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「将来海外でプレーしたい」そんな純粋で大きな夢を抱く子どもたちに「正しい努力をさせてあげたい」。そう願うのが親の本音ではないでしょうか。新刊『世界を変えてやれ!―プロサッカー選手を夢見る子どもたちのために僕ができること』では、「日本と世界を繋ぐ橋渡し」役の著者・稲若健志氏が、将来を夢見る選手たち、保護者、指導者に向け、アドバイスを送っています。改めて稲若氏に聞いた、子どもたちの夢を叶えるために知っておきたい世界の常識、最終回となる今回のインタビューは、問題解決能力やチャレンジし続ける姿勢を身につける方法、子どもの視野を広げるために親はどうすればいいかについてお送りします。<<第三回:練習量が多い=一生懸命ではない。元レアルのサルガド氏が指摘する日本の保護者の「誤った認識」■若ければ若いほど柔軟に感覚を変えていける――世界に出たとしても誰もが必ずプロサッカー選手という夢を掴めるわけではありません。サッカーから離れたあとにグローバルな社会で生き抜く人間力が身につけられる、というのが稲若さんの考え方の一つです。稲若さん自身、若くしてアルゼンチンにサッカー留学したことがきっかけとなり、今に繋がっていると思います。「僕の場合、何も助けとなるものがなかったことが逆に良かったと思っています。最近、アフリカに3回ほど行きましたが本当に良かった。アフリカに求めるものは『何もないこと』ですが、現代の便利な世の中と比べられるからすごくいいんです。僕が若いときにアルゼンチンにサッカー留学した当時、携帯も何もなかったので、自分で一から調べないと生きていくことができませんでした。公園に行って集まってくる子どもたちに飴をあげて、聞いた言葉を家に帰って辞書で調べることを1年くらい繰り返して、それで言葉を覚えたんです。わからないことを自分でどうにかする方法を覚えたし、そういう姿勢が今の僕を作っています。これがダメならば次はこれだ、という次の次の次の選択肢まで考えられる思考になっていったのですが、僕がそうだったように、人は若ければ若いほど柔軟に感覚を変えていけると思います。海外に飛び出して行けば、頼る親もいないし、自分から人に聞かないとわからないし、聞くための言葉すらわからないから、必死に言葉を覚えるという良い循環になると思います。日本だと周りが簡単に教えてくれるので、自分で解決する力はなかなか身につきません。ちなみに、僕の会社でサッカー留学する場合は、朝起きたら子どもたちはまず部屋の掃除をします。掃除から始まり、ご飯を食べて、それから練習をする、という規律の中でしっかりと生活してもらいます。日本にいれば、朝起きてからまず掃除はしないですよね。普段とは異なる新鮮な感覚で生活ができることもサッカー留学の良いところだと思います。親がいない環境になれば、自分でやるしかありません。日本にいれば失敗すらできないようになっています。失敗する前に親が失敗を防いでしまうこともありますからね。ある程度の学年の子でも、暑かったら(子どもに)帽子をかぶらせるかどうかも親が判断してしまうのが今の日本です。この点、海外から帰国すると子どもが自分で洗濯をするとか、掃除をするとか、食器を洗うとか、そういう行動をする姿に親御さんたちは子どもの成長を感じるようです」■親の視野が広がれば、子どもの視野もひろがる――今回書かれた書籍『世界を変えてやれ!』の中には年長さんがサッカー留学した話も収録されていますが、稲若さんは年齢に関してはどう考えていますか?「子どもが海外に行きたいと思ったときがタイミングだと思います。もちろん、人それぞれタイミングは異なります。子どもが海外に行きたいと思うきっかけには、出会う人とか、出会うための環境にいるとか、そういう影響が大きいです。その年長さんのケースは、年長さんで海外留学するかどうかの最終判断は親が決めることなので、こちらもその判断を受け入れてスペインに行きましたが、特に何も問題なく終わりましたよ。その親御さんは『うちはこの子に6歳になるまで自分たちの愛情は精一杯注いだので、これからは他の人の愛情でどう育つのか見てみたいのでスペインに送ります』と初めは悩みながらも決断されていました。ほとんどの親御さんが言うのは『うちの子はまだしっかりしていないので......』『迷惑をかけるので......』ということです。そうやって子どもにブレーキをかけてしまうのですが、迷惑ではないし、わが子を心配する気持ちもわかります。ただ、これだけは覚えておいてください。そういったご家庭の場合、わが子が親のステイタスを越えることは、まず無いです。親の視野が広がれば、子どもの視野が広がります。親がチャレンジを続けるのであれば、子どもも間違いなくチャレンジを続けます。自分の行動によって子どもの将来に多大なる影響を与えると思ってください。大事なのは、子どもが真剣に悩んだ結果、自分で決めたときに親が背中を押すことができるかどうかです。それは親が決めることであり、子どもの未来を左右できることなのです」サッカーでもなんでも、失敗することで「じゃあどうすればいいか」を学ぶ機会になります。親がチャレンジする姿を見せないのに、子どもが失敗を恐れずチャレンジする力を身につけられるでしょうか。子どもの成長や自立、社会で生きていくための思考力や判断を身につけてほしいと願っているのに、わが子を心配しすぎてブレーキをかけてしまうのではなく、子ども自身が考えて決めたことを後押ししてあげることが最大のサポートなのです。<<第三回:練習量が多い=一生懸命ではない。元レアルのサルガド氏が指摘する日本の保護者の「誤った認識」稲若健志(いなわか・たけし)株式会社ワカタケ代表。1979年生まれ。神奈川県出身。藤嶺学園藤沢高校卒業後、ディエゴ・マラドーナに憧れアルゼンチンに渡航しプロ契約を結ぶ。愛媛FCや栃木SCなどでプレーしたのち引退。帰国してからも10年以上に渡り、毎年アルゼンチンを訪れ、指導や教育を学び、26歳のときに株式会社ワカタケを設立。中井卓大選手の挑戦の支援を通し、レアル・マドリードに強いパイプを持つ。レアル、アトレティコ、セルタなど日本でのキャンプ及び海外キャンプのライセンスを持つほか、世界各国につながりを持ちリーガ主催のジュニアの大会への出場権も保有。世界を子どもたちに見せるべく、年間1000人以上の子どもたちに海外にいく機会を作っている。
2020年11月26日サカイクキャンプ独自のカリキュラム、サッカーを通じて社会を生きる力を育む「ライフスキル」プログラム前回はサカイクキャンプで身に付くライフスキルの中から「感謝の心」と「コミュニケーション力」を中心に菊池健太コーチにお話しを聞きました。いずれもピッチ上ではもちろん、学校など普段の生活でも必要な力です。具体的な言葉や方法を示すのではなく、自分で考えさせる伝え方をすることで、感謝の心とコミュニケーション力を引き出しつつ、考える力も同時に身に付けられます。(取材・文:前田陽子)サカイクキャンプでは練習中や試合のハーフタイムに子どもたちどうしで「何ができるか」「何をすればいいか」を話し合う機会がたくさんあります<<足元の技術習得より「ごめん」「ありがとう」が言える、人を気遣えることがサッカー上達につながる理由■サッカーができるのは親のおかげ。子どもたちはそう思っていますサカイクキャンプではまず「サッカーは何人でするスポーツ?」と聞きます。そして「誰がいるからサッカーができると思う?」と。すると子どもたちは「親」と口を揃えます。普段子どもたちが親に対して「サッカーをできること」についてお礼を言うことは少ないと思いますが、本当はちゃんと感謝しているのです。でも、気持ちは言葉に出して伝えなければ相手に伝わりません。サカイクキャンプのライフスキル講習では、伝えることの大切さも話しているので、キャンプから帰った時に親御さんに「ありがとう」が言える子になっているはずです。次に、サッカーをできる理由を問うと、一緒にプレーする仲間や審判の声が上がります。子どもたちは相手チームのことを敵と言いがちですが、敵ではなくサッカーをする仲間です。「相手がいないとサッカーはできないから、相手選手だよね」と話します。相手選手をリスペクトすることも感謝の心に通じます。相手選手と同時に大切なのがチームメイトです。子どもたちの中でもどうしても上手い下手で優位が付いてしまい、うまい子が全体を仕切ってしまうことがよくあります。その際には「サッカーを楽しむ権利は全員が持っている。唯一それがみんなに均等にあることでそれを奪う事は許されないことだよ」と伝えるそうです。「下手だからチームに入れないとか、Bチームだからあっち行っていろとか。少なからずまだこういう態度があるので、それは絶対にダメなことで、してはいけないことだ」ということをきちんと理解できるまで伝えると菊池コーチは教えてくれました。サカイクキャンプは、初めての子からトレセン活動の子まで誰でも参加できます。できる子に「サッカーはみんなで楽しむスポーツだから、誰かのミスをカバーしてあげることが大事。誰かのミスをつついているようでは勝つことはできないよね」と声をかけると、「よし、やろう!」と士気が高まることも多いのだとか。中には「あいつのミスじゃん、なんで俺がカバーしないといけないの」といった他責的な発言をする子もいるそうですが、「サッカーがうまい子は、このキャンプ以外の場所にもたくさんいて、その時々によっては君も"上手じゃない方"になるかもしれない。その考え方は間違っているよ」ということを言い聞かせるそうです。そして、そういった子をわざとうまいチームにいれてみたりするのだそう。そうるすことで考え方を変えてほしいし、サッカーの本質を理解してほしいと考えているからだと菊池コーチは言います。■コミュニケーションは"目的のために前向きな話をする"こと試合中に声を出してコミュニケーションを取ろうと言われても、どんな声かけがいいのか、どうしたらいいのか分からない子が多いのが現実です。「どんなコミュニケーションがあるの?」と聞くと、どうしても言葉にすることが多く出てきます。今年は新型コロナウイルスの影響で難しいですが、ハイタッチや抱き合って喜んでいるシーンなどの写真を見せて「これもコミュニケーションだよね」とコミュニケーションの方法は様々あることを伝えています。サカイクキャンプのコーチたちが考えるコミュニケーションは、目的のために前向きな話をするということ。何でもかんでも伝えていいよとなると、「おまえちゃんとやれよ」「今のボール取りに行けよ」「シュート決めろよ」など味方にダメ出ししてしまいがち。これもコミュニケーションのひとつと言えるかもしれませんが、後ろ向きでマイナスなこと。前向きな話をすると雰囲気も良くなって結果も良くなります。ですが、その際に具体的な言葉を教えることはありません。サカイクキャンプでは、試合のハーフタイムには必ずコーチたちが「どんな話をしようか」と声をかけます。負けているとマイナスな言葉が多くなるので、「うまくいかないなら逆転するためにどうすればいいだろう、何ができるかを話すといいよ」とアドバイスをすると前向きな会話が増えてくるそうです。ですが、残念なことに負けているとどうしてもあら捜しになってしまい、ダメだったところを見てしまう子が多いのだとか。子どもたちは、普段接している人が話しているように言うのでしょうね、とコーチたちは見ています。子どもたちが発する言葉を聞くと、「チームで結構厳しく言われているんだろうな」とか、周囲に前向きな言葉をかけられる子は「チームでもいい声をかけてもらっているんだな」というのはわかるものだそうです。子どもは体験からしか言葉が出ないので、周囲の会話の質が自然と身に付いてしまいます。親御さんたちにもいつもどんな言葉をかけているのかを、振り返ってもらえるといいかもしれません。キャンプでは「伝える」ことを大事にしていますが、それは声に出すことだけではありません。時に目線やしぐさ、アイコンタクトでのコミュニケーションをとることもあります。コーチから子どもたちへ親指を立てて「今のプレーはグッドだよ」とジェスチャーも。どの子もグッドサインを出してもらえると嬉しくて笑顔になるものです。高学年になるとコーチがしていることをマネしてくれるなど、コミュニケーションのレパートリーも増えていくことも多いそうです。■環境ができれば、子どもたちは自然とコミュニケーションをとるようになるキャンプで泊まる宿舎は、他の利用者も泊っています。施設内でほかの利用者に出会った際や施設の方へ「おはようございます」「こんにちは」など、コーチたちが積極的にコミュニケーションをとるところを見せることで、子どもたちも自然とあいさつができるようになるそうです。感謝の心にも通じますが、宿舎の人へ「ありがとう」が言えるのはとても喜ばしい光景です。うまくいかない事に対して前向きな意見を言うなど、自分のチームの戻ってからも発言できることを期待しているとコーチは言います。サカイクキャンプに来た時は引っ込み思案でもじもじしている子もたくさんいますが、3日間で確実に変わるそうです。子ども同士が慣れてくるというのもありますが、初日と最終日では全く違う表情、態度になると言います。最終日はずっと一緒にやっていたチームのような雰囲気になり、住所を交換して年賀状のやり取りをしたりする子たちもいるそうです。コミュニケーションは無理やり取らせるものではありません。どんなことをしたらいいかというヒントを与えてあげることが大事だと菊池コーチは言います。大人が環境を整えてあげれば子どもたちは自然とコミュニケーションが取れます。ですので、子どもがいろんな人とお話するようにあれこれ口をだしたり、演出してみたりする必要はありません。大人はあまり介入しないことが一番だとサカイクキャンプでは考えています。<<足元の技術習得より「ごめん」「ありがとう」が言える、人を気遣えることがサッカー上達につながる理由
2020年11月24日「将来海外でプレーしたい」そんな純粋で大きな夢を抱く子どもたちに「正しい努力をさせてあげたい」。そう願うのが親の本音ではないでしょうか。新刊『世界を変えてやれ!―プロサッカー選手を夢見る子どもたちのために僕ができること』では、「日本と世界を繋ぐ橋渡し」役の著者・稲若健志氏が、将来を夢見る選手たち、保護者、指導者に向け、アドバイスを送っています。改めて稲若氏に聞いた、子どもたちの夢を叶えるために知っておきたい世界の常識、第3回目のインタビューは、スペインの親から学ぶ、子どものサポートに必要な距離についてお送りします。<<第二回:レアル中井選手、ビジャレアル久保選手のように若くして海外へ渡るメリット、デメリットとは■家に帰ってからもサッカーの話はしない――子どもの夢を叶えるためにサポーター役となる親ができることはどんなことでしょうか?「まず、これは触れておかないといけないのですが、海外と比べたとき、日本の親は指導者と距離があります。あまりグイグイ聞くことはありません。なぜ聞かないかといえば、自分の子どもを試合に出してもらえなくなる怖さを感じているからです。海外のクラブはビッグクラブでも小さなクラブでも、親が『うちの子は何が足りないのですか?』などと監督にガンガン聞きにいきます。スペイン人はLINEのグループに監督も入っているほどで、そこで親は言いたい放題です。ただ、指導者側も親に何を言われようと何でも答えられるし、話ができます。『どうして試合に出られないのか?』と聞かれれば論理的に理由を説明できます。論理的に説明できないと、親を納得させることができないことが多い。だから指導者と親の距離が遠くなってしまうのだと思います」――欧州では親が子どもにサッカーを教えることを明確に規制しているクラブもあると聞きます。その点は指導者と親の関係についてしっかり線引きをしているのですね。「レアル・マドリードにも『親は親でありなさい』という考え方があります。親が子どもを指導することの何が問題かと言えば、試合中に子どもが親の顔を見るようになってしまうのです。すると指導者の話を聞かなくなるし、リスペクトもなくなる。それは子どもにとってもチームにとっても良いことではありません。スペイン人は自分の子どもに対してサッカーのことはあれこれ言いません」――スペインの親御さんたちは試合中も何も言いませんか?「もちろん、審判にはすごく文句を言いますよ(笑)。あとは『がんばれ!』とか『行けるぞ!』とか、応援者としての声は当然ありますが、監督がいる前で、親が我が子に『ここをこうしろ!』などと言うことはありません。家に帰ってからもサッカーの話はしないという感覚は多くの人たちが持っています。これが日本の場合、親は指導者には指摘することはなくとも、自分の息子にはあれこれ言ってしまいます。場合によっては、その子のお父さんが監督をやっているチームもあるし、公私混同になってしまうと子どもはきついです。海外ではそういうケースはほぼありません」■日本の親は真面目ですごく一生懸命――例えば、レアル・マドリードのミッチェル・サルガドは日本に何度も来日してサッカークリニックの指導などに当たっていますが、日本の親についてどう言っていますか?「日本の親は真面目ですごく一生懸命。でも、『一生懸命だからこそ教え過ぎてしまう、これが日本だ』と言っています。練習に置き換えれば、それは練習量の多さに変わり、量をこなせば努力は報われると信じている。しかし、サルガドも海外の指導者たちも『一生懸命とはそういうものではない』と言います。本来あるべきは『一生懸命だからこそ何かを言うのを我慢しましょう』という姿勢です。子どもが親にあれこれ言われればプレッシャーに感じるし、伸びるものも伸びません」――では、親としてのベストなサポートとは何でしょう?「シンプルですが、親のやるべきことをしっかりやる、ということです。しっかりご飯を作り、しっかり食べさせて、練習に連れていく。そしてグラウンド内のことは監督やコーチに任せる。子どもが悩んでいるときに、親が子どもの変わりに指導者に聞いてあげるのはいいと思いますが、日本の場合、多くは指導者に聞く前に悩んだままチームを辞めてしまうケースが多い。それは違うのではないでしょうか。それも指導者と親の距離が遠いことが原因にあるようには思いますが」――サッカーで留学することについても伺いたいのですが、子どもが留学したいと言い出したときに親はどうサポートすべきでしょうか。「子どもが何かのきっかけで『海外に行きたい』となったときに、親の反応は二つです。驚いてしまうか、行かせてあげようと思うのか。驚くというのは親が心の準備ができていない証拠です。そういう親はだいたい『まだ早い』などと言って(子どもを)否定しがちです。早いなどと言っているうちに限りのある留学の枠は埋まってしまい、チャンスを逃します。一方、海外経験がある親は心の準備ができているのですんなり子どもの背中が押せます。つまり、子どもどうこうよりも親の問題の方が多いということです。頭ごなしに『まだ早い』と否定されてしまった子どもは、ひとまず我慢して、やがて諦めて、結局はやる気がなくなってしまうものです」――サッカー留学について、親として必ず押さえておくべき情報などアドバイスがあればお願いします。「サッカー留学には適正価格があり、国によって異なりますが、相場は2か月で50万円ほどでしょうか。べらぼうに高い価格の会社もありますし、逆に価格とクオリティが合っていると感じれば自ずと人は集まります。その見極めはしっかりして下さい。また、注意すべきは、留学に行く国を狭めないことです。欧州に行きたい、南米に行きたい、という姿勢に固執し過ぎることなく、もし叶わなかったときでも別の国を選択すれば留学を経験するチャンスはあるし、物事を大きな面で捉えてチャンスを掴まえることが重要だと思います。僕は今までいろんな国に行きましたが、どの国に行っても大きな刺激があることは間違いありません」子どものためと思ってやっていることがプレッシャーになって、伸びるものも伸びなかったら逆効果ですよね。また、対話できれば解決の糸口が見つかるかもしれないのに、悩みを抱えたまま辞めてしまい、結果としてより悪い状態になることもあります。ピッチ再度ではうるさく喚くけれど、指導者としっかり対話ができ、家で子どもを追い詰めないスペインの保護者の姿勢は親のサポートのあり方として参考になる部分があるのではないでしょうか。<<第一回:世界のクラブが日本人選手に求めるスキルとは。レアル中井選手から学ぶ世界で生き抜く方法稲若健志(いなわか・たけし)株式会社ワカタケ代表。1979年生まれ。神奈川県出身。藤嶺学園藤沢高校卒業後、ディエゴ・マラドーナに憧れアルゼンチンに渡航しプロ契約を結ぶ。愛媛FCや栃木SCなどでプレーしたのち引退。帰国してからも10年以上に渡り、毎年アルゼンチンを訪れ、指導や教育を学び、26歳のときに株式会社ワカタケを設立。中井卓大選手の挑戦の支援を通し、レアル・マドリードに強いパイプを持つ。レアル、アトレティコ、セルタなど日本でのキャンプ及び海外キャンプのライセンスを持つほか、世界各国につながりを持ちリーガ主催のジュニアの大会への出場権も保有。世界を子どもたちに見せるべく、年間1000人以上の子どもたちに海外にいく機会を作っている。
2020年11月20日部活かクラブチームか、本人が悩んで決めた進路。学業との両立、努力を続けることを約束して進学したのに、テストは平均点よりずっと下、内申点は「2」。サッカーでもチーム練習以外ではやる気が感じられない。大事なことを伝えようとすると機嫌が悪くなり怒鳴って暴れる。シングルマザーで下の子はまだ6歳なのに、生活が長男中心に回っているのに意欲が感じられず、サポートがばかばかしいと思えてくる......。とのご相談をいただきました。子どもが思春期、反抗期を迎えた時どうすればいいのか、漠然と不安に思っている保護者も多いのでは?今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとにアドバイスを授けますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<怒りっぽくチームで浮いてしまう息子を何とかしたい問題<サッカーママからのご相談>子どもは中学生なのですが相談させてください。サッカー中学年代を部活動で過ごすのかクラブチームで過ごすのか、本人が悩み考え、クラブチームで高校サッカー強豪校を目指すと決めました。学業とサッカーの両立が私との約束、努力を怠らないことがチームの代表との約束です。ですが、蓋を開けてみたらテストの点数は平均よりはるかに下で内申点は『2』。サッカーも、チームの練習の時以外は全く意欲が感じられません。大事なことを伝えようと私が口を開けば、すぐに機嫌が悪くなり怒鳴って暴れます。ゆっくり休む・栄養を取る等の心掛けもゼロ。朝も起きれず、夜練の用意もギリギリまでやらない。とにかく様々な事にやる気が感じられません。私はシングルマザーで、まだ6歳の弟もいます。生活のあらゆる事が長男のサッカーを中心に回っており、家族の協力や我慢の元に成り立っているこの生活。協力や応援していること自体がバカバカしいとさえ思えてくる今日この頃です。思春期・反抗期を迎えた13歳の男の子にどう接したら良いのでしょうか?<島沢さんのアドバイス>ご相談のメールをいただき、ありがとうございます。シングルマザーで6歳と13歳の兄弟を育てているお母さんに頭が下がります。日々、大変なことがたくさんあるでしょう。■思春期は「四六時中誰かとけんかしたい状態」私のママ友もシングルマザーがたくさんいます。私自身はシングルではないけれど、新聞記者の夫は土日も不在のため子どもが小さいときはシングルのママとその子どもたちとよく遊んでいました。土日は他のご家庭はお父さんがいるからです。そんなこともあって、他に何かの取材でお会いした方を含めると多くのシングルマザーと知り合っています。みなさん時間がないため、子どもがきちんとやっているか気になります。忙しいので「あ、そういえば、テストの点はどうなったのかな?」とか「サッカーは?」と、時々思い出したように子どもに目が向きがちです。「面」ではなく「点」で見ているため、どうしてもマイナス面ばかり抽出してしまいがちです。そして、このことは兄弟であれば第一子に対して顕著です。仕事も育児も大変なので、お兄ちゃん(お姉ちゃん)、ちゃんとやってよ、と依存する感覚が少なからずあるように思います。これは共働きでも同じだと感じます。「しっかりやってほしい。お願いだから」という感覚は、自分の不安を解消したい、安心したいという思いではないでしょうか。それゆえに結果を求め、指示命令が多くなります。よって、最も重要な「気持ちを聴く機会」を逸してしまいます。特にご長男さんは13歳なので中学1~2年生でしょうか。お母さんがおっしゃるように「思春期・反抗期」です。この時期は急速な体格の変化もあってホルモンバランスが崩れます。以前、小児心理医の先生に「女の子であれば一年中生理の状態、男の子は四六時中誰かとけんかしたい状態」と聞き、納得したことがあります。■反抗できるということは、親を信頼している証拠そこで、私から三つアドバイスをします。ひとつめは、お母さん自身が自分に自信を持つこと。上記の話をされた先生は、思春期の子どもに反抗されると悩んで受診する親たちに向かって「よかったねえ。おめでとう」と祝福していました。なぜなら、親に対して自分の感情丸出しで反抗できるということは、親を信頼しているからです。どんな態度を見せても、親は自分を嫌わない、という自信がある。それは息子さんにとって、家庭が安全・安心な場所であるということ。それまでの子育てが悪くはなかった証だと、その先生はおっしゃっていました。つまり、私もよくセミナーで伝えていますが、「くそばばあ!」などとわが子に言われたら、子育ては成功。「ほほう、来たね、来たね、思春期おいでなすったね」と、どんと構えてください。お母さんの子育てが悪かったから荒れているのではないのですから。例えば、夏が過ぎるころ台風が訪れますが、豪雨強風が襲来することで、海水がかき混ぜられサンゴが生きていくのに適切な海中環境になるそうです。それと同じように、息子さんもプンプンすることでストレスを発散しているのです。■やきもきするかもしれないが、無駄に世話を焼かないことふたつめ。上記のように解釈したのち、心得てほしいのは「無駄に世話を焼かない」ということです。前述したように、思春期は人生で初めて自己認知、自己覚醒する時期です。大人から見れば些細なことが気になってきます。そのように、子どものほうが大人に近づき変化をしているのに、親のほうがいつまでも小学生のときと同じ対応をしていれば歪(ひずみ)がうまれるのは当然です。したがって、息子さんにかかわるあれこれを注視しないことが肝要です。内申点「2」も、練習のとき以外で意欲が感じられないことも、朝起きられないことも、練習の用意をギリギリまでやらないことも、見て見ぬふりをしてください。■大人の説教を素直に聞ける時期ではない。親は「言う」より「聴く」を意識して三つめは「伝えなければ(言わなければ)よりも、聴かなければ」を心がけてください。ご相談文に「大事なことを伝えようと私が口を開けば、すぐに機嫌が悪くなり怒鳴って暴れます」とあります。この時期の子どもたちは、大人のお説教を素直に聴ける精神状態ではありません。だって、四六時中誰かとけんかしてやっぞコノヤロー!と構えている(大袈裟ですが)状態なのです。無駄なことはやめたほうがいいでしょう。それに、お母さんのおっしゃる「大事なこと」を、すでに息子さんはわかっています。強豪校に行くのなら生活管理をきちんとしなくてはいけないこと、内申点が2のままではいくらサッカーがうまくても、推薦の範囲内の点数でなかったりすること。受験できる学校の範囲も狭まること。多少のずれや表現の違いはあるかと思いますが、お母さんが「ちゃんとしてほしい」と望んでいることは、息子さんもわかっています。何より、自分自身「ちゃんとしたい」と思っているはずです。でも、何かで心が乱れたり、サッカーや勉強がが上手くいかなかったりすれば、落ち込んだり、やる気をなくしたり、ゲームや友達とのおしゃべりに逃げたりします。前述したように、思春期は自分を客観視する最初の時代です。「ああ、おれって駄目な奴だ」「大してサッカー上手くないじゃん」とか「勉強もダメじゃん」と自分と向き合っています。大人でもダメな自分と向き合うのって怖くないですか?大人になっても向き合えない人、お母さんの周りにもいますよね?息子さんはそこに初めて直面している。よって不安定になるのは無理ありません。■ニコニコからプンプン、突然機嫌が変わる時期に親はどうすればいいか(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)わが家の娘が中学2年生の頃、私たち親は彼女を「いきなりプンプン」と陰で呼んでいました。ニコニコ笑っていたかと思うと、突然機嫌が悪くなるのです。ある日、夫、娘、私と3人で出かけたとき、夫が娘に話しかけても返事をせず、何回目かに振り向いて「うるさいっ!」と怒りました。私たちは(いきなりプンプン、出たね)と目くばせしながら知らん顔して歩いていると、娘は道端で立ち止まりシクシク泣き始めました。「自分でもわかってるの。でも、そうなっちゃうの。そういう自分が大嫌いなの」私は彼女の肩を抱き寄せ「大丈夫だよ。いま思春期だから仕方ないんだよ。ママたちはどんな○○でも大好きだよ」と話しました。息子さんも自分がどうするべきかわかっていいます。だから、ここは大人であるお母さんのほうが豪雨強風を受け止めてあげてください。去る子は追わず、来る子は拒まず。「いつでも話を聴くよ」ということのみ伝えたら、あとは一緒にプンプンしていていい。子どものほうから何か言ってきたときは話を聴きましょう。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年11月19日サカイクキャンプ独自のカリキュラム、サッカーを通じて社会を生きる力を育む「ライフスキル」のプログラムでは、子どもたちが生きていく中で必要なスキルとされる「考える力」「リーダーシップ」「感謝の心」「チャレンジ」「コミュニケーション」の5つの力をサッカーをしながら学べます。親御さんたちもライフスキルの概念に賛同してご参加いただいている方も多いのですが、では具体的にライフスキルが高まるとサッカーにどう影響するのか、まではいまいちよくわからない、という方もまだまだ多い様子です。そこで今回は、子どもたちを指導しているサカイクキャンプの菊池健太コーチに「ライフスキル」とはどういうものなのか、子どもたちがどう成長できるのかを聞きました。(取材・文:前田陽子)サカイクキャンプでコーチの話に耳を傾ける子どもたち■ピッチ上で仲間をフォローできる人が求められている以前は足元の技術など個人技を磨くことが推奨されましたが、今はチームにいかに貢献できるか、チームのためにプレイできるかが求められる時代。そのためには、一緒にプレイする仲間を知り、自分のことを仲間にわかってもらう必要があります。そこで必要になるのがライフスキルです。ピッチ内外で考え、サッカーができることに感謝し、いろいろなことにチャレンジして、コミュニケーションを取り、リーダーシップでチームを導く。技術の習得に比べて、パッと見て変化がわかることではありませんが、ここを磨くことで技術も向上していくのです。JFAでも"判断も含めてテクニック"と言っています。育成年代の選手たちに求めるスキルとして「仲間をフォローすることができる選手」を高く評価するとも言っています。元日本代表の内田篤人さんも、その判断力の早さ、仲間との連携意識やプレーの正確性に定評がありました。サカイクキャンプではこれからのサッカーや人生に必要なライフスキルを知り、体感することができます。■サッカーというスポーツの本質を知る「チームプレイであるサッカーは、勝つことを目的に仲間同士が互いをフォローするもので、それがサッカーというスポーツでフォローし合うことが当たり前であることを子どもたちに伝えています」と菊池コーチ。すると自然とミスをフォローするプレイが増えていきます。自分のタイミングでボールを蹴っていた子が、コミュニケーションを知ると仲間を思ったパスが出せるようになります。俺が活躍すればいいという、独りよがりのプレイが減っていくのです。サッカーはミスのスポーツであり、助け合いが必須です。ミスをしたら「ごめん」と謝ること、味方がフォローしてくれたら「ありがとう」とお礼を言えること。その瞬間に口にすることは難しくても、普段からごめんなさい、ありがとうが言える習慣が身に付いている子は、ピッチの中でも助けてもらいやすかったりして、結果として試合が上手く回るのです。親御さんたちはどうしても個人技のところに注目してしまい、何点取った、何人抜いたで褒めたり残念に思ったりしますが、子どもたちの中には目立たないけれど丁寧なパスが出せたりする子もいて、そんな子はとても技術が高いとコーチたちは評価します。菊池コーチは「足元の技術は後からついてきます。ボールを扱う技術は大事ですが、丁寧さや気遣いができる選手はすごいんです」とも。一概に技術と言っても個人のものとチームの中でのものの2種類があります。もちろん、どちらも伸びるといいのですが、まずはサッカーの本質であるチームプレイを学ぶことが小学生年代には大切だとサカイクでは考えています。■キャンプに参加することが、チャレンジの第一歩キャンプは初めての場所、初めての友達、初めてのコーチ。泊りで行くのは子どもにとってすごく大きなチャレンジです。これは大人でもなかなか難しいこと。まずはキャンプに行こうと決断した子どもの勇気を褒めてあげましょう。その上で、キャンプへの持ち物は自分で何が必要かを考えて判断させて持たせてください。サカイクキャンプでは支度から子どもに任せてほしいという思いもあり、細かく持ち物を提示していません。3日間必要なものを自分で考えてほしいのです。寒い時期ならピステ持ってくる子もいますし、洗濯するから少しでいいという子もいます。そういう様子を見ていると親御さんは手をかけずにやってくれているなと思います。反面、「一日目の上はコレ、下はコレ」とセットしたものを持ってくる子もいます。親御さんなりの子どもへのサポートかもしれませんが、そういった子は柔軟な発想ができず、2日目に雨が降ったりして、翌日分(キャンプの最終日)を着替えに使うと、最終日の朝に「もう着る服がない」と大騒ぎすることもあるのだとか。子どもたちが準備した上での忘れ物はコーチたちは想定済みです。シャンプーや洗剤などの細かなものから、サッカーに必要なボールなどもサカイクキャンプでも準備しているので、忘れ物をしても安心してください。もちろん、忘れ物をしない方が良いのですが、忘れてしまったときにどうするかが大事で、その過程をコーチたちはどう解決していくかを見守っています。レガースやソックスなど借りれるものならチームメイトに「貸して」と言えること、チームメイトが忘れ物をして困っていたら「貸してあげようか」と提案できること、そういったお互い助け合って協力することが大事なのです。そのようなことが自然にできるようになると、例えばボールを奪われそうな時など、ピンチの際に仲間にヘルプを求めること、味方がピンチの時は自分が助けに行くことなど、サッカーの動きにもつながっていきます。ピッチの外での行動が変わるとピッチの中の行動も変わります。ライフスキルが身に付くと、技術も伸びてくるのです。■キャンプに来た子どもたちは、必ず成長しますサカイクキャンプに参加する子には、すべてにおいて、自分で考えて行動できる子になって欲しいとコーチたちは考えています。サッカーもコーチや周り仲間に何かを言われてプレイするのではなく、自分の判断でプレイを選択できる子になってほしい。いずれ社会に出てからも自分の意見をしっかり持って、自分で考えて判断ができる、そんな子になってくれたらと思っています。そのために小学生の間はサッカーは自由で楽しいと感じてもらいたい。中学高校に行けば自然とサッカーも厳しくなり、社会人になれば仕事もしなくてはなりません。なので、根底に楽しさ、仲間と協力するすばらしさを蓄えてほしいと考え、コーチたちは子どもたちと接しています。
2020年11月17日子どもたちの「考える力」をサポートし、サッカーがうまくなるためにサカイクが制作した「サッカーノート」。質問に答えて書き進めていくことで、自分の考えを言葉にできたり、プレーのアイデアが湧いてくるのでおすすめです。そこで今回は、サカイクサッカーノートを熟知している、サカイクキャンプのコーチ陣に「このように活用すれば効果的」という使い方を教えてもらいました。ぜひ参考にしてみてください。(取材・文:鈴木智之)<<サカイクサッカーノートに込められた思い、たくさんかける工夫など制作秘話■書くことが苦手な子もスラスラ書けるサッカーノート菊池コーチはサカイクサッカーノートを「質問に答えることで、書くことがスラスラ出てくるノート」と表現します。「各ページに質問があるので、それに沿って自分で書き進められるノートです。自分の思ったことを素直に書くのが、一番いいと思います」サッカーノートを書き慣れていない場合、「何を書けばいいかわからない」という声を耳にします。そんなお子さんに対し、柏瀬コーチは次のようにアドバイスを送ります。「コーチやお父さん、お母さんにノートを見られることを前提に書くのではなく、自分はどう思ったかを、正直に書いていくといいと思います。ノートの中にある質問も、答えやすく、書きやすいものなので、できるところから始めてみましょう」菊池コーチは「サッカーノートはテストではないので、良い、悪いはありません」と話し、次のように続けます。「思ったことを素直に書く中で、1日、2日と書き進めると、内容が少しずつ具体的になり、変化が現れます。それが、考える力が高まっている証です。サカイクキャンプでも、初日と3日目のノートを比べると、見違えるようにたくさん書けるようになった子もいます」サカイクサッカーノートには、書き方の説明も記してあるので、何を書けばいいかわからなくなった場合、前のページに戻って「こう書けばいいんだ」と参考にすることができます。白紙のノートだと、何を書けばいいかわからず、戸惑ってしまうケースも見られますが、質問つきのサカイクサッカーノートは、その心配もありません。記入例※画像をクリックして拡大できます【詳細】子どもたちが自ら進んで書き出す、たくさん書けるようになるサカイクサッカーノートの表紙デザインなど■失敗の反省でなく、改善点などポジティブなことを書こうまた、サカイクサッカーノートは、開発者のひとり「しつもんメンタルトレーニング」の藤代圭一さんの「ポジティブな気持ちで、前向きに、サッカーも私生活もがんばってほしい」という想いが込められています。それも踏まえて菊池コーチは子どもたちには、「良かったことをたくさん書こう」と言っているそうです。「人間って、良かったことより、悪かったことの方が記憶に残りやすいですよね。『なんであの場面でシュートを外してしまったんだろう』とか、『自分のパスミスが失点につながった』とか。ネガティブなことを書き続けると、気持ちも下向きになってしまいます。なので、まずはできたことやコーチに褒められたことを書いてみる。その次に『こうすればできそうだぞ』など、改善点を書くといいと思います」サカイクサッカーノートには、イラストでプレーを振り返る箇所があります。サカイクキャンプのコーチ陣が「自由に書いてみよう」と言うと、「ドリブルでカットインしてシュートを打てた」「サイドでスルーパスを受けて、チャンスになった」など、子どもたちが楽しんでイラストを描いていくそうです。絵で描くことは、イメージトレーニングにもなるのでおすすめです。子どもたちが、楽しんで書き進めることができるサカイクサッカーノート。コーチや保護者の学びにも役立つようです。菊池コーチは「子どもたちが書いたノートを読むことで、自分が伝えたことが、どの程度浸透しているのか、理解しているのかという目安にもなります」と話します。「指導者としては、『自分が言ったことが、これぐらい伝わっているんだな』と確認の作業にも使うことができます。サカイクキャンプで『チャレンジ&カバー』を練習をしたのですが、子どもたちが書いたノートを見ながら『ここは伝わっているな』『ここは理解が不足しているな。使え方を変えてみよう』など自分の指導を振り返り、トレーニングメニューや伝え方を変更したこともありました」■サッカーノートを通じて会話だけじゃ伝わらない子どもの考えが分かる柏瀬コーチは「ノートを通じて、親子間でのコミュニケーションが円滑になるのも良いですよね」と笑顔を見せます。「試合中や試合後に、自分の子に対して厳しく言ってしまうこともあると思います。そこで、試合直後は厳しく言ってしまったけど、ノートには前向きな言葉を書いてあげたりすると、お子さんも親御さんの気持ちをわかってくれるのではないかと思います」柏瀬コーチの話を聞きながら、菊池コーチは「親子間のコミュニケーションに、ノートはすごく役立っています」と実体験を語ります。「ノートを見ることで、子どもがどんな一日を過ごしたのかを知ることができます。『今日のサッカー、どうだった?』と訊いても『普通』とか『勝ったよ』とか、素っ気ないことも多いのですが(笑)、ノートを見ると、どんなことがあって、どんなことを考えていたのかもわかるので、読むのが楽しみです」サカイクサッカーノートは改良を重ね、ひと足先にサカイクキャンプで導入しました。質問形式にすることで考えやすくなり、書く量も増えました。また、書き続けることで「思考力がついた」「文章の組み立てができるようになってきた」という声も聞こえてきます。「今まで、サッカーノートに何を書いていいかわからなかった子には、すごく書きやすいノートだと思います」(菊池コーチ)「ノートを書いていたけど止めてしまった子も、改めて『こうやって書けばよかったんだ!』とわかりますし、書こうという気になるノートだと思います」(柏瀬コーチ)何を書けばいいかわからなかった子達が書けるようになり、思考力アップの後押しをしてくれるサカイクサッカーノート。たくさんの子どもや保護者、コーチから好評のノートを、ぜひ試してみてください!【詳細】子どもたちが自ら進んで書き出す、たくさん書けるようになるサカイクサッカーノートの表紙デザインなど
2020年11月11日このたびサカイクでは、これまでよりさらに読者の皆様に寄り添ったコンテンツを提供するため、リアルな読者の声を聞く場を設けました。今回は読者の生の声を聞く『オンライン座談会』を開催しました。参加者のみなさんは、お子さんのサッカーについて様々な悩みをお持ちで、サカイクのコーチ陣が質問やお悩みに回答させてもらいました。ここでは、その一部を紹介します。「これは私と同じ悩みだな」「こんな考え方もあるんだな」など何かを感じて、少しでもお役に立てたらうれしいです。(構成、文:鈴木智之)サカイクコーチが読者のご相談に回答しました■「戦力外通告」受けているチームから移籍した方が良いの?【お父さんからの質問】(小3、街クラブ所属)息子は小学3年生で、来年度に向けて、チームの選手コースを目指しています。現状は、チームの選抜にギリギリ選ばれたり、外れたりする状況です。本人は4年生になっても、そのチームで友人と一緒にサッカーをしたいと言っていますが、コーチからは「戦力として見ていない」と言われています。また、コーチにびびって気軽に話せないことがあり、コーチとの関係性を築けていないようです。親としては、その状況で来年も同じチームに行かせるかどうか悩んでいます。コーチに厳しめに見て貰えているのはありがたいことなのですが、ちょっとしたことで交代を命じられたり、先発からベンチに変更させられることがあります。その状況下でサッカーを続けて、本当に楽しめているのかな? と思うことがあります。他のチームを探すべきでしょうか?【サカイクコーチの回答】私の子どもも似た境遇だったので、お気持ちはすごくわかります。私の子は小学校低学年のときにスクールでサッカーを始めて、3年生のときに選手コースに選ばれました。最初ははりきっていたのですが、次第に「行きたくない」「足が痛い」と言い出すようになりました。よくよく聞いてみると、コーチにプレーのダメ出しをされることが多く、プレッシャーからサッカーを楽しめなくなっていたのです。私はそこで「もしクラブを辞めたかったら、辞めてもいいよ」と言いました。親としては、子どもがいきいきと楽しんでサッカーをすることが、何よりも大切だと感じたからです。ただし、「クラブを辞めさせることが、はたして正解なのだろうか?」と、たくさん悩みました。そこで思ったのが、「小学生のときに、プレッシャーを感じながらサッカーをすることの是非」です。サッカーを続けるのであれば、中学、高校とカテゴリーが上がるにつれて、嫌でもプレッシャーはついて回ります。だからこそ、何も小学生の時から、厳しい環境でサッカーをしなくてもいいのではないかと思ったのです。最終的には子どもの意見を尊重し、クラブを辞めることになりました。そのことをコーチに伝えると「逃げるのか?」と言われたり、周りの保護者からは「一緒にやろう」と言われましたが、サッカーが嫌いになることが一番良くないことだと思ったので、そのクラブを辞めて、別のクラブを探して入りました。その甲斐があり、いまでも楽しくサッカーをしています。相談者さんは、まずお子さんの気持ちがどうなのかを聞いてあげてほしいと思います。試合に出られなくても、本人が楽しくできていれば、まだ3年生なのでチームを変える必要はないと思います。お子さんの将来、5年後、10年後のことを考えて決断してみてください。■ワンマンで傲慢な指導者のもと、実戦経験を積めないのを何とかしたい【お父さんからの質問】(小3、スポーツ少年団所属)小学3年生の息子が、40年近く続いている少年団に通っています。クラブの代表がかなりのワンマンで、人の言うことを聞きません。昔から傲慢だったようで、他のチームから敬遠されています。そのため、練習試合や招待試合などのお誘いが少なく、試合の機会が限定されています。大会などで知り合った、他チームのコーチから試合を申し込まれることもあるのですが、その旨を代表に伝えても「あそことはやらない!」など一蹴されてしまいます。そのため、実戦経験が乏しい状況です。息子の学年の子たちはみんな意識が高く、保護者も含めていいメンバーだと思っているので、チームを移るのは最終手段だと思っています。子ども自身は楽しくやっているのですが、どうすればいいでしょうか?【サカイクコーチの回答】指導者と保護者の意見が食い違うことは、よくあるケースです。保護者同士の関係性は良さそうなので、子どものために何ができるかを話し合いながら、根気強く、積極的に意見を交換し合うのが、子どもたちのためになると思います。そこでポイントなのが「子どもたちのために」という視点から、指導者に働きかけることです。その際に、言い方や伝え方には、とくに気を配ると良いと思います。ベテラン指導者は保護者に意見されると、自分がやってきたこと全体を否定されていると感じ、感情的になってしまうことがあります。そうではないことをしっかりと伝えて、対話を続けていってみてください。大変だとは思いますが、いまこそ保護者間のチームワークを発揮するときです。■子どもの積極性を引き出す声かけのポイントは「未来の話」【お父さんからの質問】(小3、スポーツ少年団所属)小3の息子は聞き分けが良い一方、親としてはもう少し、積極性がほしいと思っています。その辺りのことを私が指摘すると、すねてしまいます。うまく言葉をかけてあげたいと思いつつ、3年生は自我が出てくるので子どもになんて声をかければいいか、距離感に悩んでいます。【サカイクコーチの回答】お気持ちはお察ししますが、なるべく子どもにあれこれ言わないことです。まずはそこが出発点だと思います。そのうえで、どうしても言いたいことがあるのであれば、試合後に反省会をするのではなく、「次の試合で、どう頑張るか」について話してみてください。良くなかったプレーは、お子さん自身が一番よくわかっています。それについて、お父さん、お母さんがあれこれ言っても「わかってるよ、うるさいなぁ」となってしまいます。なので、できなかったことに対して言うのではなく、「今度の試合はどんなプレーをする?」「どんな気持ちでプレーしたらいいかな?」など、未来の話をしてみましょう。そうすると「3点取る」とか「守備を頑張る」など、子どもは話してくれると思いますよ。■勝ちにこだわる指導になっていじめを受けた。この状態から抜け出すには?【お母さんからの質問】(小3、スポーツ少年団所属)小学3年生長男のことです。赤ちゃんの頃から人一倍敏感で、恐いことや、痛いことが嫌いです。保育園の友達がたくさん入るからと、1年生からサッカークラブに入ったのですが、親から見ると、サッカーが向いているとは思えず、夢中になっているとは言い難い面があります。そのため、上達も遅いです。でも本人は友達とワイワイやっているのが楽しく、友達と遊びたいからサッカーをやっているという状態です。それでも体力はついてきているし、友達と一緒に過ごせて、楽しそうにしていました。しかし、3年生になるとレベル別でチームを分けることになり、お父さんコーチ達がやりたかった、勝ちにこだわるサッカーが始まってからは、練習や試合中に怒鳴られる事が多くなり、チームメイトにも責められるようになりました。ついには、一緒に朝練をしている別のチームの子からいじめを受けました。その時に「この状況から抜け出すには、みんなから離れるか、サッカーが上手くなるしかないんじゃない?」という話をしたら、「みんなと一緒にいたいしサッカーもやめたくない」とのこと。それならば、もう少し練習しようかとなり、朝10~20分程度、一緒に練習をする事になりました。長くなりましたが、うちのような子でもサッカーで変われたケースありますか?また、上達するための練習メニューを知りたいです。【サカイクコーチの回答】サカイクには「親子でできる練習メニュー」がたくさん掲載されているので、ぜひそちらを参考にしてみてください。ただ、ひとつ心に留めておいてほしいのが、「お子さんの気持ちはどうなっているか?」です。ちょうどいま、成長のための根っこを生やしている段階だとしたら、必要以上に水を与えてしまうと腐ってしまうので、保護者のペースで水をあげないようにしましょう。「この子はどういう風に成長していくんだろう」と楽しみに、長い目で見ると良いと思います。突然、試合に負けたことで練習を始めたり 「上手くなりたい!」という気持ちが芽生えることがあるので、その瞬間を見逃さず、大事にしてあげてほしいと思います。<サカイク3分動画トレーニング>「リフティングが苦手」という悩みを改善するトレーニング■「速いだけだな」など傷つく事ばかり言うコーチ【お母さんからの質問】(小4、クラブチーム所属)コーチの声かけがひどいんです。「このやろう、何やってんだ」なんて当たり前。息子は足がすごく早いのでチームで一軍というかトップにいますが、指導者に「お前は早いだけで何もできない」「走ることしかできないんだろう」など、しょっちゅう心ないことを言われるんです。ちょっと体調を崩したら「小さいヤツだな」など、子どものメンタルを傷つけることが多いコーチで。チームは足技を重視していて、技ができなかったり、リフティングも既定の回数ができないと練習に参加させてもらえません。全国を目指すチームなので求める水準が高いのは理解していますが、コーチの指示通りに動かないと次の試合に出してもらえなかったりするので、いつも委縮して思い切りプレーできず伸び悩んでいます。そんなことが日常茶飯事なので、楽しくプレーできていない。折れそうな心を親がどう支えていけばいいのでしょうか。【サカイクコーチからの回答】正直リフティングは時間と努力でみんなできるようになります。サッカーという競技はどうしても数値で表せない要素が多いので、評価ポイントの一つとしてリフティングを重視するチームもあると思うのですが、今現在それほどリフティングができなくても大丈夫です。ボール遊びとしてはリフティングは良いのですが、クラブの規定などを設けることによって苦にならないと良いですね。回数を気にするのでなく、遊びとして楽しくやれれば良いです。私が教えているスクールの生徒たちもそんなにたくさんリフティングできませんよ。10歳ぐらいからゴールデンエイジに突入するので、技術や技の習得はこれから追いついてきます。今は楽しい気持ちをもたせてあげることを優先してください。お子さんにとっては、親御さんが一番の味方でファンであることが大事だと思います。試合後に「どうだった?」「こうしたほうがよかったんじゃない?」など反省会を始めてしまうと、子どもの逃げ場もなくなるので、先ほど別の質問で回答したように「未来の話」をするとよいですね。いかがでしょうか。今回の「オンライン座談会」は、当初の予定時間をオーバーするほど、たくさんのトピックが寄せられました。参加者のみなさんは、お悩みをサカイクキャンプコーチに話すことで、心が軽くなったり、改善のヒントを得ることができたようでした。今後もこのような場を設けていく予定ですので、「私もこんな相談がしたい」「話を聞いてほしい」という方がいらっしゃいましたら、ご参加をお待ちしています。
2020年11月10日元日本代表のキャプテン長谷部誠選手の出身校、藤枝東高校は、高いレベルで勉強とサッカーを両立している学校としても知られています。県内トップクラスの進学校がどのようにして文武両道を行っているのか、同校出身の小林公平監督にお話を伺いました。選手自身が映像を編集してプレー分析も行うなど、自分たちで課題改善を行う取り組みなども伺ったのでご覧ください。(取材、文:本川悦子)藤枝東高校サッカー部の部員たち。練習後にチームメイトと談笑する姿■選手自身が映像を編集してプレー分析も名門・藤枝東がオンラインミーティングやサッカーノートのアプリを駆使して選手との意思疎通を図ってきたというのは前編でお伝えしました。彼らはそれ以外にもテクノロジーを使った活動を積極的に行っています。その1つが練習・試合の動画分析です。選手数人が公式戦や練習試合、紅白戦を撮影し、編集したものを共有ファイルにアップ。それを全員が帰宅途中や帰宅後に映像確認し、感想をサッカーノート(アプリ)に書いたり、ミーティングで議論し合ってフィードバックする形を取っているのです。今年から使っているソフトでは、個人のシュートシーンやゴールシーン、被ゴールシーンに特化した映像編集ができるほか、セットプレー時の好守も確認が可能です。さらには時間帯ごとのパス・シュート数などのデータも出てくるので、チーム全体が自分たちの課題や収穫を明確に捉えられます。こうした科学的アプローチの有効性を小林公平監督も実感しているといいます。「現場で見ている感覚と後から映像で振り返る感覚は全然違います。実際にプレーしていた選手も自分の一挙手一投足を映像で客観視すれば、何が課題でどう改善すればいいのかハッキリします。試合前に対戦相手の映像分析をするチームはよくありますけど、日常的に映像を使って可視化する作業に慣れておけば、将来的にそういう仕事に携わることも可能だと思います。ツエーゲン金沢入りが内定している稲葉楽選手もJクラブの練習に参加した時『藤枝東ではプロ同等の分析やスカウティングをしていることが分かって大きな自信になった』と話していました。藤枝東は社会のリーダーになるべき人材を育てている部分も大きいので、これからも可能な限り多くの情報を入手して、有効活用していくように、選手たちには働きかけていきたいと考えています」■加圧トレーニングの定期計測でフィジカル管理データ管理という意味では、2018年から取り入れている加圧トレーニングの定期的計測を行い、練習や試合に生かしています。今年のコロナ禍で3か月間活動休止になったこともあり、選手たちの太もも周りの筋肉が落ち、体脂肪率が増えてしまったといいます。そこで再び加圧トレーニングに注力し、フィジカル強化を図って、最大の目標である高校サッカー選手権に備えているのです。「6月時点ではそこまで数字的な変化は見られなかったのですが、夏場になって計測したら平均4~5㎝ダウンという状況が鮮明になりました。『これは大変だ』と危機感を抱き、意識的に取り組みました。日本ユース年代のSランクである高円宮杯プレミアリーグ参加チームと我々の一番の差はやはりフィジカル。僕が藤枝東の監督に就任した6年前も技術・戦術面の違いはほとんど感じませんでしたが、身長体重を筆頭に当たりの強さや激しさ、走力の部分が劣っていると痛感させられたんです。その差を縮めるべく、サッカーノートのアプリを導入したり、管理栄養士さんに食育の話をしてもらったりとさまざまな試みをスタートしましたが、短時間で筋量を増やせる加圧はかなり効果がありました。10月に計測したところようやくコロナ前の状態に戻った印象ですが、継続しないと意味がない。選手も自覚を持って取り組んでくれています」■高2まで目立った選手でなかった長谷部誠が急激に伸びたキッカケ小林監督が自ら行動を起こす重要性を繰り返し強調するのも、1学年上の長谷部誠選手(フランクフルト)という偉大な存在を目の当たりにしているから。長谷部選手は高2まではそこまで目立った選手ではなかったものの、高2の終わりに静岡県選抜に選ばれ、高いレベルに目覚めてからはグングンと成長していったそうです。練習から100%でやるように意識も変わり、意欲的にサッカーと向き合うようになって、浦和レッズ入りというチャンスをつかみました。2008年にドイツに渡り、日本代表に定着し、8年間もキャプテンを務めるといった飛躍的成長には小林監督も驚きを禁じ得なかったといいます。「高校生は何らかのきっかけをつかめば長谷部さんのようになれる可能性を秘めている」と今も自らに言い聞かせているのです。「県選抜に入ってからの長谷部さんは『自分は十分やれる』という自信と手ごたえをつかんだのか目の色が変わっていきました。浦和入りした後、長谷部さんのいるサテライトと練習試合をしたことがあるのですが、もう手が付けられないレベルになっていた。『17~19歳の2年間でここまで変わるのか』と本当にビックリしましたね。当時は服部(康雄=静岡県サッカー協会副会長)先生が指導されていましたけど、サッカーの楽しさを面白さを追求する姿勢を重んじていましたし、主体性や自主性も大事にしていました。そういう環境だったから長谷部さんは伸び伸びとやれたし、自分で気付いて成長できたんだと思います。僕自身も『ここでもう1回サッカーをやりたい』と感じたのが指導者になったきっかけです。そういう藤枝東の文化を引き継ぎ、発展させていくことが自分の大きな仕事。入ってくる選手も『長谷部さんみたいになりたい』という子が年々増えています。つねに誠実で多くの人に愛されるのが長谷部さん。今の選手にも『愛される選手になりなさい』とことあるごとに声をかけています」このように藤枝東は人間的成長を促しながら、かつてのような高校トップを目指しています。同じ高体連で2019年プレミアリーグ王者の青森山田高校らとはまだまだ実力差があると小林監督は感じているそうですが、藤枝東らしく文武両道を貫き、自主性や自立心を生かしながら進化を遂げていければ理想的。そうなるように今後も高いレベルに突き進んでいくつもりです。小林公平(こばやし・こうへい)藤枝東高校出身。高校時代は県を代表する左サイドバックで、全国総体準Vや国体制覇などに貢献。国士舘大卒業後、藤枝東高非常勤講師、湖西高監督を経て2015年に藤枝東高校サッカー部監督に就任。
2020年11月09日「将来海外でプレーしたい」そんな純粋で大きな夢を抱く子どもたちに「正しい努力をさせてあげたい」。そう願うのが親の本音ではないでしょうか。新刊『世界を変えてやれ!―プロサッカー選手を夢見る子どもたちのために僕ができること』では、「日本と世界を繋ぐ橋渡し」役の著者・稲若健志氏が、将来を夢見る選手たち、保護者、指導者に向け、アドバイスを送っています。改めて稲若氏に聞いた、子どもたちの夢を叶えるために知っておきたい世界の常識、第2回目のインタビューは、若くして海外へ渡ることのメリット、デメリットについてお送りします。<<第一回:世界のクラブが日本人選手に求めるスキルとは。レアル中井選手から学ぶ世界で生き抜く方法■レベルの高い環境で練習ができることが大きなメリット――久保建英選手(ビジャレアル)や中井卓大選手(レアル・マドリード)が若くして海外でプレーしていますが、彼らのように海外でプレーするために現状ではどのような方法がありますか?「正直、現状ではFIFA(国際サッカー連盟)の規約第19条(国際移籍は18歳以上の選手のみ許される)があり、日本人選手が若くして海外でプレーするのは年々厳しくなっています。日本である程度有名な選手の場合、若年層の子がサッカーで海外に来た場合、まずFIFAが移籍を容認することはありません。Jクラブの下部組織に所属しているとか、セレクションに合格したとか、そういった情報がネットに出てしまえば、その時点で18歳になるまではどんな方法でも現地の公式戦には出場できません」――すると、現時点で日本人が海外でプレーをするには18歳の誕生日を迎えてから、ということになりますか?「良い例として挙げるとすれば、現在スペインの2部Bにいる吉村祐哉選手が辿った道のりです。現在2部Bには日本人が3人いるのですが、そのうちの一人です。祐哉は15歳で海外に渡って3年間は練習生で過ごしながら18歳の誕生日を迎えた時点でテネリフェと契約しました。最初はチームと契約はできないけれど練習生として練習試合や国際大会には出場できます。何よりも非常にレベルの高い環境で練習ができることが大きなメリットです。現地のチームが練習でも練習試合でもしっかりと扱ってくれるという条件があるのならば、これは一つの良いキャリアの歩み方だと思います。早い段階で海外に渡り、まずは言葉を覚える。言葉を覚えないと何にせよ厳しい道になります。そして環境に慣れて18歳のタイミングでチームと契約するのが現状のベストだと思います」――18歳から逆算して早めに行動するということですね。「そうです。ただし、ただ単に海外に行くだけでは意味がありません。調べもしないで海外に行って、あまり競争力のない低いレベルの環境に入っても意味はないからです。海外に行ったことだけで満足してしまう子どももいますが、刺激になる環境に身を置かないとその先が難しくなると思います。スペインでは若い世代であれば1部でも2部でも練習生として参加できる場合があるので」■子どもへの"投資"と捉えられるか――例えば、15歳で海外へ渡ることにはメリットもデメリットもあると思います。「メリットはリアリティが湧くことです。日本でプロを目指すというのは、学生からプロになることを指しますが、あちらではプロの集団の中からプロを目指すことになります。それは日本にいるのとは全然違います。そういう環境に早く入ることで心に火がつきます。リーガの選手たちは環境がものすごく良いのはもちろんですが、毎年選手が入れ替わるのを目の当たりにしているので、『やらないとまずい』という気持ちに駆られます。あとは、海外に行けばわからないことが多いから当然失敗します。失敗するからこそ成長します。失敗を糧に、自分で解決する方法を覚えるようになる。それが後の人生においてもプラスになるのです。一方、デメリットは学生生活を送れない、青春時代がなくなる、といったことでしょうか。学歴に焦点を当てればデメリットでしかありません。でも、僕は子どものときに自分が思った好きな道に突き進んだからこそ今があるし、学校に行けないなんてことは親が感じるデメリットなんですよね。学歴を大事にした結果、親自身が今の人生は楽しいと思うのであれば正解かもしれません。でも親が毎日が大変だと思いながら過ごしているのであれば、何かを変えなければ子どもも同じ道を歩んでしまいます」――仮に15歳から現地のクラブに練習生として所属するとしても、スペインで3年間、契約しないままに過ごすとなるとお金がかかります。親からすればお金の心配はあると思います。「お金はかかりますが、これは投資です。ほとんどの親は"子どもに投資する"という考え方を持たないと思います。『うちはお金がないから、お前は我慢しろ』と言われた子どもが夢をあきらめないといけない。そんなケースはざらにありますね」――例えば、15歳から3年間現地で生活するためにはいくらかかりますか?「スペインだと月に20万円ほど。3年間で600万円ほどでしょうか」――Jクラブユースでも高体連でも、高校を卒業して18歳になってから、親の援助を受けながら海外に挑戦するケースも増えていますが、これはどう見ていますか。「現状ではそういうパターンが増えていますが、それでもTC(トレーニング・コンペンセーション/23歳以下の選手が移籍する場合に移籍先からお金が支払われる制度)が発生するので、現地のクラブがすぐに契約するという流れにはなりにくいです。最初はプロ契約をせずに試合に出してくれるケースも結構あります。ただ、クラブもどこかでプロ契約をしないといけませんから、自分のところで育てて、契約するだけの価値を見出せたときにプロ契約をするという方法はあるにせよ、そこまでよく見てくれるクラブは少ないですね。高校やJクラブが『TCは破棄します』といった協力をしてくれるところもあるし、そうであるならばかなり話は変わってくると思います」<<第一回:世界のクラブが日本人選手に求めるスキルとは。レアル中井選手から学ぶ世界で生き抜く方法稲若健志(いなわか・たけし)株式会社ワカタケ代表。1979年生まれ。神奈川県出身。藤嶺学園藤沢高校卒業後、ディエゴ・マラドーナに憧れアルゼンチンに渡航しプロ契約を結ぶ。愛媛FCや栃木SCなどでプレーしたのち引退。帰国してからも10年以上に渡り、毎年アルゼンチンを訪れ、指導や教育を学び、26歳のときに株式会社ワカタケを設立。中井卓大選手の挑戦の支援を通し、レアル・マドリードに強いパイプを持つ。レアル、アトレティコ、セルタなど日本でのキャンプ及び海外キャンプのライセンスを持つほか、世界各国につながりを持ちリーガ主催のジュニアの大会への出場権も保有。世界を子どもたちに見せるべく、年間1000人以上の子どもたちに海外にいく機会を作っている。
2020年11月06日チームメイトからのからかいを真に受け怒ってしまい、チーム内で浮いてる息子。すぐ大声を出して怒ってしまうので、成り行きを見てないコーチたちに息子だけが怒られることも。そんなことが続き、「おれだけが全部悪い」「おれがバカだから」と涙をこぼし自分で頭をゲンコツで殴ることも......。普段のちょっとしたことで過剰に怒られている感じがするものの、息子にも原因があるので指導者陣に相談しづらい、とのご相談をいただきました。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとにアドバイスを授けますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<スパルタ母のしごきで息子がやる気喪失。父はどうすりゃいいの問題<サッカーママからのご相談>こんにちは。現在小2(7歳)の息子は、1年前からスポーツ少年団でサッカーをしています。当初は息子を入れて学年3人だったのが、今では人数が増えて同学年7人になりました。人数が増えて嬉しい反面、仲間から浮いた存在になっている息子についての相談です。息子はちょっとしたからかいなども真に受けて怒ってしまうことが多く、チーム内で距離を取られてしまいがちです。怒って大声を出したり、からかいにすぐカッとなってしまうため、余計に面白がられて更にからかわれたり、その結果、指導者にきつく叱られることが多々あります。そんなことが何か月か続き、家にいるときに息子が「おれだけが全部悪い」「おれがバカだから」「おれは全然できてない」と涙をこぼし始めました。頭を自分でゲンコツで殴ることも数回ありました。いつも息子が騒ぎだすことで指導者が気付くため、その時点では息子ひとりが怒っていて、からかっていた子や周りではやし立てた子は特に叱られることはありません。それで、自分が全部悪いと言っているようです。本人は納得いかないけど、そうやって自分を納得させようとしているように感じます。息子自身も集中力がなく、よそ見や砂いじりをしていたり、他の子にふざけてちょっかいを出すときもあり、そこは直していかなければならないところだと思っています。すぐに怒ってしまうので、それで他の子から距離をとられてしまうのも大人としては理解できるところです。集中力が足りないのも、怒りやすいのも、息子自身も直さなければと思ってはいるようですがすぐには改善できず、同じことで注意を受け続けて「またできなかった」と失敗体験を積み重ねてしまう日々。サッカーも、自主トレを続けている割には他の子のようには技術が身につかず自信がないので引け目になっていて、色んなことを受け流す余裕がないんだろうと思います。チームの子とうまくいかないこと、サッカーがなかなか上達しないこと、指導者からも問題児と認識されていること、息子自身が自分をダメだと言い始めていること、色んなことが積み重なってしまってどこからどう手をつけていいのかわかりません。集中力がなくて試合でもベンチ態度が悪い(砂いじり、草いじり、よそ見など...)ことや、すぐに怒って輪を乱すことなど息子に非があることが多いので、普段のちょっとしたことで過剰に怒られている感じがするものの、指導者陣に相談しづらいです。何かアドバイスをいただけませんでしょうか。<島沢さんのアドバイス>ご相談のメールをいただきありがとうございます。よくぞご相談してくださいました。小学校で過ごすぶんはそこまで大変ではないけれど、サッカーチームという集団活動になると、さまざま難しい局面を迎えてしまう。そういったお子さんは決して少なくありません。さまざまなきまりやルールがその子にとってハードルが高かったり、サッカーのスキルの優劣に打ちのめされたりする。そのため自己肯定感が下がってしまい、せっかくの楽しいサッカーの時間が苦痛になってしまう――。息子さんは、まさにそんな状況ではないでしょうか。■心の成長がゆっくりなだけ。周りの子と同じように、と働きかけるのは逆効果私も長男がとっても個性的でしたので、それなりに状況を察することができます。すぐにカッとなって手を挙げる。試合で相手にファウルされると、すぐに報復する。小学5年生くらいまで、ほうぼうで謝ってばかりいました。お母さんも個性豊かな息子さんに少しばかり苦労されているようです。さまざまトラブル続きで、親のほうも疲れちゃいますね。でも、大丈夫。焦る必要はありません。息子さんは、ほかのお子さんよりもほんの少しだけ心の発達がゆっくりなだけです。一見すると短所ばかりと思えるかもしれませんが、このように個性的なお子さんには、まだ本人や親御さんが気づいていない「いいところや才能」を隠し持っていることが多いのです。そこに密かに期待を寄せながら、今はまずはリラックスして、息子さんをおおらかな目で見てあげてください。子どもの発達がのんびりしているのに、親や周囲の大人たちが「周りの子と同じようにしなさい」と働きかけてしまうと逆効果です。親の側は「これもひとつの個性だ」と受け取って、ここはのんびりいきましょう。■7歳ならベンチで砂いじりをするのはある意味自然なことそこで、私からは「のんびり子育てプラン」の3ステップをお伝えします。良かったら参考にしてください。その1。他のお子さんと少し異なる個性を、できる限りおおらかに受け止めましょう。すでに前述したことではありますが、ここが非常に重要です。一度、整理してみましょう。例えば、「集中力がなく、よそ見や砂いじりをしていたり、他の子にふざけてちょっかいを出すときもあり、そこは直していかなければならない」と書かれていますが、なぜこのような行動をしてしまうのでしょうか?息子さんが「性格の悪い子」だからでしょうか?「意地悪な子」だからでしょうか?どれも違います。息子さんは7歳です。この年齢で、試合に出ておらずベンチにいるときに、砂いじりをするのはある意味自然なことです。だって、暇なんですから。お母さんも電車に乗って、文庫本も読み終わってしまった、なんていうとき、スマートフォンをいじったりしますよね。コーチは仲間のプレーを見るようにと言うでしょうが、難しいことです。子どもの見方はいろいろあるかと思いますが、私がコーチなら「ベンチでも集中して試合を観なさい」と命じて、その通りやってしまう子がもしいたら、大人の言うことを聞きすぎるという面でその子のほうが心配です。ただ、ここで私が「できる限り」受け止めて、と書いたのは、受け止めきれないことがあってもいいよということです。腹が立ったり、情けなかったり、息子さんに「ちゃんとしないさい!」と怒りたくなる(もう怒っちゃってるかもしれませんが)瞬間もあるでしょう。そういうときは、少し息子さんのこの問題と距離を置きましょう。たまには、練習や試合を休んで二人でどこか遊びに行ってもいい。たまには、お父さんがおられれば、お父さんに、いなければ他の大人に任せてもいい。子育てをお休みする時間が必要です。常に頑張ったりしなくていい。とにかくぼちぼちいきましょう。■昔ながらの忍耐と根性ではなく、逃げ場を作ってあげてその2。母子とも自己肯定感を上げる。「おれだけが全部悪い」「おれがバカだから」「おれは全然できてない」と涙をこぼし、頭を自分でゲンコツで殴る、と書かれています。これはいけません。まだ7歳で、ゆっくりめの彼にとって、少々ハードな環境のようです。ここはぜひ「ダメなんだから頑張れ」と圧迫して、這い上がらせる昔ながらの手法で接するのではなく、まずは彼がそう感じることに心を寄せましょう。「辛いね。でも、気にしなくていいよ」「きつかったね。でも、大丈夫だよ」「バカとか誰が言ったの?お母さんは全然そう思わないよ」と慰め、励ましてください。無言で背中をさするだけでもいいです。そして、サッカーについては「一度始めたのだからやり通せ」などと言わず、「嫌だったらいつでもやめていいよ」「他のことをしてもいいよ」「他のチームを探そうか?」と逃げ場所を作ってあげてください。それとともに、お母さんも自信を持ってください。サカイクにメールを出してまで、成長がゆっくりめな彼と真剣に向き合っている。そんなお母さん、素晴らしいと思います。ピンチの時は、成長するチャンスの時間です。いつの間にか解決して、子どもは成長していきます。チームの子とうまくいかない。サッカーがなかなか上達しない。指導者からも問題児と認識されている。息子自身が自分をダメだと言い始めている。どこから手をつけていいかわかりません、とありますが、これらはすべて繋がっています。他者を変えるのはなかなか難しいので、まずは自分をダメだと思っている息子さんの心をほぐすことから始めましょう。■時には親が言葉で補ってあげることも大事(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)その3。コーチに相談する。サッカーの活動が始まれば、そこは選手とコーチたちの空間です。親御さんがさまざま口を出すことではありませんし、ただ見守っていれば良いのです。指導者の方については「すぐに怒って輪を乱すことなど息子に非があることが多いので、普段のちょっとしたことで過剰に怒られている感じがする」と述懐されています。であれば、そこはお母さんの言葉で補ってあげてください。「少し発達がゆっくりめなので、ご迷惑をかけることがあるかしれませんが、長い目でみてもらえませんか?」と。もしそれで迷惑がられたり、叱り飛ばすようなことが続くのなら、一度お子さんと相談してチームを替えたほうがいいかもしれません。以前に比べて、サッカーのコーチの方々は子どもについてとても勉強されています。子どもの発達は個人で大きな差があり、そこを受け止める重要性をご存知の方は多いです。担当コーチが難しそうなら、クラブの代表の方に相談してもいいでしょう。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年11月03日サッカーを思いきり楽しんでほしいけど、勉強も疎かにしてほしくない。親御さんたちの本音ですよね。元日本代表のキャプテン長谷部誠選手や中山雅史選手の母校で、サッカー強豪校であり、県内でもトップクラスの進学校、藤枝東高校ではどのように文武両道を実現しているか、小林公平監督にお話を伺いました。セレッソ大阪のU-15出身で、卒業後はプロ入りが決まっている稲葉楽選手からも、どのように毎日サッカーと勉強に取り組んでいるか聞いたのでご覧ください。(取材、文:本川悦子)藤枝東高校サッカー部の部員たち。この日はテスト明けで1週間ぶりの部活ということもあり、練習後もグラウンドで会話を楽しんでいました■長谷部誠選手らを生んだ文武両道の名門新型コロナウイルス感染拡大で開催が不安視されていた第99回全国高校サッカー選手権大会が、12月31日から1月11日に予定通り実施されることが決まりました。全国の高校サッカー部員にとって非常に明るいニュースと言えるでしょう。サッカー王国・静岡の名門・藤枝東高校もその朗報を受け、11月の決勝トーナメントに挑みました。J2・ツエーゲン金沢入りが決まっている3年生のDF稲葉楽選手も「今年は夏の高校総体がなくなり、全国大会は冬の選手権だけなので、何とか県大会で勝って本大会に行きたいです」と力を込めていました。残念ながら1日の東海大翔洋戦で0-2と黒星を喫し、全国行きは叶いませんでしたが、彼らは精一杯戦い抜いたことでしょう。過去4度の選手権優勝を誇り、中山雅史選手(アスルクラロ沼津)や長谷部誠選手(フランクフルト)ら数々の日本代表選手を輩出した同校は文武両道の名門として知られています。2020年度の偏差値は66と静岡県でトップ5に入っており、100人近いサッカー部員たちも勉強とサッカーを両立させています。セレッソ大阪U‐15出身の稲葉楽選手も「入学時点では成績が学年でも下の方だったけど、練習が終わって家に帰ってから必ず勉強をすることを日課にしたら目に見えて上がりました。周りも頭のいい子ばかりだし、『何事も自分から率先してやろう』という自立心が自然と養われたのがよかったと思います」とチーム全員の学習意識の高さを強調していました。■選手たちの精神的な不安を取り除くためにオンラインを活用藤枝東OBで長谷部選手の1学年下、大井健太郎選手(ジュビロ磐田)と同期に当たる小林公平監督も選手たちの自主性を尊重しています。「最後の選手権まで部活動を続けてほしい」という指揮官の思いに応えて、例年であれば、トップチームの選手は全員残り、Bチームの選手が早めに引退するのが常でした。しかしコロナ禍の今年はトップチームから引退者が出たといいます。「2月末に全国一斉休校となってから、僕らは3か月間活動を休止しました。まず感染しないことを第一に考えましたが、いつ再開できるのか、どの大会が行われるのか全く分かりませんでした。そういう中で受験を重視する選手が出るのは仕方ないという思いもありました。そんな中でも体力面をキープし、マイナスを最低限にとどめるための工夫は凝らしました。まず運動生理学やトレーニング理論を学んでもらおうと週1回のズームミーティングを始めました。加えて、管理栄養士による食事管理のミーティングを1回、トレーナーのリモートトレーニングを1回と合計週3回はオンラインで交流を持てるようにしたんです。選手たちは学校に来られず、練習もできなくて精神的な不安感を感じていました。私も精神科医の先生に相談しましたが、『オンラインでもいいからつながりを持てるようにした方がいい』とアドバイスを受け、実行に移しました」小林監督からのアクションに呼応するように、選手たちも絆を深める活動を率先して始めました。その1つが動画を使ったリレー。各自の目標を、動画を通じて伝えあったり、リフティングリレーをするなど、今どきの高校生らしい試みを始めたのです。4人1組でラインビデオを使ったリモートトレーニング動画を投稿するといった取り組みもありました。仲間が懸命に追い込んでいるのを見れば、「自分もやらなければいけない」という意識になるもの。そうやって選手個々が向上心を持ち続けて苦しい3か月間を乗り切ったのだといいます。■もっと選手を信じていい、選手たちは十分やれる「教師の自分にとっても、これだけ長期間の空白期間は初めてで、選手以上に不安感は強かったと思います。そこで自分もJFAのフィジカルトレーニングメニューを配信していただけるように旧知の先生にお願いしたり、指導者同士のオンライン交流会に参加したりしました。そこで感じたのは『もっと選手を信じていい』ということ。僕らが直接的に行動を起こせる機会が少なくなる中、彼らに自主的かつ主体的に行動してもらう場が増え、十分やれるなという手ごたえを感じたんです。3年生のレギュラーの選手が引退を決断したのは残念ですが、藤枝東としては進路も非常に重要だと考えています。我々としては高1の段階で希望を出してもらっていますが、スポーツ推薦や指定校推薦で関東大学1部や関西1部の大学には毎年選手がお世話になっていますし、一般受験で国公立やMARCH以上の大学に進む子も多い。そのあたりを基準にして文武両道にチャレンジしています。コロナを経てそういう意識を高めてくれる選手が増えたのは、前向きな点だと思っています」■サッカーノートを通して選手の内面を良く知ることができる藤枝東では小林監督就任2年目の2015年からアプリのサッカーノートを導入していますが、それも選手の自立心の高さを実感する一助になったようです。朝晩の体温・体調管理はもちろんのこと、選手が不安に感じていること、サッカーと学業を両立する上での懸念材料などを書いてもらい、毎日提出してもらうことで、彼らの内面に深く切り込むことができたといいます。「アプリだと休校期間も共有でき、選手とコミュニケーションを定期的に取れたので、非常に有難かったですね。6月の活動再開後は往復の電車や移動途中などに記入し、送ってもらっていますが、時間の有効活動という観点から見ても助かります。サッカーノートの中には、疲労度を1~10段階で判定し、選手自身に申告してもらう項目があるのですが、それも強度の高い練習を取り入れるに当たって有効です。選手権予選などの大きな大会前は追い込みたいという一方でケガも防がなければいけません。一番いい落としどころを探るうえでも役立っています。こうやって要所要所で数値を取り入れながら可視化できるデータを蓄積していけば、いずれは藤枝東サッカー部の大きな財産になる。そんな期待も抱いています」この記事が掲載される「サカイク」は、小学生向けなのでアプリではなく紙のノートですが、子どもたちがたくさん書けるようになる工夫を施したサッカーノートを販売しています。編集スタッフの依頼で小林監督にその内容を見ていただくと、「なるほど、これは書きやすいですね」と回答いただきました。サカイクサッカーノートの内容を見ていただきました小学生年代で、特にサッカーを始めたばかりでサッカーノートを上手く書けない子のために、いくつかの質問を用意して、書くのが苦手な子どもたちも自分の考えをたくさん書けるようになる工夫が施されているのですが、ページごとの設問を見て「ただ自由に書くのではなく、設問があることで思考力をつけるベースになりそうですね」「うちの選手たちにも聞いてみたい設問ですね」など高く評価してくれました。もともとITを駆使できる小林監督ですが、今回のコロナ禍を通して、利用できるテクノロジーを最大限生かしながら、強い藤枝東を築き上げていくことの重要性を再認識したようです。ご自身がITが好き、というのもあるそうですが「社会に出て重要なビジネスシーンで活躍する生徒も多く輩出する学校なので、最先端の情報に触れさせたいという思いもあるのです」と語ってくれた小林監督。彼らには文武両道の名門ならではのやり方で高校サッカー界に新風を吹かせてほしいものです。(後編に続く)小林公平(こばやし・こうへい)藤枝東高校出身。高校時代は県を代表する左サイドバックで、全国総体準Vや国体制覇などに貢献。国士舘大卒業後、藤枝東高非常勤講師、湖西高監督を経て2015年に藤枝東高校サッカー部監督に就任。
2020年11月02日小学生でサッカーを始めたばかりのお子さんの中には、リフティングの練習に取り組んでいる人も多いのではないでしょうか。この記事では、サッカーを始めたばかりの初心者に向けてリフティングのコツを解説します。ぜひコツを押さえて練習に取り組んでみてください。リフティングは回数は重要ではない小学生の場合、リフティングの回数が多くできる=サッカーが上手いと捉えているケースが少なくありません。確かにリフティングがたくさんできることは、サッカーの上手さの1つの側面ではあります。しかし、リフティングの回数が少ないからと言ってサッカーが下手なわけではありません。まずは、その点を理解しておきましょう。リフティングの目的は身体を上手に動かせるようになることリフティングで大切なのは回数ではなく、身体を上手に動かせるようになることです。小学生の中には、リフティングが何回もできる選手は少なくありません。回数だけ見ると、1,000回を超える選手もいるでしょう。ここで重要なのはその選手が、身体のどの部分でそれだけの回数をこなしているのかということです。もしかしたら、利き足のインステップだけ、太ももだけで1,000回をこなしている選手もいるかもしれません。しかし、このような場合だと、先ほどお伝えしたリフティングの目的「身体を動かせるようになること」を達成できていると言えません。利き足のインステップを中心として1,000回のリフティングを達成した選手に対して、インステップ以外の特定箇所でリフティングやってもらうと、おそらく多くの選手は続けられないはずです。なぜ続けられないのかというと、得意な部分以外に関しては自分の思うように身体を動かせていないためです。逆に言うと、部位に関係なくリフティングができるような選手は、回数をこなすことはできなくても、身体を上手に動かせていると言えます。そのような選手なら、試合中に急に来たボールに対しても、身体を上手に動かしコントロールして次のプレーに移ることができるはずです。サッカー初心者が押さえておきたいリフティングのコツここでは、サッカー初心者に向けて、リフティングのコツについて解説します。リフティングは毎日練習をすることが大切ですが、コツを押さえておくことで、上達速度が上がるはずです。ぜひ参考にしてみてください。インステップのコツリフティングで主に使用するのがインステップです。インステップのリフティングをする場合、足の甲のどこでボールを触るとボールが真上に上がるのか感覚をつかむことが大切です。インステップはボールに触れる位置が少しでもずれると、思いもしない方向に飛んでいってしまいます。そのため、甲の様々な部分にボールを当て、真上に飛ぶ部分を把握するようにしましょう。インサイドのコツインサイドのリフティングをする場合、インサイドをボールに対して平行にすることが大切です。ただし、平行にするために足の位置を高くすると、リフティングが安定しません。そのため、足の位置は低くして、膝を返したり足首を返したりすることで、平行を保つようにしましょう。アウトサイドのコツアウトサイドのリフティングをするときに、重要なのは軸足の膝のクッションを使うことです。アウトサイドを使ってボールを蹴り上げるというよりも、膝のクッションでボールを突くイメージを持ってください。太もものコツ太もものリフティングは、太ももをちゃんとあげることが大切です。十分に上がっていないと、ボールに当たる面が斜めになってしまうので、ボールが真上に上がりません。また、リフティングをするときは、体の中心を意識して行うようにしましょう。ヘディングのコツヘディングのリフティングをするときは、ボールの真下に入り額の中心にボールを当てることを意識しましょう。真下に入り、額にちゃんとボールが当たればボールが真上に飛びます。一方で、これがずれているとボールは前後左右に飛んでいってしまいます。また、リフティングの際には足を前後に開いておくと安定感が増すので試してみてください。自主練でリフティングは上達するリフティングを上達させたい場合は、こまめに自主練を行うことが大切です。1週間に1回の自主練で何時間も練習するより、毎日10分、15分でも練習する方が着実に上達します。先述の通り、リフティングは回数ではなく、身体を上手く使えるようになることが目的です。毎日少しずつ練習することで、様々な部位でのリフティングができるようになるでしょう。リフティングの練習には「テクダマ」がおすすめリフティングの練習をしたい人には「テクダマ」の利用がおすすめです。テクダマは、4号球と同じ重量でありながら、大きさは2号球サイズとなっているボールです。独自開発のバランス設定によって、不規則な回転やバウンドをするため扱うのは簡単ではありません。このテクダマでリフティングの練習をすると、ボールのイレギュラーな動きへの対応が求められるので、脳や神経系にたくさんの刺激を与えることができ、集中力が養われます。また、予測不能なボールの動きに合わせて身体を使わなければいけないので、身体を上手に動かせるようになるでしょう。ぜひ、リフティングの練習にテクダマを取り入れてみてください。まとめリフティングは回数に注目してしまいがちですが、その目的は身体を上手に動かせるようになることです。特定の部位だけでなく、様々な部位でリフティングできるようになれば、試合中でも自分の思ったようなボールコントロールができるようになるはずです。ぜひ、今回紹介したコツを参考にリフティングの練習に取り組んでみてください。
2020年10月30日全国を目指すレベルなので、日々の練習や土日の遠征などいろんな面で過酷だからと親の判断で移籍させたが、退団したことを後悔し、前のチームに戻ったけど1年のブランクは大きく下の学年にも抜かれ試合に出られそうにない。自分が先導して移籍させた選択が良くない方向に行ってしまい、わが子を傷つけた。卒業まで2年半ぐらいあるけどどうすれば......。というお悩みをいただきました。親の判断で移籍させるかどうか、悩んだことがある方もいるのでは。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとにアドバイスを授けますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<スパルタ母のしごきで息子がやる気喪失。父はどうすりゃいいの問題<サッカーママからのご相談>はじめまして。 このような相談できる場所があり、ありがたく思います。小4の息子はスポ少に所属しています。全国を目指すチームなので、まあまあレベルは高いです。1年生からサッカーを始めましたが、3年生から4年生までの1年間、毎朝学校が始まる前の1時間の練習と土日の県外遠征などあまりに過酷だと感じ他のチームに移籍しました。ですが、少年団を辞めたことを後悔し、4年生になった今年の春、また全国を目指す今のチームに戻りました。しかし1年のブランクは大きく、同学年の子どころか下の学年の子にも抜かされてしまっており今後も試合には出られそうにありません。それもこれも全て私が移籍を誘導をしてしまった結果だと思います。私が良かれと思って選んだ道が最悪な方向に行ってしまい、我が子を傷つけることになってしまいました。息子はまた頑張ったらみんなに追いつけると思っていますが、全国を目指すチームなのでそう甘くはありません。周りの子どもたちもみんな頑張っていて日々上達しているので、1年間緩い練習をしてきた息子との差が縮まるとも思えません。こんなにも厳しい現実が待っているとは気がつかず、またチームに戻してしまいとても後悔しています。辞めて後悔、戻っても後悔。あと2年半どのように過ごせばよいでしょうか。 よろしくお願いいたします。<島沢さんのアドバイス>ご相談のメールをいただき、ありがとうございます。「あと2年半どのように過ごせばよいでしょうか?」お母さんは、私にそう問われていますが、2年半をどう過ごすかを決めるのは、息子さんご自身です。まず、その考え方を変えましょう。■サッカーも勉強も子どもが自分の意思で決めること、と胸に刻んでサッカーも、勉強も、進路も、もっと言えばその日をどう過ごすかも、息子さんの意思で決めることです。息子さんの人生は、息子さんのもので、お母さんのものではありません。そこをまずは自分の胸に刻んでもらえませんか?そうしなければ、過度な干渉をやめるスタート地点に立てません。この連載や、それ以外でも、子育てが上手くいかないケースの大きな要因は、親御さんの過干渉であることが非常に多いです。ぜひ、「過干渉な親からの脱却」を目指してください。いまは、非常にお辛いですね。自分が指図しなければ、とか、干渉しなければこうならなかったと後悔の日々かと思います。しかしながら、お母さんはご自分の力で、子育ての失敗にすでに気づいています。「私が移籍を誘導をしてしまった結果だと思います。私が良かれと思って選んだ道が最悪な方向に行ってしまい、我が子を傷つけることになってしまいました」とご自分で書かれていますね。このように、大人になって自分自身の行いを否定するのは勇気のいることです。ところが、お母さんはそれができている。お母さんは、人を育てる力があるのです。どうか自信を失わず「今から過去のダメ親だった自分にリベンジするのだ」という勇気を持ってください。以下、私から三つアドバイスさせてください。■まずは自分の行動の間違いを認め、お子さんに謝ることが重要まずは、息子さんに謝りましょう。●チームの移籍をお母さんが誘導し、振り回してしまったこと。●その際に、息子さんととことん話し合うなど、時間の余裕をもたなかったこと。●息子さんの意見をじっくり聞かなかったこと。●「このチームはあまりに過酷だ」とか「やはり元のチームのほうが」などと、お母さんの感覚や考えを基準に移籍を繰り返し、息子さんの気持ちを最優先してこなかったこと。●過干渉な母親だったこと。そのあたりをきちんと伝えましょう。その際は「許してね」などと許しを請うのではなく、とにかくご自分の行動の間違いを認め、謝ることが重要だと思います。二つめは、子育てを勉強してください。過干渉が子育てにどんな悪影響を及ぼすか、それを学んでください。ネットに「子育て、過干渉」と打ち込んでもいいし、そこに「サッカー」を入れてもいいでしょう。過干渉親についての本もたくさんあります。同時に、干渉せずに子どもを育てるメリットも学んでください。例えば、子どもは「選ぶ」機会を増やすことで成長していきます。そのためには、小学生段階で親は離れたほうがいいのです。例えば、私が十数年前に勉強した、イギリスの小児科医で臨床心理の専門でもあるウィニコットの教示をお伝えします。ウィニコットは、母親と子どもとの関係において「ほどよい母親(good enough mother)」であることが大切だと言います。「ほどよい母親というのは、初めは幼児の欲求にほぼ完全に応じ、やがて時間の経過につれて、母親がいなくてもひとりでいられるようになってきたら、子どもへの対応を少しずつ減らしていく」つまり、「初めはしっかりと子どもに関わり、だんだん離れる育児のできるお母さん」が「ほどよい」。このグッド・イナフ・マザーをぜひ心がけてください。■親の言う事を聞いていればいい、という育児は間違いまた、日本の著名な小児科医は、親が手をかけて子どもを「育てる力」と、子ども自身の中にある「育つ力」の関係性を以下のように解説しています。●0~3歳頃「育てる力」>「育つ力」(育てる力が上回る)●4~6歳頃「育てる力」=「育つ力」(両方の力が同じくらい)●7歳以上「育てる力」<「育つ力」(育つ力が上回る)この説明からわかるように、子どもが小学校に入学したら、「育つ力」を信じて、子どもの成長を見守るような親御さんが、子どもを成長させるのです。ぜひ、そういったことを学んで、過干渉親を脱却する糧にしてください。論理を根っこから理解せず、「干渉しないほうがいい」と他人から言われたところで、人はそうそう変われません。ぜひぜひ、子育てを学んでください。なんで今更子育てなんか勉強しなきゃいけないの?と思うかもしれません。が、私たちの多くが施された、圧迫して、厳しく言い聞かせて、お母さんの言うことを聞いていればいいのよ、という子育ては、実は間違っています。違う手法をぜひ身に着けましょう。■子どもが自分で考えて決める機会を与えてみようそして、三つめ。干渉をやめるには、まず、上記の考え方をご自分に刷り込んでいく作業が必要です。日常生活から、「どうしたい?」「どうする?」と問いかけます。お手伝い一つでも、あれやって、これやってと頼むのではなく、何か手伝えることがあるか自分で考えてやってみて、と伝えましょう。二度の移籍を、親御さんに従い、ついてこられた息子さんは、もしかしたら従順に育っていないでしょうか?よく言えば素直。違う見方をすれば、自分で考えられない、自分で決められないところがあるかもしれません。ただし、それは彼に能力がないわけはまったくありません。これまで、そういった自ら考える、悩む、決める機会を与えられてこなかっただけです。ここからが、子育てのやり直しの一歩です。■親としてのリスタートであり、大きなチャンスでもある(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)そして、最後に。私は、こうなって良かったとさえ思います。もし、2つ目のチームでうまくいって満足していれば、「ほら、お母さんの言ったとおりにしてよかったでしょ」ということになります。ママについて行けば大丈夫、私についてこさせれば大丈夫と、親子して間違った認識を持つところでした。これは、お母さんの母親としてのリスタート。大きなチャンスなのです。まったくもって落ち込まなくていいのです。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年10月28日「将来海外でプレーしたい」そんな純粋で大きな夢を抱く子どもたちに「正しい努力をさせてあげたい」。そう願うのが親の本音ではないでしょうか。新刊『世界を変えてやれ!―プロサッカー選手を夢見る子どもたちのために僕ができること』では、「日本と世界を繋ぐ橋渡し」役の著者・稲若健志氏が、将来を夢見る選手たち、保護者、指導者に向け、アドバイスを送っています。今回は改めて稲若氏に聞いた、子どもたちの夢を叶えるために知っておきたい世界の常識、などを、全4回にわたってインタビューでお届けします。■レアルの中井選手から学ぶ世界で生き抜く方法――世界で戦える選手を間近で見てきた稲若さんが考える、世界のトッププレイヤーが持っているものとは何でしょうか。「技術、メンタル、フィジカルがあることは大前提ですが、世界で活躍するトップレベルの選手たちは自分で『習慣』を作ることができます。先日、元スペイン代表監督のロベルト・モレロが話していました。メッシやネイマール、スアレスのようなスーパースターは何が違うのかといえば、『サッカーの中で生活をしている』と」――24時間、サッカー選手ということですか?「そうです。例えば、スポーツドリンクは糖分が入っているから飲まない、といった日々の行動を徹底的に習慣にしていける選手が世界に行けます。プロでもピッチ上では頑張っていても、ピッチ外のちょっとした誘惑に負けてしまう選手もいます。でも、世界のトッププレイヤーたちは例外なく細部に気を遣っているし、それを当たり前にできています」――その点、稲若さんがずっと間近で見てきた中井卓大選手(レアル・マドリード所属)はどうでしょうか?「僕はピピ(中井卓大選手の愛称)のことを8歳から知っていますが、8歳の頃から毎日、朝起きたら欠かさずストレッチや体幹、ボールタッチをしてきました。歯を磨くのも朝ご飯を食べるのも30分のトレーニングのあとで、雨が降ろうがサボったことはないと思います。『毎日が勝負』というスタンスで、一段ずつ階段をのぼっていった選手です。最初からレアル・マドリードの今のカテゴリーまでたどり着けるという考えはなかったと思いますし、まずは自分のいるカテゴリーで全力を尽くし、その結果、また次のカテゴリーへと。その繰り返しでのぼっていったのです。正直、ピピが今のようになるとは思っていませんでしたが、ピピは人一倍努力をして、一歩ずつ階段をのぼっていった先に今のカテゴリーまで上がったという選手です」■世界のクラブが日本人選手に求めているものとは?――世界のクラブは日本人選手に何を期待しているのでしょうか?「一般的に日本人は『真面目』『監督の言うことは聞く』『言われたことはできる』という評価をされています。ただ、今の久保建英選手(ビジャレアル)もそうですが、チームでのポジショニングのバランスやディフェンス力の低さが試合出場を阻む足かせになっているように見えます。日本では『うまい選手が海外で使われる』と思っている人も少なくないかもしれませんが、欧州ではまず『チームにハマる選手が使われる』というのが常識です」――チームにハマるというのは?「技術が高いのではなく、"何かをしっかりと持っている選手"です。『言われたことをしっかりできる』『ポジショニングをミスしない』『ボールを取られてはいけない場所で絶対に取られない』といったことです。たとえ技術が高くても、チームの一員としてハマるための力が劣っていると、監督は『まだ使えないな』と判断するということです。試合に勝つことができる監督は、何より11人全員がしっかりと意図どおりに動けるかを見ています」――それを踏まえて、日本人選手が海外のスカウトから目に留まるためには?「目に留まるのは、ボールをこねくり回す選手ではなく、走るときに走る、守るときに守れる、そういった判断力が高い選手が評価されます。その上で、結果を残せば目に留まる可能性は高まります。どうしたってチームが弱ければ個々の活躍はなかなか目につきません。チームがある程度は強く、チームの中でやるべきプレーを体現しながら、DFならば1対1に負けない、FWならばゴールを奪う、そうやって個人として結果を残せる選手が目に留まります」――ちなみに、日本のU‐12世代と海外の子どもたちの違いは感じますか?「スペイン代表やレアル・マドリードで活躍したミッチェル・サルガドとは2013年からの付き合いになりますが、そんなサルガドがよく日本の子どもたちを見て『リアルがない』と言います。シュート練習をするときに子どもたちが『これはワンタッチですか?』と聞くことに対して『グラウンドにいるのは自分。コーチに聞く前に常に自分で判断しなさい』と指摘する光景をよく見ます。これには親の過保護も関係しているのだと思います。夏場の熱中症対策として子どもに帽子を被らせてサッカーをさせる親もいます。子どもの命を守る対策を取ること自体はおかしくありませんが、低学年のうちだけならまだしも、高学年になっても親が「○○しなさい」と指示して、子どもに判断させないこともあります。危ないからと言って子どもからリアルを奪ってしまえば、結局子どもは逞しくならず、試合にも勝てません。サルガドがいう『リアルがない』を真剣に考えるべきだと思います」――その差を埋めるためにはどうすれば?「日本の場合、親はサッカーをあまり見ないし、指導者も海外まで行って現地のサッカーを見るための時間も取れない忙しさなので、結局は自分の経験則だけで指導してしまう傾向が強いと思います。そうなると、サッカーについて周りが正解をわかっていないから、子どもが迷子になってしまう。海外の場合、指導者たちは常に近隣諸国のサッカーを見に行ってアップデートを繰り返しています。そういう指導者が親から『何でうちの子は起用されないのか?』などと突っ込まれても、理路整然と答えることができるだけの理論武装ができています。だから親にも指導者に対するリスペクトがあるので、指導者と親の距離感が近いという関係性があります。この海外のリアルを知るためには、やはり自分の肌で感じるしかないと思います。同年代のバルサの子どもたちのプレーをYouTubeなど動画サービスで見たときに『うまい!』と思っても、実際にどのくらいうまいのか、どのくらい差があるかはわかりません。指導者も、子どもも、親も、実際に海外に行って体感しないとわからない明確な差というものがあるし、わかった気にならないで、現地で体感することをスタートラインにしてはどうでしょうか」稲若健志(いなわか・たけし)株式会社ワカタケ代表。1979年生まれ。神奈川県出身。藤嶺学園藤沢高校卒業後、ディエゴ・マラドーナに憧れアルゼンチンに渡航しプロ契約を結ぶ。愛媛FCや栃木SCなどでプレーしたのち引退。帰国してからも10年以上に渡り、毎年アルゼンチンを訪れ、指導や教育を学び、26歳のときに株式会社ワカタケを設立。中井卓大選手の挑戦の支援を通し、レアル・マドリードに強いパイプを持つ。レアル、アトレティコ、セルタなど日本でのキャンプ及び海外キャンプのライセンスを持つほか、世界各国につながりを持ちリーガ主催のジュニアの大会への出場権も保有。世界を子どもたちに見せるべく、年間1000人以上の子どもたちに海外にいく機会を作っている。
2020年10月27日チームによって欲しい選手が違うのは理解できるけど、やっぱり知りたい「Jクラブのスカウトが声をかける選手の特徴とは?」という読者の疑問に答えるこの企画。川崎フロンターレのアカデミースカウト担当の大田和直哉さんに聞く「Jクラブのセレクション」について。後編です。後編では、セレクション時の保護者の振る舞いや、受ける時の心構え、自立に対する考え方など、セレクションに興味のある子どもたち、保護者に向けて、ためになるお話をたくさん聞くことができました。(取材・文:鈴木智之)<<前編:Jクラブのスカウトが見るポイントは?川崎フロンターレのアカデミースカウトが語る選手評価ポイント■どんな保護者なのかを気にする割合が増えている――選手をスカウトするときに、その選手の保護者のキャラクターを気にする指導者やクラブは多いと聞きます。大田和さんはどのように考えていますか?クラブとしても、その選手の保護者がどういう人なのかを、気にする割合は年々増えています。ただ、誤解してほしくないのですが、その保護者が良い、悪いというのではなく、「どのような人なのか」を把握することが大切だと考えています。だからこそ、スカウトの段階で保護者の方とコミュニケーションをとり、どのような人なのかを理解するようにしています。――保護者の立場として、フロンターレにスカウトされるような「上手な子」を、どのようにサポートすればいいのでしょうか?これは私の印象になるのですが、私が良いなと思える選手の保護者は、子どもをサポートしようとしすぎるのではなく、自分が好きなことをやって、輝いている人が多いように感じます。仕事や趣味など人によって様々ですが、親が自分の人生を楽しんでいる姿を見て、子どもも同じように、好きなサッカーを楽しくやっています。その姿を見ると、すごく良いなと思います。――何人ぐらい受けに来るのですが?U-10の場合、今年は2日間、3部に分けて行ったのですが、1回60人なので、全部で180人ほどになります。その中で合格するのは、学年によって違うのですが、1学年10人程度で運営しているので、3年生の場合、現U-10カテゴリーに3年生が4人いるので、セレクションで合格する子は4~6名程になります。■身の回りの事ができれば「自立」なのか?海外と日本の違いに見る本当の自立とは――ジュニアサッカーの現場において「子どもの自立」がキーワードになることが多いですが、保護者が手をかけすぎると、自立を妨げることになるのでしょうか?最近、「自立ってなんだろう」と考えていて、思い当たったことがあります。私は2年前からフロンターレのアカデミーのスカウトをしているのですが、それまでは中国の広州富力で、U‐10の監督をしていました。中国の保護者は子どもの送迎は当たり前、練習前後には着替えを手伝ったりと、日本人から見ると過保護に見えました。日本でいう「自立」とは、自分のことを自分でやることだととらえられていて、私もそういう考えでした。――多くの日本人がイメージする「自立」は、「自分のことは自分でする」ですよね。中国の子たちは、着替えを保護者に手伝ってもらったりと、日本人がイメージする自立とはかけ離れています。でも、自分が思っていることを相手に伝えたり、大人に意見を聞かれたときに答える能力がすごく高いんです。ヨーロッパもそうですが、日本以外の国は、保護者と子どもの距離がすごく近い印象を受けます。でも、子どもは自分の意見をしっかり言える。海外では「自分の意見をはっきり言う」ことが自立と考えられていて、日本の場合は「自分の行動範囲のことを自分でできる」ことを自立と言っているのではないかと思います。――「自立」の種類というか、受け止め方が違うのですね。多くの日本の子どもは、自分の意見を言うのが苦手です。コーチがみんなの前で「このプレーはどう思う?」と聞くと、黙って答えないといった場面も目にします。海外の子の場合は「僕はこう思う」「それは嫌だ、やりたくない」など、自己主張ができます。はたして、日本と海外のどちらが本当の自立なのだろうかと考えています。どちらもできるような選手がいたら、確実にサッカーが上達するスピードが速いと思います。■久保建英は過去のどの選手よりもピカイチだった――フロンターレジュニアに所属していた選手には、久保建英、三好康児、板倉滉、三笘薫、宮代大聖などのプロ選手がいますが、彼らのジュニア時代のエピソードはありますか?アカデミーの玉置(U‐15監督)に聞いた話ですが、久保建英選手がセレクションに来たときは、過去のどの選手と比べてもピカイチだったと。彼は自分がしたいプレーをするというよりも、試合の状況を見て、どこにボールが来そうかを予測してポジションをとり、相手ボールのときは、自陣ゴール前まで下がってボールを奪って、そこからドリブルで全員抜いていくようなプレーをしていたそうです。もちろんドリブルだけでなく、相手を引きつけて、味方にアシストをすることもあったそうです。玉置は「ピッチ上の監督のように、試合を作っていた。あの年齢でそんなことができる子は見たことがない」と言っていました。宮代大聖はトップチームの中でも、シュート技術が高い選手なのですが、ジュニア、ジュニアユースの頃からその技術はずば抜けていました。――セレクションでは、自分の得意なプレーをしてアピールすることが大切なのですね。自分の武器はこれだというものがある選手は、それを出すことが大事だと思いますし、ミスを恐れず、得意なプレーをしてほしいと思います。――サッカーはチームスポーツなので、自分がやりたいプレーだけをしていても、味方の信頼を勝ち得なかったり、ボールが回ってこないことがあります。そのバランスはどう考えていますか?セレクションの試合の合間に、その日初めて会った選手に「どこのチーム?」などと積極的に話しかけて、選手同士で人間関係ができていると、試合でその子にボールが集まりやすいことがあります。セレクションでボールが集まりやすいのは、チームの中で一番上手な選手か、オフザピッチでチームメイトとうまくコミュニケーションがとれる選手だと思います。――セレクションで、人間性の部分をチェックするところはありますか?そこはすごく見たいのですが、セレクション会場で、一人の子どもと接する時間は限られています。そのため、セレクションのときにコーチがなるべく話しかけるようにしていて、どのような受け答えをするかは気にしています。■セレクションはチャレンジの場――セレクションは緊張すると思いますが、心構えのアドバイスはありますか?緊張する子としない子がいると思いますが、子ども自身が、絶対に受かりたいから緊張するのか。もしくは保護者のプレッシャーがすごくて、受からなくてはいけないと緊張してしまうのか。そのどちらかだと思うので、後者の緊張は無くしてあげたいですね。保護者の方は「結果は考えずに、自分のプレーを出してきたら?」など、お子さんが緊張しないような言葉をかけてあげるといいのかなと思います。スクールに来るような感覚で、楽しんでいつものプレーができるような声かけをしてもらえたらと思います。――反対に、良くない保護者の関わり方はありますか?セレクションでたまに見かけるのが、試合と試合の間に保護者が自分の子どもを呼んで、指示をしたり、ダメ出しをしている姿です。子どもにとってプレッシャーになったり、過緊張になりかねないので、良くないと思います。――最後に、今後セレクションを受けに来る選手に対して、メッセージをお願いします。スカウトで小学生や中学生に声をかけると、「○年生のときに、フロンターレのセレクションに落ちたんですよ」と言われることがあります。低学年のときにセレクションに落ちたとしても、成長するにつれて「良い選手」と評価を受ける例はいくらでもあるので、早々に可能性を見極めない方がいいというのはお伝えしたいです。それと、セレクションの結果に対して、子どもより保護者が一喜一憂しないことですね。セレクションに落ちたときに、保護者がすごく悲しんで「フロンターレなんかもういいよ」など、マイナスの発言をすると、子どもは影響されサッカーに対してマイナスな気持ちが生まれてしまいます。セレクションをテストの場ととらえるのではなく、チャレンジする場という気持ちで、来ていただけるとありがたいです。<<前編:Jクラブのスカウトが見るポイントは?川崎フロンターレのアカデミースカウトが語る選手評価ポイント大田和直哉(おおたわ・なおや)神奈川県出身。少年時代には川崎フロンターレ U-15に所属。2008年から2016年まで川崎フロンターレスクール・普及コーチを務め、2009年には3種神奈川県トレセン川崎北地区コーチも兼務。2017年広州富力足球倶楽部U-10監督に就任。2018年からアカデミー部門のスカウト兼コーチを務めている。所有ライセンス:日本サッカー協会公認B級ライセンス
2020年10月26日ボールを奪いに行ったり、近くの味方が抜かれた時は相手選手を追いかけるけど、それ以外の場面で連係プレーが少ない。DFとGKが連携してプレーできるようになってほしい、プレーのイメージを共有してお互いの声かけができるようになるにはどう指導したらいい?という質問をいただきました。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、今回も具体的なトレーニングの例を挙げてアドバイスを送ります。参考にしてみてください。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<相手やボールとの距離感が理解できない小6、中学入学までに幅と深さの意識を身につけさせる練習を教えて<お父さんコーチからの質問>いつも連載を拝見しています。指導年代は小学生年代全般ですが、今シーズンは主にU-12を見ています。相談したいのは主にDFとGKの連係イメージを共有させることと、お互いの声かけ(コーチング)についてです。ボールを奪いに行ったり、近くにいた味方が抜かれたときに一生懸命相手選手を追いかけるなどのフォローはできていますが、それ以外の選手の動きが連動できていません。もっと連動して守備ができるように指導したいと思い、いくつかのパターンを用意して練習しているのですが......。最近では小学生年代でも自分たちで戦術を決めて試合に臨むチームもあるようで、私たちもそうなりたいと思っています。何より、自分たちで考えられる力をつけてほしいのです。どんな時にピンチになるか、どんな時がチャンスなのかを理解して、お互いに声をかけあって欲しいのですが、その辺の理解を促進するトレーニングがあれば教えてください。<池上さんのアドバイス>ご相談いただき、ありがとうございます。ゴールキーパーとフィールドプレーヤーとの連携を高めるには、試合やミニゲームでの攻撃の際にキーパーにビルドアップに加わるよう指示することです。■まずは連携の感覚を養うキーパーはゴールキックを蹴ることなく、なるべくサイドバックかストッパーに出すように言います。そこで相手がボールを奪いに来たら、またすぐキーパーに返せば取られません。そして、キーパーはまた、センターバックやサイドに出せばいいのです。最初はゆっくりと回すようにします。まずはそういうことをして「連携している」という感覚を養ってください。それをやってくと、次に「守る時も同じだ」ということに気づきます。誰が誰がボール保持者に最初にディフェンスに行くのか。カバーはどうするのか。だんだん見えてくるので、最後尾にいるキーパーからもコーチングの声が生まれてきます。ところが、これを守備から入ってしまうと、どうして守ることに意識が向いてしまいます。したがって、必ず攻撃から入って相手の先手を取る方法さえ知れば、スムーズにできるようになります。■トレーニングでの状況設定のしかたでは、練習はどうするか。まずは2対1の状況をつくればボールを取られないことがわかります。相手トップがボールを奪いに来ても、サイドバックがいて、センターバックもいるので取られません。例えば4バックなら、守備4人とキーパーがいて相手2人という5対2の状況設定でトレーニングをします。逆にディフェンス側から見たら、数的不利の時にどう守るかをここで練習できます。6年生くらいになるとそんな練習をしていく必要があるのですが、このようなビルドアップトレーニングを実際に行う人は少ないようです。すぐ試合をしてしまい、そこでやろうとします。ところが、試合になると相手に取られたらいけないと怖くなるので、焦ったキーパーやバック陣がすぐに前線に大きく蹴ったり、ミスをしてしまいます。ですので、同じ状況が何度も出てくるような設定をつくって、練習をさせてください。■攻撃と守備どちらが先か、ではなく両方一緒に高める練習のスタートが2対1で、それをベースに考えていけると、問題なくビルドアップできるようになります。例えば、相手ボールでスタートする。さあ、どういうふうに守りますか?次にディフェンスをしていてボールを奪ったら、攻撃に転じます。前進できるようつながないといけません。ところが、つなぎ方を知らないと、また取られる。つまり、守り方を知っていても、奪ったボールをつなぐことを知らなければ、取られ続けることになります。よくコーチ同士で「攻撃を先に覚えるのか、守備が先か」という話になります。いい攻撃をしてくれると、守る側は守備力を磨けます。守備力がアップすれば、そこをこじ開けなくてはいけないので、つなぐ力やアタックのスキルは向上します。鶏が先か卵が先かという話と似ていますが、両方を一緒に高めていくことを目指します。守備の場合、ファーストディフェンダーがまずはボールを奪いに行って、次はセカンドがいくというかたちで、全体で連動します。ところが、日本の少年サッカーの場合は、ファーストディフェンダーがボールを取りに行きません。このアプローチのところで、コーチの皆さんは「飛び込むな」と選手に言ってしまいます。でも、取りに行かないと取れません。相手は、プレッシャーを感じずに自由に何でもできてしまいます。これは、プロ選手でさえ同じ状況です。取りに出ていかないため、なかなかカバーリングを学べません。そこが大きな問題です。■相手に抜かれても追いかけてゆくように導いてあげる皆さんはドイツやスペインなど海外のサッカーをよくご覧になると思います。見ていると、プロたちが足を踏まれているシーンがよく出てきます。ボールを保持している選手が、寄ってきた相手に足を踏まれ倒れる場面があります。これが日本なら、体を寄せに行きます。子どもも同じようにやるので、体ごとぶつかってしまう場面が多くなるようです。それを考えると「相手にかわされてもいい。思い切って行け」と育成年代には言ってあげるべきだと思います。しかし、抜かれて失点して負けるのを避けるため、前述したように「飛び込むな」と命じてしまう。非常に根が深い問題です。このあたりの指導は、コーチの「生きざま」「生き方」みたいなものが現れるようです。取りに行って一度かわされると、日本の子どもは諦めてしまいます。かわされても、抜かれても、それでも追いかけてゆく気持ちが大切なのです。指導者がそこで「もう一回追いかけてごらん」と導いてあげてください。■日本の子どもは戦術理解に乏しい(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)ご相談者様が尋ねている「連携の声」は、戦術を理解することで出てきます。声ではなく、頭の問題といえます。相手が攻めてきた時に、どんなふうに守ったらいいのか。そういった戦術理解が、日本の子どもは乏しいようです。キーパーであれば、背後からディフェンダー全員を見て、相手が右から攻めてくるけれど、左のスペースはどうかな?と考えられる。つまり、ボールだけ見ていてはダメで、マークが外れそうな仲間に「そこケアしよう」「裏来るよ」などと教えてあげる。戦術眼やゲーム感を身に付けなくてはいけません。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年10月23日サッカーの上達に欠かすことのできない「サッカーノート」。有名プロ選手から子どもまで、サッカーをする人々のマストアイテムになりつつあります。サカイクでもサッカーノートを開発し、サカイクキャンプに参加している子どもたちや「サッカーノートがほしい!」というお子さんに向けて、提供を開始しました。そこで今回はサカイクサッカーノートの開発に携わった、「しつもんメンタルトレーニング」の藤代圭一さんと、サカイクキャンプでメインコーチを務める菊池健太コーチ、サカイクサッカーノートの開発責任者、竹原和雄部長による、「考える力を育むサカイク流サッカーノートの書き方」をお伝えしたいと思います。(取材・文:鈴木智之)【詳細】子どもたちが自ら進んで書き出す、これまでよりたくさん書けるようになるサカイクサッカーノート■サッカーノート=反省、では続かないサカイクサッカーノートの特徴のひとつ。それは「子どもたちが、自分から進んでやる気になる、ポジティブな質問」が、いたるところに散りばめられていることです。一般的なサッカーノートはサッカーのプレーや練習内容、その日の反省や日々のコンディションといった「サッカー面」にフォーカスしたものです。サカイクキャンプも最初はそのような内容でノートを制作していたのですが、「サッカーの話だけだと、子どもたちは正解を探して書くようになり、自由に自分の考えを書くところから離れてしまっていた」(菊池コーチ)という面もあり、改良を加えました。たとえば、1ページ目の質問は「なりたい自分に近づこう」というテーマで「どうしてサッカーをはじめましたか?」「サッカーの好きなところはどんなところですか?」「いつも応援してくれる人は誰ですか?」など、「自分を知る」ことから入っていきます。それらの質問を考えた藤代さんは、理由を次のように明かします。「サッカーノートを書く=反省するというイメージを持っている指導者や選手が多く、書くことが長続きしないケースも見てきました。サカイクさんもそうですし、僕もそうですが、サッカーノートを成長するためのツールとして、ポジティブに活用してほしかったので、最初のページに『質問の答えに正解はないから、楽しんで答えよう』というメッセージを入れました」■子ども自身が「成長したい」という気持ちになる工夫サカイクサッカーノートは「目標を達成するための、小さな一歩」を積み重ねることを大切にし、「1ヶ月後、どうなっていたら最高ですか?」「そのために、どんな工夫をしますか?」など、書いて終わりではなく、なりたい自分をイメージし、そのためにどうすればいいかという、行動に落とし込むように作られています。竹原部長は、サカイクサッカーノートの開発についての想いをこう語ります。「大人でもそうですが、真っ白いノートを渡されて『考えて書きなさい』と言われても難しいですよね。ビジネスには『フレームワーク』という言葉がありますが、子どもにもある程度、思考の枠組みを与えてあげることが大切だと思います。ただ、それは型にはめるという意味ではありません。サカイクサッカーノートは、子どもたちが自由に考えられる余白も大切にしながら、子ども自身が『成長したい!』というマインドセットになるための工夫をたくさんこらしています」竹原部長の意見を受けて、藤代さんは「サッカーノートを個人で完結させるのではなく、監督やコーチ、チームメイト、お父さん、お母さんとのコミュニケーションツールとしても使ってもらえたらいいですよね」とイメージを語ります。「サッカーノート書き終えた後に、友達同士で見せ合うと、互いに全然違う答えを書いていることがあります。そこで相手を知ることができますし、比較対象がいることで、改めて自分の考えが明確になったり、自分が大切にしていることがはっきりします。なので、ノートは一人で完結するのではなく、他者と関わり合いながら作ってほしいと思います」■キャンプで導入したら保護者にも好評実際にサカイクキャンプでは、サッカーノートを使い、一日の最後にノートを書く時間を設けています。菊池コーチは「コーチが『ノートを見ながら、グループで話し合おう』と言わなくても、自然と、子どもたち同士で『何て書いた?』とコミュニケーションが生まれています」と笑顔を見せます。サカイクキャンプが終わり、家に帰って親御さんにノートを見せながら、「1日目はこんなことがあって......」と話をするお子さんもいるとのことで、保護者からは「サッカーノートを通じて、子どもの様子が知れるので良い」と評判のようです。藤代さんは「保護者の方々は、お子さんがどんなことを考えているのか、表面的なことは知ることができても、奥底の部分を知るのは難しいもの」と言います。「子どもの様子を見て、『うちの子、やる気が見られないんです』『すぐ諦めちゃうんです』という感想を持つ親御さんがいますが、表面的に見えるものだけでは、わからないことがあります。子どもが奥底に持っている気持ちを、親御さんにも知ってほしいという願いから、子ども自身が進んでたくさん書くことができるようなノートにしました」■サッカーノートを続けさせるポイントサッカーノートを継続して書くのは大変です。一人で書くだけだと、途中で飽きて辞めてしまうかもしれません。藤代さんは「ノートに対して、好意的に関わってくれる人がいると、長続きすると思います」とアドバイスを送ります。「コーチが子どもたちに提出させて管理をするか、罰則やルールを設けないと、続かないという声も耳にしますが、指導者や保護者など、ポジティブなメッセージを送ってくれる人が周囲にいて、好意的に関わってくれる人がいると、続けやすいと思います。それがお父さん、お母さんなど、子どものことを一番に考えて、応援してくれる人であれば最高ですよね」成長への考え方を身につけて、サッカーに対して前向きに取り組むための助けとなる、サカイクサッカーノート。チーム単位で使用したり、親子間のコミュニケーションツールとして活用するなど、使い方は様々です。ぜひ、お子さんの成長に、役立てみてはいかがでしょうか?
2020年10月21日秋や冬、春先など寒さを感じる季節のサッカーには防寒ウェアが欠かせません。この記事では、防寒ウェアの1つである「ピステ」についてその概要からメリット・デメリット、選ぶ時のポイントなどについて解説します。サッカーを始めたばかりでどのような用具を買えばいいのかわからない、というお子さんやその保護者の方はぜひ参考にしてみてください。ピステとはピステとは、サッカーの練習時に着用するウェアの1つです。主に使用されるのは長袖タイプのピステで、冬場などの防寒対策として活躍しています。多少の雨や風なら寒さをしのぐことができるので、身体を冷やすことなくプレーすることができるでしょう。裏地にメッシュや起毛が使われており、保温性の高いものや薄手の生地のものなど、バリエーションも豊富です。ピステは前面にファスナーがなく頭からすっぽり被るプルオーバータイプの防寒着のことウィンドブレーカーやジャージとの違いサッカーの防寒着というとウィンドブレーカーやジャージを思い浮かべる人もいるのではないでしょうか。これらのウェアも防寒対策として活用はできますが、ピステとの大きな違いがあります。それは、ウィンドブレーカーやジャージにはチャックがついていることです。サッカーの場合、胸でボールをトラップすることもあるため、チャックがあると胸トラップの際に金具にボールが当たり痛い思いをする可能性があります。一方で、ピステはチャックがなく頭からすっぽりとかぶるタイプのウェアなので、トラップ時に痛みを感じることもありません。ピステのメリットピステを着用すると様々なメリットが得られます。ここでは、ピステのメリットについて解説します。動きやすいウィンドブレーカーやジャージの場合、チャックがついていることもあり、着用時に重たさを感じることがあります。重いと動きにくくなってしまうため、いくら防寒対策になっても練習中の着用には向いていないケースもあるでしょう。一方で、ピステであれば、チャックがなく、非常に軽いため動きにくさを感じることはありません。選手のプレーの妨げにもならない点はピステの大きなメリットです。コンパクトになる薄手の生地のピステであれば、コンパクトな状態に畳むことができます。サッカーの練習に行く場合、ボールやシューズ、飲み物など荷物が多くなりがちなので、コンパクトになるピステは非常に便利でしょう。撥水性・速乾性に優れているものもピステの素材によっては、撥水性・速乾性に優れているものもあります。そのため、多少の雨や雪の中での練習であれば、特に濡れていることを気にすることもないでしょう。また、洗濯後はすぐに乾くので、練習が続く場合や練習の翌日に試合がある場合など、2日連続での使用にも向いています。洗濯をする親にとっても重宝するはずです。デメリットメリットの多いピステですが、デメリットも少なからず存在します。それは、薄手のピステの場合、生地が破れやすいことです。例えばプレーの最中にスライディングをしたり、転んだりすると破けてしまうケースもあるので注意してください。ピステの選び方ここでは、ピステを選ぶ際のポイントについて解説します。購入時は着用時のシチュエーションを考えて選ぶのがポイントです。サイズは少しゆったりしたものピステは、基本的に中にユニフォームや練習着を着た状態で着用します。そのため、サイズは少し大きめのものを選ぶようにしましょう。ユニフォームや練習着と同じサイズを選ぶとピステ着用時にパツパツになってしまうので注意してください。安いものを購入するのも◎デメリットとして紹介したように、ピステは破れやすいという特徴を持ちます。高価なものを買ってすぐに破けてしまう、となると後悔するかもしれません。そのため、破けて買い換えることを想定して、安いものを購入するのも1つの選択肢となります。まとめ今回は、ピステの概要とメリット・デメリット、さらには選び方などについて解説しました。寒い季節の練習には防寒対策が欠かせません。チャックがなくトラップ時に痛みを感じず、動きやすいピステは練習時におすすめです。バリエーションも豊富なので、お子さんに合ったピステもきっと見つかるでしょう。
2020年10月20日サカイクには、読者のみなさんからの声がたくさんの寄せられます。その中で多かったのが「Jクラブのセレクションについて知りたい!」というもの。いろんなチームでセレクションやスカウト活動がありますが、実際Jリーグの育成組織ではどんなポイントに注目しているのか気になる方は多いようです。そこで今回は川崎フロンターレのアカデミースカウト担当の大田和直哉さんに協力していただき、フロンターレのセレクション事情について伺いました。前編では、コロナの影響で始まった、オンラインスカウト『F活』や、セレクションでの評価ポイントなどをお伝えします。(取材・文:鈴木智之)日本独自の制度「トレセン」の意義とは(写真は少年サッカーのイメージ)■リモートスカウト活動「F活」とは――大田和さんの肩書は「アカデミー スカウト担当」とありますが、普段はどのような活動をしているのでしょうか?川崎フロンターレアカデミーのスカウト担当として、Jrユースに入る選手、ユースに入る選手に対するスカウト活動をしています。小学6年生と中学3年生をターゲットとしていますが、小学生は2年生から、中学生は1年生の大会から視察に行っています。クラブには、アカデミー担当のスカウトが私ひとりしかいないので、コロナの前は、土日は一日3、4会場回って、試合を見ていました。――コロナで選手を見る機会が減ってきていることもあり、『F活』というリモートスカウト活動を始めたそうですね。はい。今年の6月末から、『F活』というリモートスカウトをしています。企画当初、8月末までは小学5年生を対象にしていたのですが、9月中旬から小学4年生、5年生に広げています。内容としては、最大5分の自己紹介を含めた、自由な動画と、編集していない試合の動画を送ってもらっています。――『F活』で対象としているのは、現小学4、5年生なので、2022年にJrユースに入る選手ですね。はい。2021年に入学する選手(現小学校6年生)のスカウトとセレクションは、9月に実施しましたので、その次の学年の選手を対象にしています。――『F活』の応募条件に「エリートクラスに通うことができる範囲に住んでいること」とありますが、遠方から通っている子は、どのあたりから来ているのでしょうか?クラブとして1番は川崎市の選手がたくさん来てくれる事を願っていますが、実際には神奈川県内各地や東京の多摩川沿いの地域の選手も多く在籍していて、アカデミーの選手では千葉や埼玉から通っている子もいます。川崎は交通の便が良いので、遠方からも通いやすいと思います。――フロンターレのトップチームは、2017、18シーズンを連覇していますし、アカデミーからトップに昇格して活躍する選手も増えてきているので、子どもたちからの反応も良いのではないですか?トップチームは素晴らしいサッカーをしていて、スカウト活動に行くと、たくさんの指導者様にそう言ってもらえます。ですが、アカデミー組織を見ると、FC東京さんや(横浜F・)マリノスさんは、ユース年代でプレミアリーグに所属しています。我々はひとつ下のプリンスリーグなので、追いつき、追い越せを目標に活動しています。――フロンターレジュニアには、U-10とU-12のカテゴリーがあります。U-10に入るのにも、セレクションがありますよね。はい。U-10は小学4年生を中心に、3年生も数名いるので、セレクション自体はU-8、U-9の子が受けるもので、毎年9月中旬に行われます。6年生が受ける、Jrユース(U-13)のセレクションは、夏休み明けの9月初旬から始まります。セレクションは1次、2次とあり、それ以降は3次や練習参加といった形になります。――何人ぐらい受けに来るのですが?U-10の場合、今年は2日間、3部に分けて行ったのですが、1回60人なので、全部で180人ほどになります。その中で合格するのは、学年によって違うのですが、1学年10人程度で運営しているので、3年生の場合、現U-10カテゴリーに3年生が4人いるので、セレクションで合格する子は4~6名程になります。■U-10とU-12では評価ポイントが変わる!?――セレクションでは、どのようなことをするのですか?走力テスト(30m走)をして、一次セレクションはミニゲーム。二次セレクションから8人制に近づいていきます。一次セレクションは参加者が多いので、見逃しがないように、アカデミースタッフだけではなく、スクールコーチの力を借り多くのスタッフでチェックをしています。――評価ポイントはどこでしょうか?U-10に関しては、抽象的になってしまうのですが「何かを持っている選手」です。それが技術、スピード、身体的な特徴、声を出して指示が出せる(リーダーシップ)など、こうでなければいけないと型にはめるのではなく、その選手を見ていて「この部分がいいな」と感じるものがあるかどうかですね。――U-12になると、評価のポイントが変わってくるのですか?フロンターレではジュニアやエリートクラスなどの内部選手を1番に考えているので、Jrユースに向けて、足りないポジション、強化したいポジションの選手を選ぶこともあります。また、Jrユースは11人制になるので、身体能力の高さなどもチェックしています。――U-12は何人所属しているのですか?今年の6年生は16人います。その中からU-13に上がるのは16人中10人、昨年は13人中12人、上がりました。この数字からもジュニアで預かった選手を大事に育成し、上のカテゴリーにつなげる指導が出来ていると思っています。エリートクラスにも選手がたくさんいるので、そこからU-13に入る子もいますし、スカウトで入る子もいます。――12歳の時点で、将来を見極めるのは非常に難しいですよね。うちのクラブでJrユースに上がれなかった子が、別のJクラブに行って、1学年上のカテゴリーで試合に出て、活躍したケースもあります。Jrユースからユースに上がれなかったけど、高校サッカー選手権で活躍した、浅倉廉(静岡学園→拓殖大学)のような選手もいます。横浜FCさんでプロになった安永玲央は、フロンターレのJrユースからユースに上がれず、横浜FCユースに入ってプロになりました。セレクションでは全てを見ることが出来ないので非常に難しい決断をしなくてはいけません。先に述べたように選手の成長時期は人それぞれで、セレクションで合格しなかったり昇格できなかった選手が活躍している例もたくさんあります。「セレクションに落ちた=サッカー選手になれない」と思うような認識にならないで欲しいです。■昇格できなかった子たちの「その後」も追っている――ジュニアからJrユース、Jrユースからユースと、上のカテゴリーに昇格できなかった選手を継続してチェックしているのですか?はい。チェックしています。これまではいませんが、ジュニアからJrユースに昇格できなかった選手が他のクラブに行って、ユースに上がるときに戻ってくるケースも考えられます。ただし、Jクラブに行きたい子が多いので、別のJクラブのJrユースに入ると、そこからうちのユースに戻ってくるのは現実的ではないのですが......。最近はジュニアからJrユースに上がれなかった子に、近隣の街クラブを紹介して、そこで成長して、ユースの段階でフロンターレに戻ってくればいいなという考えも持っています。エリートクラスに入っている子でも、Jrユースに入れない場合もあるので、進路先をサポートしてあげて、Jrユースは街クラブでプレーして、ユースからうちに来るという流れも少しずつでき始めています。――リソース的にすべてを自分のクラブで賄うのではなく、近隣に良い育成をするクラブがあれば、そこと協力しながら選手を育てるのは、理にかなっていますね。中学生年代で試合に出ることはすごく大切です。親御さんが、お子さんをJクラブに入れたい気持ちもわかりますが、僕としては、その子がチームの中心としてプレーできる環境にいた方が、今後の成長につながると思っているので、クラブとしてもそのような取り組みをしていますし、より多くの選手を育成できる方法を検討しております。大田和直哉(おおたわ・なおや)神奈川県出身。少年時代には川崎フロンターレ U-15に所属。2008年から2016年まで川崎フロンターレスクール・普及コーチを務め、2009年には3種神奈川県トレセン川崎北地区コーチも兼務。2017年広州富力足球倶楽部U-10監督に就任。2018年からアカデミー部門のスカウト兼コーチを務めている。所有ライセンス:日本サッカー協会公認B級ライセンス
2020年10月19日努力しろ、朝練しろ、やる気が見えないと言い、休日は朝から息子を公園に連れていき、いろんなメディアで集めたトレーニングを実践するスパルタで過干渉な妻を変えたい。というお父さんからのご相談をいただきました。うまくはないけど楽しくサッカーをしていたのに、母親のダメだしと強制練習でサッカーが嫌いになってしまうことが心配だと言っても「子どものためなの!あなたは甘い」と言われ話し合いができなくて......とお悩みをいただきました。今回のご相談に、スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんは、ご自身も同じような体験があると言います。かつての体験と取材で得た知見をもとにアドバイスを授けますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<サッカーチームでいじめ?親はどう振舞えばいいのか問題<サッカーパパからのご相談>このコーナーは母親からの相談が多いようなのですが、妻の過干渉などについて相談させてください。9歳の息子がサッカーをしています。監督からチームの方針などは事あるごとに言われているので、試合や、練習中は指示や大声を出すことはないのですが、帰ってからはダメだしばかりです。努力しろ、朝練しろ、やる気が見えないと言い、休日は朝から息子を公園に連れていき、サカイクをはじめとしたいろんなメディアで集めたトレーニングを実践しています。私の方は、プロになってほしいわけでもないですし、まだ3年生なのでコーチの言う事に耳を傾けたりチームメイトと仲良く協力できればいいのでは、と思っています。何より妻のスパルタで子どもがサッカーだけでなくスポーツを嫌いになってしまう方が嫌です。なので「子どものスポーツに熱くなりすぎだよ」と言うのですが、「息子のためを思ってやっているの。何が悪い。あなたの考えが甘い」と話を聞いてくれません。息子はレギュラーではなくチームの中では平均的か少し下手なぐらいです。それでも試合は楽しそうにしていたのですが、最近は妻のダメ出しと強制自主練でやる気が無くなってきているように思います。私自身は楽しんでいてくれればいいよ、と伝えているのですが、子どもにとって母の影響は大きいもので、このままサッカーが嫌いにならないか心配です。親の過干渉が子どもにとって良いことはないと思います。家庭で解決する問題なのかもしれませんが、先輩ママとして島沢さんのアドバイスをいただけませんでしょうか。<島沢さんのアドバイス>わわわ!デジャブかと思いました。奥様、十数年前の私とよく似ています。この度はご相談をいただきありがとうございます。私も息子が小学3年生くらいまで、試合中はぎゃんぎゃん叫んでいました。ただ、私はビデオでダメ出しをしたり、自主練させたりはしませんでした。それは、仕事で忙しく、息子のサッカーに分配するエネルギーが残っていなかったためで、余裕があればやってしまったかもしれません。ただし、そんなふうに「ダメなヤツ」だったので、奥様含めた多くのママやパパがついつい熱血になってしまう感覚や理由が理解できます。■息子がより幸せな人生を送れる基盤を作ろう、と夫婦で同志感覚を持つ立派な指導者の方々は、なぜあんなに熱くなるのかわかりませんねえと「僕らは君らとは違う感」を醸し出すのですが、私は心の片隅でホントかいなと疑っています。何の後悔も失敗もせず、最初からとても良くできた親など、ほとんどいません。特に、圧迫して子どもを奮起させる教育観が強い日本では、親たちもそうやって育てられています。よく言われることですが「育てられたように育ててしまう」のはある意味当然なのです。私は自分のライターという仕事のなかで、さまざまな子育ての専門家に出逢い、その方々の知見とエキスを呑んで、自分の子育てをある程度変えることができました。しかしながら、それと同様、あなたに奥様の子育てを変えるエキスになれとは言いません。ここで大事なのは「一緒に子育てを勉強して、少しでもいい親になろうね」という"同志感覚"です。われらの息子をよりよく、より幸せな人生が送れる基盤を作ろうぜ――そんなふうに奥様に寄り添う姿勢と心構えをまずはをつくってください。■考えが甘いのは過干渉しているほう。子どもの成長を阻害している以下、具体的なアドバイスを五つ贈ります。①子育てに関する本を読んで勉強するネットで「サッカー子育て本」と検索してみてください。書籍名でトップにあがるのは『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』と『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』です。これらは、今や「少年サッカーの神様」と言われる池上正コーチの書籍で、私が一緒に作った本です。少年サッカー親の子育てバイブルと言われているものなので、ぜひ参考にしてください。ほかに、脳科学者の林成之先生が著した『<勝負脳>の鍛え方』(講談社)という新書もお勧めです。子どもの発達が理解できます。②自分の自信を作るあなたが「妻のスパルタで子どもがサッカーだけでなくスポーツを嫌いになってしまう方が嫌」で、「子どものスポーツに熱くなりすぎだよ」とアドバイスすることはまったくもって正しい。正しいけれど、今のところ「息子のためを思ってやっている。あなたの考えが甘い」と一蹴されています(サッカーだけに。いや失礼!)。ところが、考えが甘いのは、実は妻のほうです。なぜなら、言うことを聞かせ、無理やりでも自主練をやらせていることは、こうしなさい、ああしなさいと働きかけているので、子どもは自分で「上手くなるにはどうしたらいいんだろう?」と考えることもしなくていいし、楽です。お母さんの言うとおりにして、それでも上手くならなかったら、思春期になって「お母さんのメニューが悪かった!ちっともうまくならないじゃないか!」と怒ってちゃぶ台をひっくり返したり、家庭内暴力に出ます。楽をした(させられた)分、こころ(脳)が成長していないので、自分で段取りして前進しなくてはいけない年齢になると、一気に成長が止まってしまうのです。一方で、わが子に主体性を持たせるような子育てをしている家庭の子どものほうが、中学、高校でスポーツも勉強も大きく伸びます。「もっと上手くなりたいなら自分で考えてごらんよ。ただ、ママもパパも楽しくサッカーしてくれればそれでいいけどね」子どもと距離を置き、その子に対し主体性を求める。それこそが、本当の厳しさです。そんなことに比類する事柄とその根拠が、ご紹介した本にたくさん書かれています。それを読んで、あなたのほうが自信をもってお母さんと向き合える態勢を整えてください。■過干渉な親は賢い人が多い。だからこそできる解決法③自分と向き合う本にこうこう書いてあるんだよと伝えるのが目的ではありません。まずは、ご自分に自信を持ってほしいと思います。なぜなら、ご相談の文章を読むと、あなたは息子さんのために何をすべきかをすでに理解しているし、行動も起こしています。全面的に正しい(拍手です)。しかしながら現時点では「妻のダメ出しと強制自主練でやる気が無くなってきている」状態で、このままサッカーが嫌いにならないかと心配しつつも、話が通じない妻に対しお手上げ状態。いつ順番が回ってくるかわからないこの相談コーナーにメールを書かれるのですから、メール文以上に深刻な状況と察しています。問題を解決するためには、まず、妻ではなく、あなたが自分と向き合い、変わることです。お父さんは、きっととてもやさしい方だと思います。そのやさしい性格のまま、一日も早く自信をつけてお母さんと話し合って下さい。④どんな子育てがいいかを話し合ういきなり過干渉はやめろと切り出すのではなく「最近、やる気失ってるみたいだよね。ちょっと話し合わない?」と二人でテーブルにつきましょう。ケーキとかお茶を用意して、世間話のように。最初に、妻の奮闘をねぎらってあげてください。子育てよく頑張ってるよね、と。子に過干渉な親は総じてエネルギーがあり、賢い方が多いようです。できる人だから、サッカーの練習方法など情報を集められるわけです。でも、ママ、どうもちょっと違うようだ。僕と一緒に、サッカー少年の子育てを勉強しようよ。少し違う頑張り方をしないか?と提案してみましょう。■相手を許しながら、少しずつ変えること(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)⑤干渉することをひとつずつ減らす・自主練は、息子さんから誘ってこなければやらない。・試合後のダメ出しはやめる。ひとつずつ、なくしましょう。「いや、ママ、上手くなってほしいという気持ちはわかるけれど、そこは譲れない。わが家では、こういう子育てにしようって話し合ったよね」奥様を許しながら、変えていく。そんなイメージです。お父さん、落ち込むことは何もありません。妻の過熱癖に早く気付いてよかったのです。たかが子どものサッカー。そこを忘れてほしくないので、文中に寒いシャレなど挟んでみました。ピンチのときは、大人も子どもも成長する時間です。ここを切り抜ければ、とても素敵な家族になれると思います。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年10月14日サッカーをする子どもたちや保護者にとって、興味の対象である「トレセン」について、日本サッカー協会(JFA)ユース育成ダイレクターの池内豊さんに話をうがかいました。インタビュー後編では、トレセンの意義やオフ・ザ・ピッチでの取り組みなどをお伝えします。(取材・文:鈴木智之)日本独自の制度「トレセン」の意義とは(写真は少年サッカーのイメージ)<<前編:トレセンは日本代表への切符?どんなスキルを重視しているの?日本サッカー協会に聞いた最新トレセン事情■トレセンは日本独自の活動なぜ海外にはトレセンがないのか池内さんはトレセンの意義について、まずはこう話します。「トレセン活動の意義として、拮抗したレベルで練習や試合ができることがあります。子どもたちに『お山の大将』で満足しないように刺激を与え、勝ちか負けかどちらに転ぶかわからない相手と試合をする中で、『どうすれば、相手を上回ることができるか?』を考えるようになります。その環境を用意するのが、トレセン活動の意義のひとつです」上達のためには、レベルの拮抗した相手と試合やトレーニングをすることが必要です。その環境があれば、子どもたちは自ら考え、成長するための努力に視線を向けていきます。「ヨーロッパには、シーズンを通したリーグ戦があり1部、2部、3部とカテゴリーに分かれていることで選手のレベルに応じたリーグに参加できる環境が整っています。そして、一番上のカテゴリーである1部のクラブに、質の高い選手がいます。日本も育成年代にリーグ戦を導入し始めましたが、クラブのカテゴリー分けも含めて、整備している途中です。そのため、色々なチームに良い選手がいます。そこでトレセンを活用し、選手の発掘や刺激を与える場としています」池内さんは「ドイツには、日本のトレセンを参考にした活動がありますが、それ以外の国には存在しないと思います」と話し、その理由を「育成はクラブでするものという考えがあるからではないでしょうか」と言います。日本のジュニア年代では、リーグ戦を最優先ととらえないクラブも多く、ヨーロッパのように、リーグ戦を中心シーズンが進んでいく文化が浸透していないのが現状です。シーズンを通して、レベルが拮抗した相手との試合ができれば、一番の強化になるのですが、トーナメント形式をベースとした大会が多く、リーグ戦がカレンダーの中心になっていない以上、トレセンという日本独自の活動が広まってきたことも合点がいきます。■トレセンで実力を存分に発揮するための準備日本サッカー協会としても、トレセンをさらに有効活用できるように、リーグ戦の導入と平行して、トレセンの整備にも取り組んでいるようです。「これまで、トレセンの指導はボランティアの方々に支えられてきました。その環境を少しでも良くするために、47FA(都道府県サッカー協会)に技術の専任者を置いて、地域のトレセンのリーダーになってほしいと思っています。そこにJFAが補助金を出す形で進めていて、47FAのうち20ほどの地域で実施しています」静岡県では、すでにその制度が導入されていて、JFAのサポートを受けた専任者が指導しています。池内さんは「指導の質が上がり、選手のレベルも上がってきました。その成果が、(2019年の)国体(U‐16)での優勝にもつながっていると思います」と手応えを口にします。トレセンやセレクションなどの「選ばれる舞台」でプレーするのは緊張するもの。なかでも、経験の少ない子どもたちは、緊張して普段の力が出せないといったこともあるでしょう。そんな子どもたちに対し、池内さんは「前日や当日に何かをしたとしても、大きく変わることはありません。だからこそ、そこまでに何ができたか、いい準備ができたかが大切になります」とエールを送ります。「トレセンやセレクションで力が発揮できなかった、メンバーに入れなかったとしても『自分はこれだけやってきたのだから、後悔はない』という心理状態になれるかどうかです。プレー会場で不安を感じるのは、やり残したことがあるということ。次はそうならないように、頑張るしかありません。12歳のときにトレセンに選ばれなくても、コツコツやってきた子が追い越していく例は、たくさんあります。次のチャンスは絶対にあるし、それが報われる環境が日本サッカーにはあります」■サッカーがうまくなるために必要なことは日常生活にも関わっているトレセンではオン・ザ・ピッチのプレーに加えて、日常生活での取り組みや姿勢も大切にしているそうです。JFAのトレセン活動では、「トレセンの選手として」と題し、生活習慣の5か条を制定しています。それが、次の5つです。1:自分の物の管理に責任を持とう2:ルールを守ろう3:あいさつをしよう4:サッカー選手として、何をすべきかをいつも考えよう5:何事も積極的に!前向きに!池内さんは「自分で判断して実行することなど、サッカーがうまくなるためにすることは、実際の生活にも関わってきます」と言います。「ただし、大人が『あいさつしろ』『片付けしろ』『準備しろ』と言って、子ども自身に理解させず、形だけやらせても意味がありません。指導者に言われたから、チームのルールだからカバンをきれいに並べるのではなく、なぜカバンを並べたほうがいいのかを考え、そのために行動することが大切なのです。それができたら、ピッチの中で自分で判断して、実行したことが力になり、サッカー自体も伸びていくと思います」ピッチ内外で自分で判断し、行動すること。レベルの高い仲間と切磋琢磨すること。そのような日々の積み重ねこそが、サッカー選手としての成長につながります。トレセンはその一助になりますが、12歳の時点で選ばれなかったといって、悲観する必要はありません。子どもも保護者もそれを念頭に入れて、一喜一憂せず、自らの課題に向き合って、地道にトレーニングしていくことこそが、成長のためにもっとも大切なことではないでしょうか。池内豊(いけうち・ゆたか)現役時代はフジタ工業クラブサッカー部などに所属、1981年には日本サッカーリーグ1部で新人王を獲得。日本代表としてワールドカップ予選にも出場。引退後は名古屋グランパスエイトユースで指導者の道に進む。2007年にU-15日本代表監督に就任、2009年のFIFA U-17ワールドカップでも指揮を執った。現在はJFAユース育成ダイレクターを務める。
2020年10月12日まだまだポジショニングの理解が浅く、相手選手やゴールとの距離感が上手くつかめていない小6の子どもたち。「幅と深さ」の意識が足りないという事だが、どう身につけさせたらいいのか。というご相談をいただきました。みなさんはどのように指導していますか?これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、幅と深さを理解するのにお勧めメニューをご紹介しますので参考にしてみてください。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<U‐10年代の運動能力を高めたい。サッカーの時間にできるお勧めメニューを教えて<お父さんコーチからの質問>こんにちは。学校のチームで6年生を見ることになったのですが、どのように教えてよいのか悩んでいます。年齢的にももう団子サッカーではないですが、まだまだポジショニングというか、相手選手やゴールとの距離感が上手くつかめていない子がいます。幅と深さの意識が足りない、という事だと思いますが、練習でどのように教えれば理解しやすいのか、どんな練習方法が良いのか、という部分で悩んでいます。子どもたちはみんな同じ学校に通っていて、小1から一緒にサッカーを始めたメンバーなので気心も知れているし、お互い言いたいことを言える関係性なので、サッカーの理解度が深まればプレーの質もお互いのコーチングなどの質も上がるのではないかと思っています。中学以降もサッカー部に入る子が多いので、今のうちに意識させた方が良いだろうと思っているのですが、何かいい指導方法はありますか?<池上さんのアドバイス>ご相談いただき、ありがとうございます。距離感、サッカーで言うところの「幅と深さ」を理解する、させるメニューや明確な指導法が、日本ではあまり浸透していないようです。■幅と深さを理解する三つのステップ幅と深さを理解するには三つのステップがあります。横に広がると何が得か。深さがあると、どんなことが起きるのか。まずはここを子どもたちに説明してください。例えば、狭いエリアでボールをもらうと、相手のディフェンダーとも味方とも距離が近くなる。相手からすぐにプレッシャーを受けてしまって、逃げられない。要するに、ボールマンがプレーすりエリアが狭くなるわけです。混雑していて、相手ディフェンダーが塊になっているような状態なので、ドリブルやパスですり抜けられません。一方で、味方同士が広がっていれば、一人ひとりのプレーエリアが広いため、相手ディフェンダーがボールを取りに来ても交わしやすい(逃げやすい)。ボールを取られずにすむ。相手のディフェンダー同士の間隔が空いてくるので、間にパスを通しやすいし、ドリブル突破もやりやすくなりますね。それが「横」の説明です。この論理は、「縦」についても同じです。前に走ってボールを受ける。つまり、深くプレーすれば、ゴールに近くなります。ゴールに近いところにボールが入ったとしたら、そこにカバーリングにいける選手は少ないはずです。ディフェンダーと1対1の場面になりやすい。そうすると、チャンスになります。そして、これが、守備側の視点から教えるとすれば「ピンチになるよね」ということです。これをホワイトボードを使ったりして、まずは口頭で説明してください。■どうすれば幅が取れるか、プレーを止めて考えさせる二つ目は、ミニゲームです。説明を聞いて意識してプレーしようとしても、最初は狭くなりがちです。そういうときは、一度フリーズさせます。「はい、動かないで。そこにいて」と一度止めるのです。「今の状況を見てごらん。どうなってますか?」そんなふうに、問いかけます。選手たちが状況を理解しやすい場面でストップしているので、狭くなってプレーしづらい状態であることが可視化できます。実際、横に広がれず(幅を使えず)、真ん中に固まることが非常に多いです。「ほら、見てごらん?どうしたいいかな?」そこで選手と話し合います。「もっと、ぼくがタッチラインのほうに寄ったほうがいい」など、意見が出てきます。「じゃあ、何を考えると広がれるかな?」そのようなやりとりをしながら、時間をかけて伝えましょう。自分たちで気づいて、解決する時間を確保してあげることが重要です。私のこれまでの経験から言っても、6年生は相当時間がかかるでしょう。広がって、ボールもらうときに「次は何を考えるか。どう動くか」といったことがなかなか理解できません。狭い状況でも、自分ひとりでドリブルしてしまう場面が多いです。そうではなく、みんなが幅と深さを理解して、いいタイミングで動き出せば、ボールがサイドに渡って、一度真ん中のポストマンに当てて、ワンツーでもらったサイドの子が折り返す。ゴール前にポストマンや二線目から走り込んだ選手がゴールする。そんなイメージが持てるようにしたいものです。昔風にいえば「パターン練習」というのがあります。サイドに振って中に当て、逆サイドにまた振って折り返してゴールする。そんな練習です。それをすると、ひとつのパターンにとらわれてしまいます。それよりも、原理原則を伝えてください。広がると、こういうことが起きるでしょ?真ん中は、サイドに広がっているからこそ使える。そんな柔軟な理解です。これを理解すれば、真ん中に入れると見せかけて、サイド使うといった相手を欺くプレーができるようになります。■幅と深さを覚えるためにオランダが行うのは「5対2」三つめのステップは、幅と深さを覚える練習です。ひとりのプレーヤーが使うエリアを広くする。相手が寄ってきて狭くなったら、逆サイドにふる。そんな原理原則を学ぶために、オランダでは「5対2」を行います。その際、横長の長方形のグリッドを使います。正方形が二つ横に並ぶ感覚です。そこで、半分の正方形のなかで4対2をする、ひとりは逆の正方形で離れてポジションを取る。そんなイメージです。例えば、ゴールに向かって左側の正方形のなかで4対2を始めます。左の端のほうに寄せるイメージです。そこから、スペースを広げておいた右にパスをする。右の選手がドリブルでゴールに向かっていけば、守備の2人のうちひとりが寄ってきます。その状態で4対1の数的優位になっているわけです。ところが、6年生くらいになると反対に出せばいいと思うので、最初はすぐに逆サイドに蹴ったりします。2人も中間守備のままで、サイドから逆サイドへ渡るだけになりがちです。その場合はストップして、ゴールへ向かうなどして、相手守備をどちらかに引き寄せるのが重要だと伝えます。相手をしっかり引き付けてから逆に出す。その感覚を覚えてもらいます。そうすると、幅と深さが身につきます。■スルーパスとサイドチェンジの両方を学べる練習(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)オランダのこの練習が面白いのは、例えば左に引き寄せて守備2人がくると、その間を通して逆サイドに出せばスルーパスのイメージになります。一方、2人を引き寄せ、その外側から逆サイドにパスをすれば、それはサイドチェンジのイメージになります。オランダサッカー協会は、このトレーニングで、スルーパスとサイドチェンジの両方を学べると考えています。オランダでは1970年代から行われていた練習なのですが、低学年からそれをやっています。17歳以下のカテゴリーになると、前出の5対2をダイレクトパスでやらせます。私はこのトレーニングを、YMCA時代に6年生にやらせていました。そうすると、簡単に相手のプレッシャーを抜けられます。そうやって幅と深さを理解した子どもたちは、YMCAの全国大会でチーム全員が出場して優勝しました。最近スタートさせたアカデミーでも、小学3年生くらいからこの練習をやろうと思っています。また、拙書『サッカーで子どもの力をひきだすオトナのおきて10(DVD付き)】』で、最後の「サッカークリニック」の章で、これの参考になりそうなメニューの説明をしています。DVDでは、それらのメニューを私が実際に指導しています。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年10月09日サッカーをしている子どもたち、高学年になると「トレセン」の存在を知りますよね。チーム内で上手いと思っていた上級生がトレセンに呼ばれて行ってきた、というのを間近で見ることも増えます。プロになった選手たちも少年時代からトレセンに参加している経験を持つ選手も多く、上手くなりたい子どもたち、さらには保護者にとって「トレセンに選ばれるかどうか」は重大な関心事です。そこでサカイクでは、日本サッカー協会(JFA)のユース育成ダイレクターの池内豊さんに、トレセンの目的や選ばれる選手の特徴などをうかがいました。(取材・文:鈴木智之)トレセンでは何を見ているのか日本サッカー協会に聞きました(写真は少年サッカーのイメージ)■トレセンの目的はタイムリーに刺激を与えることトレセンとは、クラブを主とした選手育成と平行して、日本サッカー協会や都道府県協会、地区協会などが選手を選抜し、「個の育成」を目的に行う活動のことを言います。トレセンには、下から地区トレセン、47都道府県トレセン、9地域トレセン、ナショナルトレセンというカテゴリーがあり、U‐12年代から活動しています。トレセンの意義や目的について、池内氏は次のように言います。「トレセン活動自体は、30年以上前から始まっていて、12歳頃から選手をセレクトして、上を目指している子たちに、タイムリーに刺激を与えることを目的としています。(トレセン活動の最上位カテゴリーである)ナショナルトレセンでは、サッカーについての考え方などを、ナショナルトレセンコーチが選手たちにしっかりと伝え、最終的にはA代表につなげていきたいと思っています」トレセン活動の手応えについては「各地域から幅広く選手を見ることができるのは、ひとつの成果だと思います」と話します。「U‐12のナショナルトレセンから、U‐13/U‐14のエリートプログラムへの橋渡しができるようになり、エリートプログラムから、U‐15代表につながる選手が非常に多くなってきました。選手発掘の流れができてきたのは成果だと思います」■トレセンは将来を保証するものではない一方で、課題も感じているようです。それは、U‐15代表を経験した選手から、A代表へと上り詰める選手があまり見られないこと。「U‐12からU‐15までのつながりはできてきましたが、そこから上(A代表)への流れはまだまだです。私も監督をしていましたが、U‐17代表からA代表に進む選手は10%程度しかありません」これは言い換えると、12歳、15歳、17歳の時点で高い評価を受けていたとしても、将来どうなるかはわからないということです。池内氏もそこは認めていて、「U‐12のトレセンであれば、12歳の時点で良い子に刺激を与える場がトレセンであって、選ばれたからといって、将来につながる保証はどこにもありません。それは毎回のトレーニングで伝えるようにしています」と話します。「トレセンに選ばれたことで、選手や保護者が天狗になってしまうのは、我々が一番危惧することです。トレセンに選ばれなくても、悔しさをバネに頑張れば、絶対に次につながります」■「テクニック」とは判断力を伴うもの池内氏自身も、高校時代、自分以外のチームメイトのほとんどが国体メンバーに選ばれる中、選抜から漏れたことがありました。その悔しさをバネに「普段の3倍練習した」ことで、国体選抜を飛び越えて、年代別の日本代表に入った経験があるそうです。とくに12歳前後の年代は、成長による個人差が大きい時期です。身体の大きさ、パワー、スピードといった部分では、成長速度や生まれ月による影響など、様々なことが関係してきます。「私自身、育成年代に何十年と携わっていますが、子どもの頃は成長に個人差があるので、見極めが難しいです。12歳の時点では、プラスマイナス5歳ほど、成長に個人差があると言われています。指導者はそれを頭に入れて、評価することが大切だと思います」サッカーには、身体の大きさや成長スピードに関わらず、高めることができるものがあります。それがテクニック(技術)です。池内氏は「成長の個人差に関わらず、テクニックを身につけることは必要です。そこに早熟、晩熟は関係ありません」と、言葉に力を込めます。「テクニックとは、技術に加えて判断を伴うものです。状況を観て、判断して、一番良いと思うプレーを選択し、そのための技術を発揮する。そのすべてを『テクニック』という言葉に込めています。ボールを止めて、蹴る動作の質を高めるのは当然のことで、サッカーは動きながら、ゴールに向かいながら、どういうテクニックを発揮することができるかが大切になります。ぜひ、動きながらのテクニックを身につけてほしいと思います」サッカーの試合中、ボールに触っている時間はほんのわずかです。テクニックに加えて「オフ・ザ・ボールの動き」も同時に身につけていくことで、試合の中で消えることなく、攻守に関わることができるようになります。「テクニックの他に大切なのは、ボールを持っていない場面(オフ・ザ・ボール)での動きの質を上げることです。具体的には、ボールに近い所での攻守に渡るサポートです。攻撃ではボールを失わないためのサポートや、相手の守備を突破するためのサポート。守備では味方が抜かれた時のサポート、ボールを奪うためのサポート。ボールから遠いところでも、ポジションをしっかりととることを含めて、ボール周辺のオフ・ザ・ボールの動きは身につけてほしいと思います」■相手との駆け引きや判断を伴う中でのシュート練習をそして何より、「シュートのテクニック」を高めることにも、目を向けてほしいそうです。「サッカーの目的はゴールを決めることなので、子どもたち全般に言えることですが、シュートのテクニックはもっと練習してほしいですね。どこにボールを蹴るかというコントロールもそうですし、相手との駆け引きや判断を伴う中でのシュートは、もっとトレーニングした方がいいと思います」技術だけでなく、判断をともなう「テクニック」を身につけること。それが将来、良い選手になるために必要なことと言えるでしょう。トレセンでは、レベルの高い仲間と切磋琢磨することで、より精度の高いプレーをするためにはどうすればいいかを考えたり、コーチのアドバイスから刺激を受けられる場になっているようです。後編では、トレセンに向けた準備やリーグ戦の意義などについて、話は進んでいきます。池内豊(いけうち・ゆたか)現役時代はフジタ工業クラブサッカー部などに所属、1981年には日本サッカーリーグ1部で新人王を獲得。日本代表としてワールドカップにも出場。引退後は名古屋グランパスエイトユースで指導者の道に進む。2007年にU-15日本代表監督に就任、2009年のFIFA U-17ワールドカップでも指揮を執った。現在はJFAユース育成ダイレクターを務める。
2020年10月08日優しいけど自己主張が上手くない小6の息子がチームメイトから意地悪を受けている。今のところイジメとまでは判断できないので、わが子にも「やり返せ」しか言えない。チームではサッカーが上手い子や、技術はそこそこでも口が達者な子が幅を利かせている。大人しく優しい子でもチームで評価され上手くなれればいいけど、放任主義のコーチたちには期待できない。親としてうまく立ち回ればいいけど、いい方法が思いつかない。どうすればいい?というご相談をいただきました。少年サッカーの保護者の悩みとして、いじめ問題を抱える親御さんもいらっしゃると思います。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとにアドバイスを授けますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<食トレだと無理やり食べさせられ胃潰瘍に。安全無視のクラブをやめたい問題<サッカーママからのご相談>子どもの人間関係に関しての悩みです。小学校6年生の息子が隣町のサッカー少年団に所属しています。息子の立場は、Aチーム(一軍)の控えといったところです。移籍したこともあり、学年内に同じ小学校の子はいません。優しい性格ですが自己主張やコミュニケーションが苦手な息子は、学年が上がるに連れて仲間から意地悪を受けることが増えました。悪質なイジメとまでは行かないので、親としてもその子たちに苦情を言うことができないし、コーチに相談するのも気が引けます。ですが息子も言われたことを気にしている時もあり、親としてもどかしいです。現段階ではイジメにつながらないことを祈ることしかできません。どこのチームでも同じだとは思いますが、サッカーが上手い子や、上手くなくても自己主張が強く口が達者な子が、幅を利かせると思います。中学以降は学区も違うしその子たちと同じチームになることはないので、最後まで続けさせようかと思っていますが、状況がひどくなるなら途中でも辞めさせようかと考えることもありますが、Bチームの子達とは割りと上手くやっていますので、辞めさせるのもためらわれます。私の方で何か上手く立ち回れたらいいのかもしれませんが、どんな風にすればいいのか思いつかず、「やられたらやり返せ」と息子に言うくらいしかできません。放任主義のコーチや、たまにしか来ない総監督は頼りになりそうにありません。大人しく優しい子でも、やる気さえあればサッカーが上手くなるようなチームが有るのが理想ですが、私の知る限りでは上記のように上手い子か、口が達者で上に気に入られる子たちが優位に立つチームが多いように思います。まるで社会の縮図のようにも思えますが......。義務教育の学校ではないので、「意地悪が気になるなら辞めろ。でなければ我慢しろ」が正しいのでしょうか。サッカーチーム内のイジメに関しての知見もないですし、何か今後の指針になるようなアドバイスを頂けたら幸いです。<島沢さんのアドバイス>ご相談のメールをいただき、ありがとうございます。お母さんご自身「イジメにつながらないことを祈ることしかできません」と書かれているので、まだそこまでの段階ではないのかもしれません。どんな時に、どんなことを言われたのか、どういった扱いを受けたのか。そのことで、息子さんがどんなふうに傷ついたのか。ご相談のメールだけではいじめかどうかの判断はつきかねます。したがって、これといったアドバイスは特にはありません。一番いいのは放っておくことだと私は思います。小学6年生と最上級生ですし、あと半年で中学生になります。思春期、反抗期に差し掛かってきてもいるでしょうから、母親に何でも話す月齢は過ぎています。■ぶつかりながら成長する経験も大事、まずは見守る姿勢をいじめや、子ども同士のトラブルは難しい問題ではあります。が、親や教師、サッカーのコーチなど大人がいちいち介入するものでしょうか。無論、介入すべき酷いいじめもあります。毎日、トイレに連れていかれ、仲間の前でズボンをおろされ続け不登校になったケースを知っています。SNSで悪口を書かれたことがもとで、友人をあやめてしまった小学生も過去にはいました。まずは、お子さんによく話を聞いて、酷そうだと判断したらコーチに話してみましょう。そうでなければ、意地悪をしたり、されたりは、子どもの世界にはあって当然のことと理解してください。じゃがいもが一緒に洗われると、それぞれがぶつかって泥が取れてきれいになるように、子どもたちもぶつかりながら成長するものです。そんなことを経験することは人間形成に重要です。自分たちで解決するのを見守ることを考えてください。■お母さんの思考の中に子どもの意思が見当たらないそこで私からひとつ、ご提案します。今回の「いじめかも問題」をきっかけに、子離れしてみませんか?中学以降は学区が違うため、いじめらしいことをしている子たちとは同じチームにならない。よって「最後まで続けさせよう」と、お母さんは思っている。ただし、状況がひどくなるなら「途中でも辞めさせよう」と考える。一方で、Bチームの子と上手くやっているから「辞めさせる」のもためらう。続けさせる。辞めさせよう。辞めさせる。言葉の端々に、子どもに対し「○○させる」と話す方のほとんどが、過度に干渉する子育てに陥っていました。15年余りの教育やスポーツの育成現場を取材してきた知見からのお話です。子どものことを考えるとき、話すとき、お母さんは主語が自分自身になっています。「私は」サッカーを辞めさせたい。「私は」今のチームで続けさせる。この主語を、ぜひ「わが子」にしてください。君はどうしたい?どうしたらいいと思う?そんなふうに「問い」を立てられる母親になってほしいのです。主語が親御さん自身である限り、お子さんはその手から離れることはできません。「お母さんは、サッカーを辞めさせる」「お母さんは続けさせる」――この思考の中に、お子さんの存在や意思が見当たりません。サッカーをやるのは、お子さん自身なのに。この、子離れするために「主語を子どもにする」ことは、今の状況を変えるひとつの鍵になるでしょう。さらに、鍵はあと二つあります。■やられたらやり返せというのは有効なアドバイスではないもうひとつは、お母さん自身が「正しい大人」になってください。「私の方で何か上手く立ち回れたらいいのかもしれませんが、どんな風にすればいいのか思いつかず、やられたらやり返せと息子に言うくらいしかできません」と書かれています。本気でしょうか?やられたらやり返しなさいと伝えるのは、いじめられたらいじめ返せばいいと教えているわけです。恐らく、意地悪なことを言われたら言い返せばいいじゃないの、くらいな気持ちかもしれませんが、お子さんにとって有効なアドバイスになってはいないように思います。もちろん悪いのは、嫌なことや意地悪なことを言ってくる仲間です。ですが、これはお子さんの問題です。まずは、嫌なことを言われたお子さんの気持ちに寄り添いませんか。「嫌だったね。よく我慢したね。君は何も悪くないよ。大丈夫だよ。お母さんに何かできることはある?」そんなふうに尋ねてあげませんか。どうすれば、彼らがそういうことをしなくなるか。どんな解決法があるか。誰に相談すればいいか。そこを一緒に考えてあげてはどうでしょうか?■子どもが助けを求めていないのに先回りしている可能性(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)三つめは、先回りしないこと。相談の文章だけで判断できませんが、お子さんが「お母さん、僕はもう限界だ。何とかしてほしい」とSOSを出しているわけではないように見えます。それなのに、お母さんは先回りしていないでしょうか?コーチは頼りにならないと言ってらっしゃいますし、チームや仲間の良し悪しも一存で判断(評価)されています。悪質なイジメであろうがなかろうが、チームメイトにお母さんが直接苦情を言うのはやめましょう。そして、お子さんが自分でコーチに相談することを勧めてあげてください。そこで相手にされなかったり、逆にお子さんが傷ついてしまったなら、そこで初めて一緒に話をしてはいかがでしょうか。お母さんは、コーチや、いじめらしいことをしている子どもたちに、自分がどう挑めばよいかを私に聞きたかったかもしれません。わが子がピンチを迎えると、親として何をしたらいいかと自分が動くことを考えがちですね。でも、子ども同士のトラブルは、親が出ていかないほうがいいケースがほとんどです。いつも話していることの繰り返しになりますが、覚えておいてください。「言わなければ」ではなく、子の話を「聞かなくては」と考えてください。見守ってあげましょう。親が見守ることで、子は成長します。結果的に、子の人生を護ることになるのです。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年09月30日U‐10年代におすすめの、子どもたちの運動能力を高めるメニューを教えて。という指導者からのご相談です。自分の身体を自由自在に動かせるようになるほうが競技のスキルも伸びるとされていますが、忙しくて色んなスポーツや運動経験をすることが少ない現代の子どもたちに、サッカーの時間を使って運動能力を高めるメニューが知りたいとのこと。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、神経系、筋力系を刺激し瞬発力(アジリティ)や調整力を伸ばし、その年代に沿った体幹をつくるお勧めメニューをご紹介しますので参考にしてみてください。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<回数はそんなに重要か。リフティング信仰から目を覚まさせるアプローチを教えて<お父さんコーチからの質問>チームは小学生年代全般が所属しており、日にちや時間帯でそれぞれの学年を担当しています。今回はU‐10世代について相談です。過去にも「ボールを投げられない」など近い相談があったようですが、子どもたちの運動能力を高めるためにサッカーの練習時間の中で何かできることが何かあれば教えていただきたく思います。というのも、世間ではマルチスポーツが推奨されているのは知っていて、自分も賛成なのですが現代の子どもたちは、ほかのスポーツ、運動を体験する機会が少ないような気がするのです。私のチームも週2日は休みを設けていますが、少年スポーツも何だかんだ練習が多いですし、小学校から塾に行っている子も増えてきているのでスポーツの掛け持ちをすること自体が難しいというのも理解します。中にはサッカー上達のために専門のスクールに通う熱心な親子もいますが、とにかく複数のスポーツを並行してやっている子は多くないと思います。やっているとして水泳などです。また、今年は夏休み自体が少なかったですが、例年は合宿や遠征、大会参加などもありサッカー漬けになります。好きで楽しんでくれるのはありがたいですが、やはり小学生年代からの競技への専門特化によるデメリットも気になるのです。なので、サッカーの時間のなかで全身を使って運動能力を高められるメニューなどがあれば教えていただきたく思います。<池上さんのアドバイス>ご相談いただき、ありがとうございます。10歳以下は小学3~4年生の子どもたち。スポーツのスキル習得など、さまざまなことを吸収しやすいゴールデンエイジと呼ばれる年代の前半です。■様々な運動が複合的に組み合わさったサーキットトレーニングがお勧めこの年代は、全身をバランスよく動かすことが大切です。よって、さまざまな運動が複合的に組み合わさったサーキットトレーニングをお勧めします。例えば、ジグザグで進む。走る。ジャンプする。でんぐり返る。そのような動きが入ったものを、練習やゲームのウォーミングアップでやってみてください。日本サッカー協会も、トレーニングに鬼ごっこなどを取り入れることを推奨していますね。これらは、神経系、筋力系を刺激していくものです。瞬発力(アジリティ)や調整力を伸ばし、その年代に沿った体幹(※胴回りの強さ)をつくります。子ども自身が、こうしたいとイメージしたとおりにスムーズに動けるようにすることを助けるメニューが、サーキットトレーニング。個々の運動能力をアップさせるためのものです。ここで気をつけるべきは、サーキットトレーニングが「サッカーのドリルトレーニングとは違う」ということです。じゃあ、いつもやっているジグザグドリブルの時間を増やせばいい、というわけではありません。コーンを置いてのジグザグドリブルを何か月も続けてしまうと、そのタイミングでしか曲がれなくなります。同一距離で曲がっていくのですから、それが試合で使える技術ではないことはおわかりいただけると思います。サッカーはその都度、状況に応じて選択するプレーは変化します。それを素早く認知する能力が重要です。理論的にいうと週二回。何か月か続けると向上していきます。すぐに目に見えて効果が出てくるものではありませんが、3か月くらい続けていくと変わってきます。ただし、個々に変化の速度には差があることと、あくまでも楽しく取り組むことを忘れないでください。■現代の子どもたちが苦手な「跳ぶ」は、空間認知にもつながるメニューについては、ネットで検索するとたくさん出てきます。例えば「サッカー協会・キッズ・トレーニング」などと打ち込んでみてください。歩く・走る・スキップする。人間の動きにはいろいろありますね。跳ぶ・ボールを受ける(キャッチする)・投げる・蹴る。様々な運動動作が入っているものを取り入れてください。なかでも、今の子どもたちが一番弱いのは「投げる」動作でしょうか。サッカーばかりやっていると、特にそうなってしまいます。あとは、ジャンプ系。昔の子どもは木登りをしたり、高いところにつかまろうとしたり、跳びついてぶら下がる、といった動作を野外の遊びのなかでやっていました。ジャンプする動作は重要で、空間認知にもつながっていきます。成長するにつれ、ヘディングが出てきますし、コーナーキック時など空中での争いも増えます。ところが、外遊びをしなくなった子どもたちは、日常の動作で「跳び上がる」がほぼありません。特に都市部の子どもたちに言えることです。縄跳びも学校によっては技を競わせてやったりするところもありますが、日常からは減りつつあります。女子のゴム跳びも跳躍運動につながるのですが、今はほとんど見ません。加えて、ご相談者様が「世間ではマルチスポーツが推奨されているのは知っていて、自分も賛成」と書かれているように、小さいときから複数のスポーツに親しむことで身体はバランスよく鍛えられます。■ほかのスポーツの動作を応用するなど、考える力がつくもうひとつ効果があるとすれば、マルチスポーツを選択している子どもは自分で考える機会が多いことです。例えば、スローイングの動作など、野球のときはこうだったけど、これはサッカーで使えるかな?と考えられるかどうか。ここが鍵になります。自分たちでスポーツが上手くできるようになるために、自分で考えて答えを導き出す。野球のコーチがこう言ってたなあ、などと関連付けることができます。野球とサッカーで考えると、サッカーのコーチが野球を並行してやっている子に期待するのは空間認知です。今、自分は一塁を守っている。相手の打球がこう飛んだ、こうしたらいいかな?内野ゴロだとダブルプレーになるからこうしよう。そんなふうに予測して、ポジションをとる。そういった頭の訓練もできます。そういった予測する力を、サッカーにも転化して活かせるはずです。マルチスポーツを経験している子どもは、成長するにつれてやりたいものが増えていきます。やりたいことを新たに始めることを躊躇しません。他のスポーツの楽しさも知っているからです。それはとりもなおさず、その子の生活そのものが豊かになるということに違いありません。■バッタを追いかける動作にもトレーニングの要素が満載(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)そして、最後にお伝えしたいのでは、休む重要性です。フィンランドの教育ビデオを観たことがあるのですが、この国には宿題がありません。脳を休ませないといけないことを、大人たちはわかっているからです。同じように、身体を休めるのも非常に大事です。ドイツで育成年代の指導をしているライターの中野吉之助さんによると、ブンデスリーガの育成組織は、子どもたちを夏は最低2週間休ませるそうです。そうすると、身体が大きくなってピッチに帰ってくるといいます。どんなことも、余裕がないといけません。「例年は合宿や遠征、大会参加などもありサッカー漬けになります」とありましたが、サッカーができないのなら休めばいいのです。空いた時間は遊んだり、他のことをすればいい。遊んでいても、神経系、筋肉系はいくらでも鍛えられます。そこを指導者がどう認めるか。日本の場合は、そこが重要です。幼稚園の子どもは、練習中にバッタを見つけると練習しなくなります。バッタを追いかけて帰ってきません。でも、彼らをよく見ていると、汗びっしょりになって走り回っています。バッタを見つけたら、しゃがんだり。転がったり、飛び跳ねたり。機敏に動いています。サーキットトレーニングの要素が満載です。ところが、日本では「サッカーをしないなら帰れ」と子どもを叱る指導者は少なくありません。そういうとき、私は「バッタ取りに行こう!」と呼びかけます。サッカー教室にきてバッタを追いかけることも、大切だと思っています。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年09月25日サンフレッチェ広島ユースで長年指導にあたり、2015年からはU-17日本代表指揮官として久保建英選手らを見てきた森山佳郎監督に、前編では成長するためには自らアクションを起こすことが大事だという事を伺いました。後編では伸びる選手と伸びない選手はどこが違うのか、自ら伸びる選手の環境を指導者と保護者がサポートするためにはどんな関係性を築くのが良いのかを伺いましたのでご覧ください。(取材・文:元川悦子)森山佳郎監督©JFA<<前編:自ら要求できる槙野智章・久保建英のような選手を育てるために、指導者や保護者に求められること■自分の課題がわかっているのに向き合おうとしない選手は成長しない新型コロナウイルス感染拡大によるスポーツ活動の休止や中断によって、選手が自らアクションを起こすことがより重要視されるようになったことは、前回の記事に書きました。U‐16日本代表の森山佳郎監督もその点に注目しながら、7月から再開した活動を行っていると言います。「一番分かりやすいところでいうと、フィジカルの課題を、ひさしぶりの活動となった7月の合宿でテストしたんですね。例えば懸垂。活動自粛期間前の合宿で2~3回しかできなかったのに20数回できるようになった選手もいますし、ハッパをかけていたのにも関わらずまだできなかった選手もいました。後者の選手には、合宿のラストに『自分の課題が分かっているのに、そこに向き合おうとしていない選手は成長しないし、別の選手を呼ぶから』というくらい厳しいことを言いました。もちろん8月以降の合宿で大きく変化してくれればいいなという期待を込めてのことです」森山監督は過去に指導した選手にも時には苦言を呈してきました。「JリーガーになってA代表になるのは、このグループの中で1人か2人。ほとんどの選手が消える」といったインパクトの大きな発言もして、選手たちの反応を伺ってきました。「それをよく覚えているのが、菅原由勢(AZアルクマール/オランダ)。『森山監督に15歳の時、<天狗になったら消えていく>と言われて、絶対にそうなりたくなくて誰よりも努力した』と何かのインタビューで答えていたのを聞いて、意識レベルの違いを感じました。指導者の言うことを聞いた上で、自分からアションを起こすかどうかで、選手の成長度合いは大きく変わります。3カ月、半年、1年となればとてつもなく大きな差になる。そのことは再認識してほしいですね」■さじ加減は難しいが、1人1人の性格に合わせて臨機応変な対応が必要しかしながら、そういう厳しいことを言われてしまうと、メンタル的に落ち込んだり、自信を失ったりする子どもも少なくありません。森山監督が成長期を過ごした昭和の時代であれば、理不尽なことは当たり前。サンフレッチェ広島ユースを指導していた平成の時代でも、闘争心や忍耐力を養うためにあえて関東までバスで夜通し移動して朝から試合をしたり、早朝練習で1時間ぶっ続けの1対1、土のグランドで毎週1回の激しい対人トレーニングといった厳しさを前面に押し出したアプローチをしばしば取り入れていたそうです。けれども、令和の時代になり、子どもたちの気質も変化しています。指導者は1人1人の性格や特性を把握しつつ、臨機応変な対応をしていくことが必要だと森山監督も考えているそうです。「子どもたちへのさじ加減は簡単ではないですよね。どのくらいまで言うべきか、どのくらいから自己判断させるかは非常に難しい。『この子は数字で示したり論理的に納得しないと動かない』とか『この子は褒めると乗ってくる』『この子は反骨心を煽ると燃える』というのは1人1人違います。言葉掛けや指導法はそこにいる子どもの数くらい必要かもしれない。指導者としての揺るぎない信念も必要ですが、その子に合ったものも頑張って探していくことが大事。僕自身もそうですし、若い指導者の方も頑張ってトライしていくべきだと思います」■親は遠くから子どもを見守るくらいが一番いいそうやって日々、精進を重ねている指導者を保護者には見守ってほしい......。それが森山監督の願いだといいます。監督自身、かつて長男がサッカーをやっていましたが、指導者には一切口を出さなかったそうです。遠藤保仁選手(G大阪)のような名選手でも同じようなスタンスを取っているといいます。やはり保護者と指導者の適度な距離感が子どもにとっては重要なのでしょう。「親は遠くから子どもを見守るくらいが一番いいのかなと僕は思います。息子にも『監督やコーチを信じて、話をしっかり聞きなさい』と言っていました。保護者が指導者の考え方や指導法に対してちょっとした不満を子供に伝えてしまうと、子どもは指導者を信用できなくなり、指導者との信頼関係も損なうことになるんです。親御さんの意見で子どもの目が僕らに向かなくなることは往々にしてありますし、そうなってしまった子どもの成長は非常に難しくなってしまいます。自分が広島ユースの監督をしていた時も『もしご意見があるんでしたら、直接こちらにお願いします』と声をかけていました。『子どもに意見を言ったら、その子がつぶれることにつながりますから』と。僕ら指導者も完ぺきではないし、ご意見をぶつけてくれれば、状況によってはいくらでも改善していく余地がある。努力していい方向に変えていきたいと感じているので、直接いろんなお話がしたいとお願いしていました。保護者と指導者の信頼関係が強固になり、『この人なら託せる』と思ってもらえるようになれば、子どもに対する働きかけの相乗効果も高まるし、成長度も加速する。そういう例を自分も数多く見てきました」■1人1人が自分を成長させるプロデューサー、決めるのは自分自身だと認識を持つこと指導者と保護者、選手の3者が最も密に意思疎通しなければならないのが、進路に関する部分ではないでしょうか。森山監督の教え子も高校生のうちからJリーグデビューしている選手が少なくないですが、全員がJクラブのアカデミー出身というわけではありません。自分を伸ばせる環境を子どもたちが真剣に考え、それを指導者と保護者が一緒になってサポートできるような関係が理想的。森山監督もそう考えています。「中学3年くらいになったら『自分の進路をよく考えなさい』という話はしています。今いるクラブの上のカテゴリーに上がれる子はほとんど上がるんでしょうけど、本当にそれでいいのかどうかは選手次第。西川潤(セレッソ大阪)のように横浜F・マリノスジュニアユースから桐光学園高校に進んだ者もいれば、鈴木冬一(湘南)のように高校2年の途中でセレッソを辞めて、長崎総合科学大学付属高校に行った者もいます。こうした数多くの例を踏まえながら、僕は『みんな1人1人が自分を成長させるプロデューサーなんだよ』とよく言っています。指導者も保護者もアドバイスはできるけど、自分を一番成長させてくれる進路を考え抜いて決めるのは自分。責任を取るのも自分ですから」■スペインでは小学生も「練習の意図」を聞くそういう習慣は一朝一夕には身に付きません。幼い頃から日常的に積み重ねていくべきです。スペインでは小学生でも「どうしてこの練習をするんですか」「僕はこのプレーが得意だからもっと練習したい」「このポジションで使ってくれ」といった要求を口にするそうです。それも自分で思考を繰り返しているからできること。日本もそうなればいいと森山監督は願っています。「親も子どもに考えさせたり、意見を言わせたり、自分で決めさせたりというのはすごく大事なので、そういう場面を増やしていくことを心掛けてほしいですね」考えて判断する、自分で決めて責任を持つといったことは、家庭内で実践可能なことです。日常の中でそのような習慣を身につけていくことが、選手としての伸びにつながるということを意識してご家庭でも実践してみてはいかがでしょうか。森山佳郎(もりやま・よしろう)筑波大学卒業後、マツダに入社しマツダサッカークラブ(現サンフレッチェ広島)に入団。横浜フリューゲルス、ジュビロ磐田、ベルマーレ平塚でプレーした後引退。引退後はサンフレッチェ広島ユースのコーチに就任。広島ユース監督を退任後、U-15/U-16日本代表コーチを経て、2015年にU-15日本代表監督に就任。現在はU-16日本代表監督を務める。広島ユースを高円宮杯4度優勝に導くなど強豪チームに成長させ、トップチームで活躍し日本代表に選ばれる選手を育て上げるなど、高校年代の指導者として高い評価を得ている。
2020年09月24日前回の記事でもお伝えしたように、我々は、保護者として子どものためにベストな選択をしようと考えています。その裏返しに、子どもの将来に対し、保護者としてよりよい選択をしているのか、と不安になったり、焦ったりします。競技面では、幼児期からスポーツクラブに入ったり、習い事としてスポーツを始めるスタイルも親の悩みの種になります。かつてはデイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当し、現在は米国在住で米国のプロから子どものスポーツまでカバーしている谷口輝世子さんがお伝えする、スポーツをする子の保護者としてのあり方。後編では親のストレスを軽減するアドバイスを送ります。子どものスポーツで目に見えないストレスを抱えている保護者の皆さんはぜひこれを読んで気持ちを軽くしてください。(構成・文:谷口輝世子)子どものスポーツでの成功は親の育児の成果、という考えが保護者に重圧を与える<<前編:なんとなく感じる不安、焦り......。子どものスポーツで保護者にかかる重圧とストレスの原因とは■もし、幼い子どもがスポーツを始めたいと言ったら、どうしたらよいのか北米では年齢に応じたスポーツの育成の目安としてLTAD(Long Term Athlete development)というガイドラインがあります。6歳ごろまでは第一段階のActive Startという言葉で説明されており、毎日の生活のなかで体を動かすことを推奨しています。子どもたちが体を動かして遊ぶことを楽しめる環境で、チャレンジしたいと思えるもの、しかし、競技的ではないゲームのようなものがよいとされています。子どもが怖さや不安を感じるような環境は避けたほうがよいようです。9歳ごろまでは、楽しみながらいろいろな動きを身につけられるようにするのがよいとされています。保護者はこういったガイドラインを参考にして、子どもが楽しめるスポーツ環境を探すことはできます。ただし、そういった環境づくりはクラブの運営者、経営者にも担ってもらわなければならず、保護者の自己責任だけではどうにもなりません。たとえ、保育園や幼稚園の友達がスポーツクラブに入ったからと焦って入会する必要はないでしょう。子どもが、それぞれに身体を動かすことを楽しく感じられることが生活のなかにあればよいのではないでしょうか。また、子どもがスポーツを始めると、どうしても他の子どもと比べてしまい、遅れているのではと焦ったり、ものすごく才能があると期待することもあります。しかし、12歳ごろまでは子どもが将来、どんな選手かを予測するのは困難だと言われています。それに体の成長スピードもひとりひとり違います。保護者は、子どもがスポーツ活動に何を望んでいるか、親として何を望んでいるかを言語化したりして、できるだけ広く、長期的にとらえる工夫を。試合や競技結果に過度に一喜一憂しないように、親である自分の視線を変えることは自分でやってみることができます。一方で、チームやスクールの運営者、指導者は、参加しているどの子どもにも成長するチャンスを与えてほしいと強く願います。これらは保護者だけでなく、指導者講習やスポーツ界全体のテーマとして取り組んでもらいたいものです。■子どものスポーツでの成功は、親の子育ての成果なのか前編の記事で紹介した英国の研究者カミラ・ナイトは、スポーツする親をどのようにサポートするかというテーマで講演をしたときに、次のようなスライドを見せました。「子どもの成功、成功できないことは、あなたがどのような親かを示すものではない」この文言のポスターをスポーツ会場に掲示することで、親のストレス軽減に役立ててもらおうというものです。私も実際にスポーツ会場で目にしたことがあります。これは子どもが競技や試合で成功すること、もしくは、うまくいかないことは、親がどのような子育てをしているかを示すものではない、というメッセージです。子どものスポーツの成功は、親の子育てと無関係でしょうか?いやいや、多かれ少なかれ親の子育てとは関係があるのでは、と皆さんが感じるのは当然です。保護者が食事を用意し、スポーツの費用を負担し......。親がそういったことを全くしなければ、子どもはスポーツでの成功どころか、スポーツ活動にさえ参加できないからです。しかし、「子どもの競技成績がふるわないのは、親の子育てが悪いからだ」ということは科学的に証明できていません。親が適切に子育てをしても、ただ、子どもの体の成長が遅いタイプなのかもしれませんし、「他の子どもに比べると」運動が苦手なだけかもしれません。子どものスポーツでの成功は、親の子育ての成果を示すものだ、という考え方は、保護者に親としてもっと頑張らなければいけない、という重圧になり得ます。そして、悪魔のささやきをしてくるかもしれません。「子どもがスポーツで成功することは、よい親であることを周囲に示すことができる」と。でも、それは親である自分に恥をかかせないように、子どもを頑張らせることにつながり、親のエゴのために子に成功してほしいと願うことにつながります。子どもが試合でミスをした後にベンチに下げられて悔しい気持ちになる方もいるかと思います。私もそういう経験があります。また、わが子が良いパフォーマンスをすればチームメイトの保護者に対して鼻が高い気分になったり。親の中に人より優位に立ちたいという気持ちがあり、子どものスポーツを通じて達成しようとしているのです。あるいは親である自分の満たされない何かを子どものスポーツを通じて得ようとする、仕事や家族関係のストレスを抱えていて子どものスポーツに依存していることも。子どもにイライラしているのではなく、自分自身にイライラしているのです。親として得意な気分になりたい、承認されたい感情は消えることはないかもしれませんが、わが子にスポーツを楽しんでもらいたいなら、時には親である自分自身の心の中を覗いてみることも必要かもしれません。子どもが安心して毎日を生きるには、親やそれに代わる大人の関わりが不可欠です。しかし、「親が頑張らないと良い選手に育たない」と頑なになると、その弊害もあります。だからこそのポスターの文言なのです。■レギュラー・補欠。出場時間の問題これは日本だけでなく、子どものスポーツの盛んな国では、同じような問題を抱えていると思います。米国でも同じです。日本の保護者は内に抱え込んで悩む人が多いかもしれませんが、米国人は自己主張する人も多いです。米国の学校運動部では、保護者と指導者の話し合いのルールを定めています。これは、日本でも、応用できるのではないか、と私は考えています。米国の中学や高校の運動部でよく使われている話し合いのルールは、・話し合いに適切な時間を決めておく。・保護者は、出場時間、ポジション、戦術、他の子どもについての質問はできない。・出場時間をもっと得たいと思うときは子ども本人がコーチに質問をする。・保護者はどのようにしたら子どものパフォーマンスが向上するのか、コーチに聞くことはできる。などです。コーチはシーズンや年度はじめに活動理念と方針を示し、保護者、子どもである選手と話し合いのルールを決めておきます。事前に決めてあることによって、保護者の側は「こんなことを聞いてもよいのか、でも、言っておきたい」という悩みやストレスを少しは軽減できます。コーチ側もそれは同じでしょう。これも保護者だけでどうにかできることではなく、指導者、子ども、保護者がいっしょになって対話ルールを作る必要があると思います。さらに具体的な内容、そのほかのストレスを抱え込まないヒントなどは、拙著の『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのか』(谷口輝世子著、生活書院)をご参考にしていただけると幸いです。<<前編:なんとなく感じる不安、焦り......。子どものスポーツで保護者にかかる重圧とストレスの原因とは
2020年09月18日10数年前までは全国的に無名だった昌平高校を今や全国レベルの強豪校に躍進させた藤島崇之監督。短期間での飛躍的成長の背景には何があったのでしょうか。昌平高校に選手を送る育成組織の存在、選手のケガが劇的に減った理由などをお話しいただきました。また、元日本代表を父親に持つ藤島監督に、保護者のあり方についてもお伺いしましたのでご覧ください。(取材・文:元川悦子)コロナウイルスの影響で延期されていたプリンスリーグ関東が再開。昌平高校は三菱養和SCユースと対戦し、勝利を収めた(写真:元川悦子)<<前編:日本一に相応しい言動や振る舞いができ、社会に貢献できる人間を育てる!昌平・藤島崇之監督■短期間で躍進を遂げた背景にあった「FC LAVIDA」の存在藤島崇之監督が2007年に就任してから13年で昌平高校が飛躍的成長を遂げたことは、前回の記事で書きました。短期間で右肩上がりの軌跡を描いた要因の1つになっているのが、2012年に発足した下部組織「FC LAVIDA(以下ラヴィーダ)」の存在です。藤島監督の父・信雄氏が代表を務める同クラブは、藤島監督の習志野高校時代の同期である村松明人監督、関隆倫U‐15コーチらが中心となって指導しており、2019年の日本クラブユース選手権(U‐15)初出場でベスト8を達成。知名度も一気に上昇し、近年は30名弱のセレクションに300人の小学生が殺到するほどになったといいます。「村松は茨城のFOURWINDS(フォーウインズ)というクラブから来ましたが、指導力は日本屈指。厳しい部分もありますけど、伝え方がうまくて、選手たちは確実に技術レベルが向上し、強さを身に着けます。関も大宮アルディージャでプレーしていた元Jリーガーで、tonan群馬などで指導実績を積んでウチのクラブに参加してくれました。彼らを含めて習志野の同期4人が昌平とラヴィーダに関わっているので、サッカー観が近く、言いたいことを言い合える風通しのよさが強み。ジュニアユース年代はドリブルでの仕掛け、タテに早く運ぶスタイルを重視していますが、個の力があればユース年代で羽ばたける。6年かけて長所を伸ばせる環境というのは、選手にとっても大きな魅力だと思います」と藤島監督は胸を張ります。■香川真司の個人トレーナーによる指導でケガが劇的に減った指導スタッフはフィジカルコーチ、フィジオセラピスト、医学療法士含めて総勢17人。昌平には165人、ラヴィーダには約75人の選手がいますが、全員が両チームに関わり、指導しているのも見逃せない特徴です。香川真司選手(サラゴサ)の個人トレーナーを務めていた神田泰裕氏も今年から正式にフィジカルコーチに就任し、週3~4回は練習に帯同していますが、姿勢やバランスを見直すところから徹底的に改善すると神田氏のアプローチのおかげで、動きのスムーズさ、質が上がるとともに、ケガ人が劇的に減少したそうです。有能なスタッフがいる効果は確実に表れています。香川真司選手の個人トレーナーを務めていた神田泰裕さんが今年からフィジカルコーチに就任。神田さんのアプローチでケガが劇的に減少したそうこれだけスタッフ数が多ければ、通常だと練習前にミーティングを開いて指導方針や練習メニューをすり合わせ、それを監督が選手たちに伝える形を取るのが普通でしょう。しかしながら、昌平とラヴィーダの場合は誰がどういう指導をしてもいいことになっています。この体制は「自由で風通しのいい環境がプラス効果を生み出す」という藤島監督の考えによるものなのです。「昌平の場合、集合をかける時は自分が話をしますが、コーチ陣が選手を捕まえて個別指導することも積極的にやってくれと伝えています。僕と村松、関はそれぞれ見る目が違うし、アプローチ方法も異なる。多種多様な視点で教えた方が成長を促せると思うんです。全員が言いたいことを言い合える雰囲気がウチのよさではないかと感じています」■部の一員である自覚を持つことで行動が激変藤島監督の思考やアプローチ方法に賛同する1人が、就任3年目で、監督の教え子でもある日野口廉コーチです。青森山田中学校時代から6年間指導を受けた彼は、さまざまなスタッフが6年がかりで多角的に接し、選手を育て上げる一貫指導スタイルが大きな成果を挙げていると強調します。「ラヴィーダから昌平に上がってきた高校1年生は行動が激変します。中学生まではまだ子どもで、自分のことで精一杯という印象ですが、高校生になって部の一員である自覚を持ち、先輩の行動を見て学ぶことで、規律ある行動をするようにする。部屋のゴミ箱を気づいた人が片付けるとか、そういう気配りができるようになるんです。プレー面でも『技術的にボールは持てるけど、メンタルは足りないな』と思っていた中学生が高1になった途端、体が太くなり、ぶつかり合いも厭わなくなる。逞しくなる様子がよく分かります。僕が高校生だった頃はラヴィーダとの連携はなかったので、今の体制は本当に意味あることだと感じます」自律心を高められ、選手としての成長も期待できるこの環境を、保護者も好意的に受け止め、信頼を寄せているようです。取材当日練習に参加していた昌平高校の選手たち■あえて口出しせず、意見を押し付けないスタンスで藤島監督は父・信雄氏との関係から「親は子どもに干渉しすぎず、見守ってあげるべき」という考えを持っていますが、時には保護者にもアドバイスすることがあるといいます。「父は日本代表だったので、サッカー界の人脈は広いでしょうが、僕にサッカーの話をしたことはほとんどない。元アルゼンチン代表の名選手であるマリオ・ケンペスと対戦したという話も人づてに聞きましたから(笑)。指導者の批判も聞いたことがない。親が悪口を言うと子どもも同じ価値観になりがちですから、それを避ける意味でも、父の向き合い方はよかったなと感じます。父が何かを語るのは、僕の方から尋ねた時でした。『これはどう思う?』と相談すると親身になって答えてくれました。自分がサッカー経験者だった分、言いたいことも沢山あったんでしょうが、あえて口出しせず、意見を押し付けないようにしていた。そういうスタンスはぜひ参考にしてほしいです」尊敬する信雄氏も見守る中、選手とチームのレベルアップに奔走する藤島監督。「勝負の年」と位置付ける今年は、Jリーガーになる3年生が2~3人は出る見通しです。もちろん彼らのようなプロ選手を送り出すだけでなく、社会に貢献できる人材を輩出することも念頭に置いています。これまでの卒業生には、銀行員や不動産会社、学校教員、スーツメーカーのオーナーなど多種多様な道に進んだ人間が出ており、彼らOBは昌平を力強く応援し、できる限りの協力体制を取ってくれているそうです。「そういう支援の輪を広げて、最終的には社会人チームや女子チームのある『昌平クラブ』を作れれば一貫指導体制が完成する」と理想を明かしてくれた藤島監督。大きな夢を現実にすべく、彼らは一気にギアを上げていくつもりです。<<前編:日本一に相応しい言動や振る舞いができ、社会に貢献できる人間を育てる!昌平・藤島崇之監督藤島崇之(ふじしま・たかゆき)昌平中学・高等学校サッカー部監督習志野高校時代は世代を代表する名選手として活躍。元日本代表FW玉田圭司と同期で、高校3年生時の選手権では全国大会まで勝ち進んだ。順天堂大卒業後は青森山田中学で指導者としてのキャリアをスタートさせ柴崎岳らを指導。2007年に昌平高校に着任。14年に選手権に初出場。第98回(2019年度)大会では準々決勝まで勝ち進んだ。16年には18年にはインターハイで全国ベスト4入りなど昌平高校を強豪校に成長させた。
2020年09月15日日本の選手は指導者のいう事を素直に「ハイ」と聞く子が多いと言われますが、試合では常に指示を待って動くわけにはいきません。試合中自分で判断して動けるようになるには何が大事なのか。サンフレッチェ広島ユースで長年指導にあたり槙野智章選手や柏木陽介選手(ともに浦和)ら日本代表選手を育て、U-15/U-16日本代表コーチを経て、2015年からはU-17日本代表指揮官として久保建英選手らを見てきた森山佳郎監督に、思考力や決断力、自己判断力を養うことの重要性についてお伺いしました。(取材・文:元川悦子)取材当日練習に参加していた昌平高校の選手たち■試合では決断の連続だから自己判断力を養うことが大事新型コロナウイルスの感染拡大で、日本代表活動が休止状態になってしまいましたが、7月から年代別代表強化が再スタートしました。U‐16日本代表は7・8月に1回ずつ千葉・幕張のJFA夢フィールドで合宿を実施。9月は静岡で行われる「2020SBSカップ・ドリームサッカー」に参戦する予定になっています。「2004年以降生まれの今のU‐16代表はまだ核になる選手がいないんです。加えてこのコロナ禍で試合に出始めた選手の発掘ができていない。通常の年だと3月や8月はフェスティバルがあったりして、高校1年生を中心に新戦力が出てくるんですけど、今年はそのほとんどが中止になってしまって見つけられていない。海外で強烈な経験をさせる機会も作れませんし、なかなか厳しいですね。それでも選手には45分のミーティング映像4本を配信して見てもらったり、テクニカル面やフィジカル面強化のための発信をしたりしていました。こういう時は自分で考えて行動する力をつける大きなチャンス。日本の選手は指導者の言うことを素直に『ハイ』と聞く子が多いですけど、実際の試合では決断の連続。大人になって生きていくうえでもそうです。思考力や決断力、自己判断力を養うことの重要性に気付いて、やってくれる選手が増えてくれたらいいと思っています」と話すのは森山佳郎監督。サンフレッチェ広島ユースを長年率いて槙野智章選手や柏木陽介選手(ともに浦和)ら日本代表選手を育て、2015年からはU‐17日本代表指揮官に転身し、今は3世代目に突入しています。■久保建英の注目度が高かったことで反骨精神が養われた過去2世代には、2000‐2001年生まれの菅原由勢選手(AZアルクマール/オランダ)や中村敬斗選手(シントトロイデン/ベルギー)、久保建英選手(ビジャレアル/スペイン)ら2017年U‐17ワールドカップ参戦組、2002‐2003年生まれの西川潤選手(C大阪)、若月大和選手(シオン/スイス)、中野伸哉選手(サガン鳥栖)ら2019年U‐17ワールドカップ参戦組がいて、メンタル的に成熟している選手が少なくなかったようです。「2000年世代は自己主張する子が異常に多かったんです。由勢、敬斗、建英だけじゃなく、瀬古歩夢(C大阪)や鈴木冬一(湘南)らも要求が凄かったですね。彼らにとってプラスだったのは、久保の注目度が高かったことで競争心と反骨精神が養われた点。『1学年下の建英ばっかり』という悔しさが募って、『絶対に負けないぞ』というギラギラ、メラメラした感情がつねに感じられました。ハーフタイムに戻ってきてケンカになることもあった。僕が『静かにしろ。落ち着け』と諭したくらい。選手ミーティングを30~40分もやっていて、僕が呼びに行っても『選手だけで話し合ってるから来ないでください』と言われたこともありました(苦笑)。2000年世代はそれに比べると大人しかったですけど、世界大会直前に入ってきた若月や藤田譲瑠チマ(東京V)など自分の意見を持っている選手が入ってきて引っ張ってくれたので、すごくいいグループになりました。最近も西川がJ初ゴールを決め、唐山翔自(G大阪)や田中聡(湘南)や成岡輝瑠(清水)も試合に出始めるなど、お互いに刺激を与えあっています。特に大きいのは16歳の中野伸哉がJリーグに出場したこと。彼は今の2004年の選手と1つしか変わらない。小学校高学年や中学生から見てもほんの少し上です。そういう意味でもインパクトが大きいと思います」■久保建英が他の選手と大きく違った点このように森山監督の教え子からは10代のうちからプロデビューする選手が次々と出ています。その筆頭が久保建英選手ではないでしょうか。バルセロナのカンテラで育ち、14~18歳までFC東京で過ごした彼の成長率の高さは目を引くものがあります。「彼の強みはつねに物怖じせず、つねに自己主張するところ。2015年4月のU‐15代表の立ち上げだったインドネシア合宿の時から先輩を差し置いてFKを蹴ってましたからね。本人に聞いたら『バルサでは3~4人集まってきて<俺だ俺だ>と奪い合うのが普通』と言っていました。槙野などもブレないメンタルを持った選手でしたけど、14歳くらいで初めてきた代表の遠征でそこまで自信を持って主張できる子は見たことはないです。バルサで少年時代を過ごしたことも追い風でしょうけど、彼はもともとそれだけの自己判断力や決断力、責任感がある人間に育ってきていた。そこは改めて強調しておきたいですね」久保選手のように自らアクションを起こせる人間になるには、ある物事に対して自分なりにどうすべきかを考える作業を繰り返すことが大切です。指導者や保護者などの意見を聞くことも大切ですが、それだけでは「言われた通りにしておこう」と受け身になりがち。コロナ感染拡大でこれまで通りの活動ができなくなった今こそ、何事にも自立心を持って自発的に取り組む重要性を子どもたちに再認識してもらうこと。そう仕向けるべきだと森山監督は考えます。■ミスをした時他責にするか、自己反省するかでその後の成果が変わる「実を言うと、僕は中学校1年生の時にバスケットボール部に入ってしまい、1年間サッカーができなかったんです。サッカーから離れてみて『自分はこんなに好きだったのか』と痛感した。その気持ちが40年経った今も続いていますし、それ以来一度もサッカーをやめようと思ったことはありません。仲間と汗を流せる幸せに気づいたことは本当に大きなプラスになっています。今回のコロナ禍にそんな気持ちを強めた育成年代の選手も多かったと思います。それを大事にしてほしいんです。僕は代表活動を始めるに当たって、『意識を変える』『取り組む姿勢を変える』の2つを必ず選手に伝えるんですが、世界を目指そうと思うなら普段の生活を変えないといけない。日常の生活習慣から食事や休息、練習の準備やフィードバックなど全てです。ピッチ上でも何かミスした時に人のせいにするのと、自分に問題があると受け止め、改善していくための策を考え積極的にチャレンジしていくのでは、その後の成果は大きく違ってきます。僕はチャレンジするミスは大歓迎。今年の困難をそうやって自分を変える好機にしてほしいと願っています」ここでアクションを起こすか起こさないか。自分が大きな岐路に立っていることを多くの子どもたちに気づいてほしいものです。森山佳郎(もりやま・よしろう)筑波大学卒業後、マツダに入社しマツダサッカークラブ(現サンフレッチェ広島)に入団。横浜フリューゲルス、ジュビロ磐田、ベルマーレ平塚でプレーした後引退。引退後はサンフレッチェ広島ユースのコーチに就任。広島ユース監督を退任後、U-15/U-16日本代表コーチを経て、2015年にU-15日本代表監督に就任。現在はU-16日本代表監督を務める。広島ユースを高円宮杯4度優勝に導くなど強豪チームに成長させ、トップチームで活躍し日本代表に選ばれる選手を育て上げるなど、高校年代の指導者として高い評価を得ている。
2020年09月14日監督がリフティングの規定回数を設けていて、達成できない子は試合に出さない。リフティング回数より試合経験を積む方が良いと提案しているが聞き入れてもらえない。保護者の中にも回数を重視している方も多く、「できてないのに試合に出すのか」という声も。どうして日本はこんなにリフティングの回数を重要視しているの?と悩むコーチからのご相談です。既定の回数を設けて評価することは、本来のリフティングの目的から外れるのでサッカーのスキル向上が望めないことや、子どもの自信喪失につながると池上正さんは言います。ではどんな改善を行えばいいのか。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが送るアドバイスを参考にしてみてください。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<6歳までに脳の神経系発達は90%に!?サッカーの時間にできる未就学児におすすめの脳を発達させるメニューはある?<お父さんコーチからの質問>U‐8年代の指導をしているのですが、リフティングの回数についてのご相談です。監督がリフティングの規定回数を設けていて、できない子は試合に出しません。既定の回数ができていなくても試合経験を積ませる方が良いのでは、と提案しているのですが、改善してくれません。確かにボールコントロールを身につけるのに役立つ練習ではありますが、同じ場所で回数を重ねるリフティングがサッカーの上達に大きく影響するとは個人的にも思いませんし、実際にプロ選手や指導者の方も回数は重要ではないと言っていますよね。監督もですが、保護者の中にもリフティングの回数を重視している方も多く、「できてないのに試合に出すのか」という感じの事を言う方もいます。子どもたちもリフティング練習が好きで、一人でやれる手軽さもあって家でもやっているようですが、海外では日本のようなリフティング練習は無いとも聞きます。プロ選手でも何十回もできない選手もいるようですし。どうして日本はこんなにリフティングの回数を重要視しているのでしょうか。根深い問題だと感じています。リフティング信仰から目を覚まさせるアプローチや、おすすめの練習などはありますでしょうか。<池上さんのアドバイス>ご相談いただき、ありがとうございます。欧州や南米の子どもはリフティングをして遊びますが、回数を数えません。しかも、リフティングをするのは基本的に小学生くらいの年代、子どもの間だけです。有名な選手がやっていたリフティングの技を真似して遊びます。ロナウジーニョ(元ブラジル代表)やネルシーニョ(柏レイソル監督)などでしょうか。そして、それらを選手が試合で使っていることを知っているので、自分たちも実際に試合でやるために練習するのです。■規定回数での評価はスキル向上につながらないしたがって、回数を数えてリフティングをするのは日本だけです。コーチに「百回目指せ」とか「千回できた人から試合に出します」などと回数を定められ、その目標に向かって黙々とやります。規定回数があるため、失敗したくありません。失敗しないために、ずっと利き足だけでやる。もしくはずっと同じ蹴り方、例えば全部インステップでやるという状況になりがちです。ボールを扱うスキルを向上させるために始めたはずが、途中で「決められた回数をやる」という本来の目的とは違うものにすり替わっていきます。欧州や南米はそうならないのに、なぜ日本だけがこうなってしまうのか。それは教育が関係しているようです。学校教育の特徴として、テストであれば100点を取ることが求められます。何か数字的な目標があって、そこに向かって突き進む。よって、リフティングも回数が決められてしまうのだと考えられます。スポーツが「評価されるもの」というとらえ方を大人がするので、子どもにとってスポーツをする楽しさがどんどん半減していきます。しかしながら、そうなってしまうと、もとの目的からどんどん離れてしまう。もっと言えば、サッカーでなくなってしまうわけです。スキルの向上は望めないうえに、決められた回数に届かない子どもは「ぼくはダメだ」と自信を失います。回数というわかりやすい指標があるため、子ども同士で比べあってぎくしゃくすることもあります。■スキルを磨くのは試合で使うため例えば、少しボール扱いはスムーズでなくても、空間認知の能力が高くいいところでボールを奪えたり、危険察知能力があってポジショニングが上手な子など、目に見えづらい力を持っている子どもたちがいます。そういう子どもが意欲をなくしたり、悪くすればサッカーから離れるといったリスクも考えられます。先日、中学生が「ヒールリフトを練習したので、見てください」と言ってやってきました。実際、彼はとてもうまくなっていました。「せっかくうまくなったんだから試合で使ってごらんよ」私がそう言うと、彼は「え~っ?」と驚くのです。「いや、何のために練習したの。ヒールリフトってどうしても抜け出せないときに、使うと便利だよね。コーチも練習して使ったよ」彼の反応からは、使う気がないけれど練習したことが伝わってきました。そんな子どもをブラジルのコーチが見つけると、「君はサーカスに行くの?」と言います。練習はあくまでサッカーの試合に出てくる技術を磨くのが目的です。そうすると、リフティングをする場面はどのくらい出てくるでしょうか。百歩譲ったとしても、浮き球のコントロール程度です。それを何千回もできる必要があるでしょうか。フットサル指導者のミゲル・ロドリゴさんも「リフティングは試合で使わない」とおっしゃっていました。立ったまま動かずにボールを何度もリフティングするような場面は、試合にはありません。スキルを磨くのは試合で使うためです。日本の指導者や子どもたちはそこをもっと意識すべきです。■利き足だけでなく、身体のいろんな場所でのコントロールを心がけることよって、リフティング練習は基本、必要ないと思います。ただ、リフティングをさせるのなら、回数を目指すのではなく、試合で使うスキルを向上させることを念頭においてください。まずは、二人でボールを交換する練習をしましょう。パスを受けたらリフティングして返す。ダイレクトで返す。左右交互に使う。もも、肩、頭、胸など身体のいろいろな場所を使ってコントロールすることを心がける。二人でパス交換しながら移動してもいいし、ひとりでやるのなら壁に充てたボールをリフティングする。また、お母さんやお父さんに投げてもらったボールをコントロールして返す。それも可能なら移動してやる。このような練習は、ボールコントロールのスキルだけでなく、身体のバランスをよくするコーディネーションにもつながります。神経系を刺激して自分の思うように身体をスムーズに動かす力を養います。そのためにも右も左もバランスよく使うことが肝要です。私は大学時代、インステップを左右、アウトサイドで左右、インサイド左右からヘディング、そしてまたインステップに戻る練習をひとりでよくやりました。このようにさまざまな蹴り方、運び方を何周もするのは容易いことではありませんでした。ひとりでやるときは、そんな方法もあります。次ページ:指導者が制限をかけるとサッカーの楽しみが減ってしまう■指導者が制限をかけるとサッカーの楽しみが減ってしまう(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)もうひとつ、指導者の視点で言うと、ある意味自分が見てなくてもいいのがリフティング練習です。100回やるよと指示して、できない子にハッパをかける。言い方は悪いかもしれませんが、コーチが楽をできる練習です。そうやって指導者が子どもたちに制限をかけていくと、サッカーの楽しさが減ってしまうでしょう。指導の場面にそぐわないように思います。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年09月11日