映画界に多大な貢献を果たした映画人を称えるアカデミー賞名誉賞の受賞式が8日(現地時間)にロサンゼルスで開催され、宮崎駿監督が表彰された。日本人としては、1990年に受賞した黒澤明監督以来24年ぶりとなる。『千と千尋の神隠し』がアカデミー賞長編アニメーション賞を受賞した際も、『ハウルの動く城』『風立ちぬ』が候補になったときも渡米しなかった宮崎監督が出席するとあって、授与式には世界の注目が集まった。宮崎監督のプレゼンターを務めたのは、1987年から親交のあるジョン・ラセター監督。妻のナンシーさんと出会った翌日に『ルパン三世カリオストロの城』の抜粋映像を見せたことがきっかけで結婚に至ったエピソードを語り、作品には「アドベンチャーとハート、アクションとユーモアがあった。洗練された独自のスタイルと、人間の行動に対する素晴らしい観察眼があった」と絶賛。「宮崎作品を観るたびに、映画作りについて新たに学んでいる」と語った。オスカー像を受け取った宮崎監督は「私の家内が、お前は幸運だとよく言います。一つは、紙と鉛筆とフィルムの最後の時代の50年に、私がつきあえたことだと思います。それから、私の50年間に、私たちの国は一度も戦争しませんでした。戦争でもうけたりはしましたけれど、でも戦争をしなかった。そのおかげが、僕らの仕事にとっては、とても力になったと思います」と語った。そして、一緒に名誉賞を受賞した94歳の女優、モーリン・オハラに会えたことについて、「これはすごいことです。こんな幸運はありません」と顔をほころばせた。実は73歳の宮崎監督は今回の受賞者の中で最年少。アイルランド出身で94歳のモーリン・オハラのほか、『昼顔』などルイス・ブニュエル作品や大島渚監督の『マックス、モン・アムール』などを手がけたフランスの脚本家で83歳のジャン・クロード・カリエール、人道的活動で知られる映画人を称える「ジーン・ハーショルト人道賞」は87歳のハリー・ベラフォンテが受賞した。(text:Yuki Tominaga)
2014年11月11日スタジオジブリに1年間密着した『夢と狂気の王国』の砂田麻美監督が取材に応じ、昨年、引退を表明した宮崎駿監督について「世界的な巨匠といわれる人でありながら、毎日規則正しい生活のなかで『いつか才能が枯渇してしまうのではないか』という恐怖と向き合いながら、常に最高のコンディションを維持しようとしていた。努力にもさまざまな“質”がありますが、最も質の高い努力を見せてもらった気がします」と語った。『エンディングノート』で一躍注目を集めた砂田監督が、宮崎監督の最後の長編アニメ『風立ちぬ』の製作過程を軸に、スタジオジブリの日常と、作品づくりに関わる人々の苦楽と葛藤を紡ぎだす。公開時の宣伝コピーである「ジブリにしのび込んだマミちゃんの冒険。」が示す通り、単なるドキュメンタリーの枠組みを超えた、ジブリという王国をめぐる冒険譚に仕上がった。「ジブリはとても自主性を試される場所。撮影に入る前は、すごく細かいルールがあると思ったんですが、実際には真逆でカメラを持った私は“放し飼い”状態でした。鈴木さん(鈴木敏夫プロデューサー)に、宮崎監督の部屋に行くタイミングを尋ねても『なんで俺に聞くの?』って」(砂田監督)。ただ、制約がほとんどない状況だからこそ「本当に撮るべき瞬間を逃したくないので、逆になるべくカメラは回さないようにした」といい、「たくさん(素材を)撮ればいいかといえば、そんなことは全然ないので…。もちろん、宮崎監督に密着できる機会はとても貴重なので、撮りたいという気持ちとの戦いは常にありました」と葛藤を明かす。宮崎監督の引退表明を機に、スタジオジブリは大きな転換期を迎えている。「でもこの作品を2012~2013年という時期に撮った意味や価値がわかるのは、もっともっと後のことだと思います。私はもちろん、宮崎監督もジブリの皆さんも最後だなんて考えずに、ただ一生懸命に自分の仕事をこなしていましたから。私自身は今の時代の人だけではなく、自分がいなくなった後の人たちがジブリを、そしてこの時代をどう観るのかなという点をすごく意識して、作品を完成させたつもりです」。『夢と狂気の王国』発売中発売元:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパンレーベル:ジブリがいっぱいCOLLECTION スペシャル取材・文・写真:内田 涼
2014年05月21日現在大ヒット公開中の映画『風立ちぬ』を最後に引退表明した宮崎駿監督が6日、都内で記者会見を行い、引退について説明した。過去にも引退をにおわす発言があった宮崎監督だが「何度も言って騒ぎを起こしてきた人間なので、『まただろう』と思われているけれど、今回は本気です」とキッパリ。理由としては高齢を挙げて「年々机に向かっている時間が減っていくことは確実で、加齢による物理的なことにイラ立っても仕方がないけれど、長編アニメは無理だと判断した」と明かし「僕の長編アニメーションの時代は終った」と自らで終止符を打った。気になるのは今後のスタジオジブリの行く末だが、宮崎監督は「上の重しがなくなるんだから、『こういうものをやらせろよ』という声が挙がる事を期待しています。それがないとダメでしょうね。僕らは30代のときも40代のときも、やっていいんだったらなんでもやる、という気持ちで企画を抱えてきました。それを持っているかどうかでしょう」と若手たちに発破をかけた。なお今後ジブリ作品に宮崎監督がタッチすることはないという。1984年の映画『風の谷のナウシカ』では熱狂的ファンを生み出し、創立に参加したスタジオジブリで『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』『魔女の宅急便』『もののけ姫』などの名作を生み出してきた宮崎監督。「そもそも僕は児童文学に影響を受けてこの世界に入った人間。基本的には、子供たちに対して『この世は生きるに値するんだ』という思いが根幹になければいけないと思ってやってきました。それは今でも変わりません」と諸作品にかけた思いを語った。これまでの監督人生を振り返って「監督になって良かったと思ったことはないですね。アニメーターになって良かったと思うことはありました。監督は(劇場公開という)最後の判決を待たなければならないので、胃によくない」と苦笑い。続けて「監督をやっている間も、アニメーターとしてやっていましたね。トンチンカンなことを言ったり、テレビや最近の映画のことも知らない僕を、鈴木プロデューサーが補佐してくれたお陰でやり切れた。孤高を保っている監督ではまったくありませんでした」と支えてくれたスタッフたちに感謝していた。今後については「やりたいことはアニメーションではない」といい「ジブリ美術館の展示物が色あせたり、描き直さなければいけないものもある。自分の筆やペンで描かなければいけないものなので、時間ができたらボランティアでやっていきたい。自分が展示物になりそうだけれど」とニヤリ。最後は「長い間色々とお世話になりました。もう2度とこういうマネはしないと思います」と笑顔で会場を後にした。宮崎監督は1941年1月5日、東京出身で現在72歳。東映動画でアニメーターとして活躍した後、映画『ルパン三世 カリオストロの城』で長編映画監督デビューを飾る。原作・脚本・監督を兼ねた1984年の映画『風の谷のナウシカ』で熱狂的ファンを生み出し、創立に参加したスタジオジブリで『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』『魔女の宅急便』『もののけ姫』などの名作を生み出す。2001年の『千と千尋の神隠し』では、アカデミー賞長編アニメ賞やベルリン国際映画祭金熊賞など世界的な賞を受賞した。現在公開中の『風立ちぬ』は、零戦設計者として知られる堀越二郎の半生と同時代の作家・堀辰雄による小説をモチーフに、戦中を生きる2人の男女の姿を描いたドラマで、今週末の映画観客動員ランキングでは7週連続でNo.1。これまでの興行収入は約88億円を記録している。この日の会見にはテレビ70台、200媒体、外国メディアは13カ国、総勢605人のマスコミが集まった。会見は約1時間30分ほど行なわれた。
2013年09月06日1991年に悪人会議プロデュースとして上演され、1998年には日本総合悲劇協会公演として再演、演劇界を超えてカルチャーシーンに衝撃を与えた松尾スズキ(作・演出)の『ふくすけ』。薬剤被害や宗教ビジネス、テロ行為に没入する人々など、世紀の変わり目を経てなお“今の物語”であり続け、生温かいヒューマニズムをも笑いつくす伝説的作品だ。実に14年ぶりの再々演となる今回は、古田新太や多部未華子、大竹しのぶら豪華メンバーに、阿部サダヲ、皆川猿時、平岩紙ら大人計画の劇団員も出演する最強のキャスティング。某日、宣伝写真撮影中の都内のスタジオで松尾の話を訊いた。『ふくすけ』チケット情報スタジオに到着すると、ちょうど古田が撮影中。劇中ではさえない中年男を演じる古田だが、撮影は作品自体のビジュアルイメージということで、ネックレスを胸元にチャラチャラと光らせた服装で不敵に立つ。見ている松尾から思わず「脂が乗ってるよね」という言葉が漏れ、その圧倒的な存在感にスタッフ全員が引き込まれる。次に衣裳を身につけた阿部がフラリと現れ、スタジオの中央へ。指の爪をかじりながらカメラに視線を向ける様子はどこまでが阿部自身で、どこからが阿部が演じるフクスケなのか分からないほど。キュッと細められた阿部の瞳を見ているうちに、本番で見られるであろうフクスケの物語が俄然楽しみになってきた。今回のキャストについて松尾に訊くと、「あえての地味な男の役を見たかった古田さんに、絆と尊敬を感じている大竹さん。毒々しい舞台に透明感を放ってくれるであろう多部さんと、理想のキャスティング。あとは、フクスケの哀しみを出せるのはこいつしかいねぇな、と阿部(笑)」との答えが返ってきた。その最強キャストで迎える14年ぶりの上演については「初演はバブル景気の頃で、世の中の浮かれ気分に対する20代の自分の“怒り”を込めて作っていたんです。でも今は状況が違う。日本全体が不景気だし、発散しきれない怒りや諦めとかで覆われてるでしょう。実は前回、30代後半で再演した時に、初演とは別の手応えを客席から感じたんです。“怒り”って人間の根源的な部分だと思うし、年代によっても感じ方は違ってくる。だから40代最後に演出する今回、『ふくすけ』を通して感じられる怒りを普遍的なものとして受け止めてもらえるかどうか。それを見極めたいという思いがあります」と語った。生の舞台はリアルと地続きだからこそ、そのときどきに形を変える。本作が常に“事件”であり続ける理由を、ぜひ劇場で確かめてほしい。公演は8月1日(水)から9月2日(日)まで東京・Bunkamuraシアターコクーン、9月6日(木)から13日(木)まで大阪・イオン化粧品シアターBRAVA!にて上演される。なお、チケットは東京・大阪とも6月3日(日)10:00より一般発売開始。また、チケットぴあではWEB先行抽選を東京公演は5月24日(木)11:00まで、大阪公演は5月23日(水)11:00まで受付中。取材・文佐藤さくら
2012年05月22日