多部未華子、瀬戸康史らがカフカの不条理世界を生きる、KERA新作開幕
いつしか“現実世界”と“小説世界”は影響しあい、さらにはカフカが生きていた過去までもが入り交じっていく。KAATの広い舞台を活かした舞台美術と映像がダイナミックで、客席までも吸い込まれそうだ。生演奏と小野寺修二の幻想的な振付によりステージを行き交うダンサー達の動きに、何度もぞっとさせられる。
先の見えない展開により渡辺や多部の困惑の演技が増す。一方、瀬戸や麻実や音尾琢真ら周囲が真剣で、そのギャップに物語の不条理さが際立つ。大倉孝二らによって客席は笑いつつも、リアリティある俳優の演技と演出が、つねに不穏さを漂わせる。これはカフカによって書かれた話なのかもと錯覚しそうだ。
カフカが小説家として有名になったのは死後だ。
親友に「小説を焼き捨ててほしい」と言っていたカフカは自身の人生を後世に残す気はなかったのだろう。その人生を、さらに謎多く、彼の小説のように不条理に描き出した今作。まるでカフカの小説に迷い込み、物語に現実まで飲み込まれてしまうような不思議な感覚になる。しかしKERAのポップさと小野寺の振付の美しさにより、恐ろしくも居心地が良い。いつしか虜になる……これが条理の魅力だろうか。