に「身体が流れないよう、背筋を伸ばして」「カッコイイほうがいいです」と指示する河瀬。トス香に野卑に襲いかかろうとはせず、余裕をもってじっくりと追い詰めるのが、河瀬の須賀ルピオ像なのだ。
その演出に応え、三戸の須賀ルピオはトス香を心理的に追い込んでいく。トス香が嘆くアリア「歌に生き愛に生き」の切ない調べ。『トスカ』で必ず拍手が起きる名アリアだ。すると、須賀ルピオも拍手しながらトス香に近づく。そんな須賀ルピオの求愛に応じたかに見せかけ、ナイフで刺すトス香。須賀ルピオの死体に、彼女は腰に刺していた赤い羽根を置く。
「トス香は鷹のような女」とする河瀬の言葉に呼応する演出だろう。稽古場には、河瀬をサポートしながら歌手に助言する大勝、広上の姿もあった。
続いて行われた会見では、河瀬は「映画とは違い、既に脚本があり、その脚本を一言一句変えることができず音楽も必ずそのリズムでついてくるという中で、どれだけオリジナリティを出せるかを考えています」「世界から戦争がなくなったことはないけれど、芸術がひと筋の光を見出す力になると信じています。今回の『トスカ』では、須賀ルピオが悪いのではなく、その時代、その瞬間の人間関係が生んだ悲劇として描きたい」