いつもは指導者の皆さんからのご相談にお応えしている本連載ですが、今回は番外編としてこの夏池上さんがドイツで視察してきた内容をお伝えします。ジュニア年代が一番多く、年齢が上がるとともにプレー人口が減るピラミッド型の日本と違い、ドイツは子どもから始めたら大人までやめるプレーヤーがほとんどいない、逆三角形に近い。なぜならサッカーを好きでい続けられる環境や、プレーができる受け皿があるからです。「日本とは環境が違う」という方もいらっしゃるかもしれませんが、サッカー大国ドイツの育成には、日本の指導現場でも参考にしたいこと、取り入れたい姿勢があります。(取材・文:島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<熱くなりすぎて喧嘩してしまう子への対応を教えてください■普段の練習一つとっても、上達に差が出る要因がある夏の終わりに、ドイツの育成現場を視察してきました。今年で3回目。ドイツで長年育成コーチを務めている、サカイクでのおなじみの中野吉之伴さんが、案内係を引き受けてくださいました。今回あらためて感じたのは、子どもたちが何かに煽られて必死でやっている感じがまったく見受けられないことです。ここは日本の小中高校生と大きく違ところです。小学生が、左右の足で交互でボールを蹴るような練習をしていたときのことです。全員、交互に蹴っていました。日本で似たような練習をすると、左足は得意じゃないから、右で蹴る、という子が必ずいます。日本の子は自分が下手なのを見せたくないわけです。ところが、ドイツにはいませんでした。みんな練習をやる意味をちゃんと知っているからです。冒頭で伝えたように、そんなに必死に全力でやっているようには見えませんが上手くなるためにできないことにも挑戦する姿勢が見受けられるのです。いかがでしょうか。言われたことをきちんと理解してやっている子ども。うまくやらないとコーチから刺激を受けながら、煽られながらやっている子ども。私は、相当差が出るように思います。■右足しか使わない日本人、上手くいかなくても左右を使うドイツの子小学校高学年の練習に、ひとり日本人の子どもが入りました。このときはロングキックの練習で、時計回りで走ってきて蹴る、その逆に回ってきて蹴るといった動作を4か所に分かれて行っていました。反時計回り、つまり左から回ると、蹴るなら右足になります。逆だと左足になる。そうすると、ドイツの子はコーチに何も言われなくても左右使います。でも、日本の子どもは時計回りのときも右足で蹴ってしまうことがあったのです。動作がつながらないのでなんとなく不自然です。これはその子の個人的な問題ではありませんでした。その時に参加していた他の指導者の方にも聞いたのですが、上手くできないことが恥ずかしいとか、叱られるとかというプレッシャーからか、できないことを隠してしまう傾向は多くの日本の子どもに見られるということでした。この練習で、右利きらしいドイツの子は左足をうまく使えない子が何人もいました。でも、失敗して照れくさそうだったり、暗い顔をしたりする子はひとりもいません。つまり、「うまくできないことが恥ずかしい」と思っていないのだと感じました。ただ、ただ、楽しそうに、でも、熱中してボールを蹴る。次はこう蹴ってみよう、もうちょっと体をたてて、軸足を踏ん張ってなど、自分でいろいろ考えながらやっているのだと思います。■「そんなの無理!」日本の子たちが難しい課題にチャレンジしない理由中学生の練習でも、すごくよくチャレンジする姿が目につきました。ディフェンスの裏をとってゴール前に抜けだして、こんなふうにシュートしてごらん、とコーチが一度デモンストレーションをしたら、それをひとり3回ずつくらいやります。その後に、コーチが「じゃあ、ここからは自分たちで考えてやってごらん」と言います。そうすると、ドイツの子どもたちは、コーチに教えられたかたちではひとりもやりません。日本の中学生に「ここからは自分で考えてごらん」と言っても、きっとコーチが見せたかたちを繰り返す子が大半だと思うのです。そして、もしかしたら、そもそも「自分で考えてやってごらん」というコーチが少ないのかもしれません。日本で「こんな練習をします!」と子どもたちに言うと、「いや、ぼくはそれは上手くないから、こっちをやりたい」言ったりします。特に難しい課題を与えられると、「よし、じゃあがんばるぞ」という感じになりません。「そんなの無理!」のほうが、圧倒的に多いのです。つまり、根本的にサッカーと向き合うベースが違います。そのことを、一緒にドイツを訪れた日本人のコーチたちに話したら、みなさんうなずいていらっしゃいました。ほかにも、3対2をやると、2人チームの方が、一人少ないから勝てるわけないよ!と言って真剣に取り組もうとしないことがあります。少しでも難易度が高いと、チャレンジしなくなってしまいます。きっと普段から、少し難しいことをやって失敗すると、何か言われたり、言われないまでにもなんとなく嫌な雰囲気になる。ダメだったね、というネガティブな空気を恐れながら生きてきたのだと思います。恐らく日本の大人たちが、うまくできないことを、悔しいとか、恥ずかしいと感じることを、子どもたちのモチベーションにしてきたのだと考えます。怒鳴ったり、声を荒げるといった方法しか知りません。そのことによる悪い副作用が、失敗を恐れてチャレンジしたがらないマインドを作って来たのではないでしょうか。ドイツでもコーチはポイントをアドバイスするほかは、子どもと楽しそうにトレーニングをしていました。■同じ年数サッカーをしているのに、日本とドイツの強さに差が出るのはなぜ?(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)ところで、私はここ数年、自分が住んでいる町の中学校で部活動の外部コーチをしています。中学生たちに「ドイツと日本はどっちが強い?」と聞くと、全員が「ドイツ」と答えます。サッカーを始めた年齢は同じくらいなのに、どうしてだと思う?そんな質問をしてから、前述した右足と左足の話をしました。「叱られたり、強制的にやらされたりした人たちと、自分で考えて自分から熱中している人たちが、同じ時間サッカーをやっていると、違いは出てくるね」そんな話をしました。しかも、ドイツの選手たちは18歳くらいまで、週2回か3回しか練習をしないし、週1試合しか試合もやらないのです。大人の方も、なぜ違いが出るのかを真剣に考えてみてください。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2019年10月21日ラグビーW杯、盛り上がっていますね。みなさんもご覧になってますでしょうか。実際に観戦に行かれた方もいらっしゃるかもしれませんね。今回も、ラグビーをはじめサッカー以外のスポーツの例も挙げながらお送りします。サッカークラブや各種スポーツ団体を対象に「スポーツマンのこころ」と銘打つ講義で、一流アスリートになるための心得を伝え続ける岐阜協立大学経営学部教授の高橋正紀先生。ドイツ・ケルン体育大学留学時代から十数年かけ、独自のメソッドを構築してきました。聴講者はすでに5万人超。その多くが、成長するために必要なメンタルの本質を理解したと実感しています。高橋先生はまた、「スポーツマンのこころ」の効果を数値化し証明したスポーツ精神医学の論文で医学博士号を取得しています。いわば、医学の世界で証明された、世界と戦える「こころの育成法」なのです。日本では今、「サッカーを楽しませてと言われるが、それだけで強くなるのか」と不安を覚えたり、「サッカーは教えられるが、精神的な部分を育てるのが難しい」と悩む指導者は少なくありません。根性論が通用しなくなった時代、子どもたちの「こころの成長ベクトル」をどこへ、どのように伸ばすか。「こころを育てる」たくさんのヒントがここにあります。(監修/高橋正紀構成・文/「スポーツマンのこころ推進委員会」)<<前回|連載一覧|次回>>スポーツでは相手への敬意と思いやりをもった態度が求められるのです(写真は少年サッカーのイメージです)■「ノーサイドゲーム」が伝える、今この時代だからこそ必要な精神初めての日本開催となったラグビーW杯が、予想以上の盛り上がりを見せています。開幕前は、日本代表選手が「今一つ盛り上がっていない」とこぼしていたと聞きますが、始まれば会場はどこも満員で、テレビの視聴率は日本戦以外も高い数字をマークしているそうです。その盛り上げに一役買ったのが、TBS系で放送されたドラマ「ノーサイドゲーム」ではないでしょうか。ラグビーのゲーム映像もとても迫力のあるものでした。実はドラマの中で、印象的だったセリフがあります。「ラグビーはこの会社や日本に必要だろうか」ラグビー部のGMである君嶋(大泉洋さん)へ、天敵だった上役の滝川(上川隆也さん)が尋ねます。すると、君嶋はこう答えます。「理不尽がまかり通る時代になっています。ノーサイドという精神は日本ラグビーのおとぎ話かも知れない。でも、今、この世界だからこそ必要なんだと私は思います」理不尽と言えば、ブラック部活が問題になったときのこと。私の仕事を手伝ってくれているライターさんがブラックな部活で苦しむ生徒の親を取材したところ、「社会が理不尽なのだから、理不尽を経験することは悪いことではない」と言われたそうです。ライターさんは「理不尽に耐えることが美徳になったら、理不尽な社会を変える力を持てないじゃないですか」と反論したそうです。理不尽を変える力。これを身につけることは、スポーツの意義のひとつだと思います。それは、子どもや若者が人としての正しさが求められるスポーツマンシップを学べるからです。■大阪なおみ選手が見せたスポーツマンシップ私がドイツ留学前、まだグッドルーザーの大義など知らなかったころ。私は接戦で勝って喜び合う学生たちに言いました。背後では敗れた相手が地面に膝をついて泣きじゃくっています。「喜ぶのはロッカールームに行ってからにしよう。相手も君たちと同じぐらい死に物狂いで練習してきたんだ。気持ちを察しよう」教育とか、スポーツマンシップ云々ではなく、ただ自分の感覚で自然に出た言葉でした。加えて、テニスの4大大会最終戦・全米オープンの4回戦で敗れ、大会連覇を逃した大坂なおみ選手が、「全米オープン・スポーツマンシップ賞」に選出されました。3回戦で15歳の米国選手、コリ・ガウフに勝利したさと、号泣したガウフのもとに歩み寄って慰めたうえ、自分と一緒にインタビューを受けるよう促し会場から喝采を浴びました。この振る舞いがスポーツマンシップのお手本に値するとして、受賞が決まりました。彼女がプレーするテニスや卓球などは、ポイントごとに歓喜の声を出すプレーヤーがいますが、時にそれは対戦相手に背を向けて行われることがあります。どちらの選手も、対戦相手がミスしたときは基本的にガッツポーズをしません。また、卓球では、台の角に当たって決まる「エッジボール」の際は、エッジボールによってポイントを手にした選手は相手に対して謝るようなしぐさをします。それは暗黙のマナーです。女子サッカーW杯で日本代表が米国代表を下して優勝したとき、米国のエースであるアビー・ワンバック選手が涙を流して喜ぶ日本選手のもとへ自ら駆け寄り握手を求めていました。このように、スポーツの世界では、フェアで相手への敬意と思いやりを持った態度が求められます。それこそがスポーツマンシップです。スポーツマンシップのひとつの定義がこれです。「楽しかったから、また君たちと試合をしたいと、相手から言われる振る舞いをする」それを実現するには、審判に抗議したり、相手を過度に威嚇したり、試合後に勝敗に関係なく相手をさげすむような発言や態度をとることはなりません。ところが、日本のスポーツ現場では、選手にスポーツマンシップとは真逆の教育をしてはいないでしょうか。少し前に高校球児が試合後の握手をしなかったことが話題になりました。あるスポーツでは、選手は試合終了後に礼をしたらすぐに自分のベンチに戻って片付けていました。普通は、礼をしたら、握手をして相手ベンチにあいさつに行く習慣があります。でも、どの試合もみんな握手もハグもせず、試合終了の余韻にひたることもなくサッサと片付けて退散します。その徹底ぶりは、どうやらテレビ中継の時間に合わせるため、試合進行を遅れさせられないのではないか、大人の都合なのではないかと憶測したくなるほどでした。日本の部活動は教育の一環と言われますが、その風景だけを見ると一体何が教育なのかと思ってしまいます。■「理不尽を変える力」を育てるために指導者が学ぶべきものスポーツマンシップを学ぶことが大事なのです(写真は少年サッカーのイメージです)この「教育」がスポーツの現場に正しく継がれていったのが、ラグビーなのかもしれません。生身で体をぶつけ合うラグビーは「紳士がする野蛮人のスポーツ」などと揶揄されることもあります。歴史をひもとくと、1823年、イングランドの有名なパブリックスクールであるラグビー校でのフットボールの試合中、ウィリアム・ウェッブ・エリスがボールを抱えたまま相手のゴール目指して走り出したことがラグビーの起源とされています(諸説あります)。以来、「ドリブリングゲーム」がサッカーに、「ハンドリングゲーム」はラグビーへと枝分かれしました。サッカーは、工場労働者が休暇などに試合をしているうちに、みんなが見に来るようになり、工場が「プレーする時間分の給料を出す」と言ってチームが増え、リーグが作られて世界に広まっていきました。対するラグビーは、パブリックスクールごとにチームが作られたことから、教育的な意味を持って「ノーサイド」の精神が残ったと言われています。その態度は正しいか否か。スポーツマンシップに反するか否か。まずは、指導者のみなさんがスポーツマンシップを学びましょう。そのうえで、理不尽を変える力を育ててあげてください。<<前回|連載一覧|次回>>高橋正紀(たかはし・まさのり)1963年、神奈川県出身。筑波大学体育専門学群ではサッカー部。同大学大学院でスポーツ哲学を専攻。ドイツ国立ケルンスポーツ大学大学院留学中に考察を開始した「スポーツマンのこころ」の有効性をスポーツ精神医学領域の研究で実証し、医学博士号を取得。岐阜協立大学経営学部教授及び副学長を務めながら、講演等を継続。聴講者はのべ5万人に及ぶ。同大サッカー部総監督でもあり、Jリーガーを輩出している。Jリーグマッチコミッショナー、岐阜県サッカー協会インストラクター、NPO法人バルシューレジャパン理事等を務める。主な資格は、日本サッカー協会公認A級コーチ、レクリエーションインストラクター、障害者スポーツ指導員中級など。
2019年09月27日9月20日にラグビーのW杯が開幕しますね。みなさんも観戦を楽しみにしているのではないでしょうか。サッカークラブや各種スポーツ団体を対象に「スポーツマンのこころ」と銘打つ講義で、一流アスリートになるための心得を伝え続ける岐阜協立大学経営学部教授の高橋正紀先生。ドイツ・ケルン体育大学留学時代から十数年かけ、独自のメソッドを構築してきました。聴講者はすでに5万人超。その多くが、成長するために必要なメンタルの本質を理解したと実感しています。高橋先生はまた、「スポーツマンのこころ」の効果を数値化し証明したスポーツ精神医学の論文で医学博士号を取得しています。いわば、医学の世界で証明された、世界と戦える「こころの育成法」なのです。日本では今、「サッカーを楽しませてと言われるが、それだけで強くなるのか」と不安を覚えたり、「サッカーは教えられるが、精神的な部分を育てるのが難しい」と悩む指導者は少なくありません。根性論が通用しなくなった時代、子どもたちの「こころの成長ベクトル」をどこへ、どのように伸ばすか。「こころを育てる」たくさんのヒントがここにあります。(監修/高橋正紀構成・文/「スポーツマンのこころ推進委員会」)<<前回|連載一覧|次回>>負けを認め相手を称えることは、自分の成長にもつながる(写真は少年サッカーのイメージです)■前回大会の南アフリカが見せた「一流のスポーツマンのこころ」ラグビーW杯、自国開催のこの大イベントに私も大いに注目しています。振り返ると、ラグビー日本代表が日本で耳目を集めたのは前回2015年のイングランド大会でした。予選プールの初戦で優勝候補の南アフリカを下す金星を挙げ、世界のスポーツ史上「もっとも人々を驚かせた試合」と言われました。無理もありません。イングランドの地元紙の勝敗予想で「日本が勝つ可能性は1%」とまで言われていたのですから。今回のW杯前、南ア戦で日本が逆転トライを決めた映像はテレビで何度も流れているので、目にした方は多いでしょう。勝利の瞬間、ベンチにいた日本選手もプレーしていた仲間に駆け寄り大喜びでした。そのなかで、チームメイトとは別の視点を持っていた選手がいました。前キャプテンで控えだった廣瀬俊朗選手です。彼は感動的な幕切れの中で印象的だったことを、メディアのインタビューでこう話しました。「南アフリカの選手の態度が素晴らしかった。僕らに負けて悔しいはずなのに、自分たちから日本の選手に駆け寄って健闘を讃えていた。すごいと思いました」彼は続けて「このようなノーサイドの精神がラグビーというスポーツにはある。あらためてラグビーは素晴らしいスポーツだと実感した」と述べています。これこそが「グッドルーザー」の姿です。この連載で何度もお伝えした「スポーツマンのこころ」の大きな柱のひとつです。「負け」という望まない出来事から生じる悔しさや、自分のふがいなさといったマイナスの想いにとらわれることなく、まず先にともに戦った相手をリスペクトする。敬意を示す態度こそが、一流のスポーツマン。そして、それは、プロだけではなく、高校生、中学生、さらには少年スポーツでもあるべき姿です。■負けを糧にできる選手たちの特徴なぜそうあるべきか。自分を負かした相手を潔く称えることができる選手は、負けたことを貴重な体験として自分のなかで認められるので、そのあと強くなることができます。つまり、敗戦から学ぶことができるのです。片や、悲嘆にくれるだけで相手を認める気持ちを持てない選手や集団は、「お前のミスが」とか「相手が卑怯」とか「審判が・・」などと負けた言い訳を探す傾向が強いようです。そうなると、負けたことを糧にできません。日本のスポーツシーンでは、まだまだ後者の傾向が強いようです。そのため、廣瀬選手も「ノーサイドがあるラグビーは素晴らしいスポーツだ」と言ったのでしょう。しかしながら、実際はすべてのスポーツにノーサイドの精神は存在します。私が留学したドイツや欧州ではサッカーやほかのスポーツすべてに「グッドルーザー」の考え方が根付いていたように思います。日本では、ほとんどの選手が「グッドルーザー」という考え方自体を理解していませんから、当然実行できるわけがありません。そして、当然ですが指導者も「グッドルーザー」を理解していないので指導できません。■目の前の子どもたちよりも「自分」が軸になってしまう大人たち少年サッカーでも、負けたあとに審判にクレームをつけたりするコーチがいませんか。高校野球では、試合後に握手をしなかったチームが話題になったことがありました。なぜ日本のスポーツ選手やそれにかかわる大人は、グッドルーザーになれないのでしょうか。講演やセミナーで大人の方に質問すると、「みんな勝ちたいから。勝利至上主義だから」という意見が多いです。その通りだと思います。では、なぜ、何よりも勝つことを優先させる勝利至上になるのか。その理由の一つは、その人たちにとって、スポーツがあまりにも日常に入り込んでいるからです。少年サッカーのボランティアコーチをしている方で、よくあるのがこんな話です。「週末の試合に負けると、翌週はずっと悔しくて仕事が手につかない」「負けると気分が悪くて(お酒を)飲みすぎる」ある大学の先生が、少年スポーツの指導者講習で講義をした際「みなさんは、なぜ子どものスポーツ指導をしておられるのですか?」と尋ねたら、ひとりの男性が「自分の生きがい。自分が元気であり続けるためにやっている」と笑顔で意見を述べたそうです。つまりは「勝っておいしいお酒を飲むためにやっている」ということ。目の前の子どもたちよりも「自分」が軸です。だから、負けることは認められないのでしょう。■スポーツを正しくとらえれば「サッカーだけで勉強しない子」は出てこない大人たちがスポーツを正しくとらえなければならないのです(写真はイメージです)以前にもお伝えしましたが、スポーツは非日常のもの(ゲーム=遊びの一種)だととらえなくてはいけません。非日常だと大人たちが受け止めていれば、「サッカーばかりして勉強しない子ども」は出てきません。児童、生徒にとって、勉強は日常ですから、非日常のサッカーと同一線上に置いて議論すること自体ナンセンスだからです。無論、勉強は苦手だけどサッカーは得意という子はいるでしょう。サッカーシーンで存在感を示すことはその子の自尊感情を高めます。だからこそ、そこで「サッカーをやり抜くことができるのだから、苦手な勉強でやり抜ければ、もっとサッカーがうまくなると思わないかい?」と大人が問いかけてあげてください。『(非日常で)一流のアスリートである以前に、(日常で)一流の人間であれ!』言葉の上では、ずっとずっと昔から言い続けられています。しかし、そんなことを言葉だけでなく、子どもが自分で実感したり、他の人のありようを可視化して学ぶことが必要です。そのためには、世界の一流アスリートが一堂に会するラグビーW杯を見ることは、子どもたちにとってよい勉強になるでしょう。一緒にテレビ観戦する機会があれば、グッドルーザーやスポーツマンシップの視点からぜひ伝えてあげてください。<<前回|連載一覧|次回>>高橋正紀(たかはし・まさのり)1963年、神奈川県出身。筑波大学体育専門学群ではサッカー部。同大学大学院でスポーツ哲学を専攻。ドイツ国立ケルンスポーツ大学大学院留学中に考察を開始した「スポーツマンのこころ」の有効性をスポーツ精神医学領域の研究で実証し、医学博士号を取得。岐阜協立大学経営学部教授及び副学長を務めながら、講演等を継続。聴講者はのべ5万人に及ぶ。同大サッカー部総監督でもあり、Jリーガーを輩出している。Jリーグマッチコミッショナー、岐阜県サッカー協会インストラクター、NPO法人バルシューレジャパン理事等を務める。主な資格は、日本サッカー協会公認A級コーチ、レクリエーションインストラクター、障害者スポーツ指導員中級など。
2019年09月18日ビジネスの世界では広く知れ渡るコーチングですが、近年、子育てや教育にもその効果を期待して取り入れる動きが出てきています。しかし、具体的にどういったことを意味するのか、そしてコーチングの効果とはどのようなものなのか、詳しく知っている人は少ないのではないでしょうか?今回は、親子のコミュニケーションに取り入れることで“ある力”をぐんぐん伸ばす『コーチング』について、くわしく説明していきましょう。コーチはあくまでもサポート役ビジネスでの「コーチング」は、コミュニケーションを通じて目標達成や問題解決の道筋を見出してあげることを意味します。欧米では政治・ビジネス界のトップ層の8割近くが、自分専用のコーチ(マイコーチ)を雇っているとも。ここで重要なのが、コーチの役割です。コーチはあくまでも個人の自己実現や目標達成の“サポート”であり、指示を出して行動させるわけではありません。子育てにコーチングを取り入れる場合も同様です。親子でのコミュニケーションを通じて、子ども自身に自分の中にある答えに気づかせることを目的としています。その結果、自分の目標を見つけたり、やる気を引き出したりする効果が期待できることから、現在「子育てコーチング」は多くの保護者たちに支持されているのです。国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチの石川尚子さんは、講演会などで簡単な質問や感想を投げかけた際に、「わかりません」と答える子どもがいるのを目にするたびに、自分で考える習慣がない子の多さに驚くといいます。その質問とは、正しい答えがあるものではありません。「どう感じた?」「どうしたらいいと思う?」といった、本人の率直な考えや意見をたずねる質問でも、「わからない」というのです。考える力がまだ備わっていない子、恥ずかしくて自分の意見を口に出せない子、周りの目を気にして発言を控えてしまう子、それぞれに抱えている問題は異なるかもしれません。しかし、普段から会話の中にコーチングの手法を取り入れることで、いざというときの発表の場で必ず役に立つでしょう。コーチングで身につくものでは実際にコーチングを実践することで、子どもにとってどんな良い変化が期待できるのでしょうか。たとえば、毎日「忘れ物はない?」「宿題はやったの?」と何度言い聞かせても、一向に改善しないどころか、本人も言われることに慣れてしまって聞き流す始末……という状況にぐったりしている親御さんも多いはず。しかし子どもは大人が思っているよりも、頭の中ではいろいろ考えを巡らせています。ただ思考を整理できないために優先順位がつけられず、「自分が何をやらなければならないのか」ということがわからなくなっているのです。そこでコーチングの手法を取り入れて、親が子どもの話をしっかりと聞いて、子どもが自分で考えるよう質問をしてあげることで、自分から「やろう!」と思えるようになるというわけです。もちろん実践してすぐにうまくいくとは限りません。親も子も、試行錯誤しながら時間をかけて取り組むことで、必ず子どもは「自分で考えるクセ」を身につけられるようになるので、長い目で見守ってあげることが大切です。またほかにも、口下手で自分の考えを言葉で表現するのが苦手な子や、「どうせ私なんて」と思考がネガティブになりがちな子も、コーチングによって自分に自信がつき、前向きな気持ちを手に入れることができます。コーチングによって身につくもの。それは次のようなものです。・自分で考える力・自分から行動する力・自らやる気を出すことができる力・前向きな心・自己肯定感これらはこれからの時代、どんな道に進んでも必ず求められます。だからこそ、小さいうちから親子で協力して高めていく必要があるのです。コーチングの基本は「聞くこと」と「質問すること」まず、コーチングの基本は“聞くこと”。それもただ“聞く”だけではありません。大切なのは、子どもの話に100%意識を集中し、本人の気持ちを尊重することです。ここでの目的は、「どんな話でも聞いてもらえる」という安心感や信頼感を抱かせることなので、適当に聞き流したり、話の先を急いだりしないように気をつけましょう。もちろん「ちゃんと聞いているよ」という合図にもなる“相づち”は欠かさないようにしてください。次は、“質問”です。子どもの話に対して、「なぜそう思うの?」「どうしてそうしたいの?」と、積極的に質問しましょう。その際に気をつけなければならないのは、「はい・いいえ」で答えられる質問をしないこと。「いるの?いらないの?」「やるの?やらないの?」といった「はい・いいえ」で答えられる質問は『クローズドクエスチョン』といいます。これでは会話がそこで途切れてしまい、子どもの心の奥まで踏み込むことができなくなってしまいます。ですので、自由に返答できる『オープンクエスチョン』を意識して質問内容を考えるようにしましょう。また、質問して返ってきた子どもの答えが、自分の意図から外れるものだったとしても、決して否定してはいけません。いきなり「○○のほうがいいと思うけど」と返答してしまうと、子どもは「言ってもしょうがない」と思ってますます口を閉ざすようになります。まずは一度受け止めるのが正解です。「なるほど。そう思ったんだね。なんでそう思ったの?」と最初に共感してから理由を聞いてみると、意外と納得できるかもしれませんよ。もしくは、「なるほどね、そう考えたんだね。もしも、そのままやってケガをしそうになったらどう対応する?」といった質問を返して、子ども自身がリスク回避策を考えるよう促すのもテクニックのひとつです。ネガティブ発言ばかりでも共感してあげておしゃべりが好きで、こちらの質問にもポンポンと答えてくれる子がいる一方で、自分の発言に自信を持てずに口数が少なくなってしまう子もいます。「どうせぼくなんて」「どうせ私なんて」お子さんがそうつぶやいていたら、どのような言葉を返しますか?おそらくほとんどの親御さんは、「そんなことないよ。あなたはやればできるんだから大丈夫!自信もって」と励ますはず。しかし、「コーチングという視点から見ると、この対応は正しくありません」と指摘するのは、『子どもの心のコーチング』(PHP文庫)の著者で、NPO法人 ハートフルコミュニケーション代表理事の菅原裕子さんです。その理由は、「そんなことないよ」と子どもの言葉を否定していること。最初に否定されてしまったら、こどもは自分の気持ちをわかってくれないと感じてしまいます。たとえネガティブな発言ばかりが目立っていても、「そうなの。それはつらいよね。何があったの?」と同じ目線で会話をスタートさせることが大事です。子どもが前向きな気持ちを取り戻せるように支援するのが、コーチングのスタンスだと覚えておきましょう。また、前出の石川さんによると、「こちらが言いたいことや聞きたいことのみ焦点を当てるのではなく、子どもが話したいことにアンテナを立ててて、子どものペースに合わせて対話を重ねることが大事です」とのこと。「うちの子は話さない」と決めつけないで、子どものペースやタイミングに合わせて話すように心がけると、子どもの内側の深い部分に触れることができるはずです。日頃から子どもに対してつい言ってしまう言葉にも注意が必要です。『男の子のやる気を伸ばす お母さんの子育てコーチング術』(メイツ出版)の著者・東ちひろさんは、「なぜできないの?」「なんで片づけないの?」といった、「なぜ~~なの?」は、子どもを責めている口調になるのでNGだといいます。そんなときは、「何」に言い換えるといいそうです。「何から片づけられる?」「何をしたらいいと思う?」と質問することで、子どもは一生懸命どうしたらよいかを考えるようになるでしょう。***『コーチング』と聞くと難しいことのように感じますが、実際にやってみると、親子のコミュニケーションがさらに深まり、親にとってもいいことばかりです。いつもとは違う視点で会話を楽しむことができれば、子どもの“考える力”も自然と身についていきますよ。(参考)JCF 日本コーチ連盟|コーチングを学びたい方のために|24の質問で知る「コーチングとは」KUMON|子育てコーチング「やる☆キッズ」ベネッセ教育情報サイト|子どもが「自分で考える」習慣をつけるには[やる気を引き出すコーチング]ベネッセ教育情報サイト|家庭内で話さない子どもとどう関わる?[やる気を引き出すコーチング]ベネッセ 教育情報サイト|コーチング専門家の菅原裕子さんに聞く、思春期への対応(1)東ちひろ(2017),『男の子のやる気を伸ばす お母さんの子育てコーチング術』,メイツ出版.
2019年09月06日「子どもの言うことを親がジャッジしてしまうと、子どもは『親にとって正しい答え』を言おうとするようになり、自分で考えることをしなくなる」と話すボーク重子さん。一人娘スカイさんが「全米最優秀女子高生」コンテストで優勝し、さらに自身も2004年に念願のアジア現代アートギャラリーをオープンさせ、現在では子育て、キャリア構築、ワークライフバランスについての講演会やワークショップを展開しているボークさんに、現在の日本の育児の現状についてもお話をうかがいました。前回、ボークさんは「グローバル社会で生き抜くスキルをつけるために、家庭での対話が重要」とお聞きしました。そこで重要となってくるパパとママの対話についてお話をお聞きします。さらに日本で問題となっているのが「ワンオペ育児」の状況。日本のママが直面する問題にボークさんは、「いたしません!」宣言というポジティブなメッセージをママに贈ってくれました。》 「英語できない親でも、グローバル時代を生き抜く力を育てられる!」 ■「パパとママの会話が子どもの手本になる!――子どもが自分の意見を表に出せるようにするためには、何が大切なのでしょうか?ボークさん:子どもの対話力をあげるには、大人が手本になるのもいい方法です。子どもにとって、一番身近な存在は、パパとママ。家族というのは最小にして最強のコミュニティですから、ここでも否定から入ってはいけません。「この材料で、カレーしかメニューが思い浮かばないなんて!」という批判的な対応だと、親の顔色を見て、ウケのいい答えを言おうとしてしまいます(※)。※リベラルアーツ的思考力の素地を作るためには、家庭での毎日の会話で十分にできるとボークさんは語ります。たとえば晩ご飯のメニュー決め。ただ子どもの意見に対して親がジャッジしてはいけないと話します。――大人にとって都合のいいことや気にいることを言ってくれる子のほうが、大人はラクだから「いい子」だと思いがちですよね。ボークさん:都合のいいことも、悪いことも、まずは否定しないことが大切です。そして、それを夫婦のやりとりで、見せてあげれば、子どもは安心します。冷蔵庫の材料を伝えて、パパも一所懸命考えて答える。ママも受け止める。そのような親のやり取りを見て、子どもは自然と学びます。パパが「肉じゃがができるね。今日は肉じゃがが食べたいな」と言ったとき、ママが面倒臭く感じても、即座に「え? 肉じゃが? じゃあ、自分で作れば?」というような反応ではなく(笑)、「たしかに肉じゃがも作れる材料だね。でも、今日は、ちょっと煮物を作る時間が足りないから、この材料を小さく切ってカレーにしようか?」などと返せばいいのです。「否定されない」、「受け止めてもらえる」、という見本をぜひ、ご夫婦でも見せてあげてください。「安全でない」と子どもが感じると、子どもは自分を見失い始めます。大人が求める答えをしてしまうのです。そうすると、自己肯定感は下がります。■「ママはどれだけやるか?」ではなく、「どれだけやらないか」――「ワンオペ育児」が多い日本だと、夫婦の会話を子どもに見せる機会自体が少ないご家庭もありそうです。ボークさん:私は「ワンオペ育児」という言葉を知ったときに、とんでもないことだと思いました。驚きとショックでプルプルしてしまったほどに。日本の女性は有能なので、やれば、ほとんどのことができてしまうんですよね。だから、ワンオペ育児もやろうと思えばできてしまう。――たとえ「ワンオペ育児」でなくても、育児中のワーママは、やることがたくさんありすぎて、あらたに何かを始めることが大変だと感じてしまうかもしれません。ボークさん:やることがたくさんありすぎて、それを整理するために、to doリストを作る方もいるかもしれませんが、to doリストは、達成感をもたらしてくれるけれど、疲れも持ってきます。だって「やらないといけないこと」が書き連ねてあるのですから。だからto doリストを見直してみてください。本当にやらなければならないこと、その中に、いくつありますか? 仕事、家事、育児、全力投球を3つもしなければならないなんて、無理です。to doリストを作ったら、作った端から消してしまいましょう(笑)。料理、洗濯、掃除……すべてを納得のいくまで行うなんて無理なのです。家族のために、子どものために、食卓においしそうな料理を並べたいと思う気持ちに嘘はなくても、美しい料理を作るためにママの笑顔が消えてしまったら、本末転倒。「買ってきたけれどおいしそうでしょ?」ってママが笑って言うほうがよっぽど、子どもはうれしいものです。■パパがいるときには、「いたしません」宣言を!――笑顔でいることが大切! それを実現するには?ボークさん:リベラルアーツ(※)を培うためには、ママが対話の時間や心のゆとりを持つことがマストです。そのためには時間を作り出すことが必要。でも1日の時間は決まっています。そんななかで笑顔を保つためにできること、それには日常のTo Do家事をどれだけ「やらないか」が勝負です。※リベラルアーツとは、「自由とは?」、「正義とは?」など問いを立てて、自分と向き合い、そこから自分の考え方や生き方についての意見を構築していくための学び掃除はお掃除ロボットを回しておけばいい。生ゴミはディスポーザーに入れればいい。パートナーが在宅しているとき、ママは家事を「いたしません」でいいんです。たとえば、日曜日の昼食の準備は「いたしません」のように。やってしまえばできることを「いたしません」と言うのには、覚悟が必要です。でも、やらないことで時間を作り、その時間は、ママが心にゆとりを持つこと、例えば「やりたいこと」に時間を使ったり、子どもとの対話に使ったりしましょう。――サボったり、手抜きでいいのでしょうか? 仕事をしているだけで罪悪感を感じるママもいる中、家事も手抜きだとさらに罪悪感を感じるママもでてきそうです。ボークさん:「女性はこうあるべき」「ママはこうあるべき」「妻はこうあるべき」「働くママはこうあるべき」など、女性に課せられたいろんな「べきが」あるなか、あえて「いたしません」というのは罪悪感や劣等感を伴うかもしれません。だから母、妻という立場ではなく、女性は、「自分でいる」ことがとても大変なんです。そう考えると、もしかしたら女性が自分でいられるというのは、生まれたときだけかもしれませんね。その後は、「女の子なんだから」と言われ続けて育ちます。どんなときも、いい娘、いい妻、いい母でいるように、そして自分のことは後回しにしていい、と訓練されていってしまう。そして、気づかぬうちに、自分でも自分にそう言い聞かせてします。国の調査によると、6歳未満の子どもをもつ夫婦の家事・育児関連時間は、男性が1時間23分(女性が約7時間34分)と圧倒的に低い状態です(※1)。そんなの私に言わせれば犯罪です(笑)。ハーバード大のリサーチ(※2)によると、「働くママに育てられた女の子は、マネージャーになる確率が高く、男の子は家事育児の時間が倍で、不幸になることなんて『ない』」というデータがあります。ママが働いているからという理由で、罪悪感を抱える必要なんてないんです。働くことが好きなら罪悪感から自由になってもっともっとエンジョイしてほしいと思います。「ママが心にゆとりを持つ」。この時間を確保するために、いますぐできることがあります。それは家族の役割を決めるということです。なぜなら家族はコミュニティーなのですから、全員参加が基本です。子どもの場合は、年齢に合わせて「家族のためにできること」をみんなで決めます。それは、たとえばお皿を下げることかもしれないし、おもちゃを自分で片すことかもしれない。パパの場合には、週末のランチとディナーと1週間に必要な食料の買い出しをするとかいかがでしょう?家族の役割を決める時に大切なルールが1つだけあります。それは「ダメ出しをしない」。ランチがまずくても、作ってくれた人に文句は言いません。子どものおもちゃの片付け方が完璧でなかったとしても、ママはやり直しをしないようにしましょう。そして大切なことは、「ありがとう」と伝えること。こうしたことを家族で習慣にして、それを繰り返していくうちに、だれもがどんどん上手になっていくのですから。「世界基準の子どもの教養」で必要なことの1つに、「誰かの役に立つ」意識を持つことがあります。それは、お子さんが家族の役割を果たしたときに、「あなたのおかげで、家の〇〇が助かった」と声かけするだけで家庭で育むことができるんです。それは、家庭からからスタートして、学校、社会と世界が広がっていきます。さらに家族の役割を決めて全員参加で助け合うことにはもう1つ利点があります。それは子どもの自己肯定感が上がるということ。誰かの役に立つことで、自分も幸せな気持ちになり、「自分ってすごいじゃない」と思え自分を認められるようになるのです。――貢献する意識を小さい頃から芽生えさせることはできそうですね。ボークさん:激動する社会を生き抜き、みずからの力で将来を切り開いていくためには、みずから課題を見つけ、考える力が必要です。考える力を培うには、意見を述べる機会をどれだけ増やせるかが鍵になってきます。そして私たちは一人では生きていけません。社会とのつながりのなかで生きていきます。だからこそ自分の意見を構築する第一歩を、そして「誰かの役に立つ」意識作りを、まずは今日から、家庭で始めてみてください。この2つを意識することは、グローバル社会で活躍するために必要不可欠になっていきます。■今回のお話を伺ったボーク重子さんのご著書 『世界基準の子どもの教養』 (ボーク重子/ポプラ社 1,600円(税抜き))ボーク重子(ぼーく・しげこ)さんICF認定ライフコーチ。アートコンサルタント。福島県出身。米・ワシントンDC在住。子育てと並行して自身のキャリアも積み上げ、2004年に念願のアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年にワシントニアン誌上でオバマ前大統領(当時は上院議員)と共に「ワシントンの美しい25人」の一人として紹介される。『心の強い幸せな子になる0〜10歳の家庭教育「非認知能力」の育て方』(小学館)、『「全米最優秀女子高生」を育てた教育法 世界最高の子育て』(ダイヤモンド社)のほか、近著に『世界基準の子どもの教養』(ポプラ社)がある。※1.総務省 「平成 28 年社会生活基本調査」 (pdf)※2.ハーバード・ビジネス・スクールKathleen McGinn教授レポート「Working Mothers Raise More Successful Daughters and Empathetic Sons」
2019年07月31日「全米最優秀女子高生」コンテストで優勝した娘さんを持ち、またご自身も「ワシントンの美しい25人」の一人として紹介されるなど、グローバル社会で大活躍しているボーク重子さん。そんなボーク重子さんがグローバル社会で生き抜くためのヒントをまとめた書籍 『世界基準の子どもの教養』 (ポプラ社)を上梓しました。そこで、ボークさんがご自身でも実践していらっしゃる「世界のどんな場でも活躍できるために必要なこと」をズバリ! おうかがいしました。お話をうかがったのは…ボーク重子(ぼーく・しげこ)さん30歳の誕生日前に渡英、ロンドンにある美術系大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学。現代美術史の修士号を取得後、フランス語の勉強のために訪れた南仏の語学学校で、米国人である現在の夫と出会う。1998年渡米、出産。子育てと並行して自身のキャリアも積み上げ、2004年に念願のアジア現代アートギャラリーをオープン。一人娘スカイは2017年「全米最優秀女子高生」コンテストで優勝。現在は全米・日本各地で子育て、キャリア構築、ワークライフバランスについての講演会やワークショップを展開中。■グローバル社会で生き抜くスキルって日本人に必要なの?――「グローバル社会」って、いったい全体、なんなのでしょうか?ボーク重子さん(以下、ボークさん):「グローバル社会」と聞くと「子どもまだ小さいし、ウチには関係ないわ」と思う方もいるかもしれません。でもじつは、いまの日本はすでに立派なグローバル社会なんですよ。たとえば、コーヒーの「スターバックス」も、パソコンの「アップル」も、チョコレートの「キットカット」も、みなさんの周りにはグローバル企業のサービスやアイテムがあふれています。そして、コンビニエンスストアなどを利用すれば、みなさんの身近で、外国籍の店員さんがたくさん働いていらっしゃることにすぐに気づくのではないでしょうか。――そう言われてみれば、現在の日本は「グローバル社会」まっただ中なんですね。そんな日本の読者に向けて、なぜ今回、「グローバル社会に必要なスキル」についての本を書かれたのでしょう?ボークさん:どんどん変化している世界では、今後はそのなかで生き残ろうとするだけでなく、さらなる発展のために変わっていくことも重要となっていきます。日本人にはすばらしい美徳があり、勉強はできるし、非常に優秀で、教育への意識も高いと思います。でも、グローバル社会で生き抜くスキルを身につけるための視点が、少し欠けてしまっているような気がしました。それが原因でグローバル社会で活躍するチャンスを逃してしまっているとしたら、それはとてももったいないと思ったのです。 私自身、アメリカに移住した頃は、外国人のコミュニティに入れずにつらい思いをしました。それまでに留学の経験もあったし、英会話ができないわけではなかったのに、です。英語がわかるかどうかよりも、グローバル社会に入っていくためにはもっと大切なことがあったと気づいたのです。■世界基準で考えたときに、必要なことは、たったの6つ!――ボークさんが考える世界基準の子どもの教養とは?ボークさん: 今、現在進行形で子育てをしているママたちに「グローバル社会でサヴァイブしていくために必要なこと」を挙げるとしたら、6つあります。●リベラルアーツを学び自分の意見を持つこと●Cause(誰かのためになる)という自分らしい社会との関わり方を持つこと●教養あふれる会話と会話術を身につけること●外から見た印象の教養度をあげること●グローバル教養あふれる食事の仕方 ●グローバル社会でネットワークを築くための社交のルールを知ること――どれも、言われてみれば身についていたほうが良さそうですが、いきなり全部となると、なかなか難しそうですね。ボークさん:一番、大切なのは、「リベラルアーツ」です。まずは、リベラルアーツを培うことを意識することが、今からできることです。――リベラルアーツって何ですか?ボークさん:日本でもリベラルアーツという言葉を聞く機会は、少しずつ増えてきましたけれど、「教養教育」のようなニュアンスが強く、本来の意味とは異なります。――「リベラルアーツ」と聞くと、大学生になってから教養として身につけていくような学問で、子育て中のママには関係ないような…と思ってしまいますが。ボークさん:リベラルアーツを「教養を身につけるための学問」としてしまうと、知識の詰まった本を読むだけで終わってしまいます。リベラルアーツというのは、「問いを立てる力」、そしてそこから「自分なりの答えを見つけていくプロセス」です。「自由とは?」、「自分はどう働きたいのか?」、「自分はどう生きたいのか?」といったさまざまな問いを立てて、自分と向き合い、そこから自分の考え方や生き方についての意見を構築していくための学びなのです。■家庭でできる「世界基準」の子育てとは――家庭でできることは、どんなことがあるのでしょう?ボークさん:リベラルアーツ的思考力の素地を作っていくことは、小さな子どものうちからできます。子どもが主体性を持って、話したり、何かに取り組んだりすること。それこそがリベラルアーツなのですから。家庭では、毎日の会話で、十分にできます。習慣化することが大切です。1回やった、では習慣になりませんから、毎日、続けるのです。――具体的に、どのような会話をするといいのでしょう?ボークさん:何かについて「なんでそう思うの?」という素朴な疑問を声にすればいいだけです。対話は、難しいことではありません。「今日、幼稚園で何をやったの?」とか「今、冷蔵庫にこれしかないんだけど、晩ご飯、何が作れるかな?」とか何でもいいんです。「このご飯、もっとおいしくするには、どうしたらいいと思う?」とか。――質問をすることが家庭でのリベラルアーツの培い方では大切なのですね。ボークさん:対話で大切なのは2つだけ。●1つ目は、考える機会を与えること。その引き金になるのが、こちら側からの質問。質問されると考える。もっと成長して大きくなったら、自問という方法もあるけれど、それができるようになるまでは、他者が質問することで考える機会を作ってあげればいい。●2つ目は、表現する機会と安全な環境を与えること。質問されて考えて、自分なりの考えを持てたとして、それを相手に伝わるようにするには、外に出す機会がないと習慣化しません。そして子どもが自分の考えを表現しやすい環境が大切になってきます。最初は、たどたどしい説明かもしれないけれど、「そうなんだ、そんなふうに考えたのね? どうしてそんな風に考えたんだろう?」と質問を挟んだりするうちに、徐々に論理的に考えられるようになります。そして、徐々に論理的に、他者に伝えられるようになります。■正しさにとらわれて親が裁判官になってはいけない!――子どもとの対話で注意すべきことはありますか?ボークさん:大切なのは、子どもが自分の考えを外に出すときに、聞き手がジャッジ(判断・批判)してはいけないということ。「なんでそんな風に思ったの!おかしいんじゃない?」などと、親が裁判官になってはいけません。親が裁判官になってしまうと、子どもは、「親にとって正しい答え」を言おうとしてしまうからです。そうすると、親の顔色をうかがうようになって、自分で考えることをしなくなります。聞き手は、子どもがどんな突飛な発想で答えても、ユニークな言葉を選んでも、正誤を突きつけない。何を言ってもいいんだという環境をまずは作ってあげることが重要です。そうでないと、子どもに、「ここは安全な場ではない」と思われてしまいます。安全な場だという認識が持てて初めて、子どもは自分なりの考えを安心して聞き手に伝えることができるのです。――ボークさんご自身もそのような対話を実践してきたのでしょうか?ボークさん:じつは、私はもともと指示待ち人間でした。「結果を早く出せることが優秀で、それが評価の基準だった時代の教育」で育ったので、アメリカに移住したあとは、人と対話することを恐れていました。「自分の発言が間違っていたらどうしよう」、「こんなことも知らないのと思われたらどうしよう」、「私の質問で相手を傷つけたらどうしよう」といった感じで思っていたのです。だから、当時の私と同じように、「どんな対話をすればいいのかしら」とプレッシャーを感じるママがいてもおかしくありません。でも、一番重要なのは子どもに興味関心を持つこと。好奇心があれば、自然と質問は出てきます。私自身の子育てを振り返れば、「今日、学校で何したの?」など、いろいろと質問をしただけでした。たくさん質問してもらえると、子どもは「自分に興味を持ってもらえている」とうれしい気持ちになります。「やりなさい」「こうしなさい」と指示するように話すのでなく、子どもに興味を持つことで生まれる質問を大切にしていました。――ボークさんが子育て中に対話でよく取り上げた話題は何ですか?ボークさん:身近なことが多かったですね。晩ご飯のメニュー決めなどは、本当に身近で小さな子でも関心が持ちやすいと思います。たとえば、「冷蔵庫に人参とジャガイモと玉ねぎとお肉があるけれど、これで何が作れると思う?」と親が聞くとします。子どもがカレーと答えたら「そうね、カレーもいいね。カレーができるね」と返事してあげればいいのです。もしも、家族の誰かがランチにカレーを食べていて、晩ご飯もカレーになってしまうのを避けたかったり、体調を崩していてカレーがふさわしくなかったら、「カレーなんて○○だからダメでしょ」と否定してしまわずに、「カレーの他にも何か作れるものはないかな?」とか「カレーもいいけれど、他にこの材料で食べたいメニューはないかな?」と、新たに質問を投げかけるのです。即座に否定してしまっては、「わかってもらえない」「伝わらない」と子どもは不安を抱えてしまうだけです。でも子どもにとっては親に「カレーはどう?」と提案するには、不安があります。なぜならママに「できないやつ」と思われたくないから。そのためには大事なことはパパとママがロールモデルになることなんです。グローバル社会を生き抜くためスキルを付けるために、家庭での親子の会話がとっても重要だと話すボーク重子さん。次回は、子どもが「自分で考えて自分で問いをみつけて、自分の意見を言う」ために必要となってくるパパとママの対話についてお話を伺います。またワンオペ育児と言う言葉が聞かれる日本の現状について、ボーク重子さんは「驚きとショックで震えた」と語ります。そんなボーク重子さんが日本のママに伝えたいこととは?■今回のお話を伺ったボーク重子さんのご著書 『世界基準の子どもの教養』 (ボーク重子/ポプラ社 1,600円(税抜き))ボーク重子(ぼーく・しげこ)さんICF認定ライフコーチ。アートコンサルタント。福島県出身。米・ワシントンDC在住。子育てと並行して自身のキャリアも積み上げ、2004年に念願のアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年にワシントニアン誌上でオバマ前大統領(当時は上院議員)と共に「ワシントンの美しい25人」の一人として紹介される。『心の強い幸せな子になる0〜10歳の家庭教育「非認知能力」の育て方』(小学館)、『「全米最優秀女子高生」を育てた教育法 世界最高の子育て』(ダイヤモンド社)のほか、近著に『世界基準の子どもの教養』(ポプラ社)がある。
2019年07月30日「コーチング」という言葉を聞いたことはありますか? コーチングとは、人の能力を開発することを言います。今回は、子どもとのコミュニケーションを円滑にし、自立を促す方法を教えてくれる、ママ向けのコーチングに関する本を紹介します。『子どもの心のコーチング一人で考え、一人でできる子の育て方』(菅原裕子 著)題名の通り、子どもの自立を目標に据え、親子のコミュニケーションの方法をわかりやすく教えてくれる本です。著者の考える自立とは、「人をあてにしなくても自分の力で生きられる」「自分ではできないときに素直に人に援助を求められる」スキルを持っていること。自立に「助けを求める」スキルが入っているのは意外でしたが、確かに、生きていく上でとても大切なスキルだと思いました。親は子どもをできない人と考え、かわりにやってあげよう(ヘルプ)としますが、できる存在だと考え、そばで見守り、必要なときには手を貸すこと(サポート)が大切だと筆者は言います。この本では、子どもへのサポートの仕方を丁寧に教えてくれ、また、子どもの話を聞くスキルも具体的に教えてくれるので、自立した子に育てたいママはもちろん、子どもとの関わり方を見直したいママにもおすすめです。『おかあさまのためのコーチング』(あべまさい 著)この本も具体例が豊富で読みやすい一冊です。筆者曰く、コーチングを一言で言うと、「相手の自発的な行動を促すコミュニケーションのスキル」であり、その特徴は「指示・命令型から質問・提案型へ」ということだそう。例えば、子どもの話を聞くことは、「最初から最後まで聞く、そして相手の言わんとしていることをその通りに理解しようとする、そして、それだけで完了する」こと。つまり、自分の考えや価値、判断はいったん脇に置いて、耳を開くことが「聞く」ことだと言います。この本には、子どもの気持ちを受け止めるためのスキルや、子どもに働きかけるためのスキルなどが、さまざまなエピソードとともにわかりやすく紹介されていて、気軽に読み進めることができます。この本の中で特に印象に残ったのは、「こちらが出し惜しみをしたり、比較したり、ほめる理由にこだわったりしなければ、今この瞬間に金メダルはざくざくあって、じゃらじゃらあって、いつでもそれを首にかけてやれる」という言葉。子どもの首にたくさんメダルをかけてあげられる親でありたいなと思いました。コーチングと聞くと難しそうですが、親が「子どもをサポートし、才能を開花させるコーチ」になるためのスキルと考えると理解しやすいかもしれません。最近、小言ばっかり言っている、子どものしつけに悩んでいるというママは、ぜひ手に取ってみてくださいね。
2018年08月22日僕は、長らくファッション業界を経験し、いまはフリーとして魅力的な商品を開発し、お客様の手に届くような流通を作るプロデューサーとして活動しています。こう聞くと「難しそう」というイメージを持ってしまうかたもいると思いますが、「人と一緒に作っていく」と言えば身近に感じられませんか?人と一緒に作って行く……みなさんいろいろ想いがあるのでなかなか難しい。そのために僕はコーチングを学ぶことにしました。普段は仕事で使っているコーチングですが、学んでみると実は夫婦の仲や生活にもとても役立つものだと実感することが多い。これから数回にわたり、コーチングについてみなさんにお話ししていこうと思います。コーチングとは何か?COACH、コーチの意味をみなさんご存じですか?これは「馬車」のことを指しています。馬車に乗せて乗客を目的地までつれていく。野球やサッカーの「コーチ」も選手一人ひとりが目的に向かうために、つれていく役割を担っていますよね。「コーチング」と聞けば、向かうべき道を指し示す=指導する人というイメージがあります。でも、馬車に乗る人は、馬車に乗ってから目的地を決めるのではないですよね。元々持っている目的地に辿りつくお手伝いをすることが本来の意味です。だから、スポーツのコーチは良き先生でもあり良き相棒、友人でもあるのです。これは仕事でも同じ。実業家や大物政治家にもコーチがついていることがあります。子育てが一段落したとき、女性のあなたは・・・「子育てが落ち着いたんですが、時間をもてあましてしまって…」以前、お子さんを持つ女性からこんな相談を受けました。お子さんが成長し、手が離れるようになれば子育てに関わる時間は減っていき、自分の好きなことに時間を使えるようになります。でも、いままで最優先で考えて時間を使ってきたことがなくなってしまって、どうすればいいのかわからなくなってしまった。こうした経験をお持ちのかたは他にもいらっしゃるんじゃないでしょうか。ではどうすればいいのか。「ほかにやりたいことを見つけてみては?」、そうアドバイスすることは簡単ですがそれができれば悩みません。私なら「出産前はどんなことが好きだったんですか?」と質問してみます。誰でも何かしら好きなことをひとつは持っています。忙しい、優先しなければならない、そうなると段々と自分が好きなこと、やりたいことから離れて、情熱を向けていかないといけません。だから、本来好きだったこと、やりたかったことを知って、元に戻せばいいのではないでしょうか。仕事のためと学んだら大事なものが見えてきた私が師事している博士は、機能脳科学者です。脳とこころの機能的な部分からどう働きかければいいのかを研究してこられている。しかし、鉄則がひとつあります。それは「決して自分のために使わない」。こう刺激すればこう反応する。これを熟知しているかただからこそ、自分に都合の良い反応をもらおうとすることもできます。しかし、それでは自分は嬉しくても周りは嬉しくありません。最初に出したように、私の仕事は人と一緒に何かを作って行く仕事です。たくさんの人が自分の思い通りに動いてくれたらとても気持ちが良いかもしれませんが、本当にそれで良い商品が作れるのか……と考えたものです。良い商品ってなんだろう…そう考えたときに、自分のパートナーや友人が喜んでくれる顔が浮かんできました。「これは良いモノだよ」と私が言えば、喜んで使ってくれるかもしれませんが、本心からそう思って使って貰える商品を作りたい。そう考えれば、パートナーや友人、仕事仲間それぞれの想いを受け入れていかなければなりません。最初に言いましたが、コーチは向かうべき道を指し示す=指導する人ではなく、それぞれが持っている目的にたどり着くお手伝いをする存在。良き先生であり、良き相棒、友人になっていくべき。仕事仲間だけではなく、パートナーの相棒、友人にもなっていく必要があるのです。そして、仲間やパートナーも私のコーチになってもらう。次回からは、テーマを決めて具体的に生活の中で起きたことにどう対応すればいいのかをお話ししていきますね。ライター:伊藤 邦彦
2016年08月31日子育てはコーチング技術を使えばもっとうまくいく! 親が子育てで「野望」や「不安」以外に持てるものって何!? 子どもの気持ちを受けとめるって? ママが身につけたい、子どもの話を聞くためのスキル の続きです。コーチングという視点で子育てを眺めてみると、親といえども、子どもにお説教するには10年早い! くらいのことが判明。子どもにお説教する(働きかける)までに、親としてすべきことがありすぎて、目まいがしました。 しかし、やっと本特集4本目にして、子育てコーチングの実践編「子ども働きかけるスキル」に到着。引き続きお話を、国際コーチ連盟マスター認定コーチの、あべまさいさんに伺いました。コーチングのポイントは質問の仕方にありコーチは質問のプロ。なぜなら、質問をすること自体が、そのまま相手への働きかけに繋がるからだ。コーチが考える質問には、大きく分けて次の2種類がある。・オープンクエスチョン(直訳すれば、「開かれた質問」)5W1H(いつ、どこ、誰、何、なぜ、どのように)でたずねる質問。相手が自由に話すことができる形式・クローズドクエスチョン(直訳すれば、「閉じられた質問」)「はい」か「いいえ」で答えられる質問。質問者のために作成されたもので、答える相手にプレッシャーをかけてしまう可能性もある。子どもには、オープンクエスチョンで自由に答えさせるこの技術を子育てに応用するには、子どもにもオープンクエスチョンで質問をする必要がある。ただ、日々の子育ての中で「今のは、オープンクエスチョンになっていたかしら?」などと考えられる余裕は、残念ながらない。だが、そんな人でも、次のエピソードは、ポンっと頭に入るのでは? あべさんの友人コーチが、夜、自宅で仕事をしていた時のこと。クライアントにオープンクエスチョンを投げかけ、コーチングが終わって、和室のふすまを開けると、当時9歳の息子のげんちゃんが、そこに正座していた。コーチングをずっと聞いていた様子。『お母さんズルイ。僕には<ああしろ、こうしろ>しか言わないのに、ほかの人には<何がしたいんですか?>なんてきいてあげているじゃない。ぼくにも、そういうふうにきいてよー!』と言った。子どもにオープンクエスチョンを実践してみたら…思わずシーンが目に浮かぶようなエピソードだったので、早速、我が家でも実践してみた。小学校5年生の双子の息子たちに、「本日の塾の勉強は、どんなふうにする予定ですか?」と聞いてみたのだ。紙と鉛筆を用意し、「ママはお話を伺う気は満々です!」的な気配を漂わせる。すると、どうだろう。息子たちは鼻を膨らませながら、「国語はちょっと時間がかかるから、最初は理科をやる」「社会は工業地帯を暗記しないとなんないんだよ」などと言い始めた。そんな話を紙に書き取り、項目を整理してやると「本日のTO DOリスト」が出来上がった。いつもはああしろこうしろと口うるさく言わなければ決まらないことがすぐまとまるなんて、素敵!! 子どもにとっては、珍しさも手伝ってのことなのだろうが、それでも嬉しかった。ぜひ、皆さまも試してみてほしい。今回の「質問をするスキル」は、コーチングで相手に働きかけるスキルの、ほんの出だし。次回は、承認することで、子どもに働きかけることを学びます。コーチングについて、興味を持った人には◇コーチングのプロが書いた決定版 「 子育てコーチングの教科書 」(あべまさい/ディスカヴァー・トゥエンティワン)本体1,400円
2015年06月27日子育てはコーチング技術を使えばもっとうまくいく! 親が子育てで「野望」や「不安」以外に持てるものって何!? の続きです。ちょっと自分の心の中を整理して、余白(余裕)をつくる。その余裕で、相槌を打つ。そんな気持ちになれたらのならコーチングのスタート地点につけたのかもしれない。スタートラインに立ったら、第1ステップとして何をするのがよいのだろう? 引き続きお話を、国際コーチ連盟マスター認定コーチの、あべまさいさんに伺いました。子育てコーチングの第1歩は、子どもを受け止とめること子育てコーチングの第1ステップは、子どもを受けとめるスキルを身に着けることだ。それはさらに、「聞く」「見る」「ペーシング」という3つの項目に分かれている。項目ごとに詳しく見ていこう。子どもを受けとめるスキル(1)聞く ~子どもが「聞かれた」と思う聞き方~コーチという立場には、1つの原則がある。それは、「相手から返ってきたコミュニケーションは、自分が相手に伝えたコミュニケーションの結果である」という原則だ。これは子育てにも当てはまる。親のコミュニケーションによって、どれほど子どもの反応に違いが出るのか? 再びあべさんのエピソードを引用しよう。「ある朝、娘が目覚めるなり『のどが痛いよ』と訴えてきた。家事をしていたので、布団にいる娘に遠くから『きっと口を開けて寝ていたんじゃないかなぁ?』と声をかけると、娘は『口なんか開けてない!』と言うと、布団に顔を埋めて号泣し始めた。数日経った朝、娘が再び『のどが痛いよー』と言った時は、家事の手を止め娘の傍らに行き『どこ? どこらへん?』と聞くと、即座にパカッと口を開けた。私はじーっと覗き込み、喉の中をまんべんなく見てひとこと、『確かに赤いみたい』と低い声で、心底納得した口調で言った。すると娘はゆっくり口を閉じ、何事もなかったかのようにパジャマ姿のまま絵を書き始めた。このエピソードを聞いて、「ああ、わかる。子どもって、こういうことあるよなぁ…」と思ったママも多いのではないだろうか。「聞くという行為は、『最初から最後まで聞く』、『相手の言わんとしていることをそのとおりに理解しようとする』、そして、『それだけで完了する行為』なのだと、その時に感じました」と、あべさん。子どもを受けとめるスキル(2)見る ~エンジェルアイ(天使の目)をあなたに~エンジェルアイ(天使の目)。それはコーチや組織のリーダーがクライアントや部下の話を聞く時の、1つのモデルとなるような眼差しを表す言葉だ。相手を無条件で受け入れる、そう決めている人の「目」の表情だ。もちろん、エンジェルアイを子どもに向けることは大事。でも、それとともに忘れてならないのは、「自分にもエンジェルアイを向ける」こと。たとえば、子どもが熱を出すと、親は「ああ、昨日の夕方、私が空気の悪いスーパーに私が連れて行ったからだ」など、自分に「イーグルアイ(鷹の目・厳しく射るような批判的な目)」を向けがち。しかし、そこで、フッと力を抜いて、エンジェルアイで自分を見てあげることができたなら、つまり、自分の失敗を責めずにいられたなら、子どもに対してもエンジェルアイが向けやすくなるのでは? 子どもを受けとめるスキル(3)ペーシング ~ただ繰り返す~ペーシングのスペルはPaching。直訳すると「相手とペースを合わせる」という意味。すなわち、ペーシングとは、相手のペースに合わせて、相手の言うことや気持ちを受けとめるスキルのことだ。たとえ、それが自分にとっては都合の悪いものであったとしても、できるだけの忍耐と思いやりを動員してしっかり受けとめる、そういうスキルがペーシングだ。こちらは、あべさんの友人のエピソードを引用しよう。「病院に1泊入院しなければならなくなったR子ちゃん。母親が乳飲み子を抱えていため、入院手続きは父がすることに。父が話を切り出すと、R子ちゃんは当然のように泣き出し続け、お手上げ状態になった父。『泊まるの、いやだよー』途方にくれた父は確かにそうだなぁ、と思い、『そうだよね、いやだよね』『泊まるの、こわいよ!』『そうだよね、こわいよね』本当にそうだなぁと思いながら、R子ちゃんの言うことをただただ、繰り返していた。すると数分後、R子ちゃんはふと顔を上げて、『わかったよ、R子、びょういんにとまる』と言ったのだそうだ。「人の気持ちは、『そうか、そうなんだね』と、誰かから認められるだけで軽くなるものです。あくまでも焦点は、その人の気持ち。ペーシングとは、その人がまさにそう思っている、その思いや気持ちを受けとめるスキルなんです。」人を受けとめるって、こんなに深いことだったんだ! そのことが理解できたところで、次回はいよいよ、コーチングの真髄とも言える「子ども働きかけるスキル」について学びます。コーチングについて、興味を持った人には◇コーチングのプロが書いた決定版 「 子育てコーチングの教科書 」(あべまさい/ディスカヴァー・トゥエンティワン)本体1,400円
2015年06月26日子育てはコーチング技術を使えばもっとうまくいく! の続きです。コーチングとは、我が子がごきげんな人生を歩めるようにサポートするスキル。そのスキルをスッキリ使えるように、親である自分の心を少し整理してみましょう。私のダメ親日記私には3人の息子がいるが、子育て中の現在、日々、自己嫌悪に陥っている。発狂のあまり、 物に当たって壊してしまったり 、 先生に泣き言を言ってみたり と、相当なやりたい放題。子どものことを思えばこそ!親はいろいろと言いたくなるものだ。けれども、子どもは私が思ったようには動かない。その繰り返しで、いつしか消耗してしまうのだ。あべさんは言う。「ある子育ての勉強会に参加して、そこで、『子どもにとって一番良くないのは、大人の野望と不安』という話を聞いたことがあるんです。これは親と特定したものではなく、スポーツのコーチや、学校や塾の先生や、子どもに関わるすべての大人を想定したものです」。親が子育てに「野望」や「不安」を持つのは悪いことなのか? 大人の野望と不安。たしかに私が子どもにいろいろと言いたくなる根っこには、その二つの感情があると思う。「でも、子どもに、こうあって欲しいという野望を持つことや、これでいいのだろうか? という気持ちは、人間として当然の感情なのだと思います」と、あべさん。そういった感情が備わっていなければ、人類はとっくに滅亡しているか、まったく進化していなかったはず。いわば「野望」と「不安」は、人間が生体としての存続するための本能なのだ。けれども、過度の野望や不安だけの心持ちになってしまうと、それはコーチングという方向とは少しズレてしまう。究極のところ、相槌を打っていればいい「ふん、」「へえー!」「おお!」「すごいね」。「そうなんだー!」「さすが」「みごと!」などなど。究極のところ、親はちょっと心を子どもに向けて、耳を開いて、あとは相槌を打っているだけでいいのかもしれません。『自分の話を最初から最後まで聞いてもらいたい=自分がここにいることを誰かに認めてもらいたい』。人が生きていて欲していることって、結局、そういうことなんじゃないでしょうか?」と、あべさん。日々の子育てで、いっぱいいっぱいなのは仕方ない。でも、ちょっと自分の心の中を整理して、余白(余裕)をつくる。その余裕で、子どもに相槌を打つ。そんな気持ちになれたらコーチングのスタート地点につけたのかもしれない。では、コーチングを使って、子どもと接してみようと思ったのなら、どのようにしていけばよいのだろう? 次回はコーチングの最初のステップに入ります。コーチングについて、興味を持った人には◇コーチングのプロが書いた決定版 「 子育てコーチングの教科書 」(あべまさい/ディスカヴァー・トゥエンティワン)本体1,400円
2015年06月25日コミュニケーション技法の1つである「コーチング」。名前だけ聞くと、格好良すぎて、何だか気後れしちゃう!? いえいえ、そんなこと、全然ないんです! コーチングには、子どもと関わる時の大切な知恵がたくさん詰まっています。子どもが、ごきげんな人生を歩めるようにサポートするスキル「コーチングとは、お母さんが言いたいことを伝える技術ではなく、思う通りに子どもを動かす技術でもなく、子どもが自分で考え、自分で決めて、自分の人生を歩めるように関わっていくスキルなんです」と、あべさん。自分で決めて、自分の人生を歩む。つまりは、自発的な行動ができるようになれば、人生のクオリティはおのずと上がる。「コーチングとは、その子がごきげんな人生を歩めるようにサポートするスキルなんです」。子育ての答えは、すべて子どもの中にあるそう聞くと「子どもの自発的な行動を促すには、親は何をすればいい?」と考えてしまう。でも、「答えはすべて子どもの中にあるんです」と、あべさん。それをあべさんが実感した時のエピソードを引用しよう。要約するとこんな感じだ。「娘がハイハイをしている頃、15cmほどの段差を下りられるように、私(母)がハイハイの恰好になって、毎日のように見本を見せていた。それは、足から先に下りる方法。ところが生後9ヵ月目のある日。娘は、いきなり手をありったけ伸ばし、頭から段の下に向けて突っ込んで上手に段差を下りた。母は一連の動きを見ているほかなかった。どんなに見本を見せても、どんなに教え込んでも、最終的には、人は自分の求めているものを自分のやり方で手に入れる、すべて自分が決めたことを人はするのだ」きっと、どの親も多かれ、少なかれ、似たような体験が思い当たり、ギュッと胸が掴まれるような共感を覚えるのではないだろうか。まずは、子どもの話を最後まで聞くこと「すべては子どもの中にある」のなら、それを信じて、子どもの中にあるものを引き出すことに専心すればよい。などと書いてみても、日々の自分の子育てを省みると、まったくもって自信がない。あべさんは、言う。「日本にコーチングを初めてもってきた伊藤守さんが、講演会などで紹介するエピソードの一つに、『私たちは<聞かれずに育った>』というものがあります。誰でも思い当たる子どもの頃の体験として、ちょっと話を始めると、大人は途中で『ああ、わかった、わかった、』と言って、子どもは最後まで聞かれていない、と。そんなエピソードを聞くと、ちょっと反省してしまう。どうしたら、子どもの話を聞ける母になれるのだろう? もしかしたら、それはコーチング以前の私側の心の問題なのかもしれない。親側の心を整理するヒントを、取材中のあべさんとの雑談の中で見つけた。次回は、コーチングをする前の親の心の整理法を探ります。コーチングについて、興味を持った人には◇コーチングのプロが書いた決定版 「 子育てコーチングの教科書 」(あべまさい/ディスカヴァー・トゥエンティワン)本体1,400円
2015年06月24日