●すべてを計算したポン・ジュノ監督ソウルの“半地下”住宅に住む無職のキム一家が、高台の高級住宅に住むパク家に徐々に寄生(パラサイト)し始め、思わぬ事態に突入していくポン・ジュノ監督作品『パラサイト 半地下の家族』。第72回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞し、第92回アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞(旧外国語映画賞)に輝き、ちょうど1年前の昨年1月には日本でも劇場公開され、大ヒットを記録した。この話題作が、動画配信プラットフォーム「TELASA(テラサ)」で見放題配信を開始。同時スタートの音声解説バージョンを担当し、「これは全方向映画です!」と高く評価する映画評論家・町山智浩氏に、改めて魅力を聞いた。※編集部注:本記事はストーリー展開を解説する内容も一部含んでいます。知らない状態で映画をご覧になりたい方はご注意下さい。○■韓国には“半地下”の住宅が実在する物語の中心となるのは、タイトルにもある“半地下”に住む家族。名優ソン・ガンボ演じる父を中心に、母、息子、娘の4人家族のキム一家が暮らす、“半地下”住宅の描写で幕を開ける。「おそらく映画のためのフィクションだと感じる人が多いと思います。でも韓国の事情を知っている人には分かりますが、あのような“半地下”の住宅は実在するんです。もともとは北朝鮮が攻めてきた時のための防空壕として作られました。そのあと、ソウルの地価がどんどん上がっていって住みづらくなったので、アパートとして貸し出されました。だから実際、すごい数の人が住んでいる。自分たちの座っている位置よりも高くにトイレ(下水)があるというのも、誇張でもなんでもなくて、現実。その一方で、IT系を始めとしたものすごい億万長者がたくさん出た。韓国に急激な格差社会が起きたんです」リアルな社会事情を基盤に、ポン・ジュノ監督は徹底的なコントロールのもとで作品を構築していった。「とにかく細かいところまで徹底的に作られていて、計算されている。突っ込みどころのほとんどない映画です。まず序盤。“半地下”というすごく狭いところから始まって、なかなか空を見せない。さらに、すごくうるさい雑踏音がずっと入り続けています。そこから、彼らが潜入していくことになる、お金持ちのパクさんの家に近づくにつれて、画がだんだん広がっていきます。そしてパクさん家に着いた途端に、周りの音がすっと消える。実はキム家もパク家もロケではなく、セットで作られています。監督自ら図面を描いて作ったセットです。全部作り物。舞台も音も、全てが計算されているんです」ため息が出るほどに美しく、憧れを抱かせるパク家だが、建築基準に合っておらず、実際には住みづらい造りなのだとか。しかし一見したところは、素晴らしいロケーションにしか思えない。実際、カンヌ国際映画祭で、コンペティション部門の審査員長を務めたアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督(『バベル』『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』)は、「ロケーションがとてもいい」とポン・ジュノ監督に伝え、すべてがセットだと知って驚いたという。さらに町山氏の音声解説バージョンによると、パク家の広いリビングから見える開けた美しい庭も、グリーンバックではめ込まれた映像なのだとか。●名優ソン・ガンホの存在感※編集部注:本記事はストーリー展開を解説する内容も一部含んでいます。知らない状態で映画をご覧になりたい方はご注意下さい。○■前半は『オーシャンズ11』や『ミッション:インポッシブル』のよう!?そんな“半地下”と高台を舞台に、ジャンルレスな物語が展開していく。「監督自身も言っていたのですが、前半はいわゆるケイパーもの、ミッションものの形式を取っています。ケイパーものというと、たとえば『オーシャンズ11』のような、ターゲットの組織のなかに入り込んでいって内部を操作してみたいな強奪ものですね。同時に、変装してミッションに挑むような『ミッション:インポッシブル』みたいな感じもある。しかもそれがコメディになっているんです。ものすごく笑うシーンがいっぱいあります」そんな、つい「笑ってしまう」感じも、ポン・ジュノ作品の特徴だという。「笑っちゃうんだけど、やっていることはすごくエグイ。長編デビュー作の『ほえる犬は噛まない』からしてそうです。『殺人の追憶』もそうですね。ものすごく残酷な殺人事件、しかも実話を描いたものにも関わらず、あっちこっちにコメディシーンがあって、笑わせるようにできている。その辺のいじわるな、居心地の悪さみたいなものを感じさせるところがポン・ジュノ監督の特殊なところです」『殺人の追憶』といえば、本作で主演を務めたソン・ガンホとの初タッグ作でもある。その後、ポン・ジュノ監督とソン・ガンホは、『グエムル-漢江の怪物-』『スノーピアサー』で組んできており、本作が4度目のタッグとなった。「監督が、ソン・ガンホは、どんなに悪いことをしても観客が全然憎めない非常に稀有なキャラクターだと言っています。もしも今回のキム一家のお父さんを、ほかの人が演じていたら、『なんて奴だ』と観る人の心が離れていくと思うのですが、ソン・ガンホが演じると、観客は共感をもって観てしまう。すごく貴重な才能を持った俳優です」本作では、特に彼の“表情”に注目だ。「後半、キムお父さんはほとんどしゃべらなくなるんですけど、パク家の奥さんの買い物に同行するあたりから、どんどん表情が暗くなっていきます。そしてある事件が起きますが、あれは突然起きたのではないことが、ソン・ガンホの表情からよく分かります。セリフではなく、顔の演技で見せていく。その辺はやっぱり彼の凄さです」○■『パラサイト』は、ジャンルものを超えた映画そして町山氏は『パラサイト』は「全方向映画」だと評した。「後半、物語は全く違う色合いを帯びていきます。詳しいことは言えませんが、『パラサイト』はキム家とパク家の二層構造だけには終わりません。前半はドタバタで大いに笑わされますが、一転してどんどん背筋が寒くなってくる。後半はホラーですからね。ビックリしますよ。社会派的なメッセージや現実を描く側面のある映画ながら、前半はケイパーもの、ミッションものとしてのサスペンスをコメディとして撮り、後半はホラーになる。しかも最後はすごくしっとりと深く終わる。『パラサイト』は、ジャンルものを超えた映画になりました。まさに全方向映画です!」音声解説バージョンでは『パラサイト』が強く影響を受けた作品について、前半と後半を転換するスイッチといえる演出、撮影カメラにまつわる話、綿密な絵コンテ、他のキャストについてなど、町山氏によるさらなる解説が、2時間を超える本編と共に語られる。望月ふみ 70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビュー取材が中心で月に20本ほど担当。もちろんコラム系も書きます。愛猫との時間が癒しで、家全体の猫部屋化が加速中。 この著者の記事一覧はこちら(C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
2021年01月08日2020年2月より米ABCにて放送され高い評価を得ている海外ドラマ「FOR LIFE」(原題)の日本放送を前に、アメリカ在住の映画評論家・町山智浩氏が、現代のアメリカ社会に起こっている“ブラック・ライヴズ・マター”や“システマティック・レイシズム”なども踏まえ、徹底解説する動画が公開された。本作は、無実の罪で終身刑を言い渡された男アーロン・ウォレスが、自らの潔白を証明するため法律を学び、受刑者ながらに弁護士資格を取得。同じく冤罪で服役する刑務所仲間のため、弁護の時だけ裁判所へ移送され、法廷に立つ姿を描いた物語。刑務所内でパラリーガルとして活躍したアイザック・ライトJr.の実話にインスパイアされ、黒人の「冤罪」という社会問題に切り込んでいく刑務所×法廷ドラマ。本国では早くも現地時間11月18日よりシーズン2の放送が開始される。制作には、実際にアイザックに弁護を依頼したことがあり、ドラマプロデューサーとしても評価されている、世界的ラッパーの50セントが参加している。今回公開されたのは、町山氏が語るアメリカ社会のいまが分かる19分の特別映像。さらに、本作のプロデューサーを務め、囚人役で出演もしている50セントから日本のファンに向けた独占メッセージも到着している。【映画評論家 町山智浩コメント】“FOR LIFE”とは「終身刑」を意味する。主人公アーロン・ウォレスは妻子あるビジネスマンだったが、ある日突然、悪徳検事が警察と仕組み、無実の罪で終身刑を宣告されてしまう。アーロンは刑務所で法律を学び、自ら弁護士となり、同じように濡れ衣を着せられた他の囚人を救おうとする。本作は20人以上の冤罪を晴らした「獄中の弁護士」アイザック・ライトJr.の実話にインスパイアされ、彼の弁護を受けたラッパーである50セントが企画した作品であり、アメリカの司法における差別的で理不尽な現実を暴き、決して屈しない男が権力と戦い、家族の元に帰ろうとするヒューマン・ドラマ。「フォー・ライフ」とは「人生のため」「命のため」でもある。ブラック・ライヴズ・マター運動の今こそ観てほしい作品だ。米国で巻き起こっている社会運動“ブラック・ライヴズ・マター”(黒人の命は大切)とは何か。なぜ白人警察官は起訴されないのか、なぜ黒人の冤罪が多発するのか。“システマティック・レイシズム”(制度的人種差別)を交えた解説、さらに、本作のプロデューサーであり、世界的ラッパー50セントが本作を制作するきっかけや、アイザックとの関係にも注目だ。「FOR LIFE」(原題)は米ABCにて放送中。(text:cinemacafe.net)
2020年11月19日韓国の巨匠キム・ギドクの監督最新作『The NET 網に囚われた男』が、2017年1月7日(土)より日本公開となる。本作は、キム・ギドクがトレードマークともいえる過剰なバイオレンスを抑え、朝鮮半島の南北分断をテーマに世界に問いかける社会派ヒューマンドラマ。早くも、女優の二階堂ふみや、監督作『雪女』が東京国際映画祭コンペ部門に出品された杉野希妃をはじめ、これまでギドク作品を応援してきた日本の映画界から賞賛の声が寄せられている。北朝鮮の漁師ナム・チョル(リュ・スンボム)は、いつものようにモーターボートで漁に出るが、魚網がエンジンに絡まりボートが故障、韓国側に流されてしまう。韓国の警察に拘束されたチョルは、身に覚えのないスパイ容疑で、情け容赦ない取り調べを受ける。そして、妻子の元に帰りたい一心の彼に、執拗に持ちかけられる韓国への亡命。しかも、ようやく北に戻された彼を待ち受けていたのは、より苛酷な運命だった――。キム・ギドクが脚本を書き、製作を務めた『プンサンケ』『レッド・ファミリー』でも取り組んだ南北問題に、今回は自らメガホンをとり、北朝鮮の漁師の男に降りかかる運命を通して鋭く切り込んだ本作。今年、第73回ヴェネチア国際映画祭にてワールドプレミア後、日本では第17回東京フィルメックスのオープニング作品(11月19日に開催)として上映されることが決まるとチケットは即完売。TOHOシネマズ日劇1の大会場を埋め尽くした観客の熱がいつまでも冷めず、大きな盛り上がりを見せていた。そして、いち早く本作を鑑賞した著名人たちからも、キム・ギドクのゆるぎない視点と、そこから広がる新たなギドクワールドへの熱いコメントが続々と寄せられている。<コメント・順不同>■二階堂ふみ(女優)激しくて痛くて哀しい、そんな世界が彼の眼から突き刺さる。血をみれば寒々しい海をおもいだし、涙をみれば心の奥が熱くなる。キム監督、いつだって貴方の映画は私たちにしっかりとトラウマを与えてくれるのです。■杉野希妃(女優、映画監督、プロデューサー)人の幸せを守るべき国が、ときに人の尊厳を踏みにじる。体制に翻弄される人たちの悲劇は私たちの話でもあるのです。キム・ギドクの覚悟と叫びをストレートに感じられる必見の超力作!■行定勲(映画監督)とにかく役者が素晴らしい。南北問題の哀しみをディフォルメしたシナリオを優れた俳優たちが体現している。近年のキム・ギドク映画の中で一番好きな作品です。■町山広美(放送作家)とことん滑稽でとことん痛ましいコント。南と北が、合わせ鏡にも逆さ絵にもなって。そして、世界に取り残された「冷戦による分断国家」のもがきが、民族主義へと逆走しだした世界の、逆さ絵に見える皮肉。理屈で笑い、情で涙が止まらない。■松江哲明(ドキュメンタリー監督)「いつまでこんなことを繰り返すのだろうか」キム・ギドクは今回も痛く、苦しい。だが根底にあるのは南北の現実。それだけでは終わらせてはいけない。『The NET 網に囚われた男』は2017年1月7日(土)よりシネマカリテほかにて全国にて順次公開。(text:cinemacafe.net)
2016年12月24日ピーター・ボグダノビッチ監督の13年ぶりとなる長編映画『マイ・ファニー・レディ』が上映中の東京・ヒューマントラストシネマ有楽町で12月20日(日)、人気コラムニストの山崎まどかと町山広美がトークイベントを行った。女優を目指す高級コールガールのイザベラが、お客としてブロードウェイの演出家アーノルドと出会う、現代版『マイ・フェア・レディ』ともいうべきロマンチックコメディ。出演作が相次いで公開され、miu miu 2015春キャンペーンモデルも務めるなどブレイク中のイモージェン・プーツをはじめ、オーウェン・ウィルソン、ジェニファー・アニストンら豪華キャスト陣が、見事なアンサンブルを奏でる。「イモージェンは『シンデレラ』のオーディションに落ちたりしたけど、いまは上り調子。別の作品で、売春婦に間違えられる役を演じていたけど(笑)、今回、自分に合った作品に出会えたのでは」と山崎さん。町山さんも「美人なのに作品選びにクセがありましたもんね。やっと、ラブコメに出演してくれてうれしい」と持ち前の魅力を発揮するイモージェンに期待を寄せた。その相手役であるオーウェンについては、「オーウェンが演じなければ、アーノルドって人間のクズ(笑)。それを許せちゃうのが、オーウェンのすごいところ。まるで毛並のいい犬」(山崎さん)、「いつまでもホワ~ンとした雰囲気の青年ですよね。もう47歳ですけど…」(町山さん)と目を細めた。公私ともに波乱万丈の人生をおくるボグダノビッチ監督。彼を敬愛する『グランド・ブダペスト・ホテル』のウェス・アンダーソン監督、『フランシス・ハ』のノア・バームバック監督が今回、プロデューサーに名乗り出た。「彼ら若手に愛されたおかげで、ここに来てボグダノビッチ監督は成功作を手にした」(山崎さん)、「愛される理由は男気ですかね…?今回はオーウェンも含めて、3人が気を使いながら、巨匠に意見を言ったのでは」(町山さん)と名監督の復帰を喜んでいた。『マイ・ファニー・レディ』はヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国にて公開中。(text:cinemacafe.net)
2015年12月21日歌人で小説家の加藤千恵、放送作家の町山広美がこのほど、東京・渋谷区のBunkamuraル・シネマで行われた、映画『サンドラの週末』の公開記念トークイベントに出席した。全国公開中の本作は、ダルデンヌ兄弟監督が描く一人の女性の物語。休職中に解雇を言い渡され、同僚がボーナスを諦めれば仕事を続けられるという選択が与えられたサンドラ。その週末、同僚たちの説得にまわるサンドラだったが――というストーリーで、主演のマリオン・コティヤールは第87回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。試写会後、加藤は「最初はサンドラにイライラしてたけど、女性として人間として立とうとする姿勢に胸を打たれた。マリオン・コティヤールが美人に見えないほど、のめり込んだ」と話し、「弱さと強さが絶妙でリアル。ラストはカタルシスがあり、意外で良かった」と感想を。一方の町山も、「不幸になって欲しくなかったから、最後は痛快に終わって気持ち良かった」と満足げな表情を見せた。"理不尽な選択"をテーマに描かれる本作だが、「いつもヒドい環境にいる主人公が多いダンデンヌの作品にしては、本当に珍しいタイプの主人公」と語った町山は、「日本の政治でもポピュリズムの方法で2択を迫られるけど、実際は何も選べていない。そんな状況はたくさんある」と熱弁。町山の持論を受けた加藤も、「本当は見えないところで選択を迫られていると考えさせられた作品でした」と刺激を受けた様子だった。
2015年06月16日オスカー俳優となったエディ・レッドメインを始め、ベネディクト・カンバーバッチやトム・ヒドルストン、国民的ドラマ「ドクター・フー」の11代目主役から『ターミネーター:新起動/ジェニシス』に抜擢されたマット・スミスなど、舞台に、映画に、ドラマにと活躍し、次々と注目俳優が現れる昨今の英国俳優ブーム。その中でも、とりわけ天才的な演技派俳優として知られるのが、ベン・ウィショーだ。その彼が主演を務め、いよいよ5月23日(土)より公開となる最新作『追憶と、踊りながら』から、ベンの美しすぎるラブシーンの半裸画像がシネマカフェにて解禁。先日、来日したホン・カウ監督も「お気に入り」と明かす、こだわりのラブシーンの詳細が到着した。ベン・ウィショーといえば、映画ファンには、初主演作『パフューム~ある人殺しの物語~』(’06/トム・ティクヴァ監督)の衝撃や、『007 スカイフォール』(’11)でのナイーヴ理系男子ぶりが忘れられないところだが、演劇ファンには、英国王立演劇アカデミー(RADA)卒業間もない2004年、鬼才トレヴァー・ナン演出による「ハムレット」で、英演劇史上最年少23歳にしてタイトルロールを演じたことが一大センセーションとなっている。同作品で、時代を現代に移してウィショーが演じた王子ハムレットは、その華奢な体型の全身からエモーションをたぎらせ、「A crazy prince for our times(我々の時代の狂えるプリンス)」と一般紙の一面を飾るなど、アツい注目を集めた。その舞台を見たティクヴァ監督が『パフューム』の主演に抜擢、それ以降、舞台、テレビ、映画と、インディーズからメジャーまで役の大小も問わず、あらゆる挑戦を続けている。本作のホン・カウ監督も来日の際、「彼の演技には、強さ、弱さ、真摯さ、人物の真実がいつもあり、心から尊敬できる俳優だと思っていたけど、今回一緒に仕事をして、想像以上に彼が素晴らしい俳優で、作品のためにすべてを献身してくれることに感動した。役への向き合い方、役をつくり上げるプロセスがとてもオープンで、自分ひとりの演技だけでなく作品全体をどんどんと磨き上げてくれる真の俳優だ」と語っていた。そして、監督がお気に入りのシーンとして挙げたのは、ベン演じるリチャードとその同性の恋人カイのラブシーン。本作『追憶と、踊りながら』は、リチャードとその恋人カイの母親である中国系女性ジュン(チェン・ペイペイ)とのエモーショナルなドラマだが、物語の鍵になるのが、新人男優アンドリュー・レオンが演じたカイの“不在”だ。監督は、回想で登場するこのラブシーンについて、「カイを恋しく思う感情を観客にも共有してもらいたくて、2人のシーンはたった3シーンに限定した」と明かす。「少ないシーンにも関わらず、2人の愛を真実に感じてもらうためラブシーンはとても重要だった。脚本の段階でも何度も書き直し、また2週間のリハーサル期間には、彼らが自然に親密さを演じられるよう、何度も演技を繰り返してもらった。その中で、アンドリューもベンもアイディアを出してくれて、さらに素晴らしいシーンにすることができた」と監督は言う。そのベンが提案したという演技アイデアには、いち早く本作を鑑賞した放送作家・町山広美も「ベン・ウィショーが、親密さの表現において、事件を起こす。キュートな重罪、逮捕したい」とコメントしており、どうやらファン垂涎のものとなる様子。ぜひスクリーンで、天才ベンと彼に負けず劣らず美しいレオンの「真実の愛」を確かめてみてほしい。『追憶と、踊りながら』は5月23日(土)より新宿武蔵野館ほか全国にて公開。(text:cinemacafe.net)■関連作品:追憶と、踊りながら 2015年5月23日(土)より新宿武蔵野館ほか全国にて公開(C) LILTING PRODUCTION LIMITED / DOMINIC BUCHANAN PRODUCTIONS / FILM LONDON 2014
2015年05月18日東京都・渋谷のパルコミュージアムでは、没後12年を経ても色あせないナンシー関の観察眼をあらためて一望する「顔面遊園地 ナンシー関 消しゴムの鬼」を開催している。開催期間は11月25日まで、開場時間は10:00~21:00(最終日は18:00まで)、入場料はおまけ付きで一般500円、学生400円、小学生以下は無料。同展は、人類初の「消しゴム版画家」であり、テレビウォッチャーにして稀代のコラムニスト・ナンシー関の個展。2014年春に大阪で開催された展覧会をパワーアップした東京展となる。会場内は、約800点の消しゴム版画を一同に展示する「ベストオブ生ハンコ」のほか、1985年から2002年までに書かれたコラムの中から、年月を経てその見破りがどれほど的確だったかがわかる傑作を放送作家の町山広美がセレクトした「ナンシーテレビ&ナンシー事件簿」、かつての自室から、仕事道具、録り貯めていたビデオやカセットテープなど貴重な資料を展示する「思い出ナンシー」などのコーナーに分かれている。また、東京展の特別企画として、ナンシー関の幻の小説「通天閣はもう唄わない」を本展のために映像化。ピエール瀧が朗読を担当している。なお、ナンシー関は1962年青森県生まれの消しゴム版画家、コラムニスト。法政大学在学中に消しゴムでハンコを彫りはじめ、「丁稚シリーズ十連作」がコラムニストのえのきどいちろうの目に触れ、1984年消しゴム版画家としてデビューする。当時「ホットドッグ・プレス」の編集者だったいとうせいこうに「ナンシー」と命名され、読者投稿ページでコラム連載「ナンシー関の漢字一發!」をスタート。彫った消しゴム版画の数は5,000点にものぼる。2002年6月12日逝去。享年39歳。
2014年11月18日