定年退職後の家庭を描き、映画化もされた小説『終わった人』。本作を原作としたリーディングドラマ『終わった人』が8月から上演される。50歳で窓際部署に飛ばされ、そのまま定年退職を迎えた主人公・田代壮介を中井貴一、そして愛人にしようとするがどこまでいっても“メシだけオヤジ”を卒業させてくれない久里、すべてを見通している娘・道子、カッコイイバーのマダム・美砂子、さらに妻・千草をすべてキムラ緑子が演じる。この度、本作の取材会が行われ、出演する中井、キムラのほか、原作者の内館牧子が登壇。原作について、内館は「勤めている人なら誰もが経験すると思うが、サラリーマンには定年というのがある。 それまでどんなにいい仕事をして、華々しく最前線にいようとも、外から『もう終わりですよ、次の人に譲ってください』と言われる。本当はもっと仕事がしたかった、もっと人の役に立ちたかったのに、もう世の中的には『終わった人』になってしまう。そこの悲哀を書きたいと思った」と話す。その上で「今回の朗読劇のお話をいただいて、正直嬉しかった。私が向こう見ずに書いたことをお二人がどうやってくれるのか、すごく楽しみ。朗読劇そのものは、力のある俳優さんじゃないとできないと思うし、その意味でも幸せ」と期待を寄せた。現在61歳の中井は「ちょうど同級生たちが定年を迎えたり、『終わった人』と言われたりする時期。時々友人から電話かかってくると、役員になってる人間たちは『ちょっと延長して......』なんて言いつつ『あと2年で俺も終わりだよ』と。『終わり』という言葉を使うような年齢になった」と語りつつ、「僕たちの商売は終わりがない商売だから、 友人たちの気持ちをふまえ、この年代の悲哀を伝えつつ、エールとして、この朗読劇ができたら面白いんじゃないか」と思いを述べた。中井と同い年のキムラは「ちょっとずつ終わっている感じがある。今6割ぐらい終わっているかな。例えば、リハーサルのときも老眼だから台本を持てなかったり、山登りがきつくなってきたり。そういう部分は受け入れていかなくてはどうしようもない。少しずつ受け入れながら、終わりに近づいてる感じ」と自己分析しつつ、本作について「本当に全ての方に観てもらいたいと思うばかり。登場人物のみんなは性別も年齢も違うが、それぞれにドラマがある。どこかに自分が焦点を当てて観ることができる作品だと思うので、みなさんがどこを拾って、何を感じとるのか、皆さんに聞いてみたい。いろいろな方に観てもらいたい」と話した。プレビュー公演は8月23日(水)、亀戸文化センターカメリアホール。東京公演は8月31日(木)〜9月3日(日)草月ホール。そのほか全国7カ所ツアー予定。取材・文:五月女菜穂
2023年04月07日日韓で大ヒットした映画『サニー』がミュージカル『SUNNY』として生まれ変わる。「SWEET MEMORIES」、「ダンシング・ヒーロー」、「センチメンタルジャーニー」など、80年代のJ-POPが彩るこのミュージカルに出演する花總まりと瀬奈じゅんに話を聞いた。「いろんな分野の方が集まっているので、新しいミュージカル作品が生まれそうな予感がふつふつと湧いています。そんな作品に参加できること、作品ができあがっていく過程を体感できることがすごく楽しみ。変に気負うことなく、楽しく稽古して、本番もお客様の前に毎日楽しく立ちたいです」(花總)「今回は特に最初からこうしようと決めすぎてしまわず、周りの方たちと共鳴しながら作って、そこで生まれてくるものを大切にしたいと思います。それと、最初にこの作品に出演が決まって、花總さんとお電話で話したときに『私を楽しませてね』と言われたので、花總さんを楽しませるためにがんばります(笑)」(瀬奈)『SUNNY』は、高校の同級生が大人になって再会するというストーリー。花總と瀬奈はともに宝塚音楽学校で青春時代を過ごした仲でもある。「私がトップになって最初の公演である『Ernest in Love』という作品のお稽古中、隣でお稽古していた花總さんが満面の笑みで『おめでとう!』と言ってくれたのを覚えています。トップが気をつけたほうがいいこととか、心構えみたいなことを教えてくださいました」(瀬奈)「音楽学校時代は本科生と予科生という間柄だったけれど、宝塚に入ってからはやっぱり男役スターさんだなって印象でした。ついさっきも、前を歩いている姿をみて頼もしいなと思いました(笑)」(花總)花總が演じるのは専業主婦の奈美。瀬奈は独身で仕事に打ち込んでいたものの、病気になってしまう千夏役。「毎日を送るなかでふと、いまの自分の生活を客観的に見てしまう、自分を見つめ直してしまうという奈美のような方は、少なからずいらっしゃると思います。共感していただけるような演技ができたら」(花總)「余命宣告を受けてから悔いなく生きるってどんな感じだろう、と想像しますね。千夏は結婚もせず、子供もいない。その気持ちの持っていく場所が高校時代のグループ「SUNNY」なんだろうなと。そこを丁寧に演じていきたいと思います」(瀬奈)実際に10代をともに過ごした二人が演じる『SUNNY』。二人がデュエットするという『待つわ』をはじめとした懐かしい楽曲も、二人の現実に重なる女性同士の友情物語も楽しみだ。取材・文:釣木文恵
2023年04月03日個性豊かな七人のカリスマたちの共同生活を描いた舞台『カリスマ de ステージ』~ようこそ!カリスマハウスへ~が2023年3月30日(木)からMixalive TOKYO 6F Theater Mixaで開幕した。2021年10月から本格始動した『カリスマ』は『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』の開発・運営を手がけるEVIL LINE RECORDSと株式会社Dazedによる二次元キャラクタープロジェクト。「カリスマハウス」というシェアハウスを舞台に、個性豊かな七人のカリスマたちの共同生活を描いた音声ドラマを中心に展開している。本作は、その舞台版で、川尻恵太が脚本・演出を務め、舞台を中心に活躍中の若手俳優が出演している。初日を前に行われたゲネプロ(総通し舞台稽古)を観た。登場するのは「服従のカリスマ 本橋依央利」(持田悠生)、「自愛のカリスマ テラ」(丸山和志)、「秩序のカリスマ 草薙理解」(岩田知樹)、「反発のカリスマ 猿川慧」(寶珠山 駿)、「内罰のカリスマ 湊大瀬」(露口祐斗)、「性のカリスマ 天堂天彦」(田中涼星)、「正邪のカリスマ 伊藤ふみや」(坂下陽春)という七人のカリスマ。本作では、キャラクター紹介を兼ねた各々のショートストーリーが一通り展開された後、殺人事件が巻き起こって、シェアハウス崩壊の危機に陥る――という明快なあらすじになっているので、音声ドラマを未履修の方でも安心して観劇できる。そもそもカリスマとは「超人間的・非日常的な資質や能力」をいうが、七人のカリスマたちはその名の通り、一癖も二癖もあるキャラクターばかり。ついつい「隣人にこんなキャラクターがいたらちょっと大変だなぁ......」と思ってしまうのだが、皆がみな別のベクトルで極端なので、物語の中では不思議と均衡がとれているのだ。そして、それぞれのカリスマに“共感”するような場面も出てきて「私にもこのカリスマの要素があるかも......」と思ったり、カリスマたちの“決め台詞”に興奮したりと、見入っている自分がいた。ネタバレになるので詳細は書かないが、最後のライブパートも含め、凡人では予測不能な、シュールでカリスマあふれる物語を楽しんでほしい。上演時間は1時間45分(途中休憩なし)。公演は4月9日(日)まで。取材・文:五月女菜穂
2023年03月31日パリ・オペラ座バレエのトップダンサーが集結する『ル・グラン・ガラ2023』が、コロナ禍を乗り越えて4年ぶりに開催される。日本にルーツを持ち、2020年の入団から最短で昇進を重ねるクララ・ムーセーニュの出演もバレエ愛好家にとって朗報だろう。3月中旬、来日した彼女に見どころを尋ねた。同バレエ団エトワール(最高位)のマチュー・ガニオとドロテ・ジルベールが座長を務め、演目のセレクションを手がける本公演。世界最高峰の実力を誇るダンサーの中でも、テクニックに磨きのかかるエトワール6人に次代を担う若手ダンサーが加わり、「イン・ザ・ナイト」「くるみ割り人形」「ロミオとジュリエット」「オネーギン」といった演目で豪華競演を繰り広げる。ムーセーニュはAプログラムで「ドン・キホーテ」のヒロイン、スペインの町娘キトリに扮する予定だ。Instagramの個人アカウントで公開されているキトリのバリエーション(ソロ)動画では、扇子を片手にキレのある足さばきや華麗なターンでコケティッシュな魅力を振りまく。若手にとって主要な役どころに挑戦できるガラ公演を前に、ムーセーニュは「相手役のバジルを演じるニコラ・ディ・ヴィコと信頼関係を育み、観客の皆さんが思わず全幕を観たくなるようなパ・ド・ドゥに仕上げられたら」と意気込む。2004年、フランス人医師の父と日本人の母との間に三女として生を受けたムーセーニュ。2013年にパリ・オペラ座バレエ学校へ入学してすぐに頭角を表し、入団後も昇格が難しいといわれる階級制の中で順調にコリフェ(2021年)、スジェ(2022年)とエトワールへの階段を駆け上がる。2月には、将来有望な若手ダンサーに贈られるセルクル・カルポー賞を獲得した。目覚ましい成長の中でも謙虚さを忘れず、事ある毎に「たくさんダンサーがいる中で私を信じて期待してくださった想いに報いたい」と感謝の意を述べ、より一層の努力を誓う。今後どんなダンサーになりたいか尋ねると、「ダンスへの情熱を原動力に、多様な演目にチャレンジしたい」「役の本質を的確につかみ、さまざまなイメージをお客さまにお見せしながらエモーショナルな時間を共有できたら」と希望があふれ出す。目標とする存在は、バレエ学校入学時から「プチベール(小さなお父さん)」と慕う座長のガニオだ。「オペラ座の象徴みたいなルック・オペラ(身体)に美しいダンス。優しい人柄も相まって尊敬しています」とムーセーニュ。今後も期待の新星から目が離せない。公演は、7月30日(日)に愛知県芸術劇場 大ホールにて。その後、7月31日(月)~8月3日(木)に東京文化会館 大ホール、8月5日(土)に大阪・フェスティバルホールと巡演する。なお東京公演では、回替わりで演目の異なる「A」「B」プログラムが用意されている。チケット販売中。取材・文:岡山朋代
2023年03月30日世界的ファッションデザイナーであるジャンポール・ゴルチエ氏は、70歳を迎えた今も、新たにエンターテインメントの世界へと挑戦し続けている。ファッション界の"異端児"として注目されたゴルチエ氏は、モードなファッションショーをエンターテイメントに昇華した第一人者である。「ファッションショーを作るとき、洋服だけではなく、音楽、照明、モデル、そしてモデルの立ち振る舞いも全てプロデュースをしてきた。それを観客がみて、素晴らしかったら『ブラボー!』とスタンディング・オベーションで迎えてくれる。それは、ファッションショーでも、演劇でも同じ。僕にとってファッションショーと舞台の境界線は曖昧だ。」と語る。ジャンポール・ゴルチエ『ファッション・フリーク・ショー』チケット情報これまで、ファッションショーモデルに「人々は、違うからこそ美しい。愛の形はひとつではなく、いろいろあるから面白い」という考えから、トランスジェンダーやドラァグクイーンをいち早く起用し、フェミニズムやジェンダーフリーを芸術性をもって謳い続けた。『ファッション・フリーク・ショー』でも、国籍や体系など様々なパフォーマーが出演する。この作品を通して「全ての人、誰もが美しいということ、フリークはシック、変わっていることは素敵なこと、そして自分らしくいることが大切だということを伝えたいと思っています。」と、メッセージを寄せている。ジャンポール・ゴルチエ『ファッション・フリーク・ショー』は、5月19日(金)から6月4日(日)まで東京・東急シアターオーブ、6月7日(水)から11日(日)まで大阪・フェスティバルホールにて開催。チケットは発売中。
2023年03月30日国際的に活躍する振付家、ウィル・タケットによるオリジナルの新作バレエ『マクベス』が世界初演される。新国立劇場バレエ団の委嘱作で、シェイクスピアの戯曲をもとにしたバレエ2作品を取り上げる「シェイクスピア・ダブルビル」(4月29日(土・祝)初日)で上演の予定だ。3月23日(木)、同劇場にてリハーサルが公開されるとともに、タケットと主演ダンサーの福岡雄大、米沢唯が作品への思いを語った。この日の稽古は、戦いから帰還するマクベスを待つマクベス夫人のソロから、再会した二人によるパ・ド・ドゥへと至る一連の場面。厳かに響くピアノの伴奏にのせて歩み出る米沢が演じるのは、権力への野心に囚われ、破滅していく女性だ。音楽は、スコットランドの作曲家ジェラルディン・ミュシャによる。バレエのための音楽として作曲されたが、バレエ作品として上演されるのはこれが初という。福岡演じるマクベスの登場で、パ・ド・ドゥが始まる。しばしば動きを止めるタケットからは、「ロマンティックになりすぎないように」「もっと動きを大きく」と次々と指示が飛ぶ。マクベスはここで、荒野で出会った三人の魔女が「マクベスが王になる」と予言したと夫人に伝えるが、タケットは「物語を伝える手助け」として、王冠を手に現れる魔女の精霊を登場させる。強く印象に残るのは、妄想の中に輝く王冠をマクベスの頭上にのせ、権力の夢に酔いしれる夫人の姿だ。「戦いの雰囲気をまとったまま帰ってきたマクベスを、夫人はとてもセクシーだと感じ、関係を持ちたいと思っている。そんな緊張感をパワフルに伝えたい」と話すタケット。重々しい悲劇のバレエだが、「同時に上演される『夏の夜の夢』(フレデリック・アシュトン振付)は美しくて爽やかで、作品自体が魔法のような雰囲気。その正反対をいく『マクベス』と同時に観ていただけるのが大きな見どころ」とも。「この二つの作品が、一つの大きな演劇体験としてお客さまに届くといいなと思っています」。二人のプリンシパルも、「この劇場の歴史の一ページを刻む作品。大きなチャレンジになる」(福岡)、「いつの時代も殺し合いがあり、男女の関係も変わらない。どの方にも、どこか刺さる何かがある。そんな舞台になれば」(米沢)と思いを明かした。公演は4月29日(土・祝)〜5月6日(土)、新国立劇場オペラパレスにて。主演はもう一組のプリンシパル、奥村康祐と小野絢子とのダブルキャスト。チケットは発売中。文:加藤智子
2023年03月29日4月8日(土)に初日を迎える、明治座創業百五十周年記念『壽祝桜四月大歌舞伎』。昼の部(11:00開演)は、『義経千本桜 鳥居前』と『大杯觴酒戦強者(おおさかづきしゅせんのつわもの)』、『お祭り』で、華やかな春のにぎわいにピッタリのラインナップ。一方の夜の部(16:00開演)は、『絵本合法衢(えほんがっぽうがつじ)』を通し狂言で上演する豪華版だ。今回、昼の『大杯』で内藤紀伊守を、夜の『合法衢』では左枝大学之助と太平次(2役)を、どちらも初役で勤める松本幸四郎に話を聞いた。昼の部『大杯觴酒戦強者』(河竹黙阿弥作)では、幸四郎演じる内藤紀伊守が、花見の席で酒好きの足軽・原才助(中村芝翫)に、酒豪の井伊掃部頭直孝(中村梅玉)との飲み比べを命じる。酔った才助の話から、その正体は武田の旧臣・馬場三郎兵衛と知れるが、そのとき紀伊守は……。先に行われた制作発表会で、「いつもの“黙阿弥の世話物”とはまた違い、役者のニンで見せるところが面白い」(梅玉)と語られていた本作。幸四郎も、「おおらかなお芝居で、物語とは別に、(役者の)芸の見せ合いで展開するところがあります。紀伊守として、いかに凛として存在できるかを大切にしたいですね」と話す。また夜の部『絵本合法衢』は、四世・鶴屋南北による仇討狂言の傑作。五代目松本幸四郎での初演で、八代目と九代目も演じており、当代(十代目)の幸四郎にとっては縁の深い演目だ。演じる左枝大学之助は、大名多賀家の一門だが本家乗っ取りをたくらみ、重宝・霊亀の香炉を盗む悪人。諫める重臣・高橋瀬左衛門をもだまし討ちにし、配下の太平次と共に次々と人を殺め、冷酷無比に悪事を重ねてゆく。「こんなに大きな作品の初役ということで、また新たな挑戦。緊張する気持ちはありますが、それをエネルギーに変えて取り組んでいければ」と幸四郎。続けて、「父と祖父が演じた際の台本に書き込みが残っているので、それを参考にしつつ、別の演出も考え中です。たとえば、太平次が殺される場面。これは入れようと思っていて、祖父もやっているのですが、見せ方が自分とは少し違うかなと思うので、どんな演出にするか練っているところです」と語る。本作の魅力を、「左枝大学之助と太平次は徹底的に悪人なのですが、そんな彼らを中心に展開する、いわば南北の得意技を使ったお芝居だということ」と幸四郎は言う。「南北の描く“悪”、その魅力をとことん味わうのも歌舞伎の面白さだと思うので、お客様にはぜひ楽しんでいただければ」と意気込んだ。さて、このところ殺人者・悪人役が続く幸四郎。あえての選択かと問うと、「今年はこの後、『鬼平犯科帳』の撮影に入って(2024年に劇場公開とドラマ配信予定)、火付盗賊改方長官になりますからね」とニヤリ。「今はこの人間くさくて泥くさい、生活感がにじむ悪人たちの世界にどっぷり浸って、役の振り幅を楽しみたいと思っています」と笑顔を見せた。取材・文/藤野さくら
2023年03月24日2023年の春も、鶴瓶噺の季節がやってくる。「日常で起こる本当の出来事が一番おもしろい」と語る男が、日々残しているメモからチョイスしていたのは285個の鶴瓶噺の素。2022年のエピソードからの厳選した数である。あらゆる出来事があっという間に過去になるスピード狂の時代に、笑福亭鶴瓶は焦らずゆったりと今日も自然体だ。2022年を振り返って、真っ先に思い浮かんだというキーワードも“らしい”ものだった。「2022年は……友達が増えました。『A-Studio+』とか『鶴瓶の家族に乾杯』といったテレビの仕事は、たくさんの人と出会うでしょ。すると、友達が増えていく。2022年はドラマや映画もあったから、そっちでもそうなんです。『しずかちゃんとパパ』というドラマでは、耳が聞こえない父親役で全編手話だったんですね。その現場では手話を教えてくれた人たちと仲よくなれてうれしかったんですけど、とにかく厳しかったんです、うちのマネージャーが。同時進行で映画の現場も入っていてヘトヘトなのに『手話、練習しましょう!』と。『いいけど、俺、死ぬよ』と小声で言いましたからね(笑)。じゃあ、映画の現場はどうだったかといえば、マイナス14℃で。極寒のなか、コートもなんもなしにタキシード1枚で逃げ惑うという役でした。自分でもよう生きてるなぁと思います(笑)」2022年を振り返って「友達が増えた」と真っ先に口にできる人生。そもそも、70歳をすぎて友達が増える人がいったいどれほどいるのか。漢字なら唯一無二、英語ではワン&オンリー。そんな芸人の冠番組ならぬ冠芸である鶴瓶噺に、弱点などあるのだろうか。「昔、落語のことを聞かれて『笑福亭鶴瓶<落語』と答えたことがあるんです。やっぱり、長い歴史と深い伝統がある落語という存在はとてつもなく大きい。でも、こっちは『笑福亭鶴瓶=鶴瓶噺』で完全にいっしょ。鶴瓶噺と僕はイコールなんです。だからこその強みもあるとは思うんですけど、落語と違って型がないでしょ?型のない芸って、続けないとダメなんです。仮に、型のない芸を無手勝流と呼ぶのならずっとやり続けているからこそ無手勝流であって、やめた途端に無手勝流とすら呼ばれなくなると思うんです。鶴瓶噺だって、今年が最後となったらその瞬間は笑ってもらえるかもですけど、すぐに色褪せてしまうはずですから」鶴瓶噺は、点ではなく線でこそ楽しみが増すのか。30年後の100歳での鶴瓶噺を想像しながらの2023年版は、必見にして必聴の予感がする。取材・文:唐澤和也
2023年03月24日2011年に韓国で製作され大ヒットした映画『SUNNY』が、バブル経済絶頂期の1980年代と現代の日本を舞台にしたミュージカルとして舞台化される。そんなミュージカル『SUNNY』に出演することが決まった、日向坂46の元メンバー・渡邉美穂に話を聞いた。2022年に日向坂46を卒業し、アイドルから俳優へと一歩を踏み出した渡邉。演技の世界に興味を持ったのは映画『ヒミズ』における二階堂ふみの演技に憧れたからだといい、今年に入ってからは音楽劇『逃げろ!〜モーツァルトの台本作者ロレンツォ・ダ・ポンテ〜』に出演している。本作への出演にあたっては「舞台の経験はあるものの、ミュージカルは完全に初挑戦。どうなるのか楽しみです。一方で他の共演者はミュージカルに慣れていらっしゃる方々ばかり。ついていけるように、必死に頑張りたいと思います」。稽古場では特に花總まりや瀬奈じゅんといった共演する“大先輩”の姿を間近で見たいといい、「見て学べるものは盗めるだけ盗んで、実際に困ったときはいろいろとアドバイスをいただけるように頑張りたい。間違いなく自分にとっていい経験になると思うので」と貪欲な姿勢を見せる。今回の舞台では、バブル経済絶頂期の1980年代と現代とがシンクロしながら展開する。奈美という女子高生を演じる渡邉は「女子高生たちが青春している感じが楽しく描かれていていいなと思いました。それに同じ時間を共にした仲間たちが、時を経て全く違う道に進むのがすごくリアル......。笑えて、感動できて、泣けて、ほっこりする作品です」と脚本の印象を語る。ちなみに2000年生まれの渡邉は、80年代を実際に体験していない世代だが「女子高生たちも自由奔放に生きているイメージがあって、80年代には憧れがあります。それから音楽もいいですよね。特に小沢健二さんの音楽を聞くようになりました」。そもそも「SUNNY」というのは、登場人物たちの仲良しグループの名称なのだが、渡邉自身、高校3年生のときに同じクラスだった仲良し6人組がいるという。「友達はそんなに多い方ではないのですが、高校時代はその6人でずっと一緒にいましたし、いまだに定期的に会っています。何でも話せる仲で、本当に居心地がいい」。その仲間との絆が本作での役作りにも活かせるのではと尋ねると「間違いないですね」と笑顔だった。観客へのメッセージを尋ねると「観る方によっては『懐かしいな』という気持ちになる方もいるでしょうし、私と同じように『こういう時代があったんだな』と新鮮に捉える方もいると思います。でもきっと観ていて楽しい気持ちになるはず。友情や、人との繋がりの大切さを改めて感じることができる内容だと思いますし、『明日からまた頑張ろう!』と前向きになれるようなものにできたら」と語っていた。取材・文:五月女菜穂
2023年03月20日マリー・キュリーという、放射性元素の研究で大きな功績を残した科学者の姿を描いたミュージカル。アカデミックな内容がかかわるだけに、とっつきにくそうなイメージがないとは言えない。だが実際に公演(ゲネプロ)を通して感じたのは、知的探求心に富んだマリーのまっすぐな生きざま。彼女の研究への情熱が、夫・ピエールへの愛と信頼が、そして友・アンヌとの交流や研究をとりまくさまざまな物事への思いが、ドラマティックなメロディーで紡がれていく。キャストも各々の役割をきっちりと見せている。ゲネプロ前の囲み取材でマリー役・愛希れいかは「ミュージカルだけれどもとても演劇的な作品」、演出・鈴木裕美は「一人ずつの人間が浮き上がってくるように」と語っていた。それが見事に表現され、見ごたえがある。本作は「Fact(歴史的事実)×Fiction(虚構)=ファクション・ミュージカル」と銘打たれている。Factがマリーの研究に没頭する姿やピエールとのパートナーシップ、そして彼女が発見したラジウムを巡る葛藤であるならば、Fictionの多くはルーベンとアンヌについての造形だろうか。ルーベンはマリーの研究の後援者でラジウム工場のオーナーだが、時には狂言回しであり、メフィストフェレス的な、いわばマリーの“影”だ。演じる屋良朝幸も「遠い世界へ」など自身の振付によるダンスナンバーを含め、多面的な存在感を放つ。一方アンヌはマリーの親友として彼女に寄り添い、“光”の部分を担っているかのよう。パリに向かう列車での出会いでマリーの志を示す「すべてのものの地図」、追い詰められた状況下で心を通わせる「あなたは私の星」と、印象的なデュエットも多い。清水くるみの明るさと健気さ、時には凛々しさもある佇まいが魅力的だ。ピエール役の上山竜治も好演。自身もこれまで演じてきたなかで「一番優しい役どころ」だと語る、懐の深い夫で研究者としてもかけがえのないパートナーだ。マリーとピエールの「予測不能で未知なるもの」は、清水が「稽古場でも泣いちゃうぐらい好き」と語ったのも納得がいく、素敵なナンバー。そして何より、愛希の輝きが素晴らしい。安定した歌唱はもちろん、時には悩み苦しみながらもひたむきに生きるマリーとして、観る者を惹きつける。まさに“はまり役”で、ぜひ公演を重ねてマリーをさらに深化させていってほしいと願わずにはいられない。取材・文:金井まゆみ
2023年03月17日2023年の東京・歌舞伎座は、年頭から引き続き「歌舞伎座新開場十周年」と銘打ち、幅広い演目で客席をにぎわせている。上演中の「三月大歌舞伎」は、第一部(11時開演)がシェイクスピアの戯曲「リチャード三世」に着想を得て、1974年に宇野信夫が書き下ろした『花の御所始末』。第二部(14時40分開演)は、単独での上演が珍しい『仮名手本忠臣蔵 十段目』と、楽しい舞踊劇『身替座禅』。第三部(17時45分開演)は、大正から昭和期の歌人・吉井勇作の『髑髏尼』と、上方和事の代表作『廓文章 吉田屋』。古典から話題作、異色作まで楽しめるラインナップだ。ここで注目したいのは、第一部の『花の御所始末』。約半世紀前に六代目市川染五郎(現・松本白鸚)で初演された本作に、松本幸四郎が挑んでいる。舞台は美しい花木が植えられていることから、「花の御所」と呼ばれる足利幕府の室町御所。足利義満(河原崎権十郎)の次男・足利義教(幸四郎)は、将軍の座を手に入れようと、畠山満家(中村芝翫)と共に父を殺害する。その罪を兄の義嗣(坂東亀蔵)にかぶせて亡き者にし、将軍となった義教。その独裁ぶりは次第に狂気を帯び、浅からぬ縁の満家まで手にかけてしまう。数年が経ち、父や兄の亡霊に毎夜苦しめられる義教は……。幸四郎は、暴君と怖れられた義教を大胆かつ繊細に表現。前半は、邪魔者を次々と殺め、ベッタリと付いた返り血も鮮やかに欲望のまま突き進む“悪の華”を舞台に立ち昇らせる。将軍の座についてからの後半は、義教の恐怖政治に不満を訴える大名や農民へ冷ややかな態度を保ちながらも、どこか惑うような、虚ろな表情で心情を垣間見せる。最期は炎に包まれ、ドラマチックな幕切れ。義満役・権十郎の器の大きさ、義教の妹で運命に翻弄される入江役・中村雀右衛門の芯の強さと儚さ。満家役・芝翫のしたたかな色気と、その息子で謀略に巻き込まれる左馬之助役・市川染五郎の清廉さも印象に残った。そのほか第二部は、『~十段目』のひそかに赤穂浪士に協力する廻船問屋の天川屋義平役に、芝翫。“男の中の男一匹”、“天川屋義平は男でござる”の名ゼリフを聞ける貴重な機会だ。さらに尾上松緑の大名・右京と中村鴈治郎の奥方玉の井で、チャーミングすぎるふたりのやりとりが文句なしに面白い『身替座禅』。夜の第三部は、大正から昭和期の歌人・吉井勇の原作で、こちらも61年ぶりの上演となる『髑髏尼』のタイトルロールに、坂東玉三郎。相手役の中村福之助と共に、吉井の耽美的な世界観を繰り広げる。そして玉三郎と片岡愛之助で上方和事の華やかさを存分に堪能できる『~吉田屋』と、まさに多彩な演目ぞろい。どれも見逃せないこと請け合いだ。取材・文/藤野さくら
2023年03月16日2人のゲスト声優に質問をぶつけ、ゲスト自身が気づいていなかった深層心理を探るイベント「ある日のアルフレッド研究所」の第2弾が、5月13日(土)に板橋区立文化会館 小ホールにて開催。配信も実施されることが決まった。本イベントは、心理学をテーマに、アルフレッド研究所の研究員である寺島惇太がホストとなり、プロフェッショナル心理カウンセラー・浮世満理子とともに、ゲスト声優二人のパーソナリティを分析していくという試み。昨年開催された「ある日のアルフレッド研究所 File.1」では、人気声優の林勇と寺島拓篤をゲストに迎え、子どもの頃の思い出や、仕事のときのルーティンなど、ゲストの日常に迫る質問からエチュードやイラストを披露してもらう質問などを実施。その回答から、第1部では「お子さま度」第2部では「お金での失敗リスク」というテーマを基に深層心理を分析。二人の意外な一面が明らかとなり、本人とともに会場のファンも驚きの表情を見せていた。5月13日(土)の「ある日のアルフレッド研究所 File.2」のゲストは、映画『THE FIRST SLAM DUNK』宮城リョータ役やTVアニメ『ブルーロック』のEDも話題の仲村宗悟と、TVアニメ『東京リベンジャーズ』松野千冬役など活躍が目覚ましい狩野翔。前回は天の声として出演した寺島惇太も、今回は舞台上で直接、ゲストたちとトークを繰り広げ、ちょっと風変わりな心理テストバラエティショーを盛り上げる。本イベントは13:30開演と17:00開演の2部制での開催となり、配信の実施も決定。配信チケットはBlu-rayが後日配送となるセットチケットもご用意。Blu-rayには第1部・第2部の両公演に加え、ゲスト二人が「箱庭セラピー」を体験する「特典映像」も収録予定となっている。会場チケットは、先行抽選受付中。配信チケットの販売は3月16日(木)18:00より開始。開催日時:2023年5月13日(土)【第1部】13:30開演【第2部】17:00開演会場:板橋区立文化会館小ホール出演:狩野 翔、仲村宗悟、寺島惇太(MC)、浮世満理子(プロフェッショナル心理カウンセラー)
2023年03月16日『滝沢歌舞伎ZERO FINAL』の製作発表記者会見が2月8日(水)に東京・帝国ホテルで行われ、主演と演出を手がけるSnow Manの9人が勢揃いした。2006年に『滝沢演舞城』として誕生し、主演の滝沢秀明が演出に専念した19年に『滝沢歌舞伎ZERO』の名でSnow Manに受け継がれた本作。映画化された『滝沢歌舞伎ZERO 2020 The Movie』が大ヒットし、21年・22年の公演を経て、今回でシリーズのファイナルを迎える“和のスーパーエンターテインメント”だ。「滝沢歌舞伎は、僕がジャニーズ事務所に入所した年に始まった作品。自分たちの主演で幕を下ろし、卒業式を行えるのが本当にありがたい」と会見の口火を切ったのは、リーダーの岩本照。“初演出”の重責も後輩に対する振付の延長線上にあると考えており「出演していたからこそ魅了できる演目を」と意気込み、シリーズの名物と言える「腹筋太鼓」は「やります」と言及した。深澤辰哉は「滝沢歌舞伎があったからこそ、精神的に鍛えられた」とこれまでの道のりを懐かしみ、滝沢に泣くほど怒られた日々を振り返って耳を真っ赤にする。パリコレに出演し、モデルとしても活躍中のラウールは「新橋演舞場にはキレイな花道があるのでランウェイしちゃいます!」と笑顔。渡辺翔太は「ファイナルに引っ張られすぎず、誰も置いていかない作品づくりをしたい」と述べたあと、ムービーカメラに向かって「タッキー(滝沢)見てる? がんばります!」とアピールした。続く向井康二も「初心を思い出させてくれる舞台。お母さん見てる?」とタイの母親に呼びかける。阿部亮平は「Snow Manの歴史を語るうえで欠かせない作品。使命をしっかり果たせたら」、目黒蓮は「青春の時間が詰まった作品。ファイナルでも、ご覧になった皆さんの心の中に生き続けるのだと思います」、佐久間大介も「ステージに立つ心構えを学んだ」とそれぞれコメント。宮舘涼太は「桜って美しいですよね……」と切り出して会見場の空気を一変し、「桜は散るのではなく“舞う”というモットーでやってきました。今後はSnow Manとしてもっと枝を伸ばし大きな花を咲かせたい」と述べ、1月に出演し市川團十郎のもとで切磋琢磨した『初春歌舞伎公演 SANEMORI』仕込みの見得を切って報道陣を湧かせた。集大成となる本作には、ジャニーズJr.からSpeciaL(林蓮音、松尾龍、和田優希、中村浩大)と、少年忍者(ヴァサイェガ渉、内村颯太、豊田陸人、長瀬結星)が出演することも発表された。公演は東京・新橋演舞場にて。一部公演回は全国の映画館でライブビューイングが上映される。なお新橋演舞場では、ジャニーズJr.の井上瑞稀(HiHi Jets)が主演を務め、本高克樹(7 MEN 侍)が共演するミュージカル『ルーザーヴィル』が3月22日(水)まで上演中。活躍する先輩・Snow Manの背中を目指して奮闘する姿もチェックしてみては。取材・文:岡山朋代
2023年03月15日4月12日(水)まで、IHIステージアラウンド東京で絶賛上演中の『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』。ゲームの歌舞伎化は史上初、さらに『新作歌舞伎 風の谷のナウシカ』を成功に導いた尾上菊之助が企画と演出を担うとあって、熱い注目を集める話題作だ。出演は、菊之助をはじめ中村獅童、尾上松也、中村錦之助、坂東彌十郎、中村歌六、そして2022年の“ナウシカ”でタイトルロールを演じた中村米吉など豪華な顔ぶれ。主人公の父ジェクトを演じる彌十郎に意気込みを聞いた。物語は、少年ティーダ(菊之助)が召喚士の少女ユウナ(米吉)に出会い、仲間たちと共に巨大な魔物「シン」に立ち向かうさまが描かれる。「ジェクトはティーダの父親で、かつて“ブリッツボール”の花形選手だった男。身体能力は高いのに息子への愛情表現が下手で、ティーダから反感も買っている。不器用なヤツだなぁと思うんですが、それが彼という人物像のキーになっているとも感じるので、そこは意識して役づくりをしています」と彌十郎。さらに「劇中、ティーダたちはずっとジェクトの話をしていますし、ティーダとジェクトの親子関係は物語の中で特に重要な部分。主人公の父親であるという“大きさ”も忘れずに演じたいですね」と話す。そんなジェクト役へのオファーは、菊之助からの1本の電話から始まったとか。「『新しいことをやろうと思っているんですが、ご協力願えますか』と。僕はゲームのことはよく分かっていなかったのですが、菊之助さんがおっしゃるのなら、もう喜んで。即答で『やらせていただきます』とお返事しました」と彌十郎は語る。「スーパー歌舞伎」や「平成中村座」など、歌舞伎界の新しい潮目に多く立ち会ってきた彌十郎ならではの即断力だ。「たまたま自分のいた環境がそうだっただけなんですが……」と断りつつ、「ただ、若い頃から先輩達が新しく挑戦する姿を間近で見てきたので、新しいものに対して否定はせず、肯定から入るようにはしているかな。それにやっぱり自分が楽しまないと、お客様にも楽しんでもらえないので、出ると決めたからにはとことんやる。そうすれば、自然とお客様にも納得いただける舞台になると思っているんです」と笑顔を見せた。本作の稽古場でも、役者同士の活発なディスカッションが楽しいと言う彌十郎。「『ファイナルファンタジーX』について、周りの人に教えてもらったり、動画で観たりして研究しました。それで分かったのは、世界観が細かいところまで本当に魅力的で、それがたくさんの人に長く愛されている理由だということ。だから私のようにゲームを知らない方でも、普通にお芝居を観る感覚でいらしていただいて大丈夫です。逆にゲームから興味を持ったという方には、ぜひ“歌舞伎”への先入観をなくしていただいて。『ファイナルファンタジーX』の1つの新しい形として、この舞台を楽しんでいただければ嬉しいですね」取材・文/藤野さくら
2023年03月15日1873年に明治座の前身である芝居小屋が創建されてから150年。これを記念して、明治座創業百五十周年記念『壽祝桜四月大歌舞伎』が上演される。2月27日(月)に行われた合同取材会には、出演の中村梅玉、中村又五郎、中村芝翫、片岡孝太郎、松本幸四郎、片岡愛之助が登壇。招待されたファン30名も参加し、和やかなムードで行われた。まずは、『大杯觴酒戦強者(おおさかづきしゅせんのつわもの)』で酒豪の井伊直孝、『お祭り』では鳶頭梅吉を勤める梅玉。「『大杯~』は河竹黙阿弥が当時明治座の座元だった初代市川左團次さんのために書いたもの。“黙阿弥の世話物”とはまた違う感じが面白く、役者のニンで見せる演目です。『お祭り』では、お祝い気分を振りにも込めてお見せできれば」と語る。『絵本合法衢』で高橋弥十郎を勤める又五郎は、「幸四郎さんの演じる左枝大学之助/太平次(2役)は本当に悪い人。でも私はいい人(の役)です」と真顔で話し出し、ファンと取材陣から思わず笑いが。内容については「勧善懲悪ではありますが、“悪”だけでなく“善”の人間の性(さが)も描かれているのが魅力」と話した。孝太郎も「私は太平次の彼女になりそこねて殺されるお松と、いい人側の弥十郎妻皐月、両極端の役を」と茶目っ気たっぷりに挨拶。「初体験のお役で、玉三郎さんにもお稽古をつけていただきました。この作品は父(片岡仁左衛門)が何度かやっていますが、今回は幸四郎さん版ということで楽しみです」と微笑んだ。芝翫は、『大杯~』で原才助、『絵本~』で高橋瀬左衛門。「『大杯~』は24年ぶりの上演。色々と画期的なことをなさった初代左團次さんへの作品なので、リアルさもあれば世話物、義太夫も入って、歌舞伎の醍醐味が凝縮されています」と紹介。また「『絵本~』の幸四郎さんは悪い人役ということで、これは気持ちよく(終演後の食事も)誘ってもらえるのでは」と隣の幸四郎をチラリ。幸四郎は苦笑しつつ「どうも、悪い人です」と挨拶、会場中に笑いが起きる。その後は表情を引き締め「左枝大学之助/太平次は、祖父と父も勤めたお役。当時の台本の書き込みを見ながら作り上げたい」と意気込んだ。『大杯~』では内藤紀伊守で「歌舞伎の多彩なジャンルが詰まった4月興行。ぜひ色とりどりの舞台を楽しんでください」とアピールした。最後に愛之助が「名作『義経千本桜 鳥居前』の佐藤忠信実は源九郎狐を、初役ですので芝翫さんに教わって勤めさせていただきます」と挨拶。「今回は明治座百五十周年ということで、立ち回りもいつもとは変わったものにしたいと思っています」と笑顔で語った。取材会では明治座での思い出も語られ、梅玉が「あれは初舞台の頃だから…60年以上前?」と明治座との長いお付き合いに改めて驚くひと幕も。芝翫の「舞台と客席が一体となった、春らしい心晴れるような興行にしたい」との言葉に、ますます期待が膨らむ取材会となった。取材・文/藤野さくら
2023年03月13日3年半前に多くの反響を得た、日米クリエイターによるオリジナルミュージカル『FACTORY GIRLS ~私が描く物語~』が2023年6月に再演される。19世紀半ばのアメリカで、女性の権利を求めて戦った実在の女性サラとハリエットをモデルに、工場(ファクトリー)で働く女性たちの姿を描く今作は、性別にかかわらず多くの人の心を動かした。2019年読売演劇大賞優秀作品賞受賞作である。サラ役の柚希礼音は「女性だけに突き刺さる作品かなと思いきや、男性の方々にもとても刺さったと聞いて、ものすごく嬉しかった。中学校や高校の友達など同世代の人もこの作品が好きだと再演を喜んでくれ、3年半経っても待ち望んでくださる方がこんなにいるんだとウキウキしています」と声を弾ませる。初演の稽古時より「素晴らしい作品になるんじゃないかと手応えを感じていた」という柚希。恋愛ものが多い日本のミュージカルの中で、女性の労働と自立がメインとなる作品がどこまで受け入れるだろうという不安はすぐに無くなった。「皆が白熱してきて、稽古場の熱気がすごかった。宝塚の稽古場のようでした。こんなに自主稽古をするのかというほど、皆で何度も何度も稽古をして意見を出し合って、とても団結していました。再演ではまた新たなメンバーが加わるので、どうなるのか楽しみです」。サラは「たくさん、みんなに支えられて、立ち上がっていく。とても人間的で大好きなキャラクターだった」と柚希の思い入れは強い。脚本・歌詞・演出の板垣恭一からは「あなたは周りに汗をかかせて真ん中にいるリーダーじゃなくて、自分の心と体も汗だくになって表現するリーダーだから、それに感動した」と公演期間中に言われ、とても喜んだという。本作は、楽曲の力強さも大きな魅力だ。柚希は「譜面はすごく難しい。どうなってるの?このリズムとなってしまうほど。でもそのリズムをしっかり取ることによって表現されるものがある。初演時は振り付け、衣裳、歌、全てを必死にやりましたが、今思えば「あの工場のダンスはもうちょっとこうに踊れたんじゃないか」とか「登場のシーンはもっとこうできたんじゃないか」と客観的に見ることができているので、3年半の間に変化した自分でまた新たに臨めるのが楽しみです。あの時とは時代も変わったので、多くの方により届くようにまた0から作り上げていきたい。そして、初演よりも断然良くなっていることを目指したい」と再演に挑む。文・取材河野桃子
2023年03月13日ミュージカル『RENT』が2023年3月8日(水)から日比谷シアタークリエで開幕した。1996年の初演以来ブロードウェイで12年4ヶ月のロングランを果たし、2005年には映画化もされた本作。日本では1998年に初演された後も、繰り返し再演されている。今回はおよそ2年ぶりの再演で、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で開幕後に公演中止を余儀なくされた前回(2020年)公演のメンバーの多くが出演している。初日を前にした7日(火)、初日前会見とゲネプロが行われた。マーク役(Wキャスト)の花村想太は「この作品では、 自分たち自身のしんどい部分や辛い部分を曝け出してステージに臨んでいる。そんな僕たちから出るパワーを劇場で感じていただき、みなさんが生きていく中での糧になれたら嬉しいなという思いを込めて、ステージにあがりたい」と意気込んだ。同じくマーク役の平間壮一は、前回(2020年)公演からバージョンアップした点を問われると、日本版リステージのアンディ・セニョールJr.ら海外スタッフが来日できたことを挙げて「『RENT』の面白いところは、役者自身の人生観や役者同士の空気感がにじみ出ることだが、アンディたちがそれらを1つにまとめてくれて。やっと『RENT』ができるなという感じで、僕も楽しみ」と話した。ミミ役(Wキャスト)の八木アリサも「(前回は)リモートでの稽古だったが、生での指導になった。こんなにも掴める空気や感覚が違うんだと思った」と話し、同じくミミ役の遥海は「前回一緒だったけれど、今回出演しない方々は(公演中止になって)本当に悔しかったと思う。まさに“NO DAY BUT TODAY”で、1回ずつの公演を命がけで突き進んでいきたい」とリベンジを誓っていた。ロジャー役(Wキャスト)の甲斐翔真は「ロジャー役は僕がミュージカル人生で初めて勝ち取った役で、2年前は体当たりで演じた記憶がある。僕は再演自体が初めてで、1回やったことをもう一度料理する難しさを感じたが、アンディに『その悩んでいる感じを活かせばいい』と言われて。自分の感情に正直に生きられたら」と話し、同じくロジャー役で、今回が初参加となる古屋敬多は「リアルを求められる作品なので、少しでも嘘臭さが出てしまうと浮いてしまうが、みんながもうすでにそのリアルを体現していたので、僕はそこに入るだけだった。再演組のメンバーに助けられた」と述べた。上演時間は約2時間45分(休憩あり)。初演以来、変わらず勇気と愛を伝え続けてきた『RENT』。コロナ禍や分断された社会の状況から鑑みても、本作がもつパワーを改めて思い知る。「過去もない、未来もない。今日という日を精一杯生きる(NO DAY BUT TODAY)」という言葉を噛みしめながら、名曲揃いの本作を堪能してほしい。東京公演は4月2日(日)まで。取材・文:五月女菜穂
2023年03月10日新国立劇場の2023/2024シーズンのラインアップ記者会見が3月7日(火)に開催された。コロナ禍による収入減、そしてウクライナ紛争による物価高、エネルギー価格の高騰を踏まえ、一部の演目の延期、入場料の改訂が明らかになった。舞踊部門に関しても、当初、考えていた「ニューイヤー・バレエ」の新制作を延期することになり、新作はゼロとなった。吉田都芸術監督は「立て直しのシーズンになる」と外的要因による苦しい現状を吐露しつつも「バレエ団は非常に充実しています」と強調。「歴代の芸術監督への感謝を込めてオマージュのシーズンとしました」と明かした。新シーズンのオープニングを飾るのは、新国立劇場初代芸術監督である島田廣が強い思い入れを持って上演し、吉田芸術監督も初演時にゲスト主演をしたという『ドン・キホーテ』。続く「DANCE to the Future:Young NBJ GALA」は、若手ダンサーにスポットライトを当てたガラ公演となっており吉田芸術監督は「若手ダンサーたちは主役を踊る機会がなかなかないですが、未来のスターを育てたいと思っていますし、このチャンスを活かしてほしい」と若き才能への期待を口にする。年末から年始にかけては「くるみ割り人形」を上演。先述のように「ニューイヤー・バレエ」がなくなった分、ダンサーたちの身体的な負担が軽減される一方で、公演数自体は増やしている。続く「ホフマン物語」は、前芸術監督の大原永子が女性のメインロールを全て踊ったことがあるという演目であり、吉田芸術監督は「大原先生にまた来日していただいて、ダンサーたちに喝を入れていただけたら」と大原に指導を依頼する考えを明かした。さらに4月から5月にかけて上演の「ラ・バヤデール」は、2021年に亡くなった元芸術監督の牧阿佐美が2000年に新国立劇場で改訂振付第1作として新制作された作品であり、吉田芸術監督は「古典バレエの様式美を堪能できる作品」と語る。6月にはデヴィッド・ピントレー元芸術監督が新国立劇場のために振り付けたオリジナル作品『アラジン』を再演するが、吉田芸術監督は「振付家により直接の指導は、ダンサーたちの成長につながり刺激になる」とピントレー氏の来日を熱望した。また森山開次が子どもから大人まで楽しめるプログラムとして制作した「NINJA」を中劇場用にスケールアップさせた「新版・NINJA」の再演も行なわれるほか、エデュケーショナル・プログラムとして「白鳥の湖」が上演される。取材・文:黒豆直樹
2023年03月09日2022年4月4日、『MBSらくごスペシャル 春蝶・吉弥と一之輔 三人噺』がシアタードラマシティで初開催された。出演は次代の落語界の担い手と嘱望される東西の実力派3人。上方落語家の桂春蝶、桂吉弥と、江戸落語の春風亭一之輔が、それぞれ渾身の一席で満員のドラマシティを沸かせた。『春蝶・吉弥と一之輔 三人噺 2023』チケット情報まずはトークコーナーからスタート。一之輔は「みんなありがとー!」とコンサートのような掛け声で盛り上げる。作り込まれた手描きの舞台美術にも「めちゃめちゃすごい」と吉弥は感激。春蝶も舞台美術に仕込まれた演出に感心している様子だ。トップバッターを務める吉弥は『愛宕山』を披露。「今日は2挺といって、三味線のお師匠さん二人に来てもらいました」と音曲効果の"はめもの”も豪華だと話す。マクラでは『愛宕山』の解説もし、桂吉朝に入門後、桂米朝の家に住みこみで修業していたころの芸者にまつわるエピソードなども明かした。本編では、春爛漫の京都・愛宕山の風情をたっぷり詰め込み、旦那や太鼓持ち、芸者たちなど登場人物を巧みに活写。にぎやかで華のある高座で盛り上げた。続いては春風亭一之輔が『青菜』を口演した。真夏のひと時を描いた『青菜』、一之輔のさっぱりした口調が暑さを吹き飛ばすようだ。優雅でずっしりとした存在感のある旦那に、やや品性が欠けるものの愛嬌たっぷりの植木屋、歯に衣着せぬ物言いで気風の良い植木屋の妻など、キャラクターを際立たせ、真夏の江戸の情景をシアタードラマシティに浮かび上がらせた。最後は春蝶で『浜野矩随』。事前の取材で春蝶は「(この噺には)自分がかつて二世として情けないと思ってきたことをオールインしてみた。そうすることによって、自分なりの『浜野矩随』になっていくのかなと思う」と話していたように、セリフの一つひとつに気を込める。亡くなった父を超えられない息子が苦悩を独白する場面では、子を思う母を切々と演じ、ぐっと引き込む。一方で、「私がこれをやりたいだけ」と好きな映画のオマージュも取り入れ、場を緩める。最後は、「母親の愛は深いものだと今は分かるような気がする。この一席だけはちょうどひと月前に亡くなった母に捧げたい」と締めくくった春蝶。大きな拍手に包まれて、幕を閉じた。第二回となる2023年は4月28日(金)、大阪市中央公会堂 大集会室にて。夜の部(18:00開演)が完売につき、追加公演として昼の部(13:45開演)の開催が決定した。さらに、昼の部の演目はそれぞれ、春蝶『二階ぞめき』、吉弥『親子酒』、一之輔『子別れ』に決定。夜の部は昼の部とは違う演目になるそうで、後日発表されるのでお楽しみに。追加公演のチケットは先行(抽選)受付中。取材・文/岩本
2023年02月28日暴走族風のファッションをまとった子猫のキャラクターで80年代に一大ブームを巻き起こした「なめ猫」を舞台化した「なめ猫 on STAGE」が“猫の日”の2月22日(水)に新宿FACEにて開幕した。脚本を「しずる」の村上純が執筆し、演出を村井雄(KPR/開幕ペナントレース)、さらに音楽を手島いさむ(UNICORN)が担当するという豪華布陣による本作。令和の現代を舞台に、昭和のロックをこよなく愛するバンド「not men not 4」、ヒップホップチームの「ゲルマウス」が学園祭でのステージに立つ1枠を争うという物語が展開する。登場人物たちは、それぞれのファッションに身を包みつつ、全員が猫耳と尻尾を装着したなめ猫スタイル。舞台は現代だが、昭和のカルチャーに傾倒する「not men not 4」の面々の口からは昭和から平成にかけて流行した言葉やスタイルが次々と飛び出す。「シャばい」「竹の子族」、さらには宮沢りえの主演ドラマのセリフなどなど、リアルタイムで80~90年代に青春を過ごした人にしかわからないような言葉が頻出! 一方で、学園祭のステージに立つバンドを決める方法がTwitterのリツイート数を競うというやり方であったり、練習に使っていたスタジオがオンライン予約を始めたために、ガラケーしか持っておらず、これまで当日に電話で予約をしていた「not men not 4」が全く予約が取れなくなってしまう、そしてネット用語の「草」など、令和の現代ならではのアイテムや言葉も数多く登場し「令和vs昭和」といった様相を呈す。とはいえ、本作はいわゆる“ヤンキー”ものではない。「not men not 4」のメンバーたちも不良やツッパリでもなく、ただ昭和のロックを愛し、当時のスタイルをまねているだけで暴力的なケンカのシーンなどはなく、彼らが対峙するヒップホップグループ「ゲルマウス」も同様。原作のなめ猫は暴走族のイメージが強いが、令和の時代に合わせて今回のステージはアップデートされており、戦いはあくまでもバンド対決。終盤のあるシーンで、観客に対して「撮影OK!」と提示するというのも、SNS全盛の現代らしい仕掛けと言える。そして、なんと言っても魅力的なのがライブシーン。冒頭の「not men not 4」のライブに始まり、中盤、そしてラストまで音楽シーンが満載だが、手島いさむが音楽を担当しているだけあって、楽曲のクオリティは一舞台作品の中にとどめておくにはもったいないほど。昭和の懐かしさを感じつつ、ライブを堪能できる盛りだくさんな作品となっている。「なめ猫 on STAGE」は3月1日(水)まで新宿FACEにて上演中。取材・文:黒豆直樹
2023年02月27日“文春砲”でおなじみの出版社、文藝春秋が主催する落語会が「文春落語」だ。2020年、コロナ禍をものともせずスタートした。核となっているのは人気落語家の柳家喬太郎の独演会配信で、落語のほかに講談、浪曲、色物など多彩なゲストを迎えた企画ものも交えながら、オンライン落語会「文春落語オンライン」を毎月開催してきた。3年経った現在、配信の落語会は少なくなった。しかし「文春落語オンライン」はチケットが取りにくい喬太郎がお目当てのファンに支持され、時々ハイブリッド(有観客での配信)にするなどして継続中だ。定年のない演芸の世界では、もともと高齢の演者が頑張っていたが、ここ数年で人間国宝の柳家小三治、新作王の三遊亭円丈、六代目三遊亭円楽ら多くのベテランが亡くなった。彼らがいなくなり空いた“出番”には、桂宮治、柳亭小痴楽ら近年真打に昇進した若手が台頭し、寄席のレギュラーに定着しつつある。今年2月には、「笑点」の新レギュラーに春風亭一之輔を起用という明るい話題が生まれた。超売れっ子の一之輔の加入で、落語に興味を持ち、寄席に行ってみようという流れが確実に増えるだろう。今、寄席は「イキの良い落語」の聞きどきで、客席にも“新顔”が増えつつあるのだ。4月27日(木)に開催される「文春らくご動物園」も、その世代交代の流れを感じさせる顔ぶれで注目の公演。今春から「文春落語」は、毎月の喬太郎の配信と並行して、リアル公演を積極的に開催していくという。強力な助っ人として、演芸評論家の長井好弘がアドバイザーで参加し、「自分が聞いてみたいと思う番組」を練っていった。「文春らくご動物園」はその第一弾公演になる。落語会としては一風変わった「動物園」というタイトルも長井のアイデア。すべての演目に馬やネズミ、豚といった動物が登場し、彼らをめぐる悲喜交々の人間模様(?)が繰り広げられる。“演芸ビギナー”にも親しみやすいだろう。出演は昼夜入れ替わりで、いずれも寄席や落語会のレギュラーに定着しつつある世代。実力は申し分ないと長井も太鼓判を押す。まさに気鋭の若手中堅を聞きたい人にはうってつけで、コロナと共存する時代の試金石となりうる会だと確信している。■「文春らくご動物園」2023年4月27日(木)会場:伝承ホール
2023年02月27日2019年に上演され、好評を博した舞台『BACKBEAT』。再演の幕開けを飾る製作発表は、「Rock And Roll Music」のラウドなバンドアンサンブルから始まった。主人公であるスチュアートを演じる戸塚祥太(A.B.C-Z)、ジョン・加藤和樹、ジョージ・辰巳雄大(ふぉ~ゆ~)、ポール・JUON(FUZZY CONTROL)、ピート・上口耕平が、続けて「Love Me Tender」「Long Tall Sally」とビートルズナンバーを演奏。既に初演を通じて共に演奏してきただけに、チームワークの確かさを感じさせる。そして、スチュアートと恋に落ちる写真家アストリッド・キルヒヘルを演じる愛加あゆ、実際のビートルズ来日公演で前座を務めた経験もある尾藤イサオも加わり、キャスト7名による質疑応答が行われた。演奏を終えたばかりの戸塚らは、まだ興奮が冷めやらぬよう。「4年という歳月を一気にタイムスリップした感覚で、『これを求めてたんだ』って(いう思いが)体の中に沸き起こってきました」と笑みを浮かべた。さらに初演では、ほとんどギターを弾けなかったのに出演を志願したという辰巳が、最初は演出・石丸さち子らを「あんなに人って口が開くんだってくらい」(辰巳)呆然とさせたところから、1日8時間以上の猛練習を経て本番では立派に演奏をこなしたエピソードを紹介。再演でさらに練習を重ね、ついにギターソロまでこなすように。「彼のギターが大好き。ソロを弾いてくれたりするとぶっちゃけ上がります!」(JUON)と、メンバーにとっても大きな刺激であるらしい。初演後もグループメールで繋がっていたという5人。「JUONくんが僕らのために曲を書き下ろしてくれたので、いつかみんなで演奏したい!CDデビューもライブツアーもしたい!」と辰巳が語れば、ラーメン二郎に心酔する「ジロリアン」として知る人ぞ知る加藤が自前で仕込んだラーメンでメンバーをもてなすなど、「小さい時から一緒に育ってきたような、安心感があって飾らない自分でいられる仲間」(加藤)の絆は揺るぎないようだ。そんな彼らだからこその、芝居と演奏との融合。それを上口は「心の流れと一緒に演奏も変わっていく」と表現。再演ではさらにシンクロ度を上げていきたいと意欲を見せた。そして最後は戸塚が「再演とはいえ過去の自分たちをなぞらずに進化した自分たちで皆さんの前に立ちたい。『BACKBEAT』はここでしか体験できません。劇場で会いましょう!」と力強く締めくくった。取材・文:金井まゆみ
2023年02月27日役者の台詞・音楽・歌などの音声のみで表現されるオーディオミュージカル『星月夜』のオンライン配信が3月30日(木)より開始する。本作は、画家ヴィンセント・ヴァン・ゴッホと、弟テオの物語。数々の名画を創造しながらも、苛烈な人生を走り抜いた『炎の画家』兄 ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ。孤高の画家の唯一の理解者であり、その才能を愛し支え続けた弟 テオドルス・ヴァン・ゴッホ。650通以上に渡る書簡を基に、兄弟の絆を描く。キャストには、ヴィンセント役として声優の白井悠介氏、テオ役に同じく声優の伊東健人氏を迎えた。『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』『アイドルマスターSideM』など数々の話題作で活躍し、演技力と歌唱力に定評のある両氏。「声」ひとつで作品世界を鮮やかに現出させてきた彼らが、ともに初となるミュージカル作品に挑戦する。全10曲の多彩なミュージカルナンバーで送る、兄弟の愛・才能・命の物語。本作でしか聴く事の出来ない美しい歌唱とその物語に期待が高まる。特典付きチケットを購入すると、キャスト二人の歌唱映像(4曲)・メイキング映像の視聴ができるほか、鑑賞の思い出としてキャストサイン付きデジタルパンフレット、複製譜面のダウンロードが可能。チケット発売は、2月27日(月) 12:00から4月13日(木) 20:00まで。配信期間は、3月30日(木) 20:00から4月13日(木) 23:59までの2週間限定配信(チケット購入後は、配信期間内で何度でも視聴可能)。視聴料金は、本編のみ(約60分)2,300円(税込) / 本編(約60分)+特典付5,500円(税込)。
2023年02月27日ストーリー性のある演劇的な世界観をダンスとJ-POPで創り上げるエンターテインメント集団「梅棒」による16th showdown『曇天ガエシ』が2023年3月10日(金)から東京・なかのZERO大ホール、16日(木)から新国立劇場中劇場ほかで上演される。物語の舞台は、“オウゴン”の採掘により発展した「ジパングリ」。王の妻によるクーデターが勃発し、跡継ぎだったメツ王子は物心つかないうちに王宮を追われ、行方不明になる。それから十数年。女王の圧政に苦しむ人々の救いは、国からオウゴンを盗み出して民に分け与える義賊集団「マサゴ」だった。その中に、成長し街を飛び回るメツの姿が......。一方、武力で圧政を覆そうとするテロ組織「クニクズシ」も怪しい動きを見せていた。ある日、メツは女王の息子であるヌューダ王子と偶然街で出会い、運命の歯車が回りだす――。本作は梅棒史上最大規模で、「サイバーパンクと和が融合するファンタジー超大作」という。初日まで1ヶ月を切った2月中旬、適切な感染予防対策を講じた上で、都内で行われている稽古を見学した。よりスペクタクルな作品にするために欠かせない舞台装置。可動式の舞台セットを安全に動かすため、場面転換の確認から稽古が始まった。梅棒の舞台を観たことがある人は想像がつくと思うが、梅棒作品はとにかく役者の移動が多く、いろいろな小道具が登場する。しかもすべてが曲あわせなので、一人一人の動きを細かく調整しないと、タイミングがズレたり、大変な事故につながったりしてしまう。それゆえ場面転換の確認はとても大事になってくるわけだ。「1,2,3,4……」とカウントを数えながら何度か動きを確認した後、実際の曲を流して再確認。何か不都合があった場合はどうしたら解決できるのか、メンバーが一丸となって意見を出し合っていた。その後は、通し稽古。まだ初日まで1ヶ月ほど時間があるが、ここからブラッシュアップをするとはいえ、ほぼ全てのストーリーと振付が“完成”していたので驚いた。詳細な見どころや選曲は本番のお楽しみとしておきたいが、ゲスト出演するw-inds.の千葉涼平、元宝塚歌劇団の音くり寿、鳥越裕貴らがダンスだけでなく「芝居力」でストーリーを盛り上げていたし、IGのポールダンス、上西隆史のエアダンスなども相まって、振付もいつも以上に高難度なものばかり。梅棒作品の中でもここまでギャグ要素が少ない作品は珍しい気がするが、果たして本番ではどんな世界観を見せてくれるのか、ますます楽しみになった。東京公演は3月10日(金)~12日(日)、なかのZERO大ホール。16日(木)~22日(水)、新国立劇場中劇場。大阪公演は3月31日(金)~4月2日(日)、森ノ宮ピロティホール。愛知公演は4月8日(土)、9日(日)、日本特殊陶業市民会館ビレッジホール。取材・文:五月女菜穂
2023年02月22日音月桂、宝塚以来の男役解禁!阿久津仁愛はフランス式会話劇の激しさに…フランスでロングラン上演された「それを言っちゃお終い」の日本初演ドラマリーディングが六本木トリコロールシアターにて2月24日より始まる。15篇にわたる物語で構成され、何十年も息子のためにケーキを作り続けてきた母親に、嫁の立場で「ママのケーキ、パサパサしてる」と言えるか…? など「それを言っちゃ…」な会話の応酬が繰り広げられる。全篇に出演する音月桂、そして相手役を務める阿久津仁愛に本作の魅力を語ってもらった。――台本を読まれての印象を教えてください。音月:朗読というよりも“会話”を大切にしていて、日常的な会話がテンポよく繰り広げられていく感じで、読むだけでイメージがわいてきました。ただ、フランスの男女のお話なので、日本人との温度差があまりに激しくて…「え? これケンカ?」というくらい、ハードな言葉の掛け合いなんですよね(笑)。阿久津:日本ではあまり見ない形のコミュニケーションというか、お互いが意見を持って議論するさまは、僕も最初「ケンカ?」と感じました(笑)。でも、激しい言葉のやりとりの中で2人の関係性が見えてくるんですよね。音月:激しい言葉の中に愛があるというか、互いを思い合う気持ちが感じられるんですよね。――観客にとっては2人の会話は「わかる!その気持ち」という感じでしょうか?それとも文化の違いに驚かされる感じでしょうか?阿久津:どうでしょうね、驚きはあるんですけど、日本人の僕らがこれをやる面白さも感じてもらえる気がしています。そう言う僕自身、きついこと言われるといつまでも気にしちゃうタイプなんですけど(笑)。音月:私も「議論する文化」というのが自分の中にあまりなくて、どちらかと言うと丸く収めたがる「THE 和!」な人間です(笑)。だから意見を言うってエネルギーをものすごく使います。でも、演じながら信頼があるから言い合えるんだと感じるし、言わないのが優しさではないんだとも思います。観ている方にも「思っていることを伝えよう」と感じてもらえるんじゃないかと。――音月さんは劇中の一篇で、宝塚退団以来、久々に“男役”を演じられるそうですね?音月:宝塚を卒業してから10年も経っているので久々に演じてみたら喉が…(笑)。男性役を演じることはもうないと思っていましたが、女優を経験して、以前の男役とはまた違った成長を見せられたらと思います。――音月さんが男役を演じるということは、相手役の男性キャストが“女性”を演じるということになるんでしょうか?阿久津:そこは観てのお楽しみということで(笑)。音月:体感型というか「演劇を見る」というより私たちの日常に入り込んで、お茶の間で突っ込むような感覚で楽しんでいただけたらと思います!「それを言っちゃお終い」は2月24日より開幕。文:黒豆直樹
2023年02月21日2月25日(土)・26日(日)に東京・草月ホール、3月13日(月)・14日(火)に大阪・松下IMPホールで開催される、Aマッソのお笑いライブ『滑稽』。企画・演出をテレビ東京の大森時生プロデューサーが担当と、いつもの単独ライブとは少し毛色の違ったものになりそうだ。「滑稽」チケット情報大森Pとの出会いは、2021年末にBSテレ東で放送された『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』だった。「その後も大森さんが作っているものを見て、面白いなって。ご飯に行ったきっかけで“何かしませんか”と。私はテレビで企画を一緒にやるんかなと思っていたら、意外と大森さんが“僕、ライブをやったことがないので、ライブやりたいです”と。お互いにないものねだりという感じで、“じゃライブをやりましょう”となりました」と加納。村上も「ええんちゃう!?って思いました。ええやん!ええやん!何でもやってみよう!」いつもの単独は制作面の作業も多いが、今回はネタに集中できているという。キービジュアルなどのコンセプトも大森Pが担っている。「たくさんの人に携わってもらっているので、規模感も含めてすごく楽しみです。ライブも私が考えつかない部分もあるし、一緒に作っている感じはありますね。お笑いファンを長くやっている方は、もしかしたら、普段のお笑いライブを見に行った帰り道とは、読後感みたいなものが違うかもしれないです」と加納。続けざまに、それはどんな感覚だろうかと尋ねると、「お笑いだけでもないので、爽快感はないかもしれないです。湿度は高いですね。カラッとはしていない。大森さんの作るものがそもそも不穏なものが多いので、“ねっちょり”ですね」。この取材は、東京公演の約2週間前に行った。上記の加納のコメントを横で聞いていた村上は「そうなんや!」と初耳の様子だ。「私はまだねっちょりしてないですね。今は、カラッとしてます!」と屈託のない笑顔を見せた。単独ライブは最も心血を注げる場と加納。「言い訳できない場でもありますしね。劇場はドホームですから、絶対ウケなければいけないしっていうプレッシャーもありながら、好きなことをやるので楽しみでもあり。一番やりがいがある仕事です」。村上にとっては?「一番しゃべる日です」。ネタ作りは加納が一任。村上は来たる本番に向けてコンディションを整えている最中だという。「毎日、歩いたり、おいしいもん食べたり。たまにお酒も飲みます…すいませんっ!!」。公演は2月25日(土)・26日(日)に東京・草月ホール、3月13日(月)・14日(火)に大阪・松下IMPホールにて。チケット発売中。PIA LIVE STREAMでは、2月25日(土)18時公演を生配信。アーカイブ配信あり。取材・文:岩本
2023年02月20日高橋一生が演劇界の栄誉、第29回読売演劇大賞にて最優秀男優賞に選ばれ大賞・最優秀作品賞も受賞したNODA・MAP「フェイクスピア」(2021)。同作でタッグを組んだ橋爪功と親子役を演じているドラマ「6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の憂鬱」は、急逝した花火師の父とその息子、そして2人の前に突然現れた女性(本田翼)が織りなすホームドラマで、花火師という“仕掛け”や地方都市でのロケがありながらも、基本的にはテンポのいい会話劇が繰り広げられている。第5話は、高橋さん演じる望月星太郎だけに姿が見える父・航(橋爪さん)は「本当に“幽霊”なのか?」と、ひかり(本田さん)に問われ、星太郎のみならず視聴者たちも皆ハッとする、というラストで幕を閉じた。そんな不思議な日常が描かれる、ひと筋縄では行かないファンタジーとなる本作。これまで数多くの作品に出演してきた高橋さんだが、「ジョジョの奇妙な冒険」のスピンオフから生まれた「岸辺露伴は動かない」は大好評につき、制作陣が再集結して映画化も決定。アニメ「ムーミン谷のなかまたち」ではスナフキンの声優を務め、『シン・ウルトラマン』ではウルトラマンの声を担当するなど、“日常を超越した”世界はお手のもの!?今回はファンタジーな世界観に生きる高橋さんに注目した。互いをリスペクトする橋爪功との共演「6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の憂鬱」8歳で児童劇団に入り子役としてデビュー、映像作品とともに演劇作品でも蜷川幸雄演出「から騒ぎ」や藤田俊太郎演出「天保十二年のシェイクスピア」など、多くの代表作を持つ高橋さん。橋爪さんと共演したNODA・MAP「フェイクスピア」はフェイクが飛び交う時代に、真実の言葉を巡る物語。高橋さんは“コトノハ(言の葉)”の詰まった筺を持つ記憶をなくした主人公・monoを演じた。その筺とは、日航機墜落事故で残されたボイスレコーダーがモチーフとなっている。その舞台を機に、橋爪さんは「以前からも『面白い役者だな』と思っていた」という高橋さんと意気投合、世代を超えて互いにリスペクトを送り合う2人が「一緒にドラマをやりたい」と今回、再タッグが実現した。そんな「6秒間の軌跡」は、草彅剛の代表作「僕シリーズ」などで知られ、小芝風花主演「モコミ~彼女ちょっとヘンだけど~」で向田邦子賞を受賞した橋部敦子によるオリジナル脚本。高橋さんは橋部さん脚本のドラマ「僕らは奇跡でできている」で主演し、橋爪さんは「モコミ」で主人公の祖父役を演じた縁がある。「『花火師』『父子』『死』というキーワードをいただいたところから脚本づくりが始まりました。レギュラーキャストが3人だけで、できるだけ家の中のシーンという制約の中、会話劇という形でとても自由に書かせていただきました」と橋部さんは公式サイトでコメントしており、「日常のドラマですが、死んだはずなのに現れた航と突然家に住み込むことになったひかりによって、星太郎は大きくゆらぎます」と解説している。「6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の憂鬱」5話よりコロナ禍で夏の風物詩ともいえる花火大会が中止となり、大打撃を受けた花火業界。2人暮らしの親子が営む望月煙火店も例にもれず、個人向け花火を始めようかと父・航が提案していた矢先に、航は「すまん…」と言い残して突然他界。遺された星太郎のもとに、“あなたのためだけの花火を打ち上げます”と書かれたチラシを持ったひかりが現れ、その花火を打ち上げた後は煙火店で住み込みで働くことになる。繊細な作業と大胆な発想が求められる花火師。いままであまり知られることのなかったその仕事の一端を覗くことができる一方で、伸びっぱなしの髪とスウェットに半纏、若干世情に疎く、ひかりとの同居にも動揺が隠せない星太郎を演じる高橋さんはやはり職人役がよく似合う。花火作りを実際に体験し「細かい緻密な作業は嫌いではなかった」と自身でもふり返っていた。そして、星太郎が9歳のときから23年間、2人で花火と向き合ってきて「一番の変化が親父が死んだこと」というくらい二人三脚だった父子。それがいまや、橋爪さん演じる航は神出鬼没の幽霊(?)となって時々、星太郎の前に現れる。2人の口ゲンカは絶えることなく、ひかりの同居話に「落ち着いてくださいよ」「お前だよ」という絶妙なツッコミ合いもこの父子ならでは。かと思えば、ひかりのために上げた花火には「いい花火だった」とストレートに褒めてくれる温かさがあり、「(今度は)突然いなくなったりしないでくれ」と星太郎のほうにも、ふと本音がこぼれる瞬間がある。しかも困ったことに、幽霊(?)の航と謎多きひかりは、彼女にその姿は見えずとも何だか気が合うところがある様子。「(航のことが)見えてんの? 聞こえてんの?」「見えてませんし、聞こえてません」というやりとりが、星太郎とひかりの間で繰り返されていく。「6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の憂鬱」5話よりそのひかりは、不思議と本質を突いてくる。第4話では本作のタイトルである6秒間とは、4号玉の花火が打ち上がってから開き終えるまでの時間ということが、彼女の問いから判明した。その6秒間の煌めきのために、2か月かける世界が花火師。生前の航を知らなくても、そんな“2人だけがわかり合ってる世界”がひかりには通じているようだ。人もまた何十年生きてきても、一瞬で花が散ることもある儚いもの。長い期間をかけて稽古を重ね、1回1回の本番に臨む“生もの”といわれる演劇にも相通じるものがありそうだ。さらに第5話では、定年退職する小学校の担任のための同窓会に行きたくない、花火も上げたくないと、子どものように駄々をこねる星太郎に、ひかりは「キレるくらいならちゃんと説明して」と至極まっとうに反論する。ひかりの出現とその何気ない問いかけによって、実は癒やしきれない傷でいっぱいの星太郎の胸に何かが確実に刺さっていることは間違いない。「6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の憂鬱」5話より“あの人”とずっと呼んできた母・理代子についてもそうだ。航と星太郎はくだらない会話で日常を埋めてきたが、特に9歳という十分に物心がついている星太郎が「“あの人”は母親なんかじゃない」「母親なんていらない」といったプライドで覆い隠してきた喪失感を自覚するきっかけを、ひかりがもたらしている。この2人に翻弄されまくっている“星太郎”高橋さんが堪らない、というファンも多いのではないだろうか。「物語の終盤では更にゆらがす重要な人物も現れます」と脚本の橋部さんは宣言しており、その人物の登場とゆらぎ続ける“星太郎”高橋さんから目が離せない。【第6話あらすじ】望月航の遺品整理をする望月星太郎。中には、ガラクタのようなものまで混じっており、星太郎は「なんでとってあるかな」と嘆くが、航は、そのうちに捨てようと思っていたら死んでしまった、先送りにしていてはだめだと語る。その後、星太郎は幼馴染の田中勇人(小久保寿人)に花火を打ち上げた後、クラス会に顔を出すと告げる。また、ひかりから母親の写真が見たいとお願いされた星太郎は、手元にあった母親の写真をひかりに見せる。するとひかりは「お父さんの秘密を知っちゃったかもしれません」と言い出す。結局、星太郎はクラス会に顔を出さずに帰宅。実は別れた恋人・由紀子(安藤聖)もクラス会に出席してして、顔を合わせるのが気まずかったようで…。ドラマ「僕らは奇跡でできている」(2018)高橋さんの民放ゴールデン・プライム帯の連ドラ初主演作。韓国ドラマ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」を彷彿とさせるファンタジー要素も交えたハートフルドラマ。座学よりもフィールドワークが大好きな動物行動学の大学講師・相河一輝は、周りの評価は一切気にしない、超マイペースな主人公だが、画一主義を良しとする社会から見れば“変わり者”とされる人物の生きづらさを、どこか愛らしく体現できるのは高橋さんならでは。映画『ロマンスドール』(2019)蒼井優と『リリイ・シュシュのすべて』以来18年ぶりの共演で夫婦を演じたラブストーリーで、原作者でもあるタナダユキ監督は「私の中では、ダーク・ファンタジー」と語る『ロマンスドール』。今作で黙々と作業をこなす職人ぶりは健在で、「演技力と手先の器用さをあわせもつ俳優が演じることが絶対条件」と監督が語ったように、どうせやるなら良いものを作りたい、という気概を持つ美大卒のラブドール造形士・哲雄は高橋さんのハマり役に。造形士の師匠(きたろう)の存在と、彼を亡くしてからの人生の変化に注目。ドラマ「天国と地獄 ~サイコな2人~」(2021)高橋さんの人気を決定づけたNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」の小野政次役を生み出し、現在はドラマ10「大奥」も話題の森下佳子が脚本を手がけ、綾瀬はるか演じる警視庁捜査一課の女性刑事・望月彩子との“入れ替わり”演技が大きな注目を集めたサスペンスドラマ。『転校生』のように「階段から転げ落ちたら魂が入れ替わっていた」という設定を納得させる両者の演技に脱帽。高橋さんはサイコパスな殺人鬼・日高陽斗と、“中身”が彩子になった日高のいわば二役を見事に演じ分けた。原作ファンも異論なし!「岸辺露伴」がスクリーンへ演劇的といえば、今作もそうかもしれない。人の記憶を本にして読むことができる特殊能力“ヘブンズ・ドアー”を備えた人気マンガ家・岸辺露伴。その人物デザイン監修・衣装デザインを柘植伊佐夫、アニメ「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズも手がけている脚本・小林靖子や、川端康成原作の高橋さん主演ドラマ「雪国-SNOW COUNTRY-」演出も手がけた渡辺一貴監督らが創りあげた世界は、高橋さんと編集者・泉京香役の飯豊まりえや、濃厚なキャラクターを演じるキャスト陣との会話劇の妙を楽しむ側面もある。2020年から3期にわたり話題を呼んだドラマシリーズの“猛者”たちが続投し、2009年にフランス・ルーヴル美術館のバンド・デシネプロジェクトのために描き下ろされた読切作品を映画化する『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は、露伴のルーツを描くため、原作ファンも、ドラマからのファンも、そのどちらも知らない方も楽しむことができそうだ。「6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の憂鬱」は毎週土曜23時30分~テレビ朝日系で放送中。『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は5月26日(金)より全国にて公開。(上原礼子)■関連作品:岸辺露伴 ルーヴルへ行く 2023年5月26日より公開© 2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 © LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
2023年02月18日英国の権威ある演劇賞「第23回WhatsOnStage Awards」の授賞式がロンドンで行われ、スタジオジブリのアニメーション映画『となりのトトロ』を舞台化した「My Neighbour Totoro」が、最優秀演出賞など最多の5冠を受賞した。映画で音楽を手掛けた作曲家の久石譲が舞台化を提案し、宮崎駿監督がこれを快諾したことで始まったプロジェクト。久石氏がエグゼクティブ・プロデューサーを務め、イギリスの名門演劇カンパニー「ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)」と日本テレビが共同製作し、舞台化した。昨年10月8日~今年1月21日までロンドンのバービカン劇場で上演した舞台は、久石氏の音楽、原作を尊重した世界観、そしてRSCならではの作劇力で観客の心をつかみ、13万3,000枚のチケットは完売。連日万雷の拍手とスタンディングオベーションが続き、ガーディアン紙をはじめ多くの劇評で五つ星を獲得するなど、高評価を得ていた。最優秀演出賞を受賞したフェリム・マクダーモットは授賞式で「原作の精神に導かれるように、皆で一丸となって作り上げたショーです。パンデミックで街に人がいない中、バービカン劇場で様々なトライを続けました。キャストは卓越したアンサンブルでこのショーを育み、お客様の気持ちが加わって完成しました。私はこの賞を、個人としてではなく、チームとして受け取りたいと思います」と喜びをコメントした。最多の9部門でノミネートされていた本作は、演出賞ほか舞台美術、照明デザイン、音楽監督、音響デザインを受賞。4月には英国演劇界で最も注目されるローレンス・オリヴィエ賞も控えており、さらなる受賞も注目されている。「My Neighbour Totoro」(となりのトトロ)第23回WhatsOnStage Awards受賞一覧◆Best Direction(最優秀演出賞)- Phelim McDermott(フェリム・マクダーモット)◆Best Musical Direction/Supervision(最優秀音楽監督賞)- Bruce O‘Neil(ブルース・オーネリ) and Matt Smith(マット・スミス)◆Best Set Design(最優秀舞台美術賞)- Tom Pye (トム・パイ)and Basil Twist(バジル・ツイスト)◆Best Lighting Design(最優秀照明デザイン賞)- Jessica Hung Han Yun(ジェシカ・ハン・ハンユン)◆Best Sound Design(最優秀音響デザイン賞)- Tony Gayle(トニー・ゲイル)(text:cinemacafe.net)■関連作品:となりのトトロ 1988年4月16日より公開
2023年02月14日俳優や声優として活躍するほか、アーティストとしての音楽活動も精力的に行っている加藤和樹。その加藤が“マスター”を務める番組「加藤和樹のミュージックバー『エンタス』」の生ライブイベントが3月19日(日)、LINE CUBE SHIBUYAで開催される。番組初の生ライブイベント。加藤は「J-POPやアーティストの方々を呼んで、そのゲストがミュージカルの楽曲を歌う番組。せっかくの生ライブですから、ここでしか成し得ないコラボレーションができたらいいなと」と構想を語る。「通常の番組では僕はマスターとしておもてなしをして、その後ゲストの方に歌っていただく流れ。今回はマスターもちょっとしゃしゃり出て、コラボやデュエットができたらいいですよね」とも。第1部は高橋真麻、東啓介、飛龍つかさ、松浦航大、第2部は荒木宏文、豊永利行、濱田めぐみ、松下優也と、実に彩り豊かなゲスト。披露する楽曲はまさに今練っている段階だというが、加藤は「2部はミュージカル『テニスの王子様』で一緒だった荒木さんと豊永さんがいるので、テニミュ関連のことができたらいいなと。新規のミュージカルファンだけではなく、古参の皆さんにも喜んでもらえたら」と明かし、「1部と2部では全然違う構成になると思うので、むしろ通しで観ていただきたいぐらいです」。第1部に出演する東は「僕は『エンタス』の番組に出演したことはないんですが、イベントのゲストに呼んでいただいて、すごく嬉しいです」と笑顔で話し、「自分が出演していない作品や、今ブロードウェイで流行っている作品、普通に自分が歌いたい曲など、いろいろやってみたいですね」と語った。加藤と東はミュージカル『マタ・ハリ』で共演を果たし、以来プライベートでも交流がある。加藤は「多分一番僕の家に遊びに来ているミュージカル俳優。いろいろとんちゃん(※東の愛称)には相談できて......飼い犬のようです(笑)」と話す一方、東は「お兄ちゃん的存在で、ずっと前を走ってくれているんです。そこにいるだけで安心できるし、場の空気も良くなる。憧れの存在です」と語り、絆の深さが窺い知れた。観客へのメッセージを尋ねると。加藤は「番組タイトルはエンターテイメントがクロスする、そして縁が足されていくという意味。僕自身、人との縁や作品との縁をすごく大切にしていて。その繋がりが新たなエンターテイメントや新しいものを作ることへ繋がっていくと思うんです」と話した上で、「今回のイベントがミュージカルへの架け橋となれれば嬉しいですし、何より僕自身楽しみたい」。東は「いろいろなジャンルの方が出演されるので、あまりミュージカルに馴染みがない方、シンプルに歌が好きな方、もちろんミュージカルが好きな方......いろいろな方に気楽に楽しんでいただけたら」と話した。チケットは、2月25日(土)12:00より一般発売スタート。取材・文:五月女菜穂
2023年02月13日生田絵梨花が2018年にブロードウェイで開幕したミュージカル『MEAN GIRLS』に主演する。日本版初演となる本作は、2004年に公開された同名ハイスクールコメディ映画のミュージカル版で、トニー賞最多12部門にノミネートされた人気作。主人公はアフリカで生まれ育ったケイディ。16歳で初めてアメリカの高校に通うことになり、そこで出会った女の子たちと過ごす中で、彼女たちの笑顔の裏に隠された世界に触れ、大切なことは何かを学んでいく物語だ。2019年の舞台に続く演出の小林香に助けられつつ、共演の田村芽実や石田ニコルらと仲良く稽古が進む中、生田が作品の魅力や意気込みを語った。ブロードウェイミュージカル「MEAN GIRLS」チケット情報ミュージカルの舞台を何度も経験しているが「緊張するタイプなのでなかなか慣れなくて。ケイディをやるにあたっては自分もオープンにしていかないといけないし、普段の自分よりも思い切りがないとやれない役だなと思います」と話す生田。だが「ケイディは、個性が強くてパンチ力がすごい。みんなの中に何も知らない状態で飛び込んでいくので、役としても自分自身としても楽しませてもらっています」と笑顔を見せる。ケイディは「ダサイところからスタートしてどんどん女の子の世界に染まっていく役柄。私にもその要素があるのでシンパシーを感じます。彼女のたどる変化は私自身とも重ねながらできるのではないかな。ケイディと一緒に成長していけたらいいなと思っています」。演じるうえで大事にしているのはその変化の様子。「一人ひとりと出会って1歩ずつ階段をあがっていく役だから、丁寧にちゃんと踏んで進んでいかないと」。さらに大切なことについてこう語る。「ケイディは間違った方向に進んでしまうんですね。それも、気付いたらこんなところに来てしまっていたという。それって誰しもに起こり得ることなのかもしれないということを、お客様にも感じ取っていただけたらうれしいです。学校生活だけでなく会社やママ友とか、そんな社会を生きていく中で、みんなが直面する問題がこの作品の中にもあると思うので、年齢関係なく楽しんでいただけると思います」。もちろん歌も注目ポイントだ。「16年間野生児として育ってきたケイディの伸びやかさや力強さが歌にも反映できたら。でも自然とノレる曲ばかりなので、お客様にも楽しんでもらえるんじゃないかなって、今からワクワクしています。観た後に、皆さんの中にあるモヤモヤした気持ちが爽快に弾け飛ぶような作品にみんなでしていけたらと思っていますので、ぜひ劇場へ楽しみに来てください。頑張ります!」。公演は、2月12日(日)まで東京・東京建物ブリリアホールにて上演中、2月17日(金)から19日(日)まで福岡・キャナルシティ劇場、2月23日(木・祝)から27日(月)まで大阪・森之宮ピロティホールにて。チケット発売中。取材・文:高橋晴代
2023年02月09日