理想の家を求めて、設計を依頼東京都と千葉県の境界を流れる江戸川にほど近い千葉県・市川市の閑静な住宅街。この一角に暮らしているのは、デナリやK2などの海外登山を経験している登山家であり、WEB・動画ディレクター、プロモーターとしても活動する佐々木理人さんと妻・喜久子さん、そして、1歳の娘さんの3人家族だ。「以前は賃貸マンションの3LDKに夫婦二人で暮らしていました。3年ほど前から将来設計を考えて、家づくりを検討するようになりました」という理人さん。喜久子さんの実家がある市川市にエリアを絞り土地探しからスタート。条件に合う土地を見つけた佐々木夫妻は、設計をディンプル建築設計事務所の主宰・堀泰彰さんに依頼した。「もともとは別の建築事務所に依頼していたのですが、私たちの要望があまりフィードバックされずに不満がありました。そんなときにたまたまネットで見つけて、素敵だなと思ったのが、堀さんの手がけた住宅でした。夫に話したところ、偶然にも堀さんと夫が知り合いだったため、早速堀さんに相談させていただきました」と喜久子さん。理人さんも「急遽相談することになったのですが、空間を余すことなく活用して、私たちの要望に合うようなデザインを提案していただきました」と振り返る。理人さんが特にこだわった使い勝手のよい広い玄関。土間のスペースに棚を設置したことで、土足のまま道具の出し入れができる。たっぷりと収納ができる造作棚に山道具が並ぶ。手前は理人さんのワークスペース。理人さんの仕事場でもある土間には、来客用のテーブルを設置。右手の植物には吹き抜けからの光が降り注ぐ。正面奥の小上がりの畳スペースの下にも収納用の空間を確保している。畳スペースを区切られるようにスクリーンを設置。プロジェクターから投影し、大画面の映像を観ることができる。水回りは1階にまとめて配置。洗面を二つ設置したことで、忙しい朝の時間帯も混雑することなくスムーズに。広い玄関スペースと開放的なLDK佐々木邸は1階に理人さんの仕事場を兼ねた玄関スペースと収納、水回りを配置。2階にLDK、3階に寝室と子ども部屋を設えている。娘さんが生まれる前は夫婦でもよく山登りをしていたという佐々木さん夫妻。家づくりにあたって特にこだわったのは、山道具の収納と運びやすさを重視した広々とした玄関スペースだ。「以前の住まいでは3階まで重い荷物を持って昇り降りしなければならなかったので、山道具を1階でまとめて収納し、土足でも持ち運びできるような広い土間空間にしたいということを最初のプラン作成時に堀さんにお伝えしました。また、土地が11坪と比較的小さい敷地なので、収納スペースはできるだけ確保してもらいました」(理人さん)。メインの生活空間である2階LDKには、吹き抜けとバルコニーにつながる大きな窓からたっぷりと光が差し込み、明るく開放感あふれる空間が広がる。「全体的なテイストは、堀さんが過去に手がけられた事例の雰囲気をそのまま取り入れてもらいました。家の中にいても開放感があって、とても明るいので、窮屈さを感じることはありません。窓が多いので寒くなるのかな、と少し心配もしていたのですが、気密性が高いため、冬でも快適に過ごすことができています」(喜久子さん)。白い壁や家具と木材を基調にした温かみのある2階LDK。「採光を考慮して、リビングは南東側に開けるようにしました」と堀さん。明るく開放感あふれる空間となった。夫妻ともに料理をする佐々木さん夫妻。大型の食洗機が入るシステムキッチンと動きやすい通路幅にこだわった。吹き抜けからもたっぷりの光が差し込む。娘さんがまだ小さいため、吹き抜け側には落下防止を兼ねた収納棚を設置している。難易度も追求したクライミングウォール佐々木邸の大きな特徴であり、理人さんが強く要望したのが、外壁に設えた高さ約9mのクライミングウォールだ。「南東方向に開けるように角度をつけたりして難易度にもこだわっています。単純な直角ではなく登るにつれてオーバーハングするように計画しています。外部でここまでのクライミングウォールを設置するのは珍しいのではないかと思います」と堀さん。何度も現地に足を運んで検討を重ね、プライバシー面も考慮して設計を進めた。佐々木さん一家がこの家で暮らし始めてから、もうすぐ2年が経とうしている。「コロナ禍により在宅も増えたので、家づくりのタイミングとしても良かったかもしれないですね」と夫妻は声を揃える。最後にこれからの楽しみについて伺うと、「子育てもあるので、山登りはできていないのですが、子どもが成長したら家族で山登りやキャンプもできればいいなと思っています。さらに今は使っていない子ども部屋をこれから作り込むのが楽しみです」と理人さん。家族の成長とともに、たくさんの思い出がこの家に刻まれていくことだろう。3階寝室。かわいらしい木製サッシの窓から心地よい光が差し込む。家づくりにおいて外せないポイントの一つだったというのが、この眺めのいい屋上。「子どもが大きくなったら、ここでBBQなどをやりたいなと思っています」(喜久子さん)。佐々木邸外観。洗練されたシンプルモダンなデザインが印象的。理人さん要望の約9mのクライミングウォール。「夏には何度も登りました」と理人さん。
2022年01月31日思いつきから始まったこだわりの詰まった家づくりマンション住まいだった鵜久森夫妻が戸建てを建てようと思い立ったのは突然だった。「賃貸で毎月お金を払うなら家を建てたほうがいいなという話になったのがきっかけです」と話す夫の将隆さん。住んでいた地域に条件の合う土地を見つけ購入し、施工会社探しが始まった。そこで出会ったのが千葉県を拠点に新築、増築、リノベーションを手掛けている木ごころだった。「施工事例が良かったのはもちろんですが、複数社行った中で木ごころさんが1番丁寧に対応してくれたので決めました。最初の提案も間取りだけでなく、3Dモデルを作ってくれたりイメージしやすかった。家づくりへの情熱もすごくて、ここなら最大限やってくれそうだなと」と将隆さんは振り返る。木と鉄を組み合わせたインダストリアルな空間づくりを目指した家づくり。一番苦労したところを尋ねると「全て」と答えるご夫妻の言葉通り、随所にこだわりが散らばっている。ピットリビングや片持ち階段、吹き抜けの効果で圧迫感のない軽やかな空間のリビング。炎がよく見えるようにと、窓が大きいホンマ製作所の薪ストーブを選んだ。手前のリビングとダイニングキッチンが緩やかにつながる。中庭から入る日差しが心地よい。出迎える開放的なピットリビングと薪ストーブ玄関を入ってすぐ目に入るのは開放感のあるピットリビングと薪ストーブ。「冬に薪ストーブを焚いて、ここで寝転ぶのが一番好き」と笑顔で話す妻の麻記子さん。当初はペレットストーブを検討していたが、調べていくうちに薪ストーブに行き着いた。「薪ストーブは炎が美しいんですよね。よく2人で炎を見ながら座っています」と将隆さん。ピットリビングの段差は座りやすいようにと30cmを要望。段差には収納棚を設け無駄がない。ピットリビングに加え、3階までの吹き抜けや片持ち階段が空間を軽く演出し、家に入った時の開放感が心地よい。片持ち階段は木ごころに無茶を言ったと振り返る将隆さん。「普通、鉄を入れるところを、木だけにしてもらいました。階段下を収納に使う事も考えましたが空間がもったいないし、オブジェにしたいと思って」。「住宅街でも気をつければ薪ストーブを使えますよ。本当におすすめです」と将隆さん。厚みのある木製の片持ち階段。数センチ出した壁に階段を埋め込んだ。同時に複数人が利用できるようにと玄関は広め。右側に収納スペースがある。玄関のアクセントになる朱色の壁はご夫婦の提案で自ら塗った。塗装工場に行き、色のサンプルをもらい、塗り方を指導してもらったという。玄関を挟んでリビングの反対側に浴室がある。全体に温かみを出すため天井を木張りに。道路境界線から2mあるセットバック部分を生かし坪庭にした。ライトアップされた楓を見ながら湯船に浸かるのがご夫妻揃ってお気に入り。夫妻で作って食べて過ごすキッチンが中心の家ご夫妻が最もこだわったのはキッチン。2人とも飲んだり食べたりするのが好きで、麻記子さんは夫の誕生日にフランス料理のフルコースを振る舞うほど。そんなご夫妻がデザインをお願いする上でテーマとなったのは“キッチンが中心の家”だった。「長い時間いるキッチンを中心にして、孤立せずつながっているようなイメージがいいとお願いしました」と麻記子さん。結果、キッチンは緩やかなゾ-イングによって、リビングとつながる食事の場というより、リビングとつながる1つの居場所として、より広い空間として認識できる場となった。造作キッチンには強いこだわりがある。一緒に料理をすることが多いため、同時に水場を使えるようシンクを2ヶ所設けた。高さも2人が作業しやすいよう何度もシミュレーションをして決めている。さらに麻記子さんの提案でキッチンスペースの床を15cm下げた。「夫が料理せずに座っている時も、料理をしている私と目線が合って会話がしやすいようにしたいなと思って」。違うことをしていても同じ空間にいる人が自然とつながる工夫がされている。床から天井まである窓は室内に陽を送るだけでなく、キッチンに立つ人に開放感を与える。「孤立しない一番気持ちの良い空間にしたかった」という麻記子さんの要望通り、陽の入る明るい空間になっている。天板は木、デコリエ、ステンレスの3素材で作られた。特に厚さ5mmあるステンレス無垢板は、将隆さんが近所の工場に出向いて制作してもらった特注品で思い入れが強い。ここで豆を挽き、ピットリビングで淹れたコーヒーを飲みながらくつろぐ。食器棚は電動式で開閉が便利。料理好きならではのこだわり。リビングとキッチンに面した中庭。年中、屋内に陽が入るよう中庭と道路を隔てる壁の高さが調整されている。“共有”を重視する閉塞感のないプライベート空間階段を上がると、吹き抜けを中心に回遊できる空間が広がる。仕事をしたり読書をしたり思い思いの時間を過ごす共有空間はご夫妻の希望だった。「多く部屋を作るよりも、共有スペースを増やしてほしいとお願いしました。壁に設置した棚も誰が何を置いてもいいという考えで。妻の本を僕が読んだりして会話が生まれたり。そういったふれあいのきっかけにもなるかなと」と話す将隆さん。各部屋の収納を少なくした分、共有スペースでの収納を多くしたのは、共有を増やす意図に加え、物が散逸しないようにという考えもある。鵜久森家は寝室を除き、窓にカーテンがない。道路に接する北と南側に窓を極力設置しない代わりに、天井のはめ殺しや中庭を設けることで、住宅街にありながら、充分な採光をしつつ閉塞感を感じさせないプライベートな空間を作り上げた。住む人、訪れる人、誰もが同じ空間を共有したいと思わせる魅力が鵜久森邸にある。天窓から室内に陽が入り、天気が良い日は、陽が落ちるまで電気をつけなくていいほど。将隆さんが立つ先に寝室があり、階段は屋根裏につながる。寝室の中心にはオーク材で作られたキングサイズ以上の造作ベッドがある。右奥には季節外れの服を収納するスペースを設けた。2階には寝室とトイレの他に、使用していない部屋があり将来どのように使うか検討中。吹き抜け側に作られた読書用の机。「こっちで読むと足をかけられて楽なんです」と笑顔で話す麻記子さん。北と南の両側に道路がある土地の特徴を活かすため玄関を西側に。「両方向から出入りができて、敷地に入ってから玄関までのアプローチを長く取りたかった」と将隆さんのアイデア。設計株式会社 木ごころ所在地 千葉県船橋市構造 木造軸組工法規模 地上2階延床面積108㎡
2021年12月27日小さな白い箱をイメージして幼少期を過ごした実家を建て替え、2年前に都心から引っ越した石澤敬子さん。活気のある商店街を入ったところに、3階建ての白い箱が建つ。「バウハウスのデザインや、ル・コルビジェの“小さな家”が好きだったので、イメージはシンプルな白い箱でした。建築設計会社さんに、必要な間取りと大まかなイメージをお伝えして設計してもらいました」。引っ越してくる前に住んでいた六本木でも、自宅でワークショップやイベントを開いていた石澤さん。1階にはアトリエを設け、2階にLDK、3階にベッドルームと水まわりを設けることを決めていたそう。「もともと服を作るところから始まって、ものづくりが好きだったんです。自分の作品が作れて人を招くこともできる、可能性のあるスペースが欲しかったですね」。アトリエには大きなガラスの引き戸をリクエストした。格子状のガラス戸は、閉じれば緩やかな仕切りとなり、開け放てば玄関からひとつながりの空間に。「ミナ ペルホネン」に勤務する傍ら創作を楽しむ空間は、自ら選んだ世界各地からのインテリアで彩られている。引き戸を開け放てばひとつながりの空間に。アトリエは、服の制作、イベントやワークショップの開催など、石澤さんのブランド「moss*」の活動スペース。引き戸はガラスに、アイアンを格子状にあしらった枠でオーダー。テーブルは「ミナ ペルホネン」に海外から届くコンテナボックスを譲り受け、「マウンテンスタンダードタイム」に依頼して制作したもの。「ワイヤーハンガーの佇まいが好き」という石澤さん。心を惹かれる“華奢で味わいのあるもの”を集めたコーナー。自分らしさをMIX「使うパーツや素材などは、選んだプランの中で何種類か用意されていたのですが、家の顔となる部分など、どうしてもこだわりたかったところはこちらで探したものを使ってもらいました」。3階のテラスのアイアンの手すりはできるだけ細いものにこだわって、「マウンテンスタンダードタイム」にオーダー。2階のLDKにもキッチン収納と、壁付けのシェルフを造作した。「イベントなどを行うときは2階をカフェにしてゲストをおもてなしします。友人がキッチンに立ったりもするので、キッチンには余裕が欲しかったんです」。奥行きの深いステンレスのキッチンの上には、年代を感じさせるペンダントライトが。「古いミシンのオイル差しをアレンジして照明にしてあるんです。照明はすべてリバーサイドファームのものを選びました。古く見せて作っているものはあまり好きではなくて、今は新しかったとしても、年月が経ってやがて味が出てくるものが好きですね」。ダイニングスペースには、「パシフィックファニチャーサービス」のテーブルに、イルマリ・タピオヴァーラのヴィンテージチェア。社員旅行で訪れた北欧のロッピス(蚤の市)で購入したアンティーク雑貨、イギリスのマーケットで見つけたヴィンテージのラグや「サムエルワルツ」で手に入れたものなど、国やジャンルにとらわれずセレクトしたインテリアが、シンプルな空間に味わいを添えている。白とベージュのトーンに、古さを感じさせるインテリアが落ち着く2階のLDK。床は無垢材を選んだ。落ち着いた配色の中に、階段のアイアンの手すりや、キッチンの白いタイルがアクセントに。テレビボードにもなっているオープンシェルフは、「マウンテンスタンダードタイム」にオーダー。グリーンの鉢カバーは7月にアトリエで開催したルヴォンアフリクのイベントで手に入れたもの。アイランドキッチンの背面も「マウンテンスタンダードタイム」に依頼。ヴィンテージ感を感じさせる佇まい。古いオイル差しを使った「リバーサイドファーム」のペンダントライトに、スウェーデンのロッピスで購入した古い天秤をアレンジ。使い込んだ風情の「パシフィックファニチャーサービス」のテーブル。「リバーサイドファーム」の照明は、「サムエルワルツ」で購入。ビーチ材の曲木のトランクは「 Fanerfabrik A.B.」 の1940〜50年代のプロダクト。いつも上には花をあしらって季節のディスプレイを楽しんでいる。「ミナ ペルホネン」皆川明さんが創作した陶板のオブジェを飾る。スウェーデンの小学校で使っていたMOSS=苔の教材。蚤の市で発掘。創作意欲をかきたてる空間パブリックにも利用する1階と2階に対して、3階は完全にプライベートなスペース。ベッドルームとバスルーム、洗面に、広いテラスを設けた。「いずれはテラスでグリーンを育てたり、イスやテーブルを出して寛げるようにしたりしたいと思っているんです。以前は手狭だったけれど、今は余裕をもって生活を楽しむことができますね」。新しい建物に味のあるインテリアが溶け込んだ空間は、竣工後2年経ってより深みを増している。「だんだん自分らしい空間になってきたかな、と思っています。好きなもの、欲しいものを集めて暮らし、創作もできる。テレワークを行う時間もオフタイムも充実していますね」。ベッドルームの奥にはウォークインクローゼットを設けた。右手にベッドルームとほぼ同じ広さのテラスがある。レースのカーテンはパラグアイのもの。ベッドルームの入り口には、イラストレーター寺坂耕一さんの描いた絵を飾って。バスルーム、洗面、トイレはひとつの空間に。シンプルで清潔感に溢れる。リビングで寛ぐ家内製手工業人・石澤敬子さん。赤坂蚤の市で購入したレースのパーツを窓枠にあしらって。糸まきをアレンジした照明、「スタンダードトレード」のソファーテーブル、イギリスのアンティークのイスなど、好きで集めたものが白い空間に溶け込む。
2020年09月21日どこにいても明るい暮らし「家中のどこにも、暗く、じめじめしたスペースがないんです。明るく開放的に暮らせるのが、何より家を建ててよかったと思うところですね」。そう語るのは、整理収納コンサルタントとして活動している須藤昌子さん。9年程前、家族3人で暮らす2階建の一戸建てを設けた。「3分割されて売っていた土地を見つけ、ネットで探した一級建築士事務所に相談しました。隣家に接した土地なので、ここにどんな家が建てられるのかと思いましたね」。須藤さんの希望は、光の入る細かい仕切りのない家、そして収納にも配慮した家にしたいということだった。「それ以外はあまりリクエストしませんでした。プロの先生にお任せしたほうが、いいものになるのではないかと思って」。光に満たされた家は、優秀建築物として「第20回千葉県建築文化賞」を受賞。リビングの吹き抜けを取り囲むように、仕切りをできるだけ排した空間がつながり、“ガラスのブリッジ”と名付けた2階のガラス床を通って、トップライトからの光が1階へと抜けている。2階の廊下から1階リビングを見下ろす。“ガラスのブリッジ”は、まるで空を渡るような感じからネーミング。トップライトやバルコニーからの光が1階まで届けられる。螺旋階段を採用して、階段を抜けのある空間に。開口の代わりにプロフィリットガラスで外からの視線を避けつつ、光を通している。ガラス張りの吹き抜けテラスでは、いずれガーデニングも行う予定。廊下突き当たりの扉の奥は、玄関からもつながっているシューズクローゼット。ガラスのブリッジを通って居室に。右手にバルコニーに上がる階段がある。吹き抜けを介して光が回遊。隣家から見える左手の一角にはルーバーを設置した。琉球畳を敷いた和室からリビング方向を見る。すっきりと暮らせる工夫を「正面にはアパートが建っているので、そちら側には窓など一切ないんです。左右に建つ隣家からの視線も避けながら、うまく開口を設けて、明かりをとっています」。玄関を入るとガラスに囲まれたウッドデッキのテラス。その向こうに大きな吹き抜けのあるリビングがある。「海外からお客さんがくることも多いし、いずれ両親を迎えることになるかもしれないので、畳の和室を設けました。今は引き戸を常に開放して、リビングの延長として使っています」。開放的な上にすっきりと美しいのは、「モノを出しっ放しにしない」という須藤さんのルールが生きているから。「家を建てる前に住んでいたところは、押し入れが狭くて。戸建てを建てたら何とかしたい、というのがありました。庭があって物置を置けるわけでもないので、掃除道具や工具、生活必需品などすべてを収められる“シューズクローゼット”をリクエストしました」。玄関からもリビングにつながった廊下からも入れるよう動線を考えたストレージが、特に役立っているそうだ。床材はサクラの無垢を採用。エアコンも見えないように目隠しされている。白い空間にインテリアでアクセントを。塗り壁に見えるよう極力薄い壁紙を選び、職人の技で施工。開口の位置に工夫が凝らされた和室。黒い壁紙が印象的。「モノを置かない」ことに徹したダイニング。テーブル上は常に最低限のモノのみ。外からの視線を遮りながら、明るさで包んでくれるリビング。キッチン奥に家事ルームを希望「お料理をしながら、家族とコミュニケーションがとれるので、キッチンは対面式を希望しました」。キッチン台の前にはカウンターを造作。毎日帰宅の遅い夫が夕飯をとるのに、サーブしやすくて便利なのだそう。また、キッチンまわりでの作業が多い須藤さんにとって、大事なのがキッチンの奥にある“家事ルーム”。「パントリーでもあるのですが、私の仕事部屋でもあるんです。棚だけでなく机も造作してもらって、ここで毎朝ブログを書くなど、仕事をしています」。仕切りの引き戸はツインカーボを使っていて、戸を閉めて中に籠っても、やはり光が抜けるようになっている。「お風呂はいろんなパターンを考える中で、ホテルっぽくすることに決めました。ガラス張りの真っ白な空間だけに、きれいにしておかないと汚れが目立ってしまいます。お掃除の手は抜けませんが、常に清潔に保てるので良かったと思っています」。対面式のキッチン。収納などは使いやすさを考えて造作した。掃除のしやすいステンレスのキッチン台。大きなシンクに付いているトレーの上では、パンをこねたりもでき、さらにそのまま洗えて便利。こだわりの家事ルーム。食材だけでなく、仕事や日常に必要な書類を保管。造り付けの机では執筆活動も行っている。清潔感いっぱいのバスルーム。床にはLIXILのサーモタイルを。築9年とは思えない美しさ。空とつながるトップライト2階の居室は、天空を渡るような“ガラスのブリッジ”がつなぐ。「娘の部屋は、真ん中に可動式のクローゼットを置いてシンメトリーに仕切っています。しっかり勉強してもらわないといけない時期なので(笑)、勉強するスペースと遊ぶスペースを分けているんです」。どちらのスペースも、上にはそれぞれロフトがつき、いずれはどちらかをベッドルームにする予定だそう。大きな開口の向こうには、青い空が抜けるように広がっている。「夜は星空が見られてきれいですよ。住宅地にあって明るく、自然も感じられる、開放感のある暮らしを楽しんでいます」。中央に可動式クローゼットを置くことで、シンメトリーになった子ども部屋。左右の階段からロフトにあがることができる。無駄なもののない主寝室。衣類などはウォークインクローゼットに一括に。子ども部屋のロフトの床にもガラスを採用。空からの光が降りてくる。ファサードに開口のない、白い箱のような潔い外観。ブログ「ROOM COZY」が大人気。整理収納コンサルタントの須藤昌子さん。著書に「死んでも床にモノを置かない」(すばる舎)なども。
2020年05月04日“素材と動き”を追求「家を機能的にしたかった」と語るのは中村圭介さん。妻の奈保子さんともにグラフィックデザイナーである。「動線を生活するうえで使いやすいものにしたかった」という。中村家での家づくりに関しては明確に担当分けがあった。動線など家の機能面に関しては奈保子さんと話をしながら中村さんがまとめ、素材やデザインのテイストなどは奈保子さんが決めていったという。敷地の面積は考えていたよりも狭めだったが目の前が公園で視線が抜けるという立地が購入の決め手となったという。この2階の大きな開口は木のフレームも含め夫妻がリクエストしたもの。設計を依頼された建築家の佐々木達郎さんはお2人のこの担当分けについてこう話す。「中村さんが白くてミニマルなキャンバスをつくって、奈保子さんがそこに自由にモノを置いていく。そんなイメージを持っていました」奈保子さんも重要だったのは「素材と動き」だったと話すが、夫妻と佐々木さんとの間でかなりのやり取りが交わされたという。「けっこうやり取りをしましたね。初期のらせん状のプランもすごく面白かったのですが、僕らの考える動線とは違う考え方、暮らし方で家ができていた。それに対して、もうちょっとここをこうしたいああしたいといってオーダーを出していったら中途半端な感じになってしまった。次案も同じようにオーダーを出していってそれで決まりそうだったんですが、最後に佐々木さんが“これどうですか”とバンと出してきたのがほぼ今の形のもので“あっ、こういうことです”みたいな感じでしたね」(中村さん)2階のスペースを公園側から見る。左の箱の中は奈保子さんの仕事のスペースで、その上がロフトになっている。キッチンは「木の種類をこれ以上増やしたくなかった」ため、ステンレスにした。奈保子さんの仕事場を階段側から見る。大量の本を収める棚はLDKから見えない部分につくった。すっきりとした印象のキッチン。冷蔵庫は奥の左側に置かれている。収納家具の素材には合板を使用した。“気持ちのいい場所”をつくるこのプランはやり取りの中で佐々木さんがお2人の志向されている方向・内容を把握した結果、出来上がったものだが、これには中村家のライフスタイルが大きくかかわる。「僕が仕事で帰りが遅いので平日は朝だけごはんを3人で一緒に食べる。あとは彼女が家で仕事をして、娘が保育園から夕方帰ってきてからは彼女たち2人の生活になる。土日のメインは3人でご飯を一緒につくって食べてる。こういう必要なことだけ、重要なことだけを快適にしたいというのがありました」(中村さん)「ふつうにリビング、ダイニングを取っていくのではなく、仕事をしてちょっと休憩してご飯を食べてっていう一番長い時間を過ごすこの2階のスペースがいちばんいい場所、気持ちのいい場所であってほしかった」。こんな中村さんの思いから発して出来上がった2階のスペースはダイニングに平行して奈保子さんの仕事のスペースがあるというつくりになった。ロフトから見る。「好きなものだけを置いて、雑多なものが目に入らないようにした」という室内は、この通り、すっきりとしたスペースになっている。表と裏収納の考え方も特徴的で、壁1枚を間に挟んで“表”と“裏”に分けて、裏、つまりふだんは隠れて見えない場所にほとんどのモノを収納してしまい、表側はきれいすっきりに保つ。2階は“裏”である仕事部屋と収納スペースにほとんどのモノが収められて、テーブル、イス以外にはモノがほとんどない状態だが、1階も同様だ。服類は廊下の裏側、寝室とユーティリティを結ぶ通路の両脇にまとめられている。このウォーク“スルー”クローゼットとユーティリティの関係がユニークで面白い。室内干しにすることを強く望んだ奈保子さん。中村さんの北海道の実家のやり方を見習って洗濯物をそのままハンガーにかけて干すようにした。そして乾いたらたたまずにそのハンガーごとクローゼットに収納する。「洗濯物を抱えて家を横切って行ったり来たりみたいなのはいやだなっていうのはずっとありました」という奈保子さん。このつくりでずいぶんと手間が省けただけではない。このスペース自体が「非常に快適」という。「干していて苦にならないだけでなく、誰に見せるというわけでもないんですが、非常に満足感がありますね」階段室に吊り下げられたライトは佐々木さんがむき出しのオブジェ的に見えるものがいいのではと選んだもの。階段の素材を上下で変えるアイデアは奈保子さんからのもの。奈保子さんお気に入りのスペース。手前を左に入るとウォーク“スルー”クローゼットでその奥に寝室がある。洗面の左側が浴室になっている。寝室側から見る。階段前から見る。室内干しを前提につくられたスペース。洗濯したものをハンガーにかけて干し、乾いたらそのまま右のクローゼットに収納する。動線に無駄がないうえにたたむ手間も省ける。「空間がつながっている感じにしたかった」ため、戸はすべて引き戸にしている。室内に「オランダのギャラリーみたいにざっくりした感じ」を求めた奈保子さん。写真を置いたこのスペースはまさにギャラリーの空気感。1人だけで部屋にこもることはないと思い自分の部屋をつくらなかった中村さん。左がキャンプ道具や釣り道具などを置いた唯一の自分だけのスペース。奈保子さんがオランダで気に入って購入したというペイパーホルダー。トイレの扉には娘さんの描いた絵がサインがわりに貼られていた。子どものための空間中村さんのつくった白いキャンバスに奈保子さんの目に適ったモノを置いていく。それにさらに加わってこの家の空気感をつくり出しているのが娘さんの描いた絵だ。これがよく描けているだけでなく1階の壁に貼られたものは場所場所のキャラクターを絶妙にとらえている。「あれは本人が勝手に描いたものですが、よく描けているなあと思って貼りっぱなしにしている」(奈保子さん)という。実はこの中村邸のプラン、生活動線の面から検討を重ねただけでなく娘さんのことも考えたものという。「プラン的に回れるような感じにすることも考えましたね、子どもには面白そうだろうと。実際、初めてここに来たときもすごい気に入ってくれて」。「ぐるぐる回って追いかけっことかしていますね。2階だけでなく下でもぐるぐる回ってます」「僕が小さいときに遊びに行った親戚のうちがぐるぐると回れるつくりになっていてそれがとても面白かったという体験があるんですが、この家はその家とは違うタイプの空間だからどうなるのかなという楽しみはありますね」。2階につくった奈保子さんの仕事場とダイニングを仕切る壁には扉がなくぐるぐると回ることができるようになっている。そしてダイニングに面した壁面のほうには娘さんの絵が貼られている。自分たちの思いを実現できた中村夫妻はもちろん、彼女も大満足の家になっているのではないだろうか。ダイニングに面した壁には娘さんの絵が飾られている。キッチンから見る。ライトはプルーヴェの「Potence」で佐々木さんのセレクション。外観のミニマルな印象はサイドに玄関をつくったことにより強まっている。中村邸/House-NA設計佐々木達郎建築設計事務所所在地神奈川県横浜市構造木造規模地上2階延床面積87.76㎡
2019年12月23日和にモダンを融合させて祖父、叔母が暮らした土地に新居を建てることになったSさんご一家。建築家を探す中で、デザインライフ設計室の青木律典さんに出会う。「作品集を見て、感性が合うなとピンときたんです。素材の使い方、線の収め方、そういうものがぴたりとはまりました」。夫はIT関係のデザイナー。もともと建築やインテリアが好きで、こんな家にしたいというイメージはある程度固まっていた。「日本住宅の良さも残しつつモダンな感じのある家、それまでに買い集めていた北欧の家具がなじむような家にしたい、とリクエストしました」。「家づくりノート」を作成し、青木さんとイメージを共有しながらプランニング。やや赤みがかったグレーの外壁に包まれた、控えめな開口の一軒家は2年程前に完成した。屋根に高低差をつけることで斜線規制をクリア。2階のフィックス窓、半室内のベランダ横の開口が、外に向かって開いている。ジョリパット仕上げの外壁は、たくさんのサンプルの中から色味を選び、ざらつき具合も確認しながら塗装してもらったそう。天気によって色味の変化も感じられる。清々しい雰囲気の玄関アプローチ。ドアはピーラーで。玄関から、スキップフロアで1階へとつながる。閉じながら外とつながる室内「外に対しては閉じたいけれど、中は明るく開放的にしたい、という矛盾したリクエストを頂きました(笑)」というのは、青木さん。駐車場を挟むものの、敷地の前には集合住宅がありベランダと向かい合わせに。この問題をどう解決するかが設計のテーマだった。「外からの視線を避けるために、リビングとつながる屋根のかかったテラスを設けました。正面は塞ぎながらもサイドに開口を設けることで、光と風が家の中を通り抜けます」。リビングからフラットにつながったこのテラスは、ガラス、簾、障子の3段階の引き戸で仕切ることができ、開け放つとリビングの一部に。集合住宅に面した正面は塞がれているので、プライバシーは守りながらサイドの開口の先から隣地の借景が楽しめる。「家の中は、1階から階段を通って2階まで吹き抜けになっていて、2階北側の窓から、対角線を通って南のスリット窓に光が抜けます。つながった空間にすることで開放感が生まれます」。仕切りには全て引き戸が使われていて、開ければ家全体がひとつの空間に。角を丸く仕上げた漆喰の白い壁と天井が流れるように連続して、光とともに包み込まれるよう。リビングからつながった半室内的なテラスは、日本家屋の広縁のようでもあり、色々な使い方ができる。テラスにはサイドと屋根に開口があり、光と風が通り抜ける。仕切りには造作した木枠のガラス窓、簾、障子の引き戸を。持っていたテーブルに合わせて設計してもらった書斎コーナー。階段上の開口から、光が降りてくる。ナラの床材が気持ちいいリビングダイニング。漆喰の壁が光の反射を受けて陰影を出す。ジャスパー・モリソンのソファーの置き場所も考えて設計。トップライトから光が入るダイニング。アルネ・ヤコブセンのセブンチェア&楕円テーブルに、ルイス・ポールセンのペンダントライトを。北欧家具が活きる空間に「もともと北欧が好きで、家具や照明、雑貨などたくさん買い集めていたんです。それに合うように設計してもらいました」。1階の玄関からスキップフロアで上がった空間は、持っていたテーブルがちょうど収まるように設計。家族全員でそれぞれの時間を過ごせる書斎のようなスペースを確保した。「主人が仕事をしたり、子どもたちが勉強したり。ダイニング以外にみんなが集える場所があるのは重宝していますね」。という妻は、一方でキッチンだけは独立した空間を希望。「永田昌民さんが設計した大橋歩さんの家のキッチンに憧れていて、一直線の独立したキッチンにしてほしいと、青木さんにお伝えしました。来客時には引き戸を閉めれば作業しているところが見えないし、匂いも遮断できます」。収納棚は、集めていた北欧の食器などがすっきり収まるように造作。愛読書や雑貨も並んだ、趣味の空間のようなキッチン&パントリーには、やはり外からの視線を遮るため、窓の外側に木製のルーバーを設置した。仕切りを設けてあえて独立させたキッチン。キッチン台やオープンシェルフはアッシュで造作。手前にはパントリーがあり、収納もたっぷり。もともと北欧好きで、「かもめ食堂」を観てさらにはまったという妻。北欧の食器などがずらりと並ぶ。隣家の視線を避けるため、窓の外にルーバーを設置。吊り棚の底面は、洗いものをそのまま置くことができるよう工夫されている。パントリーには、これまでに買い集めた北欧雑貨、本、テレビもあり、趣味の部屋として籠って過ごすこともできるスペースとなっている。玄関を開けると現れる扉は、夫の仕事場への入り口。目立たない取っ手を選んであえてプレーンに。天井高と開口からの光で狭さを解消した仕事部屋。無印良品のファイルケースに合わせて棚を造作。1階の主寝室は天井を2フロア分の高さにして、ハシゴであがるロフトを設けた。2階リビングと接する壁には、障子の窓も設けている。2部屋並んで設計されている子ども部屋は、造作の机の間をあえてオープンに。いずれ仕切って使うことも可能。主張のない意匠が心地いい「住み心地がいいのは、やはり建築家さんと感覚が合うからでしょうね。気づかないけれど縦の線、横の線が何気なく同じラインに揃えられていて、すっきりと収まっているところなどに居心地の良さを感じます」。例えばリビングと吹き抜けのホールの間の仕切りは、階段の90cmの高さの手すりから連続。さらに、それに連なるように障子の桟やスリット窓の高さも設定されている。細かなところのこだわりが、無駄のない空間を生んでいる。「夫婦ともすっきりとした空間が好きなんです。北欧デザインが好きなのも、主張のない普遍的なデザインに惹かれるから。この家にも普遍的な魅力を感じます」。隣家との距離が近い南側は、あえてスリット状の開口に。右側の開口部は、1階の主寝室とつながっている。閉めると障子に。壁はすべて床から少し浮かせることで劣化を防ぎつつ、デザイン性を高めている。フィンランドの蚤の市で購入したアラビアのプレートなどを飾る。リビングで寛ぐことも多いご一家。スピーカーは埋め込みに、テレビは壁付けにしてすっきりと。テレビ下の収納は、壁の向こう側のパントリーの空間を活用して奥行きを取り、リビング側はすっきりと薄いデザインに。S邸設計デザインライフ設計室所在地横浜市構造木造規模地上2階延床面積111.05㎡
2019年10月07日雑誌で見つけた家に一目惚れ広告代理店勤務のご主人とレコード会社勤務の奥さま。共働きのご夫妻は、最初のお子さんが誕生してまもなく、奥さまの実家の近くに家を持つことを考えた。「2人とも働いているので、子どもが突然熱を出したときなど、頼れる人が近くにいたほうが心強いと思って」(奥さま)。土地を探すこと2年。ようやく出会った土地が、奥さまの実家からなんと徒歩1分。近くには昔ながらの商店街や大きな公園もあり、子育て環境にもベストな場所だった。土地を購入後、「自分たちでゼロから造れるチャンス」と、家づくりの研究を始めたご夫妻。雑誌で見つけたある住宅に一目惚れし、その住宅を手掛けた直井建築設計事務所に設計を依頼した。「実際にその家にうかがって、ご主人にこだわりなどを聞かせてもらいました。洗練された雰囲気や内と外がつながる感じなどいろいろ参考にさせてもらいましたね」(ご主人)。また、お2人の好きな雰囲気の写真をPinterestやインスタグラムからピックアップし、言葉で表現しづらいイメージを写真で建築家へ伝えていったという。床のタイルや黒いフレームがスタイリッシュな印象。一目惚れした住宅からヒントを得たもの。東京・世田谷の閑静な住宅街に建つ。モダンで落ち着いた佇まいが地域に馴染んでいる。奥さまの希望で玄関前にベンチを設置。お嬢さんが靴を履くとき、置き配のときなどに重宝。ウォールナット材の床が気持ちいい玄関ホール。写真は、現在4歳になるお嬢さんが生まれて100日目(右)と初めて立ったとき。玄関脇のシューズクローゼット。上部も収納スペースになっていて、2階のパントリーからも収納可能。1階の寝室。たっぷり収納できるクローゼットを併設。M邸のエアコンはすべて隠して設置(上部)。家族がつながるワンルームMさん夫妻がこだわったのは、2階はドアのないワンルームにすること。リビングもダイニングもキッチンも、そして書斎も一続きにした。「寝るとき以外はリビングで過ごすというのが、家族の在り方だと思っています。僕もそうでしたから。勉強もリビングでしていましたね」とご主人。奥さまも、「どこにいても家族が感じられるようにしたかったんです」という。インテリアのアクセントであり、クールでモダンな雰囲気を盛り上げているのが、黒い木枠のパーテーション。「どうしても子どものものはゴチャゴチャしがちなので、部屋を分けて、隠したかったんです」(奥さま)。物が置かれて雑多になりがちな下部は隠すことができ、上部は空いていて空間のつながりを感じられるパーテーションは理想的な形であった。現在は、仕事を持ち帰ったご主人の書斎として使われることが多いデスクスペース。「仕切りがあることで落ち着いて仕事に集中できる」という。ゆくゆくは子どもたちの勉強スペースとしても活躍しそうだ。また、お子さんが大きくなったときには、現在のおもちゃスペースには本棚やソファを置くことを構想中。子どもの成長に合わせて変化する余白スペースとなっている。パーテーションの奥が書斎スペース。程よく目隠しができ、LDKはいつもすっきりした印象に。書斎は、ゆくゆくは子どもたちの勉強スペースに。パーテーションにより集中力もアップ!書斎の奥には、お嬢さんのおもちゃスペースが。「私たちが近くにいるため、安心して遊んでいます」。天井高の変化でゾーニング「ここは3階建てにすることも可能でしたが、天井はマックス高くしたいとリクエストしました」(ご主人)。テラスに続く開口は高さ3.5m。カーテンを取り付けず、グリーンを上手に目隠しとして使い、大きな窓から降り注ぐあたたかな自然光を楽しんでいる。床は無機質な雰囲気にするためにタイルをセレクト。外でも使用できるタイルをチョイスし、LDKからテラスへと同一のものを敷き詰め、統一感を意識した。建築基準法の高さ制限で、低くするしかなかったというキッチンや書斎部分の天井は、リビングよりもやや低めに設定。異なる高さによる空間の変化がさらなる居心地の良さをもたらしている。テラスまでフラットにつながり開放的。『IKEA』で購入したという一点もののペルシャ絨毯は奥さまの希望。テラスからリビングを見る。手前のアカプルコチェアはご主人のお気に入り。「夜、ワイン片手にここで過ごす時間が至福のときです」。ダイニングテーブルに合わせて設計「家族と会話をしながら、また子どもの様子を見ながら料理や作業ができるようにしたかった」と対面式のキッチンを希望した奥さま。「片付けが苦手」とのことで、収納は多めにリクエストし、手元は見えないように立ち上がりを高く設定してもらった。ダイニング側からはシンクや作業台が見えないため、たとえ散らかっていても安心である。キッチン前のダイニングスペースは、『マルニ木工』であらかじめ購入していたダイニングテーブルのサイズに合わせて設計。「ミーハーなので(笑)、『スターバックス』や『アップル』が『マルニ木工』の椅子を使用しているという記事を読んで、この2社が認めているなら間違いない(笑)と欲しくなったんです。椅子に合わせてテーブルも衝動買いしちゃいました」(ご主人)。『マルニ木工』で購入した椅子とダイニングテーブル。テーブルのサイズに合わせて、このダイニングスペースは設計された。シンプルで厨房感のある『サンワカンパニー』のステンレスキッチン。「好みに合わせてカスタマイズできたのがよかった」とのこと。カウンターキッチンのダイニング側は収納になっている。パーティ時などコップがすぐに取り出せ、便利。パパ友、ママ友も集う家「人が集える家」もM邸のテーマのひとつ。ワンルームでつながり、居場所もたくさんあるM邸には、すでに、ご両親やごきょうだいの家族、ママ友・パパ友たちがよく集まっているそう。ワンルームのため子どもたちの様子を常に見渡すことができ、大人たちも安心して会話が楽しめるという。「独身時代は、キッチンは書類置き場でした」というご主人。結婚して子どもができ、家事を手伝うようになって初めて料理を覚えたという。そして、新しい家ではパーティでもふるまうようになった。「みんなに褒めてもらうと嬉しいようで、どんどん腕をあげています」と目を細める奥さま。集まったパパ友たちと食材や調理道具の話に花を咲かせているという。「以前は、僕も妻もとても忙しくて寝るだけの家だったのが、子どもができ、働き方改革もあって、家で過ごす時間が増えました。良いタイミングで家を建てたと思います。これからますます家で楽しむことを見つけていきたいですね」(ご主人)。ご夫妻とお嬢さん、生後2か月の息子さんの4人暮らし。「子どもたちがソファの上で暴れても汚しても大らかに見ていられるよう、今は『IKEA』のものにしています」。いずれは『アルフレックス』にしたいそう。渋谷の『トランクホテル』をイメージしたサニタリールーム。天窓からたっぷりの光が入る。キッチンとパントリーの横に配されており、家事動線は抜群。M邸設計株式会社直井建築設計事務所所在地東京都世田谷区構造木造規模地上2階延床面積127.06㎡
2019年09月16日