自主映画界で活躍してきた25歳の気鋭監督・二宮健の商業映画デビュー作『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTYーリミット・オブ・スリービング ビューティー』に、園子温監督のAmazonオリジナルドラマ「東京ヴァンパイアホテル」などで注目を集める桜井ユキが映画初主演。高橋一生がその恋人役を務めることになった。小さなサーカス団でマジシャンの助手をしているオリアアキ(桜井ユキ)、29歳。女優を夢見て上京してから10年。サーカスに入団したころは若く美しかったアキも、30歳を目前に、生きる目標すら見失い、モラトリアムな日々を繰り返していた。アキはステージの上で、マジシャンの催眠術にかかるふりをする。体を浮かされ、剣に刺され、催眠状態を演じているうちに、妄想と現実の境界が揺れ、自分が生きてきた人生の軌跡、過去の疑問と屈折が彼女の中を駆け巡る。やがてアキの精神状態は、現実と妄想の2つの世界を行き来するうち、徐々に摩耗していく。そして2つの世界の境界が壊れようとしたとき、アキの人生再生がはじまる…!?中学時代から40本以上の自主映画を作りつづけ、『SLUM-POLIS』(‘15)、『MATSUMOTO TRIBE』(‘17)など、発表される作品が立て続けに注目を浴びる二宮監督の、満を持しての商業映画デビューとなる本作。現実と妄想の目まぐるしい交錯を描くオリジナル脚本も自ら手がけ、緻密な映像で見せる高揚感に満ちた世界観は、これまで誰も見たことのない挑発的な作品となった。物語の主人公・オリアアキは、29歳の売れない女優であり、毎日、小さなサーカス団でマジシャンの助手をしているが、ルーチンワークのように繰り返されるのは、催眠術にかかるという演技。やがてアキの精神は徐々に摩耗し、いつしか現実と妄想の境界が破たんを迎えようとする中、唯一、美しい思い出として恋人・カイトとの時間だけ残る。そのアキを演じるのは、本作が映画初主演となる桜井さん。石井岳龍監督の『ソレダケ/that’s it』、三池崇史監督の『極道大戦争』、さらに園監督の『新宿スワン』『リアル鬼ごっこ』と日本映画界が誇る鬼才監督の作品に立て続けに出演し、2016年にはドラマ「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」にも出演。最も勢いのある女優の1人としてアツい視線を注がれており、本作が描く特異な世界観の中でも鮮烈な演技を披露する。そして、アキの恋人・カイトを演じるのは、いま最も女性を熱くする男として大河ドラマ「おんな城主 直虎」、次期朝ドラ「わろてんか」、映画『blank13』『嘘を愛する女』など話題作が目白押しの高橋さん。その柔和な魅力が、スタイリッシュな映像美の中でひと際光るはずだ。そのほか、成田凌、満島真之介らの出演も見逃せない。過去と現在、現実と妄想。観る者を縦横無尽の世界に引き込んでいく力強い映像で綴るのは、意外にも人間の根源に迫る骨太のヒューマンドラマ。今後の続報にも、注目していて。『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY』は10月、新宿武蔵野館ほか全国にて順次公開。(text:cinemacafe.net)
2017年07月03日『22年目の告白―私が殺人犯です―』が大ヒット公開中の藤原竜也が日本全国民から命を狙われることになる凶悪犯を熱演、大沢たかお、松嶋菜々子らと共演した『藁の楯』が6月30日(金)に「金曜ロードSHOW!」にて放送される。漫画「BE-BOP-HIGHSCHOOL」で知られ、その後映画監督、小説家へと転身した木内一裕の「藁の楯」を原作に、『テラフォーマーズ』『無限の住人』などの三池崇史監督がメガホンを取って映像化した本作。少女を殺害した罪で逮捕され出所したばかりの清丸国秀(藤原さん)が再び殺人事件を起こす。殺された少女の祖父で財界のドンの蜷川(山崎努)は清丸を殺せば10億円を支払うという新聞広告を掲載。命の危険を察して福岡県警に自首した清丸は警視庁のSP・銘苅(大沢さん)と白岩(松嶋さん)、捜査一課の奥村(岸谷五朗)と神箸(永山絢斗)、福岡県警の関谷(伊武雅刀)の手で九州から東京まで移送されることになる。だが清丸の居場所は何者かの手によってネット上でリアルタイム実況され行く先々で思わぬ刺客が現れる。いつどこで誰に襲われるかわからない状況下で清丸の残忍な本性に触れ「彼を守ることに意味があるのか」と自問する銘苅たちは、「仲間の中に裏切り者がいるのでは」と精神的にも追い詰められていく。果たして彼らは、リミットの48時間以内に1,200km先の東京に無事にたどり着くことができるのか…というストーリー。『22年目の告白―私が殺人犯です―』では美しい容姿と不敵な笑みを浮かべる“絶対に捕まえられない殺人犯”を演じた藤原さんが、そこに存在するだけで誰もが殺意を覚えるほど憎たらしい“クズ役”を見事に怪演。『世界の中心で、愛をさけぶ』『ストロベリーナイト』の大沢さん、「営業部長 吉良奈津子」や「砂の塔~知りすぎた隣人」などの松嶋さんをはじめ、『日本のいちばん長い日』や本作の三池監督の最新作『無限の住人』にも出演している山崎さん、『夜明けの街で』「地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子」の岸谷さん、『真田十勇士』『闇金ウシジマくん ザ・ファイナル』の永山さん、『SPACE BATTLESHIP ヤマト』『利休にたずねよ』などの伊武さんといった豪華キャストが顔をそろえた。カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品された戦慄のエンターテインメント大作『藁の楯』は6月30日(金)に日本テレビ系「金曜ロードSHOW!」枠で放送。(笠緒)■関連作品:藁の楯 わらのたて 2013年4月26日より新宿ピカデリーほか全国にて公開(C) 木内一裕/講談社 (C) 2013映画「藁の楯」製作委員会
2017年06月30日アカデミー賞を主催している映画芸術科学アカデミーが、公式サイトにて今年のアカデミー新規会員候補を発表した。57か国、774名の候補の中には日本人の名前も。俳優部門に真田広之、菊地凛子、監督部門に三池崇史、ドキュメンタリー部門・フィルム編集部門の2部門に『ミリキタニの猫』の出口景子らが発表されている。アカデミーは去年と同じく会員の“多様性”を課題としており、今年の新規会員の39パーセントは女性、30パーセントが有色人種、7部門が女性のメンバーが男性より多く、19歳(エル・ファニング)から95歳(ベティ・ホワイト)と幅広い年齢層から選んだ。家族のつながりも大切にしているようで、アナ・ファリス&クリス・プラット、カリーナ・ラウ&トニー・レオン、『ムーンライト』のプロデューサーのアデル・ロマンスキー&撮影監督のジェームズ・ラクストンは、夫婦でリスト入りを果たしている。会員候補者たちは、アカデミーの招待を受け入れれば、秋には正式な会員となる。通常、ほとんどの候補者たちが会員になるが、過去にはヴィゴ・モーテンセンが2007年に『イースタン・プロミス』で主演男優賞にノミネートされた後、会員候補となったが辞退。2016年に『はじまりへの旅』で再び主演男優賞にノミネートされた際、「もしまた会員候補にしてくれるなら今度はぜひ会員になりたい」と「The Wrap」に語っていた。その言葉を受けてか、ヴィゴは今年、再び会員候補入りしている。(Hiromi Kaku)
2017年06月29日ゲストの「人生で最高においしかったものの“お話”」を味わう「人生最高レストラン」。その6月24日(土)今夜放送回に来週末から公開される映画『忍びの国』に出演している俳優の伊勢谷友介がゲストとして登場する。同番組は“料理を一切出さない”かわりに、いま観たい、話を聴きたい“時の人”であるゲストが語る“人生最高の一品”を、視聴者がまるで味わうように追体験できる新感覚グルメ・トークバラエティ。MCの徳井義実とTBSアナウンサー・笹川友里がゲストの「人生で最高においしかったもののお話」から思い出や苦労話などのエピソード、価値観や人生の愉しみ方などを引き出していく。今夜のゲストである伊勢谷さんはモデルから俳優へと転身。1999年に『ワンダフルライフ』で映画初出演を飾ると、紀里谷和明監督作『CASSHERN』や2006年公開の中島哲也監督による『嫌われ松子の一生』、羽海野チカの人気コミックを映画化した『ハチミツとクローバー』などへの出演を経て、『あしたのジョー』の減量して過酷な撮影に挑んだ力石役、『るろうに剣心 京都大火編』『伝説の最期編』の四乃森蒼紫役、『ジョーカー・ゲーム』の結城中佐役、『新宿スワン』シリーズの真虎役、『劇場版 MOZU』の高柳隆市役と、いずれも観客に強い印象を残す役柄を演じ、2011年には「日本映画批評家大賞」助演男優賞、2012年には「ブルーリボン賞」助演男優賞「日本アカデミー賞」優秀助演男優賞を受賞している。また2009年にはNHKドラマスペシャル「白洲次郎」で白洲次郎役を演じて主演したのを皮切りに2010年には大河ドラマ「龍馬伝」、15年の大河ドラマ「花燃ゆ」などTVドラマにも進出。「人類が地球に生き残るためにはどうするべきか?」という命題に基づいたリバースプロジェクトの代表も務めるなど、多彩な活躍を見せている。そんな伊勢谷さんが、石原さとみ、桐谷美玲など名だたる俳優が虜になった料理を紹介してくれるほか、プライベートトークなどでも盛り上がる。今回のゲストである伊勢谷さんが信長の次男・織田信雄の家臣・日置大膳役で出演する『忍びの国』が7月1日(土)より全国東宝系にて公開。『殿、利息でござる!』『予告犯』の中村義洋監督が「のぼうの城」の作家・和田竜による同名小説を映画化。戦国時代を舞台に天下統一に向けひた走る織田信長が、ただ一国だけ手出しすることを禁じた国・伊賀の「忍び」の軍団と、父の命を破り伊賀を攻めんとする信長の次男・織田信雄ら織田軍との壮絶な大合戦を描く戦国エンターテインメント超大作。「嵐」大野智が無門を演じて主演、伊勢谷さんはじめ、石原さとみ、鈴木亮平、「Hey!Say!JUMP」知念侑李などが出演する。また伊勢谷さんは三池崇史監督による人気コミックの映画化作品『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』にも出演、こちらは8月4日(金)より全国にて公開。「人生最高レストラン」は6月24日(土)23時30分~TBS系で放送。(笠緒)
2017年06月24日「"無限"とは"時間"や"時空"ではなく、"想い"なのだと感じています。限りの無い"想い"。それは"永遠"と呼んでもいいものだと思います」俳優・木村拓哉にとって『武士の一分』(06年)以来、約10年ぶりの時代劇主演となる映画『無限の住人』。沙村広明氏の人気漫画が初の実写化、さらに木村と三池崇史監督の初タッグということもあり、メディアは大々的に取り上げた。SMAP解散騒動で日本中に激震が走った2016年1月、木村は不死身の侍・万次をようやく演じ終える。2015年10月5日、映画化が発表されたあの日から、どれだけの人がこの作品を話題にしてきたのだろうか。冒頭にあるのは、「無限とは?」に対する木村の答えだ。公開初日を迎えた2017年4月29日、舞台あいさつの壇上で「客席の皆さまのものになりました」と引き締まった表情で呼びかけた木村。今回の連載は「∞」になぞらえ、8名のスタッフの証言をもとに、『無限の住人』が「皆さまのもの」になるまでの「無限の想い」をまとめた取材記録である。8人目は、木村の起用ありきだったと語る三池崇史監督。最終回となる連載第20回は、過酷な現場を共にしたからこそ語れる「俳優・木村拓哉」について。その"無限の想い"をここに書き留め、「8人の証言者」最後の言葉とする。○役と運命的に出会う「特別な存在」――万次と同じ不死身の剣士・閑馬永空(市川海老蔵)との"死闘"が印象的でした。それぞれが抱えるものが交錯して、引き込まれてしまいました。あのシーンを撮っている時、SMAPの解散報道はあったはずですが、麻央さんのご病気については発表されてない時期だったと思います。それを知った上であの芝居をあらためて見ると……役者というものは、役と出会い、演じるタイミングがあるんですよね。今しか出せない気配というか、においというか。海老蔵は、それを残す運命を持っている人間なんだなと思いました。特別な存在ですね。――――技術的なことだけでなく、どのような人生を歩んでいるかも、演じる上では大切ということなんですね。そうですね。木村拓哉もそうですが、市川海老蔵もすごいですよ。歌舞伎の表現を広げようとし、もっと研ぎ澄まそうとしている。常に戦ってますよね。僕を歌舞伎に引っ張り出すんですよ? 今まで2本、歌舞伎をやりました。「えっ? 俺が歌舞伎の演出をやるの?」と耳を疑いましたよ(笑)。古典と同じで、彼は成田屋として引き継ぐものを引き継ぎながら、伝統を守っていくだけが仕事だけじゃないと考えている。伝統は伝統で次に伝えていく。それをやりながら何を生み出していくか。彼の「欲のない貪欲さ」は、すごくピュア。歌舞伎はもっとすごくなる、すごくできるんだと。だから、あの人は会うたびに成長しているんです。○「行けるところまで行きたい」の役者魂――同じようなことが木村さんにも言えると。木村拓哉は媚びない男です。そして、エッジが利いている人間でもある。技師や若いやつとの方と積極的にコミュニケーション取りますからね。そういえば、出来上がりを一緒に観たカメラマンの北(信康)さんも驚いてましたね。身体能力と反応がハンパないと。捉え方にも感心していました。彼は、「スタッフがいないと何も始まらない」ということを知っている。自分たちだけでは何も表現できない。とはいえ、「みなさん一緒にがんばりましょう」とは言わない人。無理やりその場を盛り上げようともしない。「みなさん真剣にやってるかもしれないですけど、俺の方が10倍真剣でガチでやってますよ」という背中を見せるだけ。テストからグワーっと暴れまくり。そして、どんなに長いセリフだろうが、抜けることはまずありません。独眼でやっているわけですからね。朝から晩まで、飯を食う時だって片目は見えないわけですから。普通だったら、ストレスでダメになりますよ。でも、彼は「これが万次だから」と。草履をはいたまま、全部の立ち回りをやる。靴を履いて足を守った方がいいに決まっています。ケガをしたら、翌日の撮影にも影響が出るんですよ? でも、「万次は靴を履いてないから」と。まるでね、子どもみたいなんですよ。楽したり、安全な方法は知恵を絞れば、いくらでもできるはず。むしろ、靴の方が動きやすくて良い画になるのかもしれない。でも、本人の中では「行けるところまで行きたい」と。最後までこのまま。普通では、ありえないですよ。草履でやり通した役者、日本映画初だと思いますよ。周りには石がゴロゴロ、足はズタズタ。爪だって踏まれれば割れる。そんな環境、気合だけじゃ乗り切れないですよ。もともとサーフィンやっているおかげか、自然との付き合い方、身の置き方を知っている。そこで自分に甘やかすと、「自然の中の万次」ではなく、「社会の中の木村拓哉」になっちゃうんですよね。周りがチヤホヤしようが、サーフィンの海は手加減ナシ。そして、ずっと波と一緒に。自然と一体化することは、彼にとって必要なことでもあったんでしょうね。■プロフィール三池崇史(みいけ・たかし)1960年8月24日生まれ。大阪府八尾市出身。『十三人の刺客』(10年)がヴェネチア国際映画祭、『一命』(11年)と『藁の楯 わらのたて』(13年)がカンヌ国際映画祭に出品されるなど、海外でも高く評価されている。主な作品は、『オーディション』(00年)、『殺し屋1』(01年)、『クローズZERO』シリーズ(07・09年)、『悪の教典』(12年)、『土竜の唄』シリーズ(14・16年)など。公開待機作品に、『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない第一章』(17年8月4日公開)、『ラプラスの魔女』(18年)がある。(C)沙村広明/講談社 (C)2017映画「無限の住人」製作委員会
2017年06月14日「"無限"とは"時間"や"時空"ではなく、"想い"なのだと感じています。限りの無い"想い"。それは"永遠"と呼んでもいいものだと思います」俳優・木村拓哉にとって『武士の一分』(06年)以来、約10年ぶりの時代劇主演となる映画『無限の住人』。沙村広明氏の人気漫画が初の実写化、さらに木村と三池崇史監督の初タッグということもあり、メディアは大々的に取り上げた。SMAP解散騒動で日本中に激震が走った2016年1月、木村は不死身の侍・万次をようやく演じ終える。2015年10月5日、映画化が発表されたあの日から、どれだけの人がこの作品を話題にしてきたのだろうか。冒頭にあるのは、「無限とは?」に対する木村の答えだ。公開初日を迎えた2017年4月29日、舞台あいさつの壇上で「客席の皆さまのものになりました」と引き締まった表情で呼びかけた木村。今回の連載は「∞」になぞらえ、8名のスタッフの証言をもとに、『無限の住人』が「皆さまのもの」になるまでの「無限の想い」をまとめた取材記録である。8人目は、木村の起用ありきだったと語る三池崇史監督。連載第19回は、木村の人物像について。撮影を終え、あらためて彼をどのような人物として捉えているのか。○細やかで心遣いができる人間――木村さんとの初タッグはいかがでしたか?同じ時代、同じ国で過ごしているはずなんだけども、他の人間と比べると「こうも違うか」ということだらけですね。同じ現場にいても違うように見えてしまうというか、風景すら違った色になるというか。ただ……孤独でしょう。あの立場で生きてきて、時にはネット上で叩かれてしまう。誰かに「助けてくれ」とも言えない。彼はそれをずっと、人知れず続けてきたわけですから。根は本当に細やかで心遣いができる人間です。ただ、それを媚びるためには使わない。ある壁を作っていて、それを突き破るなり、飛び越えるなりできる人たちと付き合っていきたいという潔さを感じます。――これまで「運命的な出会い」の兆しはなかったんですか?「この役を木村拓哉で」と本気で思ったことは、今まで一度もなかったですね。『無限の住人』を映画化するんだったら、木村拓哉を主演にするぐらいの気合いがないと。映画化するだけでも大変なはずなのに、業界の人間は「主演・木村拓哉」と聞いて、さらに驚く。そうならないと面白くないですよね。○「あえて茨の道を選ぶ」役者――監督として構えてしまう部分はありましたか?初めての役者は、「どんな人なんだろう?」という興味が先に湧きます。前もって考えてもしょうがない。結婚するわけではないので(笑)。どんな最悪な状況になっても、撮影自体は2~3カ月で終わるわけですよ。それに、だいたいどんなことでも、振り返ってみると「面白かったな」と良い思い出になる。「やりやすさ」「やりにくさ」というのは、別に大したことじゃないんです。その点、彼は監督にとっては理想的な役者でしたよ。要求したものに応えられないことがゼロなんです。どんなことでもやってのけちゃう。または、やってのけようと最大限の努力をする。彼はそれを「自分の武器」としています。――『無限の住人』以前と以後で彼の印象は変わりましたか?全然違います。「すごい役者」であることは確かです。普通やらないだろうということを、彼の中にはこだわりがあって、あえて茨の道を選ぶ。もっと楽な方法があるはずなのに……その姿を見ると、誰もがそう思う。でも、彼は「到達すること」に目的があるんじゃなくて、「どういう道を通って到達するか」に重きを置いている人なんだと思います。■プロフィール三池崇史(みいけ・たかし)1960年8月24日生まれ。大阪府八尾市出身。『十三人の刺客』(10年)がヴェネチア国際映画祭、『一命』(11年)と『藁の楯 わらのたて』(13年)がカンヌ国際映画祭に出品されるなど、海外でも高く評価されている。主な作品は、『オーディション』(00年)、『殺し屋1』(01年)、『クローズZERO』シリーズ(07・09年)、『悪の教典』(12年)、『土竜の唄』シリーズ(14・16年)など。公開待機作品に、『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない第一章』(17年8月4日公開)、『ラプラスの魔女』(18年)がある。(C)沙村広明/講談社 (C)2017映画「無限の住人」製作委員会
2017年06月12日「"無限"とは"時間"や"時空"ではなく、"想い"なのだと感じています。限りの無い"想い"。それは"永遠"と呼んでもいいものだと思います」俳優・木村拓哉にとって『武士の一分』(06年)以来、約10年ぶりの時代劇主演となる映画『無限の住人』。沙村広明氏の人気漫画が初の実写化、さらに木村と三池崇史監督の初タッグということもあり、メディアは大々的に取り上げた。SMAP解散騒動で日本中に激震が走った2016年1月、木村は不死身の侍・万次をようやく演じ終える。2015年10月5日、映画化が発表されたあの日から、どれだけの人がこの作品を話題にしてきたのだろうか。冒頭にあるのは、「無限とは?」に対する木村の答えだ。公開初日を迎えた2017年4月29日、舞台あいさつの壇上で「客席の皆さまのものになりました」と引き締まった表情で呼びかけた木村。今回の連載は「∞」になぞらえ、8名のスタッフの証言をもとに、『無限の住人』が「皆さまのもの」になるまでの「無限の想い」をまとめた取材記録である。7人目は、美術担当の松宮敏之氏。時代劇の礎ともいえる東映京都撮影所の技術は、本作でどのように表れているのか。連載第18回は「美術冥利と宿命」。自らの手で"作品"を壊していく心境、そして喜びとは。○自らの手で作品を壊す――撮影が終わると、2カ月かけて作った宿場町も元の更地になるわけですよね。そうですね。「元の状態に戻す」までが仕事ですので、跡形もなくきれいにします。――苦労の末に作ったものを、自らの手で壊す。ちょっとさびしいですね。映画の建込みは、普通の建築と違って「なくしてしまう」というのが宿命なので。われわれにとってはいつものことというか(笑)。作っては潰して、作っては潰す。そんな世界です。――たくさんのスタッフさんがコツコツ作り上げた世界観。試写をご覧になっていかがでしたか?物語の中で、どんな感じでマッチしているのか。違和感なく、出しゃばらずになじんでいるのか。そこは確認できたので、とりあえずはよかったのかなと思います。僕たち美術がちゃんとしたものを作らないことには、作品を正しく伝えられません。演技や撮影方法などはもちろんのこと、僕たち美術もお客さんにその世界を印象づける役割を担っていると思います。○三池組は「現場がいちばん楽しい」――「なくしてしまうことが宿命」ということを踏まえて、この仕事をやっていてよかったと思うのは、どんな時なんでしょうか?そうですね……うーん……(しばらく考え込む)。スタッフ、キャストがセットの中に足を踏み入れた時、スムーズにその世界観に入ってもらえるとありがたいですね。何となく感じ取ることなんですけど。僕らが作っているのは「嘘」の世界。そこで演出、演技が成立すれば、とってもありがたいなと思います。――これまで『IZO』(14年)、『新・仁義の墓場』(02年)などで三池崇史監督作を担当されました。三池監督には、どんな魅力がありますか。作品に対して、誰よりもパワーを持っていて、それがグッと表に出る方なので、僕たちも一緒に奮い立たされます。パワーをもらえる。これは本当にすごいです。一緒に立ち向かっていけるような気がするんです。――突然、ムチャなお願いをされたりしないんですか(笑)?まぁ、流れの中でやっていくことなので、そのあたりは全然気にしていません。むしろ、当たり前のこと。無理難題はないです(笑)。突然雨が降った時には、急きょ雨よけの屋根を作ったことがありました。みんなで1つものを作っていくのが映画ですので、「いま何を求められているのか」というのは、ポジション関係なく、みなさん考えていることだと思います。――皆さん、口を揃えておっしゃるのが「現場の一体感」です。そうですね。チームワークから生まれるパワーは三池組ならでは。本当にすばらしいです。現場がいちばん楽しいですからね。最高です。1つのことに向かって各部署が集中して、心地良い緊張感もあります。――そういう空間の中で、特に印象に残っているのは?やっぱり、ラストの300人斬りの宿場町ですね。ただ、全体的にしっかりやっているつもりで、それぞれのセットに苦労があります。映画として、1つの流れがお客さんに伝わるといいなと思います。■プロフィール松宮敏之(まつみや・としゆき)和歌山県出身。東映京都撮影所に所属。1994年の『新・極道の妻たち 惚れたら地獄』で美術監督デビューし、これまで『SABU さぶ』(02年)、『魔界転生』(03年)、『IZO』(04年)、『男たちの大和/YAMATO』(05年)、『桜田門外ノ変』(10年)、『幕末高校生』(13年)、『この国の空』(15年)などを担当。(C)沙村広明/講談社 (C)2017映画「無限の住人」製作委員会
2017年06月11日「"無限"とは"時間"や"時空"ではなく、"想い"なのだと感じています。限りの無い"想い"。それは"永遠"と呼んでもいいものだと思います」俳優・木村拓哉にとって『武士の一分』(06年)以来、約10年ぶりの時代劇主演となる映画『無限の住人』。沙村広明氏の人気漫画が初の実写化、さらに木村と三池崇史監督の初タッグということもあり、メディアは大々的に取り上げた。SMAP解散騒動で日本中に激震が走った2016年1月、木村は不死身の侍・万次をようやく演じ終える。2015年10月5日、映画化が発表されたあの日から、どれだけの人がこの作品を話題にしてきたのだろうか。冒頭にあるのは、「無限とは?」に対する木村の答えだ。公開初日を迎えた2017年4月29日、舞台あいさつの壇上で「客席の皆さまのものになりました」と引き締まった表情で呼びかけた木村。今回の連載は「∞」になぞらえ、8名のスタッフの証言をもとに、『無限の住人』が「皆さまのもの」になるまでの「無限の想い」をまとめた取材記録である。7人目は、美術担当の松宮敏之氏。時代劇の礎ともいえる東映京都撮影所の技術と歴史は、本作でどのように表れているのか。連載第17回は「万次の家と宿場町」。素材選びや装飾、"町作り"は職人技から生み出されていた。○ロケハンからデザイン画を描き起こす――場面ごとのセットも、世界観をつくる上で重要な役割を担っていると感じました。ありがとうございます。まずは台本を読んで、場面ごとの「柱」となるものを確認します。それから監督、カメラマンをはじめ、メインスタッフでロケハンをして、そこでどんなシーンを撮るか、どんなセットを建てるかを考えます。それから、どこに塀や門を作るのかとか、坂道をどのように作るのかとか、いろいろなイメージをスケッチに描き起こしていく。完成したデザイン画を監督に見せて、最終的に決まれば本格的な準備に入っていきます。もちろん原作の世界観は大切です。そのイメージを共有したまま、ロケハンをして、いろいろなものを建て込んでいきます。――万次の家も印象的でした。川が映るロケーションだったので、「流木を使って建てた」という仮の設定で作っています。素材はスタッフ総出でいろいろなところを探し回って、集められるだけ集めたもの。丈夫なものは屋根に、柔らかいものは寝床に、といった感じで、それぞれの木の質感によって使い分けています。作業員の人数は、セットによって変わります。建て込みする人、色付けする人など。スケジュール的に厳しくなってきたら、違う組の応援を呼んだりします。○地盤作りと整地――中でも大掛かりだったのが、300人斬りの宿場町ですよね。2カ月かかったと聞きました。そうですね。いろいろなセットがありましたが、宿場町は地盤から作っています。橋を架けるために木を切ったり、家を建てる前に整地したり、そういう土台作りからスタートしました。最初に手をつけて、最後まで掛かったのが宿場町。同時進行で別のセットも作っていますので、日々、あの場所には必ず誰かがいました(笑)。私も行ったり来たり状態です。――街ごと作っているようなものですね。そうですね。何もない土地から、道を敷き、家を建てていく。そうやって日々コツコツ作業して、徐々に完成イメージに近づけていきます。家の中で立ち回りシーンが撮れるように、室内の装飾にもこだわりました。○外見ボロボロで中身は頑丈――屋根から飛び降りるシーンなどありますが、安全面も考慮されているんですか?われわれとしては、安全面は常に考えないといけないこと。もしものことがあったら、俳優さんをケガさせてちゃいますからね。外見はボロボロでも、中身を頑丈な作りにしないといけません。なんだか、矛盾してますね(笑)。朽ちた感じに見せてますが、絶対に折れないようになっています。矢倉は、いろいろな人が代わる代わる作業していって建てました。橋も架けづらかったんですよ。柱が抜けていたりする橋なんですけど、それらと作ったり、一部分を壊したり。矢倉はひたすら作り上げていくことがメインなんですが、橋や屋根は、出来上がったところから「崩していく」作業が入ります。素材的に見合うものがなくて、きちんとした素材から組み上げていって、完成してからナタで削ったりしています質感を出しています。■プロフィール松宮敏之(まつみや・としゆき)和歌山県出身。東映京都撮影所に所属。1994年の『新・極道の妻たち 惚れたら地獄』で美術監督デビューし、これまで『SABU さぶ』(02年)、『魔界転生』(03年)、『IZO』(04年)、『男たちの大和/YAMATO』(05年)、『桜田門外ノ変』(10年)、『幕末高校生』(13年)、『この国の空』(15年)などを担当。(C)沙村広明/講談社 (C)2017映画「無限の住人」製作委員会
2017年06月10日「"無限"とは"時間"や"時空"ではなく、"想い"なのだと感じています。限りの無い"想い"。それは"永遠"と呼んでもいいものだと思います」俳優・木村拓哉にとって『武士の一分』(06年)以来、約10年ぶりの時代劇主演となる映画『無限の住人』。沙村広明氏の人気漫画が初の実写化、さらに木村と三池崇史監督の初タッグということもあり、メディアは大々的に取り上げた。SMAP解散騒動で日本中に激震が走った2016年1月、木村は不死身の侍・万次をようやく演じ終える。2015年10月5日、映画化が発表されたあの日から、どれだけの人がこの作品を話題にしてきたのだろうか。冒頭にあるのは、「無限とは?」に対する木村の答えだ。公開初日を迎えた2017年4月29日、舞台あいさつの壇上で「客席の皆さまのものになりました」と引き締まった表情で呼びかけた木村。今回の連載は「∞」になぞらえ、8名のスタッフの証言をもとに、『無限の住人』が「皆さまのもの」になるまでの「無限の想い」をまとめた取材記録である。7人目は、美術担当の松宮敏之氏。時代劇の礎ともいえる東映京都撮影所の技術と歴史は、本作でどのように表れているのか。連載第16回「役者との向き合い方」、なぜ木村は「おかえり」を感じるのか。○「本当に片目つぶってるのか」――映画化の話を聞いたのはいつごろでしたか?去年の1月に撮影が終わりまして……8月ぐらいには準備を始めていたと思うので……ちょっと記憶が曖昧です(笑)。三池監督と久しぶりにご一緒できるのがうれしくて、『無限の住人』という作品がどんな世界観で広がっていくんだろうなという楽しみが最初の印象でした。――木村さんとの面識は?いえ、今までは機会がなかったので、ご一緒させていただけると聞いて、うれしかったです。現場では独眼でやっていらっしゃったので、足元とか不自由になる場所がないかなと心配していましたが、すごくテキパキと動かれていて。本当に片目つぶってるのかなと思うくらい、機敏な動きでした。これを「勘が良い」と言うんですかね? 驚きました。○役者との「信用」と「信頼」――木村さんは以前、別作品で京都撮影所に来られていたんですよね。ええ。私は担当してなかったのですが、時代劇の役柄が様になっていて、立ち回りもすごく上手な方だと聞きました。担当スタッフの間でもすごく評判良かったですよ。装飾の極並(浩史)さんが以前の作品も担当していて、武器の使い方とか密にコミュニケーションを取っていました。非常に仲よさげな雰囲気でした。――そういう役者さんとの接し方は、代々受け継がれてきたものなんですか?装身具の担当は、そうやって役者さんと自然に密なやりとりになりますね。現場でいろんなことを決めていく中で、そういう「信用」や「信頼」はとても重要だと思います。一対一の関係とは違って、僕はセットを作る方なので、役者さんとの直接なやりとりはあまりないです。――木村さんとはあまり話す機会はなかったんですか?そうですね、われわれは美術部ですから(笑)。何か聞かれれば、お答えすることもありましたよ。――木村さんは京都撮影所に帰ると、「おかえり」と迎え入れられている雰囲気があると。俳優さんにとっては特別な場所なんですね。そういってもらえるとありがたいですね。撮影所は独特の空気感があると思いますが。来てもらえると、おっしゃる通り「迎え入れる」空気はあります。会えば、「おかえりなさい」みたいな(笑)。あいさつとしては、みんなそんな感じです。「また一緒にやりたい」と思ってもらえたら、うれしいですね。■プロフィール松宮敏之(まつみや・としゆき)和歌山県出身。東映京都撮影所に所属。1994年の『新・極道の妻たち 惚れたら地獄』で美術監督デビューし、これまで『SABU さぶ』(02年)、『魔界転生』(03年)、『IZO』(04年)、『男たちの大和/YAMATO』(05年)、『桜田門外ノ変』(10年)、『幕末高校生』(13年)、『この国の空』(15年)などを担当。(C)沙村広明/講談社 (C)2017映画「無限の住人」製作委員会
2017年06月09日1993年から2012年までの19年間、人生を賭するように一筆一筆を重ねて不死身の侍・万次を描き続けた漫画家・沙村広明氏。10年ぶりの時代劇主演となる俳優・木村拓哉がその万次を憑依させ、『十三人の刺客』『一命』など数々の時代劇を手掛けてきた三池崇史監督によって映画『無限の住人』(公開中)は完成した。原作者として、今、何を思うのか。○「木村拓哉」という強烈な存在その心境を探る上で、鍵となるのは2008年のTVアニメ化。沙村氏にとっては、客観的視点での気づきがある一方で、「若い頃の自分の未熟なところが忠実に再現されることに『あー本当に申し訳ない』と思います(笑)」と自身の反省点が露わになるという不思議な体験をする。2015年10月、映画化発表。今回の実写化に全く不安を感じなかったのは、「木村拓哉」という強烈な存在があったからで、「木村さんが原作を忠実に演じたばかりに、映画を観た人から不満を言われるようなことがなければいいな」という別の心配も。「もし不評なところがあるようでしたら、おそらく私のせいです(笑)」と自嘲しながら、"生みの親"としての責任感をチラリとのぞかせる。実写化にあたっての希望は一切なく、「三池監督にお任せしました」。連載当時、「話せば分かるキャラ」ばかりなのを嫌って誕生させた、残酷非道な剣士・尸良。市原隼人が演じた狂気の果ては、「華々しく散らせたかった」とひそかに思っていた沙村氏の思いを成就させ、閑馬永空(しずま・えいくう/市川海老蔵演じる不死身の剣士)の四肢が斬られる壮絶な最期は、その再現性の高さに目を奪われる。多種多様な武器も「よく再現していただけた」と太鼓判を押す出来映えで、「とにかく木村さんの殺陣はずっと連続でやられていて、劇中で武器を何本も使ってくださっていた」と原作者冥利に尽きるようだ。○万次の誕生秘話「長くやるつもりなかった」不死身でありながら、痛みや傷を負う"不完全体"の万次。そのルーツは漫画家としてデビューする前、原稿を持ち込んでいた頃まで遡る。「後に担当さんになる人に新人賞へ応募する前に持ち込みに行ったんです。その時はベタベタな病院の話だったのですが、人の生死を扱う話で『ベタだな』って言われて。その時に学生時代に描いた漫画があって絵の参考に持っていっただけなんですけど、こういう絵で描きますって言ったら『時代劇で描いてみないか』って返されて。病院で生死を扱った流れがあったので、『じゃあ似たようなテーマで描いてみます』となりました。命のケリのつけ方というか、自分の意志ではどうにもならないところを表現するキャラクターができたのですが、最初のうちはあんまり長くやるつもりはありませんでした。もっと入り組んで重たい話になるとわかってたら、不死身に対して制限をつけていたと思います。木村さんもそうですが『痛い』というシーンは、血にまみれながらでしか表現できない。映画では2時間ですが、19年も続くとやられてまた立ち上がってというのが難しい。今だったら足枷のある不死身にしたと思います」○映画を通して「思い出してほしい」編集者の鋭い一言と苦労の末に『無限の住人』の世界を構築していった沙村氏。あらためて、原作ファンに届けたいメッセージとは。「まず、木村さんがかっこいいです。思ったよりも剣劇シーンがすごく多く、特に男性ファンはこの一本で満足できると思います。三池監督の作品を4作品くらい拝見いたしましたが、こんなに原作に忠実になるとは思わなかったです。非常にありがたく感じています。序盤のモノクロのシーンの、木村さんの万次のギラついた感じがものすごく印象に残っています。片目を塞がせてしまったのが申し訳ないなと思いましたが(笑)。とにかく役者さんの熱量、本気度がすごいです(笑)。基本的に原作よりも重苦しく感じますが、そのアレンジで正解だと思います。『無限の住人』が、根底のところでシビアな復讐譚であったということを思い出してほしい。それから、原作は万次と凜が何度も色々あって弛緩した空気になっていたので、『いかに万次の戦いが苦しそうか』というのも思い出してほしいですね。素晴らしいエンターテイメントにしてくださって、三池監督には非常に感謝しています。三池監督のグロい感じとか、やり過ぎちゃう感じとか、人に伝わんなくてもいいやっていうエグいシーンとか。そういうのをファンとして観るのは好きなんですが、自分の作品でやられるとなるとちょっと想像がつかなかった。そういった意味でも、熱の入ったエンターテイメントにしていただけてうれしかったですね」■プロフィール沙村広明(さむら・ひろあき)1970年生まれ。千葉県出身。1993年、アフタヌーン四季賞に『無限の住人』を投稿し、四季大賞を受賞。19年にわたって連載し、1997年に文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、2000年に米国でウィル・アイズナー漫画業界賞最優秀国際作品賞を受賞。現在は、月刊『アフタヌーン』にて『波よ聞いてくれ』、隔月刊『ネメシス』で『ベアゲルター』を連載している。(C)沙村広明/講談社 (C)2017映画「無限の住人」製作委員会
2017年06月08日「"無限"とは"時間"や"時空"ではなく、"想い"なのだと感じています。限りの無い"想い"。それは"永遠"と呼んでもいいものだと思います」俳優・木村拓哉にとって『武士の一分』(06年)以来、約10年ぶりの時代劇主演となる映画『無限の住人』。沙村広明氏の人気漫画が初の実写化、さらに木村と三池崇史監督の初タッグということもあり、メディアは大々的に取り上げた。SMAP解散騒動で日本中に激震が走った2016年1月、木村は不死身の侍・万次をようやく演じ終える。2015年10月5日、映画化が発表されたあの日から、どれだけの人がこの作品を話題にしてきたのだろうか。冒頭にあるのは、「無限とは?」に対する木村の答えだ。公開初日を迎えた2017年4月29日、舞台あいさつの壇上で「客席の皆さまのものになりました」と引き締まった表情で呼びかけた木村。今回の連載は「∞」になぞらえ、8名のスタッフの証言をもとに、『無限の住人』が「皆さまのもの」になるまでの「無限の想い」をまとめた取材記録である。6人目は、撮影を担当したカメラマン・北信康氏。連載第15回「俳優部」、三池組に共通する職業観とは。そして、カメラマンとして"記録"を更新し続ける生き方とは。○木村拓哉の役作りは「普通」――木村さんは寒い現場で着流し一枚、立ち回りでも雪駄。多くのスタッフさんが口を揃えて「すごい」とおっしゃっています。やっぱりすごいですよね。こちらが気を使うぐらい(笑)。でも、本人がそうしたいと思っていることですから、こちらが気を使うべきじゃないんですよね。余計なお世話になりますから。万次に集中するために必要なのであれば、もちろんやるべき。すごいなとは思いますけど、それもまた「仕事」ですからね。それは僕らや監督も同じ。「そんなところから撮ります?」みたいなこともあるんですが(笑)、それも「仕事」。そこから撮った方がよければやるというだけの話で、大変にさせたいから言ってるわけじゃない。すべては、映画をより面白くするためなんです。――プロデューサー・坂さんの取材時のコメント「私の『仕事』なんです。大変なんて思っていたら、プロデューサーの仕事なんて務まらない」と共通するものがありますね。そうです。どんな仕事でも、みんな大変なんですよ(笑)。木村さんが役作りの一環としてそうされるのは、極論すると「普通」ですよね。――「すべては、映画をより面白くするため」は、これまで一貫していることですか。ええ。当然、そうします。そのほうが効果的であるならそうした方がいい。撮影場所に行けるのに、大変だから行かないという選択肢はない。行って良くなるんだったら、どこでも行きます。スターと言われる役者たちも、みんなこういう考えでやってきたはずです。――高倉健さんや木村大作さんの『八甲田山』(77年)は、過酷な現場エピソードが語り継がれていますが、今も昔も変わらないわけですね。そうですね。要は、俳優部なわけですよ。映画という組織の中で、演出部、撮影部、衣装部と複数に分かれていて、木村さんは俳優部。だから、『無限の住人』というパズルのピースの1つ。ある意味、スタッフとも対等な関係なんです。そういう意識はご本人にもあると思います。だから、「大変じゃない」という感じになる。本人に聞いたわけじゃないですけどね(笑)。○世界で勝負するなら時代劇――木村さんとは初めてですか。初めてです。以前からストイックな方だと思っていたんですが、やっぱりストイックだった。自分の見せ方も案の定、ご存知で。イメージは変わりませんでした。――スチールカメラマンの方からは「この人を撮りたい」みたいなことを聞くんですが、ムービーのカメラマンにもそういう願望はあるんですか?お仕事をしたい役者はたくさんいます。木村さんもその中の一人でしたが、こればっかりは縁ですからね。たまたま、今回ご一緒できました。なかなかない機会です。10年以上前になりますが、吉永小百合さんと『北の零年』(05年)でご一緒した。吉永さんとご一緒できるなんて、想像もしなかったですよ。イメージできるわけがない(笑)。だけど、そういうことが現実として起こるから、この仕事は楽しいんです。――今日は公開前日ですが、どんな心境ですか?(4月28日に取材)僕らの仕事は初号という1回目の完成試写が終わったところまで。そこから先、映画はお客さんのものとなりますので、特別な感慨はありません。ヒットすることがすべてではないんですが、より多くの人に観てもらいたいと思います。――でも、ヒットするといいですね。映画としての完成度、質はかなり良いはず。それが受け入れられるかどうかは、時の流れや運もあります。この映画は今の映画界の流れでは、反体制的な作品です。そこが面白いところだとは思います。カンヌで海外の人がどのように受け止めるのか。それは楽しみですね。やっぱり世界で勝負しようと思ったら、日本の映画は時代劇しかない。三池監督、木村さんがそろってカンヌに持って行くとどうなるのか。楽しみです。――300人斬りのラストシーンも話題になっていますね。あれはね、淡々と。淡々と撮っていくしかないです(笑)。監督が編集で、ものすごくうまくつないでいるので、アクションのすばらしさは監督の編集のうまさも関係していると思います。三池監督とは何本か一緒にやっているので、使いどころがだいたいこのあたりかなというのは何となく分かる(笑)。役者さんのテンションを切らないために、カットをかけないだけで、ある程度は使うところが決まっています。○「『無限の住人』が僕のベスト」――先日三池監督を取材しました。強面な方ですが、笑顔がすごく魅力的で(笑)。監督はすごく愛のある方ですよ(笑)。すべてにおいて。映画に対しても、人に対しても、作品に対しても。――お付き合いも古いんですよね。そうですね。『クローズZERO II』(09年)からです。三池組の魅力は、殻を破っていこうとする勢いがあるところ。「今まで撮った作品で一番は」と聞かれることがあるんですが、「今撮っている作品が一番」と答えています。自己更新をしていきたい。退化するのであれば辞めた方がいい。うまくいかないこともあるんですけど、自己ベストを更新し続けたいんです。監督と一緒にいるとそんなテンションになれる。そういう面白さがあります。――明石家さんまさんも同じようなことをおっしゃっていました。あ、そうですか(笑)。今、聞かれたら迷いなく、『無限の住人』と答えます。これが僕のベストです。そう胸を張って言えるように、現場では常に全力を尽くしています。■プロフィール北信康(きた・のぶやす)1960年生まれ。香川県出身。数多くの三池崇史監督作で撮影を担当し、『十三人の刺客』(10年)で第34回日本アカデミー賞最優秀撮影賞を受賞。『阿修羅のごとく』(03年)、『北の零年』(05年)、『一命』(11年)、『エヴェレスト 神々の山嶺』(16年)など。(C)沙村広明/講談社 (C)2017映画「無限の住人」製作委員会
2017年06月02日俳優・木村拓哉が主演を務める映画『無限の住人』(公開中)が、アメリカ、オーストラリア、ドイツに加えて、新たにイギリス、オーストリア、スイス、ニュージーランドで公開されることが決定。この発表に合わせて、一部海外メディアのレビューも届いた。アメリカでの公開は、『十三人の刺客』の31スクリーンを超え、三池崇史監督史上、そして木村の邦画主演作史上で最大規模になるという。5月18日時点で、米批評家サイト"Rotten Tomatoes"での批評家の評価は80%、世界最大のオンラインデータベース"IMDb"での評価ポイントは「☆8.2」。ガーディアン紙のレビューでは星4つを獲得した。また、アメリカの映画情報誌『Hollywood Reporter』は、「本社バーバンクのエグゼクティブ達がこの作品を手本にして、『スーサイド・スクワッド2』を三池監督に任せることも夢ではないだろう」。イギリスのエンタメ情報サイト『The Upcoming』は、「剣戟アクションの演出は称賛されるべき出来。撮影法も素晴らしく、それはまるで薄暗いブリューゲルの絵画のようだ」とそれぞれ評価している。○海外メディアの反応■Hollywood Reporter(アメリカ/映画エンタメ情報週刊誌)三池監督の記念すべき100作品目となる『無限の住人』は、彼の溢れ出る無鉄砲なエネルギーと才覚が失われていないことを特徴づける最高峰の作品だ。近年のハリウッドのどのアクション映画よりも力強いスタイルを持ち合わせるが、皮肉にもこの作品は今年のカンヌ唯一の大手スタジオの作品なのだ。ユーモアがありバイオレンスに満ちた唯一無二の作品は、ワーナー・ブラザースの日本部門が製作。本社バーバンクのエグゼクティブ達がこの作品を手本にして、『スーサイド・スクワッド2』を三池監督に任せることも夢ではないだろう。■Screen Daily(イギリス/映画情報サイト)多くの作品を手掛けてきた三池崇史監督の100作品目。沙村広明の大人気アクションコミック×三池崇史の鮮やかなシネマパンクがさく裂。オリジナリティ溢れるバイオレンスな復讐劇は、艶やかでハイエンドな仕上がりは味わい深い。主演はアジアのエンターテイメント界のスター、木村拓哉。不死身の男は、傷を負った瞬間癒される。ただこの不死身という運命もまた諸刃の剣なのである。■First Showing(アメリカ/映画情報サイト)数時間前に本編を観終えてきたばかりだが、これはヤバい! サムライたちが何百人も束になって戦いを繰り広げている様はまさに圧巻! バイオレンスもクスリと笑えるシーンもある。そしてセットも衣装もゴージャスだ。■The Upcoming(イギリス/エンタメ情報サイト)剣戟アクションの演出は称賛されるべき出来。撮影法も素晴らしく、それはまるで薄暗いブリューゲルの絵画のようだ。三池監督は、様々な登場キャラクターたちの道徳観も問う。彼らの悪を正当化しながら、彼らの行動を罰する事が出来るのか? 浮世離れした面白さが、絶え間なく続くエンターテイメントだと言える。■Flickreel(イギリス/映画情報サイト)三池監督は往年の時代劇の手法でアクションシーンを撮影する。それはまるで深作欣二監督の作品を思い出させ、しかし速いフレームで役者を追いながら緊迫感を漂わせる彼の近代的な映画マジックも盛り込まれる。クライマックスは『十三人の刺客』に比類するレベル。だが『無限の住人』はドラマのあるスリリングなアクション映画でもあるのだ。■The Guardian(イギリス/新聞)三池ワールドが全開。そのアクションは、『LOGAN/ローガン』や他のハリウッド作品とも違う。アクションで衣装がなびくたびに興奮が止まらない。
2017年06月01日「"無限"とは"時間"や"時空"ではなく、"想い"なのだと感じています。限りの無い"想い"。それは"永遠"と呼んでもいいものだと思います」俳優・木村拓哉にとって『武士の一分』(06年)以来、約10年ぶりの時代劇主演となる映画『無限の住人』。沙村広明氏の人気漫画が初の実写化、さらに木村と三池崇史監督の初タッグということもあり、メディアは大々的に取り上げた。SMAP解散騒動で日本中に激震が走った2016年1月、木村は不死身の侍・万次をようやく演じ終える。2015年10月5日、映画化が発表されたあの日から、どれだけの人がこの作品を話題にしてきたのだろうか。冒頭にあるのは、「無限とは?」に対する木村の答えだ。公開初日を迎えた2017年4月29日、舞台あいさつの壇上で「客席の皆さまのものになりました」と引き締まった表情で呼びかけた木村。今回の連載は「∞」になぞらえ、8名のスタッフの証言をもとに、『無限の住人』が「皆さまのもの」になるまでの「無限の想い」をまとめた取材記録である。6人目は、撮影を担当したカメラマン・北信康氏。連載第14回「木村拓哉の魅力」について熱く語る。三池組では、なぜモニターチェックをしないのか?○「答えを見て演じる」「演じた後に答えを見る」――これまでカメラを通してたくさんの役者さんをご覧になってきて、木村さんは役者としてどのような魅力がありますか。やっぱり先ほどの通り、自己演出がすばらしい。それはスターとよばれる人が持って生まれた、意識を全くしないところから出てくるもの。本人は何も意識していないはずです。佇まいもいいですよね。――ということは、モニターチェックも入念なんですか?三池組は全くしません。監督が「OK」を出したものですから。昔の映画はモニターも何もなかった。ラッシュ(完成前の試写)で確認し、基本的に役者さんには見せなかったんですよね。役者さんは完成したもので初めて観る。ある時から現場でモニターが使われるようになって。それが、良いのか悪いのか分かりませんけど、テレビやコマーシャルでは役者さんが現場で確認するのが当たり前になりました。便利なこともあるんだろうけど、イマジネーションが無くなってしまうというか。「答えを見て演じる」のと、「演じた後に答えを見る」のとは大きな違いがあるので、個人的には見ない方がいいと思います。僕は古いタイプの人間なので(笑)。――三池組では監督に委ねるわけですね。そうですね。木村さんもモニターとか見ないんじゃないですかね。現場にはいろいろなパートのプロがいます。カメラマンである僕であったり、監督であったり。そのプロたちが判断して、決めている。そのOKとNGを出すのは、役者ではなく、監督の仕事なんです。監督がOKといったものはすべてOKなんです。僕もカメラマンとして「もう1回やらせてください」とは言わない。あまりにひどかったら言いますけどね(笑)。でも、基本的には監督がOKであればOK。これは三池組問わず、僕のやり方です。――とはいっても、どうしても気になること、譲れないこともあるのでは。でも、監督がOKならOK。確かに、出来上がったものを観た時に、自分の中ではもうちょっとこうしておけばよかったとか、いろいろあったりはします。でも、それを言い出したら、キリがない。たとえ撮り直したとしても、またその上を見ますよね。現場でその一瞬でしか見られない芝居を、監督の感覚の中でOKを出したもの、それが最良のシーンなんです。○「この顔が見たい」からの逆算――殺陣の辻井啓伺さんは、木村さんのリハーサルの立ち回りでフレームにきっちり収まった時に現場のテンションが上がったとおっしゃっていました。木村さんは芝居が流れないです。先ほども言ったように、緩急がついてるからダラっとしない。動いて一瞬、間があって再び動き出す。ダラッとした画にならず、パッパッとメリハリがついて、撮っていて非常に撮りやすいですよね。気持ちが良い。ダラッとするとね、「どうしてくれるんだよ……」と言いたくなる(笑)。そういうことは、僕らがちゃんと教えてあげないといけないんでしょうね。――ダラっとしている人も、当然そんなつもりはないわけですよね。そうでしょうね。これを教えるのは難しい。芝居が流れちゃうんです。アクションだけじゃなくて、普通のお芝居でも。経験もあるんじゃないですかね。僕らカメラマンには、「この顔が見たい」という場面があるんです。その顔をより効果的に見せるためにどうすればいいか逆算するんですが、それがメリハリがない感じになると、計算できなくなる。お客さんに見せるべきところを見せる。見せてあげたい。木村さんはそういうところもちゃんと分かっている気がします。■プロフィール北信康(きた・のぶやす)1960年生まれ。香川県出身。数多くの三池崇史監督作で撮影を担当し、『十三人の刺客』(10年)で第34回日本アカデミー賞最優秀撮影賞を受賞。『阿修羅のごとく』(03年)、『北の零年』(05年)、『一命』(11年)、『エヴェレスト 神々の山嶺』(16年)など。(C)沙村広明/講談社 (C)2017映画「無限の住人」製作委員会
2017年06月01日「"無限"とは"時間"や"時空"ではなく、"想い"なのだと感じています。限りの無い"想い"。それは"永遠"と呼んでもいいものだと思います」俳優・木村拓哉にとって『武士の一分』(06年)以来、約10年ぶりの時代劇主演となる映画『無限の住人』。沙村広明氏の人気漫画が初の実写化、さらに木村と三池崇史監督の初タッグということもあり、メディアは大々的に取り上げた。SMAP解散騒動で日本中に激震が走った2016年1月、木村は不死身の侍・万次をようやく演じ終える。2015年10月5日、映画化が発表されたあの日から、どれだけの人がこの作品を話題にしてきたのだろうか。冒頭にあるのは、「無限とは?」に対する木村の答えだ。公開初日を迎えた2017年4月29日、舞台あいさつの壇上で「客席の皆さまのものになりました」と引き締まった表情で呼びかけた木村。今回の連載は「∞」になぞらえ、8名のスタッフの証言をもとに、『無限の住人』が「皆さまのもの」になるまでの「無限の想い」をまとめた取材記録である。6人目は、撮影を担当したカメラマン・北信康氏。連載第13回は、「漫画原作と"殺し合い"」の撮り方について。○映画で効果的な「ダウンアップ」――三池監督と試写をご覧になったそうですね。ええ。当然、編集されて良いところが使われているわけですけども、それでも何というんでしょうね、木村さんのお芝居、アクションだけでいえば緩急のつけ方が抜群にうまいというか。より速く見せるためには、一度緩く見せて、それから上げる。上げて、下げる。この「ダウンアップ」みたいなことを繰り返していくと、メリハリの利いた動きになります。これは彼なりの速く見せる方法とでも言うんでしょうか。それが、映画では非常に効果的なんです。――過去にも漫画原作を担当されたことがあると思いますが、オリジナル作品と撮り方の違いは?基本的には一緒です。ただ、漫画原作は長く続いているものもあります。かなりのファンの方々がいらっしゃる。しかも小説と違って画が作られているので、みなさんにイメージが植え付けられている。このあたりは監督が意識するところはあるんですが、漫画のコマ割りと同じような決めカットになることもあります。――殺陣師の辻井さんは絵コンテが立ち回りのもとになっているとおっしゃっていました。カメラマンの場合は何がもとになるんでしょうか。絵コンテというのは監督が撮りたい画の意思表示。イメージのベースにはなりますよね。アクションはどこまでやるのかにもよるし、接近戦の方がこの芝居は面白いのかとか、望遠で振り回した方がいいのかとか。そのあたりは、場面や芝居によって変わっていきます。○木村拓哉の「持って生まれたもの」――木村さんは、「殺陣とか立ち回りという言い回しがあまり好きではない」とおっしゃっていて、「殺し合い」を追求する三池監督に感銘を受けたそうです。ずっとこの仕事をやってきて身についているものなのか、持って生まれたものなのか。本人もどういうふうに映るかということは、いつも想像できているんじゃないでしょうか。とにかく、自分の見せ方がうまいというか。――思い出の1シーンは?万次が刀を取り返してきて、戻って来るところ。(杉咲)花ちゃんと1カットで延々撮っているシーンがあるんですけど、良い距離感の画が撮れたような気がします。カメラもそこまで近づかず、良い距離感でお芝居をされていましたね。――てっきり壮絶なバトルのシーンかと。バトルはね(笑)。木村さんのテンションがビシビシ伝わります。こちらも刺激されて、そっちがこう来るなら、こっちはこう行きますよ! みたいにテンションに乗せられて、撮ってるような感じでした(笑)。■プロフィール北信康(きた・のぶやす)1960年生まれ。香川県出身。数多くの三池崇史監督作で撮影を担当し、『十三人の刺客』(10年)で第34回日本アカデミー賞最優秀撮影賞を受賞。『阿修羅のごとく』(03年)、『北の零年』(05年)、『一命』(11年)、『エヴェレスト 神々の山嶺』(16年)など。(C)沙村広明/講談社 (C)2017映画「無限の住人」製作委員会
2017年05月31日生誕から30年を迎える人気コミック「ジョジョの奇妙な冒険」を、山崎賢人をはじめ日本を代表する豪華キャストで実写映画化する『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』。8月の日本公開を前に、スイス「第17回ヌーシャテル国際ファンタスティック映画祭」と、カナダ・モントリオール「第21回ファンタジア国際映画祭」のコンペティション部門に相次いで出品されることが決定した。累計発行部数が1億部を超え、長きにわたり親しまれ続けている荒木飛呂彦による伝説的コミックを、鬼才・三池崇史監督がメガホンをとり、日本映画界を代表する豪華俳優陣で実写化。昨年10月から12月にかけスペインと日本で撮影を敢行、まもなく完成の時を迎えるという。主人公・東方仗助役には果敢に挑戦を続ける若手筆頭株の山崎さん、仗助の同級生・広瀬康一役には神木隆之介、同じく同級生の山岸由花子役に小松菜奈、仗助と対立する虹村形兆役に岡田将生、形兆の弟・虹村億泰役に新田真剣佑、さらに仗助の母親・東方朋子役に観月ありさ、仗助の祖父・東方良平役に國村隼、町の平和をおびやかす殺人犯・片桐安十郎役に山田孝之、仗助を導く空条承太郎役に伊勢谷友介と実力派俳優陣が脇を固める。そんな本作が、まず、スイス・ヌーシャテル州の州都であるヌーシャテルで6月30日から7月8日まで開催される「第17回ヌーシャテル国際ファンタスティック映画祭」のコンペティション部門に選出。この映画祭が、ワールドプレミアとして世界初お披露目となる。主演の山崎さんにとっても、自身の主演作が海外映画祭に選出されることは初めて。7月2日(現地時間)に上映される予定で、山崎さん、三池監督の参加を予定。山崎さんは映画祭への参加自体も初となる。加えて、カナダ・モントリオールで7月13日~8月2日に開催される北米最大のファンタスティック映画祭「第21回ファンタジア国際映画祭」のコンペティション部門にも選出。日本公開直前に、海外で大きな盛り上がりを見せることになりそうだ。<山崎賢人コメント>俳優としてさまざまな作品に出演させていただく中で、海外の映画祭の舞台に立つことを1つの目標として頑張ってきました。今回、僕にとって特別な作品である本作を、スイスで開催されるヌーシャテル国際ファンタスティック映画祭のコンペティション部門に選出していただき、喜びと興奮でいっぱいです。7月には実際に映画祭へ参加させていただくので、いろんなものを現地で感じて、そこでしか味わえない空気感を楽しみながら、今後の俳優業の糧にしたいと思います。<三池崇史監督コメント>映画は海を越え、夢の国へ連れて行ってくれる。山崎賢人の旅がここから始まる。上映が楽しみだ。『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』は8月4日(金)より全国にて公開。(text:cinemacafe.net)■関連作品:ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 2017年8月4日より全国にて公開(C) 2017 映画「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」製作委員会 (C) LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
2017年05月30日「"無限"とは"時間"や"時空"ではなく、"想い"なのだと感じています。限りの無い"想い"。それは"永遠"と呼んでもいいものだと思います」俳優・木村拓哉にとって『武士の一分』(06年)以来、約10年ぶりの時代劇主演となる映画『無限の住人』。沙村広明氏の人気漫画が初の実写化、さらに木村と三池崇史監督の初タッグということもあり、メディアは大々的に取り上げた。SMAP解散騒動で日本中に激震が走った2016年1月、木村は不死身の侍・万次をようやく演じ終える。2015年10月5日、映画化が発表されたあの日から、どれだけの人がこの作品を話題にしてきたのだろうか。冒頭にあるのは、「無限とは?」に対する木村の答えだ。公開初日を迎えた2017年4月29日、舞台あいさつの壇上で「客席の皆さまのものになりました」と引き締まった表情で呼びかけた木村。今回の連載は「∞」になぞらえ、8名のスタッフの証言をもとに、『無限の住人』が「皆さまのもの」になるまでの「無限の想い」をまとめた取材記録である。5人目は、本作の生命線ともいえる殺陣師・辻井啓伺。連載第12回は、立ち回りの常識を覆す「斬り合い」について。木村のストイックさは、どのような形で表れたのか。○"死なない"が目立つと卑怯――木村さんとは初仕事ですか?仕事は何回かしたことありましたが、ここまでガチッと立ち回りをしたのは初めてです。昔から真面目な方で現場の人間にも優しい。『南極大陸』(11年・TBS系)でもご一緒しましたけど、厳しい環境の中でも本当に真面目な人だなぁと感じました。それから、常に裏表がない人。普通に会話している時も、全然変わらない。現場に入って万次になっても変わらないし、どんな時も「木村拓哉」なんだなぁと。常に真面目、それが彼の普通であり、日常なんでしょうね。つい、そこまでストイックにならなくても……なんて思ってしまいます。でも、それが彼なんでしょうね。それをずっとやって、生きてこられた。すごい人だからそういうふうに見えるのか、続けてきたからすごい人に見えるのか。万次は、ずっと一生懸命でした。――万次が物語の主人公として特徴的なのは、斬られることが多いこと。そう。今回の映画では、実は全然強くないんですよね。やられまくっている。でも、そこが目立ちすぎると、逆に卑怯になっちゃうので気をつけました。普通、人間は死にたくないので、斬られないようにするじゃないですか。立ち回りの根本です。ところが、万次と同じ不死身の閑馬永空役・海老蔵さんとの立ち回りは、一切避けないでやっちまおうと(笑)。お互い死なないんだから、バツバツ斬っちゃえとなっちゃったわけですけど、もうね、立ち回りにならないんですよ(笑)。避けなくていいんだから。もう、2人でバツバツ! 大丈夫かな? と心配になるくらい斬り合っていました。海老蔵さんも、「もういい加減にしろ(笑)」みたいなことを言ってましたね。――これまで「互いに斬り合う」シーンを演出したことはあったんですか?ないです。斬ったら死にますからね。僕らが時代劇をやる時には、一太刀のための間であり、立ち回りなんですよ。いくらカンカンやりあっても、一度斬られたら終わりという緊張感があります。本当の戦いは一瞬で終わる。昔の東映は刀をかわすシーンがあったりしたんですけど、黒澤映画や東宝系の三船敏郎さんなんかは、刀を合わせないでバツバツ斬る。かわす間があったら叩き斬る。万次の場合はかわさなくても斬っちゃえばいい。相手に斬らせてまで、相手を殺そうとする。ただ、それが痛みを伴うことは分かっている。人間だから、当然痛い思いしたくない。痛いのは痛いんですよ、万次は。○エキストラに「殺し合い」指示――そのほか、倒した相手の武器を自分のものにすることも万次の特徴です。武器の種類は全部で38もあったそうですが、殺陣師の腕の見せどころですね。
2017年05月30日「"無限"とは"時間"や"時空"ではなく、"想い"なのだと感じています。限りの無い"想い"。それは"永遠"と呼んでもいいものだと思います」俳優・木村拓哉にとって『武士の一分』(06年)以来、約10年ぶりの時代劇主演となる映画『無限の住人』。沙村広明氏の人気漫画が初の実写化、さらに木村と三池崇史監督の初タッグということもあり、メディアは大々的に取り上げた。SMAP解散騒動で日本中に激震が走った2016年1月、木村は不死身の侍・万次をようやく演じ終える。2015年10月5日、映画化が発表されたあの日から、どれだけの人がこの作品を話題にしてきたのだろうか。冒頭にあるのは、「無限とは?」に対する木村の答えだ。公開初日を迎えた2017年4月29日、舞台あいさつの壇上で「客席の皆さまのものになりました」と引き締まった表情で呼びかけた木村。今回の連載は「∞」になぞらえ、8名のスタッフの証言をもとに、『無限の住人』が「皆さまのもの」になるまでの「無限の想い」をまとめた取材記録である。5人目は、本作の生命線ともいえる殺陣師・辻井啓伺氏。連載第11回は、「立ち回りではない立ち回り」について。辻井氏の度肝を抜いた木村の"天性"とは。○「引き出し」から作り上げる立ち回り――激しい殺陣が注目を集めています。どのような流れで動きをつけていったのでしょうか。台本をもとに作られた絵コンテに沿って、動きをつけていきます。もちろん原作も読みますよ。昔は現場でカット割りをしていたんですが、最近はCGをどこに入れるかも含めて想定しないといけないこともあるので、予算の兼ね合いもあって事前に打ち合わせをします。今回の立ち回りは、ほとんど現場で作りました。僕らアクションチームで前もってやったりはするんですが、結局リハーサルできたのは木村(拓哉)さんと満島(真之介)くんの戦いぐらいですね。でも、今回はみなさん、覚えが早かった。万次が300人と戦うラストは現場で作っていきました。――木村さんは「殺陣に見せたくなかった」とおっしゃっていました。そうそう。現場のアイデアで立ち回りはどんどん変わっていきます。僕らは、「払って斬って」というリズムで作ったりするんですけど、「かわす間があったら斬る」みたいなアイデアがあれば、そのリズムも崩れます。木村さんは剣道経験者なので、その場その場でどんどん変わっていく。一連のおおまかな流れは僕が作りますが、お願いするのは「最後はカメラの方を向いて終わってください」程度です。――役者さんの経験値によって左右されるんですね。得意・不得意もありますし、癖もあります。僕らは形から入りますが、そこには心情的な部分も必要になります。立ち回りは、お芝居の意見の1つ。監督にとってそれが違っていたら、また違う意見を出す。そういういろいろな引き出しを持っておいて、現場で出しています。――殺陣師として「ここだけは譲れない」みたいなことはないんですか?もちろんあります(笑)。その時は、納得してもらえるように話し合っています。○「1回目でやり遂げてしまう」――今回の撮影を通して、木村さんの秀でた部分も感じたのでは?常に客観的に自分を見られるところ。後ろ姿でも、「こう撮ってほしい」みたいな動きをされます。後ろ姿でも撮られることを意識できるのは、本当にすごいです。顔を映さなくても、セリフが聞こえてくるような気がするんですよね。僕が驚いたのは、テストでモニターを見ていた時。何十人もブワーと斬りまくってバシッと構えたんですよ。それが1回目からフレームの中にビシっと収まった。引きすぎでも、寄りすぎでもない。こんなの、普通の人じゃ無理ですよ。たぶん、カメラのピントマンも楽だったと思いますよ。いつもビシっと収まる。しかも、それを1回目でやり遂げてしまう人。――そういうシーンがあると、現場のテンションも上がりそうですね。ええ。これ、カット割らなくていいよね、となる。それまで、ああしようこうしようと考えているんですけど、1カット目から何十人も斬ってピタッと収まると、その1カットで見せるしかないよねとなります。今まで頭の中で必死に考えていたカットも、いらなくなるわけです(笑)。木村拓哉がフレームの中でビシっと構えるカットがあれば、他はいらない! OK!もちろんこれまでの経験もあると思いますが、きっと天性のもの。1対1の場合は隠しすぎてもダメ出し、離れすぎてもダメ。僕ら立ち回りのプロはいつも後ろ姿に力を入れますが、そういうのもできちゃうから。相手も楽だと思います。■プロフィール辻井啓伺(つじい・けいじ)1963年1月12日生まれ。大阪府出身。1981年、ジャパンアクションクラブに入団。その後、ワイルドスタントチーム設立メンバー、スーパーアクションメガシステム設立メンバーを経て、2001年にスタントチーム「ゴクウ」設立。これまでの主なスタントコーディネート作品は、『十三人の刺客』(10)、『一命』(11)、『許されざる者』(13)、『クローズZERO』シリーズ(07・09・14)、『精霊の守り人』(16・17/NHK)など。(C)沙村広明/講談社 (C)2017映画「無限の住人」製作委員会
2017年05月29日旬なゲストのここでしか見ることのできない素顔に迫る日本テレビ系「おしゃれイズム」。5月28日(日)放送回に俳優の大杉漣が出演。“強面俳優”として知られる大杉さんの素顔に番組MCの上田晋也、藤木直人、森泉が迫る。大杉さんといえば『ソナチネ』の暴力団幹部・片桐役をはじめとした“強面”のイメージが強いが、一方でそれとは正反対の刑事役から真面目なサラリーマン、狂気に満ちたサイコなキャラクターまであらゆる役柄をこなす日本が誇る演技派俳優の1人でもあり、その役柄のバリエーションからあらゆるジャンルの作品に出演してきた。元々は舞台からそのキャリアをスタートさせた大杉さんは、その後Vシネマなどへの出演を続け、1993年北野武監督作品『ソナチネ』への出演を契機に『キッズ・リターン』『HANA-BI』『BROTHER』『監督・ばんざい!』など北野監督作品の常連となったほか、『ゼブラーマン』『土竜の唄 潜入捜査官REIJI』などの三池崇史監督作にも多数出演。黒沢清、井筒和幸、SABU、崔洋一、園子温、堤幸彦、本広克行ら日本映画界を代表する名監督の手がける作品で活躍。またテレビの世界では「土曜ワイド劇場」などのサスペンスものにも多数出演。NHK連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」、そして大河ドラマ「義経」など国民的ドラマなどでその実力を遺憾なく発揮してきた。昨年は二階堂ふみとの共演が話題となった『蜜のあわれ』や昨年公開され大ヒットした『シン・ゴジラ』での内閣総理大臣役、「レンタル救世主」の社長などより一層幅広い役柄に挑みつつ、今年も遠藤憲一、田口トモロヲ、寺島進、松重豊、光石研らと共演した「バイプレイヤーズ」や実話を基にした異色のゲームドラマ「ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん」、そして主演最新作となる『グッバイエレジー』が3月に公開されるなど、65歳を迎え今なお精力的に俳優という職業に挑み続けている。番組ではそんな大杉さんの愛猫トラちゃん、愛犬風ちゃんを大公開。また奥様との壮絶夫婦ゲンカなど家族にまつわるエピソードや、サッカーに対する深い造詣で知られる大杉さんのサッカー三昧な休日の様子。さらに俳優仲間たちの暴露など、そのお茶目すぎる素顔に迫る。「おしゃれイズム」は5月28日(日)22時~日本テレビ系で放送。(笠緒)
2017年05月28日「"無限"とは"時間"や"時空"ではなく、"想い"なのだと感じています。限りの無い"想い"。それは"永遠"と呼んでもいいものだと思います」俳優・木村拓哉にとって『武士の一分』(06年)以来、約10年ぶりの時代劇主演となる映画『無限の住人』。沙村広明氏の人気漫画が初の実写化、さらに木村と三池崇史監督の初タッグということもあり、メディアは大々的に取り上げた。SMAP解散騒動で日本中に激震が走った2016年1月、木村は不死身の侍・万次をようやく演じ終える。2015年10月5日、映画化が発表されたあの日から、どれだけの人がこの作品を話題にしてきたのだろうか。冒頭にあるのは、「無限とは?」に対する木村の答えだ。公開初日を迎えた2017年4月29日、舞台あいさつの壇上で「客席の皆さまのものになりました」と引き締まった表情で呼びかけた木村。今回の連載は「∞」になぞらえ、8名のスタッフの証言をもとに、『無限の住人』が「皆さまのもの」になるまでの「無限の想い」をまとめた取材記録である。4人目は、万次のメイクを担当した酒井啓介氏。木村とはテレビ朝日系『アイムホーム』が縁で本作の声が掛かる。連載第10回は「最も近い距離で分かったこと」。近づくと「普通」、離れると「普通じゃなくなる」というのは、どういうことなのか。○「カッコいい人」を汚す――正式に三池組に加わることが決まった時は、どのような心境でしたか。三池さんはぜひやらせていただきたいと思っていた監督のお一人だったんですけど、「組」として出来上がっているから、初めての自分が入る隙があるとは……。ドラマ(『アイムホーム』)が終わった直後ぐらいにはお話をいただきました。――二つ返事で?もちろん。内容がすごくインパクトありましたし、木村さんの新たなイメージになるような気がしたので、すごくやりたいと思いました。カッコいい人を汚すのって、欲求としてありませんか(笑)?プレッシャーや不安よりも、そういう楽しみの方が勝っていました。緊張より、ワクワクする感じ。木村さんもメイクのことは任せて下さる感じで、「一緒にやろう」という感じでしたのですごく撮影が楽しみでした。――三池組にはすんなり入れましたか?初めてですし、いきなりは入り込めないと思いました。出来上がったチームにお邪魔させていただくような感じでしたが、専属の仕事なので、「思いっきりやろう」と。木村さんと「ここはどうしよう」とか話し合いながら、楽しんでやらせていただきました。○三池組の木村拓哉は「すごく幸せそう」――今回の現場で、木村さんと最も近い距離にいたのが、酒井さんだと思います。話してると本当に普通に感じて、でも普通じゃないというか。近くでお話してると、すごく親しみやすく接してくださるんですが、ふと離れると「おぉ……」という感じ。そのギャップが極端ですね。――木村さんは右膝じん帯損傷のケガをしたり、相当過酷な現場だったと思いますが、最後のメイクをした日のことは覚えていますか?最後って何の撮影だったのかな……あっ、金子賢さんとの冒頭のシーンですかね。刀傷を毎日、毎カット作っていたので、「これが最後の傷かな」と思いながらやっていました。2カ月近くですかね。同じ車に乗って現場に行って、また同じ車に乗って一緒に帰って来る。「またやろうぜ」みたいなお言葉はいただいたと思います。――現場を共にして、酒井さんだからこそ感じ取ったことは?三池組というチーム感が出来上がった組だったからこそ、木村さんはどんなつらい現場でも、そういう一体感さえあれば全部楽しんでしまう。すごいなと思いました。一体感がない現場だったら、少し違った現場になったのかもしれません。三池組さえあれば、どんなにきついことでも楽しんでやれる。そういう巡り合わせも、すごく幸せそうでした。――次は何の作品でしょうね。もうオファーは来てますか。それはナイショです(笑)。――では、楽しみにしています。さて、いよいよ明日公開です(取材は公開日前日)。そうですね。とりあえず観て欲しい。本当にすごいですよ。■プロフィール酒井啓介1979生まれ。福島県出身。映画『たたら侍』(17年)、『ジョジョの奇妙な冒険』(17年8月4日公開)、『ラプラスの魔女』(18年公開予定)、ドラマ『DOCTORS』(11年~・テレビ朝日系)、『BORDER』(14年・テレビ朝日系)、『アイムホーム』(15年・テレビ朝日系)、『コールドケース』(16年・WOWOW)などを担当。(C)沙村広明/講談社 (C)2017映画「無限の住人」製作委員会
2017年05月28日「"無限"とは"時間"や"時空"ではなく、"想い"なのだと感じています。限りの無い"想い"。それは"永遠"と呼んでもいいものだと思います」俳優・木村拓哉にとって『武士の一分』(06年)以来、約10年ぶりの時代劇主演となる映画『無限の住人』。沙村広明氏の人気漫画が初の実写化、さらに木村と三池崇史監督の初タッグということもあり、メディアは大々的に取り上げた。SMAP解散騒動で日本中に激震が走った2016年1月、木村は不死身の侍・万次をようやく演じ終える。2015年10月5日、映画化が発表されたあの日から、どれだけの人がこの作品を話題にしてきたのだろうか。冒頭にあるのは、「無限とは?」に対する木村の答えだ。公開初日を迎えた2017年4月29日、舞台あいさつの壇上で「客席の皆さまのものになりました」と引き締まった表情で呼びかけた木村。今回の連載は「∞」になぞらえ、8名のスタッフの証言をもとに、『無限の住人』が「皆さまのもの」になるまでの「無限の想い」をまとめた取材記録である。4人目は、万次のメイクを担当した酒井啓介氏。木村とはテレビ朝日系『アイムホーム』が縁で本作の声が掛かる。連載第9回は「メイク秘話」。不死身の質感と顔の傷、独眼の右目はどのように作られていたのか。○世界になじませる「ギリギリ」の勝負――いよいよ明日公開ですね(2017年4月28日に取材)。明日ですね……。普通だと、撮影終わって別の仕事をして一時的に考えなくなるというか、ポッカリ空く時があるんですが、『無限の住人』に関しては、ずっとずっと続いているような感じがしています。木村さんの存在が大きかったこともあると思うんですけど、「ずっと続けてやってきた」みたいな感じです。――試写をご覧になってどのように思われましたか。とにかくすごいアクションです。カット割で撮った場合は、「つながってこうなるんだ」という驚きがありますが、これの場合はものすごい立ち回りが続いて、「確かにこのスピード感だったな」とか、「撮っていた時もこの勢いだったな」とか、現場で見ていたそのままの臨場感をあらためて感じることができました。――殺陣の辻井啓伺さんにも試写の感想をうかがったのですが、ストーリーよりも殺陣師の目線で見てしまうとおっしゃっていました。酒井さんはいかがですか。僕は自分の仕事を細かく見るというよりは、ストーリーを見ていく上で、悪目立ちしないかのチェックはしています。物語にすんなり入っていけるか、浮いてないか。その世界になじませるためのもの、それがメイクだと思っています。奇抜なキャラクターも多いんですが、つられてやり過ぎないギリギリのところを注意しながらやっていました。――現実と非現実の間のような独特の世界観です。そうですね。ただ、原作の絵に似せるということはしませんでした。沙村先生が、仮に誰かをモデルに万次を描いたとして、それを思い浮かべてメイクに落とし込んでいくイメージです。漫画が原作の場合はだいたいそういうやり方をしています。さらに、今回は「不死身をどうやって表現するのか」が大切なポイントでした。○照明部に足を向けて寝られない理由――不死身になる前となった後では、雰囲気もガラリと変わりますよね。実際にはそこまで変わらないんですが、カメラを通してスクリーンに映った時にどのように感じるのか。どう見えるかではなく、観る方がどのように感じるのか。――通常であれば、メイクは人をよりきれいに美しく見せるもの。まるで違う作業ですね。そうですね。勝手な考えですが映画は少しソフトめに写って肌がきれいに見えると思うんです。万次は皮膚の毛穴やシミとかそういう本来の粗い質感をより感じさせたかったので、そのあたりは意識しました。照明込みの質感を確認しながら、嵩上げしていくようなイメージです。――光の加減も重要になってくるんですね。もちろんです。照明さんにメイクの仕上げをお願いする感じですかね。セットの中と外、ロケのような環境によっての違いも出てきます。照明さんには足向けて寝られません(笑)。現場に入るとよく分かりますよ、影の出方やツヤの出方も光によって変わってきます。撮っていくうちに狙いたいものが見えてきて、たとえば目を光らせたいなとか。そういう時はこそっと照明さんに相談します。そうやって狙う作業が、仕事として面白い。たとえば血糊。殺陣の最後に見得を切るタイミングで血が垂れるように「狙う」。もちろんうまくいかないことの方が多いですが、「狙ってみよう」という遊びが面白いんです。だから、スタジオの時は特にですが、撮影がスタートする朝の段階でのメイクは、半分という感じ。あとは現場でライティングを見ながら足して引いて、また足してみたいなことを繰り返しています。○メイクを手伝う木村拓哉――そういえば、先日木村さんを取材したのですが、メイクの方が原作と自分の顔を見比べて首をかしげられたことがあったとおっしゃっていました。非常に焦ったそうですよ。ハハハッ! それ、僕じゃないですよ(笑)。ほかのキャラクターを含めて全体を統括しているメイクディレクターの方だと思います。僕は万次専任でした。――そうだったんですね(笑)。独眼についての取材も多いと思います。完成までどのくらいの時間がかかるんですか。最初は1時間半ほど時間をとっていましたが、徐々に慣れてきて。木村さんも工程を理解して、道具を取って「はい」と渡してくれる(笑)。自分でやってしまうんじゃなくて、アシスタントのように僕をサポートしてくださるんです。そういう感じでどんどん早くなっていって、最終的には1時間を切って完成していたと思います。――右目は完全に閉じている状態なんですか?そうです。傷を含めて貼り付けています。その上に、シーンごとに色を足していきました。色がついていない特殊メイクパーツをいただいて、それを貼ったり、色付けしていくのが僕の作業。シーンによって、傷口の赤を強くしたり、薄くしたり調整しています。■プロフィール酒井啓介1979生まれ。福島県出身。映画『たたら侍』(17年)、『ジョジョの奇妙な冒険』(17年8月4日公開)、『ラプラスの魔女』(18年公開予定)、ドラマ『DOCTORS』(11年~・テレビ朝日系)、『BORDER』(14年・テレビ朝日系)、『アイムホーム』(15年・テレビ朝日系)、『コールドケース』(16年・WOWOW)などを担当。(C)沙村広明/講談社 (C)2017映画「無限の住人」製作委員会
2017年05月27日「"無限"とは"時間"や"時空"ではなく、"想い"なのだと感じています。限りの無い"想い"。それは"永遠"と呼んでもいいものだと思います」俳優・木村拓哉にとって『武士の一分』(06年)以来、約10年ぶりの時代劇主演となる映画『無限の住人』。沙村広明氏の人気漫画が初の実写化、さらに木村と三池崇史監督の初タッグということもあり、メディアは大々的に取り上げた。SMAP解散騒動で日本中に激震が走った2016年1月、木村は不死身の侍・万次をようやく演じ終える。2015年10月5日、映画化が発表されたあの日から、どれだけの人がこの作品を話題にしてきたのだろうか。冒頭にあるのは、「無限とは?」に対する木村の答えだ。公開初日を迎えた2017年4月29日、舞台あいさつの壇上で「客席の皆さまのものになりました」と引き締まった表情で呼びかけた木村。今回の連載は「∞」になぞらえ、8名のスタッフの証言をもとに、『無限の住人』が「皆さまのもの」になるまでの「無限の想い」をまとめた取材記録である。3人目・連載第8回は、『戦場のメリークリスマス』『ラスト・エンペラー』『BROTHER』など数々の名作を手掛けてきたイギリス人プロデューサー、ジェレミー・トーマス氏。三池監督作は、『十三人の刺客』(10)、『一命』(11)に続いて3度目。同氏が代表を務める「Han Way Films」が本作の海外セールスを担っている。世界的に活躍する敏腕プロデューサーは、木村拓哉と三池崇史をどのような人物として捉えているのか。○パーフェクトなキャスティング――いよいよ公開を迎えます(4月に取材)。三池監督と木村さんのタッグについては、どのような印象ですか。パーフェクトなコンビネーションではないかと思っています。三池監督はとても素晴らしい監督で、技術的な面でも芸術的な面においても巨匠と呼べる監督です。非常に優れた映画作りをすることが出来て、今回の現場では、シングルカメラでセットアップが多くなってしまう状況を見事にこなしたことは彼の力量を証明していますし、木村さんは現場でも監督と常にタッグを組んでいて、それは文章で表される以上に素晴らしいものであったように感じています。――三池監督は木村さんが不死身の侍・万次を演じることについて、運命的なキャスティングだったとおっしゃっていましたが、そのことについてはどのように思われますか?キャスティングというのは私も長年大切にしてきたことですが、今回の場合はパフォーマー、例えば木村さんが音楽をやってきたことや市川海老蔵さんが歌舞伎をやってきたこと、様々な形で役者としてやってきたことを踏まえた上でこの作品でも素晴らしい演技をみせてもらう、そういった意味においても、とても良いキャスティングであったように感じています。大島渚監督と働いた『戦場のメリークリスマス』という作品では、坂本龍一さん、デヴィッド・ボウイさんらは音楽家であるにも関わらず演技が素晴らしくて、三池監督もそういった部分を見抜いた上でキャスティングしたのではないでしょうか。監督はポップカルチャーに造詣が深く、キャスティングに関しては木村さんのみならず、色々なところから才能を上手く組み合わせて作り上げていく。パーフェクトなキャスティングだと思いますし、そのことがこの映画にパーソナリティ、性格を付与しているではないでしょうか。海外に目を移せば、SMAPの木村さん、歌舞伎の市川さんらの名前の方が知られているのかもしれませんが、他のキャスティングに関しても素晴らしいと考えています。またキャスティングというと役者のことばかり考えがちですが、この映画の場合、音楽を含め、スタッフも素晴らしいキャスティングでした。はじめMIYAVIさんが音楽を担当されると聞いた時は、ポップソングであることに少しだけ抵抗を感じました。時々、どうしてこの映画にこの音楽なのだろうと思うことがあるからです。しかし実際にMIYAVIさんの曲を聴いてみると本当に素晴らしく、独特の世界観を持っていて、この映画の物語にピタッとはまる、そういう楽曲になっていたように思います。○日本映画を世界に届けたい――世界中の名だたる巨匠達の作品をプロデュースしてこられましたが、三池監督とはどういった経緯で関わるようになったのでしょうか?私は谷崎潤一郎が大好きで、村上龍さんの『オーディション』や『イン ザ・ミソスープ』等を読んでいました。そこから三池監督の『オーディション』を観ることになって、元々三池監督の『中国の鳥人』等は拝見していて素晴らしいと思っていたのですが、『オーディション』を観てこれぞマエストロだと感心しました。今の若い人達はあまり谷崎文学を知らないかもしれないですが、私は谷崎が大好きで、当時是非脚色したいと考えていた作品がありました。その話をヴェネツィア映画祭に参加していた三池監督とお会いした時にお話ししたのですが、その数カ月後、『十三人の刺客』の中沢敏明プロデューサーから電話がかかってきて、それをきっかけに三池作品の製作に関わるようになりました。そしてその後も続投したのは、やはり三池崇史という才能と是非組みたいと思ったからです。思い起こすのは大島渚という本当に素晴らしい監督で、リスクを負って非常に強いものを持った作品を作っていった、それと同じようなものを感じますし、その後も北野武監督といった素晴らしい日本の監督と働かせていただく中で、私にとっての三池監督は、そういった日本に連なっている映画的才能を受け継ぐ監督であると考えています。三池監督だからこそコラボレーションしたいと思うのです。人は私のことを変わったプロデューサーと呼びます。それは何故かというと、私が一番大切にしているものが、テイスト(自分の趣味にあうかどうか)、であるからです。そういった意味においても私は三池監督が大好きですし、『無限の住人』に関わりたいと思ったのも、三池監督の作品だったからです。その時にはまだ木村さんのキャスティングも出ていませんでした。映画の世界というのは私が業界に入ってから随分と変わりました。1967年からずっと映画に関わり続けていますが、当時の日本映画の重要な監督といえば、今村昌平、溝口健二、黒澤明、小津安二郎、こういった監督達が常に何かしらの作品を発表しているという状況がずっと続いていましたが、それがある時期を堺に止まってしまいました。しかし私は今、日本映画というものを世界の観客に届けることができる、そういった監督の一人が三池監督であると考えています。『十三人の刺客』でまさにそれを証明していると思いますし、世界の観客が日本映画を求めている、そして三池監督も自分の作品を世界に届けたいと思っていらっしゃるから、是非私も力添えしたい、こういったタイプの日本映画を観たことのない人に、是非観てほしいと思っています。また、日本映画を外国に持っていくと、どうしても字幕が入ってしまいます。そうすると作品は日本でいう所謂アートハウス系の映画館に入ってしまい、色々な人にたくさん観てもらうといったことが難しくなってしまうのですが、だからこそ私はカンヌ映画祭のような場所に『無限の住人』を持っていきたい。そうすることによって、世界中の映画を愛する方々にこういう映画があるということを伝えることができるからです。○海外メディアの高評価確信「本当のこと」――木村さんの存在は、世界でどのように受け止められると感じていますか?木村さんは非常に才能があり、知的な人です。私にとっては坂本龍一さんを思い起こさせます。とても素晴らしい役者ですし、強烈な存在感。主演として出演時間も長いですし、ハンサムな顔も映される、そしてスタントを使わず全てのアクションをこなしているわけですから、『無限の住人』を通して世界からも注目されるようになるのではないでしょうか。サーファーとしてかなり腕があると聞いていますが、やはり肉体的な強靭さや身体能力の高さがその演技力と相まっていて、そういった意味においても世界から認知される資質はあると思いますし、そうなると思っています。私は、『無限の住人』がニューヨーク・タイムズ等といった世界的に権威のあるメディアから「すばらしい侍映画である」、そういったレビューが出ることを待っています。なぜならそれは、本当のことですから。■プロフィールジェレミー・トーマス1949年7月26日生まれ。イギリス・ロンドン出身。映画プロデューサー。これまで、『戦場のメリークリスマス』(83)、『ラスト・エンペラー』(88)、『リトル・ブッダ』(94)、『BROTHER』(01)、『裸足の1500マイル』(03)、『十三人の刺客』(10)、『一命』(11)などを手掛ける。(C)沙村広明/講談社 (C)2017映画「無限の住人」製作委員会
2017年05月26日「"無限"とは"時間"や"時空"ではなく、"想い"なのだと感じています。限りの無い"想い"。それは"永遠"と呼んでもいいものだと思います」俳優・木村拓哉にとって『武士の一分』(06年)以来、約10年ぶりの時代劇主演となる映画『無限の住人』。沙村広明氏の人気漫画が初の実写化、さらに木村と三池崇史監督の初タッグということもあり、メディアは大々的に取り上げた。SMAP解散騒動で日本中に激震が走った2016年1月、木村は不死身の侍・万次をようやく演じ終える。2015年10月5日、映画化が発表されたあの日から、どれだけの人がこの作品を話題にしてきたのだろうか。冒頭にあるのは、「無限とは?」に対する木村の答えだ。公開初日を迎えた2017年4月29日、舞台あいさつの壇上で「客席の皆さまのものになりました」と引き締まった表情で呼びかけた木村。今回の連載は「∞」になぞらえ、8名のスタッフの証言をもとに、『無限の住人』が「皆さまのもの」になるまでの「無限の想い」をまとめた取材記録である。2人目は、スケジュールや予算など制作全般の進行を管理した坂美佐子プロデューサー。これまで数々の三池作品を手掛けてきた”右腕”ともいえる人物だ。連載第7回は、「カンヌ公式上映の重み」と「裏方のプライド」。○カンヌ出品の苦労――三池監督は取材した時点で、すでに別の作品を撮っていたりしますよね。映画化が発表されると「あの時はこれを撮っていたのか!」と、いつも驚かされます。そうですね。映画監督の「作りたいもの」には芸術性を求めがちだと思うんですけど、三池監督には当てはまらない気がします。今の世の中の人が見たいものをキャッチして、どのように作るかを考える。そして、自分が楽しめるものを作っていく。三池監督の想いは、芸術性とは全く違うところにあると思っています。――カンヌで公式上映されることが決まりましたが、このあたりも見据えていたんですよね(4月下旬に取材)。海外だけを視野に入れていたわけではありませんが、もちろんエントリーしました。われわれ映画人にとって、カンヌは誰もが掲げる目標。三池監督は海外から支持されていますが、発表されるまではドキドキでした。本当にホッとしています。世界中からの何千本という中から数十本しか選ばれないわけですから、それがどれだけ難しいことか。三池監督で何本も経験していますけど……やっぱりみなさん「カンヌ」をすごく軽くおっしゃるんです。この苦労はきっと伝わらないと思います(笑)。○木村拓哉と再会して涙――ここは丁寧に書き残しておこうと思います(笑)。本当にオフィシャルセレクションはハードル高いんです。でも、カンヌはみんなの合言葉のようになっていました。いま別の作品を撮っているんですけど、発表時はその現場でした。YouTubeの中継を見ていたんですが、さすがに音は出せない。電話で「呼ばれましたよ!」と言われて、監督も私もYouTubeを見ていたのに全く気づかず(笑)。膝の力が抜けました。次の日、キャンペーンで木村さんに会ったんですけど……その顔を見た時に泣けました。木村さんにはすぐに電話して、監督に替わって監督の口から伝えてもらいました。その時も木村さんと話しているんですけど、次の日に新幹線の駅で木村さんを見た時に……込み上げてきたんです。うれしいとかじゃなくて、本当によかったと。電話した時、監督は木村さんに「隣の坂さん、ぐったりしてる」と伝えてくださいました(笑)。うれしいのはうれしいんですけど、現場の責任者ですから、本当の喜びになるまでは時間が必要なのかもしれません。――今回の取材で、1つの作品にはさまざまな人間ドラマがあることがよく分かります。そうですね。でも、映画を観る方々にとっては、あまり関係のないこと。いろいろな利害関係が生じるのが私たち裏方の仕事で、そこは本来であれば見えちゃいけないものなので、皆さんには作品を表面的に楽しんでほしいと思っています。そのためは我々は日々、自分の仕事を全うしています。■プロフィール坂美佐子(さか・みさこ)静岡県浜松市出身。映画プロデューサー。NHKエンタープライズを経て、現在株式会社OLM、OLMデジタル取締役。これまで、『極道恐怖大劇場 牛頭』(03)、『ゼブラーマン』シリーズ(03・10)、『着信アリ』(04)、『IZO』(04)、『妖怪大戦争』(05)、『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(07)、『クローズZERO』シリーズ(07・09)、『神様のパズル』(08)、『ヤッターマン』(08)、『十三人の刺客』(10)、『一命』(11)、『愛と誠』(12)、『悪の教典』(12)、『藁の楯 わらのたて』(13)、『喰女-クイメ-』(13)、『土竜の唄』シリーズ(14・16)、『神さまの言うとおり』(14)、『風に立つライオン』(15)、『極道大戦争』(15)、『テラフォーマーズ』(16)など、数々の三池監督作を手掛ける。(C)沙村広明/講談社 (C)2017映画「無限の住人」製作委員会
2017年05月25日「"無限"とは"時間"や"時空"ではなく、"想い"なのだと感じています。限りの無い"想い"。それは"永遠"と呼んでもいいものだと思います」俳優・木村拓哉にとって『武士の一分』(06年)以来、約10年ぶりの時代劇主演となる映画『無限の住人』。沙村広明氏の人気漫画が初の実写化、さらに木村と三池崇史監督の初タッグということもあり、メディアは大々的に取り上げた。SMAP解散騒動で日本中に激震が走った2016年1月、木村は不死身の侍・万次をようやく演じ終える。2015年10月5日、映画化が発表されたあの日から、どれだけの人がこの作品を話題にしてきたのだろうか。冒頭にあるのは、「無限とは?」に対する木村の答えだ。公開初日を迎えた2017年4月29日、舞台あいさつの壇上で「客席の皆さまのものになりました」と引き締まった表情で呼びかけた木村。今回の連載は「∞」になぞらえ、8名のスタッフの証言をもとに、『無限の住人』が「皆さまのもの」になるまでの「無限の想い」をまとめた取材記録である。2人目は、スケジュールや予算など制作全般の進行を管理した坂美佐子プロデューサー。これまで数々の三池作品を手掛けてきた"右腕"ともいえる人物だ。連載第6回は、プロデューサーが見た木村拓哉の素顔と「独眼」秘話。○「独眼」の説得を拒み続ける――映画の話を聞いたのはいつごろからなんですか?2年前ぐらいですね。(エグゼクティブプロデューサーの)小岩井(宏悦)さんから聞きました。三池監督が主演を木村さんに決めて、出演が正式に決まったのが7月の終わり。『無限の住人』は業界内でもかなり有名な作品で、詳しい事情は分かりませんが、いろいろな方がやろうとしてダメになったという話は何度か聞きました。――木村さんとは今回が初めてですか?初めてです。――これまでとイメージが変わった部分はありましたか?私にとっても大スターなので、こういう人だろうとかは、あまり想像しませんでした。万次は独眼で、原作では右目を塞がっています。三池組の"母"として、「塞ぐ目を左目にしましょう」という説得は本当に数え切れないほどしました。でも、彼は「ダメだ」と。「原作が右目だから」というシンプルな理由でした。それが「木村拓哉」なんです。――なぜそこまで説得したんですか?利き目である右目を塞ぐと、立ち回りがさらに危険になります。万次はいろいろな武器を使うキャラクターなので、相手との距離感もそれぞれの武器によって変わってきます。本当に危険なんですよ。危険な撮影は、作品への愛情がないとできない。譲らないのが「木村拓哉」です。それは反抗でもなく、原作に従うというだけ。原作に対するリスペクトなんだと思います。自分の出番だけじゃなくて、他の人が芝居している時にはカメラ側にいてリアクションされていました。○「俳優部」を特別扱いしない――印象に残っているシーンはありますか?最後の立ち回りのシーンは、エキストラさんが300人ぐらい参加しています。極寒の中で、川に足を入れている人もいました。われわれスタッフはもちろんフォローします。私、現場で炊き出しもするんですよ(笑)。玉こんにゃくなんか、寒い現場にピッタリ。紙コップに入れてみんなに配るんです。こんにゃくって冷めづらいんですよね。そして、ちょっとお腹にもたまる。スタッフはもちろん当たり前のようにフォローしますけど、木村さんはエキストラの方々に「寒いですね。すみません」「ありがとう」と話しかけるんです。そんな光景を目にすると、すごく良い現場だなと感じますね。全員が三池組。きっと皆さん、スタッフが俳優を迎え入れるみたいな印象あると思います。でも、三池組の場合は撮影部、照明部、美術部と同じように「俳優部」なんです。俳優部としての木村拓哉。寒さのケアは、スタッフもキャストも一緒。俳優だからといって特別扱いするわけでもないんです。――木村さんが海外映画のような印象を受けたと言っていたのは、そういうことなんですかね。もしかしたら、言葉は悪いけどキャストを大事にしないというか。ちやほやしない。三池組には、そんなことをするパートがないんです。■プロフィール坂美佐子(さか・みさこ)静岡県浜松市出身。映画プロデューサー。NHKエンタープライズを経て、現在株式会社OLM、OLMデジタル取締役。これまで、『極道恐怖大劇場 牛頭』(03)、『ゼブラーマン』シリーズ(03・10)、『着信アリ』(04)、『IZO』(04)、『妖怪大戦争』(05)、『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(07)、『クローズZERO』シリーズ(07・09)、『神様のパズル』(08)、『ヤッターマン』(08)、『十三人の刺客』(10)、『一命』(11)、『愛と誠』(12)、『悪の教典』(12)、『藁の楯 わらのたて』(13)、『喰女-クイメ-』(13)、『土竜の唄』シリーズ(14・16)、『神さまの言うとおり』(14)、『風に立つライオン』(15)、『極道大戦争』(15)、『テラフォーマーズ』(16)など、数々の三池監督作を手掛ける。(C)沙村広明/講談社 (C)2017映画「無限の住人」製作委員会
2017年05月24日「"無限"とは"時間"や"時空"ではなく、"想い"なのだと感じています。限りの無い"想い"。それは"永遠"と呼んでもいいものだと思います」俳優・木村拓哉にとって『武士の一分』(06年)以来、約10年ぶりの時代劇主演となる映画『無限の住人』。沙村広明氏の人気漫画が初の実写化、さらに木村と三池崇史監督の初タッグということもあり、メディアは大々的に取り上げた。SMAP解散騒動で日本中に激震が走った2016年1月、木村は不死身の侍・万次をようやく演じ終える。2015年10月5日、映画化が発表されたあの日から、どれだけの人がこの作品を話題にしてきたのだろうか。冒頭にあるのは、「無限とは?」に対する木村の答えだ。公開初日を迎えた2017年4月29日、舞台あいさつの壇上で「客席の皆さまのものになりました」と引き締まった表情で呼びかけた木村。今回の連載は「∞」になぞらえ、8名のスタッフの証言をもとに、『無限の住人』が「皆さまのもの」になるまでの「無限の想い」をまとめた取材記録である。2人目は、スケジュールや予算など制作全般の進行を管理した坂美佐子プロデューサー。これまで数々の三池作品を手掛けてきた"右腕"ともいえる人物だ。連載第5回は、そんな裏方の「トラブルとの向き合い方」について。○雪予報の対処法――本作は、人気の俳優が数多く出演しています。スケジュール調整も大変だったのでは。それぞれの俳優のスケジュールを押さえた上で香盤を固め、予算も含めてすべて成立させてから撮影がスタートします。それよりも困るのが天気です。あらゆる可能性を考えると、予備日はいくつあっても足りない。最悪の場合、撮影を入れ替えればいいんですが、両方が雨の場合はどうするのか。2015年末から2016年1月17日までの撮影で、京都では雪の予報もありました。これは予想外でしたね。戸田(恵梨香)さんが屋根の上から落ちるシーンがあるんですが、撮影のタイミングがちょっと雪が降る可能性のある時期だったので、屋根の部分だけは新たにセットを作り込みました。――えっ! そうだったんですか。はい(笑)。木村(拓哉)さんや(杉咲)花ちゃんが窓から飛び降りるシーンは現場で撮りましたが、戸田さんのシーンはセットです。建てるのは3~4日かかるので、雪が降ってからでは遅い。高さのある場所での降雪は危険を伴いますし、思い切った決断が必要でした。ただし、セットを作ると当然お金もかかるので、予算のやりくりをしないといけません。すべてガチガチの予算で進めていくわけにはいかないので、Aで使うものをBに持って来て、その補填を別のところから持ってくるとか。そんな計算を常に考えています。さらに言うと、セットは屋根のみなので、今度は合成が必要になる。VFXの予算がかかって……みたいなことです。○木村拓哉の終電との戦い――そういったことが大小含めて無数にある。そうですね。今日撮影が長引くと、「お弁当どうしよう」とか。それが何日も続くと、「ロケ費大丈夫かな」とか。心配は尽きません。――大黒柱的な存在ですね。プロデューサーですからね。監督とは役割を分担していないと、現場が回りません。楽しんでいる三池崇史を見て、みんながそれに吸引されて作品がどんどん加速していく。すべては、その楽しい空間にいる人たちを支えるために。それが私の仕事です。――これまで数々の作品で、三池監督と共に歩んで来られましたが、そういった意思疎通もスムーズなんでしょうか。そうですね。ただ、目的を同じにはできないんです。例えば、監督があるシーンを2日間かけて撮りたい場合、私の立場上、反対しないといけないこともあります。セットを今日壊して、明日から別の建て込みをしないといけないとか、ロケの日程を組んでいたりとか。全体の進行はパズルのような状態で、それのどれが欠けても崩れてしまいます。そういえば、監督が骨折、主役である木村さんがじん帯を切っちゃったこともありましたね(笑)。終わったら木村さんを最終の新幹線に乗せないといけない。でも、そのままの格好で乗せられないから、ちゃんとメイクを落とす時間も逆算して。そんな感じで、監督とは一定の距離感を保ったまま仕事をしているという感じです。監督と言い争うことはありませんが、利害は完全に相反するんです。○三池組の"お母さん"――毎日が小さなトラブル、苦労の連続ですね。そうなんです。でも、実は苦労でもなく、楽しみでもないんです。それが「仕事」なんです。トラブルを解決していくのが、私の「仕事」なんです。大変なんて思っていたら、プロデューサーの仕事なんて務まらない。すごくたくさんお金があって、すごく時間がある人たちが集まっていれば、プロデューサーなんていらないでしょうね(笑)。――なるほど。何か工夫していることはあるんですか。そのかわりじゃないですけど、いろいろな情報が集まりやすいようにしています。だいたい100人ぐらいのスタッフがいて、アシスタントの子たちも含めるともっと大人数。困っていることとか、何気ない世間話でもいろいろなことが耳に入って来ます。情報が多ければ多いほど、より正しい判断ができるようになります。―― 一人ひとりとのコミュニケーションが重要になってくる。そうですね。みんなのおばちゃんであり、お母さん的な役割なのかもしれません(笑)。――先ほどは大黒柱と表現しましたが、家計的なことも担うとなると、やはり「母」ですか。大黒柱は監督で、私はどちらかというとお母さんですね(笑)。■プロフィール坂美佐子(さか・みさこ)静岡県浜松市出身。映画プロデューサー。NHKエンタープライズを経て、現在株式会社OLM、OLMデジタル取締役。これまで、『極道恐怖大劇場 牛頭』(03)、『ゼブラーマン』シリーズ(03・10)、『着信アリ』(04)、『IZO』(04)、『妖怪大戦争』(05)、『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(07)、『クローズZERO』シリーズ(07・09)、『神様のパズル』(08)、『ヤッターマン』(08)、『十三人の刺客』(10)、『一命』(11)、『愛と誠』(12)、『悪の教典』(12)、『藁の楯 わらのたて』(13)、『喰女-クイメ-』(13)、『土竜の唄』シリーズ(14・16)、『神さまの言うとおり』(14)、『風に立つライオン』(15)、『極道大戦争』(15)、『テラフォーマーズ』(16)など、数々の三池監督作を手掛ける。(C)沙村広明/講談社 (C)2017映画「無限の住人」製作委員会
2017年05月22日「"無限"とは"時間"や"時空"ではなく、"想い"なのだと感じています。限りの無い"想い"。それは"永遠"と呼んでもいいものだと思います」俳優・木村拓哉にとって『武士の一分』(06年)以来、約10年ぶりの時代劇主演となる映画『無限の住人』。沙村広明氏の人気漫画が初の実写化、さらに木村と三池崇史監督の初タッグということもあり、メディアは大々的に取り上げた。SMAP解散騒動で日本中に激震が走った2016年1月、木村は不死身の侍・万次をようやく演じ終える。2015年10月5日、映画化が発表されたあの日から、どれだけの人がこの作品を話題にしてきたのだろうか。冒頭にあるのは、「無限とは?」に対する木村の答えだ。公開初日を迎えた2017年4月29日、舞台あいさつの壇上で「客席の皆さまのものになりました」と引き締まった表情で呼びかけた木村。今回の連載は「∞」になぞらえ、8名のスタッフの証言をもとに、『無限の住人』が「皆さまのもの」になるまでの「無限の想い」をまとめた取材記録である。2人目は、スケジュールや予算など制作全般の進行を管理した坂美佐子プロデューサー。これまで数々の三池作品を手掛けてきた"右腕"ともいえる人物だ。連載第4回は、そんな裏方の「喜び」について。○「この仕事をやってよかった」――いよいよ公開です(取材は4月下旬)。プロデューサーとして、公開前はどのようなお気持ちですか?ドキドキです。お客さんに届く直前というのは、やっぱりいつも緊張しますね。制作するかしないかも含めて、いちばん先に携わるのがプロデューサーという立場。初めてタイトルを聞いたときから今までのことで間違いはなかったのか、公開前はいつも不安になります。ワクワクするというよりも、ドキドキという感じです。――今回に限らず、苦労してよかったと思えるのはどんな時なんですか?電車に乗っていて、隣の人が作品の話をしてくれた時とか。もちろん、業界の方含めて私の周りで褒めてくださるとうれしんですが、映画館を出てトイレに行った時に作品の話で盛り上がっている方がいると別のうれしさがあるというか。観た後の感想だけじゃなくて、「あの衣装いいよね」「今度お母さんと『無限の住人』観に行くんだ」とか、今まで会ったことない方が私の担当した作品について話題にしてくれていると、とてもうれしい。そういう瞬間は、この仕事をやっていてよかったなと思います。――興行的に成功した時の喜びも格別でしょうね。数字的なところをいつも追いかけていると、「作りたいもの」と「観て欲しいもの」が一致しない作品もあります。でも、プロデューサーとしての考え方の基本にあるのは、「いい作品を作れば必ずたくさんの人が観てくれる」。そこに迷いはありません。○2つの心がけ「私が楽しむわけにはいかない」――三池監督は、「とにかく自分たちのやりたいことを、やりたいようにやる。そうやって無我夢中で作ったものが結果的に、日本人にしか作れない日本の物語として、世界中の人たちにとって、観たことのない価値のあるものになるはずだ」と。監督は「自分たちが楽しまないとお客さんも楽しんでもらえない」という信念のもと、スタッフを束ねて1つの方向に導いていくのが得意な方。それが三池組の大きな魅力と力になっていますが、同じように私が楽しんでしまうわけにはいかなくて。私が心がけることは2つ。1つは、いい作品を作ればたくさんの人が観て興行的に成功するという信念。もう1つは、仕事の内容と予算、スケジュール、クオリティがちゃんと正三角形を成しているかどうかを常に意識すること。予算だけがどんどん膨らんでいってもいけないし、スケジュールだけが守られなくてもいけないし、クオリティが落ちてもいけない。「楽しむだけでは済まない」部分は、私の方で引き受けているつもりです。■プロフィール坂美佐子(さか・みさこ)静岡県浜松市出身。映画プロデューサー。NHKエンタープライズを経て、現在株式会社OLM、OLMデジタル取締役。これまで、『極道恐怖大劇場 牛頭』(03)、『ゼブラーマン』シリーズ(03・10)、『着信アリ』(04)、『IZO』(04)、『妖怪大戦争』(05)、『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(07)、『クローズZERO』シリーズ(07・09)、『神様のパズル』(08)、『ヤッターマン』(08)、『十三人の刺客』(10)、『一命』(11)、『愛と誠』(12)、『悪の教典』(12)、『藁の楯 わらのたて』(13)、『喰女-クイメ-』(13)、『土竜の唄』シリーズ(14・16)、『神さまの言うとおり』(14)、『風に立つライオン』(15)、『極道大戦争』(15)、『テラフォーマーズ』(16)など、数々の三池監督作を手掛ける。(C)沙村広明/講談社 (C)2017映画「無限の住人」製作委員会
2017年05月20日現在開催中の「第70回カンヌ国際映画祭」アウト・オブ・コンペティション部門に選出された映画『無限の住人』の公式上映が5月18日(現地時間)に行われ、木村拓哉、杉咲花、三池崇史監督が出席。超満員の中、上映後は鳴りやまない拍手に包まれスタンディングオベーションが起こった。現在公開中の『無限の住人』は、木村さんをはじめ福士蒼汰、市原隼人、戸田恵梨香、市川海老蔵ら豪華実力派キャストが集結し、実写化不可能と言われた沙村広明の伝説的人気コミックを完全映画化。木村さんの新境地とも言える主人公・万次のキャラクター像、全てのキャストが全編ノースタントで挑んだ圧巻のノンストップアクション、そして命を懸けて凜を守り抜く万次の姿が観る者の胸を打つドラマが口コミで多くの評価を得ている。さらに日本だけでなく、アメリカ、オーストラリア、ドイツの3か国での海外配給も決定している。今回本作が選出された「アウト・オブ・コンペティション部門」は、本作を含め世界中の作品から選ばれた4本が上映されるもの。過去には、スティーブン・スピルバーグ監督作『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』、ジョージ・ミラー監督作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』などが選出されており、日本映画がこの部門に選出されること自体が珍しい。現地カンヌでは、18日朝から実施されたプレススクリーニングで450人の座席が満席となり、現時点で米批評家サイト「Rotten Tomatoes」での批評家の評価は80%を獲得するなど、多くの海外メディアで高い評価を得ている。そしてついに行われた公式上映では、本映画祭で一番大きな劇場「グラン テアトル リュミエール」の2,300席は超満員。そんな中で、主人公・万次を演じた木村さん、万次に用心棒を依頼する少女・凜役の杉咲さん、三池監督が観客と共に本作を鑑賞した。本作の最大の見どころでもある、万次が挑む300人斬りのクライマックスシーンでは、客席から歓声が沸き起こり大いに盛り上がり、さらに上映終了後は拍手が起こり、鳴りやまない拍手とともにスタンディングオベーションが起こっていた。公式上映を終えた木村さんは、「2,000人以上の方々が、男性はタキシードで女性はイブニングドレスというフォーマルな恰好で観ていただきましたが、会場の皆さん作品の観方や楽しみ方がとてもカジュアルでストレートでした。素敵だと感じましたし、とても嬉しかったです」と興奮気味に語り、また「日本での公開を迎えた際に、市原隼人が『映画はお客さんが一番の花形です』と言っていたんです。今日のカンヌ公式上映でお客さんと一緒に映画を観ている最中に、上映中に拍手や笑いが起きました。スクリーンと客席が一体になっていると感じました。今日の上映は一方通行ではなく、本当にコミュニケーションをとることが出来たと思います」と感想を述べた。また、杉咲さんの赤い着物姿に海外メディアから大きな注目を集めた今回。木村さんは、「杉咲さんは着物で大正解でしたね。この場所にくると、“日本らしさ“を再発見できます」と語り、杉咲さん本人は「光景に圧倒されました。まだ成人もしていないのに(笑)こんなことが起こるのか想像もつかなかったのですが、色々なことを体験することが出来てとても幸せです」とコメント。三池監督も「改めて良い映画だなと思いました(笑)」と自画自賛し、「お客さんや劇場そのものが映画を後押ししてくれ、心地よい時間を過ごすことが出来ました。監督としてこれ以上の幸せはないと思いました」と感無量の様子。さらに、クライマックスシーンでの客席からの歓声に木村さんは、「照れくさいというか、嬉しいんですが、監督が『そうなるでしょ』とボソッと呟いていて。監督はさすがに違うなと思いました」と明かす。そんな三池監督は本作について、「編集で何百回も音をつけて、何十回と映像を見るんですが、何度見ても新しい驚きや発見が絶えずあります。作った人間に対して何か語り掛けてくる映画ですし、違うメッセージを持つ映画だと感じています」と言い、「今日は万次が現れたときに、ホッとしましたし、『やっぱり木村拓哉きたな!よし、来た!!』って。自分で監督をしていますが、ほかのお客さんよりも『よし来た!!』って喜んだかもしれません(笑)」とユーモアたっぷりにコメントしていた。『無限の住人』は全国にて公開中。「第70回カンヌ国際映画祭」は5月28日(現地時間)まで開催中。(cinemacafe.net)■関連作品:無限の住人 2017年4月29日より全国にて公開(C) 沙村広明/講談社 (C) 2017映画「無限の住人」製作委員会
2017年05月20日俳優・木村拓哉(44)、女優・杉咲花(19)、三池崇史監督が、現地時間18日22時30分からフランス・カンヌで開催された第70回カンヌ国際映画祭の公式上映に出席。映画『無限の住人』のクライマックスとなる300人斬りのシーンでは歓声が上がり、上映後はスタンディングオベーションの拍手喝采に包まれた。同作が選出されたのは、アウト・オブ・コンペティション部門。世界中の作品から4作が厳選されるというもので、過去には、スティーブン・スピルバーグ監督作『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』、ジョージ・ミラー監督作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』などが選出されたことでも知られる。カンヌ映画祭で最も大きな劇場「グラン テアトル リュミエール」の2,300席は超満員。公式上映を終え、木村は「2,000人以上の方々が、男性はタキシードで女性はイブニングドレスというフォーマルな恰好で観ていただきましたが、会場の皆さん作品の観方や楽しみ方がとてもカジュアルでストレートでした。素敵だと感じましたし、とても嬉しかったです」と興奮の一時を伝える。また、「日本での公開を迎えた際に、市原隼人が『映画はお客さんが一番の花形です』と言っていたんです」と市原の言葉を思い返し、「今日のカンヌ公式上映でお客さんと一緒に映画を観ている最中に、上映中に拍手や笑いが起きました。スクリーンと客席が一体になっていると感じました。今日の上映は一方通行ではなく、本当にコミュニケーションをとることが出来たと思います」と貴重な体験になった様子。レッドカーペット上のフォトセッションでは、杉咲の赤い着物姿に海外カメラマンの注目が集まった。この光景に木村は、「今回、杉咲さんは着物で大正解でしたね。この場所にくると、"日本らしさ"を再発見できます。海外では評価をされる。まさに灯台下暗し。自分たちの良さに、もっともっと光を当てても良いのでは」と実感。杉咲も、「光景に圧倒されました。まだ成人もしていないのに(笑)。こんなことが起こるのか想像もつかなかったのですが、色々なことを体験することが出来てとても幸せです」と感動を伝えた。クライマックスシーンで客席から歓声が上がったことについて聞かれた木村は、「照れくさいというか、嬉しいんですが、監督が『そうなるでしょ』とボソッと呟いていて。監督はさすがに違うなと思いました」と照れながらの感想。翌日には海外メディア向けの取材も控えており、「今日時点でも海外メディアの方からインタビューがあり、それぞれの視点での質問がありました。人が10人いたら10人それぞれの感想があるのでそれを聞くのが楽しみです」と期待を寄せていた。なお、米批評家サイト「Rotten Tomatoes」での批評家の評価は80%、オンラインデータベース「IMDb」での評価ポイントは「☆8.2」を獲得。『ガーディアン誌』のレビューでは星4つを獲得し、「三池ワールドが全開。そのアクションは、『LOGAN/ローガン』や他のハリウッド作品とも違う。アクションで衣装がなびくたびに興奮が止まらない」と評価されている。
2017年05月20日映画『無限の住人』の木村拓哉、杉咲花、三池崇史監督が、5月18日(現地時間)、第70回カンヌ国際映画祭アウト・オブ・コンペティション部門での上映に合わせ、公式記者会見に登壇。三池監督は『極道大戦争』(’15)以来、2年ぶり6作品目となるカンヌ。木村さんにとっては『2046』(’04/ウォン・カーウァイ監督)以来13年ぶりの参加、杉咲さんは本作で初の世界三大映画祭への参加となり、特別招待作品に選ばれた喜びなどを記者陣に語った。木村さん、杉咲さんをはじめ、福士蒼汰、市原隼人、戸田恵梨香、北村一輝、市川海老蔵ら豪華実力派キャストが集結し、実写化不可能といわれた伝説的人気コミックを映画化した本作。木村さんをはじめ、すべてのキャストが全編ノースタントで挑んだ圧巻のノンストップアクション、さらに命を懸けて凜を守り抜く主人公・万次の姿が観る者の胸を打つドラマが評価を得ており、アメリカ、オーストラリア、ドイツ3か国での海外配給も決定している。今回のカンヌで、アウト・オブ・コンペティション部門の選出作品は、世界中の作品から選ばれた4本のみ。過去には、スティーブン・スピルバーグ監督作『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』、ジョージ・ミラー監督作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』などが選出されており、日本映画がこの部門に選出されること自体が名誉なこと。現地では、さらなる上映国の拡大に向け、世界40か国以上の国と地域での本格的なセールスも開始する。18日にカンヌ入りした3人は、早速、揃ってフォトコール、記者会見と公式行事に参加。カンヌ入りした木村さんのファンがサインボードを持ち、声をかける様子も見られた。会見に先立って行われたフォトコールには、世界中から150人以上のスチールカメラマンが集まり、「Takuya!」「Hana!」「Miike!」とそれぞれに大きな呼び声が上がる中、3人は終始リラックスした様子でカメラマンからのリクエストに答えていた。朝から実施されたプレススクリーニング(報道関係者向けの上映)は、450人の座席が満席となり、現地での注目度の高さがうかがえた。続いて、パレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレ(Palais des Festivals et des Congres)にて行われた会見では各国の記者から質問が相次いだ。映画『2046』以来2回目となるカンヌに、木村さんは「またこの地に戻ってこられて嬉しい」とコメント、今回の感触は「大きく違います」と語った。ハードなアクションが連続する本作をなぜ受けたのか、との問いには、「三池監督に一緒に仕事が出来るのは、とても名誉なこと」と応じ、「一緒にやろうということ自体が、三池組のチームの一員ということが光栄でした」と、三池組に参加した喜びを語った。また、「この映画を撮ることの1番の挑戦は何だったか」を問われると、三池監督は「1番の挑戦はやっぱり木村拓哉と対決すること。主人公は不死身の男。いま日本で演じられる人間は木村拓哉しかいない。彼に万次を演じてもらはなければ始まらなかった」と語り、主演・木村拓哉でなければ本作は実現しなかったことを激白。木村さんは「挑戦という形では、原作者の沙村広明先生がつくりだした作り出した世界観をリスペクトを込めて表現すること。スタートラインに立つことがもう挑戦でした」と吐露、杉咲さんは「(凜は)ショックな出来事があって、両親のかたき討ちをする。凜ってすごい精神の持ち主だと思っているので、最初不安だったんですけど、凜の気持ちを自分で理解することが挑戦でした」と明かした。さらに、万次を演じるにあたってのトレーニングと万次の武器で最も気に入っているものを問われた木村さんは、「トレーニングは、いま思い返すと一度もしてないです。1番好きな武器は、いろんな造形物があったんですけど、凜を守り抜くメンタルです」と、万次の“精神”のごとくコメント。撮影中「ケガをしてもやろうと思った推進力は何か?」との問いには、「三池監督が現場で常に前に進む推進力を失わなかったことです」と語った。三池監督といえば、時代劇の『十三人の刺客』のベネチア国際映画祭コンペ出品に続き、『一命』がカンヌのコンペ部門に出品されたことが海外でも知られている。「サムライ映画といえば黒澤監督を思い出します。(プロデューサーの)ジェレミー・トーマスともっと映画を作って欲しいと思います」と言われた三池監督は、「黒澤監督は、黒澤明という人間を作れた。いまの自分たちの表現したいことを、我々も1つ1つ積み上げていかないといけない。今後も時代劇を世に送りだしたいです」と力強くコメント。最後に、今後の展望について聞かれた木村さん。「三池監督は映画監督なのはもちろん、三池組の家族が目の前でこれくらいのテンションで、ご自身でやってくれるのが楽しくて。アクション部のスタッフよりアクションがうまいんじゃないかと。出演者にしても、いろいろ各セクションのスタッフにしても気持ちを理解してくれる」と現場をふり返りながら、「映画を作るということは、こんなにも楽しいと感じさせてくれました。これから出会う役は1つ1つ運命だと思って演じていきたい」と、真摯に応じた。一方、杉咲さんは「今後どうなっていきたいかというのは、正直、明確に自分の中では浮かんでこないんですけど、もともとドラマや映画をみることが好きで、いま自分が経験したことや知らなかったことを演じて学んでいけるのは楽しみです」と前向きにその思いを語り、三池監督も「子どもたちに夢を与えること」と断言していた。『無限の住人』は全国にて公開中。第70回カンヌ国際映画祭は5月28日まで開催中。(text:cinemacafe.net)■関連作品:無限の住人 2017年4月29日より全国にて公開(C) 沙村広明/講談社 (C) 2017映画「無限の住人」製作委員会
2017年05月19日俳優・木村拓哉(44)、女優・杉咲花(19)、三池崇史監督が現地時間18日、フランス・カンヌ入りし、パレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレで行われた第70回カンヌ国際映画祭の公式会見に出席し、映画『無限の住人』をアピールした。3人はまずフォトコールに参加。会場にはサインボードを持った木村のファンも詰めかけ、世界中から150人以上のスチールカメラマンが集まった。「Takuya!」「Hana!」「miike!」といった呼び掛けに、3人は終始リラックスした様子でリクエストにも応えていた。その後の会見で、木村は「またこの地に戻って来られてうれしい」と映画『2046』(04年)以来2度目のカンヌを喜び、記者からの「一番の挑戦は?」の質問に、「原作者の沙村広明先生が作り出した世界観をリスペクトを込めて表現すること」と返答。続いて、「一番好きな武器は?」には、「いろんな造形物があったんですけど、凜を守り抜くメンタルです」と杉咲演じるヒロイン・凜の存在の大きさをうかがわせた。また、今後のことについて問われると、「映画を作るということは、こんなにも楽しいと感じさせてくれました。これから出会う役はひとつひとつ運命だと思って演じていきたい」と俳優としてさらなる飛躍を誓う。一方の杉咲は「もともとドラマや映画をみることがすきで、今自分が経験したことや知らなかったことを演じて学んでいけるのは楽しみです」、カンヌ常連の三池監督は「子どもたちに夢を与えることです」と語っていた。映画『無限の住人』が選ばれたのは、アウト・オブ・コンペティション部門。過去には、スティーブン・スピルバーグ監督作『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』、ジョージ・ミラー監督作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』などが選出されたことでも知られ、今回は世界中の作品の中から4本が選ばれた。○公式会見での一問一答――(記者から三池監督へ)映画を拝見して素晴らしい作品でした。カンヌでこの作品を見られて嬉しいです。コーエン兄弟の作品を思い出したりもしていました。サムライ映画と西部劇は似ている所がありましたか? また、撮影監督とのお仕事の方針を教えてください。三池「やっぱりウエスタンも時代劇も法律的に、人間らしく暮らしていくことを考えると社会が未熟だった時代。現代劇で10年かかるところを時代劇では2日かかる。時代劇は大好きです」――(ジェレミー・トーマスプロデューサーへ司会者から)あなたは、大島渚監督、三池崇史監督と何度も組んでいますね。2人の世界観は全然違いますが、三池監督とはどのような仕事でしたか?ジェレミー「僕は残念ながら日本語ができないから、自分の作品への思うことや情熱をお伝えして、お役に立てることがあれば立ちたいと思っています」――カンヌに来るのは映画『2046』以来2回目ですが、今回違う所はありますか?木村「またこの地に戻ってこれて嬉しい。今回は違うところは大きく違います」――サムライ映画といえば黒澤監督を思い出します。ジェレミー・トーマスともっと映画を作って欲しいと思います。三池「黒澤監督は、黒澤明という人間を作れた。今の自分たちの表現したいことを、我々も一つ一つ積み上げていかないといけない。今後も時代劇を世に送りだしたいです」――どうしてこの役を受けたのですか? ハードなアクションもありますね。三池監督のファンだったからですか?木村「三池監督に一緒に仕事が出来るのは、とても名誉なこと。一緒にやろうということ自体が、三池組のチームの一員ということが光栄でした」――この映画を撮ることの一番の挑戦は何でしたか?三池「一番の挑戦はやっぱり木村拓哉と対決すること。主人公は不死身の男。いま日本で演じられる人間は木村拓哉しかいない。彼に万次を演じてもらはなければ始まらなかった」杉咲「凜を演じさせていただくうえで、ショックな出来事があって、両親のかたき討ちをする。凜ってすごい精神の持ち主だとおもっているので、最初不安だったんですけど、凜の気持ちを自分で理解することが挑戦でした」木村「挑戦という形では、原作者の佐村広明先生がつくりだした作り出した世界観をリスペクトを込めて表現すること。スタートラインに立つことがもう挑戦でした」――作中にたくさんの武器が出てきましたが、万次を演じるにあたってトレーニングはしましたか? 一番好きな武器はどれですか?木村「トレーニングは、今思い返すと一度もしてないです。1番好きな武器は、いろんな造形物があったんですけど、凛を守り抜くメンタルです」――シンガポールから来ました。とても好きで、7回映画を観ました。ケガをされたと聞きました。ケガをしてもやろうと思った推進力はなんでしょうか?木村「推進力になったのは、三池監督が現場で常に前に進む推進力を失わなかったです」――今後どうなっていきたいですか?木村「三池監督は映画監督なのはもちろん、三池組の家族が目の前でこれくらいのテンションで、ご自身でやってくれるのが楽しくて。アクション部のスタッフよりアクションがうまいんじゃないかと。出演者にしても、いろいろ各セクションのスタッフにしても気持ちを理解してくれる。映画を作るということは、こんなにも楽しいと感じさせてくれました。これから出会う役はひとつひとつ運命だと思って演じていきたい」杉咲「今後どうなっていきたいかというのは、正直明確に自分の中では浮かんでこないんですけど、もともとドラマや映画をみることがすきで、今自分が経験したことや知らなかったことを演じて学んでいけるのは楽しみです」三池「子どもたちに夢を与えることです」
2017年05月19日「"無限"とは"時間"や"時空"ではなく、"想い"なのだと感じています。限りの無い"想い"。それは"永遠"と呼んでもいいものだと思います」俳優・木村拓哉にとって『武士の一分』(06年)以来、約10年ぶりの時代劇主演となる映画『無限の住人』。沙村広明氏の人気漫画が初の実写化、さらに木村と三池崇史監督の初タッグということもあり、メディアは大々的に取り上げた。SMAP解散騒動で日本中に激震が走った2016年1月、木村は不死身の侍・万次をようやく演じ終える。2015年10月5日、映画化が発表されたあの日から、どれだけの人がこの作品を話題にしてきたのだろうか。冒頭にあるのは、「無限とは?」に対する木村の答えだ。公開初日を迎えた2017年4月29日、舞台あいさつの壇上で「客席の皆さまのものになりました」と引き締まった表情で呼びかけた木村。今回の連載は「∞」になぞらえ、8名のスタッフの証言をもとに、『無限の住人』が「皆さまのもの」になるまでの「無限の想い」をまとめた取材記録である。1人目は、本作の"生みの親"ともいえる小岩井宏悦エグゼクティブプロデューサー。連載第3回は、「大きな賭け」でもあったヒロイン・杉咲花について。彼女がなぜ本作の浮沈にかかわるとみていたのか。そして、「すごい」と驚いた一面とは。○マスコミの期待を見事に裏切った一言――完成した映画をご覧になっていかがでしたか?僕が一番最初にみたのは2時間35分バージョンでした。特に具体的な注文をすることは全くなくて、観客として打ちのめされた。ただ、少しだけ短くしてくださいとだけは言いました。伝えたことと言えば、それぐらいですね。唯一、冒頭の白黒映像については、プロデューサーとしては観客に少しでも見やすくしたいので、カラーの方がいいのかなとも思ったんですが、結果としては圧倒的に白黒の方が良かったですね。その後も切り過ぎてしまったり、元に戻したり細かい調整を経て、今あるものが「最高地点」に到達したものだと確信しています。――事前のコメントで、小岩井さんは「この映画の成功と失敗は杉咲花にかかっている」とおっしゃっていました。そのあたりはいかがですか。杉咲さんといえば、3月の第40回日本アカデミー賞で、最優秀助演女優賞と新人俳優賞をW受賞したことでも話題になりました。見る目ありましたね(笑)。――さすがです(笑)。冗談ですが(笑)。でも、ここまでの勢いがあって、本当にラッキーでした。撮影初日、2人のシーンではじまったんですが、撮影の最後に二人が自然とハイタッチして終わっていました。僕らとしては、二人の相性がどうなんだろうかと内心ヒヤヒヤしていた中でホッとしましたね。商業性も重要ですが、この凜役については我々は作品性を重視しました。2人は、絶対に「LOVE」に見えちゃいけない。でも、親子に見えるのも違う。兄妹でもない。でも、凜の側からであれば、異性として見ていてもいいわけですよ。でも、万次の側からは絶対にその要素はあってはいけない。つまり、相当にアンビバレントな要素をビジュアル的、年齢的に持っていなければならない。しかも、お芝居ができることは絶対条件。そう考えると、凜という役はすごくハードルが高いんです。ある種の大きな賭けであるけども、作品性を重視した上で当時は無名に近い花ちゃんだったわけです。そして、お芝居ができるからと言って、イコール木村さんと噛み合うとは限らない。花ちゃんを「すごい」と思った出来事がありました。現場でマスコミ向けにミニ会見をした時のこと。登壇者は、監督と木村さん、花ちゃんの三人です。当然、花ちゃんには、相手役である木村さんに関する質問が飛ぶ。すると花ちゃんは、「誰の相手なのかは関係なく、私はこの凜という役をちゃんと演じきれるかどうかだけで精一杯です」と言った。木村さんは、彼女のこういう所を信頼しているんだなと思いました。「子供の頃から見ていた木村さんとご一緒できて、すごくドキドキしました」みたいに媚びたりしない。きっと、マスコミの方々はそういうコメントを期待して聞いたと思うんです。でも、相手が誰かではなく、もらった役をどう演じ切るかが一番重要だ、と言う本物の役者しか言えないことを、木村拓哉さんを横に置いて当り前のように言ったことがすごいと思いました。○カンヌは最高に幸せな「運命」――アカデミー賞のスピーチでも、宮沢さんのことを「本当にお母ちゃんでした」とおっしゃっていました。そういう演技の考えがしっかりしているところも、ある程度事前につかんでいたんですか。いえ、そういうところは分かりません。だから、まさにそれがさっき言っていた「ラッキー」なんです。僕はお芝居だけを見て「この子がいい」と決める。でもその子がどんなキャラクターなのか分からないですし、現場でどのように振る舞い、木村拓哉さんという稀代のビッグスターとどのような化学反応を起こすのか、というのは全く分からないです。下手すると、虎の尾を踏んでしまう可能性もあった。でも、自然と木村さんの方から愛情を示しやすい関係性になっていました。彼女の演技に対するひたむきな姿を感じ取って、木村さんも殺陣なんかを熱心に教えてあげていました。――2月の制作会見で、三池監督は「キャスティングは運命である」とおっしゃっていました。この言葉を聞いて、どう思われますか?僕もいつも「ご縁」と言っていますし、「恋愛と同じ」だと思っています。お互いが好きじゃないと、片方がどんなに強く望んでも成立しない。しかも、タイミングも重要でお互い好きでも、相手に違うパートナーが決まってしまっていたら成立しない。2年前に言ってくれたらよかったのに……とかありますよね(笑)?運命で言うと、私は作品そのものが持っている「運命」というものがあるといつも思っています。生まれ落ちるところから決まっているものがあるのです。その意味で、三池崇史監督が撮り、木村拓哉さんが主演し、杉咲花というニュースターを作り、多くの素敵な共演者を得て、カンヌ国際映画祭の特別招待されるこの映画は、最高に幸せな「運命」を持っているのだと思います。■プロフィール小岩井宏悦(こいわい・ひろよし)1960年7月28日生まれ。長野県出身。89年4月にフジテレビ入社。10年以上にわたって数々のドラマをプロデュースし、03年からは映画も手掛ける。07年4月にフジテレビを退社し、同月ワーナー・ブラザース映画ローカルプロダクション本部長に就任。これまでのドラマは、『Age,35恋しくて』『ラブジェネレーション』『神様、もう少しだけ』など、映画は、『星になった少年』『ブレイブ・ストーリー』『インシテミル 7日間のデス・ゲーム』『るろうに剣心』シリーズ『オオカミ少女と黒王子』『ミュージアム』など。(C)沙村広明/講談社 (C)2017映画「無限の住人」製作委員会
2017年05月17日