「本で読んだときは、何がいいのかさっぱり分からなかった。その中途半端な知識で談志の『芝浜』と対面したときに、ぶっ飛びましたね。落語でこんなに感情移入をしたり、感情表現できるのかと。それに、周りの大人たちもうつむいていました。ひとりひとりがこの噺を聞いて自分と向き合ってるんだなって、子ども心に感じました。そして僕も談志のように聞き終わった後の感想を持ってもらえる芸人になりたいと思って、弟子になろうと思ったんです」。
一方『文七元結』で登場するのは、無類の博打好きで仕事もろくにしない左官の長兵衛。負けて丸裸になった挙句、長屋に帰ると女房が愛娘・お久が戻ってこないと泣きじゃくる…。
『芝浜』と同様、年の瀬の江戸を舞台に繰り広げられる人情噺の大ネタだ。「落語好きの人にとっては、ステーキ食べ放題に行った後、すき焼き食べ放題に連れて行かれるようなものです。きっと胃もたれするでしょうし、もたれさせたいんです。ただそれはフェスティバルホールという素晴らしい会場だからこそ挑戦できるんです。それに、落語を知っている人には胃もたれする2本かもしれませんが、初めて落語を観る方たちにとってはそうでもないはず。“これが落語なんだ!”って思ってもらえる効果はあると思っています」。