吉右衛門が初心に戻る秀山祭。初代ゆかりの『俊寛』『河内山』を語る
その一方で、心理描写は現代的。島に残って千鳥を乗せるために上使を殺さなければならない場面などは、その心理を竹本や三味線と息が合わせて表現する型になっております。今回、(竹本)葵太夫さんが通して語ってくださるので、とても有難く嬉しい気持ちです」
本作に主演し、これまで数々の名演を見せている吉右衛門だが、20年ほど前、演じながら特別な体験をしたという。
「最後、船を見送っていると、上の方から(仏・菩薩が人々を苦役から救って彼岸に送る)弘誓の船のようなものが降りてくるのが見えたんです。弘誓の船が来るということは、そのまま死んでいくこと。私は、この芝居での俊寛は息絶え、解脱して昇天していくのではないかと思いました。以来、幕が閉まる寸前に上方を見上げるようにしています」
一方、『河内山』は、松江侯に妾となるよう強要され、屋敷から帰してもらえずにいる質店上州屋の娘のお藤を、お数寄屋坊主の河内山宗俊が見事に奪還するまでを描く、爽快な物語だ。「庶民の味方である悪人の、巨悪に対する生き様を描いたお芝居でです。
お客様に喜んでいただいて、最後は溜飲を下げていただく。講談だったものを舞台として立体的にお見せするわけですから、それでつまらないものになるなら私は役者としてやっていけません(笑)。