12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第140話 ~乙女座-11話~重たい足取りで自宅へと戻る。ドアを閉めてカチャリと鍵をかける。統制の取れていた“自分の世界”が、少しずつ壊れていく。だけど、頭では理解できても、実際にそれができるかと言えば別問題。『もしも、私がもう少し柔軟だったら……』“真司さんと上手くいったかも”とは、声に出せなかった。声にすると、一気に何かが溢れ出してきそうで怖かったから―――彼は、いつも言っていた。「仕事、忙しいだろうから合わせるよ」「いつでも頼ってね」「たまには俺に甘えて」それなのに、自分ひとりで勝手に背負い込んで、上手くやろうとして……。―――大切な人を傷つけ、捨てた。身体が重たい……。考えががまとまらないと、こうも怠いのか。弱いな、私は……。メイクも落とさずシャワーも浴びないまま、ベッドに横になる。いつもなら絶対にしないこと。“マイ・ルール”を破る。これまで私は、何を大切にしてきたんだろう。形式? 表層? 自分の弱い心……?そう、私は強くなんてない。弱い自分を守るために、先に起こるであろう不確定要素を全て排除してきた。……そういうことだったんだ。本当に強いのは、真司さんや三浦さん。自分のことだけでも大変なのに、人に合わせて融通を利かせて……優しい人。私は自分のことで精一杯。だから冷たく切り捨てた。最低だ……私。ごめんなさい、真司さん。失ったものの大きさと、自分の不甲斐なさを呪いながら、私は浅い眠りに落ちた―――良い子で在りたかった。良い子じゃないと、嫌われるから。お母さん、私、良い子だよ。だから独りにしないで。もっと構って……そうして締まる扉。『……ハッ!』―――夢小さい頃の夢を見た。父は大学で教鞭をとり、母は女医として働く。姉はとても優秀で、いつも成績はトップだった。でも、私は……薬学部に落ちた私に、母は心底失望していたようだった。私は期待に応えられなかった……悪い子。だから、一生懸命頑張った。看護学校に通いながら、受験勉強をした。―――薬学部に入りなおすために。恋人もつくらず、誰とも馴れ合わない毎日。看護学校にいるのに、隠れるように大学受験のテキストを開く“仮面浪人”生活。でも、それでも働き始めて、現場に出るようになって、やり甲斐を感じてきたことは確かだ。「人の役に立ちたい」この気持ちだけは、確かだった。そして、私の願いは叶った―――でも、それって正しかったの?目的のために殻に閉じこもって、私を愛してくれる人を散々傷つけてきた。これじゃあ、まるで……お母さんと一緒じゃない―――今日も出勤はゆっくり。午後3時からだ。まだ、11時……起き上がりたくない。ベッドに横たわったまま、スマホの電源を入れる。きっともう、真司さんから連絡はないのだろう。このまま、本当に終わってしまうんだ……。スマホの画面が淡く光る。LINE2件か……。タップすると……そこには―――真司さん!? どうして……?急いで本文を確認する。「お疲れ様。うちにそっちの自宅の合鍵を忘れていたままだったよ」「送っても良いけど……どうしたらいい?」―――これは……!これは私にとって、もう一度やり直す本当に“最後のチャンス”になるかもしれない……!どうしよう……どうすれば良い?会うこと……直接会って話をする。でも、何を?私は彼を振っているのよ……、何を今更。“完璧にやろうとしたら、家庭か仕事か、あるいは自分のどこかが壊れちゃう。だから、どれも不完全にバランスをとりながらやっていくの……”三浦さんの言葉が思い出される。筋を通さなくて良い。自分の今の気持ちを正直にぶつけるだけでも良い。あとは、結果を受け止めるだけ。「こんにちは。わざわざ連絡ありがとう。送ってもらうのは悪いし、今から支度して13時にそっちに行ってもいい?」これが、今の私なりの“最適解”。真司さんが私の名前を書いてない以上、私も真司さんの名前を出さず、鍵を直接取りに行く理由付けもできた。そして、鍵を取りに行くとも明言していない。……って、こういうところが、ダメなのよね。素直に、“会いたい”って言えたら良いのにね。小賢しい自分に辟易する。LINEはすぐに既読になり、「分かった。待ってるよ」とだけ返信が帰ってきた。まるで待ってくれていたかのように。これで、準備はできた。私にとっての“ラスト・チャンス”。真司さんとやり直すことだけじゃない。自分の人生……生き方に関しても、変われる最後のチャンスなんだ……。―――私はバスに乗っていた。いつも通りの服装。メイクも気合を入れず。全力で“さりげなさ”を演出した装い。緊張する。こんなふうに緊張したのは、いつぶりだろう。学生時代? 病棟で重症患者を看たとき以来? いや違う、この緊張の感覚は……、恋をした時以来―――バス停で降りて、一歩一歩真司さんのマンションへと向かう。何度も来たはずの道なのに、どうしてこんなに新鮮なんだろう。これまで気がつかなかった植え込みや、小さい公園に気づく。彼に会ったら言おう。昨日一日のことこれまでのことこれからのことと……そして、“自分の気持ち”。エントランスに到着する。一瞬、躊躇したけれど、心を決めて彼の部屋番号を押した。【今回の主役】鈴木沙耶 乙女座30歳 看護師眼鏡の似合うクールビューティーだが、理想が高くいわゆる完璧主義者なところが恋を遠ざける。困っている人を助けたいという思いから、看護師として8年間働いている。しかし、理想と現実のギャップに悩んでおり、さらに自分を高めるために薬学部に行こうと考えている。結婚願望はあるのだが、仕事や夢が原因で彼(辻真司)とうまくいかない。(C) Syda Productions / Shutterstock(C) ginger_polina_bublik / Shutterstock
2017年08月16日12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第139話 ~乙女座-10話~「鈴木さん、お疲れ様。305号室の高村のおばあちゃん、大変だったでしょう」先輩ナースの三浦さんが、心配そうにこちらを見ている。『あ、いえ……これも看護師の仕事ですから』「そっか。鈴木さんは、強いのね」“強い”か―――「でも、今日の鈴木さん、顔が曇っているように見えるけど……何かあった?」『えっ……』……真司さんのこと。自分では割り切ったつもりだけど……、やっぱり割り切れていないんだろうなぁ、私。でも、後はもう時間が解決してくれるのを待つしかない。『ちょっと、色々ありまして……』「色々あるわよね、人間だもの……。この仕事についてるとね、プライベートでの人間関係が疎かになっちゃうからなぁ」少し溜め息混じりに三浦さんが呟く。独り言とも取れるような、その口調の裏にはどんな想いがあるんだろう。前から疑問に思っていたことを聞くなら、今がチャンスかも……。『あの……三浦さん』「ん?」『三浦さんはご結婚しているのに、この救急病棟で働いていらっしゃるじゃないですか。どうやって両立させているのかなぁって……』「両立……ねぇ……」苦笑しながら三浦さんが、イスをこちらへと寄せてきた。「両立なんてできてないのよ……私。家じゃあケンカも絶えなくてね。ダンナはいつも今の仕事を辞めろ! って言うんだよね……」―――そうなんだ。「でね。ダンナ、空手の有段者だから、ケンカになるとモノを壊しちゃうの。この間も、壁を思い切り殴って穴を空けちゃって大変だったわよ……うちのチビは怖がって泣き出すしさ」『そうだったんですか……』「そうよ、救急病棟で働きながら、家事も育児もダンナの相手も完璧にするなんて、そんなスーパーウーマンみたいなこと、出来るわけないじゃない」『そう……ですよね……』「そうそう。だけどね……」少し三浦さんが、優しい顔になる。「それでも、家族の絆があるから“ガンバロウ”って気持ちになれたりするものなのよ。矛盾しているけど……家族の存在が仕事の、そして、仕事が家族生活の活力になってるって思うの」意外な言葉だった。私にはない発想。「あはは! 驚いたって顔、してるわね」『え、あっすいません』「いやいや、気にしないで。鈴木さんは完璧主義じゃない? 見ていていつも思っていたわ。でも、私にはそれはムリ。どこかで必ず歪みが出てきちゃうもの」『歪み……』「そ。完璧にやろうとしたら、家庭か仕事か、あるいは自分のどこかが壊れちゃう。だから、どれも不完全にバランスをとりながらやっていくの……あっ! また高井さんだわ……ちょっと行ってくるね!」そう言って、三浦さんは廊下を駆けて行った。―――衝撃だった。何事も計画立てて、それを遂行していく。100%とは言わずとも、ほぼ100%に近づけるように努力する。それが私の信念だった。それなのに、三浦さんは“不完全”であることが、仕事とプライベートを両立させるコツだと言う。何だか、これまで自分が信じていたものが崩れていくような感覚。その日、私の頭の中はショートした―――夜勤が終わり、更衣室で私服に着替える。これから帰宅だ。今日はミスをして、ドクターから怒られてしまった。何だか、一日中ずっと心がモヤモヤしていた。少しボヤけた頭の中に喝を入れるべく、冷たいミネラルウォーターで喉を潤す。―――モヤモヤの原因は、何?地下鉄に向かい歩き始める。明け方4時は、まだ真っ暗。街中が寝静まっている。『夜明け前か……』私は“もしも”という言葉が好きじゃない。だって、今起きて、目に見えることが“全て”だから。“仮のこと”を考えても無意味だし、無価値。でも―――今、少しその“もしも”について考えている自分がいる。もし、もしも……私が完璧主義でなければ……仕事をしながら、学校に通いつつ……恋もできるの……?そういえば―――私の父は、大学院に通いながら不動産会社で働いて……そして、母を射止めたらしい。その話を聞いたとき、私は小説を読んでいるような気分だった。別次元の話過ぎて……。でも、こう言っていた。「職場に恵まれた。上司が理解ある人だったから、相談して大学に通えるような勤務形態にしてもらえたんだよ」と。そして照れながら、「お陰で、大学院で知り合った“お母さん”と結婚できたんだ」って、頭を掻きながら語ってくれたっけ。父は私とは正反対の性格で、どこかいい加減で抜けているところがある。でも、何ていうか……いつも周囲の人から助けられていると思う。これまで、私は父のことを“運のいい人”だとしか思っていなかった。でも、そうじゃないんだ。周りの人達に協力してもらえる環境を作れるか、会社や上司に交渉できるか、日頃から周囲の人と信頼関係を築けるか、自分のワガママのために融通を利かせてもらえるか。こういった“交渉力”や“人の良さ”が、父のあらゆる“両立”を可能にしたのだ。そう気づいた。自分ひとりで抱え込むことなく、誰かに頼ったり甘えたりしながら柔軟に生きる。私にも、そんな器用なことができるだろうか。東の空から、太陽が昇ってきた。街が目覚め始めたようだ―――【今回の主役】鈴木沙耶 乙女座30歳 看護師眼鏡の似合うクールビューティーだが、理想が高くいわゆる完璧主義者なところが恋を遠ざける。困っている人を助けたいという思いから、看護師として8年間働いている。しかし、理想と現実のギャップに悩んでおり、さらに自分を高めるために薬学部に行こうと考えている。結婚願望はあるのだが、仕事や夢が原因で彼(辻真司)とうまくいかない。(C) Byjeng / Shutterstock(C) Jose AS Reyes / Shutterstock
2017年08月15日12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第137話 ~射手座-11話~―――1ヶ月後……白い岩壁の出窓から見える、一面スカイブルーの海々。カモメの鳴く声と寄せては返すさざ波の音が入り混じって、耳に優しい。私はシチリアの爽やかな風を浴びながら、ワインを飲んでいる。そして、その横ではクリスが何やら本を読んでいる。今回の仕事場はイタリアのシチリア島。クリスのお爺様が彼に遺した別荘を拠点に、コーラルやデマントイドなどの買い付けに行くのが、ミッション。……っていうのは、表向きで、今回の目的は“クリスとのイタリア旅行”なの。「Hey, beautiful. Come over here. (こっちにおいでよ)」クリスが本をパタンと閉じ、メガネを外してこちらを見ている。『クリスぅ~~』後ろからクリスに抱きつく。「Haha……princess, 気に入ってくれたかい?」『Perfect! んもう、最高! クリスがこんな別荘を持っていたなんて、驚きよ!』「Umm……まぁ、正しくは“僕の”ではなくて“お爺さんの”なんだけどネ……」クリスは一人っ子らしく、お爺様が遺した財産の一部を、母親の許可をもらって管理しているとのこと。ま、いわゆる“ボンボン”ってヤツ。私は仕事が好きだからあまりピンとこないけど、お金はあって困るものじゃないからそれはそれで良いわ。クリスはそんな私を好きだって言うし。『ん……ねえクリス? 今日はどこにいこうかしら?』クリスに熱いキスと抱擁をお見舞いし、今日の予定を尋ねる。「そうだネ……pizzaとワインを楽しまないかい?」『Oh! 良いわね! ショッピングもしたいわ!』「遊んでばかりだけど、仕事は……大丈夫なの?」『It’s all right! もう手はずは整えてあるわ。明日の13時にパレルモでジュエリーの買い付けよ』「I’m no match for you.(君にはかなわないよ)」クリスが“やれやれ”ってポーズをしてる。カワイイ……!イタリアって、本当に素敵……ジュエリーを見ても、デザインや色使いの良さは、日本が頑張ってもなかなか追いつけないだろう。世界的にも評価の高いイタリアン・ジュエリーなんかを見ても、ほとんどミラノから世界に発進されているしね。ま、イタリアン・ジュエリーが世界的に高い地位にあるって言っても、イタリアで宝石がたくさん採れているワケじゃないんだけどね。いつか……私も……、ミラノで通用するようなジュエラーになりたいものね。―――2階のラウンジから1階に降りて、シャワールームに入る。ガラス張りの空間の中に陶器製のユニットバス……、これ一体どれくらいかけてリノベーションしたんだろう……?クリスが管理している資産は、想像もつかない。クリスは自分の資産を目当てにやってくる女性がイヤになって、日本に来たって言ってた。働いて輝いている女性が好きなんだ、って。私は、常に動き回っていないと死んでしまう“サメ”のような女だから、ピッタリってワケ……。コックをひねってシャワーを浴びる。昨夜は素敵だった―――キングサイズのアイアンベッドに私を押し倒して、身体全体に熱烈なキスの嵐……。内腿についたキスマークをなぞる。いつもの彼とは思えないくらいに、本能的で官能的で、野性的だった。思い出すと、身体の芯がゾクゾクと疼く。やだ……。“あの日”以来、私のクリスを見る目は大きく変わった。それまで気がつかなかった、男らしさと感性。あの時、ガングロ男に言い放った“ドスの利いた声”……。―――あれはきっと、お爺様譲りのものね。クスっとなる。私は何も分かってなかったんだなぁ。この世の中は、自分の知らないことで溢れている。一番身近にいるはずの彼のことだって、私は何も分かっていなかった。でも……、ひとつひとつ経験していくことでしか、そんなの分かんないじゃん。最初から、完璧に分かっていたら、それこそつまんない。シャワーを止めて、バスローブに身を包む。髪を乾かして、後ろ髪をポニーテールに結ぶ。リビングでは、クリスがオレンジジュースをグラスに注いでくれていた。「サッパリしたかい?」『ええ、とっても』窓から見えるシチリアの太陽は、とても眩しく輝いていた―――射手座の女の人生は、“I understand.” ~私は理解する。~ひとつひとつの経験から、生きていることの意味を体感し実感していく。時にはヘマしたり、大失敗もあるけど……、それすらも、輝かしい私だけの特別な体験。そう、まるでジュエリーのように輝きを放つ、私だけの……。美味しいもの、楽しいこと、好きな人、そういったものに囲まれて暮らすのは幸せかもしれない。でも、一番大切なことは、常に刺激的な毎日を送るというコト。それこそが、いつも極上の光を放つための、私のストラテジー私は今、楽しんでいます―――。射手座の女の人生 ~Fin~【今回の主役】戸部淳子 射手座28歳 ジュエリー卸業ヨーロッパ圏でのホームステイなど、学生の頃から海外経験が豊富で、英語がそこそこ堪能。国外から宝石を買い付けて、ブティックやウェデイング業界に卸している。若さの割に目利きであると評されるところも。イタリア人の彼氏・クリスがいるが、性に奔放で何かとトラブルが起こりやすい。(C) Anna Lohachova / Shutterstock(C) Romas_Photo / Shutterstock
2017年08月11日12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第137話 ~射手座-11話~手持ちとカードの支払限度額を合わせても支払える金額じゃない……。料金が払いきれない場合は、“売り掛け”をすることになるんだけど……。それをやっちゃうと、またこのお店に返済のために来る羽目になる。そうなると、店側の思うツボ。きっとまた飲むことになるわ。もう、こんなお店、懲り懲りよ。何とか、今日払って帰りたい―――クリスはAmexのプラチナカードを持っているから、それで支払いを立て替えてもらうしかない。『ちょっと待ってて……今、迎えが来るから』「……承知しました」情けないな……私……。クリスが来るまで、あと5分。祈るような気持ちで待つ。ああ、クリス……。お願い、早く来て。スマホの着信音が鳴る―――クリスからだ!トイレに向かい、急いで電話に出る。『もしもし、クリス!?』「お待たせ、今店の前に着いたヨ」『クリス、ありがとう……あの、よく聞いて欲しいの』「どうしたの?」『あのね……私、今日すごく飲んじゃって、料金が払えないの……』「フゥ……」電話の向こうで、彼の溜め息が聞こえる。当然よね……。『それで……ゴメンなさい。クリス、立て替えて欲しいの……』「Jun、キミはいつもそう。ボクの気持ちを考えてくれたことなんてあるのかい?」『こんなお願いをするなんて、本当に悪いと思ってるわ……』「そうじゃない。……ボクはJunにとって何なんだい? 帰国してから、クラブに行ったりホストの店で飲んだり……ボクと一緒にいてくれた時間はほとんどないじゃないか?」『…………』返す言葉もない。クリスはいつだって私のことを考えてくれていたわ。空港に迎えに来てくれたり。酔っ払った私を介抱してくれたり。そして、愛してくれた。でも、私はそこにあぐらをかいて、彼のことをないがしろにしていた。いつでも、クリスは私だけの味方だと思っていたから―――『私……クリスを大切にできていなかったわ……』「Jun、約束して欲しい……せめて日本にいる時は、ボクとの時間を大事にして欲しいんだ」『……うん』「別にキミを束縛することはしないヨ。フットワークの軽さは、Junの“持ち味”だからね」寛容さは、あなたの“持ち味”よ……クリス……。「じゃあ、今からお店に行くから、待ってて……」『あ、あの! クリス!』「ん?」『ありがとう……』「No worries!(気にしないで)」電話はそこで切れ、数分後クリスが店にやってきた。『クリス!』「待たせたね……支払いは?」『こっちよ……』入口近くのテーブルに、ガングロ男が足を組んで座っている。「お支払いですね……ありがとうございます」クリスがプラチナカードを差し出す。ガングロ男が二度見する。おそらく大柄な外国人に驚いたのだろう。突然、クリスが大声でガングロ男をまくし立てる。イタリア語な上にスラングも混じっていて、私も驚いてしまう。独特の巻き舌が、まるでケンカ腰のようにドスを効かせている。簡単に言うと「お前たち、あまりにもやり方が汚いぞ! こんなビジネスがいつまでも成り立つと思うなよ……!」という趣旨のようだ。それ以降は聞き取れなかったが、彼の口調からしてかなりハードなことを言っているに違いない。最後に、ガングロ男の胸を人差し指でトンと押した。店は騒然となり、男はクリスに圧倒されたのか、ポカーンとしている。「OK! 出ようかJun!」私の手を取って、クリスが出口へと引っ張ってくれる。ホスト達の見送りも無い。何だろう……。まるで“シチリア・マフィア”のような凄み。日本のチンピラホストなんて目じゃないわ……。「Hahaha! 見たかい、Jun。奴らビビって声を上げることも出来なかったネ!」嬉々としてクリスが話す。クリスの顔を見上げると、いつものようにブラウンの瞳が輝き、たくわえたヒゲの奥に白い歯が見えている。『驚いたわ……』「僕のgrandfatherは、旧マンガーノのファミリーだったのさ」旧マンガーノ……今で言うガンビーノ一家……五大ファミリーのひとつじゃない!『えええっ!』「いや、それはお爺ちゃんの代の話で、ボクは無関係サ。……まぁ、お爺ちゃんが残した財産や芸術品を管理してはいるけどネ……。お爺ちゃんには、とても良く可愛がってもらったよ。いつもウチに来る人達を、さっきみたいに叱っていたけどね……」全然知らなかった。絵を描いたり、古物商のようなことをしたりしているとは知っていたけど、クリスにそんな背景があったなんて……!「Jun、人は見かけによらないものサ。表面的なものに捉われていたら、本当に大切なことを見失ってしまうヨ」ああ……このイタリア人は……なんてセクシーなんだろう!改めて、私はクリスに惚れ直した。『クリス!』―――ひと目もはばからず、私は歌舞伎町のど真ん中でクリスとディープなキスをした「Jun、キスがブランデー風味だヨ……何年ものなんだい?」そして、もう一度、今度はクリスが熱い口づけを私にくれる。私の身体は、濡れに濡れ、心臓はバクバクと大きな鼓動を刻んでいる。ああ……クリスに抱かれたい……!『ね……クリス、帰ったら私を抱いて……』「Of course!(もちろんさ)」クリスの愛車・ターコイズブルーのプジョーに乗り込み、光と影の境界へと消えていった―――【今回の主役】戸部淳子 射手座28歳 ジュエリー卸業ヨーロッパ圏でのホームステイなど、学生の頃から海外経験が豊富で、英語がそこそこ堪能。国外から宝石を買い付けて、ブティックやウェデイング業界に卸している。若さの割に目利きであると評されるところも。イタリア人の彼氏・クリスがいるが、性に奔放で何かとトラブルが起こりやすい。(C) Svitlana Sokolova / Shutterstock(C) AS Inc / Shutterstock
2017年08月10日12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第134話 ~双子座-11話~「はい、もしもし」この声は……、義久さんの声だ。思わず息を呑む。良かった……。『あの……私です……』「……ああ」『あの……今、どうされていますか?』「うん、自宅にいる。これからはフリーとしてやっていくつもりだよ」『二人のこと、知られてしまったの……?』あえて、“二人”と言う。向こうで誰かに聞かれているかもしれないから。「……そうだね」もうすぐ切れちゃう……急いで100円玉を追加する。心臓がバクバクと音を立てているのが、自分でも分かる。『もう、会うことはできないんでしょうね……』「難しいだろうね」そうか……、難しいのか。そうだよね、もう会えないよね。『二人が結びつくようなことって、もうないのかな……?』「あるかもしれないけど……」ある……! 可能性はあるんだ……!「でも、とても苦しい道なんじゃないかな……」『苦しい道……』「うん、例えば……“仕事がない中で、数千万円の借金を背負いながら二人一緒に生きていく”とかね」―――それを聞いて、私の意識の中の何かがパチリと音を立てて入れ替わった。仮に、数千万円の借金があったとしても、二人に仕事があれば何とか返済しながら生きていくことはできる。あるいは仕事がなくても、借金さえなければ色んな生き方はあるだろう。でも、“借金”と“干される”の両方が揃ったら―――「だから、難しいと思うよ」私は、それ以上何も言えなかった。自分の人生全てを投げ捨ててまで、添い遂げたいというモチベーションは……、悲しいけど、私にはない。これが私の限界。これが私の“人間性”なのだと、そこで悟った。「そういうわけだから……じゃあ、これで……」『待って!』今さら、何を言うことがあるのだろう。何も言うことなんて、ないのに……。受話器を持つ手が震えている。私はこれまで自分が“損”をするような選択は、一切してこなかった。どんな時も、どんな状況でも。……そう、小狡い女だったのだ。だけど……、「もう、良いんだよ」『えっ……』「短い間だったけど、二人は愛し合っていて幸せだった。その事実があれば、また強く生きていけるんじゃないかな」『………』「人生は、一瞬の星の輝きみたいなものでさ、忘れられないくらいに大きく光った思い出は、その後の人生も照らしてくれるものなんだって、僕は思う」『……ううっ……』嗚咽が漏れる。彼が“最後の言葉”を口にするのが怖い。「だから、僕たちの輝かしい思い出を忘れなければ、強く生きていけるはずだよ……」彼は、“私のために”終わらせようとしてくれているのだ―――「これから二人が別々になったとしても」最後の選択。ここで私が「Yes」と言えば、これで終わり。「No」と言えば……『待ってても良い……ですか……?』一番狡い選択をした。選択を先延ばしにしたのだ。「…………」二人の無言の時間は、刹那のようで永遠にも感じられる。この瞬間、まるで時が止まったかのように。行き交うサラリーマンたちだけが、時計の針のようにせわしなく時を刻んでいる。「覚悟……できてる?」『いいえ』私の口は、私の意識と連動していないのかもしれない。でも、その時私は、ハッキリと口にした。「分かった……」義久さんとの会話が終わる。もう、彼の声が聞けなくなるんだ……。最後に……最後に、伝えなくちゃ……!『幸せでした』「ありがとう」プツッという音がして、そこで電話は切れた。後には「ツーツー」という電子音が聞こえるだけ。『私……最低だ……!』人目もはばからず、電話ボックスの中で泣き崩れる。これほどまでに、自分を“汚い”と思ったことはない。彼は最後まで優しくて、私のことを何一つ貶めるようなことを言わなかった。でも、私は最後まで狡くて……。―――子供の頃を思う。キラキラした綺麗な石が目の前にあった。おぼろげな記憶だけど、そこはパワーストーンのお店だったんだろう。私は、欲しいもの全部を両手の中に収めて、パパに言った。『これ全部!』って。パパは少し困った顔をして、「しょうがないな……良いよ」って言ってくれたっけ。でも、その後、私はつまずいて……綺麗な石を全部こぼしてしまったのよね。石たちは、ばら蒔かれて、床の上で散り散りになって……私は泣いちゃった。結局、それで貰えず終い。パパが店員さんに、申し訳なさそうにしていて、私がこぼした石を一生懸命拾い集めていた。欲しいもの全てを、手の中に収めることなんてできないんだ―――私は、知っていたはずだった。それなのに、またつまずいて、こぼしてしまった……。喜久さんは、あの時のパパみたいに、今、拾い集めてくれているのだ。私はただ泣いているだけ。狡い。本当に狡い女―――まるで風見鶏のようにくるくると。その時の風向きに合わせて、自分をコロコロ変える。そんな自分が、心底嫌になる。変わらなければ、ずっとこのまま。そんなの……みっともない。涙を手で拭って、電話ボックスを出る。一歩一歩足を動かして、会社へと向かう。彼との……義久さんとの出会いに意味を持たせたい。そうでなかったとしたら、寂しすぎる……。「思い出があれば、強く生きていける」彼の最後の言葉が耳にこびりついている。―――サラリーマンの波は、もう引いていた。【今回の主役】江崎友梨 双子座25歳 アナウンサー23歳の時にアナウンサーとしてTV局に入社。有名大学出身だが1年浪人している。ハイソサエティな世界に憧れを抱いており、自分を磨く努力も怠らない。現在、同じアナウンサーでもあり、上司である新垣義久と不倫関係にある。当初は踏み台にしようと考えていたが、だんだんと彼に惹かれキャリアと恋の間で、悩み揺れる(C) Evgeny Atamanenko / Shutterstock(C) Chepko Danil Vitalevich / Shutterstock
2017年08月10日12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第136話 ~射手座-10話~ヴーヴ・クリコが運ばれてくる。銀色のワインクーラーの中に黒いボトルが鎮座するその様は、いかにも“ホストクラブに来ました”という体だ。「じゃあ、乾杯しましょう」マサシが満面の笑みで耳元に囁く。微かに香るいい香り……。これは“ブルガリ・ブラック”ね……。シャンパングラスを傾けて、アルコールが私の体内に入っていく。この小悪魔のような男の世界に一歩一歩足を踏み入れていることに気づきながらも、理性がどんどん言うことを聞かなくなる。「結構、お強いんですね」『そんなことないけど……飲めない方じゃないわ』「へぇ、すごい! 淳子さん、飲むのはいつもシャンパンなんですか?」『う~ん、そうね……』国外で仕事をすることもあってか、ビジネスの席では大抵ワインかシャンパンを飲んでいる。たまにビールもあるけど、個人的にはそんなに好きじゃない。「そっかぁ……じゃあさ、ちょっと“冒険”してみませんか、淳子さん?」『え……?』「ブランデーとか、飲んでみましょうよ」流石に、「これはヤバイ」と私の中で警報が鳴る。ブランデーなんて、そうそう飲まないし、何よりホストクラブで飲むと金額が跳ね上がる。ここは見栄を張るところじゃないわ。そう思って、断ろうとしたその時―――「マサシ……お前、“俺の”淳子ちゃんに何やってんだよ」純が戻ってきた。「何って、普通に飲んでるだけだよ」ややこしい展開……でも、何だか悪くない。「お前、クリコまで入れさせて、今度はブランデーかよ! ヘルプの癖に、ちょっと図々しいんじゃないか?」「僕はただ、淳子さんと楽しく飲んでいただけじゃないか。そんなこと純に言われる筋合い無いな」二人のイケメンが、私をめぐって争い合っている……、なんだろう、この優越感。しかも、ここのクラブのナンバー同士。まず、こんな状況になるなんてことはないわ。『ちょっと待って、二人とも!』二人が同時に私を見る。私の中の何かに火が付いた。『この前、仲良く飲んだ間柄じゃない……今夜は私が二人にご馳走するから、ケンカなんてやめてよ……』つい、言ってしまった。「ゴメン、淳子ちゃん……せっかく来てくれたのに……」「淳子さん、すみません……」二人とも急にしおらしくなる。そうそう、それでいいの。「じゃあ、ブランデーで乾杯と行こうか、マサシ」「そうだね……淳子さん、VSOPあたりが飲みやすいと思うんだけど、どうかな?」VSOPか……値段的には手頃よね……?「そうそう淳子ちゃん、1本入れるよりも“飲み放題”コースにした方が、安く済むよ」『え……そうなの?』「うん、その方がコース制だから、それ以降何杯頼んでも料金変わんないんだよ」そっか。それなら安心だわ……。流石にこう何本も入れられたら、たまったもんじゃないしね。コース料金も2万円なら、まぁ妥当なところか。『じゃ、飲み放題コースで!』その時、マサシと純がニヤリとしたような気がした。でも、私の意識はもう、ショートしかけていた―――マサシと純のどちらかが隣にいる状態で、次々とヘルプが入れ替わりブランデーを飲んでいく。飲み放題だから安心だわ……。フワフワした意識の中、スマホの音に気が付く。“クリス”からだ……!『ハイ、クリス…どうしたのぉ?』「Jun、今どこにいるんだい?」『あは、あたし?……今ね、歌舞伎町で飲んでんの』「ummm……大丈夫かい、迎えにいこうか?」『あ、助かる~お願い~住所はね……』マッチに書かれてあるクラブの住所を読み上げる。「分かったよ……じゃあ、あと30分後に」そう言って、クリスは電話を切った。ああ……こういう時、クリスがいてくれると助かるなあぁ……。どのくらい飲んだだろうか。スマホで時間を確認すると、もう2時を回っていた。「淳子ちゃん、大丈夫?」『うん、“らいじょうぶ~”』上手く、言えてない。それが自分でも面白くてケタケタ笑う。「じゃあ、そろそろお会計しようか?」『うん、よろしく~』何だかんだで楽しかった。仕事も上手くいったし、イケメンに囲まれて飲んだし。ちょっと贅沢しちゃったけど、これでまた頑張れる。来週は、イタリアでまたジュエリーを仕入れてこよう……。そんな夢見心地で、シャンデリアの光をボーッと眺めていると……、この間六本木で出会った“ガングロ男”がテーブルに歩いてきた。「どうも、今夜はわざわざお越しいただき、ありがとうございます」言葉遣いが、やけに恭しい。『こちらこそ、先日はどうもぉ』「こちら、本日のお会計になります」差し出された革張りの伝票ホルダーを開ける。―――絶句した。酔いが一気に覚める。そこに書かれていたのは112万8640円という文字。『あっあの……え~と……』「すいません、こちら料金の説明がまだでしたね……テーブルチャージに、シャンパンのボトル2本、純、マサシの指名料、そして飲み放題が12人分、それにTaxが40%……」何を言っているのか分からない。飲み放題12人分……って……?私の顔色を察したのか、ガングロ男が「ああ、飲み放題はヘルプにも適応されるんですよ」と一言。私……財布の中身で、払いきれない……!自分の浅はかさを痛感した―――【今回の主役】戸部淳子 射手座28歳 ジュエリー卸業ヨーロッパ圏でのホームステイなど、学生の頃から海外経験が豊富で、英語がそこそこ堪能。国外から宝石を買い付けて、ブティックやウェデイング業界に卸している。若さの割に目利きであると評されるところも。イタリア人の彼氏・クリスがいるが、性に奔放で何かとトラブルが起こりやすい。(C) donfiore / Shutterstock(C) Svitlana Sokolova / Shutterstock
2017年08月09日12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第135話 ~双子座-最終話~―――半年後……『今シーズン、久保選手の活躍が楽しみですね! ……以上、横浜スタジアムより江崎がお送りいたしました!』カメラワークの後、“OK”のサインが出る。『ふぅ……』今日も無事終わった。スポーツキャスターになって、もうすぐ3ヶ月か……。インタビューは、選手個人を相手にしながら、視聴者に情報を届けなくちゃいけない。これまでやってきた、ニュースを読み上げる仕事とは勝手が違うから、まだ慣れないわ。もう一度、選手達に挨拶をして、スタジアムを後にする。―――半年、かぁ……広がる青空に、義久さんを思い浮かべる。今となっては、何だか全てのことが夢だったんじゃないかと思える。“あの日”以来、彼には連絡していないし、彼からも連絡はない。たまに思い出してはチクリと胸が痛む。一緒に食事をしたこと、愛し合った時間、それらは風化することなく、今でも私の中に眠っている。“ケンゴ”と名乗る男の正体は、結局分からずじまいのまま。彼からも半年前の電話以降、何の音沙汰もない。今の私に残っているもの……。それはスポーツキャスターとしての立場と、この胸の痛みだけ。それだけが、確かに感じられるもの。「フリーとしてやっていく」そう言っていた義久さんを、毎日色んな番組でさがしているけど、まだ見かけてはいない。せめて何をしているか知ることができたら……。義久さんとの未来に対する“覚悟”すらない私が、そんなこと思う資格なんてないんだけどね……。どこまでも広がる青い空に、義久さんのことを思いながら、スタッフと会社に戻る。それは“青天の霹靂”だった。帰社して一息つき、いつものようにキャスターが出演している番組をスマホでチェックする。これが私の日課。こうして毎日、義久さんの動向をチェックしているのだ。すると……。茨城県の地方ニュースのフィールドキャスターに“新垣義久”の名前。『う……そ……』義久さん、復帰したのね……!スマホを持つ手が震える。彼が今、どんな生活をしているかは分からない。でも、こうしてキャスターという仕事を続けてくれていることが、ただただ嬉しかった。何でもいい。彼が出演していることを、この目で確かめたい。確か……。報道部署なら、各局のニュース番組をチェックできるはず!義久さんの出る番組は……、夕方4時からね…!私の足は、報道部署に向かっていた―――彼の番組開始まで、あと5分。時間がない。テレビ局の“顔”として、将来を有望視されていた彼の人生を、私がつまずかせてしまった。そういう後ろめたさが、私の心に影を落とし、こびりついて離れなかったのだ。早く……早く……、彼の姿を見たい……!『すみません! キャスター事業部の江崎です……失礼します!』報道部のドアを勢いよく開けると、各局のニュースがズラリと画面に並んでいた。そこから、『茨城ニュース』を探す……。報道部スタッフ達はきっと、“鳩が豆鉄砲をくらった”ようにポカーンとした顔をしているだろう。でも、今、確認しなきゃ……私……―――あった!まだ、今、コマーシャル中だけど、確かに彼が出演する番組。開始まで、あと30秒。間に合った。間に合ってくれた。食い入るように、画面を見つめる私。そして番組は始まった―――……義久さんだ。半年ぶりに見る彼の姿。少し痩せたかしら。でも、確かに義久さん本人。爽やかな笑顔と朗らかな口調は変わっていない。グレーのスーツに紺のネクタイも、懐かしい。場所は違えど、今こうして、彼もTV局で仕事をしている。それが、たまらなく嬉しい。それから私は10分間、ずっと釘付けだった―――もう私たちは、会って話したり、食事したり、愛し合うことはできないかもしれない。だけど、こうしてお互いの姿、声を確認し合うことはできる。―――いつでも、繋がっていられるその思いが、私を奮い立たせる。報道部を出る。何だろう、この清々しい感覚。仕事をしたい。とにかく、仕事をしたいと思う。私が働いている姿も、義久さんに見てもらいたい。私が今、ここに在るということを知ってもらいたい。それだけが唯一、私たちに“赦された逢瀬”なのだから……。襟を正して、キャスター事業部に戻る。私はこれからも、このTV業界で“女子アナ”として上を目指し続けていこう。でも、その志は以前とは違う。もう、つまらない自己顕示欲を満たすためだけに生きるのは止めよう。これからは、義久さんに“輝く自分”を見てもらうために、頑張るんだ……!いつか、また彼と顔を合わせた時、胸を張っていられるように。双子座の女の人生は、“I think.” ~私は考える。~好奇心のままにいろんなことに手を出して、痛い思いをするかもしれない。でも、経験に裏打ちされた、確かな“生きている感覚”を掴んでいる。失ったものに、思いを馳せながら、自分と世界との境界線を知って、洗練された自分になっていく。それは他の何ものにも変わりえない、私だけの特別な体験……。銀座で買ったネックレスを握り締め、私は誓う。私は今、輝き始めます―――。双子座の女の人生 ~Fin~【今回の主役】江崎友梨 双子座25歳 アナウンサー23歳の時にアナウンサーとしてTV局に入社。有名大学出身だが1年浪人している。ハイソサエティな世界に憧れを抱いており、自分を磨く努力も怠らない。現在、同じアナウンサーでもあり、上司である新垣義久と不倫関係にある。当初は踏み台にしようと考えていたが、だんだんと彼に惹かれキャリアと恋の間で、悩み揺れる(C) Champion studio / Shutterstock(C) Minerva Studio / Shutterstock
2017年08月08日12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第131話 ~蠍座-11話~―――帰宅したのは、夜中の2時半。何だか、とてつもなく長い時間だったようにも、一瞬の出来事だったようにも感じられる。「ニャン」玄関のドアを開けると、ずっと待っていてくれたのか、“チカ”が足元に駆けてきてゴロンと横になる。『ただいま』私に“唯一残された財産”とも言える、彼女を抱きかかえ、リビングへと向かう。『あんまり夜中に食べると、太っちゃうからね……』そう言いながら、猫用のおやつを1本だけ出す。そして、私自身も棚の中にあるブランデーを取り出す。『美味しい? ……ねぇ、今夜は少し付き合ってよ』おやつに喜ぶチカに喋りかける。こういう時、猫がいてくれるとありがたい。独り言が“独り言でなくなる”から。トクトクと、ウイスキーをダブルでグラスに注ぎストレートのまま一気に飲み干す。『う……っ、ゲホッゲホ……』身体の中の血液が、突然沸騰したかのように熱くなる。お酒はそこまで好きじゃないけど、今夜はもう飲まれてしまいたい……。『チカ……もう、私、あんただけになっちゃった……』銀座のママとしての技量は、私にはそこまでなかったかもしれない。でも、自分なりに一生懸命やってきた。苦しいことも、悲しいこともあった。それでも、お店に来て下さるお客様と、一緒に働く仲間達がいてくれるから、続けてこられた。私の半身とも言える、“雪月華”での時間は、無駄だったのだろうか。何もかもを失い、夜の世界で生きることもできなくなった私は、まるで翼をもがれた鳥と同じね……もう二度と羽ばたけやしない。二杯目のウイスキーをグラスに注ぐ。ダメね、私って……。今度はゆっくり口に含む。私は会長を癒すこともできず、倫子を止めることもできなかった。なにもかも自分勝手に思い込んで、結局何もできなくて。お酒が回ってきたのか、泣けてきた。ポロポロ、ポロポロ……。これまでの“銀座ママ”としての思い出が流れ出すかのように、涙が頬を静かに伝って手元を濡らす。「ニャァーン」おやつを食べ終えたチカが、私の足に鼻先を擦りつける。『ごめんね……もう、ないのよ……何にも……ないの……』そのまま机に突っ伏して大泣きし、意識はそこで途切れた。―――黒い砂の渦の中に、飲み込まれそうになっている自分がいる。自分のことなのに、まるで映画を見ているかのように、もうひとりの自分を眺めているのだ。蟻地獄の巣のようなそこには、奥に異形の醜い化物がいる。「助けて!」と叫びたくても、喉から声が出ない。ズルズルと奥に落ちていく私に、異形の化物がにじり寄り……、カマキリの鎌のような触手で、私の身体をズタズタに刻んでいく。そして、食べられちゃった……。不思議と気持ち悪くも、怖くもない。どこか清々しいのはどうして……?『私……』―――自分の声で目が覚めた。『イタッ……』頭が少し痛い。強いお酒を煽ったからね。時計を見ると、11時。「支度しなくちゃ!」……と一瞬思って、「もう自分のお店はないんだ」と気づく。何だか寂しいような、安堵したような不思議な感覚。もう時間に追われることはないのね。幸いにも、貯蓄はかなりある。無駄遣いをしなければ、普通に生活していくには困らないだろう。―――でも、私にはそんなことどうでも良かった。チカに餌をあげた後、家の中で、洗い物をしたり洗濯をしたり……。ダラダラと無為な時間を過ごす。普段やらないようなところまで掃除機をかけて、家中を綺麗にする。何でそうしたいのか分からない。ただ、何かをしていないと気が変になってしまいそうなのだ。それでも、2時間しか経っていない―――。なんだろう、この頭の中がただれたような感覚。やることがないって、辛い。何かにすがるようにスマホを手に取る。そこには、「本日より、“雪月華”のママは“倫子”となりました。お店の名前も今月中に変わる予定です。どうぞよろしくお願い致します」と1通だけメールがあった。他のお客様達から私に連絡がないところを見ると、相当な圧力がかかっているのだろう。もう私は、名実ともに“銀座のママ”ではなくなったのだ。『手が早いわね……』戦ったって勝てないことは、十分承知している。これからお店の名義が変更され、契約関係が更新されていくのだ。お店の子達も、多分私に連絡を取ることを禁止されているはず。やるなら徹底的にやるというのが、真田会長の信条だ。私はそれをよく知っている。“雪月華”への未練も、半ば強制的に断ち切られ、私がメールをするのはあの人。―――“フレイア華”先生。先生に占いの予約を入れる。「フレイア先生、こんにちは。突然で申し訳ないのですが、本日の夕方以降で、予約をとることのできる時間はありますか?」送信……と。紅茶を入れて、少し物思いにふける。前回のタロットカードの結果。“ストレングスの正位置”……か……。強さ。強さってなんだろう……。私は会長を手懐けることができなかった。つまり、占いは外れたってことなのかしらね……。フフッと自嘲気味に笑って、紅茶を啜る。「ヴーン」スマホのメール着信音が鳴る。「本日、6時半でしたら大丈夫ですよ。お待ちしております。フレイア華」先生からメールが来た。さて、真偽のほどを確かめに行こうかしら……。グラスに残っている液体を飲み干した―――【今回の主役】須藤由紀(絢芽) 蠍座30歳 クラブホステス豊満な肉体を持つセクシーな女性。貧しい幼少期を経て、自分の身体一つを武器に若い頃から水商売の世界でトップを取り続けてきた。さまざまな男性と情事を重ねる日々の中で、自分の生き方に疑問を感じ、男と女の化かし合いに疲れている。このまま、夜の世界の女帝となるか、それとも……。(C) FRANCISGONSA / Shutterstock(C) AlexMaster / Shutterstock
2017年08月02日12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第130話 ~蠍座-10話~暗い部屋の奥から、女の嗚咽のような声が漏れている。―――遅かったか……。一歩、一歩と歩みを進めていく中で、様々なことが頭をよぎる。会長との食事。初めてお店を持たせてもらった時のこと。スイートルームで二人きりの夜。楽しかったこと、嬉しかったことだって沢山ある。私は、彼を癒せる“何者か”になりたかった。おそらく私はこの後、“銀座のママ”ではなくなるだろう。でも、もう“夜”へのこだわりはない。“普通の女”に戻ってでも、彼に進言しなくては―――覚悟を決めて、部屋のドアを開けた。案の定の光景。まるで虫のように縛り上げられた倫子が、男達数人に道具で嬲られている。苦痛に歪んだ顔には生気がなく、涙でメイクも崩れ、見るも無残な姿だ。いつも強気だった倫子とは思えないくらいに弱く、か細い声で呻いている。そして、その奥で眼を異様にギラつかせた老人が、耳まで裂けそうなくらい大きな口を開け笑っている。『会長……!』「ぐふふ……遅かったな、由紀」『もう、良いでしょう……! 倫子を返して下さい。この子は“うちの子”です!』「うちの子? 由紀、お主は何か勘違いをしていないか? ……そもそも、あの店も服も酒も、私が全部買い与えたもの。何もかも全てだ!」『それでも私はあの店の……、“雪月華のママ”です!』足が震えるのを精一杯堪えながら、真田会長に向かって言い放つ。反論したのは、これが初めてのことだ。でも、分かって欲しい、私の気持ち。会長の愚行は私で“最後”にしてもらいたい……。「お主、いつから私に口答えするようになった? 私が与えたものである以上、どうしようと私の勝手というもの。お主に全てを与えたように、お主から全てを奪うこともできるのだぞ」―――会長の口から最後の審判が下される。今ならまだ戻れるだろう。でも、銀座のママとしての輝かしい栄光も何もかも、私は失ったって良い。ただひとり、真田会長の乾いた心を救えたら。『構いません。倫子を返して下さい』「言うたな、お前! 吐いた唾は飲めんぞ!」会長の気色がみるみる変わり、怒気を帯びる。でも、私にとっては……。まるで、玩具を取り上げられそうになっている子どものようにしか見えない。『あなたは、子どもです。小さい頃に満たされなかったものを、こうして不健全な形で今、満たそうとしている。でも、それは間違っています。私は……私たちは人形じゃない!』「何を言うかぁぁぁッ!」怒号と共に会長が立ち上がる。『倫子は連れて帰ります』“恐れ”に勝る感情は、“愛”なのだろう。この人になら殺されても、私はそれで良いと思った。「では、このおなごを連れて帰るといい。ただし、お主は今から“ただの女”じゃ。今日以降、どの店でも働くことはできん。二度とな……」『承知の上です……』唇を噛む。悔しいからじゃない。悲しいから。分かって欲しいから。「おい、下ろせ」会長の号令とともに、吊るされていた倫子が床に崩れ落ちる。『倫子、帰ろう……?』息も絶え絶えな彼女に駆け寄り、声を掛ける。しかし、彼女から帰ってきた返事は予想外のものだった。「余計なことしないでよっ!」縄でギツギツに縛られた彼女は、キッと私を睨みつけ、そう言い放った。『え……?』「私は、今、会長の寵愛を受けているの……! 私から望んでやってることに、あんたからどうこう言われる筋合いはないわ!」―――ああ。もう全てが狂っているんだ私はその時、思った。“会長の欲”と“倫子の欲”。……それらはグズグズになって癒着し、ひとつの醜い肉塊として、ここに在るのだ。「……分かったかぁ! 帰れぃ!」『会長!』会長の最後の言葉と共に、黒服が私を囲む。勝ち誇ったような倫子の眼差し。そうか。最初から全てが狂っていたんだ。これが“標準”ってこと。もしかしたら私も、狂っているのかもしれない。黒服に促され“人形部屋”から追い出される。きっと今の私は、泣き笑いのような顔をしているのだろう……。『あはは……』マンションの廊下で、ひとり乾いた笑い声が響く。泣かない。泣くもんか……。泣けば、会長の思うツボ。―――私は奥歯をギリと噛んで、エレベーターに乗りこんだ。占いで出た“ストレングス”のカードが思い浮かぶ。凛とした女性が、獅子を手懐けているあのカード。あの二人には信頼関係があるのだろう。だから女と獅子として成立し得るのだ。でも、私と会長との間には、初めから信頼関係などなかった。何もなかったんだ……。狂気に愛は通用しない。初めから、私のしようとしていたことは、おこがましいことだったのだろう。自分を納得させるかのように、あれこれ考えを巡らす。白昼夢を見ながら徘徊する病人のように、フラフラとエントランスを出る。会長との食事。初めてお店を持たせてもらった時のこと。スイートルームで二人きりの夜。これら全ては、高く持ち上げておいて一気に叩き落とすための、“会長のシナリオ”だったのだ。私はそれを“ホンモノ”だと思い違いしていただけのこと。そう、誤解していただけのことなんだ。新宿の夜は、いつまでも明るかった―――。【今回の主役】須藤由紀(絢芽) 蠍座30歳 クラブホステス豊満な肉体を持つセクシーな女性。貧しい幼少期を経て、自分の身体一つを武器に若い頃から水商売の世界でトップを取り続けてきた。さまざまな男性と情事を重ねる日々の中で、自分の生き方に疑問を感じ、男と女の化かし合いに疲れている。このまま、夜の世界の女帝となるか、それとも……。(C) Kalcuttax / Shutterstock(C) PopTika / Shutterstock
2017年08月01日12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第129話 ~天秤座-最終話~―――1ヶ月後……私の横には“ウィッシュ”という名のゴールデンレトリバーが大人しく座っている。『お利口さんね……』“ウィッシュ”の頭を優しく撫でる。とても穏やかな気持ち。「恭子さん、夕食の準備できたって」彼の声だ。そう、私の大切な彼、薫さんの声。今日、私は代官山の彼の実家の、ファミリーパーティーにお呼ばれしている。『はーい』庭付きのベランダで、“ウィッシュ”と戯れていた私は、リビングに戻る。『……また、後でね』小声で“ウィッシュ”に囁く。一戸建ての家の中は整然としているけど、いかにも質の良いインテリアで、落ち着いたカラーで統一されている。高い天井にはシーリングファンが回り続けている。「まぁ、リラックスしてよ。自分の家だと思って」薫さんが、私を気遣ってくれる。カウンターキッチンの向こうから、知的な雰囲気の女性と私より少し若い女の子が料理を運んできてくれた。薫さんのお母様と薫さんの妹さんだ。「お待たせしました、ゆっくり食べていってね」そう言って“お母さん”が高そうな白ワインをワインセラーから出してきた。『あ、いえ……とんでもありません。こちらこそお招きありがとうございます』食卓には、色とりどりの食材が並んでいる。そして、その横で一生懸命コルクを抜こうとしている薫さん。「もう、お兄ちゃん、下手なんだからー!……貸して!」“妹さん”が薫さんの手からワインを奪い、ポンという音と共にあっという間にコルクを抜く。「いやぁ、ハハハ……」照れくさそうな彼。「恭子さん、ゴメンなさいね、こんなアニキで……。でも、ビックリしちゃった! アニキにこんな綺麗な彼女ができたなんて、我が家始まって以来のビッグニュースでしたよ!」飲んでもいないのに饒舌な彼女は、薫さんとは正反対の性格のようだ。「僕だって、やる時はやるんだからな! ほら、返して」私の横で薫さんが、少しだけムキになっている。―――可愛い。彼って、意外とムキになりやすい性格なのよね……。彼が私のグラスを白ワインで満たしてくれているのを見て、ふと思った。“あの時”もそうだったな―――。恵比寿で裕太と私、そして薫さんとで待ち合わせたあの夜。私は、しばらく何も言えなかった。色々言うべきこと、言いたいことを考えていたのに、いざ薫さんを目の前にすると、何も言えなくて。空気を察してか、裕太が一生懸命盛り上げようとしてくれた。最初に口を開いたのは、薫さんだった。「僕、気にしてますから……この間のこと……」いつになく、ハッキリと、静かに彼は言った。『ゴメンなさい……』私には謝る事しかできなかった。彼が気にしていることの理由がわからなかったから。「いや、そうじゃなくて! ……何で謝るんですか!?」少し大きな声を出す彼。『……だって、薫さん、嫌だったんでしょ?』消え入るような私の声。「ちょ、ちょ、あのさ……全然わかんねーんだけど」あの時、裕太が間に入って、整理してくれたのよね。ホント、あいつイイ奴。裕太は私たちのキューピッドね……。私は、てっきり薫さんから嫌われたものだと思っていた。薫さんの反応があまりに予想外だったから。でも、薫さんは私に、からかわれているって思って、真意を確かめたかっただけみたい。裕太が間に入ることで、事の本質が分かったの。誤解してた……お互いに。あのときの薫さんは、まるで今みたいにムキになっていた……。「好きでもないのに、キスなんて……そんなことしないで下さい。僕は、本気で恭子さんのことが好きなんですから!」彼の目は真剣そのもの。私はこれまでの自分の経験だけで彼を測っていたのだと、その時始めて分かった。―――そう、彼は心から“純”な人だったの。あの時は、違った意味で自分が恥ずかしくなっちゃったわ。「ああ、私って、これまで本気で恋したことなかったんだ……」って。いつもどこかで逃げていたのかもしれない……“恋愛”から。―――「じゃあ、オマエら、もう付き合っちゃえば?」しびれを切らしたように裕太が一言。そこから、私たちの関係が始まったのよね……。そう、ステータスなんて関係ない。一緒にいたいと思えるキモチ。それこそが大切なんだって、やっと分かったの。―――薫さんの華奢で綺麗な指が、ワインボトルから離れる。「じゃあ、いただきましょうか……もうすぐお父さんも帰ってくる頃だし」“お母さん”の一言で、私は我に返る。『はい! それでは……いただきます!』天秤座の女の人生は、“I balance.” ~私は調和する。~人と人との関わりの中で、自分の立ち位置を知り、少しずつ自分を変えていく。それって本当はずるいことなのかもしれない。でも、常に最適化してバランスを取っていくことこそが、恋、仕事、そして……人間関係だと私は思うわ。人は人の中でしか磨かれない。常に変わっていく世界の中で調和を保ち、美しくあろうとする。それが私の美学。だけど、その美学を壊してくれる人と、私は出会った。矛盾してるけど、それこそが“喜び”なの。今、私は“幸せの意味”を感じています―――。天秤座の女の人生 ~Fin~【今回の主役】佐々木恭子 天秤座27歳 アパレル店員センスがよく整った容姿の女性。男に困ったことがなく、広く浅く男性と付き合う、いわゆる“リア充”である。将来の夢は玉の輿に乗ることで、毎週タワーマンションで催される会員制パーティー『ロイヤル・ヴェイル』に参加している。仕事仲間からは陰口を叩かれているようである。(C) KieferPix / Shutterstock(C) conrado / Shutterstock
2017年07月31日12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第128話 ~天秤座-11~一日の仕事が終わる。なんだろう、この充実感……。仕事って、こんなに楽しいものだったっけ……?ロッカールームのドアを開けると、鈴森さんがいた。「お疲れ様」『お疲れ様です』「最近の佐々木さん、輝いてますね」『え……?』「私、佐々木さんのこと、カン違いしてました……それじゃあ、また」鈴森さんから意外な言葉を掛けられて、私は一瞬何が起きたのか分からなかった。鈴森さんは、私がここで働き始めた時から、私のことを“いけ好かない”と感じていたのだと思う。事あるごとに、チクチク嫌味を言われてきたもの。確かに、彼女は仕事熱心でいつも丁寧だったわ。だけど、私はそんな彼女を“要領の悪い人”という目で見ていた。“要領の悪い人”―――あ。薫さんも……だ。あの人は、どんなに小さな事でも、丁寧に丁寧に対応する。これまで彼が私にしてきてくれたことを想う―――。ショップのHPのこと。トラブルのこと。……私が訊いたことに対して、全て“望むもの以上のこと”を準備し、与えてくれた。『私……』彼のそんな優しさに全然気づいていなかった。値踏みしたり、遊び半分でからかったりして……。―――ひと筋、ふた筋と涙がこぼれ落ちる。私は、スマートに器用に生きているつもりだったけど、全然カッコ悪い……。オトコ達に囲まれて、チヤホヤされて、手抜きの仕事をして。頑張る人を疎ましく思って。“中身”が全然なかった。一生懸命過ぎると、傍からは“要領が悪い”ように見えるのかもしれない。でも、そういった熱意や意欲こそが人の心を動かすものなのね。ハンカチで目を押さえる。着替えて、バッグの中からスマホを取り出す。あれ、裕太からLINEが入ってる……。「おつかれ、恭子。なんかさ、こないだの飲み会で紹介した薫が、悩んでるみたいなんだけど……。思い当たるフシ、ある?」―――え。薫さんが、悩んでる……? 一体、どうして?考えられるのは、ひとつ。私が原因だ。この前、ウチに来てくれた時のことだ。よっぽど、イヤだったのかな……。帰り道、LINEをどう返すかしばらく悩み……。「お疲れ、裕太。もしかしたら、それ、私が原因かも。良かったら、悪いんだけどもう一回飲み会を開いてもらえない?」思い切って、裕太に返信する。これまでの私は、面倒なことを全て避けてきた。でも、そこに向き合わないと、何も解決しないんだ―――。帰宅して着替え終えた頃、裕太から返信が入っていた。「そっか……。よくわかんねーけど、了解。薫、ああ見えて繊細なヤツだからさ、ヨロシクな近々で悪いけど、明日って大丈夫?21時に恵比寿とか」『良かった……』また、薫さんに会えるんだ。キチンと“あの時”のこと、謝ることができる。「私は大丈夫。わざわざゴメンね。ヨロシクお願いしますm(_ _)m」裕太のLINEに返して、お風呂に入る。シャワーを浴びながら、少し弱気になっている自分に気づく。何て謝ったら良いんだろう……。「あの時は、急にキスしてごめんなさい」かな。それとも「好きです」?……そんなこと、言えない。私のことを嫌いになっている可能性だってあるんだから。薫さんのことが分からない。本当は、直接薫さんに連絡した方が良いのは分かってる。でも、そこまでの勇気はない。―――シャワーの蛇口を締めた。雨だ。お風呂上がり、髪をとかしていると雨音が聞こえてきた。薫さんがお店のウェブを良くしてくれた時も、雨降ってたなぁ……。彼には、“雨のイメージ”がよく似合うと思った。一滴一滴、柔らかくシトシトと降る雨。たいした力はなさそうに見えるけど、時に激しく降り注ぐ。雨には強い力がある。どんなに大きな川だって水源は雨だ。降り続けると洪水にもなる。鍾乳洞の岩にだって雨水が落ち続ければ、やがて穴が空くほどだ。周りから見たら、小さなことをチマチマやっているように見えても、その積み重ねが大きな結果を生む。私にないものを、彼は持っている。―――その夜は、少し早く眠りについた。雨音を聞きながら。朝には雨もやんで、空は晴れていた。いつもより目覚めも早く健やかだ。『今夜9時か……』ゆっくりベッドから起き上がり、ぬるま湯に口をつけながら静かな時間を過ごす。こんなに清々しい朝は、いつぶりかな……。支度を済ませ、家を出る。心の準備は出来ている。『おはようございます!』主任の来栖さんに元気よく挨拶する。「あ、ええ、おはよう……何だか最近、佐々木さん、生き生きしてるわね。何か良い事あったの?」『ええ……そんな感じです……!』私は、変わった。薫さんに“気づき”をもらったんだ。―――仕事が終わった。今日も接客とネット対応の一日だった。やってみると、意外と楽しい。昨日のお昼に発送したお客様からも、「迅速丁寧な対応、有難うございます」ってコメントをもらえていたしね。『今は……20時か』ロッカールームのドアを閉め、いつもより少しだけ早く歩く。そう、恵比寿へと―――!【今回の主役】佐々木恭子 天秤座27歳 アパレル店員センスがよく整った容姿の女性。男に困ったことがなく、広く浅く男性と付き合う、いわゆる“リア充”である。将来の夢は玉の輿に乗ることで、毎週タワーマンションで催される会員制パーティー『ロイヤル・ヴェイル』に参加している。仕事仲間からは陰口を叩かれているようである。(C) Voyagerix / Shutterstock(C) ngorkapong / Shutterstock
2017年07月28日12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第127話 ~天秤座-10~―――マズかった……?彼は硬直したまま、私の方を見ている。「どういうこと……ですか?」自分の顔がみるみる内に火照ってきたのが分かる。おそらく真っ赤になっているだろう。これまで“この作戦”で失敗したことは一度もない。ほとんどのオトコが落ちたわ。この気まずい空気、何とか誤魔化さなきゃ……。『あの、ホラ、遅くにわざわざ来てくれて、HP直して下さったから……その……お礼のつもり……的な……』「…………」―――また、しばしの沈黙のあと。「……佐々木さんは、“そういう方”なんですね……」一言、彼がポツリと呟いた。“そんな人”……?それってどういうこと……?すぐにキスしたり、身体を許したりするような“軽い女”って思われた……?「もうすぐ作業終わりますので……」そう言って彼は、PCに向かって修復作業を始めた。『あの……ごめんなさい』「どうして謝るんです?」PCから目を離さずに彼が答える。『突然、あの……』「謝るようなことなら、しなけりゃいいじゃないですか……」『…………』エンターキーをパチンと叩いた音が、“終わりの合図”だった。「修復、終わりました。一応チェックもしてあるので大丈夫かと思います」『……ありがとうございます』「それでは、私はこれで……」薫さんがスクッっと立ち上がって、バッグを肩にかける。「次からは、こんな夜遅くにお邪魔するのは、控えさせて頂きますね」そう言って玄関へ向かう。今の私には彼を引き止めるだけの理由も気力もない。ただ、黙って見送ることしかできない。『あ……下までお送りします……』「いえ、ここで大丈夫ですよ。それではお邪魔しました」見送りすら拒否された私は、ドアの隙間から彼が見えなくなるのをただ見ているだけ。ドアがカチャンと音を立てて閉まった後には、物音ひとつしない空虚な部屋にひとり。ティーカップに彼は口をつけていなかった。『何よ……!』これまでオトコからこんな対応をされたことはなかった。キャバ嬢だった頃も、いつもオトコは私を“特別扱い”してくれたのに。『童貞のクセに……』“オンナとしてのプライド”を傷つけられた私は、ベッドに突っ伏す。『呼ばなきゃ……良かった』オンナが勇気を出して誘惑したというのに、邪険にするなんて……。ここ最近、舞い上がっていた自分が恥ずかしい。柄にもなく、仕事なんかにも一生懸命取り組んじゃってさ……。『バカ……』―――その日の夜は眠れなかった。そして翌朝、私は“また”遅刻した。前のように、けだるげな勤務態度に逆戻りだ。せっかく仕事、楽しかったのにな……。ドキドキしていて、頑張れて、評価されたりなんかもして。一生懸命頑張る自分は嫌いじゃない。でも、何だか必死みたいで、カッコ悪い。だからいつも、頑張らないようにしてきた。全力を出して上手くいかないなんて、私の美学に反するから。いつも余裕があって、オトコたちにチヤホヤされて……。幸せな結婚をして、美しいものに囲まれて……“マダム”になるのが夢。……でも、それで良いのかな……。私のテンションに反して、サイトの方は好調―――。今日も新作が2着、アクセサリーに加えてパンプスまで売れている。主任も、「サイト販売担当者も必要かしらね……梱包や発送、メッセージのやり取りなんかも今後、増えてきたら手間だしね」なんてことを言っている。私……、薫さんのお陰で、夢中になれた。薫さんと親しくなれば、もっと何か“違う自分”を見つけていけると思っていたのに。―――気がついた。私、恋をしていたんだ―――。いつから……?期待したり、呆れたり、感謝したり、悲しかったり……。こんなに私の感情を振り回すなんて。薫さん……大人しそうな外見に反して、頑ななこだわり。優秀で仕事ができるのに、女性慣れしていない。なんだろう、このアンバランス……。これまで私が関わってきた、どんなオトコとも違っている。『……頑張ってみようかな』つい声に出た。私、変わりたい……!『あの、主任!』「どうしたの?佐々木さん」『私、サイト販売担当、やらせて頂けないでしょうか?』「え……でも、お給料変わらないから仕事量が増えて大変よ」『いいんです。私、やってみたくって』カッコをつけずに、どんな小さいことにも一生懸命な薫さん。私も、そんな薫さんみたいになりたいと思った。―――接客の合間に、裏でお客様とメールをやり取りして、売れた商品を丁寧に梱包する。HPはクレジットカード決済だから、すぐに発送手続きに移ることができるんだけど……発送システムがまだ確立されていないから、直接郵便局から送るしかない……か。洋服を買った時って、すぐに商品を着てみたいと思うわ。すぐに着てみて、鏡の前に立ってイメージ通りかチェックするのよね。このくらいの数なら、私にでも持っていけるはず……。『すいません、発送しに郵便局、行ってきます!』売れた商品を手に取り、駆け出す。お店から郵便局は、小走りなら5分で着くわ。薫さん……。私を変えてくれたオトコ……。店の外に出ると、太陽が燦々と輝いていた―――。【今回の主役】佐々木恭子 天秤座27歳 アパレル店員センスがよく整った容姿の女性。男に困ったことがなく、広く浅く男性と付き合う、いわゆる“リア充”である。将来の夢は玉の輿に乗ることで、毎週タワーマンションで催される会員制パーティー『ロイヤル・ヴェイル』に参加している。仕事仲間からは陰口を叩かれているようである。(C) Ollyy / Shutterstock(C) Best Photographer / Shutterstock
2017年07月27日12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第126話 ~牡羊座-最終話~―――2ヶ月後……。私は自分が手がけた番組を会社で観ていた。完璧な出来ではないが、精一杯やったという自負はある。如月、木田さんをはじめチーフプロデューサーの吉岡さん、今回の企画に異を唱えた飯田達もいる。2時間番組という枠の中で、自分が表現したかったことを全て詰め込んだ。この作品が、私の中でずっと消化不良だった“夏希”への想いを昇華させるものになったことは確かだ。「貧困女子の本質は、女性であるが故の“寂しさ”にあるのかもしれない―――」ナレーターが、締めのコメントを告げ、番組は終わった。「終わりましたね」如月が涙目で微笑んでいる。『お疲れ様。助かったわ……ありがとう』彼女にとっても、ADとして初めてのドキュメンタリー番組の完成だ。感無量だろう。私もAD時代に初めて番組作りに携わらせてもらったときは、感動したもの。こうして電波に乗って、全国の人たちに視聴されていると思うと、何とも言えない気持ちになる。後ろから肩をポンと叩かれる。「タイトなスケジュールの中、よくやったな。ま、及第点ってところか」木田さんだ。『ありがとうございます!』「ただ……マイクが少しこもっているのと、カメラの回し方はもう少し勉強しておいたほうがいいぞ」チクリとアドバイスを受ける。『はい……気をつけます』メンタルがボロボロの中での番組作り、注意が足りなかったところも多々ある。流石に“あれ”は堪えた―――。取材を終え、帰宅したあの日、祐也が女を連れ込んでいて……。だけど、その時私は意外と冷静だった。電気をつけると、祐也も女も最初は何が起きたのか分からないようで、“目が点”になっていたわ……そして祐也の弁明。「劇団仲間と打ち上げをしていたんだよ」女は急いで服を着ながら、「飲み過ぎちゃって……ゴメンなさい」……そんな言い訳、通るわけがない。『裸の男と女が同じ布団で寝ているのって、普通じゃないこと、分かるよね?』祐也と女を正座させて、明け方まで説教をした。その後、祐也とは別れて、すぐに引越すなどバタバタだった……。今回の番組作りでは、私も女として学ぶことが沢山あった。私は寂しさゆえに、祐也のような“ダメ男”を作り出してしまった。だけど、男女の不健全な状況の悲しさを、番組作りを通して、私はまざまざと見せつけられたの。“美智子さん”と“さゆりさん”から教わったと言ってもおかしくないだろう。彼女たちが特別なわけじゃない……。誰しも彼女たちと同じ状況になる可能性は秘めているんだから。でも、それは女であることの性(さが)でもあって、何かひとつボタンをかけ間違っただけ。祐也との別れは辛かった。頭では理解していても、心が追いついていかない……。きっとこの感覚は、取材させてもらった“あの二人”も、もっているものだと思う。でも、そんな“割り切れなさ”をいつまでも見て見ぬフリしていちゃダメなのよ―――。夏希にも、それを気づいて欲しかったな……。後ろ髪引かれる思いを残しながら、どこか清々しく社内のラウンジを歩く。何かの終わりは、同時にまた何かの始まりでもある。今、私が担当しているのはバラエティー番組。タレントに気を遣いながら、何が“ウケるのか”を考えながら、毎日を過ごしている。『正解はないのかも……』独り言を呟いて、自販機にコインを入れようとした時。「奢ってやるよ」木田さんが先に硬貨を入れた。『そんな、悪いですよ』「なんで俺があの時お前を推したか、分かるか?」『え……?』突然の言葉に、戸惑う。「お前の“負けん気”こそが、モノ作りをする上では欠かせないからだよ」『……』「反骨精神っていうのは、既存のモノに満足しきっている奴らをぶち壊してくれる。俺は見ていて、気持ちよかったよ」『そういうものですか……』「だけど、リスクもあることを覚悟しておかなきゃならないんだがな」そう言って、木田さんはコーヒーのボタンを押した。『あ……!』「ん?」『いえ、私、お茶が飲みたかったんですけど……』「え……まぁ、お前、あれだ。カフェインで目を覚ませって話さ」『プッ……アッハハ!』私は、今の自分に満足している。いつも自分が正しいと思うことをやってきた。間違っていることもあるのかもしれないけど、自分が“間違いだと思わなければ、それは正しいことになる”。―――『ありがたく頂きますね』牡羊座の女の人生は、“I am.” ~私は存在する。~自分が感じること、どうしたいか。それを突き詰めた先にある、“何か”を知ること。結局は自己満足なんだけど、でもそれでいいの。人生はそもそもが“自己満”で成り立っているんだから。私はこれからも未知のモノに挑んでいくだろう。その過程で傷ついたり、落ち込んだりすることもあるかもしれない。でも……。それこそが学びであり、自分が生きているってことの証明なの。今、私は充実感でいっぱいです―――。牡羊座の女の人生 ~Fin~【今回の主役】竹内美恵 牡羊座32歳 駆け出しディレクター熊本県から状況し、都内でADとして下積みの後、最近ディレクターに。年下の男(吉井祐也・劇団員)と3年近く同棲をしている。性格は姐御肌で面倒見がよく、思いついたらすぐ行動するタイプ。反面、深く物事を考えることが苦手でその場の勢いで物事を決めてしまうきらいがある。かなりワガママだが、テレビ局内での信頼はあつい。(C) fizkes / Shutterstock(C) Bogdan Sonjachnyj / Shutterstock
2017年07月26日12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第125話 ~牡羊座-11~―――バンのハンドルを握る。私はどちらかというと、他の女性と比較して気持ちの切り替えが早い方だ。職業柄、そうじゃないと務まらないこともあるし。だけど、私だって女だ。いざこれからって時に、彼氏からあんなことを留守電で伝えられると、気持ちが挫かれる……。「先輩、収録が終わったら、打ち上げしましょう! パーッと」私の不穏な空気を察してか、如月が気を遣ってくれる。はぁ……。後輩に気を遣わせるなんて、私、TVウーマンとして失格だわ……。『そうね! 焼肉食べよ! 木田さんあたりを誘って、全部奢ってもらっちゃう!』気合いを入れなおして、精一杯の強がりを見せた。新宿は、夜中でも明るい。車をコインパーキングに停めて、“さゆりさん”の待つネットカフェへ向かう。ネットカフェの店長さんに、アポイントは取ってあるから安心ではあるけど……。どうして彼女はネットカフェを待ち合わせ場所に選んだのだろう。その答えは、彼女に会うとすぐに分かった。ネットカフェのブースに入ると、今しがたメイクを落としたのか、“すっぴん”姿の女性がいた。そして、そこにはメイク道具やらハンガーにかかった服やらが所狭しと並べられていた。一瞬、普通の家の、女の子の部屋に足を踏み入れたかのような錯覚に陥った。「どうも~」『初めまして。ご連絡させて頂いた竹内です。よろしくお願い致します』名刺を差し出す。さゆりさんは、少しぽっちゃりしているけど、出るとこ出ている、いわゆる“オトコ好き”する体型で、顔は童顔だった。「顔出しNGなんで、よろしくお願いしますね~」まだどこかあどけなさの残る彼女は、そう言ってタバコを吸い始めた。部屋が狭いため、如月にカメラを渡してもらうよう促す。この部屋に3人はムリだろう。自分でカメラをまわしながらのインタビュー形式に切り替える。『今回、“貧困女子”というテーマのドキュメンタリーにご協力下さり、有難うございます。早速なんですが、さゆりさんは今、どういった生活をされてるんですか?』“紋切り型”だが、まずは質問を振ってみる。「あたしは“ウリ”しながら生活してるよ」“ウリ”……つまり、売春ってことか……。「だから、365日毎日セックス漬けってワケ」どこか遠くを見ながら、乾いた声でアハハと笑う彼女。『家は持たないんですか? ご家族は?』「ああ、ママがいるよ。でも、家には帰りたくないの。かと言って、私の収入じゃ、どこも借りられないからここに“住んでる”の」『どうして、家に帰りたくないの?』そう訊ねると、彼女は一瞬曇った表情になり、「ん……ママが私とAVに出ろって言うから……」驚くようなことを口にした。「ママはAV嬢やってるの。パパに捨てられてから。で、昔私が19の時に一緒にAVに出たのね。私は嫌だったけど、ママがどうしてもって言うから」『……』「それが、私の初体験で……。私、高校を中退してから、働かないで家にいたから、断れなかったのよ。生活苦しいって知ってたし」何も言えなかった。19歳で母親に頼まれて、裸姿を世間に晒されるなんて、どんな気持ちだろう……。想像を絶する現実を突きつけられた気分だ。「で、結構売れたらしくって、そのAV。ママがまた一緒に出ようってしつこいの。だから家を出て“ウリ”しながらネカフェで生活してるのよ」『1日の売上はどれくらいなんですか?』「う~ん、お金持ってる人とかは、一回5万くれたりもするけど、平均で2万ってとこかな。ホテル代は相手にもってもらって。ただ、“ヤリパク”されることもあって、あれだけはカンベンだわ。まぁ、本当にお金に困ったら、避妊なしで3万とかもらうこともできるけど……、でも病気とか妊娠怖いし」さゆりさんはやたらと饒舌だ。きっと孤独で、寂しくて、人に話すことで自分を正当化したいのだろう。“私は間違っていない”そう誰かに認めてもらいたいのかもしれない。それから30分ほど、彼女の仕事内容や生活のこと、そして生い立ちについてインタビューした。話の途中、彼女がポツリと呟いた、「おうちに帰りたい」という言葉に、胸が痛んだ。謝礼を渡し、如月とネットカフェを出る。―――二人とも無言のまま、バンを会社まで走らせる。私は平凡ながら、幸せな少女時代を過ごしてきた。人生は時として避けられない出来事が待ち受けていたりもする。でも、それが多感な時期に起こったとしたら―――。“歪み”が生じても仕方ないのかもしれない。社内は人の気配がない。私も如月も、疲弊しきっている。続きは、後日ってところかな。『お疲れさま。良い画が撮れたね。取材はあと1件だっけ。編集しながらやっていこうか』「はい、そうですね~。明日の夜までには、今日分を終わらせときます~」意外とタフなヤツ。頼もしいわ。『じゃあ、今日は解散。また明日の夕方にね』「はい、先輩もゆっくり休んでくださいね」そう言って、私たちは別れた。ひとりになると、裕也のことが急に気になり始める。スマホを確認してみても、裕也からの連絡はあれからない。寝ている運転手を起こし、私はタクシーに乗り家へと急ぐ。帰宅してドアを開けると、知らない女と裕也が裸で寝ていた―――。【今回の主役】竹内美恵 牡羊座32歳 駆け出しディレクター熊本県から状況し、都内でADとして下積みの後、最近ディレクターに。年下の男(吉井祐也・劇団員)と3年近く同棲をしている。性格は姐御肌で面倒見がよく、思いついたらすぐ行動するタイプ。反面、深く物事を考えることが苦手でその場の勢いで物事を決めてしまうきらいがある。かなりワガママだが、テレビ局内での信頼はあつい。(C) Graphs / PIXTA(ピクスタ)(C) Vikulin / Shutterstock
2017年07月25日12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第124話 ~牡羊座-10~“寂しい”か……。夏希も、そうだったのかもしれない。身近に頼れる人がいなくて、友達にも会えなくなって、きっと独りで生きていたのだろう。そう思うと、目の前の“美智子さん”についつい感情移入してしまう。『ホストクラブに通われているとのことですが、週に何回くらい通っていて、どれくらい使うんですか?……もし、差し支えなければ……きっかけも教えて下さい』「通い始めたのは1年半前です。たまたま仕事上がりに声をかけられて、ドキドキしてフラっと入ったのが最初でした。初めは憂さ晴らしのつもりで月に2回のペースで通っていたんですが、お気に入りの子ができてから……今は、週2回は通っています」『週2ですか……けっこうお金もかかりますよね』「はい……ナンバーに入れてあげたくて……一回10万位使います」週2で一回10万。単純計算すると、120万……。美智子さんの収入を超えている。「それで、サラ金からお金を借りて、今借金が200万円あります……そして、ホストクラブに売り掛けが100万……来月からは、熟女ソープを掛け持とうと思っています」―――隣の如月が息を飲む。『それでも、ホストクラブ通いは止められない?』「だって、私がいないと“ユーキ”が困るって……それに私、友達いないし。ホストクラブにいるときだけが、“本当の私”だって思えるんです……」『……お子さんは? 夜は一緒にいてあげられていますか?』「私は朝~夕方出勤なので、託児所に迎えに行って寝かしつけたあと、夜からホストクラブに行くようにしています。だから実質子供と一緒にいるのは、一日3時間くらいですね……」……ああ、これが現実なんだな、と思った。寂しさが作り出す“負のスパイラル”。つい2年前まで、平和に暮らしていた子持ち30代主婦が、離婚を機に風俗に落ち、その寂しさを癒すためにホストクラブで貢ぐ……人付き合いや家庭生活が壊れ、さらに渇望感は増していく……。私個人、彼女に思うところはある。本当は「今すぐホストクラブに通うのやめな!」と言いたい。しかし、今の私はあくまでドキュメンタリーを作る立場。この人の人生とは無関係なんだと言い聞かせる。すべての人を救えるほど、私は力も能力もない。『……インタビューはこれで終了です。ありがとうございました』如月が、私の声を合図にカメラを止める。「ええ、こちらこそ……あの……」美智子さんが、何か言いにくそうにしている。おそらく謝礼のことだろう。『はい、こちら本日の謝礼を些少ですがお渡しいたします。こちらに印鑑を押してください』……この人を救える人は現れるのだろうか。―――彼女に茶封筒を渡し、私たちはその場を後にする。駐車場からバンを移動させ、会社に戻る。車の中で一息つく私たち。……重たい。同じ女として胸が痛い。如月も、何とも言えない表情をしている。幸せな女と不幸な女。その境界線は、実はすごく曖昧で、誰もが転落する可能性を潜在的に持っているのだ。その原因が“寂しさ”にあるのなら。考えさせられる……。でも、次が待っている。気持ちを切り替えよう。『如月、取り敢えず2時まで時間があるから、今から10時まで編集お願い。私は、次のアポイントとテロップ内容案を打ち込んどく』「了解しました!」こんな時、余計なことを何も言わない如月に好感が持てる。私たちはプロなんだから―――。会社のデスクで作業を続ける。何時間くらいたっただろうか、木田さんが差し入れを持ってきてくれた。「よう!やってるねぇ~。良い画は撮れたか?」『ええ、かなりリアルな内容を頂きました』「そうか、良かったな。ほれ、コレ」ビニールで包まれた箱を私に差し出してくれる。箱の中にはシュークリームとエクレアが2個ずつ!『ありがとうございます!』「ま、後半もがんばれよ~」甘いものを差し入れしてくれるなんて、木田さんニクい!早速、如月と分け合う。「おいし~い!」如月が目をキラキラさせている。いつの世も、女は甘いものに弱いのだ。『これ食べ終えたら、準備して出ようか』「そうですね。新宿のネットカフェで待ち合わせの予定です」『OK』そう言って、スマホの電源を入れる。メールの確認だ。電源を入れると、着信が8件。留守電が2件。全部、祐也からだ。恐る恐る留守電を聞く。「おまえさあ、俺を何日ほったらかしてると思ってんの? 金がなくてコンビニの弁当も買えないんだけど! もうマジでムカつくわ」「そんなに朝から晩まで働くような女と付き合った覚えなないよ、俺。早く帰ってきてくれないと困るんだけど!」……せっかく上がっていたテンションが悲しいくらいに萎んでいく。私、言ってたはずなんだけどなぁ。番組任されたから、忙しくなるって。帰れなくなるかもって。その時、祐也はテレビを見ながら「うん、分かった」と生返事だったのを思い出す。自分の都合ばっかり……私のことなんて、考えてくれてないんじゃない!私も、“美智子さん”と同じなのかもしれない。頭では分かっているのに、独りになるのが寂しくて祐也と別れられないんだもの。悲しい気持ちのまま、バンに乗り込み夜の新宿へ向かう―――。【今回の主役】竹内美恵 牡羊座32歳 駆け出しディレクター熊本県から状況し、都内でADとして下積みの後、最近ディレクターに。年下の男(吉井祐也・劇団員)と3年近く同棲をしている。性格は姐御肌で面倒見がよく、思いついたらすぐ行動するタイプ。反面、深く物事を考えることが苦手でその場の勢いで物事を決めてしまうきらいがある。かなりワガママだが、テレビ局内での信頼はあつい。(C) Feng Yu / Shutterstock(C) Boryana Manzurova / Shutterstock
2017年07月24日12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第123話 ~水瓶座-最終話~―――半年後カーテンから差し込む強い日差しで、自然と目が覚めた。『10時半か……』半年前なら、こんな時間に起きたら大遅刻で大目玉を食らっていただろう。個人事業ってのは、つくづく気楽で良いもんだな。隣で寝ている好美が、口を半開きにして幸せそうだ。今日は私たちのサイトがオープンしてからちょうど1ヶ月。何度も試行錯誤し、ようやくSEOも最適化したところだ。3か月前、「キュート・キッチュ」を退職する時には流石に不安もあったけど、今の仕事に慣れてからは、それはもう楽しくて―――。退職なんて、あっという間だった。お見送りもなければ、送別会もない。ただただ、自分のデスクが空っぽになるだけだ。三橋だけが、一緒に飲んでくれたっけ。あいつは、今も頑張ってるんだ……。……結局、社長とは顔を合わせることすらなかった。従業員のひとりがやめたところで、組織に影響はないんだろう。退職に向けて引き継ぎを進める中で、私は好美とのビジネスの中身を練っていった。販売するものは、好美がオリジナルで制作する情報商材。あいつはゴスロリ系の女子に向けてファッションやメイク、仕草なんかをレクチャーするのが上手いんだよな……。何ていうか、才能だと思う。最近では動画を撮って、DVDにしたりYouTubeなんかにも“さわり”の部分をアップしていたりする。それまでは顔出しする勇気が出なかったらしい。けど今回、私と二人でやることになってから、吹っ切れたようだ。これから、各専門家の人たちと協力して、ゴスロリ女子向けのトータルコーディネートを企画していくつもりみたいだ。セミナーの展開なんかも考えているのかもしれない。部屋の中には、ゴシックロリータファッションの服が所狭しとかけられている。もしかしたら、年内に引越しもあるかもしれないな……。私はというと、HPの製作と並行して、LP作りに追われている。好美が作ったコンテンツをより多くの人達に見てもらうように、コマーシャルしていくのが私の仕事だ。どうやら、裏方の方が性にあっているらしい。誰にも何にも指図されることなく自分でやることを決めていくっていうのは、自由で良いや。好美も毎回、「すご~い!レナレナ、こんな事もできちゃうんだ~!」とかって感激してくれるしね。やり甲斐もあるってもんだわ。負けず嫌いな性格が幸いして、私はプログラム言語やウェブの解析方法を勉強している。いずれ資格も取っていこうと思う。仕事は大きな会社でするだけが全てじゃない。個人で小さく動くとしても、ムーブメントは起こしていけると信じている。「……おはよ、レナ。ご飯作るから、ちょっと待っててね」眠たそうな目をこすりながら、好美が起きてきた。『ああ、ゆっくりでいいからね。ありがとう』そう言って、私は大きいホワイトボードに今日の自分のタスクを書き込んでいく。隣には、好美の書き込むスペースもある。こうしてお互いのやるべきこと、やった内容を把握し合うのだ。そして、一番上には二人の共通目標が掲げられている。「楽しむこと、楽しませること!」「目指せ!年商2000万!」「毎週ミーティングを欠かさない」この3つが当面の目標だ。二人とも自分の技術を持ち合って働くから、資金が要らないのが有難い。おまけに在宅でルームシェアしてるから、家賃もそうかからない。パソコンが一人一台あれば十分なんだから、こんなにコスパの良いビジネスも他にないんじゃない。(まぁ、好美の洋服代はバカにならないけど、趣味も兼ねてるから黙認している)私は楽しいコンテンツを作って行きたかった。だから「キュート・キッチュ」に入社したんだ。でも、結局組織というのは、ひとつの生き物でもある。所属する人間がやりたい事をやっていたんじゃ、まわっていかない。私は“飼われる”のは合っていなかった、ただそれだけのことだ―――。美味しそうなパンの香りと焼けた卵、ベーコンの脂の匂いが鼻をくすぐる。そろそろ“遅めのモーニング”ができ上がる頃だろう。「は~い、できたよ~!ヨッシー特性ベーコンエッグトースト!」『有難う、美味しそうだね~。……いただきまーす』はむはむと口にトーストを頬張りながら、コーヒーを注いでくれるビジネスパートナー。こいつとなら、やっていけそうな気がする。自分の、自分たちだけの仕事を―――。水瓶座の女の人生は、“I know.” ~私は知っている。~自分の個性を活かし、独特のスタイルでそれを形にしていく。時には学びながら、理論武装をしながら。枠にとらわれない、型にはまらない。そんな姿勢を崩さずに貫いていくからこそ、そこに生産的なインスピレーションが生まれる。多くの革命家・発明家を輩出した星座だけに、周囲から理解されないこともあるけど、常に未来を見据えて楽しさを模索していく。自由の身となった今の私なら、それができるはずよ。今、私は心からやり甲斐を感じている―――。水瓶座の女の人生 ~Fin~【今回の主役】中野怜奈 水瓶座26歳 IT開発事業部個性的で変わり者、我が道を行くタイプ。協調性に欠けているが、時代の先を読む“先見の明”があるため、社内での評価は高い。女子向けアプリ会社『キュートキッチュ』の新作指揮を任される。アイディアウーマンであるが、縛られることを嫌う一匹狼。後輩の三橋奈美は良い相談役。実はバイセクシュアルの性向があり、出会い系アフィリエイトで知り合った池谷好美と同棲している。(C) Dejan Stanic Micko / Shutterstock(C) VGstockstudio / Shutterstock
2017年07月21日12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第122話 ~水瓶座-11~『チクショウ……!』声にならない声が喉から漏れる。狭いトイレの中で反響し、虚しくこだまする。しばらくトイレの中から動くことができなかった。悲しいからじゃない、悔しいからだ。私の作品がつまらないっていうんなら、仕方ない。私の才能がないんだろう。でも、社長の好み……しかも女の好みってんのは、許せない。なにが「キュート・キッチュ」だよ……。こんな会社こっちから願い下げだ!呼吸を整えて、トイレから出る。エレベーターに乗り、一度自分のデスクへ向かう。そこには、“無断退社の件について”と書かれた紙が乗っかっていた。……本当に“素敵な会社”だよ、ここは! 無意味な紙っきれをグシャグシャに丸めて、その勢いで退職届を殴り書く。書きながら思う。短いようで長く、長いようで短かった。“愛社精神”なんてものは、これっぽっちもないけど、私は私なりにできることをやってきた。別に会社から守ってもらおうなんて思ってないけど、こんな仕打ちはあんまりなんじゃない……!?いろんな思い出が頭の中をめぐる。社内では、“一匹狼”で通ってた私だけど、チームプロジェクトが成功したときは本当に嬉しかったし、友達は少ないけど、飲み会には顔を出していた。もうこのデスクからの景色が見られなくなるかと思うと、少し……寂しい。なんてね、感傷にひたるなんて、私には似合わない、か……。書き終えた退職届を封筒に入れ、そのまま階下へ。そこで思い出した。営業の三橋のことだ。『あいつ……大丈夫かな』今回の件で、一番苦しい状況に立たされているのは三橋だ。届けを出す前に、営業課へ寄って顔見とかなくちゃな。違う部署に行くのは、どうも慣れないもんだけどね……。営業課入口の内線にコールする。「はい、受付です」『あ、どうも。コンテンツ部の中野です。三橋さんに用事があるんですが……』「了解いたしました。少々お待ち下さい」何だってこう、おカタいのかねぇ、受付ってのは……。数分後、ドアが開いて三橋が顔を覗かせる。……かなり憔悴している。『おい、三橋……大丈夫か?』「せ、先輩……」それから三橋は、この二日、各所への謝罪メールや電話対応に追われていることを語った。幸いにも、テレビ局の竹内さんは、CM製作に着手してはおらず、お金の動きはなかったとのこと。ただ、ウチとの信頼関係は地に落ちただろう。三橋にコーヒーを一杯奢ってから、退職する旨を伝えた。「そうですか……悔しかったでしょうね。先輩、すごく入れ込んでたから……ただ、私としては先輩がいなくなると寂しくなります……」『で……お前はどうするのよ?』「私、ですか……?そうですね……私は残ります。どういう結果であれ、私が任された仕事ですから……。続けていれば、また良いこともあると思いますし……」『そうか、頑張れよ!』「退職後、先輩はどうされるんですか?」『あ、あぁ、親しい奴とネットビジネスでもしようかなって』「そうですか、上手くいくことを願ってます。退職後も、仲良くして下さいね」『もちろんだよ!』三橋の肩をポンと叩き、振り返らずにバイバイと手を振る。その足で、退職届を提出しに行くためエレベーターに乗る。会社を辞める者、会社に残り続ける者。思惑は様々だな。だけど私は、辞めることを選んだ。これからは自分の責任で働いていかなくちゃならない。事務課の窓口に、無言で退職届を出す。―――待つ事、ものの数分。あっけないほど簡単に受理された。こんなもんか……。19歳の時、そんなに好きでもない年上の男と“初体験”したのを覚えている。その時も「こんなもんか……」って印象だった。『ははっ、笑える……』廊下を歩きながら、乾いた笑いが漏れる。でも、これで良い。これからは自分の責任で、好美と新たに仕事を初めていくんだ―――。それから私は無味乾燥な書類や、引継ぎのためのデータ作成に取り掛かった。いつもより時間が長く感じられた。ここの会社は、出社時間は決まっているが、退社は17時以降なら自由だ。こんなに帰りが待ち遠しいのは初めてのことだよ、まったく。時計の短針が5時を指すと同時に、会社を出る。タクシーに乗ろうかと一瞬思い、止めた。これからは出費も抑えていかなきゃな……今日は電車に乗って帰ろう。5時上がりの電車は満員だ。皆、本当はこうして大変な思いをしながら通勤していたんだな……。―――しばし意識を飛ばす。自宅近くの駅に到着する頃には、空の色がオレンジに変わっていた。『きれい……』心からそう思った。この数年間、空を眺めるような余裕はなかった。会社という組織の鎖から解放された今、見るもの全てが新鮮に感じるのはなぜだろう……? 私自身は何も変わってないってのにね……。私の足は、自宅のマンションへと向かう。ビジネスパートナーの好美がいるあの部屋へ。そうだ、ワインを買って帰ろう。きっと好美も喜んでくれるはず。別に悲しくないはずなのに、涙が頬を伝っていた―――。【今回の主役】中野怜奈 水瓶座26歳 IT開発事業部個性的で変わり者、我が道を行くタイプ。協調性に欠けているが、時代の先を読む“先見の明”があるため、社内での評価は高い。女子向けアプリ会社『キュートキッチュ』の新作指揮を任される。アイディアウーマンであるが、縛られることを嫌う一匹狼。後輩の三橋奈美は良い相談役。実はバイセクシュアルの性向があり、出会い系アフィリエイトで知り合った池谷好美と同棲している。(C) fizkes / Shutterstock(C) Juta / Shutterstock
2017年07月20日12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第121話 ~水瓶座-10~『仕事を……一緒に……?』好美と仕事を一緒にできるのは嬉しいけど、一体私はどんなことをすれば良いのか想像ができない。「そう。私とレナで。私は主にブログで商品紹介をしていて、そこで仲良くなったお友達に商材を販売しているの。……つまり、コンテンツといった“ソフト”の部分を作るのは得意なのね」フンフンと好美の話に聞き入る。「だけど、ホームページだとか、LPといった外側の“ハード”を作るのは得意じゃないの。というか、知識がないからできないんだよね」―――そこまで聞いて、ピンときた。『なるほど、そしたら私がその“ハード”の部分を作るってわけね!』私だって、腐ってもIT企業に勤めている身だ。Webデザインからシステムエンジニアの真似事くらいならできる!「うん、私はブログだけしか販売経路がないから限界を感じてたの。本当はメルマガとか流したいし、リストも欲しかったんだよね」テヘッと可愛く舌を出す。そっか……私はソフトを作るのはあんまできないけど、好美はコンテンツ作りが天才的に上手いからな……。こりゃあ、もしかしたらもしかするかも!『さっすが、好美ちゃん!』ギュウと好美を抱きしめて軽くキスをする。「だけど、ひとつだけ!」好美が真面目な顔をする。「ずっと、私とだけ一緒に仕事して欲しいの」『え……?』「いや、あの、ほら別に変な意味とかじゃなくって」手を小さくブンブン振って焦っている。「私かレナ、もしかしたら両方に彼氏ができても、結婚しても、仕事だけは私としていて欲しいの。私、別にレナを独り占めしたいわけじゃなくて……レナといつまでも一緒にいたいの……」少し涙ぐんでいる。『うん、分かったよ。ずっと一緒に仕事しよ……』男と女のかりそめの誓いよりも、さらに深く強固な“女同士の絆”がそこにはあった。―――退職を決心した夜だった。それからいつものように、二人でお風呂に入って“酒盛り”タイムだ。今回は、二人だけのネットビジネス立ち上げに「乾杯!」だ。「ねぇ、レナ。私たち二人だと規模は小さいけど、キチンとターゲットを絞ってやっていけば、イイ線行くと思うの」『おうよ! 好美と一緒なら、何だってできるわ! アホ社長をギャフンと言わしてやる!』「そうだ、そうだ~!」好美と将来の夢を語り合う。理不尽なうちの会社の社長の顔が浮かんだ。よくも私の案を潰して、さらには外部の人たちの顔にも泥を塗ってくれたわね。きっと、営業の三橋はあれこれ奔走して平謝りしていることだろう。売れる・売れないを判断する“先見の明”ってのも大事かもしんないけど、人の心を無視したやり方で上手くいくとは思えないね。『明日にでも、退職届を出してくるよ。ただ……』「ただ?」『届けを出してから三ヶ月経つまでは辞められないから、その間準備をしながら通うよ、一応』「へぇ~、レナにしては殊勝な心がけだこと」好美が私の二の腕をツンツンつつく。『もう! 私だってちゃあんと社会人やってます!』残っているプロジェクトの引き継ぎと……三橋のことも心配だ。貯蓄もそこそこあるし、お金にはそう困りゃしないけど、ハードを構築するのはちと時間がかかるしな……。残り三ヶ月、社内で学べることは今のうちに学んでおこう。……で、時間を見て二人のサイトを構築すっか。『ねぇ、好美……早速簡単なサイトの製作準備に入って行きたいんだけど』「ええっ! レナレナ早いよぅ~。どこでスイッチが入っちゃったの!?」そう言いながらも、好美は嬉しそうだ。「待っててね、明日レナが仕事から帰ってくる頃までには、お家でまとめておくからね!」『はは、頼りにしてるよ、相棒!』「はぁい!」二人でキャッキャしていると、時間が経つのも早い。もう二時を回っていた。部屋の明かりを消す―――。『お休み、好美』小さく呟く。行き場のない私を助けてくれて、ありがと。意識のブレーカーも落ちる―――。今朝は、大忙しだ。案の定、寝坊してしまった。ただ、昨日途中退社している手前、遅刻は絶対にできない。好美は夜型だから起こさないでおく。途中LINEでも入れておいてやろう。メイクもせず、朝ごはんのパンを口にくわえながら、適当に服を選ぶ。心の中で「行ってきます!」と言い、家を飛び出た。社内に到着して時計を見ると、遅刻スレスレ始業2分前だった。急いでトイレに駆け込み、“クイック”メイクをする。ついでに用も足しとくか……そう思って、ドアを開けて便座にしゃがんだ時、女子社員の話し声が聞こえてきた。「ねぇ、聞いた? 新規ゲームアプリがダメになったって話」「うん、聞いた。あの、コンテンツ部の中野さんが担当してたやつでしょ?」「そうそう。お気の毒さまだったわよねぇ……社長の思いつきで」「うん、でさ、そのアプリの引き継ぎなんだけど……」―――息を飲む。「今年、新卒で入ってきた若い女の子が抜擢されたんだって……」唇を噛み締める。「中野さん、社長の好みじゃないからねぇ……若くてフレッシュな子の方がお好みなんでしょ」「あはは……ひっど~い」ダンッ!声が遠ざかるのを確認して、私は思い切り目の前のドアを蹴飛ばす―――。【今回の主役】中野怜奈 水瓶座26歳 IT開発事業部個性的で変わり者、我が道を行くタイプ。協調性に欠けているが、時代の先を読む“先見の明”があるため、社内での評価は高い。女子向けアプリ会社『キュートキッチュ』の新作指揮を任される。アイディアウーマンであるが、縛られることを嫌う一匹狼。後輩の三橋奈美は良い相談役。実はバイセクシュアルの性向があり、出会い系アフィリエイトで知り合った池谷好美と同棲している。(C) Look Studio / Shutterstock(C) TeeRoar / Shutterstock
2017年07月19日12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第120話 ~獅子座-最終話~―――2ヶ月後今夜は弁護士の木村先生と、顧問税理士の茂木ちゃんと3人で食事会だ。19時からお台場のレストランバーを予約してある。先日、アタシの会社「アリアンロッド」の顧問弁護士として木村先生と契約を済ませ、そのお祝いを催してみたの。……まぁ、内心は木村先生と会いたかったンだけど。茂木ちゃんにはダシになってもらったみたいで、なんだか申し訳ないわ。今度お礼しとこ。『そろそろ時間ね……』夕暮れの台場駅に降り立った。しっかし、人のご縁や繋がりっていうのは、どこでどう結びつくものか、全くもって予測がつかないものね。あの時、もし目黒駅で菜摘ちゃんと知り合ってなかったら……。きっと今頃私は、木村先生と再度接点を持つことはできずに、悶々と日々を過ごしていたことだろう。あの“ハゲの痴漢オヤジ”に、ちょっとだけ感謝してあげる。流石に、菜摘ちゃんママから改めて木村さんを紹介された時は、緊張しまくりでガチガチだったけどね―――。菜摘ちゃんママ(と、尾田ちゃん)の計らいで、菜摘ちゃんパパの会社で木村先生にお会いするその日、私は遅刻しちゃったのよ。緊張のあまり前日眠れなくて、つい深酒してしまって、次の日起きれなかったのよね……だって、朝早いんだもん。そして着いた時、ハァハァ息を切らせている私を見て、木村先生がニコッと一言。「昨日は何本飲んだんですか?」あれは恥ずかしかったわ~。もうアタシが“飲んべえ”だってこと、知られちゃってるからね……。でも、こうしてまた会うことができた喜びに、アタシの心は踊っていた。絶対表には出さなかったけど。終始、木村さんは穏やかで、ニコニコしながら菜摘ちゃんパパや尾田ちゃんの話を聞いてくれていた。太陽の下でよく見ると、意外と木村さん、良い男でドキドキしちゃった。スーツは男の魅力を3割増してくれるっていうけど、本当ね。それから、モジモジして何も言えないアタシを見るに見かねてか、尾田ちゃんが“仕事の話”をしてくれたのよ。顧問税理士の茂木ちゃんのこと、これから会社の規模を大きくしていきたいこと、そしてウチには顧問弁護士がいないということ。―――そう、尾田ちゃんが木村さんにアクションをかけてくれたのよ。そしたら、木村先生「明日にでも三人でお食事でもしましょうか」って提案してくれたの。でも、そこで尾田ちゃんが「あいにくその日は所用があり、私は最初しか参加できないのですが大丈夫ですか?」とナイスアシスト!結局、次の日にほぼほぼ二人きりで食事をすることになって、顧問弁護士になってもらう契約を結ぶ約束をしたのよね。その時は、不思議と緊張しなかったのを覚えているわ。おそらく、“仕事の話”をするっていう意識が私の中にあったから。あぁ、自分は憧れの人を前にしても、仕事のこととなるとスイッチが入るんだって、その時実感したわ。尾田ちゃんはかなり心配していて、LINEで何度も「がんばってよ!」「飲み過ぎないようにね」と、仕事以外のことに気を遣ってくれたっけ。私が仕事にプライドを持っていることを、彼女は十分承知してくれているから。そして、もちろん契約は成立。「やはり、黒木さんは面白い人ですね」木村さんが別れ際、私に掛けてくれた言葉。できれば「綺麗」とか「素敵」とかって言われたかったんだけど、まぁ、いつものことだから仕方ないわね。もし「可愛い」なんて言われたら、鳥肌が立っちゃうしね(笑)。―――そこからの今日。レストランバーは今日も盛況の様子。テーブルには木村さんと茂木ちゃんが。二人とも5分前だっていうのに律儀なんだから……! 挨拶もそこそこに、茂木ちゃんと木村さんをお互いに紹介する。談笑していると、目の前にトマトとバジル、モッツァレラチーズの色が眩しいイタリアンが並んでいく。もちろん乾杯はいつも通り、シャンパン。音頭を取るのはアタシだ。『木村先生の顧問弁護士就任に、かんぱーい!!』「アリアンロッドの今後の発展にも、乾杯!」今日は飲みすぎてしまいそうな予感だ―――私の恋は、結局こういう形になっちゃう。素直になれなくて、言いたいことも言えなくて。でも、こうして同じ目標に向かっていける仲間としてなら、これから……あるいは……。終始笑顔の木村さんを、チラりと見る。今に仕事も恋も、思い通りにしてあげるんだから。待ってなさいよ……!獅子座の女の人生は、“I create.” ~私は創造する。~自分に誇りをもって、“特別な何者か”になっていく努力を惜しまない。何もないゼロの状態から自分だけの世界を創り上げていく中で、自身の周りに多くの人たちが集まり、さらに大きなうねりとなっていく。アタシはそのことをよく分かっているわ。流行や人の感情は移り変わり、色あせていくけど、スタイルや積み重ねてきたものは変わらないまま残り続ける。だから、私はこれからも走り続けるの。みんなが魅力を感じて、楽しい!と思ってくれる何かを、これからも生み出していこう。今、アタシは大きな一歩を踏み出した―――。獅子座の女の人生 ~Fin~【今回の主役】黒木真利子 獅子座31歳 経営者女性向け下着ブランド『アリアンロッド』の経営者。プライドが高く、自分の力で今の会社を立ち上げ軌道に乗せたことに誇りを持っている。しかし、恋愛はあまり得意でなく、強気な性格ゆえに男性との関わり方について悩んでいる。顧問税理士の茂木篤史は心を許せる存在。(C) sergey_sfoto / Shutterstock(C) Andrey_Popov / Shutterstock
2017年07月18日12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第119話 ~獅子座-11~「それじゃあ、そろそろ出ようか」私が、飲み過ぎてベロベロになりつつあるのを察したのか、尾田ちゃんが“今夜はもう帰ろう”と促してきた。まだ22時をまわったくらいじゃない。せっかくいい気分になってきたっていうのに!アタシがもう一杯注文しようとすると、「ダメよ」尾田ちゃんが制止する。……こいつ、全然酔ってない。「ほら、真利子、行くわよ。あなた恋愛頑張るんでしょ? お酒の飲み方にも気をつけなくちゃ」あー、もう! 尾田ちゃんはいっつも正論。半ば強引に店から連れ出される。そして、タクシーに押し込められた。「いい、ちゃんと帰るのよ?」『言われなくても、帰るわよ!』「じゃあ、すみませんがよろしくお願いします」丁寧にタクシーの運ちゃんに頭を下げる尾田ちゃん。思えばこの子は、会社立ち上げ当初から、ずっとアタシの面倒をみてくれていた。大変な時期は励ましてくれて、上手くいっている時は「調子に乗っちゃダメよ」って諌めてくれたっけな……。『尾田ちゃん』「何?」『……ありがとう』「何言ってんのよ、早く帰って寝なさい! ……それじゃあね」二軒目に行きたい気持ちをグッと堪えて、そのまま帰宅する。タクシーから見える、夜の街灯りがキラキラと眩しい。恋愛ねぇ、ガラじゃないんだよなぁ……。木村さんのことは気になるけど、こっからどうやって進めたら良いのか、分かんないのよね。なんでもスパッて決めるタイプなのに、珍しくクヨクヨグズグズしている。―――自宅に到着。カードで支払いを済ませて、領収証を運ちゃんから受け取る。千鳥足でエントランスへ。バッグからキーケースを取り出して、オートロックを解除する。ついでにスマホもチェック。尾田ちゃんからLINEが入っている。「真利子、お疲れ。ちゃんと帰れた?」「今日、お店に来て下さった菜摘ちゃんのお母様にお礼の連絡を入れておいたから、明日あなたからも連絡しておいて」……なんなのよ、この“段取り力”は。昔から、いっつもそう。私の至らない部分を、尾田ちゃんが補ってくれる。「アリアンロッド」が軌道に乗ったのも、彼女あってこそなのよね。『分かってるわよ……』エレベーターの中で、そのまま「分かってるわよ」と返信する。取り敢えず、今日はもう色々考えたくないのよっ!自室に到着し、そのままベッドに倒れこむ。シャワーは明日でいいや……。そのまま眠りについた―――朝。目覚めは悪くない。頭もガンガンしてない。昨夜そこまで飲まなかったからな。ベッドから起き上がり、冷蔵庫のジャスミンティーをコップに注いで飲んで、喉の乾きを潤す。『ふぅ……さて、今日もやるか!』スイッチが入る―――少しぬるめのシャワーを浴び、普段通り支度を始める。このリズムを維持することが、大切なのよね。どんなに前日飲んで騒いでも、次の日はキッチリ起きて動く。それがマイルール。今日もビシッと決めるわよ!お気に入りの下着を身につけ、タイトなスーツに身を包み、シャネルのN°5の霧をくぐっていざ出勤ね。今日も、お店にはアタシが一番乗り。自ら掃除をすることで、運が向いてくるの。せっせとモップをかけていると、「おはよ!」尾田ちゃんだ。『おはよ~』「朝から良い心がけね」『まぁね、ゲン担ぎみたいなもんよ』一日が始まる―――お昼休憩中、お店の奥でコーヒーを飲んでいる時にふと思い出した。昨日の尾田ちゃんからのLINE。菜摘ちゃんママに、私もお礼の連絡を入れておかなくちゃ。会員名簿をチェックし、電話番号を確認する。『あったあった』番号をメモして、お店の電話機から電話する。プルルルルルプルルルルル「はい、もしもし内田です」『こんにちは、“アリアンロッド”代表の黒木真利子でございます! 先日はお店まで足をお運び下さり、ありがとうございました!』「まぁ、黒木社長……わざわざご連絡、ありがとうございます。菜摘も、そちらで購入させて頂いた下着を喜んで着けてますのよ」『お気に召されたようで、私も嬉しい限りです……!』「それで、ええと……昨日、尾田さんからもご連絡頂いたのですが、木村先生とのお顔合わせの日程をいつにしましょうか?」―――ええっ!尾田ちゃん、何をしてくれたの!? もしかして、木村さんと会えるように、菜摘ちゃんママにお願いしておいてくれた?今は取りあえず、話を合わせておこう。内ポケットから手帳を取り出し、スケジュールをチェックする。『あぁ! はい! ありがとうございます。えぇと、再来週の土日でしたら、何時でも大丈夫です』「分かりました。では、木村先生にもそのようにお伝えして、日程調整させて頂きますね!」菜摘ちゃんママは、かなり“話し好き”なようで、その後15分ほど話は続いた。「それでは、またご連絡差し上げますわね、ウフフ」ようやく受話器を置くことができた。しかし、木村さんと、また会うことができるなんて―――平静を装ってはいるものの、私の心は踊っていた。【今回の主役】黒木真利子 獅子座31歳 経営者女性向け下着ブランド『アリアンロッド』の経営者。プライドが高く、自分の力で今の会社を立ち上げ軌道に乗せたことに誇りを持っている。しかし、恋愛はあまり得意でなく、強気な性格ゆえに男性との関わり方について悩んでいる。顧問税理士の茂木篤史は心を許せる存在。(C) MarcinK3333 / Shutterstock(C) Antonio Guillem / Shutterstock
2017年07月14日12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第117話 ~山羊座-最終話~カッカッカッ……キュッ―――黒板を白いチョークが走る。今日も私は教師として生徒たちに英語を教えている。普段と変わらない1日。ただひとつのことを除いては―――北野先生との最初のデートから3ヶ月が過ぎた。あのフードコートでの食事からもうそんなに経つんだ……。あの時は、面白かったわ。北野先生ったら、担々麺とコロッケとサラダを注文して、それを平らげ、「また注文してきてもいいですか?」だって。こんなに食べる人だって思ってなかった。細身だから、意外でビックリしたのを覚えている。初デートだっていうのに、気取らずにいられて一緒にいてすごく楽。そこから私たちの関係は始まった。「僕が山崎先生を幸せにできるかは分かりません。でも……山崎先生といると、僕が幸せなのは確かです……交際して下さい!」北野先生の、あの時の告白には、“度肝を抜かれた”わ。バカ正直というか何というか、明け透けな性格が、逆に愛おしい!って感じられたのよね。私も、「交際するからには、幸せにしてもらわないと困ります。約束してくれるの?」なんて彼を困らせてみて……、意外と意地悪な自分に気づいちゃった。そして“指きりげんまん”してもらったの。「幸せにする」って。交際後も、あのルールは変わらない。学校では絶対に二人きりで会わないこと。仮に話すとしても挨拶程度。外で会うとしても、生徒や他の先生たちがいないような場所にすること。そして……このことは誰にも絶対に言わないこと。今のところ、彼はきちんと守ってくれている。最近もお台場にレインボーブリッジを見に行ったり、北区の飛鳥山公園を散歩したりと健全なお付き合いを続けている。キスは許したけど、それ以上は……まだ。きっとこれから、二人で沢山の思い出を作っていくのだろう。お付き合いの中で、私は彼のことを深く知っていった。岩手県出身だということ。昔、剣道で県大会優勝したってこと。私と同じく、大学時代は塾のバイトをしていたってこと。そして、三人兄弟の末っ子だってこと。私の心の傷を癒し、過去のトラウマを克服させてくれたのは、彼だった。彼は教育者としてとても優れていると思う。……オトコとしてはまだまだ未熟だけど(笑)。そこはこれから“お姉さん”である私が、しっかり指導していこうと思っている。いつか“さあや”にも報告できたらいいな。彼女は今、大学の薬学部に通っている。また時間を合わせて、新小岩あたりでお茶しよう。そして、お互いの近況を報告し合うんだ。私が新しい彼の話をしたら、彼女は、きっと自分のことのように喜び、安心するだろう。―――授業終わりのチャイムが鳴り響く。今日も放課後は英語サークルだ。職員室で資料をまとめ、視聴覚室へ向かう。途中、廊下で北野先生とすれ違った。軽く会釈をして……その後、一瞬だけウインクをする彼。私は苦笑しながらも、ウインクを返す。これが私たちの学校内でのコミュニケーション。彼はこれから剣道部の指導へ向かうのだ。北野先生の袴姿、意外とサマになっているのよね。前に体育館での朝練を覗いたときのことを思い出す。紺の袴と、彼の凛々しい横顔に、不覚にもキュンとしたのは内緒だ。私と彼の関係が、学校内の誰かに知られるのも時間の問題だろう。でも、それはそれで良いと今は思っている。いつも形から入る私だから。必要以上に怖がって身構えてしまうけど、意外と人生なんとかなるものなのよね。(そんなこと、絶対に北野先生には言わないけどねっ!)キーンコーンカーンコーン……終業のチャイムが夕暮れの校内に響き渡る。茜色に染まったグラウンドでは、野球部員たちが今日も練習に勤しんでいる。そんな姿を、窓から眺めるのが私は好きだ。『私も、青春してるぞっ』誰もいない廊下で、あたたかなオレンジ色の光に包まれながら、つい独り言を呟いてしまう。スマホを見てみると、「お疲れさま」と、彼からLINEが入っていた。私も、「ガンバってね」と送る。変化のない日常の中で、私は何かが少しずつ変わってきたのを、ゆっくり、でも確かに感じていた。山羊座の女の人生は、“I use.” ~私は使役する。~自分自身を取り巻く世界と、そして人々。日々変化していく社会の中で、しっかりと人生の手綱を握り締めコントロールしていく。それが私の美学であり、私の生き方。私の愛する学校、生徒たち、そして北野俊一。決して刺激的ではないけれど、穏やかで平和な毎日。でも、それこそが私の求めていたものなのかもしれない。私は今、満たされています―――。山羊座の女の人生 ~Fin~【今回の主役】山崎千尋 山羊座30歳 高校教師(英語)生徒からの信望も厚く、仕事ができる「良い先生」。ただ、他人に甘えるのがヘタなので誤解されることも。大学時代にアルバイトをしていた塾で、塾長にセクハラを受け続けた過去がトラウマになっている。自分に恋をする資格が無いと思っており、結婚願望はある一方、身動きできない。後輩の北野俊一から好意を持たれているが、気づいていない様子。(C) conrado / Shutterstock(C) zummolo / Shutterstock
2017年07月12日12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第116話 ~山羊座-11~北野先生と一緒に坂を下る。……このシチュエーション、なんだか懐かしい。高校時代、部活終わりに同じクラスの男子とたまたま一緒になって帰った以来、かな……。「山崎先生、すみません、付き合ってもらっちゃって……」『北野先生、意外と強引なんですね?』少し意地悪っぽく聞いてみた。嫌味を1割くらい含んで。「す、すみません! どうしても朝の返事が聞きたくて。あの、朝礼で遮られたままだったから。食事の約束。」『えっ!プッ、アハハッ!』そんなことで、私のこと追いかけ回してたの? 私てっきり、“告白”でもされるのかと思ってた。何だか拍子抜けして、身体の力が抜けた―――坂を下り、突き当たりを曲がると喫茶店「もみの木」がある。何十年続いているんだろう……と思わせるレトロな外観だ。目で『ここにしましょう』とサインを送る。満面の笑みでうなづく北野先生。子どもみたい。年下の男性って、こんな感じなんだ。前に、女性誌で読んだことがある。男性は女性と比較して精神年齢が3歳くらい幼いって。年下男子だと、なおさら幼く感じるのかな……。あれこれ考えながら、喫茶店に入る。あと1時間で閉店ということもあり、店にはマスターしかいない。『コーヒー2つでいい?』「はい!」北野先生に尋ねる。ふぅ、やっと落ち着けた……。『北野先生!』「はい、なんでしょう?」『なんでしょう? じゃありません!』北野先生がビクッとなる。『学校であんなことしちゃダメじゃないですか!? もし生徒に見られたらどうするんです! 大体ですね……』―――その後、私の説教は15分以上続いた。「すみません……」筋骨隆々とした青年が、怯える子犬のように小さくなっている。――意外と素直なのね。そろそろ良いかしら。『まぁ、それはそれとして……。週末のお食事の件、行きましょう』「……え?」『いや、ですから! デパ地下のフードコートがあるんでしょ!? そこ、行きますよ』ポカーンとしている北野先生。そして数秒後。「あ……あぁ、はい! 行きましょう!」これが、“母性”というものだろうか。“子どもっぽい”青年と、つい食事の約束をしてしまった。「では、今週末の何時にしましょう!?」『その前に、ちょっと待って』釘を刺すように、私は彼に言った。学校では絶対に二人きりにならないこと。仮にそういうシチュエーションになったとしても、挨拶程度で済ましましょう。外で会うのは、生徒や先生たちがいないような場所。そして、このことは誰にも絶対に言わないこと。これが守れないのであれば、お断りします。――そう言った。彼はコクンとうなづいて、「守ります」とだけ答えた。それからはデートの日時を決め、ちょうど閉店時間になったので、それぞれ家路についた。―――帰宅。今日は何だかすごく疲れた。でも、なんだろう。心地良い疲れ。嫌な感じはしない。自分でも驚いている。男の人とあんな話をしたのは初めてだった。大学時代の“あの一件”以来、私は男の人と話すのが苦手になっていた。でも不思議だな、北野先生は平気だった……。―――年下の男の子っていうのも、悪くないのかもしれない私の話をちゃんと聞いてくれる。ルールを守る努力をしてくれる。もしかして、私……、ブンブンと頭を振り、余計なことを考えるのはやめる。その後、シャワーを浴び、夕軽く夕食をとりそのまま横になった。学校で彼は、これまで通りでいるよう努めてくれた。(とは言うものの、緊張は十分伝わってきたけど……)もちろん、あの日した4つの約束はきちんと守ってくれた。私も、彼と顔を合わせるのが楽しみになっていて、彼が傍にいるときは口元がほころんでいたかもしれない。学校が楽しい。いや、彼に会えるのが嬉しいのかな。ついに土曜日。今日は学校で彼に会うことがないかわりに、プライベートで一緒に過ごす。普段通り、小テストの添削やサークルの資料作りを午前中に済ませ、彼と約束しているデパ地下のフードコートへと向かう。新鮮な気持ち。洋服を選んだり、メイクをしたり。プライベートでこんなこと久しぶり過ぎて、すっかり忘れていた……。『どう頑張っても、地味めな格好になっちゃうなぁ』つい、独り言が漏れる。今度“さあや”にオシャレについて教えてもらおうと思った。待ち合わせ場所は電車で9駅。ちょっと離れたところだ。ここなら、生徒たちと鉢合わせることはないだろう。待ち合わせ場所に近づくと……、北野先生が大きく手を振って待っているのが見えた。『もう、バカみたいじゃない……』そう呟く私の口元はほころんでいる。もしかして、私って……“年下が好きなのかもしれない”私は彼の元へ走った―――【今回の主役】山崎千尋 山羊座30歳 高校教師(英語)生徒からの信望も厚く、仕事ができる「良い先生」。ただ、他人に甘えるのがヘタなので誤解されることも。大学時代にアルバイトをしていた塾で、塾長にセクハラを受け続けた過去がトラウマになっている。自分に恋をする資格が無いと思っており、結婚願望はある一方、身動きできない。後輩の北野俊一から好意を持たれているが、気づいていない様子。(C) Y Photo Studio / Shutterstock(C) Minerva Studio / Shutterstock
2017年07月11日12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第115話 ~山羊座-10~体育館の裏で、男女が二人―――本来なら“ときめく”シチュエーションなんだろうけど、私たちは教師同士だから誰かに見られちゃ困る……。話の内容もデートについてだから、なおさらまずいというか……。「山崎先生、どうして逃げるんです? 私、何か気に障ることしましたか?」真っ直ぐに疑問を投げかけてくる。私もこれぐらいハッキリものが言えたら、気苦労も少ないんだろうけど……。『いえ、別に気に障ったとかではなくてですね……』しどろもどろに言い訳する私。なんとか、ごまかしてこの場を終わらせたい。「では、どうして?」この人は、疑問が生まれると徹底的にその原因を突き止めるタイプね。さすが数学教師……。『いや……学校内で、教師同士がする話じゃないのかなと思いまして』これで彼を黙らせることができるだろう。北野先生はハッとした表情を浮かべた。そして、彼の顔はみるみるうちに真っ赤になった。「すみません……つい……失礼いたします!」そう言って、彼は走り去った。……ふぅ、なんとかこの場は乗り切れた。正論よね。なんだかんだ言って私のほうが年上だし、教員歴も長いから。ただ、きっと傷つけちゃったわよね、北野先生のこと。後でどんな顔して会おう。―――お弁当箱の包みを再び開く。でも、あんなに“熱くなれる”なんて、羨ましいな。職員室からここまで、私の後を追って走ってきたんだ。すごいなぁ。基本的に、“去る者追わず”なスタンスの私には、考えられない。あそこまで必死になるってことは、それってもしかして―――いやいや、そんな自分に都合の良い解釈はしないでおこう。違っていたら、すっごく恥ずかしいしバカみたいだし。こうやって体育館裏でひとりお弁当を食べていると、新任の頃を思い出す。最初は右も左も分からなかったのよね。教頭先生から怒られた時なんかも、ここへ来て泣いたっけ。熱意はあるんだけど、それが間違った方向に向いてしまうのは新任によくあることだって、先輩から教えられたわ。……ん?“熱意が間違った方向”か。何だか少し、北野先生にも当てはまるような気がして、可哀想になった。お昼休みの終了を告げるチャイムが構内に響いていた。校内清掃の時間。職員室の向かいデスクには北野先生はいない。多分、体育館の掃除をしているんだろう。年下かぁ。午後の授業が終わったら、声を掛けてみよう。午後の授業は不思議と冷静だった。いつものように生徒たちの前でテキストを読み上げる。黒板にチョークを滑らせ、例文を書き、小テストをする。6限目が終わり、今度はサークルの支度。階段を下り職員室に戻ると……、また北野先生はいない。タイミングが悪かったわね。別に私を避けてるわけじゃないだろうけど。サークルの子達と、前回の課題について話をしている間に夕方に。結局、今日は北野先生と話せそうにない。まぁ、こうして同じ学校にいるから、必ずまた会うことになるだろうけど。サークル活動が終わり、鍵を閉めようとしたとき、「せんせ~、今日は何かあったの?」飯山さんから声を掛けられた。『え、どうして?』「だって、午前と午後とで全然雰囲気が違うから」私って、そんなに顔に出るタイプなのかしら。弱ったな……。『別に何もないわよ、ほら、遅くなるから早く帰りなさい!気をつけてね』「はぁ~い」飯山さんは、つまらなそうに返事をして帰っていった。校舎の3階から外を眺めると、まだ体育館のライトが点いている。剣道部はまだやっているのね。北野先生、今どんな気持ちなんだろう。落ち込んでなきゃ良いけど。人気のない職員室に戻り、視聴覚室の鍵を元の場所に返す。今日も一日が終わった。ドキドキしたり、ビックリしたり、冷静になったり、なんだかとても忙しい一日だったなぁ。帰り支度を済ませて、職員出口から専用駐輪場まで歩く。そして、校門を出ていつも通り帰ろうとしたその時。「山崎先生~!!」聞き覚えのある声が、後ろから聞こえて振り返る。よく見えないけど、あのシルエットは……北野先生。スーツ姿でカバンをブンブン振り回しながら走って近づいてくる。『本当に、この人は……』“呆れ”とともに、“愛おしさ”を感じている自分がいる。「ハァハァ……ハァ」あっという間に、私の目の前にやってきた。『どうされたんです? そんなに息を切らせて……』「先生、学校の中で話す内容ではないと仰っていたので、学校外でお話したいと思いまして!」なっ……この人! これってストーカーに近い何か……。でも、悪意がないし真っ直ぐだし。もう良いわ、私の負けね。『そうですね、そしたら降りた角の喫茶店にでも入りましょうか』その言葉に、顔がパアァァ……と明るくなる彼。本当にこれでいいのかなぁ。何とも言えない気持ちで、自転車を押しながら坂道を下る。横には北野先生。星がやたらと綺麗に見える夜だった―――【今回の主役】山崎千尋 山羊座30歳 高校教師(英語)生徒からの信望も厚く、仕事ができる「良い先生」。ただ、他人に甘えるのがヘタなので誤解されることも。大学時代にアルバイトをしていた塾で、塾長にセクハラを受け続けた過去がトラウマになっている。自分に恋をする資格が無いと思っており、結婚願望はある一方、身動きできない。後輩の北野俊一から好意を持たれているが、気づいていない様子。(C) michaeljung / Shutterstock(C) Maria Savenko / Shutterstock
2017年07月10日好きな人に対して、自分からは動かないでひたすら相手が動いてくれるのを“待つ女性”と、自分からガンガン捕まえにいく"追う女性”がいます。自分の恋愛パターンがいつもどちらかに偏っているという方は、ちょっと方向を変えて、基本は待つ女、ときには追う女、と使い分けてみませんか?基本は待つ女でOK待つ女、というのは自分から誘ったり、好きを匂わすようなことはしないで、相手からのアクションを待つタイプの女性。自信がない、勇気がない、ふられるのが怖い、という理由で、自分から行動を起こすことができずに「待つ女」になっている方は多いかもしれません。でも、待つ女は男性にとってありがたい存在のようです。ワガママで振り回されることもなく、いつでもそっとそばに寄り添ってくれる従順な存在。待つ女性を奥ゆかしいと感じる男性は少なくありません。でも待ちすぎはNG!待つ女は、奥手な男性からは「気がないのかな?」と思われて、どうにも発展しない可能性もあります。男性にとってありがたい存在ではあるものの、いいように扱われて「都合のいい女」に成り下がるパターンもあります。待つ=受け身でいるだけでは、状況を変えられないことも。ときには追う女の一面を見せることが大事になってきます。時には追う女へ男性は狩猟本能があるので追わせたほうがいい、とこれまで散々言われてきましたが、草食男子と呼ばれる男性が増え、恋人がいない男女の割合は年々増えています。時代とともに恋愛スタイルも、男性女性のあり方も変わっていきます。気になる男性へ追う女となって行動してみましょう。追う女となるのは簡単で、自分から相手への好意を匂わせるだけでいいのです。自分から連絡をしたり、飲みに誘ったり、二人きりになれる空間を作り、あなたの好意を言葉や視線、態度で伝えましょう。積極的になった後は、また待つ女になって彼からのアクションを待ってくださいね。“待つ”“追う”をうまく使い分けて恋愛を進めましょう。
2017年05月19日こんにちは。ライターの和です。ガールズレスキューからこちらの質問に答えさせていただきます。「バイト先にヤリチンを公言してる人がいます。その人は社員なのですが、来月で転勤してしまいます。私ももうすぐバイトを辞めるので時間がありません。ここからが本題なのですが、バイトを始めて1年ほど経ちますが、彼はずっと気になる存在でした。シフトも時間帯が違うのであまり被らなかったのですが、たまに会うと凄く優しくて面白くて、あまり経験がない私はいつもドキドキしてしまいました。彼とはもう会えなくなってしまうので、バカな考えだとはわかっていますが最後に抱かれたいと思ってしまいます。ただ『抱いてください』なんて言えるはずもなく、LINEも業務連絡しかしません。私はどうしたら良いでしょうか」彼とバイト先で会えなくなってしまうのは寂しいですよね。かといって「最後に抱いてほしい」と思うのは、正しいことなのでしょうか?相談者様のお悩みについて一緒に考えてみましょう。■エッチをしたらもっと好きになっちゃうはずまず「最後に抱かれたい」と、自分から都合の良い女になろうとするのは絶対にダメ!「エッチだけでもしたい」なんて言ったら彼に利用されるのがオチですし、そもそも自ら価値を下げるような女性に興味を抱く男性はほとんどいません。「彼と何もないくらいなら、せめてエッチだけでも・・・」と思う気持ちもわからなくもないですが、人の気持ちってそんな簡単に割り切れるものではないはず。きっと彼とエッチをしてしまったら、相談者様はもっと彼のことが好きになってしまうでしょう。そうなったらいま以上にツラい思いをすることになります。「彼とエッチをしたい」と思うのではなく、「まずはどうやったら彼と付き合えるのか」考えてみましょう。■業務連絡以外のLINEから仲良くなろうお互いに職場から離れるとのことですし、LINEをもっと有効活用していきましょう。いまは業務連絡しかできなくても、仕事で会わなくなれば何気ないLINEも送りやすくなるはず。まずは「仕事お疲れさまでした」とLINEをして、話をつなげられるように工夫してみましょう。もしかしたらデートまでこぎつけられるかもしれませんよ。焦らず少しずつで良いので彼にアピールしてみましょう。■恋愛話をすれば乗ってくれるかも!?彼はヤリチンとのことですが、そこから恋の話に持っていってはいかがでしょうか。とはいっても「○○さんってヤリチンなんですよね!?」とダイレクトに聞くのではなく、「○○さんって恋愛経験豊富そうですよね」とオブラートに包むのが良いでしょう。彼は自らヤリチンを公言しているくらいですから、きっと恋愛話にも興味を示してくれると思います。きっと元カノの話などから、好きなタイプの女性や今までの恋愛遍歴が掴めるはず。彼の理想の女性を目指すことで、距離を縮められるかもしれませんよ。■おわりにいくら彼が好きだからといって、最後に抱かれたいなんて思うのは良いことではありません。どうせだったらできることを全部やってから結論を出したほうが、心残りは少ないと思いますよ。(和/ライター)(ハウコレ編集部)
2017年04月09日「良い恋をすると女は綺麗になる」と良く言いますよね。これは、恋をすることで分泌される女性ホルモンが関係しているのだとか。では、恋をしていない人は綺麗になれないの?大丈夫!!恋以外でも、ホルモンを分泌する方法はあるのです。恋をしている時ほどモテるのは、恋しているほうが綺麗だからだった!一度恋愛とご無沙汰状態になってしまうと、びっくりするほど新たな恋の気配が見えないのに、なぜか好きな人や恋人ができた途端に他の男性からもお誘いを受けるようになった経験、ありませんか?これこそ実は、恋をすると「女は綺麗になる」ことが要因なのです。良い恋をしている女性は、女性ホルモンが分泌されていることで魅力が増します。それについて、より詳しく解説しましょう。恋をすると分泌される”女性ホルモン”とその効果恋をすることで、「ドーパミン」「エストロゲン」「オキシトシン」「フェニルエチルアミン」という名の女性ホルモンが分泌されると言われています。そしてこれらが分泌されることによって、肌ツヤが良くなったり、髪が綺麗になったり、さらには食欲が抑えられてダイエットにもなるのだそう。つまりこれが、「恋をすることで綺麗になる」理由と言えるでしょう。でもこれって、恋をしていないと分泌されないの?好きな人がいないと綺麗にはなれないの?ご安心下さい!恋以外でも、ホルモンを分泌することは可能です。それに、悪い恋をしているくらいなら恋をしていないほうがずっと自分にとってプラスですよ♪「恋ホルモン」は、”きゅんきゅん”さえすれば出せる!そう。女性ホルモンは、実際に片思いや交際をしなくても”きゅんきゅん”さえすれば出るのです。だから、無理に恋愛をしようとする必要はありません。では、恋愛以外で恋ホルモンを出すにはどんなことを心がけたら良いの?恋愛以外できゅんきゅんする方法1.「カワイイ」動物や赤ちゃんに”きゅんきゅん”動物や赤ちゃんて、見ているだけで癒される、唯一無二の可愛さ。この可愛さは他にはないほどの破壊力を持っていて、女性ホルモンだけでなく母性ホルモンまで大放出の勢いです。女性的なセクシーさのほかに、優しげな母性まで手に入るとは!どこまでも女性の魅力高めてくれること間違いなし!ちなみに、ペットを飼っていない、周り赤ちゃんがいる友人がいない、という方も安心を。可愛らしい動物や赤ちゃんたちの写真を見て”きゅんきゅん”するだけでも良いのです。それにこれらのモチーフのアイテムを集めている女性って、なんだか可愛らしくありません?!笑2.デザイン性の高いコスメに”きゅんきゅん”女の子ですもの。見た目が素敵なコスメは、思わず観賞用と使う用の2つを買い揃えたくなってしまうほどだーい好き。これらは、眺めているだけで”きゅんきゅん”し、女性ホルモンが発生して女の子を綺麗にしてくれます。また、さらにそのコスメを使用してメイクすることで、見た目がもっと可愛くなる。コスメはホルモンとメイクアップ効果のダブルで女の子を魅力的に見せてくれる、素晴らしいアイテムです。ドラマや映画・漫画など空想の世界に”きゅんきゅん”現実世界の男に恋しなければいけないなんて決まりはどこにもなし!ドラマや映画、漫画など空想の世界にときめいたって良いのです!登場人物に自分を重ね合わせてきゅんきゅんするも良し!世界観に浸るも良し!それに、登場する俳優さんに恋をしたって良いのです!また、恋愛系のストーリーに”きゅんきゅん”することは、実際の恋愛にご無沙汰の方が恋愛モードを取り戻すきっかけにもなるので、ぜひ「恋の仕方を忘れてしまった」という方は、積極的に擬似きゅんきゅんを取り入れると良いでしょう。擬似”きゅんきゅん”は、真”きゅんきゅん”への近道恋愛以外で”きゅんきゅ”んして女性ホルモン放出することで、髪とお肌がツルツルに。さらにダイエットまでできてしまったあなたは美しさに磨きがかかり、すでに男性が放って置けないほど魅力的なルックスを手に入れていることでしょう。しかも、「恋愛以外で”きゅんきゅん”」したことによる成果は、ルックスのみに現れるわけではございません。日常的に”きゅんきゅん”しておくことで、「”きゅんきゅん”アンテナ」が敏感に作動するようになります。すると、これまで見逃していたような些細なことにもどんどん心が反応するようになるのです。すると、どんどん女性ホルモンが出やすい状態になり、さらにあなたの綺麗は加速。最終的には、現実の男性に恋・・・。そしてもっと綺麗、間違いなし♪いかがでしたか?好きな人がいなくても、女性ホルモンを分泌することは可能です。だから諦めずに、ホルモンの力を借りてどんどん綺麗になってしましょう!!ホルモンを分泌することで、綺麗になるのみでなく恋まで出来てしまうかも?!
2017年02月18日*画像はイメージです:月2日に最終回を迎えた、ドラマ『黒い10人の女』(日本テレビ系列)面白かったですね。脚本を芸人のバカリズムが担当したことでも話題となりましたが、船越英一郎さんが演じるTVプロデューサーの主人公・風松吉が、妻がいながらも9人の女性と不倫をしているという愛憎劇な設定が爽快でした。今回は、この主人公、風松吉がドラマ終了後の時間軸で、もし誰かと再婚し、新しくできた愛人に全財産を遺言で贈与(包括遺贈といいます)して亡くなったらどうなるか、というケースを考えてみましょう。 ■よくある誤解~遺言で全財産を包括遺贈されたらすべてお終い~個人は死後の自分の財産の行方についてもその意思で自由に決することができます(遺言自由の原則)。今回の風松吉のケースでも、風松吉は全財産を愛人に「包括遺贈」することは可能です(民法964条)。包括遺贈されてしまったらすべてお終いで、松吉の妻は何の手も出せない、という誤解が世間にはあります。「包括遺贈」…たとえば,遺産の100%を人や法人に対して遺言で贈与することしかし、本当にそうなのでしょうか?松吉が亡くなった後も、松吉の妻は生活していかなければなりません。松吉の遺言を文字通り貫徹した場合、松吉亡き後の妻は路頭に迷ってしまうという不都合が生じてしまいます。このような不都合を許してまで松吉の意思を尊重すべきなのでしょうか? ■民法は相続人を見捨てない~困った時の遺留分減殺請求権~民法は、松吉の妻のような相続人を見捨てません。相続人の生活の安定及び財産の公平な分配を図るために、民法は、亡くなった人(「被相続人」といいます)の贈与や遺贈に対して制限を加えています(遺留分制度)。そして、その制限が加えられた持分割合のことを「遺留分」といい、相続後相続人が遺留分の額をもらえないときに、亡くなった人から財産をもらいすぎた人に対して「もらいすぎた分を返せ」と請求することができます。これを法律用語で遺留分減殺請求権(民法1031条)といいます。話が抽象的でわかりやすくなってしまいましたね。亡くなった人の財産を円形のピザにたとえて説明しましょう。遺留分制度がなければ、松吉は円形のピザを全部愛人に包括遺贈することができます。しかし、遺留分制度があるおかげで、松吉の妻は、遺留分減殺請求権を行使し、ピザを2等分した場合の一切れ分(2分の1)を愛人から取り戻すことができます(松吉と愛人との間には子どもがいないこととします)。 ■弁護士から一言被相続人の妻や子どもで本来財産をもらえるはずなのに、被相続人の遺言で相続財産をゼロにされた方は、ぜひ弁護士鈴木謙太郎までご相談ください。今回は、遺留分制度の基本的なお話をしました。次回は、遺留分減殺請求権を行使された方の立場にたって、遺留分減殺請求権に対して反論する方法をお話したいと思います。 *著者:弁護士 鈴木謙太郎(1972年の設立以来40年以上の歴史がある、虎ノ門法律経済事務所の池袋支店で支店長を務める。注力分野は遺産相続、不動産取引、交通事故、債権回収、労働問題、債務整理、刑事事件、離婚等。「皆様の人生の一大事を共に解決するパートナーとして、真摯に業務に取り組んでまいります。」)【画像】イメージです*Rocketclips, Inc. / Shutterstock
2016年12月06日彼との付き合いが長くなると、どうしてもマンネリ気味に…。マンネリ気味になれば、トキメキやドキドキも急激になくなってしまいます。そんな時は、男性のセクシャルな気持ちに火をつけるのが手っ取り早い方法。彼に「抱きたい女」として認識してもらう事で、あなたを追わせる準備をさせるのです。今回は、彼氏の“抱きたい女”に変わる3つの方法を伝授します。どうして彼氏に「抱きたい」と思わせなくてはダメなの?男性は、太古の昔から「狩をして生きる」動物です。ターゲットを追い、捕まえることで達成感を味わって生きてきました。現代社会でも、男性には「狩をする本能」が眠っていて、仕事を追ったり、夢を追ったり、女性を追ったりすることでその気持ちを満たしていると言われています。男性は、この「追う」という気持ちがなくなると、そのターゲットに興味が全くわかなくなります。どんなに好きだと思っていた女性であっても、一度手に入り、追う必要が無ければだんだんと興味が薄れ愛情も薄れてしまうのです。マンネリを打破するためには、彼氏の“抱きたい”という気持ちを奮い立たせ、その気持ちをもて遊び、追わせるという努力をしなければいけません。男性は、抱きたいと思えば優しくなりますし、何とかして口説き落とそうと考えます。それは、付き合っている女性に対しても同じ事です。彼氏の思い通りに体を開いていては、いつまでもマンネリから脱出する事は出来ません。“抱きたい女”に変わる3つの方法1.香りで誘う男性は女性に奥ゆかしさを求める生き物です。いくらセクシーな女性を見ても、あまりにもガツガツしている雰囲気をかもし出されるとドン引きしてしまう人も多いようです。そんな時、香りは良いスパイスになります。すれ違った時にふわっと香る甘い匂いや、お風呂上りの石鹸のような香りにムラムラする男性は少なくありません。「触りたい…でも。。」という戸惑いに似た気持ちを香りという武器を使って誘う。「しよう」とストレートに言うよりも、香りで誘うほうが何倍も男性は抱きたい気持ちになるようですよ!2.フワフワの肌美容液などの化粧品で、顔のお手入れをする女性は多いですが、男性が求めるのは体全体のフワフワ感です。太もも、二の腕、首元など、柔らかく吸いつくような肌を好む男性は多いみたい。ムダ毛処理の後のブツブツ、ザラザラは論外。二の腕のブツブツもガッカリという男性いるので、体のケアは顔だけじゃなく、全体に行いましょう。お付き合いが長くなると、怠け心が出てきて手入れが雑になりますが、トキメキを求めたいのなら、細かい部分まで手入れを怠らないように注意したいですね!3.言葉じゃなく目で語りかけるある女性は、マンネリを脱出するために言葉を少なめにしたのだとか。彼氏を見つめる時に「抱いて」「エッチしたい」という気持ちを持ちながら見つめるのが良いみたい。そうすると自然に目に色気が出て男性をその気にさせる事が出来たとの事。確かに、セクシーなムードを作る時にガチャガチャと喋られ続けたらゲンナリですもんね。しっとりとした目で彼を見つめる、おしゃべりを少し控えてみるというのも男性を「抱きたい気持ち」にさせるのには必要な事なのかも。目は口ほどに物を言うと言われますが、視線の魔力で彼氏を虜にしてみましょう。今回は、彼氏が抱きたい女に変わる3つの方法をご紹介しました。マンネリは、どのカップルも通る道です。でも、ここを乗り越えるとお互いに愛が深くなり、お付き合いの質も深まります。彼氏といつまでもラブラブでいるために。彼氏に自分を追わせる努力をしてみましょう。努力は絶対に報われます。
2016年11月16日「君は一人で生きていけるよ」「キミなら大丈夫」「キミって、俺がいなくても生きていけそうだね」そんな風に男に告げられてしまったら女はきっと腑に落ちないはず……。「ひとりで生きてけると男が思う女こそ本当は脆くて弱いのに……」「おっとりしてる女性や弱そうに見える女こそが本当は腹黒いことを男が見抜いてないだけよ」「見かけに騙されてる男ってバカね」などと反論したくなるはず。「顔で笑って心で泣いて」「強がってるだけで人知れず涙を流してるのに」……そんないじましい女の気持ちも知らずに“強い女のレッテル”を貼られるなど心外なことである。だが、男性にそんなセリフを言わせてしまうのは女性の方にももしかしたら原因があるかもしれないのだ。今回は「キミならひとりで生きてける」と男が言ってしまう理由を追求してみた。理由1・コンプレックスを感じたとき・「学生時代から付き合っていた彼女にこのセリフを言って別れたことがあります。その彼女は学生時代から成績もよく就職先も俺なんかよりいいところに決まりました。当時は仕事帰りに待ち合わせて飲みにいくといつも彼女の方が遅刻。責任ある仕事を任されイキイキしてる彼女を心の底から応援できてない自分がいました。収入もポジションも上がっていく彼女を見るのはキツかったし情けなかった。下らない男の嫉妬ですね。でも今の年下の彼女には自分が教えてあげられることも沢山あるし持ち上げ上手なので俺がコンプレックスを感じることはありません」(40代・金融) ……年が離れていれば比べる必要のないことだとしても同世代や年が近いとなれば話は別。異性だろうが恋人同士だろうが相手を“ライバル視”してしまうこともあるだろう。能力や収入の差を見せつけられたくないのが男というもの。男は“できすぎた彼女”を持つと焦りや嫉妬心が生まれ、自分の非力さを感じてしまうのだ。理由その2・彼女がリア充過ぎる・「彼女はいつも楽しそうだった。明るく社交的で友達が多くてみんなに信頼されている彼女が僕にはまぶしかったけど、実際付き合ってみたら彼女が俺と付き合う必要のないことに気づいた。『いつ暇?』とデートに誘っても返信は遅いしなかなか決まらない。顔が広く予定がつまりすぎて忙しい彼女に『この日空いてる?』と聞くのも気が引けてきた……」(30代・メーカー)・「男友達の話をする彼女に段々“俺なんかといるより男友達といるほうが楽しそう”と思えてきて『俺、いらなくね?』と言ってしまった」(20代・Webデザイナー)……趣味や友達が多くていつも忙しい彼女。メールやLINEのレスが悪い、連絡がマメでない彼女。デートの日程調整をするのはいつもオレのほう……。恋人より友達を優先するような男前な女は「俺がいなくてもいっか」となってしまう。“男にベッタリ気質の重たい女などゴメンこうむりたい”“男に依存しない自立した女性のが良い”とはいっても物事なんでもバランスが大事。自分がついていなくてもいつも楽しそうにしている彼女に対し心のどこかで寂しさを感じてしまうのは当然のこと。男が「俺がいなくても、コイツは自分の人生を楽しんでいけるだろう」とひとたび思えばその女性の人生に寄り添う必要などない。理由その3・彼女より他の女性を守りたくなったから・「彼女がいたのに彼女とは真逆の別の女性に惹かれてしまう自分がいた。なんか儚さや憂いを感じるその女性をほっておくことができずについ彼女に『A子は一人でも大丈夫だけど、あの人は違う……』と口走ってしまった。彼女には『ひどいっ!あなたは私のどこを見てきたの?なんで私が彼女より強いなんて決めつけるの?』と責められたけど……でも自分の心騙してまでA子と付き合い続けるのも苦しかったからこれで良かったんだと思う」(30代・公務員) ・「部下の子がすごく自分を頼ってくれてよく相談事をされていた。仕事帰りに飲みに行く回数も増えて当時の彼女から『なんでそんなに飲みにいくワケ?おかしいよ』などとギャンギャン責められるようになって『キミは強いから一人でも生きていけるだろうけど、あの子は俺が居ないとダメなんだよ』と言ってしまった」(40代・会計事務所) ……女性に母性があるように男性には庇護欲が存在する。男性は現時点で彼女がいようといまいと「困っている女性」や「頼ってくる女性」がいたら「そばにいてやりたい」「助けてあげたい」という感情にかられるもの。またそんなか弱き女性(女から言わせれば男に媚びるのが上手い女性)に惹かれてしまうのは自然の流れといえる。なぜなら守ってあげたくなる女性はその男の“ヒーロー願望を満たすことができる”のだ。人に頼らずなんでも自分でできるしっかり者の彼女を持っていると男はその女のヒーロにはなれないのだから……。理由その4・自分本位でワガママな彼女に疲れたから・「美人で社内でも評判の彼女に猛アタックしてオッケーが出たのはいいが、彼女は俺が惚れてるという弱みにつけこんでワガママ放題……。彼女にさんざん振り回され超疲れた。『別に俺じゃなくてもいいよね?』と言って別れた」(30代・貿易)・「自由奔放な彼女は俺より自分が一番好きなんだ。間違いない!と感じたから『キミは一人で平気だよ』と言ってサヨナラした」(30代・エンジニア)……「これまで男を切らしたことがない」「男にチヤホヤされてきた」「あの男は私のことが好きで好きで仕方ないハズ」と自分に自信のある女性は要注意!! 自分が優位にたっているからと彼を軽んじていないだろうか。傲慢さが出ていないだろうか? 自分を強く出しすぎたり、主張する女性に辟易したとき男は「キミならひとりでやってけるよね」とサジを投げるのだ。 【「キミならひとりで生きていける」と言わせないために……】 「君は一人でも十分生きていける人だね」 男がそう告げるとき、“男のプライドが傷つけられたから”他ならない。「もっとオレに頼ってくれてたら」「オレを認めてないよね」「オレはキミには必要ないみたいだね」「オレじゃなくてもいいんだろ」彼を卑屈にしてしまうのはあなたが彼を蔑ろにしているせいなのだ。男は決してか弱い女性をより好んでいるわけではない。自分を必要としてくれる女性を選びとっているのだ。あなたがはたから見てなんでも一人でできてしまえば彼は一緒にいる必要性を感じられず男としての自信を失うだけである。「オレは必要とされてない」でなく「オレは必要とされている」と彼に感じさせることができれば「キミは一人でもやっていける」……という男からの死刑宣告を受けることはないのだ。体験型恋愛コラムニスト・神崎桃子
2016年09月29日「女を武器にする女性」と聞いて、みなさんはどのような印象を抱かれますか?嫉妬心からなのか、よくないイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。でもそれは何故なのでしょう?自分がタブーとしていることを堂々と成し遂げて、得をしているように見えるのが悔しいからなのではありませんか?もし、強い嫌悪感や反発心を持っているなら、それは彼女たちから学ぶべきことがあるというサインなのかもしれません。そこで今回は、自分らしさを保ったまま彼女たちのよい部分だけを上手く取り入れる方法をご提案します。「ボーダーライン」を理解している女性らしい服装や仕草を意識して女性らしさを前面に出すのが「女を武器にする女性」ですが、この根底には「使えるものは使おう!」という合理的な考えがあります。例えば彼氏に何かお願いごとをするとき、いつもよりちょっと女性らしい声になってしまいませんか?同じ頼みごとでも、可愛くお願いされたほうが男性も気分よく力を貸してくれます。それを本能的に知っているからこそ、無意識で女性らしい声になってしまうのです。彼氏だけにこうした「女の武器」を使うのか、好きじゃない男性にまで使うのか、どこまでがOKでどこからがNGなのかというボーダーラインは人によって違います。好きじゃない男性相手に気のある素振りくらいならいくらでもできるけど、体の関係を持つのはNGとか、女を武器にして欲しいものを手に入れている女性たちはボーダーラインを上手に守っています。女の武器を使ってもいい相手を見極めれば、彼女たちのように合理的に生きていけるのではないでしょうか。客観視できる彼女たちが選ぶ女性らしい服装や髪型は、自分の好みだけでなく男性ウケを考慮したもの。彼女たちにとってワンピースやピンヒールは、人間関係を円滑にし、物事を自分の思うように運ぶための制服なのです。自分が人からどう見られているか、何を求められているかを常に冷静に俯瞰して見ているからこそ、なせる業なのではないでしょうか。しかし彼女たちとは反対に、女芸人さんのように同性ウケに徹して成功されている女性もたくさんいらっしゃいます。男女両方から好かれるタイプの女優さんやタレントさんもいらっしゃいますよね。ですから必ずしも思わせぶりな言動やセクシーな服装を真似る必要はないのです。学ぶべきポイントは、自分が他人からどう見られていて、どういう人たちからウケがよく、どういう方向に傾倒すればより力を発揮できるのかを冷静に考える力、つまり客観視する力なのではないでしょうか。自立している本当の意味で女を武器として使えている女性は、自立しているからこそありのままの自分を丸ごと相手に委ねるのではなく、相手が望む女性像を演出して物事を思うように運ぶことができるのです。例えば、セクシーな容姿や仕草でルパンを魅了し、自分の望みを叶える峰不二子は、女を武器として使えていると言えるでしょう。ポイントは主導権が女性側にあるということです。男性側がそれに気づいてないケースも多いですが。自立している女性は、上述したボーダーラインを崩すことはありません。最も見習うべきポイントですよ!自分らしくない言動を無理に真似る必要なんてありませんが、彼女たちの持ついい部分は参考にしてみてはいかがでしょうか。表面的な振る舞いではなく、人の本質的な部分に目を向けることで、女性としての幅がぐっと広がることもあると思います。
2016年09月26日