気品に満ちたエレガントなスタイルと、演劇の国ならではの心を揺さぶる物語バレエで世界を魅了し続ける英国ロイヤル・バレエ団が、この夏4年ぶりの日本公演を行う。プリンシパルの高田茜にとっては、同団の日本公演に初主演する特別なツアーとなる。「いま純粋に、踊ることが楽しいと思えるんです」と輝くばかりの笑顔の高田。前回の日本公演は主演が決まっていたものの、怪我で断念。その翌年、コロナ禍が世界をおそった。踊れない、苦しい時期は長かったはずだが、「年長のダンサーの中には、残りのキャリアを諦めて退団した人も。その人たちの気持ちも大事にしたいですし、バレエ団の皆も、一丸となって、一つひとつの舞台を大切に踊ろうという気持ちがより強くなりました」と話す。2016年にプリンシパルとなって以来、古典から現代振付家の作品まで多彩なレパートリーに取り組んできた。「小さい頃から踊りたいと思っていたケネス・マクミランの全幕作品は、夢の一つでした。とくにジュリエットは、コール・ド・バレエの頃からいろんなダンサーの舞台を見て憧れていたんです」。今回の日本公演で上演される『ロミオとジュリエット』のヒロインだ。敵対する家の子供同士が、愛し合い、ほんの数日間で死へとひた走る悲劇を、英国バレエの巨匠、マクミランがドラマティックに描き出した歴史的傑作。高田は2019年に、そのヒロインを踊るチャンスを得た。「物語の舞台となったあの時代、女性が自分を表現できる場はなかった。だからこそ、ロミオと恋することによって彼女はどんどん解き放たれていく。そう感じながら演じていました」。演じるダンサーによって、ジュリエットの個性、その魅力はさまざまだ。「私自身がシャイなほうなので、前回は内向的なジュリエットだったかもしれません。あれから4年経って、私にもいろんなことがありましたから、次に演じる私のジュリエットがどんなふうになるのか、楽しみでもあります」。日本公演では、7組のスターたちが日替わりで主役カップルを演じるが、「そこがまたロイヤルのすごいところ。ダンサーそれぞれの個性、その違いもぜひ楽しんでいただきたいです」。日程前半に上演される〈ロイヤル・セレブレーション〉でも、バランシンによる傑作『ジュエルズ』より“ダイヤモンド”を踊る予定だ。公演は6月24日(土)から7月2日(日)まで、東京文化会館にて。チケットは発売中。※大阪公演7月5日(水)、姫路公演7月8日(土)あり。文:加藤智子
2023年02月08日2018年のトニー賞10部門を制したミュージカル『バンズ・ヴィジット』の日本版初演が2023年2月7日(火)から日生劇場で開幕。初日を前にした6日(月)、プレスコールと会見が行われた。ミュージカルエジプトのアレクサンドリア警察音楽隊がイスラエルの空港に到着するところから物語は始まる。彼らはペタハ・ティクヴァのアラブ文化センターで演奏するようにと招かれたのだが、いくら待っても迎えが来ない。楽隊長のトゥフィーク(風間杜夫)は自力で目的地に行こうとするが、若い楽隊員のカーレド(新納慎也)が間違えたのか、彼らの乗ったバスは、目的地と一字違いのベイト・ハティクヴァという辺境の町に到着してしまう。一行は街の食堂を訪れるが、もうその日はバスがない。演奏会は翌日の夕方。食堂の女主人・ディナ(濱田めぐみ)は、どこよりも退屈なこの街にはホテルもないので、自分の家と常連客イツィク(矢崎広)の家、従業員パピ(永田崇人)と店に分散して泊まるように勧めて──。国も宗教も文化も違う、遠い隣の国であるエジプトとイスラエル。たった一晩、二つの民族が日常の中で交わり、溶け合っていく。ストーリー上、何も大きな出来事はない。それでも場面場面で感情が動かされ、旅先で出会った見知らぬ人と通じ合った日々を懐かしく思ったし、観劇後は長い旅を終えたような高揚感と切なさを感じた。本作の最大の魅力はやはり音楽。警察音楽隊が芝居をしながら舞台上で生演奏を繰り広げるのだが、いわゆる歌唱曲以外にも、場面転換の際に流れる音楽もしっかり聴かせる演出。民族音楽やジャズ、即興演奏を得意とするヴァイオリニストの太田惠資、サックス・クラリネット奏者としてフリー ジャズを中心に幅広い分野の第一線で活躍する梅津和時ら、錚々たるミュージシャンが奏でる音楽にぜひ酔いしれてほしい。トゥフィークを演じる風間杜夫は「いっときも早くお客様の前で演じたい。緊張感もありますけど、初日の幕が開くことを楽しみにしております」と挨拶。ディナ役の濱田めぐみは、本作の楽曲の見どころを問われた際、「稽古場で初めて楽隊の音色を聞いたとき、みんなから拍手が沸き起こった」と生バンドの魅力を伝えつつ、「楽曲は素晴らしいのですが、歌い手側はものすごく難易度が高い。今までやった演目の中でトップクラスで稽古を重ねたぐらいメロディが難しかった」。カーレドを演じる新納慎也。実際にブロードウェイで本作を観た経験がある新納は「あまりミュージカルでは聞いたことない中東の音楽にすっかり心奪われて、すごく癒された」と当時を振り返りつつ、「(日本版の)この真っ赤なセットには驚きました。衝撃的なセットの中で、とても繊細な人々の日常の物語が繰り広げられます。日本人の琴線に触れる演出なのでは」などと話していた。東京公演は2月23日(木・祝)まで。その後、大阪・愛知にて上演。取材・文・撮影:五月女菜穂
2023年02月07日トニー賞6部門とグラミー賞2部門を受賞、2006年にはビヨンセ主演で映画化され大ヒットと、ミュージカル史に輝かしい足跡を残す『ドリームガールズ』。初の「日本オリジナルキャスト版」が2月5日(日)、東京国際フォーラムで幕を開けた。主演は、圧倒的な歌唱力で宝塚歌劇団退団後も話題作に出演が続く望海風斗。さらに福原みほと村川絵梨(Wキャスト)、sara、spi、岡田浩暉、駒田一、内海啓貴、なかねかなら、歌声の豊かさ・表現力共に最強のキャストがそろった。本ニュースでは村川エフィ版のゲネプロの様子をお届けする。1960年代のアメリカ。ディーナ(望海)とエフィ(村川)、ローレル(sara)は、スターになることを夢見てNYにやってくる。コンテストでは優勝できなかったものの、才能を見抜いたカーティス(spi)の手腕で、人気シンガーのジェームズ・“サンダー”・アーリー(岡田)のバックコーラスになった3人。カーティスの強引なやり方にジェームズのマネージャー・マーティが困惑する中、エフィの弟で作曲家のC.C.(内海)と共にヒット曲を連発するディーナたち。だがカーティスがソロデビューの条件として告げたのは、「リードシンガーをエフィではなく美しいディーナに替えること」だった……。望海は都会に出て来たばかりの初々しい様子から、次第にスターの階段を上ってゆくディーナの成長を繊細に表現。真面目な性格だが、いったんステージに立てばまばゆいばかりの存在感を放つディーナ役は、まさにハマり役だ。エフィ役の村川も、歌・芝居共にディーナに一歩も引かない構え。名ナンバー「One Night Only」のシーンをはじめ、陰影ある演技で魅せた。ローレルを演じるsaraもミュージカル界のホープだけに、歌唱力はお墨付き。一番年下の設定ということもあり、弾けるような可愛らしさに目を奪われた。野心のためには汚い手も使うカーティスを魅力たっぷりに演じたspiや、スターの悲哀を鮮やかに浮き彫りにした岡田、プライドに揺れるマネージャーを味わい深く演じた駒田など、男たちの厚みのある佇まいも印象的。作曲家ながらエフィの家族として葛藤するC.C.役の内海、追加メンバーとなるミシェル役のなかねかなまで、全員が圧巻の歌唱力で最後まで駆け抜ける。ショーシーンはもちろん、エフィとカーティスたちが口論するナンバーなども思わず引き込まれて息つく暇もないほどだ。演出は、劇団俳優座の演出家で、外部作品でも丁寧な人物造型が高い評価を得ている眞鍋卓嗣。本作では舞台上に一段高くなった「盆」(回り舞台)を設置し、時には「ステージ」に見立てて、「Dreamgirls」など名曲のショーシーンをたたみかけるように見せてゆく。次々と着替える(舞台上での早替りも!)ディーナたちの華やかなドレス(衣裳:有村淳)にも注目だ。回る「盆」は、きらめく音楽が現れては消えてゆくターンテーブルのよう。エンタメ界の光と影を映し出す『ドリームガールズ』ならではの演出と感じた。取材・文/藤野さくら
2023年02月07日丸美屋食品ミュージカル『アニー』の製作発表会見が2月1日(水)、東京都内で行われた。コロナ禍では公演が中止になったり、1幕に短縮した形で上演したりと厳しい選択を強いられてきた『アニー』が、今回は困難を乗り越え、4年ぶりのフルバージョン上演となる。タイトルロールのアニー役(Wキャスト)を演じるのは、深町ようこ(12)と西光里咲(10)。この日の会見で、オーディションを勝ち抜き見事アニー役に決まったときの心境について、深町は「最初はすごくびっくりして、やるぞと気合が入った。そのあと、楽しみな気持ちと嬉しい気持ちがこみ上げてきて仕方がありませんでした」と笑顔で話す。2人はミュージカル『メリー・ポピンズ』(2022)で同じ役を演じていた経験があり、西光は「ようこちゃんが呼ばれたときは、自分はもうダメだったなと思った」と素直な心境を明かしつつ、「そのあとに自分が呼ばれて信じられなくて。こうして今アニーの衣装を着て、ここにいられることがとても幸せで、感謝の気持ちでいっぱいです」と語った。これからどんなアニーを目指したいか問われると、深町は「初めて観にきてくださったお客様も、今まで観にきてくださったことがあるお客様も最後は笑顔で帰っていただけるような、素敵なアニーになりたい」と話し、西光は「そこにいるだけで空気がパッと明るくなるような、向日葵のようなアニーになりたい」と意気込んだ。ウォーバックス役は、2017年度から21年度までの4年間同役を務め、2年ぶりに戻ってきた藤本隆宏。藤本は「2年ぶりということで改めて『アニー』という作品を見つめ直す機会ができた」と話す。昨年客席から『アニー』を観たことを振り返り、「とにかくキャストのみんなも素晴らしかったし、いかに素晴らしい作品であるかを改めて教えてもらった。客席では感動して泣いている方や笑っている方がいて、カーテンコールで涙を流して拍手をする姿も見た。初心にかえって、しっかり演じていかなくてはいけないと思う。その気持ちを大切に、精一杯2023年版アニーを作り上げていきたい」と熱弁した。この日はそのほか、マルシア、笠松はる、財木琢磨、島ゆいかも登壇し、作品への思いを語った。東京公演は4月22日(土)〜5月8日(月)、新国立劇場 中劇場にて。チケットの一般発売は2月4日(土)10時スタート。松本、大阪、名古屋、新潟でも公演が予定されている。取材・文・:五月女菜穂
2023年02月03日1960年代アメリカの煌びやかなショービジネスの世界を舞台に、女性ヴォーカルグループの栄光と挫折、そして再生を描く『ドリームガールズ』。トニー賞6部門・グラミー賞2部門を受賞し、2006年にはビヨンセ主演で映画化された大ヒット・ミュージカルが、読売演劇大賞で優秀演出家賞を2年連続受賞した演出家・眞鍋卓嗣のもと、初の日本オリジナルキャスト版として上演される。上演を前に、主演・ディーナを務める望海風斗が本作の魅力と舞台にかける意気込みを語ってくれた。2021年4月に宝塚歌劇団を退団した元雪組トップスター。退団後開催したコンサートツアー『SPERO』では5万人を動員。その後、『INTO THE WOODS』『next to normal』『ガイズ&ドールズ』などの舞台に出演し、圧倒的な歌唱力で観客を魅了し続けている彼女だが、宝塚トップスター経験者ならではの葛藤もやはりあるそうで…。「男役でも女役でも“人間をつくりあげていく”過程は同じ。ひとりで劇場の空気感をいかに変えていくかという点でも、宝塚時代の大舞台での経験が役に立っています。ただ、男役として18年間稽古を重ねてきたため、女性役を演じること自体がまだ不自然というか…。自然にやると、つい風を切って歩いたり(笑)、そのあたりは未だに難しいですね」。作品ごとにカンパニーが変わるのも、宝塚時代との違いのひとつと語り、「『next to normal』でチームが違った岡田浩暉さんと今回一緒に舞台に立てるのも楽しみ。明るくエネルギッシュな方なので、熱いカンパニーになりそうです。ゴスペルやソウルミュージックを歌われている福原みほさんのグルーヴも凄いし、皆様にいろいろ刺激を受けてますね」と共演者にも期待を寄せる。制作発表では、エフィ役のWキャスト・福原みほ、村川絵梨、ローレル役saraの4人でテーマ曲『Dreamgirls』を披露。「とにかく音楽が素晴らしく、華やかなステージを観ながら音楽を聴いているだけでも充分に楽しめます。そして本作はヒロインたちが現状を変え、前に進んでいく成長物語。演出の眞鍋さんが『現状を変えたいと思っている人の背中を押せるような作品にしたい』とおっしゃっていたように、観た方にパワーを与えられるような作品にしたいと思っています」。長く愛されている名曲の数々が本作の大きな魅力。「今一番好きなのは『Dreamgirls』ですが、これから歌い込んでいくうちに好きな曲も変わっていきそう」と笑う。子どものときから歌を通して心を通わせるのが好きで、今また改めて「歌には無限の力がある」と感じているそう。その歌声でどんなドラマを語ってくれるのか。2月5日(日)~14日(火)東京・東京国際フォーラム ホールC、2月20日(月)~3月5日(日)大阪・梅田芸術劇場メインホール、3月11日(土)~15日(水)福岡・博多座、3月22日(水)~26日(日)愛知・御園座。
2023年02月02日ブロードウェイミュージカル『MEAN GIRLS』の日本版初演が2023年1月30日から東京建物Brillia HALLほかで開幕する。2004年に米国で制作された映画『MEAN GIRLS』をミュージカル化した本作。18年にブロードウェイで開幕し、同年のトニー賞では作品賞など最多の12部門でノミネートされた。日本版初演となる今回は、数々の海外ミュージカルの演出を手掛けた小林香が演出を担い、生田絵梨花が主演する。アフリカ育ちで16歳のケイディ(生田絵梨花)は、生まれて初めてアメリカに引越し、高校に通うことに。周囲に馴染めずにいたケイディに話しかけたのは、アートフリークのジャニス(田村芽実)とゲイのダミアン(内藤大希)。そして2人から「プラスティックス」という学園の女王様レジーナ(石田ニコル)、カレン(松田るか)、グレッチェン(松原凜子)のスクールカーストTOPの三人組に気をつけるよう告げられて――というリアルな女の子の学園生活を描いたストーリー。初日を前にした29日、ゲネプロ(総通し舞台稽古)と囲み取材が行われた。主演の生田は「作品が始まる前は『ポップでキュートなガールズパワーをお届けしたい』と言っていたのですが、稽古を重ねて、それに留まらない作品のメッセージ性をビシビシ感じています」と話す。「ドロドロしていたり、ブラックだったり、尖っていたり、歪だったり。枠にはまらないいろいろな形を見て『いいな』『自分も自分らしくいたいな』と思っていただけるように、そしてきらきらした気持ちを持って帰っていただけるように、みんなで一丸となって頑張っていきたいと思います」。ジャニス役の田村芽実は「コロナ対策も含めてここまで頑張ってきました。この状況下で幕が開けられることを本当に幸せに光栄に思っています。一生懸命頑張ります」と意気込み、レジーナ役の石田ニコルも「みなさんを引き込んで、楽しませて、あっという間に時間が過ぎるように、私たちも楽しみながら演じたいと思います」と語った。スラングや若者文化がふんだんに織り込まれている作品。上演台本と訳詞も担当した小林は「カルチャーや時事問題の認識がだいぶ違うので、日本のお客様に(脚本の)ティナさんの意図が明快に伝わるように心がけつつ、日本バージョンの翻訳をしました。キャストの皆さんともディスカッションしながら、より分かりやすく伝わるように、改稿に改稿を重ねました」といい、「笑いありノリあり、可愛らしさあり下ネタあり、そして感動あり。ミュージカルの楽しさがいっぱい詰め込まれた作品になっております。ぜひ全身で(作品のイメージカラーである)ピンクを浴びに劇場に遊びに来ていただきたい」。東京公演は2月12日(日)まで。福岡公演は2月17日(金)~19日(日)、キャナルシティ劇場。大阪公演は2月23日(木・祝)~27日(月)、森ノ宮ピロティホール。取材・文:五月女菜穂
2023年01月30日江戸川乱歩 名作朗読劇『孤島の鬼』が、1月24日(火)に東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAにて開幕した。同タイトルの長編小説をベースに、原作では登場しない乱歩作品の探偵・明智小五郎や小林(芳雄)少年が“狂言回し”として劇世界を支える。恋人と友人を立て続けに殺された主人公・箕浦金之助の回想シーンが多くを占める本作の中で異彩を放つのは、金之助に想いを寄せる先輩・諸戸道雄の存在感だ。構成・演出は、声優による朗読劇シリーズを数多く手がけてきた深作健太が続投している。取材日だった初日のキャスティングは、山口智広・神尾晋一郎・井上和彦・青山なぎさの組み合わせ。山口・神尾・青山は白を、井上は黒を基調とする衣装に身を包み、マイクの前に立つ。その背後にはドライフラワーを思わせる植物を束ねた異形の美術が控え、おどろおどろしく得体の知れない乱歩独特の世界観を立ち上げていた。客入れ時から時計の秒針が鳴り響くなど物語の始まりを予感させる演出のもと、4人はゆっくり台本を開く──。殺人事件の真相に迫り死者に報いようとする<箕浦>を演じたのは、山口。たどり着いた孤島で出会った“片輪”の少女<秀代>との邂逅や、タイトルロールである<孤島の鬼>や<諸戸>に翻弄される様子を瑞々しく体現する。神尾は、事件のキーパーソンとも言える<諸戸>のあらゆる葛藤を知的に造形。苦悶の中における妖しい囁きやうめき声にうっとりした観客も多かったのではなかろうか。紅一点の青山は、箕浦の恋人<初代>と<秀代>、そして<小林少年>役など演じた。声色や口調を自在に使い分け、あらゆる役回りを器用にこなして劇世界に貢献する。<明智>と箕浦の友人で殺人鬼の餌食になってしまう<深山木>に扮した井上は、本作の屋台骨ともいえる安定した朗読で作品を支えていた。声のみ出演だった銀河万丈による<諸戸丈五郎>の雄弁さも特筆しておきたい。上演時間は100分強(休憩なし)。公演は1月29日(日)まで。回替わりキャストスケジュールは以下の通り。1月26日(木)19:00=夏川椎菜、松田岳、笠間淳、牧野由依1月27日(金)19:00=重松千晴、汐谷文康、宮地大介、逢田梨香子1月28日(土)13:00=岡本信彦、堀江瞬、鳥海浩輔、久保田未夢1月28日(土)19:00=岡本信彦、佐藤拓也、畠中祐、久保田未夢1月29日(日)12:30=土田玲央、中澤まさとも、高橋広樹、青山吉能1月29日(日)18:00=市川蒼、葉山翔太、山中真尋、逢田梨香子取材・文:岡山朋代
2023年01月26日WAHAHA(以下:ワハハ)本舗全体公演『シン・ワハハ』が、東京・なかのZERO 大ホールを皮切りに全国10会場を6〜8月にかけてツアーする。昨年末、構成・演出の喰始、キャストの柴田理恵、久本雅美、梅垣義明に構想中の想いを尋ねた。ワハハ本舗は2021年に、新型コロナウイルス感染症の影響で公演延期となった『王と花魁』のリベンジを果たした。彼らの持ち味といえば、客席に降りて「ろくでなし」を歌いながら鼻から豆を飛ばす梅垣の芸に代表される“過剰”な客席とのコミュニケーション。これを目当てに訪れる観客も多い中、コロナ禍では“濃厚接触”にあたる得意技を封じられた一同はどうやって笑いを届けたのだろうか──。答えはやはり“客席”にあった。応援団長に扮した久本と柴田が観客全員を立たせ、「独身者や現在のお相手と初婚の方は座って」と指示を出す。離婚歴のある人が目立つ方式だが、二人が「正直によく残った!」「それだけ真摯に向き合った証拠だ!」と褒め称えると、自然に拍手が生まれた。その調子で「尿漏れしてしまう人」「誕生日を誰からも祝ってもらえない人」を客席に立たせたまま残し、全力でエールを贈ることで笑いに変えていく。喰いわく「本人にとってはツラいことでも、他者に笑ってもらって救われることってあるじゃない?そう感じたお客さんの協力で成立したステージでしたね」。『王と花魁』の成功を受け、久本は「制限の中でも、まだやれることはある」と手応えを感じた。柴田も「コロナ前と同じように“参加できるじゃん!”と感じたお客さんの顔がどんどん明るくなってね」と喜び、梅垣も「袖から見ていると、お客さんの気持ちが解放されていることが伝わるの。だって俺、バツ3でエール受け取っていた方から記念写真を求められたよ?気分が上がっている証だよね」と続く。この勢いで生み出す『シン・ワハハ』で、梅垣は「シン・梅ちゃん」に昇華する喰のアイディアが明かされた。同時にオーディションで選ばれた新人3名を含む若手のパフォーマンスから「二代目・梅ちゃん」を観客の投票で決定する案も。加えて本作のコンセプトには「アート」が掲げられ、これまでの全体公演でも観客の評判がよいコンテンポラリーダンスに注力する考えが喰からもたらされた。「すぐ裸になってにぎやかな下ネタで盛り上げるイメージがワハハにはあるかもしれませんが、文学やオリンピックの種目を“踊り”で表現する演目もやっていて。この“バカバカしいのに、どこか知的”って側面も『シン・ワハハ』ではお見せして、何度いらしても楽しいテーマパークのような全体公演にできたら」と語り、インタビューを結んだ。取材・文:岡山朋代
2023年01月26日“降り止まない雨”をテーマに描かれたソングサイクル・ミュージカル「雨が止まない世界なら」in Concert。1月6日(金)に行われた昼公演・夜公演の模様を収めた配信アーカイブが2月17日(金)まで視聴可能だ。ある日降り始めた奇妙な雨がずっと降り止まなかったら、人は何を歌うだろう…。ソングサイクル・ミュージカル「雨が止まない世界なら」は、"雨が降り続ける世界"で、様々な場所から同じ雨を見ている人々のストーリーを描いていく。2021年、コロナ禍に誕生した本作は、ポエトリーリーディング、ワークショップ、コンセプトアルバムを経て、2023年1月に大手町三井ホールでコンサートの開催が実現した。出演は、小此木麻里、昆夏美、咲妃みゆ、清水彩花、清水美依紗、鈴木壮麻、染谷洸太、塚本直、西川大貴、畠中洋、山野靖博、吉沢梨絵、そして雨が止まない合唱団(内海湧真河本雪華小林謙真佐藤孔明二宮伶寧平賀晴)。豪華なミュージカル・スターが集結した本コンサート。『雨に唄えば』を彷彿とさせる晴れやかな楽曲「We’re Singin’ in the Rain」を昆夏美が軽やかに歌い上げたかと思えば、鈴木壮麻が「知ろうとしない」で会場を怪しげな雰囲気で包み込む。西川大貴が歌う「舟を漕ごう」は、雨が止まない世界に新たに出来た職業・水上タクシーの運転手が主人公。ソングサイクル・ミュージカルということで、同じ"雨が降り続ける世界"の中で生きる様々な主人公が登場するのが本作の特徴だ。病室の窓から変わっていく世界に希望を見出す少女の歌「海に潜ったクジラ」では、コンサートながら清水美依紗が演技力溢れる歌声で圧倒。一方、“もう進みたくも変わりたくもないの本音は変わってしまう事が多すぎて”と、急速な周囲の変化に追いつけない気持ちを吐露する楽曲「東京漂流」は、咲妃みゆが涙ながらに力強く歌唱した。コロナ禍での社会の変化はもちろんのこと、世界情勢の変化、SNS等で他人の変化を感じることも多い現代の私たちにとって、本作には他人事とは思えない歌詞が詰まっている。多様な楽曲の中から、自己投影できる一曲が見つかるはずだ。作詞・構成は、ミュージカル『ミス・サイゴン』トゥイ役など俳優としても活躍する西川大貴。作曲・音楽監督はジャズ・ピアニストの桑原あいが務める。また、夜公演では大手町三井ホールのガラス張りのステージを活かし、東京・大手町の夜景をバックに歌唱。景色という自然の演出が加わることで、新たな楽曲の印象が加わることも、本コンサートの興味深い点である。「雨が止まない世界なら」in Concert、配信アーカイブのチケットは2月17日(金)まで販売中。文:齋藤優里花(演劇メディアAudience)
2023年01月24日トニー賞10冠のミュージカルの日本版公演となる「バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊」の稽古場の模様が報道陣に公開され、濱田めぐみが歌う「オマーシャリフ」をはじめ、合計3曲が披露された。カンヌをはじめ、各国の映画祭で話題を呼んだ映画『迷子の警察音楽隊』を原作にミュージカル化し、2018年のトニー賞では作品賞を含む10部門を受賞。イスラエルへの演奏旅行に招かれるも、別の街に到着してしまったエジプトの警察音楽隊が、街の人々と交流するさまを描いており、森新太郎が演出を担当。風間杜夫、新納慎也、濱田めぐみらが出演する。この日、最初に公開されたのは、第1場から第2場にかけてのシーン。空港からバスで目的地に向かうも、一字違いのベト・ハティクヴァという街に到着する楽団。街の住人たちが歌うのが「待ってる/Waiting」である。舞台中央の円形の舞台装置を回転させて、辺境の街で暮らす人々の姿を映し出し、変わらぬ日常を過ごしつつ、新しい何かが起こるのを待ち続けている人々の心情が歌い上げられる。そこへ、変化をもたらす存在として到着するのが楽隊長・トゥフィーク(風間)率いるアレクサンドリア警察音楽隊である。目的地の“アラブ文化センター”はどこかと尋ねるトゥフィークに対し、食堂の女主人ディナ(濱田)は「ここには文化なんてない」と答え、従業員のパピ(永田崇人)、常連客のイツィク(矢崎広)と共に「何もない町/Welcome to Nowhere」を歌う。歴史的な因縁を抱える異国の地での遭難に困惑する楽団員たち。そんな彼らにディナらは手を差し伸べるが…。続いて、披露されたのは、第7場の「オマーシャリフ」。街で一晩を過ごすことになり、トゥフィークはディナに連れられレストランを訪れる。彼女が好きだったエジプトの映画や音楽を介し、打ち解けていく2人。同曲は映画『アラビアのロレンス』『ドクトル・ジバゴ』などの名作で知られるエジプト出身のハリウッド俳優の名を冠し、ディナの西の隣国(エジプト)の文化への憧憬を歌った楽曲。濱田がどこか切なく異国情緒を感じさせるようなしっとりとした歌声を響かせる。その後、警察音楽隊による「Haj-Butrus」の生演奏が始まるが、バイオリンやチェロといった馴染みの楽器に加え、ウードやダルブッカといったアラブ音楽で使われる楽器による生演奏も本公演の大きな見どころである。また、この日は披露されなかったが、風間が濱田と歌うシーンもあるとのこと。“戦乱”がいまなお現実の世界を覆う中で、エジプトの楽団とイスラエルの辺境の街の人々の一夜の物語は我々にどんな希望を見せてくれるのか?完成を楽しみに待ちたい。「バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊」は日生劇場にて2月7日より開幕。取材・文:黒豆 直樹
2023年01月19日オフ・ブロードウェイミュージカル『Ordinary Days』が2023年2月8日(水)から東京・俳優座劇場、2月18日(土)に大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホールにて上演される。登場人物は、眠らない街・ニューヨークに住む男女4人。30代のカップルであるジェイソン(相葉裕樹)とクレア(夢咲ねね)は、互いを想いながらも、ここ最近衝突ばかりでお互いの心が掴めないでいる。一方、アーティストを目指す青年ウォーレン(小池竜暉/中本大賀)は、手書きのチラシを配布する活動をしているが、誰からも見向きもされない。ある日、大学の論文に追われるデイブ(斎藤瑠希/浜崎香帆)のパソコンを偶然拾ったことで2人は知り合い、少しずつ世界が色を変えていく。日々を懸命に生きる4人の人生が思わぬ形でつながっていくーー。今回、ジェイソン役を主演する相葉裕樹は「出演者4人とピアニスト1人で紡ぐミュージカルということで、かなり濃密な作品になると思います。人肌が恋しくなる2月に、恋の悩みやすれ違いといった男女の仲を描いた作品を上演するということで、自分自身もお客さまも“エモい”気持ちになって、きっと共感できる部分がたくさんあるのではないでしょうか」と作品について語る。ウォーレン役を演じる小池竜暉(GENIC)は、今回が初舞台。更には映像作品も含めて、初めて演技に挑戦するといい、「もともと演じることに興味を持っていたので、このお話をいただいたときはすごく嬉しかったです」と素直に出演を喜ぶ。そして「『Ordinary Days』というタイトルにもある通り、日常的な部分を飾ることなく表現している作品。観ているお客さんも『こんなことがあったな』などと自分の姿を投影させられる部分もあると思います」。「自身のかけがえのない大切な時間とは?」という公演のコピーにちなんで、それぞれの「かけがえのない時間」を尋ねると、相葉は「友人と過ごす時間ですね。特別何かをするわけではなくて、ごはんを一緒に食べに行ったり、銭湯に行ったりするだけなのですが、癒されるし、いろいろとリセットできるんです」と話す。一方の小池は「一番は実家に帰ったときです。玄関先で家族が出迎えてくれたり、飼い犬が尻尾をフリフリしている姿を見たりすると、帰ってきたなと思って」と話しつつ、「そのほかは、コーヒーを淹れたり、抹茶を点てたりする時間も。おいしいパスタができたときも」と次々と回答が浮かんだようで、多趣味な一面を覗かせた。東京公演は2月12日(日)まで。脚色・演出は田中麻衣子。音楽監督・ピアノ演奏は落合崇史。翻訳は藤倉梓。チケット発売中。取材・文:五月女菜穂
2023年01月19日岩井秀人が脚本・演出を手がける、PARCO劇場開場50周年記念シリーズ ミュージカル『おとこたち』。すでに歌稽古を始めている岩井とキャストのユースケ・サンタマリアが、現在進行形の想いを語った。岩井が主宰するハイバイによって2014年に初演、2016年に再演された本作が、今回は前野健太による音楽でミュージカルとして立ち上がる。岩井と前野は『世界は一人』(2019年)でタッグを組み、オリジナル音楽劇を創作した経緯が記憶に新しい。劇中で描かれる“おとこたち”4人のおかしくも壮絶な人生は、初演時にNHK総合『クローズアップ現代』で取り上げられ、求められる理想像と現実のギャップに苦しむ男性の生きづらさや幸せについて議論されるきっかけになった。ミュージカル化の経緯を問われた岩井は「音楽があると、観客に届くドラマの感動や衝撃のMAX値や飛距離みたいなものが圧倒的に思えて」とコメント。さらに「これまで『ミス・サイゴン』や『レ・ミゼラブル』のように社会的なテーマのある作品でないとミュージカルは成立しないと思っていましたが、今回のキャストでもある吉原(光夫)さんや(大原)櫻子ちゃんが出演していた『FUN HOME ファン・ホーム ある家族の悲喜劇』(2018年)を観て、話のスケールが小さければ小さいほどミュージカルにする必然性があると感じたんです」と続く。2011年に岩井が作・演出を手がけた「その族の名は『家族』」に出演しているユースケは「岩井くんの演出方法や舞台に込める熱、作品内容……すべて好印象で、またあの感じを味わいたいと思ってオファーを受けました」と信頼を寄せる。そのユースケに岩井が託したのは、人生との距離感がうまく取れない「山田」。共演の藤井隆、吉原、橋本さとしの演じる山田の友人たちが起伏に富んだ人生を送るのに比べて、ドラマ要素の少ないキャラクターだ。「傍観者に徹するしかない山田って、実はいちばん哀しい存在。マエケン(前野の愛称)のつくる楽曲にもメロディが無くてさ」と心なしか淋しそうなユースケ。すると岩井が「山田を除く登場人物には、大きな葛藤を抱え裏切りにも遭うような人生のドラマが盛りだくさん。だからおのずと旋律も豊かになるんです。一方でユースケさん扮する山田の“漂うしかない切実さ”はラップに込めようと思っていて」と構想を語る。これを受け、ユースケは「もうこうなったら“ラップのようなもの”を新しく創作するつもりでやります。僕に求められているのは歌のうまさではなく、きっと“僕にしか歌えない歌”でしょうから」と意気込んでみせた。公演は2023年3月12日(日)~4月2日(日)、東京・PARCO劇場にて。その後、大阪や福岡にも巡演する。ぴあでは東京公演のチケット購入時に座席指定できる。取材・文:岡山朋代
2023年01月16日毎年恒例の「万作萬斎新春狂言」が2023年も1月に開催。1998年にスタートし、連続26年目を数える。91歳の人間国宝・野村万作、2020年に世田谷パブリックシアターの芸術監督を卒業し多彩な活躍をみせる56歳の萬斎、そして昨秋に野村家が狂言修行の卒業論文と例える大曲『釣狐』を披いた23歳の裕基。そんな父・子・孫の狂言三代の舞台を新春に観るという、まさにおめでたさが極まった舞台といえる。お正月にふさわしい華やかな演目を並べて贈る本公演の見どころや意気込みを、萬斎が語った。「万作萬斎新春狂言2023」 チケット情報お正月らしく、しめ縄が飾られた舞台。プログラムは恒例、元旦の朝に祝言として野村家一門で行われる謡初(うたいぞめ)『雪山』から始まる。新春を寿ぎ、居住まいを正して謡われる清々しい5名の連吟。次にそこから裕基が出て、干支の卯歳にちなんだ小舞『兎』を舞う。短い曲ながら、うさぎのように跳びつつ舞う若々しい歳男・裕基の姿を初披露。シリーズ登場は裕基が生まれた1999年の卯歳以来だ。そして好評の萬斎トークへ。軽妙に笑わせつつ、2演目を解説する。そしてまずは『舟渡聟(ふなわたしむこ)』。新婚の聟が手土産に酒樽を持ち舅の家にあいさつへ向かう。その道中、琵琶湖の渡船で船頭に酒を飲み干され、やっとの思いで舅の家に着くと…。「親子で継承してきた野村家の当たり狂言です。私と父で海外公演もやり定番にしてきた曲を、今回はひとつ代を飛ばして父と息子で。聟の若者らしいストレートな演技と老練な船頭や舅のコンビネーション。大団円を迎える最後に、お日様や梅の実、毬など(縁起の良い)丸づくしの謡を謡う。洗練された見応えのある曲です」。休憩をはさみ2幕は『花折(はなおり)』。花盛りの寺で、住職が見習い僧に庭の花見禁制を言いつけ出かける。やってきた花見客たちは垣根越しに酒宴を開いて…。「みんなで謡いつ舞つ、にぎやかな曲で新春らしい華やかなものになっています。最後に狂言の中で最速と言える“道明寺”という素早い舞を舞うのがひとつの見どころ。少し先取りして花見気分を味わっていただきたいと思います」。酒を飲む役をやって25年の萬斎。「エアで酒を飲んでいるのに酔っぱらうようになりました(笑)。大いに盛り上げたいと思います」。そんな中で今回特に注目は万作の得意とする『舟渡聟』の船頭。「父も91歳。元気ですが、三代そろう期間はそう長くはないと。我々が目指す、ひとつの芸境に差し掛かっている父の姿は本当に希少だと思いますし貴重でもあるので、それをぜひご覧いただきたいと思っています」。公演は1月18日(水)・19日(木)、大阪・サンケイホールブリーゼにて。チケット発売中。取材・文:高橋晴代
2023年01月16日アーティストの楽曲をもとにしたオリジナルストーリーを創り、それを豪華声優陣が朗読するという音読stage『Story of Songs』。その第1弾のアーティストとしてORANGE RANGEが選ばれた。あの『以心電信』や『上海ハニー』などの楽曲がどのように表現されるのか、そしてどんな思いを込めているのか。ORANGE RANGEのRYOと、演出を担当する元吉庸泰に話を聞いた。最初に本作の話を聞いたときの印象について、RYOは「僕らとしてはありがたいですし、嬉しい限りです。メンバーはみんな新しいことが好きなので、どうなるんだろうとワクワクしました」と語る。一方、元吉は「アーティスト楽曲を朗読劇にすることはままあるのですが、今回のORANGE RANGEという攻めたチョイスを聞いて、『マジで?』と返したことを覚えています」と笑う。元吉によれば、脚本を担当する3人(三浦香、谷碧仁、福田響志)に、ORANGE RANGEのメッセージ性が強くメジャーな曲で1つ、そしてそれぞれが好きな曲で1つ、計2つずつ脚本を書くように依頼したところ、「奇跡的なバランス」で楽曲と本が決まったという。元吉は「僕としては、『*~アスタリスク~』の楽曲を全体的なテーマとして掲げているのですが、作家が思い思いに書いてくれたことをストレートに空間に投げることができたら、それが正解に近いのではないかなと思っています」と構想を話し、「物語と声優の声と音楽と空間と。まるでプラネタリウムで星を見ているかのような、ラグジュアリーなものになれば」と語った。それに対してRYOは「『papa』や『雨』など、あまりフューチャーされない曲を(劇中曲として)拾ってくれたのが嬉しかったですし、クリエイターの方々が曲を聞いてきてくれたことが感じられて、それも嬉しかったです。続けていてよかったなと思いました」といい、「ORANGE RANGEの曲の可能性みたいなものも見てみたいし、どうなっていくのか純粋にワクワクしています。素晴らしい才能が集結していますから、あとはお客さんと一緒に楽しむだけですね」と期待を寄せていた。全9公演総勢63名の人気声優が登場することも見どころ。元吉は「日本の声優さんは世界に誇るべきものだと思っています。ものすごい量の物語に関わってきているので、それぞれにストックがある。細かい演出をつけるのではなく、思い思いに心を動かしてもらいたいと考えています。心を動かしてもらえれば、その方がたどってきた人生や物語のストックによって変化が生まれて、面白くなると思っています」。【-音読stage-Story of Songs Track1 ORANGE RANGE】は2023年2月8日(水)~12日(日)、ヒューリックホール東京で上演される。取材・文:五月女菜穂
2023年01月13日「ミュージカル『テニスの王子様』4thシーズン 青学(せいがく)vs氷帝」が、1月7日(土)に東京・TACHIKAWA STAGE GARDENで開幕した。2021年5月のお披露目会に始まり、これまで地区予選・都大会と2回の本公演を行ってきたテニミュ4thシーズン。関東大会緒戦の様子が描かれる今回は、青春学園中等部テニス部の主人公・越前リョーマ(今牧輝琉)や部長・手塚国光(山田健登)らの前に、「敗北した者は即レギュラー落ち」という徹底した実力主義の氷帝学園中等部が立ちはだかる。一幕は氷帝による華々しいプロローグで幕を開けた。テニスにすべてを捧げる決意を歌い上げる青学(せいがく)のナンバーで校内ランキング戦が繰り広げられる中で、前回リョーマに敗北して控えとなった乾による得意のデータテニスや、部活に来なくなってしまう桃城の葛藤などが綴られる。テニミュ4thシーズン初参加の氷帝キャストも個性を存分に発揮し、第1試合のダブルスでは向日(小辻 庵)が青学(せいがく)・菊丸(富本惣昭)と華やかなアクロバット対決を披露。宍戸(広井雄士)と鳳(明石 陸)による氷帝“最強”ペア、唯一無二のパワープレイヤー・樺地(栗原 樹)も、都大会を経てさらに力を高めた青学(せいがく)を迎え撃つ。二幕の見どころは、何と言っても両校の部長が激突する第4試合のシングルス1だろう。氷帝・跡部役の高橋は、安定した歌声と名ゼリフ「俺の美技に酔いな」を繰り出し、客席を魅了した。青学(せいがく)・手塚役の山田も魅惑の低音を轟かせる一方で、調子を崩してしまう様子を緩急のある息遣いで表現する。テニスでの死闘はボーカルで表現され、二人の熱い掛け合いが胸に迫った。出場の機会をうかがう控え選手のリョーマ、氷帝の次期部長候補・日吉(酒寄楓太)の動向も見逃せない。ラストのカーテンコールではキャストが客席を降りる演出もあり、駆け回る足音が劇場中に響いた。開幕に際して、青学(せいがく)・越前リョーマ役の今牧は「劇場内は“熱い冬”なので外との寒暖差で風邪をひかないで(笑)」とコメント。青学(せいがく)・手塚役の山田が「普段仲のよい跡部役の(高橋)怜也くんと真正面からぶつかり合う姿を背中で青学(せいがく)部員に見せていけたら」と意気込むと、名指しされた氷帝・跡部役の高橋も「僕たちがいちばん熱い試合を届けるつもりで稽古をしてきたので、その想いを初日にぶつけたい」と受けて立つ。氷帝・日吉役の酒寄は「リョーマに勝つ!という気持ちはもちろん、跡部さんに下剋上する!という気持ちも最後まで持ち続けたいです」と抱負を述べた。東京公演は1月15日(日)まで。大阪・福岡・岐阜と巡演したあと、2月25日(土)〜3月5日(日)に東京・TOKYO DOME CITY HALLで凱旋公演を行う。チケット販売中。取材・文:岡山朋代
2023年01月13日「できるだけお能を身近に感じていただけるように」というコンセプトのもと、子供やお能初心者に向けて大阪市が開催する伝統芸能鑑賞会『みんなでお能を楽しもう』。1日目は「大槻能楽堂で館内ガイドツアー~能楽堂のオモテとウラをご案内」と「はじめての能楽の世界」、2日目は「こどもとたのしむ“お能”の世界」の3プログラムで構成される。この催しに取り組むのは、次代の能楽界を担う20代・30代の若手能楽師たち。その中から、観世流能楽師(シテ方)の上野朝彦、能楽囃子ユニット「ナニワノヲト」の貞光智宣(笛方)・成田奏(小鼓方)・中田一葉(太鼓方)の4人が取材会に参加、それぞれの思いを語った。「伝統芸能鑑賞会 みんなでお能をたのしもう」 チケット情報700年前に作られ、そのまま現在に継承されてきた伝統芸能の能楽。「娯楽多様化の中で、敷居が高くなってきた。能は変えてはいけないものですが、変えていくべきものがある」と話す上野。「能舞台の内側や装束一つ一つにある意味、どんな曲目か、すべて知ってお能を観てもらえれば、きっと感動していただけると思う」。レンタルされる足袋をはき、大槻能楽堂内を解説付きで見学する「ガイドツアー」は、能楽堂ならではの独特の設備や空気感が味わえる貴重な体験だ。「はじめての能楽~」では、能とお囃子の解説から、お囃子(はやし)演奏に質問コーナー、最後に半能『田村』を解説付きで上演する。「年齢層に合わせた解説が必要と思っています。小鼓のきれいな、かっこいい構え方を伝えたい」と成田。参加者は笛の音の聞こえ方を言葉にしたような“唱歌(しょうが)”を歌い、貞光は能管(能の笛)で合奏する。「和楽器の魅力を伝え、日本の音により親しみを持ってもらうために頑張ります」と意気込む。2日目の「こどもとたのしむ~」では、より丁寧な解説にお囃子演奏、能で斬組ミ(きりくみ)と呼ばれる迫力ある斬り合いのシーンも紹介し、最後に解説付きで半能『舎利(しゃり)』を上演。「太鼓の出番が少ない能ですが『舎利』では太鼓が活躍します。自分の国にある音を知らない人が多いので、大切な催しだと思っています」と中田。2プログラムともに舞台上に装束と能面が展示され、写真撮影もOKだ。清水寺で古代の武将・坂上田村麻呂の霊が僧に不思議な力で敵を退治した話をする『田村』、お寺から盗まれたお釈迦様の歯を俊足の神・韋駄天が取り返す『舎利』。「ともにすごく動きのある曲を選びました」(上野)。「お能の舞台には根底に大きな力がある」(貞光)という能の魅力。「これをきっかけにお能が少しでも身近になってもらえたら。みんなの思いが込もった催しです」。「ガイドツアー」と「はじめての能楽の世界」は1月13日(金)、「こどもとたのしむ“お能”の世界」は2月18日(土)、大槻能楽堂にて。チケット発売中。取材・文:高橋晴代
2023年01月12日最もチケットのとれない落語家・柳家喬太郎の独演会。2018年浪切ホール初登場から、毎年落語会を開催。今年11月に還暦を迎える喬太郎師匠にお話を伺いました。「柳家喬太郎 独演会」 チケット情報――独演会お疲れ様でした!大阪のお客様の反応はいかがでしたか?(※2022年12月終演後インタビュー)本日も楽しくやらせていただきました♪ありがたいことに関西に伺う機会も増えまして、以前は"東京の落語"は受け入れてもらえるのかな?と思っていましたが、今は東京も大阪も関係ないと思っています。"東京の落語"に興味があり、聴いてみようと思ってくださるお客様ばかりですので、非常にやり易いです!――2023年は喬太郎師匠もいよいよ還暦。2021年に浪切ホール出演の立川志らく師匠も還暦を迎えられるお一人ですね?もう~還暦なんてイヤになっちゃいますね(笑)。志らく兄(あに)さんとは、年齢は同じですが、芸歴は何年もあちらが先輩です。ただ、志らく兄さんも私も日大出身で、志らく兄さんは芸術学部で、私は商学部。さらに、お互い落研(=落語研究会)に所属していたので、学生時代から知ってるんですよ。当時は「新間(しんま)くん~、新間くん~」って呼んでました。あと、こちらも芸歴は先輩ですが三遊亭白鳥(さんゆうていはくちょう)兄さんも還暦で、昭和38年組なんです。なんとなく一緒に年を重ねられる仲間たちがいるのは、心強いですね。――還暦を迎えるにあたり抱負はございますか?最近時々聞かれるようになったのですが、本当に特にコレといった抱負もなく、"体に気をつける"ということだけです。芸歴ということであれば、2019年に芸歴30周年記念をやらせていただきましたが、60年生きてきたのは本名の自分のことです。落語家としてどうこうよりも、人として今まで以上に益々精進しなければなと思っています。物忘れが増えたり、体力的にもしんどくなると思いますので、その部分は今まで以上に気をつけながら、新作を作ったり、古典も新しいものを覚えたりと、自分を奮い立たせて頑張りたいですね。「柳家喬太郎 独演会」」は、5月20日(土)大阪・南海浪切ホール 大ホールにて開催。チケットは、2月26日(日)10:00より一般発売開始。一般発売に先駆け、1月28日(土)から2月2日(木)までチケット先行抽選プレリザーブの受付を実施。
2023年01月12日あの日、もし違う選択をしていたら……。もう少し勇気を出していたら……。青春時代の初恋と、あったかもしれない未来を、懐かしさとほろ苦さの中に描いていくミュージカル『once upon a time in海雲台』が1月10日(火)に東京・浅草九劇で開幕した。演出は渡邉さつき、出演は山田元、MARIA-E、中村翼、入絵加奈子。物語の舞台は今よりちょっと昔、1992年。東海で日の出の写真を撮ろうと清涼里駅を出発したラ・チョンは、電車に乗り間違え、まったく方向違いの釜山・海雲台へ行ってしまう。戻るにも終電はすでに出ており、電車でチョンと親しくなった女の子、ユン・ヨンドクは始発まで彼に付き合ってあげることに。次第に距離を縮めていく二人だったが、そんな彼らを遠巻きに見ているおばあちゃんと青年がいた。実は彼らは2050年の未来人で、おばあちゃんはこの時間を守る“タイムトレイン旅行ガイド”。青年はタイムトレインの旅行者だが、どうやら何か目的があるようで……。SF的設定と、ちょっぴりレトロな世界観が融合し、誰にでもある「戻りたいあの日」の記憶を揺り起こしていく。キャストはわずか4名ながら、見ごたえ充分。ラ・チョンを演じる山田は若さゆえの真っ直ぐさ、熱さを全面に出し爽やか。対するヨンドクは大人っぽい少女で、溌溂とした少女を演じることの多いMARIA-Eとしては珍しい役どころになったが、自分の夢や将来に悩む少女の繊細さをてらいなく表現していて魅力的だ。この二人が等身大の恋模様を描き出すところに、ファンタジー視点と波乱を持ち込んでくるのが中村演じる青年ビン。思いのままに突っ走り入絵扮するガイドをも振り回すが、そのピュアさが伝わってきて憎めない愛らしさ。そして入絵はコミカルに客席を沸かせながら、決して“お笑い要員”にならない存在感が絶妙だ。彼女の歌声が物語の深みを体現したと言っても過言ではない。作・音楽は、『SMOKE』『BLUE RAIN』『ルードヴィヒ』などで知られる韓国のヒットメイカー、チュ・ジョンファ(脚本)とホ・スヒョン(作曲)のコンビ。歴史上の偉人を題材にとることが多い彼らだが、今作はとても身近で日常的な情景を描いていて新鮮だ。音楽も90年代ポップスを想起させるような軽やかなナンバーが印象的。ゴールデンコンビの、いつもとはひと味違う魅力が堪能できる。過ぎ去った日を振り返り、想像する“あり得たかもしれない未来”は美しく、少し苦しい。しかし胸に残るのは悔恨の思いではない。思い出は切なさとともに心の小箱に大切にしまい、皆、それぞれの人生を生きる。ロマンチックな初恋を甘酸っぱく描きながら、どんな選択をも肯定しているかのような前向きなメッセージも伝わってくる、珠玉のミュージカルだ。公演は1月16日(月)まで同劇場にて。チケットは発売中。取材・文:平野祥恵
2023年01月11日懐かしく切ない初恋を、ファンタジー要素をまぶして優しく描くミュージカル『once upon a time in海雲台』が、1月10日(火)に東京・浅草九劇で開幕する。『SMOKE』『BLUE RAIN』『ルードヴィヒ』などで知られる韓国のヒットメイカー、脚本家チュ・ジョンファと作曲家ホ・スヒョンによる小品で、日本ではこれが初演。12月末、その稽古場を取材した。物語の舞台は1992年。東海で日の出の写真を撮ろうと清涼里駅発の電車に乗ったラ・チョンだったが、着いたのは釜山・海雲台。電車を乗り間違えてしまったのだ。終電もすでに出ていて、戻るには始発まで待つしかない。電車でチョンと親しくなった女の子、ユン・ヨンドクは始発まで彼に付き合ってあげることに。電話ボックスで雨宿りをしてドキドキ胸を高鳴らせたりと、距離を縮めていく二人だったが、そんな彼らを遠巻きに見ている謎のおばあちゃんと孫のコンビがいた。実は彼らは2050年の未来人で、おばあちゃんはこの時間を守る“タイムトレイン旅行ガイド”、孫と思われた青年は旅行者で……!?初めて全編を通すというこの日の稽古は「楽しいお話だから、楽しくいきましょう!」という、演出の渡邉さつきの言葉からスタート。キャストはわずか4人。集中しつつも、少人数編成らしいアットホームさも伝わってくる。冒頭は列車を舞台にしたドタバタ道中という様相。これまでの作品群ではドラマティックなイメージが強いホ・スヒョンの音楽だが、今作では軽快さも魅力。ここでは旅に出るワクワク感がダイレクトに伝わってきて、楽しい。そしてキャストの歌声が心地よいほど伸びやかだ。チョン役は山田元。甘いマスクに高身長、プリンス的役柄も似合う人だが、今回はちょっとおっちょこちょいの可愛らしい青年。これがズルいほどハマっていて、チョンの恋心に、観客はキュンキュンすること間違いなし。歌手志望ながら引っ込み思案、とある失敗を引きずってしまっているヨンドクを演じるのはMARIA-E。持ち前のパワフルボイスを存分に発揮しつつ、これまた観る者が共感してしまうだろう繊細な女の子を丁寧に作っている。軍人と謎の青年ビンの二役を演じる中村翼も確かな歌唱力とチャーミングさで作品の世界を彩り、おばあちゃん役の入絵加奈子はコミカルに笑わせたかと思いきや、物語の芯のテーマをしっとりと染みわたらせる。実力ある4人が力を合わせ、優しい世界を作り上げているのが心地よい。作品を彩るアイテムも重要なポイントだ。ポケベル、公衆電話、カメラ、ギター、始発を待つ時間、海、日の出……。ノスタルジーを誘うアイテムが、“あの日の初恋”を甘く運んでくる。切なさと少しの痛みと、あたたかい思いが胸の中に広がるロマンチックなミュージカル。開幕はまもなくだ。(取材・文:平野祥恵)
2023年01月05日2005年から毎年、中村勘九郎・中村七之助ら中村屋一門が全国を巡業、初めて歌舞伎を観る人も楽しめる演目で人気の『春暁特別公演』。元々は若いファンから“地方にいると交通費や宿泊費がかかって、なかなか歌舞伎を観に行くことが出来ない”という手紙をもらったことから、「自分たちから全国各地に足を運ぼう」とスタートした公演。今回も勘九郎がドラマで演じて話題となった「中村仲蔵」ゆかりの舞踊や美しい姫君の毛振り、素顔が垣間見えるトークコーナーなど見逃せない舞台となりそうだ。それぞれの見どころを勘九郎と七之助に聞いた。幕開けは、勘九郎と七之助、そして中村鶴松によるトークコーナーから。「客席の地元の方たちと、その土地ならではのお話ができるのが楽しみ。飾らない素の僕たちを見ていただけたら」と顔をほころばせる勘九郎。七之助もうなずきながら「何度も行っている土地ですと、必ず行く神社やなじみのお店もできるので、そこにまたうかがえるのも楽しみなんですよ」と話す。続いては、澤村國久や中村いてうをはじめとする中村屋一門が華やかにそろう『元禄花見踊(げんろくはなみおどり)』。桜が満開の上野の山に、武士や町人、若衆、遊女などが花見に集う様子を描く。勘九郎が「まずは華やかな衣裳を見て楽しんでいただいて」と言うと、七之助も「一緒にお花見をする気分でね」と微笑む。3つめの演目は、『仲蔵狂乱』。ドラマ『忠臣蔵狂詩曲No.5 中村仲蔵 出世階段』で勘九郎が仲蔵役を圧巻の迫力で演じきり、大きな注目を浴びたことは記憶に新しい。本作はその仲蔵ゆかりの演目だが、今では上演されることが少なくなっているのだという。「手前味噌なんですが、ドラマは歌舞伎関係者にも良かったと言っていただくことが多くて、すごく力になっています」と勘九郎。「ただ、この演目は仲蔵さんが出てくる作品ではなくて(笑)、人気の彼が踊ったからその名前が付いてしまったというもの。僕は、娘の小野小町を悪人から逃すため狂人の振りをする小野良実を演じます。当時の仲蔵さんが踊っていた振りというのが、今の舞踊とは少し違っていてなかなか難しいのですが、今回は貴重な機会と思って挑戦します」と表情を引き締める。最後は、七之助と鶴松の『相生獅子』。姫君が花や蝶に戯れる獅子の姿を踊るうちに獅子の精に取りつかれ、勇壮な毛振りでクライマックスを迎える。「お姫様の扮装で毛振りをするのは、バランスが取りにくくて大変ですね。姫君ですので脚を踏ん張るわけにはいかないですし(笑)。それでも鶴松と共に美しくお見せできれば」と七之助。その鶴松には「自主公演も見事にやり切って、今とてもいい時期。1つひとつの役に丁寧に挑んで、これからますます活躍していってほしい」と期待を寄せる。2023年も波に乗る勘九郎、七之助ら中村屋一門の華やかな『春暁特別公演』。ぜひ春の訪れを舞台と共に客席で味わってほしい。取材・文:藤野さくら
2023年01月04日毎年恒例の南座・お正月公演の松竹新喜劇。今年はAプロ・Bプロの2部制で上演する。Aプロ『下町の友情』は親の代からのケンカ友達、クリーニング屋と炭屋の友情を描く人情喜劇。Bプロ『流れ星ひとつ』は家族のために婚期を逃した娘と娘の幸せを願う父親の、切なくもユーモアに満ちた家族の物語。芝居に続き、2演目とも渋谷天外、藤山扇治郎、久本雅美による新春の挨拶がある。この3人が顔をそろえる取材会が開催、作品の演目や役柄への意気込み、また卯年の来年に向けてそれぞれの目標と“飛び越えたいこと”を語った。「初笑い! 松竹新喜劇 新春お年玉公演」チケット情報お正月公演に選んだ2演目の理由を「『下町の友情』は、ぱぁ~っと派手。『流れ星ひとつ』は、新年の幕開けに女性の方たちにほっこりしっとりして帰っていただこうと。どちらも人情芝居のルーツのような作品なので」と天外。また今回は2作品とも初タッグの演出陣に。『下町』は漫才コンビ、令和喜多みな実であり、劇団コケコッコーを主宰する脚本・演出・俳優の野村尚平、『流れ星』はプラチナ・ペーパーズを立ち上げ、松竹作品も多数手掛ける堤泰之がそれぞれ初演出。「次の世代の演出家と一緒にやりたい。僕たちにもきっと刺激になる」と「激論を戦わせて」天外の提案が実現した。『下町』にはクリーニング屋の主人に天外、その息子に扇治郎が出演。「泣いて笑っての、新喜劇の十八番。心の底のつながりをケンカの笑いを散りばめて描いていますが、最終的に人間のもつ人情が表せたら。キレのあるお芝居が出来るとうれしい」と体力を心配しつつの天外。扇治郎は「すごくおもしろくて、たいくつするところがない作品。新喜劇で一番多くさせていただいている役ではないかと。たまに見る夢に出てくる天外さんはいつもクリーニング屋で(笑)」と言うぐらい印象が強い作品だそう。初めて『流れ星』に挑む久本は、婚期を逃した長女の役で「難しいですけど、ユーモアたっぷりの中に千代子ちゃんの可愛らしさや切なさが表現できたら。女性の方が観たら、こういう女心を『あぁ、わかるなぁ』って思うんじゃないかな。お正月にふさわしく『ええ時間やったな』と言われるお芝居になるよう頑張ります」。来年の目標は「健康第一、家庭円満。コロナで増えた体重を落とす。頑張って飛び跳ねるようになりたい」(天外)、「松竹新喜劇で日本中を飛び回りたい。で、生意気ですけど、新喜劇を支えていけるように自分も成長できれば」(扇治郎)、「健康第一。飛び越えるより、むしろ誰でもいいので私のところへ飛び込んできてほしい(笑)」。公演は1月2日(月)から9日(月)まで、南座にて。チケット発売中。取材・文:高橋晴代
2022年12月26日前回、初開催にもかかわらず800席以上の会場を満員にした、今もっとも注目される実力派噺家3人による三人噺。今回は、2023年4月28日(金)、国の重要文化財にも指定されている大阪市中央公会堂にて開催される。『春蝶・吉弥と一之輔 三人噺 2023』チケット情報2022年4月4日公演では、桂春蝶「浜野矩随」、桂吉弥「愛宕山」、春風亭一之輔「青菜」を演じ、さらに今回も、全員が「トリネタ」を披露するという見どころ・聴きどころ満載の落語会となっています。令和の噺家の話芸を堪能ください!チケットは、12月21日(水)12:00よりオフィシャル先行を随時受付中。■公演名:春蝶・吉弥と一之輔三人噺 2023■出演者:桂春蝶、桂吉弥、春風亭一之輔■日時:2023年4月28日(金) 18時開演(17時開場)■会場名:大阪市中央公会堂大集会室■前売料金:特典付き指定席6,500円(オリジナル手拭付・税込み)/指定席5,500円(税込み)■受付日時:12/21(水)12:00~※随時受付中■受付URL:■公式ホームページ:■主催・企画・制作:MBSテレビ、ぴあ■お問合せ:キョードーインフォメーション0570-200-888(平日・土曜11:00~18:00)
2022年12月21日最高のクリスマス気分を味わえるショー『ブロードウェイ クリスマス・ワンダーランド2022』が2022年12月17日(土)に開幕し、25日(日)まで東京・渋谷の東急シアターオーブで上演されている。2016年に日本初演された本作は、“劇場で楽しむクリスマス”として毎年上演を重ねてきたが、コロナ禍で中断を余儀なくされ、今回は3年ぶりの来日公演となる。これまでの『ブロードウェイ クリスマス・ワンダーランド』日本公演にすべて出演してきたシンガーのサム・ハーヴィーは「3年ぶりに日本に戻ってこられてとても嬉しいです。劇場の方、クルーの皆さん、そして何よりお客様。お会いできるのを楽しみにしています」と話す。開幕を前に行われたゲネプロ(総通し舞台稽古)を見た。幕が開くと、そこはまるで銀世界。舞台上は白を基調とした衣装を身に纏ったキャストがそろい、銀色のテープカーテンや雪の結晶を模したパネルで彩られていて、一気にクリスマスの気分に引き込まれる。「Jingle Bells(ジングル・ベル)」や「All I Want for Christmas Is You(恋人たちのクリスマス)」など、1幕・2幕あわせて40曲以上のクリスマスソングが息つく間もなく披露されるのだが、ゴスペルからポップスまで実にバラエティ豊かなラインナップとなっている。6人のシンガーたちが歌を聴かせる場面もあれば、ジャズダンスやタップダンス、ペアダンスとさまざまなダンスで魅せる場面、そして舞台上に現れたスケートリンクでのスケートショーのシーンもあって、「次は何が起こるのだろう」とプレゼントを待つ子どものようにワクワクした。赤い服に白い髭のサンタクロース、巨大なクリスマスツリーやステンドグラスが輝く街並み、クリスマスカラーのキラキラとした衣装など、見た目の華やかさもあいまって、最高のクリスマス気分を味わえると思う。今回が初来日となるシンガーのサラ・バマーは「この美しい東京、そしてシアターオーブという劇場で歌えることにとってもワクワクしています。ショーを見て笑顔になって帰っていただけたら嬉しいです」とコメントしている。公演は25日(日)まで。取材・文:五月女菜穂
2022年12月19日永瀬正敏主演の映画として人気を博した「私立探偵 濱マイク」シリーズの第1弾を舞台化した「私立探偵 濱マイク-我が人生最悪の時-」が12月15日(木)に開幕した。横浜・黄金町の映画館の2階に事務所を構える探偵・濱マイク。行きつけの麻雀屋でのケンカをきっかけに知り合った台湾人・楊海平から、2年前に来日した兄・徳健を探してほしいと依頼される。捜索を進めていくうちに徳健の失踪の裏には、帰化したアジア系外国人が組織した黒狗会と台湾マフィアの抗争があることがわかり…。舞台上には、マイクの事務所がある映画館の「CINEMASCOPE NICHIGEKI」というやや古ぼけたネオンサインが見える。ちなみにこのネオンのデザイン、マイクの事務所があるという設定の、かつて黄金町に実在した「横浜日劇」のネオンを忠実に再現している。そして、物語は古い映写機が回り出す懐かしい音と共に、さながら一本の名画のようにスタートする。2年前に、本作の朗読劇が行われているが、その朗読劇に続いてマイクを演じるのが佐藤流司。ハードボイルドだが人情家でお茶目、その反面、刑事から“野良犬”と称されるような狂気を心の奥底に秘めた主人公を魅力的に演じており、「困ったことがあったら、いつでも来なよ」という決めゼリフも様になっている。約2時間の舞台の中で、十数分に一度は激しいアクションか歌唱&ダンスシーンが入ってくるのだが、佐藤はここでもしっかりと存在感を発揮しており、華麗な身のこなしで素手のケンカからナイフ、銃を使ったファイトまでをこなし、さらにマイクスタンドを握っては自らの身の上や心情をフルコーラスで熱唱し、美声を響かせる。マイクの周囲の人々、そして今回の事件に関わってくる面々もひとりひとりが個性的。マイクの妹で物語の語り部でもある茜を演じるのは小泉萌香。彼女を大学まで出すというのがマイクの“夢”であり、彼女の存在そのものが、今回の事件に対するマイクのスタンス、ひいては彼の生き方を表している。マイクとは鑑別所時代に知り合ったという“相棒”星野をダンスロックユニット「DISH//」の矢部昌暉が演じるが(※宮本弘佑とWキャスト)、チャラさ全開で、頼りになるのかならないのか……どこか憎めない星野を好演しており、アクションでもポテンシャルの高さを見せている。寺西拓人が演じる依頼人・楊海平と、椎名鯛造演じる兄・楊徳健の関係性も切なく、哀しく、終盤に2人が背中を合わせて座り込むシーンは胸に迫る!王道のハードボイルド探偵アクションであり、バディものであり、きょうだい(兄弟/兄妹)の愛と絆の物語であり、歌あり、ダンスあり。目が離せない2時間の活劇となっている。舞台「私立探偵 濱マイク-我が人生最悪の時-」は12月18日(日)までサンシャイン劇場にて、12月29日(木)、30日(金)は森ノ宮ピロティホールにて上演。文:黒豆直樹
2022年12月16日浦井健治らが出演するミュージカル『キングアーサー』が12月13日(火)、稽古の様子を公開した。その模様はインスタライブを通じ一般公開されたが、ぴあでは独自撮影した写真含め、現地取材レポートをお届けする。『キングアーサー』はイギリス・ケルトに伝わるアーサー王の伝説をもとに、2015年にパリで初演されたフレンチミュージカル。キャストは主人公アーサーに浦井、アーサーの敵メレアガンに伊礼彼方/加藤和樹(Wキャスト)、魔術師マーリンに石川禅、アーサーの異父姉モルガンに安蘭けい他豪華メンバーが集結し、演出は同作の韓国版を手掛けたオ・ルピナが務める。まず最初はメレアガン役の伊礼が登場。配信カメラに向かって陽気にアピールした直後、自分が手にするはずだったエクスカリバーをアーサーが抜いた絶望と怒りを激しく歌に乗せ『奪われた光』を披露。メタルロックのようなハイトーンボイスと、ケルト風の笛の音が融合する音楽も面白い。続いて王の座につき戸惑うアーサーと、進む道を諭すマーリンのナンバー『私は誰なのか』。浦井のまっすぐな歌声と石川の低音が絡む雄大な楽曲だ。工藤広夢と長澤風海が演じる鹿と狼のしなやかなダンスも印象的。演出家によるノート(演出)を挟み、安蘭扮するモルガンがある企みをアーサーに仕掛けるシーンで歌われる『報いを受けなさい』では、激しくも絡みつくような妖艶なダンスをアンサンブルたちが迫力いっぱいに見せ、続いての『約束』ではアーサーと婚約者グィネヴィア(宮澤佐江)、騎士ランスロット(平間壮一)が揺れる心を必死に抑える三角関係が描かれる。アーサーが王としての誓いを歌う『アーサーの誓い』ではランスロットの太田基裕、ガウェインの小林亮太、ケイ役の東山光明ら騎士たちが一堂に会し、稽古着ですでに凛々しいその姿に目を奪われる。続いての『愛じゃないみたいに』ではグィネヴィア(小南満佑子)とランスロット(太田)が切ないラブソングを聞かせ、ラストはアーサーへの復讐で手を結んだモルガンとメレアガンのナンバー『誓いなさい』。浦井と伊礼の「和樹ィ!」という歓声を受けながら加藤が登場、「俺とキャラが違いすぎるぞ!」(伊礼)、「そりゃそうだろ」(加藤)、「役は同じなのに(笑)」(安蘭)と軽口を叩きながらも、加藤と安蘭が打ち込み音も印象的な耳に残るナンバーを、フレンチミュージカルらしいテンポ感で魅せ、聴かせた。全7曲、たっぷり40分以上かけて作中の楽曲を披露したこの日のイベント。最後は配信カメラに全員で収まり、手を振って賑やかに終了。音楽のカッコよさ、ダンスの迫力、そしてキャストの魅力が存分に伝わり、公演への期待は高まるばかりだ。公演は2023年1月12日(木)より東京・新国立劇場 中劇場にて。その後群馬、兵庫、愛知公演もあり。取材・文:平野祥恵
2022年12月15日誰もが知る伝説のアーサー王を描くミュージカル『キングアーサー』が2023年に上演される。アーサー役の浦井健治が取材会で作品について話した。ミュージカル『キングアーサー』 チケット情報本作はイギリス・ケルトに伝わる伝説を『1789 -バスティーユの恋人たち-』で知られるフランスの作曲家、ドーヴ・アチアがフレンチロックをベースに手掛け、2015年にパリで初演。「楽曲がすごくキラキラしていて歌いごたえのある曲ばかりです。『エリザベート』のルドルフが歌うナンバー以上に高音が多く、大変だと思いますが、やりきって味方につければ、すごくカッコよくて今までにない新鮮な作品になると思います」と意気込む。王の血筋を引くことを知らずに育ったアーサー。「我々も共感できるような普通の青年が、聖剣エクスカリバーを引き抜くという運命を背負ってしまった。実はそれは十字架で、王として君臨するのですが、裏では人間の憎悪や狂気が渦巻くんです」と解説する。アーサーとの共通点については、「平凡な青年がエクスカリバーを引き抜いたがゆえに王になる。ミュージカルはほとんど見たことのなかった僕が、小池修一郎さんに引き抜かれ(笑)、『エリザベート』に出演させていただいた。えらそうに聞こえたら困るのですが(笑)、すごくリンクしているかなと思います」と少し恥ずかしそうに言う。浦井は『ヘンリー五世』『王家の紋章』など王を演じることが多い。「井上芳雄さんを筆頭に、かつてミュージカル界のプリンスと呼ばれていた人がキング(の役をやるよう)になった(笑)」と茶目っ気たっぷりに言いつつも、「光栄ですが責任がある。後輩たちにしっかりと背中を見せていきたい」と気を引き締める。また、「王冠をつけるとそれに翻弄され、無意味だなと思うぐらい、追い込まれるのが王。人生は一筋縄ではいかないという教訓ではないけれど、人間の運命とは何なのだろうと。そこをアーサーで体現していけたらと思います」と語る。演出は本作の韓国版も手掛ける韓国人のオ・ルピナ。「殺陣やアクロバット、ダンスもありのショーアップされた作品ですが、オ・ルピナさんは人間の機微を描き、お芝居をしっかりと紡がれると思います。双方から楽しめるような作品に仕上げていきたい。新しい年に明るく元気になっていただけるように頑張ります!」。公演は1月12日(木)から2月5日(日)の東京・新国立劇場 中劇場を皮切りに、群馬、兵庫、愛知を巡演。兵庫公演は2月24日(金)から26日(日)まで兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホールにて。チケットは12月17日(土)一般発売。取材・文:米満ゆう子
2022年12月15日日本を代表する伝統芸能のひとつ、人形浄瑠璃(文楽)は太夫・三味線・人形が一体となった総合芸術。伝統を守りながら進化を続け、今もなお高い人気を誇っている。これまで何度も博多座で開催されている「博多座文楽公演」だが、今年は新作浄瑠璃『端模様夢路門松』が上演されることも話題だ。公演を前に、人形遣い(重要無形文化財保持者)の桐竹勘十郎に話を聞いた。「今回上演する新作浄瑠璃は、私が30代の頃に作った作品で『つめ人形』が主人公です。『つめ人形』とは、一人遣いの素朴な人形のこと。三人遣いの人形に交じって端役で芝居を盛り上げてくれる存在で、若い人が足遣いで修行しながら端役のつめ人形を遣います。私も若い頃によく遣いました。なので、非常に愛着がある存在なんです」ある時、端役の人形たちだけで、お芝居ができないかと若い頃にふと思いたったのがきっかけ。自分で脚本を書き、鶴澤清介氏の作曲で作品が誕生した。「普段あまり目立たないつめ人形の一人が、『つめ人形はいやや、三人遣いの人形になってみたい』と夢を見る物語です。随分長いこと上演されてなかったのですが、最近また復活することができて嬉しいですね。ぜひ博多座でもご覧いただきたいと思います」もうひとつの演目は『曲輪文章 吉田屋の段』(※文章は「文」+「章」の1文字)となる。「近松門左衛門の『夕霧阿波鳴渡』を原作に改作したものです。夕霧という大坂の有名な花魁と、大店の若旦那で二枚目ですが紙衣(紙で作った着物)を着ないといけないくらい落ちぶれている伊左衛門の二人の物語。この夕霧と伊左衛門のくどきがみどころです。全盛の花魁と、紙衣で落ちぶれている伊左衛門の対比がおもしろいですね。今回は私が夕霧をやらせていただいて、吉田玉男さんが伊左衛門を遣いますが、どちらも難しい役です」。実際に文楽を観ると、とても人形とは思えないリアルな動きに驚く。立役と女形の違いはもちろん、表情までもが全く変わって見えてきて、命が吹き込まれていると実感する。聞けば立役と女形は人形の持ち方が全然違うため、使う筋肉も変わってくるとか。「立役ばかりやっていると構えが固まってしまって、女形の構えができなくなるんです。まんべんなくやらないと体が固まってしまうというのはありますね。でもお客様の反応で全ては報われます。博多座のお客様は本当に熱くて、以前『三番叟』をやらせていただいた時に手拍子が起こったことがありました。本当に客席から熱を感じるという印象です。今回も楽しみに伺います」公演は12月22日(木)・23日(金)福岡・博多座にて。チケットは発売中。
2022年12月14日2001年の発売以来、世界累計出荷・DL販売本数は2,110万本以上(2022年3月末時点)と、多くのファンを持つ『ファイナルファンタジーⅩ』。自身も大ファンという尾上菊之助が企画を立ち上げ、演出と主演も担う『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ』の制作発表会見が11月29日、都内で行われた。会見には菊之助のほか中村獅童や尾上松也、坂東彦三郎、中村梅枝、中村米吉、中村橋之助、上村吉太朗ら、出演する人気歌舞伎俳優たちも登壇。同ゲームのプロデューサー、北瀬佳範氏(スクウェア・エニックス)と共に本作への意気込みを語った。上演されるIHIステージアラウンド東京では、初の歌舞伎上演。客席を囲む360度のステージにはスクウェア・エニックスが特別に製作したCGビジュアルが8メートルの巨大スクリーンに映し出され、世界観にどっぷりと浸れる仕掛けだ。会見冒頭では、菊之助が「登場人物たちが葛藤を乗り越えて成長し、強大な敵に立ち向かう姿が、このコロナ禍と戦争の世界に強いメッセージを届けられると感じました。私自身が『ファイナルファンタジーⅩ』に救われたように、今の日本、そしてエンターテインメントの世界に“元気”を届けられれば」と熱く語った。今回は「前編」を昼の部、「後編」を夜の部として、1日9時間をかけて物語の最後まで上演。少年ティーダ(菊之助)が少女ユウナ(米吉)に出会い、グアド族の族長シーモア(松也)に追い詰められながらも、意外な結末を迎えるまでを描く。ティーダの父の盟友アーロンを演じる獅童は、「菊之助さんから熱いオファーをいただけたのが嬉しかった。お互いに意見を出しながら作っています」と感慨深げ。松也も「衣裳を着けての撮影ではアイデアを出し合ったりと、高揚感が高まりました」と興奮を隠し切れない様子だ。さらに、ユウナを守るキマリ役の彦三郎は「衣裳を着けた写真を松也さんに送ったら『誰?』と言われて。ハマってるんだなと自信を持ちました」と笑わせ、魔道士ルール―役の梅枝も「ゲームはもう5周はやっています」と熱い想いを示しつつ、「原作に敬意をもって演じたい」と意気込んだ。ユウナ役の米吉は「ユウナというヒロインが魅力的であればあるほど物語が面白く、切なくなると思うので少しでも原作に近づきたい」と真剣に語りつつ、「衣裳姿を見た彦三郎さんに『胸が小さい』と言われたので、まずはビジュアルから工夫を…」と明かし、取材陣から笑いが。ユウナをガードする青年ワッカ役の橋之助は「ワッカらしくのびのびと楽しく演じたい」、アルベ族の少女リュック役の吉太朗も「重要な役なので大切につとめたいです」と笑顔を見せた。今回、菊之助から直接オファーをもらったという北瀬氏は「ストーリーやキャラクターを理解してくださった上で『こう表現したい』と話されていると感じました」と話し、絶大な信頼を寄せている様子。ゲームの歌舞伎化という史上初の挑戦。その行方を期待と共に見届けたい。取材・文/藤野さくら
2022年12月13日この冬、恋愛漫画の金字塔『東京ラブストーリー』(作:柴門ふみ)がミュージカルとなって登場。設定を2018年の現代に置き換え、柿澤勇人、笹本玲奈、廣瀬友祐、夢咲ねねの【空キャスト】と、濱田龍臣、唯月ふうか、増子敦貴、熊谷彩春の【海キャスト】というWチームで上演する。ミュージカル「東京ラブストーリー」チケット情報永尾完治(柿澤勇人・濱田龍臣)の高校時代からの友人で、“モテ男”の三上健一を演じるのは、空キャストの廣瀬友祐と海キャストの増子敦貴。ふたり揃って取材会に応じた。本公演の出演が決まり、「親戚からの反応が今まで出演させていただいた作品の中で一番多かった」と話すのは増子敦貴。「“あの『東京ラブストーリー』の三上をやるの?”って。改めて幅広い世代に知られている作品だと思いました」。廣瀬友祐はミュージカル化に驚きつつも、空チームの共演者を聞き、ふたつ返事をしたという。その理由をこう話す。「特にカンチ役の柿澤勇人とは宮本亞門さんの舞台『メリリー・ウィー・ロール・アロング~それでも僕らは前へ進む~』(2013年)以来で。当時から彼は主役で、いろんな作品に出演し経験値も違って。今回、柿澤勇人から自分は何を受け取って、どんな刺激を受けるのか。それにより、さらに成長できるのではないかという思いもありました」。世代も個性も異なるダブルチームでの上演だ。「微妙な言い方の違いは少なからずあると思うし、その違いが生まれる空気感や見える景色にも影響を与えていると思います。僕自身、ダブルチームは今回が初めてなので新鮮です」と廣瀬。増子も稽古を重ねるごとに「セリフの捉え方や言い回し、演出の違いを感じている」という。廣瀬と増子、ふたりの共通点はミュージカル『テニスの王子様』(通称『テニミュ』)の出身であること。『テニミュ』出身の俳優が舞台で八面六臂の活躍を見せる今、この経験が彼らにもたらしたものは何かと尋ねた。部活動のようだったと言う増子は「みんなで力を合わせて作品を作っていく素晴らしさを教えていただきました。あの日々は一生忘れない」と振り返る。「『テニミュ』があったから、今の自分が形成されている」という廣瀬。坊主頭の風貌で黄色い声を浴びない役だったこともあり、劣等感があったそう。それだけに「当時お世話になった方たちに、今の姿を見て“廣瀬は昔、こんな役をやっていた”と驚きをもって言われるような存在になりたいと常々思っている」と話す。今回、演じる三上は色男オーラもハンパないのでは。「三上はクールでセクシーという印象がありますが、冒頭すぐの三上の自己紹介ソングは割とポップな印象を受ける曲で。それだけにカジュアルな要素も取り入れたい」と話す廣瀬。隣で増子も大きく頷いている。いい意味でイメージを覆すふたりの三上像に期待したい。大阪公演は12月23日(金)から25日(日)まで、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて。街がクリスマス一色に染まる時期の公演に、特別感が一層増しそうだ。チケット発売中。取材・文:岩本
2022年12月13日近代日本の夜明けを描いたミュージカル『太平洋序曲』が2023年3月8日(水)から日生劇場、4月8日(土)から梅田芸術劇場メインホールで開幕する。2022年12月6日(火)、都内で製作発表ならぬ“決起集会”が開催され、出演する狂言回し役の山本耕史・松下優也、香山弥左衛門役の海宝直人・廣瀬友祐、ジョン万次郎役のウエンツ瑛士・立石俊樹が登壇した。山本耕史は「名前があって、担う役割が狂言回しということはあれど、今回は役自体が『狂言回し』という役。狂言回しとして皆さんが見るだろうし、だからこそそれを逆手にとって、面白く裏切る瞬間がありそうな気もする」と役どころについて話し、「僕もこれだけの大作舞台出演は久しぶり。初心にかえった気持ちで頑張りたい」と意気込んだ。松下優也は「きっと出ているシーンがすごく長くて、セリフ量もとてつもなく多い役」と気を引き締めつつ、「見る方や演じる人によっていろいろな解釈ができるお話。組み固定でないWキャストなので、いろいろな方とお芝居ができることを楽しみながら、稽古に励みたい」。廣瀬友祐は「素晴らしい俳優の方々とご一緒できることを本当に誇りに思っている。役割をしっかり果たせるように一生懸命頑張りたい」と述べていた。本作の作詞・作曲はスティーヴン・ソンドハイム、脚本はジョン・ワイドマン。今回は、梅田芸術劇場と英国メニエール・チョコレート・ファクトリー劇場の共同制作となる。海宝直人は「海外のクリエイターチームと日本人キャストが共に作ることに、ものすごく大きな意味を感じている」と話し、立石俊樹も「素敵な俳優さんたち、そして日英合作で作り上げるということで、とても刺激的な毎日になりそう。体当たりでぶつかっていきたい」と期待を寄せていた。この日、初めて6人が顔を合わせたこともあり、会見ではざっくばらんに話題が展開。共演経験の話題では、ウエンツ瑛士が小学4年生の頃、劇団四季の『美女と野獣』で、小学1年生だった海宝と同じ役を演じていたエピソードを披露。ウエンツは「子どもながらに『偉い人が来る』日のキャストは海宝くんだったことを覚えている。まさか小4で“嫉妬”という気持ちを覚えるとは」と笑い「今回の共演は、本当に嬉しいし、楽しみ」と語っていた。東京公演は2023年3月8日(水)~29日(水)日生劇場、大阪公演は2023年4月8日(土)~16日(日)梅田芸術劇場メインホール。取材・文:五月女菜穂
2022年12月07日