食べ物やダニ、動物のフケなどでなんらかのアレルギーを起こす人が増えています。花粉やハウスダストが目の結膜につくことで炎症を起こすアレルギー性結膜炎という病気があります。ここでは、アレルギー性結膜炎の原因や症状について見てみましょう。アレルギー性結膜炎とはアレルギー反応を引き起こす原因となる物質のことをアレルゲンと呼んでいますが、そのアレルゲンが目の表面に付着し、結膜炎を起こしてしまう病気のことをアレルギー性結膜炎と呼んでいます。結膜は白目の全面とまぶたの裏をおおっている粘膜で、目が開いている間は外気にさらされているため、アレルゲンが付着しやすくなっています。そのため、目はアレルギー反応が起きやすいといわれています。よく知られているスギ花粉症のように、ある特定の季節に起きる季節性アレルギー性結膜炎と、一年中症状が出る通年性アレルギー性結膜炎という2つの種類に分けられます。また、春季カタルと呼ばれる子供に多く見られる結膜炎や、巨大乳頭結膜炎というソフトコンタクトレンズを使用している人に見られる結膜炎もアレルギー性結膜炎の一種です。アレルギー性結膜炎の原因人間の身体には、体内に侵入しようとする異物を排除する仕組みがあります。これは免疫力と呼ばれる働きですが、この免疫力が過剰に働いてしまうとアレルギー反応を起こしてしまいます。本来ならば、花粉などはあまり有害な異物ではないのですが、免疫力が過剰に働いてしまうとアレルギー反応を起こしてしまいます。主なアレルゲンとして季節性アレルギー性結膜炎では、スギ花粉(1〜5月)、ヒノキ花粉(3〜5月)、イネ科の植物(4〜10月)などがあげられます。通年性アレルギー性結膜炎では、ハウスダストやダニ動物の毛フケコンタクトレンズの汚れなどがアレルギーの原因となります。アレルギー性結膜炎の症状外部からアレルゲンが侵入してくると、目のかゆみや充血、ゴロゴロとした異物感などの症状が出てきます。涙のようなサラサラとしている水のような目やにが出ることもあります。まぶたの裏の結膜に粒上のブツブツしたものができることもあります。かゆみの症状は強く出ることもあり、目だけでなく、まぶたやまぶたのふちなどがかゆくなり、かけばかくほどかゆくなってしまうという悪循環が起こります。春季カタルなど重症になってくると目に痛みが出る、角膜が濁ってものが見えにくくなるなどの症状が出ることがあります。視力低下を引き起こすこともあるので注意が必要です。アレルギー性結膜炎の治療法通常は、薬物療法を中心とした治療が行われます。日常生活に支障をきたさないようにかゆみの症状を抑えることを中心とした治療です。抗アレルギー性点眼薬が使われることが多く、メディエーター遊離抑制薬、ヒスタミンH1受容体拮抗薬といったものが主なものです。重症の春季カタルには、ステロイド点眼薬を使うこともあります。季節性アレルギー性結膜炎の場合には、症状が出やすい時期をあらかじめ予測できることが多いので、症状が出る前の時期の花粉が飛散する約2週間前から初期療法という考え方で抗アレルギー点眼薬を使って治療を始めることがあります。この治療法を行うと花粉がもっとも飛散している時期の症状が軽くなるのでおすすめです。毎年、花粉症で悩んでいる方は、症状が出る前に眼科を受診されるとよいでしょう。抗アレルギー点眼薬は副作用が少ない薬といわれています。点眼薬は、使用している途中でやめないようにしてください。眼科医の指示にきちんと従って使用しましょう。生活習慣での注意点アレルギー性疾患の対策は、できるだけアレルゲンとなる物質に接触しないことが重要です。花粉が飛散している時期には、ゴーグル型の眼鏡を使用する花粉防止用にマスクを着用する帽子をかぶるなどの対策をとるようにしてください。外出先から帰宅したときは、衣類や髪についた花粉をしっかりと落とすようにしてください。手洗いうがい洗顔をして花粉を落とすようにします。花粉が飛びやすいと考えられる際には、外出をできるだけ避ける、洗濯物を外に干さないようにすることも大切です。通年性アレルギー性結膜炎の場合は、掃除機を使ってこまめにハウスダストやダニを取り除く、濡れ雑巾を使ってほこりがたまっているところを拭き掃除することも効果があります。ダニの繁殖を抑えるために畳やじゅうたんをフローリングに変える、寝具をこまめに干すことも効果があるといわれています。室内での動物の飼育は避けた方がよいでしょう。監修:大利昌久
2017年11月12日アレルギーの症状に悩んでいる人は多く、年々、患者数は増加しているといわれています。アレルギーとはどのような原因で、どのような症状が起きてしまうのか詳しく見てみましょう。アレルギーとはアレルギーの定義は、免疫反応に基づく生体に対する全身的または局所的な障害と定められています。なんらかの外的な刺激があった際に、身体は免疫反応によって刺激を排除しようとしますが、特定の物質や現象に対してこの反応が過剰に起きてしまうことでアレルギー症状があらわれます。免疫反応を起こす物質や現象は抗原と呼ばれ、アレルギーの原因を意味するアレルゲンと呼ばれる場合も多いです。アレルギー症状には、抗原の反応によって短時間で症状がでる即時型と、遅発、遅延型と呼ばれる種類が存在しています。アトピー性皮膚炎喘息蕁麻疹花粉症鼻炎これらのアレルギー症状は即時型で、生命に危険のあるアナフィラキシーショックも即時型の分類となります。一方、遅延型のアレルギー症状は、発症まで数時間や数日かかる場合もあり、こちらは細胞や細菌を原因とした内臓への症状が中心となります。臓器移植による拒絶反応などもこの一種とされています。アレルギーが起こるメカニズム一般的な即時型のアレルギー症状には、IgEと呼ばれる抗体が大きく関与しています。このIgE抗体が、皮膚腸粘膜気管支粘膜鼻粘膜などに存在しているマスト細胞と結合した状態で抗原と接触すると、細胞からかゆみや炎症の原因となるヒスタミン、ロイコトリエンなどの化学伝達物質が放出されてアレルギー症状を起こすようになります。このため、IgE抗体はアレルギー症状を起こす有力な要因と考えられています。アレルギーの主な原因アレルギー症状を起こす抗原となる可能性があるものには、以下のようなものがあげられます。抗原となるものは人によって大きく異なり、種類も大変多くなりますので、あげられたもの以外でアレルギー症状が起こる可能性もあります。食品食品は、子供に多く見られるアレルゲンですが、大人にもアレルゲンとなるケースがあります。卵乳製品(牛乳など)穀物(小麦、そば)豆類(ピーナッツ、大豆など)特に、これらの食品でアレルギーを起こす人が多く、甲殻類(エビ、カニ)、魚介類(青魚や貝など)、果実類などでアレルギー症状があらわれる場合もあります。ハウスダスト近年患者が増えており注目されているアレルゲンです。ダニダニそのものだけでなく、死骸やフンが生体以上に強力なアレルゲンとなります。湿度の高い環境などで繁殖しやすいといわれています。カビ、細菌湿気などによってほこりの中にカビが繁殖する場合があり、空気中に胞子をまくことでアレルゲンとなります。ほこりや他のハウスダストは細菌が原因となることもあり、ダニのエサとなるほかアレルゲンとなる場合もあります。ペットの毛室内でペットを飼っている家庭も増えていますが、抜けたペットの毛自体がアレルゲンとなる場合もあるほか、ダ二のエサとなり繁殖を助長することもあります。ペットを飼っている場合は特に掃除などを徹底するべきでしょう。花粉などの吸収性物質花粉症は、もっとも身近なアレルギー症状といえるでしょう。鼻炎の症状だけでなく、皮膚のかゆみや湿疹などがある場合もあります。大気汚染などによるアレルギー症状も花粉と同様です。金属などの接触刺激金属と汗が反応して、接触している皮膚に炎症や湿疹を起こす金属アレルギーや、天然ゴムの成分が皮膚に症状を起こすラテックスアレルギーなど、特定の物質に接触することでアレルギー反応が出る場合もあります。化粧品などの化学物質によって接触刺激が起こる場合もあります。薬剤によるアレルギー内服薬や注射などによって体内に入った薬がアレルギーを起こす場合もあり、これは遅発、遅延型の症状があらわれます。症状が重症となりやすいので、服用している薬や過去に服用した薬を把握するようにして症状がある場合は、すみやかに医師や薬剤師に相談することをおすすめします。アレルギーの主な症状アレルギー反応としてあらわれる症状にはさまざまなものがありますが、代表的なものとして、以下のようなものがあげられます。症状は必ずしも単一ではなく、いわゆるアレルギー体質と呼ばれるアレルギー素因の多い人の場合は複数の症状を併発することも少なくありません。アレルギーに対しては、医療機関での適切な治療が第一ですが、自分のアレルゲンをあらかじめ知っておくことでアレルゲンをできるだけ避けることが可能です。症状を完全に抑えることは困難な場合もありますので、なるべくアレルゲンに触れないよう注意するべきでしょう。アレルギー性気管支炎ハウスダストや花粉など吸収性の物質がアレルゲンとなる場合が多く、気管支や気道が炎症を起こして腫れてしまい呼吸がスムーズにできないことで息苦しくなります。せきやたんが出るなど風邪(かぜ)と間違えやすい症状ですが、適切な対処を行わないと気管支喘息などに発展する場合もあります。アレルギー性鼻炎花粉症の代表的な症状ですが、ハウスダストや食物によって起こります。激しいくしゃみ、鼻水、鼻づまりの症状があらわれ、のどの痛みや頭痛なども併発して日常生活に支障が出る場合も珍しくありません。アレルギー性結膜炎鼻炎と併発するケースも多く、目の表面の結膜にアレルゲンが付着する事で炎症を起こし、激しい目のかゆみ、充血、涙が出る、異物感がある場合などがあります。アトピー性皮膚炎皮膚に湿疹が起こり、強いかゆみを感じるほか、皮膚がカサつくなど、皮膚の保護機能が低下する症状をあらわします。全身どこにでも症状が出る可能性があり、重症化すると腫れやただれ、皮膚の肥厚などが起きることもある深刻な症状です。蕁麻疹境界がはっきりとした、円形に盛りあがる皮疹が発生します。大きさはさまざまで、強いかゆみをともないチクチクとした感触がある場合もあります。アトピー性皮膚炎による炎症湿疹と混同されることも多いですが、蕁麻疹の症状は、出たり消えたりをくりかえすことが多いのが特徴です。監修:大利昌久
2017年11月09日クラミジア感染症は、感染していても無症状であることがほとんどで、感染や発病に気づかないまま放置してしまうことも多いといわれています。生命に関わる病気ではありませんが、病気が進行すると気づかぬうちに不妊につながる危険もあるため、十分な注意とできる限り早期に治療を行うことが大切です。自覚症状に乏しいクラミジア感染症クラミジア感染症は、日本国内でもっとも多くみられる性感染症(STD)です。近年は、特に女性患者の数が増加傾向にあると推察されており、なかでも若年層の感染率が高いことが指摘されています。クラミジアは、一般に感染後およそ1〜3週間の潜伏期間の後に発症するとされています。しかし、実際には自覚される症状に乏しいことが多く、男性では約50〜60%の人が、女性では約80%もの人が無症状であるともいわれます。症状が現れたとしても、尿道にむずがゆさを覚えたり、おりものが増えたように感じられたりする軽微なものが多いために、クラミジアの感染に気づきにくいという特徴があります。クラミジア感染症の症状クラミジア感染症では、感染していても無症状であることがほとんどだとされますが、症状がある場合には、次のようなものがみられることが多いようです。女性の場合女性の場合、まず子宮頸管と呼ばれる子宮の入口の部分に感染し、子宮頸管炎の発症によって以下のような症状が現れることがあります。おりものの増加軽い下腹部痛不正出血白い膿性のおりものの排出さらに、病気が進行すると、子宮内膜炎や卵管炎などの疾患を引き起こし、さらには子宮付属器炎や骨盤腹膜炎などの発症を招くおそれがあります。子宮内膜炎や卵管炎は、妊娠中には流産や早産の原因となったり、卵管狭窄や卵管閉塞を招いて卵管性不妊や子宮外妊娠の原因となったりすることがあります。また、感染したクラミジアが骨盤内だけでなく腹腔内へと侵入すると、肝周囲炎を引き起こし、場合によっては救急車で運ばれるほどの強い上腹部痛を生じさせることにつながるケースもみられます。男性の場合男性の場合、まず尿道に感染します。発症によって、次のような尿道炎の症状が現れることがあります。尿道部のかゆみ軽い排尿痛薄い水状の膿尿さらに、病気が進行すると、副睾丸炎(精巣上体炎)を生じ、以下のような症状が現れることがあります。軽い陰嚢(のう)部痛発熱精巣上体の腫れ精巣上体部の圧痛男性の場合にも、適切な治療を行わないままに放置し、病気が進行することによって不妊につながることがあるといわれています。クラミジア感染症の感染経路クラミジア感染症の病原体であるクラミジアは、主に粘膜の直接的な接触によって感染します。性行為による性器と性器との接触によって感染するだけでなく、性器と口との接触によっても感染することがわかっています。クラミジアが性器のみならず口(咽頭)や直腸、尿にも出る場合もあるために、オーラルセックスや肛門を使ったセックス、尿を使ったセックスなどでも感染する危険性があります。粘膜同士の直接的な接触に加えて、感染者の精液や膣分泌液に触れることでも感染が起こることがあります。一度のセックスで感染に至る確率は50%以上ともいわれています。男女で比較すると、感染率が高いのは女性です。しかし、無症状である割合も女性の方が高いために、感染には注意が必要です。そのほかの感染経路として、ディープキスなどによって口から口へと感染することもあげられます。ただし、性器に感染していても、口内に感染、保菌していなければキスによって感染することはないとされています。なお、クラミジアは、トリコモナス症の病原体であるトリコモナス原虫のように浴場やプールのイスやトイレの便座などを介する感染や、飛沫による空気感染などのような間接的な感染が起こることはほとんどないといわれています。クラミジアは、成人だけでなく、新生児に感染がみられることがあります。妊娠中の女性がクラミジアに感染すると、妊娠初期には流産の、妊娠中後期には早産のリスクを高めるといわれていますが、正期産で分娩できた場合にも、新生児が産道感染によってクラミジアに感染し、新生児結膜炎や新生児肺炎を起こす原因となる危険性があることが指摘されています。クラミジア感染症の予防法クラミジア感染症を予防するためには、性行為のはじめからコンドームを正しく使用することが重要です。クラミジア感染症だけでなく、そのほかの性感染症を防ぐためにも、コンドームを使用してセックスを行うことが推奨されます。また、こまめにクラミジア検査を受けるようにすることも大切です。コンドームを使わないセックスをする機会のある場合には、2か月に1回は検査を受けることが望ましいでしょう。クラミジア菌の感染や発病の早期発見、早期治療のためにも、さらなる感染を防ぐためにも、症状が出ていない段階からこまめにチェックし、必要な対処を行いましょう。監修:大利昌久
2017年11月03日●月経の期間が長い人は注意毎年10月は、乳がんの早期発見・早期治療を世界規模で啓発する「ピンクリボン月間」として広く知られている。国立がん研究センター がん対策情報センター がん情報サービス の最新がん統計「がんに罹患する確率~累積罹患リスク」(2013年データに基づく)によると、女性の11人に1人は乳がんに罹患するリスクがあるという。この数値は看過できるものではない。今回は乳がんの基本の「き」について学ぶべく、胸部・乳腺外科の法村尚子医師に乳がんの自覚症状や罹患しやすい人の特徴、治療法などについてうかがった。――まずは乳がん発病の仕組みと自覚症状を教えてもらえますか。乳房は主に「乳腺」と呼ばれる腺組織と脂肪組織から成り立っています。乳腺は乳汁を分泌する器官で周囲を脂肪が包んでいます。乳腺は乳房全体に張りめぐらされており、乳がんはこの乳腺に発生します。乳がんの自覚できる症状としては「乳房やわきの下に『しこり』を感じる」「乳房に『えくぼ』『ひきつれ』がある」「乳首からの赤い液(血液)がでる」「乳首がただれている」「乳房全体が赤く腫れたり、乳房に潰瘍ができたりして治らない」などがあります。ただし初期には自覚できる症状が乏しく、触れてわかるくらいの大きさになると、すでに進行している場合もあります。また、乳がんは痛みがないケースが多く、「しこりはあるけど痛くないから」などと放置しているとだんだんと進行してしまいます。症状がなくても検診を受けて、初期の乳がんを発見することが大切です。――国立がん研究センター がん対策情報センターによると、女性の生涯乳がん罹患率は9%と非常に高い数値になっていますが、乳がんになりやすい人の特徴はあるのでしょうか。多くの乳がんは、エストロゲンという女性ホルモンの影響で増殖します。そのため、長い間このエストロゲンの影響を受けている人は乳がんになりやすいと考えられます。月経時はエストロゲンにさらされるため、月経が長い期間におよぶと女性ホルモンの影響を受ける時間も増えることになります。■早い初経(特に11歳以下)■遅い閉経(特に55歳以上)■出産、授乳経験がない■閉経後に肥満になった■経口避妊薬を常用しているこれらの特徴を持つ人は乳がんになりやすいと言われており、女性の社会進出に伴い、出産の高齢化、少子化が進んだことも罹患率に影響しています。閉経後は、卵巣で作られるエストロゲンが減少し、代わりに体の脂肪組織でエストロゲンが作られるようになるため、閉経後の肥満はエストロゲンを増やすことになります。また、経口避妊薬にはエストロゲンと、同じく女性ホルモンのプロゲステロンが入っているため、長期間の服用は乳がんのリスクを高めます。一方で女性ホルモン以外の乳がん罹患リスクを高める危険因子や特徴は、以下の通りです。■遺伝(母、姉妹などの血のつながった家族に複数名乳がんになった人がいる、若くして乳がんになった人がいる)■糖尿病を患っている■アルコールを定期的に摂取している■喫煙しているアルコールやたばこを控え、運動して体重管理することが乳がん予防につながります。●乳がん治療の種類――危険因子のたばこや飲酒を控え、定期的な運動をすれば罹患リスクを低減させられそうですね。それでも罹患してしまった場合、どのような治療をするのでしょうか。治療方針を決めるためには、どんなタイプの乳がんかを診断することが重要です。「非浸潤がんなのか、浸潤がんなのか」「ホルモン受容体やHER2(細胞の増殖に関与するとされるたんぱく)の状況、がんの悪性度はどうなのか」「わきのリンパ節転移はあるのか」「ステージはどの段階なのか」などを診断します。さらに年齢などからみた全身状態や患者さん自身の治療に関する希望なども考慮して以下の治療を組み合わせ、方針を決めていきます。○手術療法乳がん治療の基本は手術です。標準術式は乳房温存術(乳房を部分的に切除する方法)と胸筋温存乳房切除術(乳房をすべて切除する方法)です。わきのリンパ節に転移がある場合は、リンパ節を一緒に取る必要があります。乳房再建術は患者さんの体の一部(腹部、背中)を移植する方法や、シリコン製の人工乳房を挿入する方法があり、保険適応にもなっています。○内分泌療法(ホルモン療法)乳がんの細胞内に「ホルモンを取り入れる受け皿」であるホルモン受容体(エストロゲン受容体)を持っている場合はホルモン剤を投与します。ホルモン剤によってエストロゲンをさえぎり、取り入れられないようにしてがんの増殖を抑えます。主に飲み薬による治療です。○化学療法(抗がん剤治療)手術の前に腫瘍を小さくしたり、手術の後に再発率・死亡率を低下させたりするために行います。薬をいくつか組み合わせて使用し、点滴で行うことが多いです。また、転移のある乳がんでは、進行を抑えることで延命効果を得たり、症状を緩和させたりします。○分子標的治療抗がん剤はがん細胞も正常細胞も無差別に攻撃しますが、 分子標的薬はがん細胞に的を絞って攻撃します。そのため、抗がん剤に比べ副作用が少ないです。近年の分子標的治療薬の進歩はめざましく、予後が悪いとされていたタイプの乳がんも予後の改善が期待できるようになりました。○放射線療法手術後の乳房に放射線を照射して、がん細胞をたたきます。乳房温存術の方は基本的に全員、乳房切除術の方も一部の方は必要です。――治療にも非常に多くの選択肢があるのですね。治療をするにあたり、がんの転移や再発、生存率は患者にとって非常に気になる要素だと思いますが、乳がんのケースではどのようになっているのでしょうか。最初に言葉の意味をきちんと把握しておきましょう。転移とは、がん細胞がリンパ液や血液の流れにのって別の臓器に移動して骨や肺、肝臓、脳などの乳房から離れた場所に発生することです。再発とは、乳がんの治療を始めた際、すでに目に見えないくらい小さな転移という形で潜んでいたものが、再発を予防するための術後の治療もすり抜けて(生き延びて)、何年か後にそれが目にみえるぐらいに大きくなってみつかることを意味します。乳がんの再発は手術後2~3年以内に起こることが多いですが、10年後や20年後に現れるケースもあります。再発の時期は最初の乳がんの進行度のみでなく、乳がんのタイプによっても大きく異なります。転移再発乳がんは「完全な治癒」が困難であり、抗がん剤などの治療を行っても10年生存率は5%程度です。治療の目的は、がんと共存し生活の質(QOL)を改善して長生きすることとなります。腫瘍の特性(ER,PgR,HER2など)やどこの臓器に転移しているか、再発までの期間、今までの治療歴、症状、患者さんの希望などをもとに治療法を決定します。最後になりましたが、乳がんは定期的に自分の胸を鏡でチェックしたり、触ったりすることで早期発見につなげられる可能性があります。少しでも違和感を覚えたら、病院を訪れるようにしてみてください。※写真と本文は関係ありません○取材協力: 法村尚子(ノリムラ・ショウコ)胸部・乳腺外科2005年香川大学医学部医学科卒。現在、高松赤十字病院胸部・乳腺外科副部長。乳腺外科を中心に女性が安心して受けられる医療を提供。また、En女医会に所属し、ボランティア活動や各種メディアにて医療情報を発信している。資格乳腺専門医、外科専門医、がん治療認定医などEn女医会とは150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加している会。さまざまな形でボランティア活動を行うことによって、女性の意識の向上と社会貢献の実現を目指している。会員が持つ医療知識や経験を活かして商品開発を行い、利益の一部を社会貢献に使用。また、健康や美容についてより良い情報を発信し、医療分野での啓発活動を積極的に行う。En女医会HPはこちら。
2017年10月24日新生児けいれんとは?出典 : 新生児けいれんとは、生後28日未満の新生児に起こるけいれん症状のことを指します。出生体重3000グラム以上の成熟児での発症率は1000人のうち2~2.8%、2500グラム未満の低出生体重児では9.37~13.5%となっており、低出生体重児に多く発症します。けいれん発作は、広義には体を強張らせて震えることを指します。「けいれん」と聞いて、まず「大発作」などの突然倒れてしまうイメージを浮かべる方も多いでしょう。しかし、新生児けいれんの特徴的な発作は「微細発作」です。まばたきの繰り返し、もぐもぐ口を動かす、自転車をこぐような動きなど、一目でけいれんとは分かりにくい発作が特徴的です。いつもと違う、違和感のある動きをしていれば微細発作の可能性があります。新生児けいれんの原因は低酸素性虚血性脳症や頭蓋内出血、脳梗塞、感染症などが原因でけいれんが発症するため、早期治療が必要です。また新生児けいれんの発症をきっかけに、その後てんかんが発症する可能性もあります。新生児けいれんに関わらず、けいれんが長く続くと後遺症が残りやすいと言われています。適切なけいれん時の対処や、必要ならば救急車を呼ぶなど、瞬時に判断できるように知識を身につけておくことをおすすめします。出典:新生児けいれん|日産婦誌57巻7号研修コーナー新生児けいれんの症状出典 : 新生児けいれんには、頻度の高い順に微細発作、強直性けいれん、間代性けいれん、ミオクローヌスけいれんの4つのけいれんの種類があります。最も多いとされている微細発作は、発作症状が分かりにくく、見つかりにくいといわれています。<微細発作>・眼球運動の異常水平眼球偏位(眼球が水平に動くがまばたきがない状態)・口や頬(ほほ)、舌の異常運動舌を出す、しかめっ面を繰り返す、ウインクの様な動き・四肢の異常行動自転車こぎ、水泳のクロールのような動き・自律神経症状血圧上昇、チアノーゼ(体内の酸素濃度が低下し、唇などが青紫色になること)、紅潮、多呼吸など・呼吸運動の異常無呼吸発作、発作性過呼吸<強直性けいれん>・突然意識を失い白目をむく・身体が急に強張り手足をピーンと突っぱる・口を固く食いしばり呼吸を止める・チアノーゼを起こすこともある<間代性けいれん>・膝を折り曲げる格好をしながらバタバタと手足をばたつかせる・あごがガクガク震える・一定のリズムでけいれんが起きる<ミオクローヌスけいれん>・全身または手足の一部分の筋肉が一瞬ピクッと収縮する・光によって誘発されるため、寝起きや寝入りに起こりやすい・症状を自覚することは少ない新生児けいれんの原因出典 : 新生児けいれんの原因は新生児期にかかりやすいさまざまな疾患が原因となっています。けいれん症状はおおむね、大脳の神経細胞の異常興奮によって、不必要な神経回路にまで情報が伝達され引き起こされます。新生児けいれんの原因疾患もほとんどが脳に関わる疾患となっています。ここでは新生児けいれんの原因疾患を紹介していきます。・低酸素性虚血性脳症妊娠中や出産の際に、何らかの原因で赤ちゃんの脳に酸素を十分に含んだ血液が回らなくなり、低酸素、虚血がおこります。それによって、けいれんや意識障害などの神経症状を伴うさまざまな脳神経障害を起こします。新生児けいれんの原因として最も多いとされています。・頭蓋内出血頭蓋内出血は頭蓋骨の内部に出血が起こった状態を指します。出血が起こった場所によって、くも膜下出血や硬膜外出血などに分けられています。分娩外傷や仮死が原因で起こりますが、けいれんが起こる前の全身状態は良好であることが多いといわれています。・脳梗塞脳の血管が詰まるなど、何らかの原因で脳内の血液のめぐりが低下し、一部の脳組織が壊死することをいいます。仮死、多血症、血栓などができることによってけいれんが起こります。・中枢神経感染症細菌性髄膜炎やウイルス性脳炎などが原因で脳の中枢神経に異常をきたし、けいれんが起こります。・発達異常・奇形先天的な遺伝子変異が原因の疾患によって、大脳皮質の形成異常がみられることから、新生児けいれん、てんかん、発達障害などの症状を併発します。・代謝異常代謝活動あるいはこれを調節する機能が、何らかの原因で妨げられて生じる異常状態のことを言います。低血糖や低カルシウム血症などの代謝異常は糖尿病母体児や低出生体重児などに多く、先天性代謝異常がある子どもが新生児けいれんやてんかんなどのけいれん症状を起こしやすいと言われています。・新生児てんかん新生児てんかんは乳幼児期に発症するてんかんのことで、2つに分類されます。良性家族性新生児けいれんは遺伝性のてんかんです。約4割は生後3日目前後に発作が起こり、そのうちの約7割は生後6週間以内に発作がおさまるといわれています。無呼吸発作が起こることもあります。良性突発性新生児けいれんは、生後5日目前後に間代発作や無呼吸発作を何回も繰り返すものの、明らかな原因がないてんかんです。この時期を過ぎると発作は再発しません。新生児けいれんとてんかんなどとの関係は?出典 : 新生児けいれんを発症した子どものうちの56%は、てんかんが発症する可能性があるといわれています。てんかんとは慢性的な脳の疾患(障害)で、大脳の神経細胞が過剰に興奮することで発作症状を引き起こす疾患です。年齢・性別・環境に関わらず発作は発症します。てんかん発作は突然倒れて意識を失い、けいれんを起こすといったいわゆる大発作と体の一部が勝手に動いたり、会話の途中にぼんやりしたと思ったら意識を失っていたりといった小発作などがあります。てんかん発作はほとんどが完治することはなく、長年付き合い続けなくてはいけない疾患です。現在、新生児けいれんを発症した子どもにてんかんが多い原因は研究中で解明されていません。他にも、子どもに起こりやすいけいれん症状に、熱性けいれんや急性脳症などがありますが、新生児期に発症することはまれです。熱性けいれんは高熱によってけいれんが起こり、急性脳症は代謝異常などによってけいれんが起こります。表出する症状はけいれんですが、原因疾患などによって鑑別され、それぞれに合った治療を行っていきます。出典:新生児けいれん|日産婦誌57巻7号研修コーナー新生児けいれんの診断・検査方法とは出典 : 新生児けいれんの診断にはいくつかの検査を行います。次の検査は新生児けいれんの診断において、一般的に行われている検査になります。◇頭部画像検査(CT、MRI)新生児けいれんの原因疾患があるかどうかを確認するために行います。どちらも検査服に着替えて、ベッドに横たわり筒状の機器の中に入るだけで検査は行えます。MRIは電波を使って身体の断層を撮影する方法です。CTスキャンはX線を用いて身体の断層を画像にします。◇髄膜検査髄膜刺激症状と30分以上の意識障害が伴う場合には髄膜検査を行います。髄膜刺激症状とは、首の硬直や膝を曲げた状態で股関節を直角に屈曲し、そのまま膝を伸ばそうとすると抵抗があることをいいます(ケルニッヒ徴候などがあります)。これは新生児けいれんと似た症状がある髄膜炎との鑑別のために行います。◇血液・髄液検査血液検査で血糖、カルシウムやナトリウムなどの電解質、感染徴候などを確認し、その他に必要と認められた項目の値を検査します。さらに髄膜炎などとの鑑別を図るために、髄液検査も行います。◇脳波検査脳波検査はけいれんの診断や後遺症の予測に非常に有用な検査です。しかし、けいれんの種類によっては必ずしも脳波で診断が行えない場合もあります。この他にも医師が必要と認めた検査を受けることがあります。新生児けいれんが起こったら出典 : 子どもに突然けいれんが起こったら、しかも生まれたばかりの新生児期に起こった場合、驚いてしまう保護者の方も多いのではないかと思います。しかし、正しい知識を持っていれば冷静に対処することができます。子どもが新生児けいれんを起こしたときには、以下のような対処法を実践してください。<けいれん時の対処法>・首の周りなどを締め付けないように衣服を緩めてください・抱きかかえず、平らなところに寝かせてください・嘔吐や口の中に固形物がある場合は、顔を左に向けて吐いた物が気道に詰まらないようにしてください・口や鼻の周りの吐物を拭き取ってください・診察時にそなえて、けいれんの様子(左右差)や持続時間、体温などを確認しておいてください。余裕があれば不謹慎だと思わずに動画などを撮影し記録してください(診察時、てんかんとの鑑別に役立ちます)。<してはいけないこと>・大声で名前を呼んだり、身体を揺すったりしない(刺激となり、けいれんが長引く場合があります)・「舌を噛まないように」と口の中に物を入れたりしない(けいれんで舌を噛むことはほとんどありません)けいれんの持続時間によって、その後に後遺症が残る可能性の割合が変わってきます。新生児けいれんの場合は原因疾患が早急に治療を必要とするため、救急車を呼ぶか、病院での診察が必要なケースがほとんどです。そうはいっても、けいれんを起こす疾患は他にもたくさんあります。救急車を呼んだり、病院に連れていったりする基準として下記を参考にしてみてください。Upload By 発達障害のキホン【救急車を呼ぶ】・5分以上けいれんが続く・けいれんが終わったが、その後も意識障害が続く(睡眠とは別)【病院へ行く】・初めてけいれんを起こしたとき・全身けいれんではなく、体の一部または左右非対称なけいれんがある【保護者がパニックで判断しにくい場合】・小児救急電話相談(#8000)に電話相談をする小児救急電話相談は厚生労働省がすすめる相談事業です。#8000番に電話すると、お住まいの都道府県の相談窓口につながります。そこで小児科医師・看護師から、お子さんの症状に応じた適切な対処の仕方や、受診する病院などのアドバイスを受けることができます。新生児けいれん以外にも使用することができます。#8000番に電話をして状況を伝えることで、医師や看護師の適切な指示を受けることができ、子どもの保護者も、その場の対処や救急車・通院の判断を行いやすくなります。参考:小児救急電話相談事業(#8000)について|厚生労働省新生児けいれんの後遺症が心配…。治療法はあるの?出典 : 新生児けいれんの治療は正式なガイドラインが設けられているわけではありません。原因疾患によって治療方法が異なってくるため、それぞれの疾患に必要とされる医療が行われることになります。原因疾患の治療は、薬物治療を主として行われています。新生児けいれんを発症した子どものうち、25~35%が知的障害や運動障害を発症するとされています。新生児けいれんは原因疾患の種類やけいれんの持続時間などによって、後遺症の発症率や程度が異なります。けいれん症状は長ければ長いほど、後遺症の発症率や障害の程度は重い傾向に引き上げられます。医療の進歩によって新生児けいれんの死亡率は改善されてきています。以前は約40%あった死亡率ですが20%と減少し、今後も死亡率は減少していくでしょう。ここでは、あくまでこれまでの研究による統計的な数値をもとに紹介しました。新生児けいれんを発症した子どもの中にも、定型的な発達を歩む子どもは多くいます。出典:新生児けいれん|日産婦誌57巻7号研修コーナーまとめ出典 : 新生児に起こるけいれんは、良性で2週間~半年ほどで完治するものもあれば、原因によっては後遺症を残すほど重度化するものもあります。またてんかんを引き起こしやすいのも特徴的です。実際にけいれんが起こった際は、保護者がパニックになってしまうこともあるかもしれません。できることならば事前に情報収集などを行っておくことと、緊急性が高く、その場に頼れる人がいないときは#8000に電話し、落ち着いて最善の判断を行えるとよいですね。このコラムがいざという時のお守り代わりになることを願います。
2017年10月05日双極性障害(躁うつ病)とは?出典 : 双極性障害は、気分が高まる「躁(そう)状態・軽躁状態」と気分が落ち込む「うつ状態」を繰り返す精神疾患です。この特徴から、かつては「躁うつ病」と呼ばれていました。他に、双極性感情障害と呼ばれることもあります。躁状態のときには、短い睡眠時間でも活発に活動できたり、普段より自信を持って行動できたりと仕事で成果をあげることもあります。その反面、集中力に欠けたり、高額な買い物をしたりしてしまうことがあります。うつ状態になると、一変して、すべてのことに対して無気力な抑うつ状態になってしまいます。症状には個人差があり、程度や現れ方によっていくつかのタイプに分類されます。双極性障害のうち、躁状態とうつ状態を繰り返すものをI型、軽躁状態とうつ状態を繰り返すものをII型といいます。Upload By 発達障害のキホン双極性障害は、およそ100人に1人がかかる病気で、20代から30代前後に発症することが多いとされています。また、女性の発症率が高いうつ病とは異なり、男性と女性の間での発症のしやすさに大きな違いはありません。双極性障害は本人に躁状態の自覚がない場合も多く、さらに発症当初はうつ病との識別が難しいため、正しく診断されるまでに比較的長い期間を要します。しかし、双極性障害は気づかずに放置してしまうと、社会的地位や信頼を失ったり、最悪の場合、自ら命を絶ってしまったりする危険性があります。そのため、周囲ができるだけ早く異変に気づき、適切なサポートをすることで早期発見・早期治療につなげることが重要です。また、双極性障害は完治するのが非常に困難とされているうえ、再発率もとても高い病気です。症状をコントロールし、再発のリスクを低く抑えるためには、周囲の理解と規則正しい生活の維持が不可欠となります。出典:躁うつ病/双極性障害|前田クリニック参考:厚生労働省HP双極性障害の症状出典 : 初めの章で触れたように、双極性障害は、躁状態(軽躁状態)とうつ状態を繰りかえす疾患です。躁状態とうつ状態は、ある日を境に突然切り替わるわけではなく、症状が落ち着いている「寛解期(かんかいき)」を経てから切り替わります。この寛解期は、初めのうちは平均して5年程度だと言われています。寛解期になり、双極性障害が治ったと勘違いして、治療を途中でやめてしまうと、次第に寛解期が短くなり、場合によっては、1年の間に4回以上気分の変動が起きる「急速交代型」へと発展することもあります。症状の現れ方と継続期間に関しては、躁病エピソード(病相)は急に発症することが多く、2週間から5ヶ月間ほど持続すると言われています。一方、抑うつエピソードは徐々に発症し、躁病エピソードに比べて発症期間が長い傾向にあります。ここからはそれぞれの状態について説明します。躁状態になると、気分が著しく高揚した状態が持続します。陽気で開放的・活動的になる、すぐに興奮する、怒りっぽくなるなど、普段とは違った状態が続きます。自分を最高の人間と思い、「自分ならなんでもできる」という「万能感」を感じ、他人を見下すような態度が見られることもあります。具体的な行動面では、ほとんど寝ることなく動きまわったり、多弁になって周囲の人に次から次へと様々な話題についてしゃべり続けたりします。さらには買い物やギャンブルに大金を使うなど、周囲からすると異常な行動が見られますが、本人は無自覚であることが多いです。この状態の問題は、気分が高揚して様々な活動を行うものの、それはあくまでも病的な気分高揚によって引き起こされている行動であるため、内容に乏しく、活動の結果が良いものにならないということです。また、気分が大きくなった結果、暴力行為や性的逸脱行為のような法的な問題を起こしてしまうなど、社会生活に甚大な支障をきたすこともあります。軽躁状態は、読んで字のごとく「軽い躁状態」を指します。躁状態ほどの明らかな高揚感はないものの、やはり気分は高めで、普段と比べて人間関係に積極的になったり、やや高圧的になったりといった症状が見られます。躁状態と比べると症状は軽いため、周囲の人は「今日は機嫌がいいね」「最近テンション高いね」程度にしか感じず、病気とは気づかないことも多いようです。躁状態と共通して言えることは、多くの場合、本人は自分の症状に対して無自覚であるということです。そのため、自分の言動によって周囲が困惑していても、そのことに気づきません。 College of Psychiatrists HPうつ状態は、気分が高揚する躁状態の対極にある症状です。異常に気分が沈んだ状態が続き、何をやっても「楽しい」「嬉しい」という気分が持てなくなります。双極性障害の人が具合が悪いと感じるのはこの状態のときです。憂うつな気分になり、やる気や気力を失います。過剰な心配症になったり、自分を責めたりします。行動面の変化としては、口数が減る、なにもせずごろごろすることが増える、など明らかに元気のない状態が見られます。さらに、睡眠時間・食欲が減少し、苦痛を訴えたり、簡単に疲労感を感じたりするようになります。注意力・集中力も低下し、仕事の能率も悪くなります。うつ状態のときには、自殺願望を口にしたり、実際に自殺を試みることもあります。最初に現れる病相は人によってさまざまで、躁、軽躁状態であったり、混合状態やうつ状態であったりしますが、男性の場合、躁状態から始まることが多いと言われています。全体的には、うつ状態から始まるのが割合としては高いとされています。双極性障害とうつ病の違いは?出典 : 双極性障害もうつ病も、同じようなうつ症状があり、誤診されることも少なくありません。けれども、2つはまったく異なる病気です。双極性障害かうつ病なのかによって、後に解説する治療法も異なるため、違いを知っておくとよいでしょう。もっとも大きな違いは、気分が高まる「躁状態」「軽躁状態」があるかどうかです。病状がうつ状態で始まる場合、双極性障害であると見分けることは困難なため、経過を見ていく必要があります。うつ病と比べて、双極性障害のうつ状態には「急激に発症する」「比較的重症である」「妄想や幻覚などの精神症状を伴う」といった傾向があると言われています。日本国内において双極性障害の患者数の割合は約0.7%とされており、この数字はうつ病と比べておよそ10分の1です。発病しやすい年代は、うつ病が平均40歳であるのに対して、双極性障害は20歳前後で、10歳での発症も見られます。双極性障害のほうが若年齢で発症しやすいのは、遺伝的な影響を受けやすいためです。また、双極性障害とうつ病では発症率の男女比にも違いがあります。うつ病は女性に多く男女比が1:2である一方で、双極性障害の発症率には男女間でほとんど差はありません。男女の間でうつ病の発症率にこのような差が生じるのは、女性ホルモンの増加、妊娠、出産など女性に特有の事柄が理由でないかと考えられています。参考:双極性障害|みんなのメンタルヘルス(厚生労働省)双極性障害と間違えやすい病気出典 : うつ病以外にも双極性障害は、統合失調症や境界性パーソナリティ障害など他の病気と間違って診断されやすいと言われています。「躁」と「うつ」という二面性を持つうえ、躁状態では本人に自覚がないことが多い双極性障害は正確に診断するのがとても難しいといわれています。そのため、症状によって生活に支障が出て医療機関を受診しても、ほかの精神疾患と診断されることが少なくないのです。以下では、双極性障害と間違えやすい3つの病気について詳しく解説します。統合失調症には「陽性症状」と「陰性症状」という2つの型があります。発症当初は陽性症状が現れ、少しずつ陰性症状へと変わっていく傾向があります。この二面性が双極性障害との大きな共通点です。陽性症状では幻覚・妄想・興奮状態が起きるのに対して、陰性症状では自発性が乏しくなる・感情表現が鈍くなる・人づきあいが苦手になるといった状態になり、うつ症状にも見えます。自己愛の強い人たちの行動は、ときに躁状態に見えることがあります。芝居がかった言動の数々で周囲の人たちに迷惑を及ぼすという特徴も躁状態の人に見られる傾向の1つです。自己愛性パーソナリティ障害の人は、自分の才能や業績を誇張し過剰な称賛を求めます。他人に嫉妬したり、尊大かつ高慢な態度で振舞います。このような症状は、躁状態の人が「自分にはなんでもできる」と万能感を感じて行動するのと似ています。「境界性」とは、もともと神経症と統合失調症の「境界」を意味していました。神経症をはるかに超える症状が現れるけれども、統合失調症ほど重症ではないと診断されてきた障害です。不安定な対人関係という特徴が双極性障害と似ています。はしゃいでいたのに急に落ち込むといった症状が典型です。ほかにも、過食・過量服薬・リストカットなどを繰り返す重大な障害です。以上で紹介した病気はいずれも双極性障害とは治療法が異なります。そのため、症状を回復させるためには正しい診断に基づいた適切な治療が重要になります。児童期の双極性障害を診断するうえでの大変さは、その症状がADHDの症状の多くと重なっている点にあるでしょう。じっとしていられない、衝動的、不注意、注意がそれやすい、などの特徴は、双極性障害のある子どもにも見られる傾向ですが、これらの様子が観察された場合には双極性障害よりもADHDと診断されてしまうこともあるようです。参考:「子どもの双極性障害―親と専門家のためのガイド 」ディミトリ パポロス双極性障害の原因出典 : 過去の研究から、双極性障害の発症には「遺伝」と「ストレス」が関連していることが指摘されていて、これら2つの要素が重なった結果として双極性障害が発症するという「ストレス脆弱性モデル」が双極性障害の原因の一つとして考えられています。ストレス脆弱性モデルとは、「その人の病気へのなりやすさ(脆弱性)と、病気の発症を促す要因(ストレス)の組み合わせにより、精神疾患は発症する」という仮説です。ここでいう脆弱性とは、遺伝などの先天的な要素と、どのような環境でどのように対応してきたかという後天的な要素により決まるといわれています。ですが、中にはこのモデルに当てはまらない患者さんもおり、双極性障害の原因のすべてを説明することはできてはいません。もともとの性格が要因となるのではと考えている研究者もいますが、明らかにはされていません。さまざまな研究が進められているものの、双極性障害の原因に関してはまだわかっていないことが多いようです。参考:躁うつ病(双極性障害)の原因|前田クリニック College of Psychiatrists HP双極性障害かもと思ったら?出典 : 双極性障害は、誰でもかかる可能性のある病気です。気分が上がらず憂鬱な気分のまま数週間が経ってしまったり、逆にテンションの上がり下がりにムラがあり不安を感じる場合は専門機関に相談するか、医療機関の受診をおすすめします。医療機関を受診する場合、精神科が第一候補になります。総合病院の精神科よりは精神科クリニックなどが受診しやすいでしょう。ただし、激しい躁状態の場合には入院が必要となる可能性もあるため、はじめから精神科救急の設備を備えた専門病院がよいでしょう。精神科に似た診療科に心療内科があります。本来は心身症が専門の心療内科ですが、近ごろは精神科という診療科名に抵抗を感じる人を受け入れるために、あえて心療内科としている場合があります。精神科医がいるのかどうか、事前に調べてみるとよいでしょう。いきなり医療機関を受診するのに抵抗がある場合、どの病院のどの診療科に行けばいいのか迷ったり、そもそも受診すべきか迷ったりすることもあるのではないでしょうか?そんな時は、お近くの精神保健福祉センターや保健所に連絡すると、専門家が相談に乗ってくれますので、気兼ねなく連絡してみましょう。以下のリンクで、全国の精神保健福祉センター、保健所を検索できます。また、お子さんに双極性障害の疑いがある場合には児童相談所などに相談してもよいでしょう。全国の精神保健福祉センター一覧|厚生労働省HP保健所一覧|全国保健所長会HP全国児童相談所一覧 l 厚生労働省厚生労働省HP双極性障害の診断基準は?出典 : 米国精神医学会の診断基準『DSM-5』(精神疾患の精神疾患の診断・統計マニュアル)では次のような特徴を挙げて、・双極I型障害・双極II型障害という2つの型に区別して診断されます。(i) 躁状態が少なくとも7日間つづく場合はI型、4日間つづく場合はII型とする。(ii) II型の軽い躁状態では、社会生活の機能はあまりそこなわれないですむ。しかしI型の躁症状は、社会生活の機能を必ず障害し、問題になっていく。・以下で引用する「躁病エピソード」A~Dのうち、少なくとも1つ以上に該当すること・躁病エピソードと抑うつエピソードの発症が、その他の精神性障害によるものでないことが双極I型障害の診断基準となります。・現在または過去の軽躁病エピソードの以下の基準を満たすこと・現在または過去の抑うつエピソードの以下の基準を満たすことが双極II型の診断基準となります。●躁病エピソードA.気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的または易怒的となる。加えて、異常にかつ持続的に亢進した目標指向性の活動または活力がある。このような普段とは異なる期間が、少なくとも1週間、ほぼ毎日、1日の大半において持続する(入院治療が必要な場合はいかなる期間でもよい)。B. 気分が障害され、活動または活力が亢進した期間中、以下の症状のうち3つ(またはそれ以上)(気分が易怒性のみの場合は4つ)が有意の差をもつほどに示され、普段の行動とは明らかに異なった変化を象徴している。自尊心の肥大、または誇大睡眠欲求の減少(例:3時間眠っただけで十分な休息がとれたと感じる)普段より多弁であるか、しゃべり続けようとする切迫感観念奔逸、またはいくつもの考えがせめぎ合っているといった主観的な体験注意散漫(すなわち、注意があまりにも容易に、重要でないまたは関係のない外的刺激によって他に転じる)が報告される。または観察される。目標指向性の活動(社会的、職場または学校内、性的のいずれか)の増加。または精神運動焦燥(すなわち、無意味な非目標指向性の活動)困った結果になる可能性が高い活動に熱中すること(例:制御のきかない買いあさり、性的無分別、またはばかげた事業への投資などに専念すること)C. この気分の障害は、社会的または職業的機能に著しい障害を引き起こしている、あるいは自分自身または他人に害を及ぼすことを防ぐため入院が必要であるほど重篤である、または精神病性の特徴を伴う。D. 本エピソード、物質(例:薬物乱用、医薬品、または他の治療)の生理学的作用、または他の医学的疾患によるものではない。注:抗うつ治療(例:医薬品、電気けいれん療法)の間に生じた完全な躁病エピソードが、それらの治療により生じる生理学的作用を超えて十分な症候群に達してそれが続く場合は、躁病エピソード、つまり双極I型障害の診断とするのがふさわしいとする証拠が存在する。● 軽躁病エピソードA.気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的または易怒的となる。加えて、異常にかつ持続的に亢進した活動または活力のある、普段とは異なる期間が、少なくとも4日間、ほぼ毎日、1日の大半において持続する。B. 気分が障害され、かつ活力および活動が亢進した期間中、以下の症状のうち3つ(またはそれ以上)(気分が易怒性のみの場合は4つ)が持続しており、普段の行動とは明らかに異なった変化を示しており、それらは有意の差をもつほどに示されている。自尊心の肥大、または誇大睡眠欲求の減少(例:3時間眠っただけで十分な休息がとれたと感じる)普段より多弁であるか、しゃべり続けようとする切迫感観念奔逸、またはいくつもの考えがせめぎ合っているといった主観的な体験注意散漫(すなわち、注意があまりにも容易に、重要でないまたは関係のない外的刺激によって他に転じる)が報告される。または観察される。目標指向性の活動(社会的、職場または学校内、性的のいずれか)の増加。または精神運動焦燥困った結果になる可能性が高い活動に熱中すること(例:制御のきかない買いあさり、性的無分別、またはばかげた事業への投資などに専念すること)C. 本エピソード中は、症状のない時のその人固有のものではないような、疑う余地のない機能的変化と関連する。D. 気分の障害や機能の変化は、他者から観察可能である。E. 本エピソード、社会的または職業的機能に著しい障害を引き起こしたり、または入院を必要としたりするほど重篤ではない、もし精神病性の特徴を伴えば、定義上、そのエピソードは躁病エピソードとなる。F. 本エピソードは、物質(例:薬物乱用、医薬品、あるいは他の治療)の生理学的作用によるものではない。注:抗うつ治療(例:医薬品、電気けいれん療法)の間に生じた完全な軽躁病エピソードが、それらの治療により生じる生理学的作用を超えて十分な症候群に達して、それが続く場合は、軽躁病エピソードと診断するのがふさわしいとする証拠が存在する。しかしながら、1つまたは2つの症状(特に、抗うつ薬使用後の、易怒性、いらいら、または焦燥)だけでは軽躁病エピソードとするには不十分であり、双極性の素因を示唆するには不十分であるという点に注意を払う必要がある。● 抑うつエピソードA.以下の症状のうち5つ(またはそれ以上)が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こしている。これらの症状のうち少なくとも1つは、(1)抑うつ気分、または(2)興味または喜びの喪失である。注:明らかに他の医学的疾患に起因する症状は含まない。その人自身の言葉(例:悲しみ、空虚感、または絶望感を感じる)か、他者の観察(例:涙を流しているようにみる)によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分。 (注:子どもや青年では易怒的な気分もありうる)ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味または喜びの著しい減退(その人の説明、または他者の観察によって示される)食事療法をしていないのに、有意の体重減少、または体重増加(例:1ヵ月で体重の5%以上の変化)、またはほとんど毎日の食欲の減退または増加(注:子どもの場合、期待される体重増加がみられないことも考慮せよ)ほとんど毎日の不眠または過眠ほとんど毎日の精神運動焦燥または制止(他者によって観察可能で、ただ単に落ち着きがないとか、のろくなったという主観的でないもの)ほとんど毎日の疲労感、または気力の減退ほとんど毎日の無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感(妄想的であることもある、単に自分をとがめること、または病気になったことに対する罪悪感ではない)思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日認められる(その人自身の言葉による、または他者によって観察される)死についての反復思考(死の恐怖だけではない)。特別な計画はないが反復的な自殺念慮、または自殺企図、または自殺するためのはっきりとした計画B. その症状は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。C. そのエピソードは物質の生理学的作用、または他の医学的疾患によるものではない。注:診断基準A~Cにより抑うつエピソードが構成される。抑うつエピソードは双極I型障害でしばしばみられるが、双極I型障害の診断には必ずしも必須ではない。 注:重大な喪失(例:親しい者との死別、経済的破綻、災害による損失、重篤な医学的疾患・障害)への反応は、基準Aに記載したような強い悲しみ、喪失の反芻、不眠、食欲不振、体重減少を含むことがあり、抑うつエピソードに類似している場合がある。これらの症状は、喪失に際し生じることは理解可能で、適切なものであるかもしれないが、重大な喪失に対する正常の反応に加えて、抑うつエピソードの存在も入念に検討すべきである。その決定には、喪失についてどのように苦慮を表現するかという点に関して、各個人の生活史や文化的規範に基づいて、臨床的な判断を実行することが不可欠である。引用:『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)双極性障害の治療法出典 : 双極性障害の治療には、躁状態やうつ状態の治療と、再発を防ぐための治療があります。それぞれ見ていきましょう。双極性障害の治療において第一の大きな柱となるのは、薬物療法です。薬は、気分安定薬と非定型抗精神病薬が第一選択となりますが、患者さんによって効く薬が異なるため、他にも多くの種類の薬があります。気分や意欲が周期的に変化し、高い再発率で知られる双極性障害の患者さんが安定した生活を送るためには、症状をコントロールしながら再発予防に努めることが双極性障害を治療するうえでのポイントとなります。そこで、再発を防ぐ維持療法の段階に入ると、もう1つの柱として心理社会的治療が重要になります。以下では薬物療法と心理社会療法のそれぞれについてもう少し詳しく紹介します。◇薬物療法双極性障害の薬物療法では人によって効く薬が違うため、さまざまな選択肢がありますが、気分安定薬の一つであるリチウムの使用が基本中の基本とされており、双極性障害の患者の約7割から8割に対してはっきりとした効果があるとされています。躁とうつは対極の症状なので、薬も正反対の作用のものを用いると思われることが多いです。しかし、躁・うつはどちらも気分が大きく乱れた状態です。そのため、薬で気分を安定させることで両方の症状に対して効果が見込めるのです。これを気分安定薬といいます。気分安定薬の他にも抗精神病薬・抗うつ薬が用いられることはあり、それぞれ以下のような効果がありますが、ほとんどの場合、気分安定薬が第一選択となります。気分安定薬・・・躁状態の改善・予防、自殺予防に有効抗精神病薬・・・躁状態、幻聴・妄想に有効抗うつ薬・・・基本的に用いられないが、気分安定剤と併用することでうつ状態に有効な場合もより詳しい薬の情報については、以下のガイドラインをご参照ください。参考:「日本うつ病学会治療ガイドライン」参考:「双極性障害の診断と治療」◇心理社会的療法(精神療法)心理社会的治療は広い意味での精神療法で、再発を予防する上では薬と同じように重要な役割を果たします。心理社会療法では、患者さんが療養に取り組む上での精神面をサポートしていくことが目的になります。双極性障害の精神療法の中でも中心となるのは心理教育です。患者さんは心理教育を通して双極性障害に対する知識を深めるとともに、その「再発しやすい」性質を理解し、日々の生活の中で再発のリスクを減らす方法について医師と話し合っていきます。再発率の高い双極性障害はの治療においては、薬物療法によって症状を改善してからが本番であるとも言われます。症状が落ち着いた後も、毎日をどう過ごすのかがとても重要です。服薬を継続しながら、運動や睡眠、ストレスへの対処法などを工夫することで気分の波をコントロールすることができます。参考:文部科学省HP参考:よくわかる双極性障害(躁うつ病) (セレクトBOOKS) 貝谷 久宣再発を防ぐ治療は、症状が落ち着く寛解期に行います。双極性障害の治療において、再発を防ぐことは非常に大切です。というのも、双極性障害を再発すると、同じような症状が繰り返されるわけではなく、症状が重くなることが多く、何度も再発をしているうちに、社会的にさまざまなものを失ってしまう可能性があるからです。再発を防ぐ治療といっても、なにか特殊なことをするわけではありません。最大の再発を防ぐ治療は、今までどおり薬を飲み続けることです。症状が治まってきたからといって、自分で薬を減らしたり、飲むことをやめたりしてはいけません。医師の指示に従うようにしましょう。双極性障害の人に対して周囲はどのように接するべき?出典 : 序章で触れたとおり、双極性障害の完治はとても難しいと言われています。また、最悪の場合には自ら命を絶つ可能性もある病気です。そして双極性障害は、誰でもかかる可能性のある病気でもあります。家族や結婚相手、恋人、親友など、大切な人が双極性障害であるとわかったとき、どのように支えていくべきなのか、必要な心構えと注意すべきポイントについてお話します。このような認識の違いは家庭内でストレスを生み、それが病気の再発へとつながってしまう可能性があります。そうならないためにも、本人と話し合うことによってこのような認識のギャップについて、互いに把握しておく必要があります。また、再発の際にどのような症状が現れるのかを周囲の人が知っておくことも大切です。過去に躁状態になったときのことを振り返り、最初にどんな症状が現れたのかを共有しておくことで、早くから再発の兆しを発見し早期対処できるようになります。躁状態のときには、普段のその人とは全く違う態度や言動を取ったり、信じられない額の浪費をしてしまったりします。そのため周囲も驚いたり、困惑したり、ときには感情的になってしまったりすることもあるのではないかと思います。しかし、そうした普段とは違う態度・言動はいずれも病気によって引き起こされている「症状」であるため、できるだけ早期に受診あるいは担当医に相談することが望まれます。ですが、躁状態の場合、本人の自覚が乏しく、病院へ連れていくのが難しいことがあります。そのようなときには、できるだけ刺激しないように心がけながら、「あなたのことを心配している」という事実を伝えましょう。その人が信頼・尊敬している人から説得してもらうという方法もうまくいくことがあるようです。他にも様々な手段が考えられますが、本人を騙して病院に連れていくことは避けましょう。騙されたと知ることでさらなるストレスがかかり症状の悪化へとつながったり、以降の関係にわだかまりが残り治療が困難になる可能性があります。うつ状態は、本人にとって最も辛くて厳しい期間です。まずはそのことをしっかりと理解しましょう。うつ状態のとき周囲の人が注意すべきポイントは、・責めるようなことを言わないこと・自殺の予兆に気づき、予防することの2点です。繰り返しになりますが、うつ病で一番苦しい思いをしているのは患者さん本人です。そのため、「ダラダラするな」「甘えるな」など怠け者扱いするような言動や、「がんばれ」「いつ治るの」といった元気になるのを無理に急かすような発言はしないようにしましょう。さらに、悲しいことに双極性障害の症状によって自殺をしてしまう人もいます。・「死にたい」「消えたい」と口にする・遺書を書く・周囲の人にお礼や別れを告げる・身辺整理をする・お酒を暴飲するなどのサインが見られたら早急に主治医に相談し、予防策を取ることが求められます。参考:加藤忠史先生に「双極性障害」を訊く|日本精神神経学会参考:躁うつ病の人とのつきあい方(友人・家族)|特定非営利活動法人地域精神保健福祉機構(COMHBO)双極性障害の人が受けられる可能性のある支援出典 : 双極性障害の症状が原因で働くことができないと収入が減ってしまうだけでなく病気の治療代も支払わなければならないため、経済的に苦しい思いをしてしまう患者さんもいます。以下では、そのような方々が利用できる可能性のある公的支援を紹介します。◇障害年金年金の障害給付、障害基礎年金ともいいます。障害が認められれば、年金が早期から支払われます。◇精神障害者保健福祉手帳税金の減額や、自治体によっては公共交通機関が無料で利用できるようになります。患者さんの状態に応じて等級が決まり、その等級にあった福祉サービスが受けられます。◇自立支援医療精神科の病院やクリニックなどに通っている場合、支払った医療費の一部が補助されます。また、低所得世帯に対しては医療費負担軽減措置が設けられていいます。高額治療継続者であれば、一定の負担能力がある場合でもひと月の上限が設定されます。◇生活保護精神疾患に限らず病気やけがなどを理由に働くことができず、収入がない、もしくは不十分である場合に最低限度の生活を保障する制度です。また、双極性障害の患者さんやその家族によって成る互助団体もあります。当事者同士でしか話せない悩みの相談をしたり、治療や支援を受ける方法についての情報交換なども行われているようです。法人ノーチラス会関東ウェーブの会東京うつ病友の会また、以下のリンク先では、上記で紹介した以外の地域で活動を行う双極性障害患者の互助会の情報のほか、そうした互助会によるイベントをまとめたカレンダーを見ることができます。「双極性障害(双極症)全国自助会カレンダー」まとめ出典 : 双極性障害はその症状がわかりにくく、本人に自覚がない場合があったり、他の疾患と間違えやすい障害です。ですが、双極性障害は今まで築いてきた社会生活や、時には命にまで関わる重大な病気もあります。それでも、薬物治療に加え、双極性障害とうまく付き合っていく方法は確かに存在し、世の中には双極性障害でありながらも社会生活を送っている人がいるのも事実です。本人だけではなく、周囲も一緒になって病気の性質についてよく理解することで、双極性障害との上手な付き合い方を見つけ、さらに、予兆を感じた時にはすぐに担当医に相談することが大切です。気分の波をうまくコントロールし、再発のリスクを抑えながら毎日楽しい生活を送れるように、本人も、周囲も、互いを思いやりながら治療を進めていけるといいですね。
2017年10月02日PTSDとは出典 : Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)は、ショック体験や強いストレスをきっかけに、こころにひどく傷を負うことで発症します。発症すると、そのできごとに関わる人・場所を過度に避けたり、常に気を張ったり、考え方が否定的になったりと、日常生活を送る上で支障が出てしまいます。時間が経つにつれて症状が軽くなることもありますが、数ヶ月、症状が長引くようであれば、専門家に相談することも必要になります。また、PTSD患者は、他の精神疾患を合併することが多いとされています。PTSD患者が、精神疾患を合併する割合は80%近くになります。合併することの多い精神疾患としては、うつ病、不安障害、アルコール中毒や薬物中毒といった物質使用障害です。出典:日本精神神経学会/監修『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)PTSDは、誰しもがかかりうる疾患です。アメリカでの調査によれば、約15人に1人は一生のうちにPTSDを発症します。また、PTSDを発症しないにしろ、約半数の人は、PTSDにつながる可能性のあるショック体験や強いストレスを経験しています。出典:友田 明美、杉山 登志郎、谷池 雅子/編集『子どものPTSD-診断と治療-』(診断と治療社、2014年)PTSDの原因出典 : はショック体験や強いストレスがこころを傷つけ、トラウマになることで引き起こされる疾患です。人それぞれトラウマになるできごとはバラバラです。しかし、アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)によって、PTSDにつながるショック体験や強いストレスが定義されています。PTSDにつながる経験は、以下の条件を満たしています。A.実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事への、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の形による曝露:(1)心的外傷的出来事を直接体験する。(2)他人に起こった出来事を直に目撃する。(3)近親者または親しい友人に起こった心的外傷的出来事を耳にする。家族または友人が実際に死んだ出来事または危うく死にそうになった出来事の場合、それは偶発的なものでなくてはならない。(4)心的外傷的出来事の強い不快感をいだく細部に、繰り返しまたは極端に曝露される体験をする。(例:遺体を収集する緊急対応要員、児童虐待の詳細に繰り返し曝露される警官)注:基準A4は、仕事に関連するものでない限り、電子媒体、テレビ、映像、または写真による曝露には適用されない。出典:アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)例えば、上の条件を満たすような経験には、次のようなものがあります。・自然災害・殴られる、蹴られるなどの暴行・性的な虐待・手術中に意識を取り戻してしまうなどの医療事故・いじめられた経験や見て見ぬふりをした経験・ネグレクトなどの親からの虐待これらの経験は、本人に失態があり、振りかかるようなものではありません。PTSDの原因になる経験は、日常生活を送る上で頻繁におこるものではなく、非日常的なできごとであることが多いです。参考:アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)出典:明鏡国語辞典 第二版 (大修館書店)PTSDの症状出典 : は、過去に悲劇的なできごとがあれば必ず発症するものではありません。過去にショック体験や強いストレスがあったことと、以下に挙げる特徴的な4つの症状が1ヶ月以上持続することを共に満たす場合にのみ、PTSDだと診断されます。・トラウマが突然、思い出される・トラウマに似た状況を避けようとする・否定的になる・いつも緊張状態にある特徴的な4つの症状について、一つずつ詳しく見ていきます。つらい記憶が、無意識のうちに突然思い出されることがあります。この記憶が思い出されることは1回だけでなく、繰り返し何度も起こることが特徴的です。記憶が急に思い出されて、さまざまな反応を引き起こすことをフラッシュバックと言い、場合によっては、短い時間のあいだ意識を失うことさえあります。子どもの場合、つらい記憶に似た状況に置かれたときに、記憶が急に思い出されるケースがあります。例えば、東日本大震災がトラウマになった子どもは、比較的小さな地震が起きたときに、東日本大震災での記憶が呼び起こされます。PTSDの人は、トラウマとなったできごとに関係する刺激を、ほとんど常に避けようとします。多くの人は、トラウマを思い出さないように、つらい記憶について考えたり、会話したりすることや、トラウマに関係する場所、人を意図的に避ける努力をします。PTSDになると、否定的な感情を抱いたり、認知がゆがんだりすることがあります。例えば、「私がすべて悪い」、「誰も信用できない」と考えてしまうこともあります。また本来、本人には一切の責任がないようなことであっても、原因が自分にあると思いこんでしまったりすることも少なくありません。PTSDの人は、いつも気を張り詰めていることがあります。日常の中で、ささいなことに苛立ちを覚えたり、電話がなると飛び上がるなど、予期しない刺激に過剰に反応してしまいます。このような症状が発症したとしても、短期間でおさまればPTSDの可能性は低いと考えられます。しかし、1ヶ月以上にわたり症状が見られる場合には、病院で相談してみるといいかもしれません。参考:アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)参考:PTSD|みんなのメンタルヘルス厚生労働省ADHDとPTSDの類似性出典 : (注意欠陥・多動性障害)とPTSDの症状には、実は似ている点が多くあると言われています。そのため、ADHDだと診断されている子どもの中には、実はADHDではなくPTSDである子がいるかもしれません。ADHDの子どもは、不注意、多動性、衝動性の特性があります。ADHDのあるの子どもに見られる行動として、・大人しく座っていられない・すぐにかんしゃくを起こす・診察中に突然、病室から飛び出すといったことがあります。ですが、PTSDの症状としても、これらと似たような症状が見られることがあります。そのため、子どもの行動から、その原因がADHDの特性によるものなのかPTSDの症状として出ているものなのかを区別することは、専門家であっても難しい場合があります。ADHDとPTSDを正しく見分けるためには、子どもの過去にどのようなことがあったのかや生育歴・発達歴の情報が大切になってきます。子どもと一番長い時間を過ごしてきたのは、医師でも学校の先生でもなく家族です。少しでも気になるできごとがあったり、ある日を境に急にADHDと思われるような症状・傾向が見られるようになったと感じたときは、医師に伝えるといいでしょう。参考:友田 明美、杉山 登志郎、谷池 雅子/編集『子どものPTSD-診断と治療-』(診断と治療社、2014年)自閉症スペクトラムとトラウマ出典 : 自閉症スペクトラム(ASD)の子どもは、PTSDだと診断されなくとも、こころの傷によって苦しんでいることがあります。過去のできごとを突然思い出す、「タイムスリップ現象」と呼ばれる症状が自閉症スペクトラムの子どもに多くみられます。タイムスリップ現象とは、いじめや暴力を受けた時の記憶を急に思い出して、まるで今その経験をしているかのように振る舞う現象です。自閉症スペクトラムの子どもが、タイムスリップ現象に関して抱えている問題には、・トラウマになるような経験をしやすい・自分の身体に起こっていることを説明することが難しいといったことが要因として挙げられます。自閉症スペクトラムの子どもは、定型発達の子どもに比べるとストレスを感じやすい環境で生活しています。感覚過敏のある子どもにとっては、普段の教室にいるだけでもストレスがたまっていくことが珍しくありません。また、興味関心の偏りなどといった特性から、友だちとコミュニケーションをうまくとることができず、結果としていじめにつながってしまうこともあります。自閉症スペクトラムの子どもにとって、自分の身体で起きていることを正確に周囲に伝えることは困難を伴うことが多いです。子どもからのSOSがなく、親や学校の先生であっても、子どもがタイムスリップ現象で困っていることに気づけないことがあります。過去にいじめられたり、人間関係でうまくいかなかったりしたことを克服したように見えても、子どもが未だにその経験によって苦しんでいることもあります。自閉症スペクトラムの子どもが次のような行動をとったときには、トラウマが関連している可能性があるので、子どもに最近なにかあったか聞いてみるといいでしょう。・新たに、攻撃的・破壊的な行動をするようになったとき・夜、寝られなくなるなどの身体に変化が起きたとき・社会性、コミュニケーションにおいて、症状が悪化したとき・常同行動が増えたとき常同行動とは、手をひらひらしたり、体を揺らしたり、奇声を上げるなど、一見無目的に同じ行動を繰り返すことです。自閉症スペクトラムの子どもは、トラウマになるような経験をすることが多く、場合によってはタイムスリップ現象につながることがあるかもしれません。しかし、ふだんからソーシャルスキルトレーニングなどを通して子どもが自分の考えや感覚を表現するスキルを向上するための支援を行ったり、ペアレントトレーニングなどを通して保護者が子どもの行動の見極め方や関わり方を学んだり、子どもが親や先生に相談しやすい環境を整えたりすることで、タイムスリップ現象やPTSDを未然に防いだり、発生した際にも早期発見・早期支援に繋げやすくなります。参考:友田 明美、杉山 登志郎、谷池 雅子/編集『子どものPTSD-診断と治療-』(診断と治療社、2014年)PTSDの治療大人編出典 : 治療において、大切になるのは本人のペースに合わせて回復していくということです。周囲が無理に今すぐ治そうとしても、思い通りにはなかなかいきません。そうではなく、本人が少しでも安心して、安全に生活できるような環境を整備することを意識するとよいかもしれません。PTSDの治療法について、紹介していきます。大人と子どもでは、PTSDになるできごとが異なったり、大人のほうが精神的に発達していたりと、同じPTSDでも異なる点があります。この章では、大人に対するPTSDの治療法について紹介します。PTSDの治療には、その症状や原因をよく理解することが重要です。PTSDは、トラウマ体験をした人であれば誰でも起こることがあります。しかしPTSDになる人の多くは、PTSDについて正しい知識を持っていません。そのため、PTSDになったことに対して罪悪感を感じてしまうことがあります。治療の第一段階としては、PTSDについて正しく理解することで、罪悪感を軽減したり、自分の感情をコントロールする術を身につけたりすることが多いです。PTSDの研究の中で、薬による治療が効果的であることがわかっています。PTSDの薬物療法は、それぞれの症状が見られたときに対症療法的に行われます。例えば、不眠や抑うつ状態などが見られたら、それを解消できるような薬が処方されます。PTSDはうつ病や強迫症などさまざまな精神障害と併せて発症することがあります。そのようなときには、合併している疾患への治療も踏まえて、薬を使用していくことになります。精神疾患の薬は使い方を誤ると、重篤な副作用がでることもあります。そのため、医師の指示のもと、綿密に相談しながら、薬と正しい付き合いをしていくようにしましょう。集団療法は、PTSDの主な治療法の一つであり、PTSD患者の持つ孤独感を軽減させたり、周囲の人を信頼したりする効果があります。集団療法には、トラウマについて各々が向き合う必要のあるものから、トラウマについて触れないようにするものからさまざまな種類があります。参考:エナド・B・フォア、テレンス・M・キーン、マシュー・J・フリードマン、ジュディス・A・コーエン/編集飛鳥井 望/監訳『PTSD治療ガイドライン 第2版』(金剛出版、2013年)参考:PTSD の薬物療法ガイドライン:プライマリケア医のためにPTSDの治療子ども編出典 : の治療の大枠は、大人と子どもで変わりません。しかし、子どもだと自分の感じていることを言葉で表現することが難しいため、トラウマやどのような症状があるのかを適切に知るために工夫が必要になることがあります。例えば、子どもたちの遊んでいる様子や描いた絵から心情を推測します。治療を開始するときには、大人と同様にPTSDがどのような病気であるのかを理解できるようにします。その後、薬を用いたり、認知行動療法をしたりして治療していきます。ここでは、子どものPTSD治療において有効性が実証されているトラウマフォーカスト認知行動療法について紹介します。TF-CBTの目的は、トラウマに関連した症状や問題のある子どもと保護者が社会生活をするにあたり、トラウマを適切に処理することを支援することです。個人療法として行われることが多く、週に1回、60~90分、8~16週かけて行います。TF-CBTには3つの段階があります。1.トラウマに向き合う準備をするTF-CBTでは、トラウマ克服だけでなく、教育的な面も多く含まれています。はじめの段階では、ストレスマネジメントや感情を表に出すこと、ものごとの捉え方などの学習を行います。これらの教育的要素が十分身についたら、次の段階へと移行します。2.トラウマ記憶に向き合う少しずつトラウマと向き合えるようにしていきます。そのために、子どもが主体的にトラウマの体験を言葉で表したりできるようなプログラムになっています。また、いきなりトラウマに向き合うことができなくても、不安の少ないものから徐々に慣れさせていき、最終的にトラウマに向き合えるような工夫がされています。3.定着と統合親子で学んだことを復習したり、子どもがトラウマに対して感じたことを親と共有するような時間になります。この段階では、プログラムの成果の定着を図るとともに、親子の絆が一層強くなることも期待されています。TF-CBTは、子どものPTSDに対して有効だとされていますが、まだ新しい取り組みであり日本でそれほど普及しているわけではありません。PTSDは患者さん一人ひとりで症状に幅があります。そのため、医師と相談しながら、一人ひとりにあった治療をしていくことになります。普段からトレーニングや治療をしていても、パニックになることがあります。そのときにどのような声かけや対応をすればいいのか子どもの年齢別に説明します。適切な声かけや対応をすることで、PTSDが悪化することを防ぐことができます。◇就学前の幼児から小学2年生これくらいの子どもだと、まだまだ周りで起こったことを正しく理解し、全てを的確に表現できるわけではありません。大人である親によって、何が起きているのかを説明してあげるとよいでしょう。また側にいたり、一緒に遊んだりすることで子どもが安心できるような環境を作ることも大切です。例えば、地震が起きて揺れがおさまってもずっと怖がっているときには、すでに揺れはおさまりもう安全であることを伝えましょう。怖い夢を見た次の日に恐怖で眠れないときには、絵本の読み聞かせをしたり、抱きしめたりするのも効果的です。◇小学3年生から小学5年生周囲で起きていることだけでなく、自分自身の内側で起きていることに対して不安を感じるようになります。親としては、子どもの話をしっかり聞いたうえで、苦しい気持ちに打ち勝てるように、前向きな行動を考えましょう。「大丈夫」や「心配ないよ」とだけ伝えても、この年齢の子どもたちは納得しないこともあります。そのため、「もし、また似たような状況になったらどうするか」など具体的な策を一緒に考えることが必要です。◇小学6年生、中学生、高校生中高生になると、衝動的に自分を傷つける行為をしたり、仕返し願望を持ったりすることがあります。中高生はもう自分の頭でそれなりに考えることができるため、答えを与えるよりも一人でじっくり考えるように促すといいでしょう。ただ、すべて子ども一人で解決させようとするのではなく、一人で解決できそうにない問題に対しては一緒に対応策を考えたり、苦しいときには助けを求めてもいいことを伝えたりすることも忘れてはいけません。参考:友田 明美、杉山 登志郎、谷池 雅子/編集『子どものPTSD-診断と治療-』(診断と治療社、2014年)相談先ーもしPTSDかもと思ったら出典 : にならなくとも、トラウマになりそうな犯罪被害にあったり、いじめにあったりしたときには専門家に相談することも視野に入れるといいでしょう。友達や先生、家族には相談しにくいことであっても、カウンセラーや、類似体験をした当事者同士であれば話せることもあります。大人の場合には、・病院の精神科・心理カウンセラーなどに相談できます。子どもの場合には、これに付け加えて、・児童相談所・家庭福祉相談所・担任の先生やスクールカウンセラーなどに、相談できます。また、性的暴力や、いきなり暴行に遭ったなど犯罪被害の場合には、・全国被害者支援ネットワーク・被害者支援団体・警察庁犯罪被害者支援室といったグループを頼ることもできます。参考:私がPTSDになったとき|みんなのメンタルヘルス厚生労働省まとめ出典 : 同じようなできごとに直面しても、PTSDになる人、ならない人がいるため、PTSDにかかる人はメンタルが弱いタイプだと思われたり、自分自身でも罪悪感を持ったりすることがあります。しかし、PTSDになったからといって、本人が責任を感じる必要は一切ありません。また、周囲の人が「あの時、こうしておけば」などの責任を感じる必要もありません。それよりも、PTSDの人が過去のトラウマを克服できるように、安全な環境を作ったり、話を聞いたりすることが大切です。
2017年09月13日自律神経失調症とは?出典 : 自律神経失調症とは、検査しても身体に明らかな異常がみられないのに、肩こり、めまい、頭痛などの自律神経の乱れが関係する身体の不調がある状態のことです。実は「自律神経失調症」は日本独自に定着した疾病概念で、国際的・医学的な病名としては、その定義や診断基準は確立していません。そのため医師によって捉え方が違うだけでなく、自律神経失調症の存在自体を認めない医師もいます。また、医師によっては、原因不明の症状に診断名を与える場合に便宜的に診断する場合もあります。このように、自律神経失調症を取り巻く言説は、未だ整理されていません。しかし、実際に自律神経失調症と診断された方がおり、「自律神経失調症」という名称は多くの方に認知されています。そこで、この記事では日本心身医学会の暫定的な定義に基づき自律神経失調症を説明していきます。参考文献:福永伴子/監修『図解すぐできる! 自律神経失調症の治し方 』2015年ナツメ社/刊日本心身医学会における暫定的な定義は以下の通りです。種々の自律神経系の不定愁訴を有し、しかも臨床検査では器質的病変が認められず、かつ顕著な精神障害のないもの(引用:心身症と自律神経失調症の違い|医療法人中沢会上毛病院HP)自律神経失調症の症状出典 : 自律神経失調症は、人によって症状の現れる箇所や度合いがかなり異なり、身体面にも精神面にも影響を及ぼす可能性があります。ここでは、自律神経失調症の症状の一部を紹介いたします。■全身に現れる症状・だるい、疲労感・多汗あるいは汗が出ない・食欲増加もしくは低下・睡眠障害・立ちくらみ・めまい・微熱・発熱・血圧の異常(低血圧・高血圧)など■特定の箇所に現れる症状・頭痛・動悸・耳鳴り・咳・肩こり・手足のしびれ・息苦しさなど■精神面・情緒不安定・不安・パニック症状・集中力の低下・イライラなど参考文献:筒井末春/著『月刊「医学と薬学」』――自律神経失調症1985年10月自然科学社/刊参考文献:大塚邦明/著『月刊医道の日本』―ー自律神経失調症に対する鑑別、診断、治療2015年1月号医道の日本社/刊自律神経失調症の原因出典 : 自律神経失調症は自律神経が乱れることにより生じますが、その最大の原因はストレスであるとされています。職場環境、人間関係や生活リズム、災害、気圧などのその人を取り巻く環境と、その人自身が持つ体質や性格、持病などの要因が複雑に絡み合ってストレスとなります。そのため、治療においてもストレスをいかに軽減するかが重要になってきます。出典 : 参考文献:伊藤克人ら/編『専門医が治す!自律神経失調症―ストレスに強い心身をつくる、効果的な療法&日常のケア (「専門医が治す!」シリーズ) 』2001年高橋書店/刊参考ページ:自律神経失調症とうつ病・パニック障害・心身症の違いとは?|せせらぎメンタルクリニックHP自律神経失調症かもと思ったらどこを受診すればいい?出典 : 自律神経失調症に心当たりがあるときは、頭痛なら内科、肩こりなら整形外科など、まずは身体的な症状にあわせて受診する科を決めましょう。自律神経失調症には明確な診断基準がありません。そのため医師によって診断の仕方は異なりますが、1.からだの病気がないことを確かめる検査2.こころの病気がないことを知るための面接や心理検査3.自律神経系の検査この3種類の検査をして診断の材料とすることが多いとされています。受診の結果、別の診断名がついたとしても、まずは医師の指示に従った上で、様子をみましょう。それでもなかなか治らない場合や以前にも何度か同じ症状がでている場合には、総合病院や大学病院などで検査を受けることを検討する必要があります。検査で原因が見つからなかったり、再発を繰り返す、精神的な症状が現れてきた場合は、身体面からだけでなく心理面からも診療する心療内科を受診することをおすすめします。参考文献:伊藤克人ら/編『専門医が治す!自律神経失調症―ストレスに強い心身をつくる、効果的な療法&日常のケア (「専門医が治す!」シリーズ) 』2001年高橋書店/刊自律神経失調症の治療法は?出典 : 自律神経失調症の治療には、以下の4つの療法を中心に行われます。■薬物療法めまい、頭痛などの身体症状や、不安感などの心理的な症状を取り除くために、薬を用いる場合があります。自律神経調整薬や抗不安薬、ビタミン剤、漢方などが処方されることがあります。参考ページ:自律神経失調症|前田クリニックHP・漢方の留意点自律神経失調症により現れる症状を和らげることを目的として漢方薬が処方される場合もあります。ただし、個人の体質や抵抗力などにより調合される薬も異なるので、漢方薬を試してみたい場合は必ず医師に相談することが必要です。漢方外来などの専門外来だけでなく、心療内科の医師も漢方を処方してくれる場合があり、保険が適応される可能性もあるので、気になるときは医師に相談してみるのもひとつの手です。■心理療法(精神療法)心理療法では、医師との会話を通じて心理的なケアをしていきます。認知行動療法や簡易精神療法、自律訓練法など様々な種類があるので、患者一人ひとりに合わせた療法をすることになります。■理学療法肩こりやなどの身体の痛みや手足のしびれをやわらげるために、指圧、マッサージ、鍼灸(しんきゅう)、温熱治療、電気治療などの理学療法が取り入れられることがあります。その場合、病院などにおいて医師の指導のもとに理学療法士が行うことになります。・心理療法、理学療法を受ける際の医療費における留意点理学療法や心理療法を医師が治療の一環として認め、病院内で受ける場合なら、ほとんどの場合保険適応になります。しかし、それ以外の場所で治療を受ける場合は保険適応にならず全額自己負担となる場合が多いため、注意が必要です。その他にも、専門の治療院で症状の改善を目的とした施術が行われていることもあります。中には自律神経失調症を治療対象とした保険適応の施術を行う治療院もありますので、一度お近くの治療院を調べてみるのもおすすめです。ここで注意したいのは、理学療法によって一時的に身体が楽になることはあるとはいえ、根本治療ではないので、他の治療法と合わせて行う必要があるということです。■生活指導食生活や睡眠時間、運動などの生活リズムを見直し改善するためのアドバイスを受けます。自律神経失調症を改善したいとき、自分で出来るセルフケアは?出典 : 乱れた生活スタイルは自律神経が乱れる大きな要因の一つです。この章では、自分でできる生活スタイルの改善方法の一部を紹介します。ポイントとなるのは、できる範囲で少しずつ改善していくことです。生活リズムを改善しようと気を張りすぎると、それが逆にストレスとなることがあるからです。気を楽にして、一歩一歩生活を改善していきましょう。■食事時間を一定にする食事をできるだけ決まった時間にとることで、自律神経失調症と深い関係をもつ体内時計が正常になります。■朝食は抜かずに1日3食食事は1日3食とるようにしましょう。朝食をとることで、心身の活動に必要なエネルギーを得られます。また、朝食をとることにより交感神経への切り替えが行われ、身体を目覚めさせます。■栄養バランス自律神経失調症のある方は、食事のバランスが崩れがちであることもあります。健康維持のためには、日頃からバランスのよい食生活をすることが大切です。ご飯やパンなどの主食、肉や魚などの主菜、野菜や海藻などの副菜、スープや味噌汁などの汁物の4構成を意識した食事をすることで、バランスの良い食事をとることができます。参考ページ:「食事バランスガイド」について|厚生労働省HP■早寝早起きをする自律神経のバランスと深い関わりがあると言われる体内時計を整えるためには、昼は活動、夜は休息という生活リズムを整えることが大切です。朝に光を浴びることで体内時計がリセットされるので、体内時計の狂いを修正していくには、早寝早起きを続ける必要があります。早寝早起きをするためには、あらかじめ就寝時間と起床時間を決めておくことや、就寝前に入浴やストレッチなどをして十分リラックスすること、寝る前の飲酒を控えることが効果的です。それでもどうしても眠れない場合は担当の医師に相談してみることや、睡眠外来に行くのもひとつの手でしょう。参考ページ:体内時計と睡眠のしくみ|武田薬品工業株式会社HP参考文献:大塚邦明/著『月刊医道の日本』―ー自律神経失調症に対する鑑別、診断、治療2015年1月号医道の日本社/刊まとめ出典 : 自律神経失調症は、症状を説明しづらいため、なかなか周囲の理解を得ることができずにつらい思いをされている方も多いでしょう。適切な治療を受けることに加え、食生活や睡眠など、自分でできる改善方法を意識することが大切です。あせらず、気持ちに余裕をもって療養しましょう。
2017年09月05日緊張病(カタトニア)とは?出典 : 緊張病(カタトニア)は、長時間動きが止まってしまう、動作が遅くなってしまう、同じ動作を繰り返してしまう、自発的な動きができなくなるといった体の動きが低下する症状を起こす症候群です。あがり症や緊張症といわれるような、人前で緊張してしまうこととは異なり、医療機関での治療が必要な疾患/症候群です。緊張病は15歳から19歳頃に発症することが多いといわれています。様々な原疾患(カタトニアの病態の原因となる個別の病気)がありますが、緊張病の症状自体は一定の治療法が有効とされていて、数か月で症状が消失することが多いといわれています。ですが、中には症状が何年も続いたり、治療後も自発性がなかなか改善されないケースもあります。2012年までカタトニアは、緊張型として統合失調症(思考や感情、行動などの脳の機能がうまくまとまらない)の一亜型に分類されていました。参考:DSM-IV-TR精神疾患の分類と診断の手引しかし統合失調症だけでなく、むしろ気分障害や器質性疾患に合併することが多いことが報告されるようになり,2013年に 改訂された最新版の『DSM-5』(米国精神医学会が発行する『精神障害の診断と統計マニュアル第5版』)からは緊張病という一つの疾患分類となりました。記事の後半で詳しく説明していきますが、カタトニアの過程で発熱や自律神経失調症を合併する悪性カタトニアといった、より症状が深刻になってしまうケースもあるため、早期治療がとても大切になっていきます。緊張病(カタトニア)の原疾患は?出典 : 緊張病(カタトニア)には様々な原疾患があります。「原疾患」とは病態の原因となる個別の病気に使われる言葉で、緊張病(カタトニア)は病態の進行や予後が原疾患によって異なることがあります。カタトニアの原疾患は主に精神疾患、神経疾患、身体疾患の3つに分類されています。1. 精神疾患: 急性ストレス障害、自閉症、双極性障害、気分障害、統合失調症、PTSD2. 神経疾患: てんかん、パーキンソン病、ハンチントン病、プリオン病、進行性核上性麻痺、進行性多巣性白質脳症、可逆性 後頭葉白質脳症、脳腫瘍3. 身体疾患: 自己免疫性疾患(SLE)、代謝障害(ファブリー病、テイ=サックス病)、薬剤性(シクロスポリン、セファロスポ リン、コカイン)、感染症(結核、梅毒、HIV)原疾患の中で総合失調症が占める割合は5%以下であるのに対して、気分障害で3~31%(特に双極性障害に関連して認められる)で、特に双極性障害に関連して認められることが多いということが分かっています。出典|カタトニア(緊張病)症候群の診断と治療大久保善朗(疫学調査より)参考|統合失調症の治療中に悪性カタトニアを来たした1例p890緊張病(カタトニア)の症状は?出典 : 緊張病(カタトニア)には様々な症状と、それぞれに応じた名称があります。また、これらの症状は日によっても変化していきます。DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)では以下の12の症状のうち3つを満たす場合に緊張病と診断できるとしています。◇カタレプシー誰かに受動的に取らされた姿勢のまま、抵抗したり姿勢を変えたりせず全く動かない症状です。腕をあげたり、首を曲げたらずっとそのままの姿勢を保ちます。◇蝋屈症(ろうくつしょう)一定の姿勢から自分の意思で動かせず、ろう人形のように固まってしまう症状です。◇昏迷(こんめい)身動きせず、周りが話しかけても無反応な状態です。通常の昏迷の場合意識はあるため、周りがどのような状況か理解しています。対して、意識が無くなってしまう状態を昏蒙・昏濛(こんもう)と言います。◇焦燥理由もなく苛立ったり焦ったりする症状です。◇無言症言語障害が無いのに、発語などの言語反応が無かったり、わずかな発声しか見られなかったりする症状です。◇拒絶症外部からの支持や促しや刺激に対して理由も無く拒絶などの反対をする、または全く反対をしないといった症状です。拒食してしまうこともあります。◇不自然な姿勢天井に向けて手や足を上げ続けたり、体が辛いであろう姿勢を自発的または受動的に保持し続けたりする状態です。◇わざとらしさ - 衒奇(げんき)症不自然だったりわざとらしい表情や動作などを取る症状です。大きなリアクションや芝居がかった話し方や身振り手振りをする事もあります。◇常同症特定の行動や発生を何度も長時間にわたって繰り返して行う症状です。同じ動作を繰り返す、同じ姿勢をとり続ける、同じ言葉を繰り返す、同じ場所から離れようとしないなどの症状が見られます。動くまでに時間がかかる分、止めることにも時間がかかります。◇しかめ面特に理由も無くしかめ面を取ってしまう症状です。◇反響言語他人がの言葉を繰り返して発声することです。エコラリアやおうむ返しと呼ばれることもあります。◇反響動作他人の動作や動きや表情や仕草をまねる症状です。これらの症状は一日のうちでも変化すると言われています。基本的に他者からの働きかけや言葉による指示に対し拒否的になってしまうなど、自発性を持って行動することが難しいです。他の精神疾患に関連する緊張病(緊張病の特定用語)A.臨床像は以下のうち3つ(またはそれ以上)が優勢である.(1)昏迷:すなわち、精神運動性の活動がない。周囲と活動的なつながりがない(2)カタレプシー:すなわち、受動的にとらされた姿勢を重力に抗したまま保持する(3)蝋屈症:すなわち、検査者に姿勢をとらされることを無視し、抵抗さえする(4)無言症:すなわち、言語反応がない。またはごくわずかしかない(既知の失語症があれば除外)(5)拒絶症:すなわち、指示や外的刺激に対して反対する、または反応がない(6)姿勢保持:すなわち、重力に抗して姿勢を自発的・能動的に維持する(7)わざとらしさ:すなわち、普通の所作を奇妙、迂遠に演じる(8)常同症:すなわち、反復的で異常な頻度の、目標指向のない運動(9)外的な刺激が影響によらない興奮(10)しかめ面(11)反響言語:すなわち、他者の言葉を真似する(12)反響動作:すなわち、他者の動作を真似する緊張病(カタトニア)の治療法出典 : 緊張病(カタトニア)は原疾患の如何にかかわらず、一定の治療法が有効とされています。主に薬物療法と電気けいれん療法(ECT)の2つの治療法があります。緊張病の治療に用いられる代表的な薬物としてベンゾジアゼピン系のロラゼパムがあげられます。ロラゼパムは以下の4つの作用を持つといわれています。・強い抗不安作用・中等度の筋弛緩作用・弱~中等度の催眠作用・弱い抗けいれん作用カタトニア症候群の原因疾患の場合、様々な精神疾患や身体疾患で80%を越える効果がみられますが、統合失調症のカタトニアに対しては20~30%にとどまるという研究結果も報告されています。ロラゼパムは抗不安作用が強く、即効性も期待できたり肝臓への負担も少ないですが、効果を実感しやすい分、耐性・依存形成を起こしやすいといったリスクもあります。医師と相談してご自分の症状に適した薬物療法を行うことが大切です。出典|ロラゼパム電気けいれん療法(ECT:Electro Convulsive Therapy)は、頭の左右のこめかみに電極を当て、電気を流す治療法です。麻酔を使って痛みや苦しみを感じず、また危険な状態にならないように呼吸や循環をしっかりと管理して行っていきます。大きな副作用が生じる可能性はほとんどなく、一時的なせん妄や頭痛などは生じることがありますが、後遺症が残ることはありません。電気けいれん療法は、基本的に1回だけでなく、継続的に行います。疾患や症状によって異なってきますが、週2~3回、合計で6~15回ほど行われます。電気けいれん療法の特徴には以下の3つがあります。・治療効果は高い・即効性がある・効果は短期しか続かないことが多いまた、研究でETC治療において統合失調症における緊張病は71%、気分障害では96%の寛解率(症状が落ち着く度合い)が報告されています。さらに最終章で説明する悪性カタトニアには薬物治療(ベンゾジアピン治療)よりも電気けいれん療法のほうが効果が高いという報告もあります。悪性ではないカタトニアの場合は、まずは簡便なベンゾジアゼピンを低用量で服用していき、高用量→ECT治療と移行していくケースが一般的です。ですが身体疾患に伴うカタトニア症候群の場合は、身体疾患に対する治療が必要であったりと、それぞれ原疾患によって適切な治療が異なります。悪性カタトニアの場合はあくまで本章で紹介した治療法は代表的なものにすぎないということを留意して、医療機関で相談してみましょう。これらの治療についての相談先としての「精神科」医療機関には、精神科専門病院、総合病院の精神科、精神科クリニックなどがあります。入院の可能性がある場合は、入院施設のある精神科専門病院がいいでしょう。また、身体の病気を併発している時は、内科などがある総合病院が便利です。出典|カタトニア(緊張病)症候群の診断と治療 p398参考|せせらぎメンタルクリニック身体合併症を伴うことも?悪性カタトニアって?出典 : 悪性カタトニアとは、カタトニアの経過で、発熱や自律神経失調症を合併する場合をいいます。これまでは治療が難しく致死性カタトニアと呼ばれていましたが、現在では適切な治療法と身体管理によって救命できることから悪性カタトニアと診断されるようになりました。カタトニア症候群の原疾患が統合失調症や気分障害の場合、原疾患の治療としては非定型抗精神病薬が有効なためそれらを投与することもあります。ですが、その抗精神病薬にドーパミンが遮断されることが原因となって悪性カタトニアが誘発されてしまうと考えらています。悪性カタトニアになってしまった場合は、抗精神病薬を使用するのではなく、ベンゾジアゼピン高用量の服用と同時に電気けいれん療法も同時に開始することがすすめられています。おわりに出典 : 緊張病はかつて統合失調症の一亜型として捉えられていましたが、統合失調症だけでなく、むしろ気分障害や器質性疾患に合併することが多いことが報告されるようになり、今日では緊張病という一つの疾患分類として扱われています。動けなくなってしまったり、動作を繰り返してしまったり、それに対して指示をしてもそれを拒絶してしまうこともあります。それに対して無理に言葉や動作で行動を促しても治療にはなりません。緊張病は一定の治療法が確立されており、予後良好と言われています。原因疾患の違いによって有効な治療法にも違いがあり、合併症を伴うケースが多いことからも、早めに医師に相談し適切な治療を受けることが大切です。参考|緊張病(カタトニア)症候群の診断と治療
2017年08月30日ADHD(注意欠陥・多動性障害)とは?出典 : (注意欠陥・多動性障害)は不注意(集中力がない)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(考えずに行動してしまう)の3つの症状がみられる発達障害のことです。年齢や発達に不釣り合いな行動が仕事や学業、日常のコミュニケーションに支障をきたすことがあります。人口調査によると、子どもの20人に1人、成人の40人に1人にADHDが生じることが示されています。以前は男性(男の子)に多いと言われていましたが、現在ではADHDの男女比は同程度に近づいていると報告されています。出典:DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル文部科学省はADHD(注意欠陥・多動性障害)を以下のように定義しています。ADHDとは、年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力、及び/又は衝動性、多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものである。また、7歳以前に現れ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。上記の文部科学省の定義では7歳以前に症状が現れるとされていますが、2013年に出版されたアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)では、診断年齢は12歳に引き上げられています。。また、ADHDの日本名については、日本精神神経学会の定めた「注意欠如・多動性障害」が用いられることもありますが、現在でも「注意欠陥・多動性障害」を使う場合が多いので、本記事ではこちらを障害名として使っていきます。近年では、子どもだけではなく大人になってからADHDと診断される人も多く、注目を浴びています。日本精神神経学会「DSM-5病名・用語翻訳ガイドライン」 2014年ADHDの3つの症状ADHDの症状は「不注意」「多動性」「衝動性」の3つに分けることができます。それぞれの具体的な特徴を見ていきましょう。Upload By 発達障害のキホン・忘れ物が多い・何かやりかけでもそのままほったらかしにする・集中しづらい、でも自分がやりたいことや興味のあることに対しては集中しすぎて切り替えができない・片づけや整理整頓が苦手・注意が長続きせず、気が散りやすい・話を聞いていないように見える・忘れっぽく、物をなくしやすいUpload By 発達障害のキホン・落ち着いてじっと座っていられない・そわそわして体が動いてしまう・過度なおしゃべり・公共の場など、静かにすべき場所で静かにできないUpload By 発達障害のキホン・順番が待てない・気に障ることがあったら乱暴になってしまうことがある・会話の流れを気にせず、思いついたらすぐに発言する・他の人の邪魔をしたり、さえぎって自分がやったりするADHDの3つのタイプとそれぞれの特徴出典 : 前の章でADHDには3つの症状があることを説明しましたが、人によってその現れ方の傾向が異なり、大きく3つのタイプに分けることができます。また、性別によっても多いタイプが変わってきます。多動と衝動の症状が強く出ているタイプです。次のような特徴が現れることがあります。・落ち着きがなく、授業中などでも構わず歩き回ったり、体を動かしてしまうなど、落ち着いてじっと座っていることが苦手・衝動が抑えられず、ちょっとしたことでも大声を上げたり、乱暴になったりしてしまい、乱暴な子、反抗的だととらえられやすい・衝動的に不適切な発言をしたり、自分の話ばかりをする・全体的にみるとこのタイプは少ないが、男性(男の子)に現れることが多い不注意の症状が強く出ているタイプです。次のような特徴が現れることがあります・気が散りやすくて、物事に集中することが苦手・やりたいこと、好きなことに対してはとても集中して取り組むが切り替えが苦手・忘れ物や物をなくすことが多く、ぼーっとしているように見えて人の話を聞いているのか分からない・幼い子どもの頃は、ADHDではなくとも忘れ物が多い人が少なくないため、ADHDと気づかれにくい。不注意の特性は女性(女の子)に現れることが多い。多動と衝動、不注意の症状が混ざり合って強くでているタイプです。次のような特徴が現れることがあります・多動性-衝動性優勢型と不注意優勢型のどちらの特徴も併せ持っており、どれが強く出るかは人によって異なる・忘れ物や物をなくすことが多く、じっとしていられず落ち着きがない・ルールを守ることが苦手で順番を守らない、大声を出すなど衝動的に行動をすることがあるこれらの分類はアメリカ精神医学会のDSM-4-TRによって規定されたものです。現在でもADHDの分類はこれらの3つのタイプによって分けられることが多いのですが、2013年に出版されたDSM-5においては、新たな診断基準が規定されています。詳しくはADHDの診断方法の章を参照してください。また、ADHDはアスペルガーや自閉症を含む自閉症スペクトラム(ASD)や学習障害(LD)などのほかの発達障害や睡眠障害などと合併することもあります。その場合は上記に挙げた以外の症状が見られる場合もあります。年齢別に見たADHDの症状の現れ方出典 : ■生後すぐから診断ができるの?ADHDは発達障害のひとつですが、発達障害は、言語・認知・学習といった発達領域が未発達の乳児では、症状が分かりやすくでることはありません。ですから、生後すぐにADHDの診断がでることはありません。また、ADHDの症状は他の発達障害の症状と共通するものもあるので、判断には注意が必要です。しかし、ADHDと診断された人たちは、乳児期に共通して特徴的な行動をとっていることが多くあります。・なかなか寝付かない・寝返りをうつことが多く、落ち着きがない・視線が合わない・抱っこされることを嫌がる乳児のADHDは見分けにくいですが、傾向として、後から振り返るとこのような行動が見られたケースも多いと言われています。■必ずしもADHDということではない上記の行動が共通して見られていますが、このような行動は定型の成長過程でも見られることがあるので、一概にADHDと結びつけることはできません。特に多動に関しては、生後まもなくから多動が気になる場合はごく少数です。気になるような場合には児童センターといった身近な相談機関や小児科などで相談してみましょう。ADHDの症状は小学校に入る頃までに現れる子が多いと言われています。■トラブルの原因となる行動をとることが多いこの時期のADHDの子は、以下のような行動をとることが多いです。ただ、前述の通り、ADHDの症状は他の発達障害の症状と共通するものもあります。必ずしもADHDだとは限らないので、特徴はあくまで参考程度にしましょう。・他の子をたたいたり、乱暴をすることがある・落ち着きがなくてじっとしていることができない・我慢ができないので癇癪(かんしゃく)をおこすことが多くみられる・物を壊すなど乱暴・破壊的な遊びを好むことがあるこれらの行動については、いくら言葉だけで注意しても同じ行動を繰り返してしまいます。■言葉の遅れがみられることも幼児期のADHDの子どもは他の発達障害との合併症状として、言葉の遅れなどの特徴が見られることもあります。■しつけの問題なの?幼児期になると、落ち着きがなかったり癇癪を起こしやすいといった行動から、ADHDに気づくことが多いようです。また、保育園や幼稚園でも他の子どもとトラブルを起こしがちになってしまいます。そのような行動が原因となり誤解され、しつけがされていないなど言われることがありますが、ADHDは先天的な脳の機能障害によるもので、しつけや育て方の問題ではありません。出典 : ■症状が顕著に現れてくるADHDの子どもが小学校に入学する頃には、以下のような症状が顕著に現れてきます。・授業中でもじっと座っていることができず、歩き回ったりする・注意力が散漫になって、興味の対象も次々と変化する・物を忘れたり、なくしてしまうことが多い・突然話しかけて他の人の邪魔をしたり、他の人に話しかけられてもぼーっとしてうわの空に見られる・突発的な行動をおこすことがあり、自分の怒りの感情をコントロールできない・友達と仲良くできずトラブルを引き起こしてしまうことが多い・不器用で何度やってもダンスが上手く踊れない、工作が苦手などがみられる■結果的に周りから問題視される何度も同じことを繰り返し注意されたり、授業態度などから周りからは問題視されたり、怠けていると思われることがあります。しかし、本人からすれば悪気があってしていることでもなければ、怠けているわけでもありません。■ADHDの診断がはっきりと下される時期小学校に上がる頃になると、ADHDの症状が顕著に現れるためADHDの診断が下される場合が多くなります。文部科学省の定義では7歳前、DSM-5によるとADHDは12歳前に症状が現れるとされていますが、必ずしもこの年齢で診断が下されるわけでなく、この年齢以前から症状がはっきりわかる場合には診断が下されます。神尾 陽子 「成人期の発達障害の臨床的問題」 2013年出典 : ■思春期のADHDは、合併症状にも注意思春期にはADHDの症状が治まる代わりに、学習障害(LD)などの発達障害との合併症状が目立ってくることがあります。対人関係がうまく築けない場合、自閉症との合併症状がある疑いもあります。ADHDの症状がみられる人は他の発達障害を合併している可能性もありますので、よくチェックして疑いがある場合には診断を受けてみましょう。例えば、・親・教師への強い反抗・友人とうまく付き合えず、トラブルになることが多い・ルールに従うことができないなどの行動がみられることがあります。■他人と自分を比較する思春期になると、他人と自分を比べて悩みやすくなります。ADHDの子どもも例外ではなく、他人と自分をよく比べるようになります。完璧主義の傾向が強いと“できないこと”に過敏になることもあります。そして、他人にはできて自分ができないことにコンプレックスを感じてしまいがちです。コンプレックスから次の行動をとる場合があります。・勉強への意欲の低下、学力の低下がいちじるしくなる・やる気がなく投げやりな態度・自分の世界に引きこもりがちになる場合もある知的機能に問題がない場合でも、不注意の特性が強いと、集団での学習に集中できず、学力の低下に結びつくこともあります。この結果、不登校やひきこもりなどの二次障害が現れることもあります。■薬の服用を嫌がる自分の障害を受け止めることができず、薬の服用を避けたり量を勝手に変えて服用することがあります。思春期の不安定な気持ちに寄り添いながら、家族が上手にサポートしましょう。出典 : ■大人になるとADHDはどうなるの?子どもの頃にADHDと診断された人の中には、成長につれて症状が目立たなくなったり、軽くなる人もいます。自分の特性を理解し、苦手な場面にもどのように対処するかを学ぶことで、日常生活の困難を乗り越えているひともいると考えられます。ですが、ADHDのある大人は、子どもの頃より困難が多いと感じることも多いようです。・親や教師のフォローがなくなる・やることが多くなる・大人としての行動や責任を求められるなど、周囲の環境の変化が大きいことがその理由と考えられます。そのため、大人になると社会生活を送るのが難しくなった、と感じるADHDの人が多くいます。また、大人になってADHDと診断を受けたり、診断を受けていない人でも同じ症状で困っている人も多くおり、大人の発達障害のなかではADHDの割合がもっとも高いと言われています。■大人のADHDに現れる症状大人の場合、ADHDによる特徴にはどのようなものが多くみられるでしょうか。・計画を立てたり、順序立てて仕事や作業を行うことが苦手・細かいことにまで注意が及ばないので、仕事や家庭でもケアレスミスが多い・約束などを忘れたり、時間に遅れたり、締め切りなどに間に合わない・片づけが苦手で乱雑になってしまう・同時に多くの情報を取り入れるのが苦手なので、一度に多くの指示や長い説明をされると混乱する・手間がかかったり、時間がかかったりして、集中が必要なものは後回しにしがち・何かに「はまる」と、ほどほどで止めることができず、なかなか抜け出せない(読書やネットサービス、ゲームなど)・長時間座っていることが苦手で、手足がむずむずしてくるADHDの診断方法出典 : 以下は、アメリカ精神医学会のDSM-5(『精神障害のための診断と統計のマニュアル』第5版)に載っている診断基準です。該当項目が多い場合には、専門機関に一度相談してみるとよいでしょう。(DSM-5や日本精神神経医学会では「注意欠陥」ではなく「注意欠如」の表記に変更されましたが、前者の方が一般的に使われるため、本記事では前者の言葉を使用しています。)DSM-5における注意欠如・多動性障害(ADHD:Attention Deficit Hyperactivity Disorder)の診断基準A.(1)および/または(2)によって特徴づけられる,不注意および/または多動性-衝動性の持続的な様式で,機能または発達の妨げとなっているもの:(1)不注意:以下の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6ケ月持続したことがあり,その程度は発達の水準に不相応で,社会的および学業的/職業的活動に直接,悪影響を及ぼすほどである:注:それらの症状は,単なる反抗的行動、挑戦、敵意の表れではなく、課題や指示を理解できないことでもない。青年期後期および成人(17歳以上)では、少なくとも5つ以上の症状が必要である。(a)学業,仕事,または他の活動中に,しばしば綿密に注意することができない,または不注意な間違いをする(例:細部を見過ごしたり,見逃してしまう,作業が不正確である)(b)課題または遊びの作業中に,しばしば注意を持続することが困難である(例:講義,会話,または長時間の読書に集中し続けることが難しい).(c)直接話しかけられたときに,しばしば聞いていないように見える(例:明らかな注意を逸らすものがない状況でさえ,心がどこか他所にあるように見える).(d)しばしば指示に従えず,学業,用事,職場での義務をやり遂げることができない(例:課題を始めるがすぐに集中できなくなる,また容易に脱線する).(e)課題や活動を順序立てることがしばしば困難である(例:一連の課題を遂行することが難しい,資料や持ち物を整理しておくことが難しい,作業が乱雑でまとまりがない,時間の管理が苦手,締め切りを守れない).(f)精神的努力の持続を要する課題(例:学業や宿題,青年期後期および成人では報告書の作成,書類に漏れなく記入すること,長い文書を見直すこと)に従事することをしばしば避ける,嫌う,またはいやいや行う.(g)課題や活動に必要なもの(例:学校教材,鉛筆,本,道具,財布,鍵,書類,眼鏡,携帯電話)をしばしばなくしてしまう.(h)しばしば外的な刺激(青年後記および成人では無関係な考えも含まれる)によってすぐ気が散ってしまう.(i)しばしば日々の活動(例:用事を足すこと,お使いをすること,青年期後記および成人では,電話を折り返しかけること,お金の支払い,会合の約束を守ること)で忘れっぽい.(2)多動性および衝動性:以下の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6カ月持続したことがあり、その程度は発達の水準に不相応で、社会的および学業的/職業的活動に直接、悪影響を及ぼすほどである。注:それらの症状は、単なる反抗的態度、挑戦、敵意などの表われではなく、課題や指示を理解できないことでもない。成年期後期および成人(17歳以上)では、少なくとも5つ以上の症状が必要である。(a)しばしば手足をそわそわ動かしたりトントン叩いたりする。またはいすの上でもじもじする。(b)席についていることが求められる場面でしばしば席を離れる。(例:教室、職場、その他の作業場所で、またはそこにとどまることを要求される他の場面で、自分の場所を離れる)。(c)不適切な状況でしばしば走り回ったり高いところへ登ったりする(注:青年または成人では、落ち着かない感じのみに限られるかもしれない)。(d)静かに遊んだり、余暇活動につくことがしばしばできない。(e)しばしば”じっとしていない”、またはまるで”エンジンで動かされているように”行動する(例:レストランや会議に長時間とどまることができないかまたは不快に感じる:他の人たちには、落ち着かないとか、一緒にいることが困難と感じられるかもしれない)。(f)しばしばしゃべりすぎる(g)しばしば質問が終わる前に出し抜いて答え始めてしまう(例:他の人たちの言葉の続きを言ってしまう;会話で自分の番を待つことができない)。(h)しばしば自分の順番を待つことが困難である(例:列に並んでいるとき)。(i)しばしば他人を妨害し、邪魔する(例:会話、ゲーム、または活動に干渉する;相手に聞かずにまたは許可を得ずに他人の物を使い始めるかもしれない;青年または成人では、他人のしていることに口出ししたり、横取りすることがあるかもしれない)B.不注意または多動性ー衝動性の症状のうちいくつかが12歳になる前から存在していた。C.不注意または多動性ー衝動性の症状のうちいくつかが2つ以上の状況(例:家庭、学校、職場;友人や親戚といるとき;その他の活動中)において存在する。D.これらの症状が、社会的、学業的、または職業的機能を損なわせているまたはその質を低下させているという明確な証拠がある。E.その症状は、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではなく、他の精神疾患(例:気分障害、不安症、解離症、パーソナリティ障害、物質中毒または離脱)ではうまく説明されない。これらの結果から、不注意と衝動性が見られるタイプ、不注意が優位に見られるタイプ、多動性と衝動性が見られるタイプに分類され、さらに重症度が3段階に分かれて診断が下されます。この診断基準は、年齢によって障害の症状の現れ方が変わり、区分も流動的であるということを考慮したものだと考えられます。専門機関での診断は、上で述べたアメリカ精神医学会のDSM-5や世界保健機関(WHO)のICD-10による診断基準によって下されますので、正式に診断を受けたい場合には専門機関でも診断や検査を受けることをおすすめします。ADHDの疑いを感じたらどうすればいい?出典 : もしかしてADHDなのかな?と疑問を持ったら、まずは無料で相談できる身近な専門機関の相談窓口を利用するのがおすすめです。子どもか大人かによって、行くべき機関が違うので、以下を参考にしてみてください。【子どもの場合】・保健センター・子育て支援センター・児童発達支援事業所・発達障害者支援センター【大人の場合】・発達障害者支援センター・障害者就業・生活支援センター・相談支援事業所知能検査や発達検査は児童相談所などで無料で受けられる場合もありますし、障害について相談することも可能です。その他、発達障害者支援センターで障害についての相談ができます。自宅の近くに相談機関がない場合には、電話での相談にものってくれることもあります。以下は小児神経学会が発表している、発達障害診療医師の名簿です。この他にも、児童精神科医師や診断のできる小児科医師もいます。まず身近な相談機関に行って、障害の疑いがあればそこから専門医を紹介してもらいましょう。日本小児神経学会 「発達障害診療医師名簿」ADHDの治療出典 : を根本的に治療することはできません。しかし、ADHDによる困難の乗り越え方を学ぶ教育・療育や、ADHDの症状を緩和する治療薬は存在します。また環境調整をしたり、周囲が普段からの対応法を考えることによって、本人が生きやすい環境を作ることも可能です。療育とは、社会的な自立をめざしてスキルを習得したり、環境を整えるアプローチのことです。この方法ではソーシャルスキルトレーニング、ペアレントトレーニング、環境調整などの手法が用いられ、本人の苦手な行動を調整し、のぞましい適応的な行動や得意な部分を磨いていくことができます。ADHDの治療には薬物療法が用いられることもあります。ADHDの治療薬には不注意・多動性・衝動性の症状を緩和する効果があります。しかし、この効果は服薬している間だけです。薬の効き方は個人によって違いがあり、また副作用の出方もまた同様です。そのため、医師と相談しながら使用する必要がありますADHDで使われる主な治療薬は主に2種類あり、ストラテラ(正式名アトモキセチン)や、コンサータ(正式名メチルフェニデート)などが用いられます■適切なサポートがない場合…ADHDと診断された子どもの経過は、以前は比較的楽観視されていました。しかし、ADHDの人が適切な治療やサポートを受けられない場合、ADHDの主症状とは異なる症状や状態を引き起こしてしまうことがあります。このような合併症を、「二次障害」と言い、下記のような症状・状態が見られることがあります。・うつ病・行為障害・不安障害・反抗挑戦性障害・不登校やひきこもり・アルコールなどの依存症などまた、ADHDの本人を支える人たちへのサポートも重要となります。特にこどものADHDの場合は、親が周囲との対応に追われて疲弊してしまっていることもあるため、心理的なサポートが重要となります。参考:今村明先生に「ADHD」を訊く | 日本精神神経学会,JSPNまとめ昔からADHDの特性がある子どもは多くいましたが、ちょっと変わった子や問題児として扱われていることが多くありました。現在は、ADHD(注意欠陥多動性障害)という名称も広がり、脳の機能障害が原因の発達障害だと広く認識されています。ADHDの子どもの場合、突然道路に飛び出したり、保育所や幼稚園、学校から呼び出されたり、友達とトラブルをおこしてしまったりと。保護者としては、困ってしまうことも少なくないかもしれません。ですが心身の成長や、適切なサポートを受けることによって、すこしずつ改善してゆくこともできます。また、ADHDの症状でいちばん困っているのは「本人自身」ということと「わざとやっている訳ではない」ということを忘れないであげてください。他の発達障害との合併や二次障害に目を配りながら、慎重に見守りサポートしていきましょう。
2017年08月30日ナルコレプシーとは出典 : ナルコレプシーとは、日中、場所や状況にかかわらず強い眠気が発生する睡眠障害です。別名「居眠り病」といわれています。学業や職業にも影響がありますが、日常生活での転倒や交通事故などの危険性もあるため、早期の治療が望まれます。ナルコレプシーはそれほど珍しい病気ではありません。欧米では2000人に1人、日本では600人に1人程度がナルコレプシーと診断されており、男女間での差はあまり見られません。15歳前後に発症することが多く、40歳代以降での発症率は低いとされています。ナルコレプシーは思春期のころに発症した場合、重症化しやすく、肥満や性的早熟につながることも少なくありません。症状自体は年齢を重ねるにつれて明らかに軽くなるとされています。単なる眠気と区別しにくいことから、ナルコレプシーの発症時から診断されるまでには、平均的に15年と長期にわたる可能性があります。また、ナルコレプシーは精神障害を伴うこともあり、双極性障害、抑うつ障害、不安症や統合失調症などが認められる場合もあります。大川 匡子/著『睡眠障害の子どもたち』2015年,合同出版/刊日本ナルコレプシー協会ナルコレプシーの症状ナルコレプシーには、4つの代表的な症状があります。ナルコレプシーの人であれば誰にでも見られるのが、日中の強い眠気です。ナルコレプシーであるかどうかに関わらず、急に眠気に襲われるような経験をしたことがある人は多いと思います。しかし、ナルコレプシーの場合、前日に十分な睡眠をとっていたとしても眠気に襲われてしまう点で多くの人とは異なります。また、ナルコレプシーの人は、眠ることが許されない場面であっても、突然の眠気に逆らうことができません。人によっては、学校のテストや大事な会議で眠ってしまったり、車の運転中に眠気に襲われて事故を引き起こしてしまったりすることがあります。ただし、過去3ヶ月間にわたり少なくとも週に3日、この症状が起こっている場合のみナルコレプシーの可能性が疑われます。情動脱力発作とは、大笑いしたり興奮した時など、プラスの感情が強く働いたことがきっかけで、からだの筋肉の緊張が突然消失する発作のことです。ほほが緩む、ろれつが回らない、まぶたが下がるなど周囲の人に気づかれにくいものから、膝ががくんとする、身体が崩れ倒れるなど重いものまであります。このときは意識は保たれており、呼吸困難や失禁などになることはありません。カタプレキシーはナルコレプシー以外の睡眠障害では、ほとんど見られません。入眠時に通常の夢よりも現実的で、また、その幻覚の中で刺されたら痛みを感じる、といった体感幻覚を伴うこともあります。時に恐怖感も伴い、現実とリアルな夢との境目がわからなくなり、うなされることもあります。睡眠麻痺の際、意識はありますが手足を動かしたり声を出すことはできません。ナルコレプシーの原因出典 : ナルコレプシーの原因はいまだにはっきりとはわかっていません。しかし、主な要因としてオレキシン神経系をつくりだす神経細胞のはたらきが低下することが挙げられています。オレキシンとは、欲求達成時の快感を与えたり、睡眠や覚醒を制御するものです。ナルコレプシーに特有なカタプレキシーが生じるときに、オレキシン神経系を作り出す細胞が働かなくなることが確認されています。最近の研究では、オレキシン神経系を作り出す細胞のはたらきの低下は、自己免疫疾患や遺伝が組み合わさって生じていると考えられています。◇自己免疫疾患ヒトの体にとって敵のみを攻撃するはずの自己免疫システムに障害があり、オレキシン神経系を作り出す細胞を誤って攻撃してしまうことがあります。◇遺伝ナルコレプシーを患っている人が家族にいる人は、平均的な人よりも10倍程度ナルコレプシーにかかりやすいという研究データがあります。白血球の血液型であるHLA(ヒト白血球抗原)による遺伝的な要因が関与しているという考えもあります。しかしナルコレプシーとの関連づけには至ってなく、今もなお検討されています。日本ナルコレプシー協会ナルコレプシーと間違えやすいADHDの症状出典 : (注意欠陥・多動性障害)とは、不注意(集中力がない)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(考えずに行動してしまう)の3つの症状がみられる発達障害です。ナルコレプシーとADHDは似ている症状がみられる場合があります。たとえば、ナルコレプシーの過眠が居眠りとして出現せず、不注意症状や多動症状などのADHDのような症状として出現することも多いです。ナルコレプシーの20%ほどにADHDのような症状があるとされています。ADHDとナルコレプシーの症状の区別は難しく、治療方法も異なるため、専門機関での受診をおすすめします。児童精神科疾患に併存する睡眠障害の特徴|精神経誌ナルコレプシーのセルフチェック出典 : ナルコレプシーには、エプワース眠気尺度というセルフチェック方法があります。エプワース眠気尺度は、医療現場でも用いられている日中の眠気を評価するためのテストです。以下の状況になったことが実際になくても、その状況になればどうなるかを想像してお答えください。(1~8の各項目で、○は1つだけ)すべての項目にお答えしていただくことが大切です。うとうとする可能性はほとんどない:0うとうとする可能性は少しある:1うとうとする可能性は半々くらい:2うとうとする可能性が高い:3問1.すわって何かを読んでいるとき(新聞、雑誌、本、書類など)問2.すわってテレビを見ているとき問3.会議、映画館、劇場などで静かにすわっているとき問4.乗客として1時間続けて自動車に乗っているとき問5.午後になって横になって、休息をとっているとき問6.すわって人と話をしているとき問7.昼食をとった後(飲酒なし)、静かにすわっているとき問8.すわって手紙や書類を書いているとき(または、自分で車を運転中、交通渋滞などで2-3分停車しているとき)【ESSの使用目的に応じてどちらを使用しても可】項目での質問で合計点数が11点以上であれば、ナルコレプシーなどの睡眠障害が原因で強い眠気に襲われている可能性が疑われます。なにか気になることがあれば、お近くの医療機関に相談しましょう。エプワース眠気尺度テスト|総合南東北病院 広報誌こんにちわナルコレプシーの診断・治療はどこでできるの?出典 : ナルコレプシーは睡眠外来で診断を受けることができます。睡眠外来は、不眠症などの睡眠障害を改善するための治療を行っている睡眠治療の専門の医療機関です。いびきや寝相から不眠症や仮眠症まで、その人の睡眠障害の原因を特定し、それに合った治療法を見つけることができます。不安なことや心配なことがある場合は、下記のリンク先でお近くの医療機関を探してみましょう。全国の睡眠障害専門病院|日本ナルコレプシー協会ナルコレプシーの診断方法出典 : 日中の眠気がナルコレプシーによるものなのかどうかを診断するためには、問診や過去の病歴、検査結果が参考になります。ナルコレプシーに特有の症状であるカタプレキシーがあれば、「情動脱力発作を伴うナルコレプシー」と診断されます。カタプレキシーが見られない場合には「情動脱力発作を伴わないナルコレプシー」かどうかを確かめます。ナルコレプシーの検査方法には2種類あります。終夜睡眠ポリグラフィー検査(PSG)では、1泊2日で病院に入院し、脳波や眼球運動などを終夜にわたって連続で記録をします。これらの測定で、夜間の睡眠を検査します。これはナルコレプシー以外にも睡眠時無呼吸症候群の検査にも用いられる検査方法で、睡眠障害の検査手段の中では一番メジャーなものです。健康保険が適用されている検査方法です。反復睡眠潜時検査(MSLT)は、日中の眠気を客観的に調べる検査です。前日に十分な睡眠(6時間以上)を取った後、入眠にかかるまでの時間、レム睡眠までの時間、入眠できた際に15分以内にレム睡眠が出現するかを観察します。現在、ナルコレプシーと特発性過眠症の検査だと保険が適用されるようになっています。ナルコレプシーの治療法出典 : ナルコレプシーの治療には、薬物治療と生活指導の2種類があります。ナルコレプシーは薬物治療をすることで、昼間の眠気を抑えたり、情動脱力発作を防ぐことができる場合があります。しかし、ナルコレプシーの治療薬の中には、副作用があるものも少なくありません。そのため服用の際には、必ず医師の指示に従うようにしましょう。ナルコレプシーは、日常生活を送るうえで工夫すれば、症状を軽くすることができます。・昼寝をする強烈な眠気を感じることが多い時間帯に、習慣的に短い昼寝をとるようにしましょう。・毎日の生活のリズムを同じにする平日・休日にかかわらず、就寝と起床の時間を同じにしましょう。・寝る直前は、カフェインとアルコールを控える就寝時間の数時間前からは、カフェインとアルコールは控えるようにしましょう。・たばこを吸わないようにするとりわけ夜は避けるようにしましょう。・毎日、適度な運動をする就寝時刻の4~5時間前に、少なくとも20分間の運動を毎日するようにしましょう。・寝る直前は食事をとらないようにする寝る直前の食事は、睡眠をとることを妨げます。・寝る前はリラックスする入浴するなどして、リラックスすることは、快適な睡眠をとるうえで役に立ちます。このように規則正しい生活をすることが、ナルコレプシーの症状を抑えることに役立ちます。【参考】Narcolepsy Fact Sheet|National Institute of Neurological Disorders and Stroke【参考】ナルコレプシーの診断・治療ガイドラインまとめ出典 : ナルコレプシーは「居眠り病」と別名があるように、居眠りとの区別が難しいです。そのため周囲の人や本人が昼間の眠気が睡眠障害から生じているものだと考えられないことがあります。授業中や会議中に、うたた寝をしてしまうと、だらしないと批判されたり、やる気がないとみなされてしまうことがあります。本人も、起きていようと思っているのに寝てしまうことから、「自分はだめな人間」だと自分を責めてしまうことも珍しくありません。しかし、ナルコレプシーをはじめとする睡眠障害による眠気は、気合いや根性だけで解決できるようなものではありません。適切な治療や規則正しい生活リズム、場合によっては短い昼寝をすることで改善されていきます。そのため、上記のセルフチェックで点数が高かったり、日々の生活の中で強烈な眠気に困らされていたりする場合には、気軽に専門医を訪ねて相談してみるといいかもしれません。
2017年08月28日レット症候群とは?出典 : レット症候群とは、いったん習得した発語や運動機能が次第に退行していく症状がある、遺伝子変異が原因の疾患です。具体的な症状には、意味のある手の動きの喪失、言葉によるコミュニケーションの喪失、歩行障害、手の常同行動(一見無目的にみえる同じ動きを繰り返す行動)などがあります。レット症候群は、一旦獲得した発達が退行していくという特徴を持った疾患であり、生まれた時には運動発達・身体的成長ともに問題が見られることはありません。症状はおおむね生後6ヶ月~1歳6ヶ月ぐらいに現れはじめます。またこの疾患は、女児にのみ発症する疾患です。レット症候群は1966年にオーストリアの小児精神科医Andress Rettにより発見されました。日本の厚生労働省の調査によると、全体の推定患者は約5,000人、20歳以下の患者の数は約1,020人であり、1万人のうち0.9人の割合の女児がレット症候群にかかると報告されています。残念ながらレット症候群には、治療法や詳しい発症理由は見つかっていません。現在研究が進められていますが、まだまだ病態の解明には至っていないのが現状です。その患者数の少なさや治療法が確立されていないことから、国によって難病に指定されています。国際疾病分類『ICD-10』とアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)では、レット症候群のとらえ方や名称が異なっています。WHOによる国際疾病分類『ICD-10』ではレット症候群は「広汎性発達障害」のカテゴリーとして分類されています。これは書籍の内容が採択されたのが1990年であり、原因が特定される前であるためです。しかしアメリカ精神医学会が2013年に発行した『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)にはレット症候群の記載はなく、精神障害とは一線を画するものだという見解であることが読み取れます。厳密には、第4版である『DSM-IV』にはレット症候群はレット障害の名称で広汎性発達障害の一つとして記載されていましたが、染色体の遺伝子の異常が疾病の原因でであることが発見されたことによって、『DSM-5』から除外されることとなりました。このように研究が進んでいくとともにレット症候群にまつわる情報は日々更新されています。この記事では、現在の時点でレット症候群の明らかとなっていることについてご紹介いたします。レット症候群の診断と予防・治療法確立のための臨床および生物科学の集学的研究|厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)総括研究報告書レット症候群の症状出典 : レット症候群は、特徴的な症状のパターンが見られる疾患です。以下では具体的な症状についていくつかご紹介します。「発達の退行」「特徴的な手の動き」「歩行の障害」という主に3つの症状があります。レット症候群のある子どもは生まれたときにはその身体的な成長や運動・発語の発達に滞りは見られません。6ヶ月を過ぎたころから筋緊張低下、自閉傾向など初期症状が見られるようになります。徐々に運動・発語面でも、できていたことができなくなってくる「退行」という現象が起こってきます。6ヶ月以前から発達に明らかな遅れのある場合には、レット症候群ではなく、その他の疾患や障害となる可能性が高いといえるでしょう。ものをつかんだり、手を伸ばすなどの目的をもった手の動きが少なくなり、消失します。その後、手を口にもっていったり、揉んだり、こすったりするしぐさが出てきます。これは「常同行動」と呼ばれる行動であり、自閉症の子どもにも同じような行動として手をひらひらさせたりくるくるまわったりというような行動が見られることがあります。症状の軽い場合には、歩いたり小走りできますが、重篤な場合は運動機能の低下により、歩行障害、歩行失行が見られます。歩行できるようになる以前から、運動発達の遅れがみられることが多く、早い場合には寝返り、四つ這いの獲得が遅れます。また「筋緊張」という身体の筋肉を支える部分の問題も絡んでくるため、場合によっては歩行異常のほかにも、身体が硬くなったり、座位が保てなくなったりすることもあります。歩くことが困難となるため、疾患が進行してくると移動の際に車いすを使用したり、座るときには補装具を必要とすることになります。「あうあう」などの喃語(なんご)、あるいは意味のある言葉を習得したあとに、言語機能が部分的、あるいは完全に消失します。発語ができなくることによって外界とのコミュニケーションが難しくなります。これは構音機能の低下が原因のひとつには考えられるものの、さらに詳しい原因についてはまだわかっていません。これらの主な3つの症状のほかには、呼吸異常や歯ぎしり、睡眠障害、身長・体重が伸びない成長障害、手足が小さく冷たい、不適切な場面で笑ったり叫んだりする、痛覚が鈍い、一点を比較的長く見つめている、などの症状が見られることがあります。レット症候群の症状の経過は?出典 : レット症候群は、発達が退行したあとに、症状が一旦安定し、その後再び進行するという決まった流れがあります。レット症候群は、時期によって症状がさまざまであるために、以下の4つのステージに分けて理解するのがよいでしょう。症状が発症してくるのはおおむね生後6ヶ月~1年6ヶ月ごろです。この時期には主に、運動・言語発達の遅れと自閉的な症状が特徴として見られます。それまで順調だった運動発達や発語などに遅れが生じます。そして、一度は喃語や四つ這い、歩行などを行っていた場合にもそれ以上の発達が見られにくくなります。また、日中の睡眠時間が以前よりも長くなり、外部の刺激に対する反応が少なくなり、急に手のかからなくなることがあります。他には、おもちゃへの興味がなくなったり、視線が合いにくいなどの様子が見られたりするなどの特徴が出てくる場合には注意が必要です。だいたい1~4歳ごろの間で、数ヶ月続きます。この時期の特徴は運動・言語発達の急激な退行と、本人の意思とは関わりない手の常同行動です。運動機能、言語発達に急な退行が見られ、おもちゃやスプーンを持つことができなくなり、おしゃぶりをするなどの目的のある動きをとれなくなることもあります。また、起きている間のみ、両手を揉んだり、ぎゅっと絞るようにしたり、口に持っていったり、片手で胸を叩く、などの常同行動が出ます。乳児期にこのステージとなった場合には、筋緊張の低下が起こるために、寝返りから遅れることが多く、特に四つ這いの移動はできない、または遅れることが多いです。歩行ができていた場合には、この時期に歩行が不安定となり、体を横へ揺らすような歩き方となります。また周囲とのコミュニケーションをとることが難しくなり、睡眠障害や呼吸障害やけいれんが起こることもあります。退行ののち、発達面での症状が安定したように見える時期があります。イライラやかんしゃくなどは少なくなり、視線もよく合うようになります。一方この時期には、身体的問題がより顕著に見られるようになります。例えば、手の常同運動や呼吸障害、歯ぎしりなどです。また患者の約40~80%に、てんかんが発生します。筋緊張の症状が進んでくるので背骨の側弯への対応が必要となってくる時期です。レット症候群(指定難病156)|難病情報センターこの4つ目のステージにはだいたい発症から10年以上たって入ります。運動機能がさらに低下します。手や足を動かすことができないために、身体が細くなってきます。場合によっては、歩行が難しくなるために車いすが必要となることもあります。筋緊張の状態が進んで背骨がゆがむ脊柱側弯が進行し姿勢を保つことが難しくなります。また「ジストニア運動」という筋肉の異常によって無意識に体が動いてしまう症状も生じることがあります。食事の際に飲み込むのに時間がかかったり、胃や食道の逆流症が発生してきたりするために、外科的な治療が必要となることもあります。レット症候群の原因出典 : 発達の退行が見られるレット症候群は、遺伝子性の疾患であることが近年わかってきました。私たちの身体の2本の性染色体のうち、X染色体の中に存在する「MECP2」という遺伝子があります。この遺伝子が何らかの要因で病的な変異を起こすことによってレット症候群が起こります。しかし遺伝子に変異が起こったからといって必ずしもレット症候群を発症するわけではなく、「MECP2」という遺伝子に病的な変異が起こっている人のうち、レット症候群と診断がつくのはそのうち90%ほどです。また近年の研究では、病因としてCDKL5やFOXG1という遺伝子も新たに発見されています。レット症候群は、家系や両親からの遺伝では起こるのではなく、何らかの原因による遺伝子の突然変異であると考えられています。家庭内で親から子どもへ遺伝することはほぼないということが調査によって明らかになっています。レット症候群の遺伝子異常について|認定NPO法人 レット症候群支援機構レット症候群の合併症出典 : レット症候群の合併症として最も気を付けたいのがてんかんです。てんかんは、レット症候群のある子どもの70~80%と高い確率で起こります。そのうちの約30パーセントは、けいれんの薬が効きにくい難治てんかんだと報告されています。てんかん発作は、歩行ができない重度の子どもに多いとされています。重症の場合には、日常から合併症の注意が必要です。合併症として挙げられているのは、感染症、誤涎(ごえん)性肺炎、胆石、吐気症などです。食べ物の摂取がうまくできないために、栄養摂取のために胃瘻(いろう)という「お腹に口をつくる」手術が必要となることもあります。骨の発達にも滞りが出るので、ちょっとした衝撃でも骨が折れてしまうこともあります。レット症候群が進行していると、本人は言葉を発したり、思うとおりに身体を動かしたりできないので、周囲にいる人の理解と支援が大切です。レット症候群|難病情報センターレット症候群の診断基準出典 : 年から2002年にかけて、レット症候群についていくつかの診断基準が発表されてきました。この章では、現在日本の病院で実際に使用されている診断基準をご紹介します。『ICD-10』は、世界保健機関(WHO)の定める国際疾患分類です。ただし、1990年の改訂を最後に情報がまだ更新されていないために、それ以後の研究結果により明らかになったことが反映されていない古いバージョンだと捉えておくとよいでしょう。現在、多くの医師が採択しているのはこちらの診断基準となります。特に、「小児慢性特定疾病指定医」の登録を行っている医師は必ずこの診断基準を使用しているようです。A.胎生期・周産期は明らかに正常、および生後5カ月までの精神運動発達も明らかに正常、および生下時の頭囲も正常であった。B.生後5カ月から4歳までの間に頭囲の成長は減速し、また5~30カ月の間に目的をもった手先の運動をいったんは獲得していたのに喪失すると同時に、コミュニケーション不全、社会的相互関係の障害を伴い、また体幹の協調運動障害/不安定さがあらわれる。C.表出性および受容性言語の重度の障害があり、重度の精神運動遅滞を伴うこと。D.目的をもった手先の運動の喪失時またはそれ以降に現れる、正中線上での常同的な手の運動(てもみや手洗いのようなもの)がある。中根允文ほか/訳『ICD-10 精神および行動の障害ーDCR研究用診断基準新訂版ー』1994年/医学書院/刊人のレット症候群患者の診察・遺伝子解析などの研究によって作成されたのがこの診断基準で、レット症候群の本質的な症状が明瞭・簡潔に載っています。現在、この改訂版の診断基準を医師に広めようという動きや活動もあり、これからより本質的な診断に期待ができそうです。①診断基準(表1)に最新の診断基準を示す。表1.レット症候群診断基準最新版(2010年版)現在まで、世界で統一した診断基準は確立されていない。近年、Nuel JF,等は819例の検討で、下記の基準を提唱しています。A-1. 退行のエピソードがあること(但し、その後、回復期や安定期が存在する)A-2. すべての主要診断基準と、すべての除外診断基準を満たすこと注)最後に述べる11の支持的診断基準は必須ではないが、典型例レットでは認めることが多い。主要診断基準・合目的的な手の機能の喪失:意味のある手の運動機能を習得した後に、その機能を部分的、あるいは完全に喪失すること・言語コミュニケーションの喪失:言語(有意語、喃語)などを習得後に、その機能を部分的、あるいは完全に喪失すること・歩行異常:歩行障害、歩行失行・手の常同運動:手を捻じる・絞る・手を叩く・鳴らす、口に入れる、手を洗ったり、こすったりするような自発運動典型的レット症候群診断のための除外基準明らかな原因のある脳障害(周産期・周生期・後天的な脳障害、代謝性疾患、重症感染症などによる脳損傷)生後6か月までに出現した精神運動発達の明らかな異常A.典型的レット症候群の診断要件は上のすべてを満たすこと。そして退行のエピソードがあること。(但し、その後、回復期や安定期が存在する)B.非典型的レット症候群の診断要件退行のエピソードがあること(但し、その後、回復期や安定期が存在する)4つの主要診断基準のうち2つ以上を満たすことB-3. 11の支持的診断基準のうち5つ以上を満たすこと典型的レット症候群診断のための支持的(補助的)診断基準1.覚醒時の呼吸異常、2.覚醒時の歯ぎしり、3.睡眠リズム障害、4.筋緊張異常、5.末梢血管運動反射異常、6.側弯・前弯、7.成長障害、8.小さく冷たい手足、9.不適切な笑い・叫び、10.痛覚への反応の鈍麻、11.目によるコミュニケーション、じっと見つめるしぐさ※アメリカ精神医学会『DSM-5』(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)での除外についてアメリカ精神医学会の出版する『精神疾患の診断・統計マニュアル』の第4版においてはレット症候群はレット障害の名前で「広汎性発達障害」のカテゴリとしてその診断基準が記載されていました。しかし、その後レット症候群はX染色体の遺伝子の問題であるという事実が判明し、2013年の第5版改訂の際に広汎性発達障害のカテゴリーからレット症候群の名前は除外されました。子どもがレット症候群かも、と不安を感じたら出典 : ◇乳幼児健康診査乳幼児健康診査は乳児健診とも呼ばれ、母子保健法の定めにより各自治体が実施するものです。各市区町村の保健センターなどで行い、赤ちゃんが順調に発達しているかどうかを確認し、病気の予防や早期発見をするための検査です。3ヶ月、6ヶ月、1歳半といった乳幼児の発達の節目に受けることができます。レット症候群の場合には、初期症状が生後6ヶ月~1歳半ごろから出始めるので、3、6ヶ月の時点ではもちろん、1歳半健診の際にも、見過ごされてしまうことがありますので注意が必要です。乳幼児健診では普段の子育てで疑問に思っていることや、なかなか話す機会がない不安などを専門家に相談できる場でもあります。乳児健診は同じ月齢の赤ちゃんを育てるほかの保護者も来ており、育児の工夫や悩みを共有したり情報交換したりできる場としても利用できます。検査を受けるには、出生届を出した自治体から送られてくる受診票の案内に従います。指定された日時に集団で受けるケースがほとんですが、事情があれば日付の変更や受診場所の変更をしてもらえることもあります。また、以下のサイトでは、全国の発達相談にのってくれる施設を検索することができますので参考にするとよいでしょう。発達相談に関する検索サイト|国立障害者リハビリセンター◇地域子育て支援センター行政や自治体が主体となって運営している施設です。子育ての不安・悩みに対し専門的なアドバイスをしてくれる保健師が在籍または巡回しています。日時によっては乳幼児の発達相談を無料で行っています。地域の母子向けに子育てサロンを開催や発達に合わせたセミナーを主催していることもあり、気軽に利用できます。◇児童相談所児童相談所では、育児の相談、健康の相談、発達の相談など、0~17歳の児童を対象としたさまざまな相談を受け付けています。必要に応じて発達検査を行う場合もあり、無料で医師や保健師、理学療法士などからの支援やアドバイスをもらうことができます。基本的に予約制なので、あらかじめお住まいの市区町村のHPなどを見て、スケジュールを確認するようにしましょう。全国児童発達相談所一覧|厚生労働省上記で紹介したレット症候群の症状が明らかである時には、すみやかに医療機関で診察を受けることをおすすめします。医療機関の受診を考える場合には、まずはお近くの小児科で相談してみてもよいでしょう。レット症候群は、認知度の低い疾病であり、一般の病院を受診しても残念ながら確定診断に至らない場合があります。ですので、受診の際にはお近くの「指定難病特定医師」を訪ねることをおすすめします。以下のサイトから指定難病特定医師のいる病院を検索できます。参考にしてみてください。都道府県別指定医師一覧|難病情報センター「小児神経医のいる施設|一般社団法人日本小児神経学会」レット症候群の治療法出典 : レット症候群は、残念ながら根本的な治療が確立されていません。ですので、レット症候群のある患者さんに対しては、それぞれの症状をケアする対症療法により症状の緩和を目指します。例えば、運動機能の低下に対しては理学療法が行われ、発話に関しては言語療法が行われます。また症状として多く見られるけいれんには、抗けいれん薬の調整などです。ほかに、背骨がゆがんでくる側弯に対してはコルセットを使用して姿勢の維持を行うなど、一つひとつの症状に対してアプローチを行っていきます。レット症候群のあるお子さんの保護者の方へ出典 : レット症候群のある子どものケアや子育てで気を付けたいことをご紹介します。レット症候群のある子どもは、うまく身体を動かすことはできませんが、耳で捉えた音はしっかりと聞こえていますし、においや触られた感覚はあります。しかしレット症候群のある子どもは、自らの意思により体を動かすことが難しいので、自分の意思を伝える方法が限られてきます。ここで重要になるのが、視線を動かすことです。疾病の度合いが重度の場合には、外界からの刺激に対して反応をできるのは視線を動かすこの方法のみとなります。声をかけてあげるときには、目を見ながらやりとりを行うのがよいでしょう。近年では視線入力装置などの代替コミュニケーションの手段も開発されています。安価で視線入力装置の貸し出しを行うプロジェクトが行われています。詳しく知りたい方は以下のサイトをご覧ください。視線入力装置|NPO法人 レット症候群支援機構レット症候群のある子どもは嚥下が困難なために、食事にかかる時間が長く必要です。食事の際には、誤嚥(ごえん)を防ぐためにトロミをつけて、便秘を抑えるためにも、食物繊維の多い食事が推奨されます。身体の中に管を入れて栄養をとっている場合には亜鉛、必須アミノ酸、カルニチンなどの不足にならないように注意が必要です。また骨密度の低下により骨折することが多いので、定期的に骨密度などを測定し、活性型ビタミンDやカルシウム摂取などを心がけたいものです。症状が進行してくると、筋緊張の異常や側弯によって歩行が困難となります。お子さんのレット症候群に気が付いた場合には、歩行機能を失わないうちに、整形外科に相談してコルセットや補装具を作成する相談をすることが望ましいです。レット症候群に対する医療費の補助制度出典 : レット症候群は、原因がわからず、治療法も確立されていないという点から難病に指定されています。国は充実した難病対策を行うため、医療費の助成制度を準備しています。ここではレット症候群の患者が受けることができる3つの医療費の補助制度をご紹介します。医療費助成の対象になると、自己負担割合が下がり、自己負担上限月額があるので、それを超える負担はなくなります。高額な治療を長期にわたって行う必要があれば、負担はさらに軽くなります。難病法では、患者の医療費の負担金は2割が上限です。例えば、難病に関する医療費が10万円だった場合、窓口で払うのは2割の2万円です。難病法では、「重症度」をポイントにしており、一定の症状がある人が助成の対象となります。指定難病の患者であっても、症状が軽いと助成は受けられません。しかし、症状が軽くても、高額な医療費がかかる治療が継続して必要な人は「軽症者の特例」として助成が受けられますので、都道府県の担当窓口(保健所など)に問い合わせてみましょう。1.臨床調査個人票(診断表)の書類をもって、難病指定医を受診する2.受診後、難病指定医に書類に記入をしてもらう3.必要な書類とともに都道府県に提出する4.受給の認定がおりる5.医療受給者証が交付され、自宅に届く医療費受給がおりることが確定しても、自宅に医療受給者証が届くまでに時間がかかります。受給者証が手元に届くまでにかかった医療費は、支給申請を行えば自己負担額上限を超えた額があとから戻ってきます。指定医療機関の療養証明書や指定医療機関の領収証などはとっておくようにしましょう。指定難病の医療費助成|難病情報センターレット症候群は小児慢性特定疾病に指定されており、医療費の自己負担分の一部の助成を受けることができます。この制度は児童福祉法に基づいており、児童の健全育成のために患者家族の医療費の負担軽減を図る目的があります。医療費の助成を受けることができるのは、18歳以下の患者です。また、以下の4つ全てを満たす程度の疾病であることが条件となります。・慢性に経過する疾病であること・生命を長期に脅かす疾病であること・症状や治療が長期にわたって生活の質を低下させる疾病であること・長期にわたって高額な医療費の負担が続く疾病であること医療費助成を受ける場合には、行政機関への申請が必要となります。申請は以下の流れとなります。1.指定医療機関(※)を受診し、医師から小児慢性特定疾病の意見書を書いてもらう。2.お住まいの都道府県、指定都市の窓口へ意見書と申請書を提出する。3.小児慢性特定審査会にて審査が行われる。4.医療助成の対象の通知が自宅に届く。※指定医療機関は、都道府県・指定都市の定める特定の医療機関であり、自治体ごとに定められています。お近くの指定医療機関を折理になりたい場合はお住まいの自治体のHPをご覧ください。小児慢性特定疾病の医療費助成について|小児慢性特定疾病情報センター◇高額療養費補助制度この制度は入院など、高額の医療費を支払った時に払い戻しを受けることができる健康保険制度です。月の支払いのうち、負担の上限金額を超えた支払いをした場合には、その超過分が支給されます。高額療養費の支給は、診療の月から3ヶ月以上の時間がかかります。その間の家計の負担が考えられますので、以下の2つの制度を利用することで入院の間の負担を減らすことが可能です。70歳未満の方で、入院費が高額となることが事前にわかっている場合には、限度額適用認定証を病院に提示することで、負担額に限度を設けることができます。所得により異なりますが、支払額の上限の目安は平均44,000~140,100円/月です。この場合には高額療育費を申請する必要がなくなります。健康保険 限度額適用認定|全国健康保険協会◇高額医療費貸付制度家計の負担を軽減させるために、一時的に治療費を借りることもできます。この制度では、高額療育費で支給される見込みの約8割の料金を無利子で貸し付けを行っています。すべての申請は郵送で行うことができます。申請者の方が窓口に足を運ぶ必要がなく簡単に申請することができますので、ぜひご活用ください。詳しく知りたい方は以下の全国保険協会のHPをご覧ください。高額医療費貸付制度|全国健康保険協会まとめ出典 : レット症候群は現在、病態や根本治療を解明するための研究が日々行われています。レット症候群の症状に対して、根本的な治療を行う方法はなく、それぞれの症状に対してひとつずつケアを行っていくのがレット症候群の患者に対する現状です。このように、合併症を含むさまざまな症状に対してひとつひとつケアを行っていくことが地道ととらえられるかもしれません。しかしレット症候群には「CareToday,CureTomorrow」というスローガンがあります。これは国際レット症候群協会の会長のKathy Hunterさんの言葉です。現在はできる限りのベストの治療を行って、来たる根本的な治療方法の開発の日々を待とうという前向きな意味がこめられています。レット症候群の原因遺伝子が発見されてから10年の月日がたち、基礎研究は着実に進んでいます。基礎研究の進歩によって、レット症候群に対する治療法が確立される日も来るかもしれません。参考:レット症候群の新しい治療戦略の可能性|NPO法人 オール・アバウト・サイエンス・ジャパン
2017年07月22日ゲルストマン症候群とは出典 : ゲルストマン症候群とは、失書・失算・左右識別障害・手指失認などの症状が出る脳機能障害です。4つの症状すべてが出る人は少なく、大体の人は部分的な発症となります。ゲルストマン症候群は、脳の頭頂葉などの領域の損傷が原因とされており、脳卒中や交通事故で脳が傷ついた後に発症することが多い障害です。大人に発症することが多く、原因や症状が似ているため、アルツハイマー症候群との区別がつきにくいと言われています。子どもに発症する場合は発達性ゲルストマン症候群と呼ばれますが、その原因はよくわかっていません。文字の読み書きや計算ができず、学校生活についていけなくなった際に見つかることが多いです。症状が似ているため発達障害(特に学習障害)との見分けがつきにくく、対処法を決める際には医療機関での詳しい検査が必要となります。身体的な健康問題にかかわる病気ではありませんが、日常生活の基本的な動作に大きな不便が起きる場合もあります。それでも医療機関や家族の協力を得れば、生活の質を上げることができます。ゲルストマン症候群の症状出典 : ゲルストマン症候群の4つの症状について、より詳しく説明していきます。ゲルストマン症候群は、その他の脳機能の不調が併発する可能性があり、ここで出てくる症状以外の異変が見られる場合もあります。・失書失書とは、文字を書くこと・文章を組み立てることに障害があることを言います。例えば漢字が思い出せない、文字を書くことができない、それぞれの言葉にイメージを結び付けられず文の意味を理解できないといった症状があります。生活上では、相手の話をよく理解できない、思っていることを文字に起こせないなどの困りごとが生じます。・失算失算とは、基礎的な計算能力が低下することです。数の大小関係や「1、10、100...の順に大きい数を表す」という順序性の把握が苦手になります。数字の概念の理解が難しくなることで、日常的に数の計算が難しくなる以外にも、時計が読めなくなるという困りごとも生じます。・左右識別障害左右識別障害(左右誤認、左右失認とも言う)とは、自分や他人の体の左右の違いを認知できず、空間的な位置関係の把握が難しくなることを言います。集団行動の際に指示を理解することが難しかったり、ネクタイをしめたり絵を書いたりすることが苦手になるといった困りごとが生じます。・手指失認手指失認とは、手指に関する言語・視覚・触覚の刺激が働かなくなることです。例えば、目を閉じた状態で誰かに指を触られ「これは何指?」と聞かれても認知できなかったり、「親指を出してください」と言われても理解できなかったりすることがあります。指を上手に操作できないため、爪切りや料理をするなどの動作が難しくなります。ゲルストマン症候群かな?と思ったら...出典 : 気になる症状がある場合は、医療機関に相談してみましょう。ゲルストマン症候群については、大人は脳外科や脳神経外科、子どもは小児感覚器科などが担当になります。次のような検査を用いて診断をします。・脳の異変の調査脳に異変が生じていないか、脳を写し取って調べます。この場合に用いられる検査はCTスキャンやMRIがあり、担当する医師がそのときの状況に応じてどの方法を利用するか決定します。・手指認知テスト手指認知テストとは、手を触られ、どの指を触られているかを答える検査です。目を開けた状態や閉じた状態など、さまざまな状態のもと検査を行い、手指に関するどの感覚に異常があるのかを調べます。・左右認知テスト左右認知テストは、自分・他者の体に対して「右手を挙げてください」という単純命令と「右手で左耳を触ってください」という二重命令によって左右認知の程度を調べます。・読み書きテスト読み書きテストでは、「指示に従って書く」「音声を聞いて書きとる」「漢字単語の書きとり、仮名単語の書き取り」「五十音・数字を書きだす」「写字」「自分の考えを書きだす」などの方法で読み書き能力を測ります。・数の認知・操作・計算テスト数の認知・操作・計算テストでは、足し算・引き算などの基礎的な計算問題や、月・日・年・時刻などの数的情報を認識すること、数字を正しい順番で数えることなどを通して数字を扱う能力を測ります。これらの方法の以外にも、さまざまな検査があり、調べたい症状によっていくつかの検査を組み合わせて行います。ゲルストマン症候群の検査においては「この指標がどれくらいだと確定」といった明確な指標はありません。そのため、医療機関ごとにその評価基準が変わる可能性があるのが現状です。診断がつくかどうかよりも「どういった動作にどのような困りごとがあるのか」を確かめてリハビリに臨めるようにするとよいでしょう。ゲルストマン症候群とアルツハイマー、発達障害との違いは?出典 : ゲルストマン症候群が疑われる場合に、区別がつきにくい疾患があります。アルツハイマー型認知症と発達障害がそれにあたり、症状や病巣が似ているため医療機関で詳しく検査をする必要があります。症状が似ていても対処法はそれぞれ違うため、見分けた上で適切な処置を考えられるといいでしょう。アルツハイマーは脳に様々な問題が生じ、記憶力の低下や被害妄想などの症状が起こる病気です。・具体的な症状:判断力の低下、発話困難、記憶力の低下、「誰かが私の物を盗んだ!」というような被害妄想などがあります。・原因:脳のニューロンの機能低下、神経伝達物質の減少、ホルモンバランスの乱れなど、様々な要因があります。・対処法:アルツハイマーは明確な治療法が見つかっておらず、介護が必要となる場合があります。しかし、薬を飲むことで症状が軽減した例もあります。参考書籍:中根充文・山内俊雄/監修『ICD-10 精神科診断ガイドブック』(中山書店、2013)発達障害とは、先天的な脳機能の発達の凸凹と、その人が過ごす周りの環境とのミスマッチから、社会生活に困難が生じる障害です。ADHD、自閉症スペクトラム障害、学習障害(LD)といった種類があり、ゲルストマン症候群は、特に学習障害と見分けがつきにくいとされています。・具体的な症状:集中力の欠如、学習の困難、落ち着きがない、癇癪を起こす・原因:脳の発達の特性と言われていますが、詳しいことはわかっていません。・治療法:現在のところ根本的に治療する方法はありません。環境調整や周りの接し方、スキルトレーニングなどで困りごとが緩和される場合があります。または症状を緩和するための投薬が行われる場合があります。ゲルストマン症候群・アルツハイマー型認知症・発達障害の症状は似ている点があるため、見分けをつけることが難しいとされています。3つの疾患とも、脳の機能に異常が生じて起こる病気のため、判断が難しくなる場合があります。また、その症状も似ています。ゲルストマン症候群の4つの症状は、アルツハイマー型認知症での服を着ることが難しくなる「着衣失行」という症状や、発達障害での計算、文字を書くこと、手先を使う動きが苦手になる症状によく似ています。原因や症状が似ていたとしても、3章で挙げたような検査をしていくと違いを見つけることができます。問診や検査、脳のどの部分に異変が生じているのかなどを詳しく調べることで判別していきます。疑わしい症状が出たけれども、どの病気に当てはまるかわからない場合は、専門家に相談し検査を受けてみることをおすすめします。ゲルストマン症候群の治療法とリハビリ方法は?出典 : ゲルストマン症候群は治療法が見つかっていませんが、時が経つにつれて症状が和らいでいくと言われています。自然の回復を待つ以外にもリハビリによって日常で必要な動作ができるようにもなります。リハビリを希望する場合は、医療機関のリハビリテーション科に相談するとよいでしょう。ゲルストマン症候群のリハビリの一例を紹介します。作業療法では、検査で確認できた症状の中で、日常生活での困り度合いが大きいものを選び、具体的な行動目標を設定します。例えば、「箸を使ってご飯が食べられるようにする」「自分の名前を自分で書けるようにする」などです。目標を設定した後は、作業形式の練習を繰り返します。・文字を書くまず、ひらがなを書く練習から始めます。練習する文字を要素に分けます。そしてそれをなぞったり、模写をして慣れたら見本無しで書く練習をします。ひらがなが書けるようになったら、漢字も同じ過程に沿って練習します。・数字を理解する「1の次は2、3の次は4」「4から1つ減ったら3になる」などの数の変化をイメージしやすくなるための練習をします。例えば、積み木やおはじきを使って数の変化を視覚でとらえられるようにします。・その他の日常動作日常動作の練習をする際には、まず動作を単純化することから始めます。その後、簡単な動きから段階的に練習をしていきます。例えば、爪を切る練習では、安全な詰め切りの持ち方を覚えるために洗濯バサミをつかんで動かすことから始めたり、はさみで物を切る練習をする際にはまずはさみを平面に置いた状態で、穴に指を入れ、動かしてみることから始めます。日常動作の練習のときには、自助具(物を掴みやすくするグリップなど)を使う、いきなり空間操作ではなく、平面上で動かす練習をする、動きを単純化する、ということがポイントです。訓練による回復は、退院後も継続しないと効果が持続しないと言われています。なので、家族がサポートをしながら動作の練習を続けることをおすすめします。他には脳に高圧の酸素を注入する高圧酸素療法や、計算機を使うこと、ワープロを使って文章入力をする練習なども行います。計算機やワープロといったツールを使うことで、文章を組み立てることや、計算をすることの練習を負荷が少ない状態ですることができます。まとめ出典 : ゲルストマン症候群とは、脳の損傷や病変により、失語・失算・手指失認・左右認識障害などが現れます。命にかかわる病気ではなく、詳しい原因や治療法が発見されていませんが、症状の組み合わせによっては日常生活に大きな支障をきたします。少しでも生活上の不自由を解消するためには、作業療法や高圧酸素療法などを受けることがおすすめです。診断基準や療法が明確に統一されておらず、情報収集が難しいゲルストマン症候群ですが、専門家と相談しながら療法を続けていくことで困りごとの改善につながるでしょう。ゲルストマン症候群のような脳の分野の異変が原因となっている病気は、近くの脳分野が関係する病気を併発することも珍しくありません。そのため、専門家に症状や不自由を感じる点を相談しながら、自分に合った対処法を見つけられるとよいですね。
2017年07月14日適応障害とは出典 : 適応障害とは、その名の通りストレスに適応できないためにさまざまな心身症状が表れ、日常生活をうまく送れなくなってしまう疾患です。ある特定の状況や出来事が、その人にとってストレスとなり、耐えがたく感じられることで、気持ちや行動にいつもとは違う症状が現れます。ストレスの感じ方やそのとらえ方は人それぞれです。大きなストレスを感じていても、気持ちの問題だなどと我慢し、知らず知らずのうちに適応障害になっている人も少なくありません。さらに、ストレスを我慢したり、耐え続けたりすると重症化し、うつ病や不安障害などの深刻な疾患を発症してしまうことがあります。気持ちや体に不調が出てきたら、我慢や無理をせず、早めに病院に行くことが大切です。適応障害は、他の精神疾患の基準を満たしていないこと、すでに存在する精神疾患の単なる悪化でもないことが分かって初めて診断されます。例えば、うつ病などの気分障害や不安障害などの診断基準を満たす場合はこちらの診断が優先され、適応障害とは診断されません。つまり、気分障害や不安障害ほど重い症状ではないけれど、健康な状態とは言えない場合、適応障害となるのです。なお、この記事ではアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)に準拠して、適応障害を説明していきます。適応障害の症状って?出典 : 適応障害に見られる症状として、大きく分けて、精神症状・身体症状・年齢や社会的役割に不相応な行動の3つがあります。■精神症状精神症状には主に、憂うつ感や気分の落ち込みなどの抑うつ症状と不安症状があります。例えば、次のような症状が現れます。・強い憂うつ感、涙もろさ、落ち込み、絶望感を感じ、思考力・集中力・判断力が低下する・感情がコントロールできない時があり、泣き叫ぶことがある・出来事や環境に対して神経質になり、漠然とした不安感を感じたり、心配になったりするなど■身体症状適応障害による身体症状には、以下のようなものがあります。・肩こり・頭痛・疲労感・不眠・激しい動悸、発汗・めまいなど■年齢や社会的役割に不相応な行動適応障害の人の中には、社会的に禁止されていることや、良しとされていないことをしてしまう人もいます。例えば、以下のような行為です。・万引き・行き過ぎた暴飲暴食・危険運転・友達や家族への暴力・無断欠席・公共施設への落書きなどこのような、年齢や社会的役割にふさわしくない行動がみられます。また、子どもが適応障害になった場合、指しゃぶりや赤ちゃん言葉といった「赤ちゃん返り」が見られることもあります。適応障害 | 豊中市 千里中央駅直結の心療内科「杉浦こころのクリニック」厚生労働省みんなのメンタルヘルス-適応障害-適応障害の原因適応障害の原因には、ストレス(外的要因)と個人の資質(内的要因)があると考えられています。外的要因であるストレスとはどのようなことでしょう。出典 : 私たちは日頃、さまざまなストレスに囲まれて生活しています。一般的にストレスとは、外部から刺激を受けたときに生じる緊張状態をいいます。例えば、結婚のように一般的に良いとされることであっても、その変化によりある種の緊張を私たちは感じます。こうした日々の緊張のとらえ方や、ストレスを受けた時の対応方法によって、ストレスは私たちに良い影響を与えることもあれば、悪い影響を与えることもあります。適応障害は、ストレスが私たちの心身に悪い影響をもたらした場合に発症します。そのストレス源が一つの出来事であるとは限らず、さまざまな状況が重なって原因を形成することがあります。また、大きな出来事からくる単発的なストレスだけでなく、長年にわたり続いていたり、反復したりするストレスもあります。では、例えばどんなことが私たちのストレスとなりうるのでしょうか。以下に代表的なものをご紹介していきます。・家庭での問題家族内における病気、介護、別居、子育て、子どもの反抗期、過干渉・過保護など・友達・恋人との関係上の問題浮気の発覚、離別、喧嘩、絶交など・学校、職場、近所関係上の問題いじめ、パワハラ、セクハラ、不信など・心理社会的問題家族や友人などの親しい人との死別、一人暮らし、異文化を受け入れる(留学など)、転校、仕事上の問題(失業・復業、勤務条件、業務量が過度に多い、決定権のなさ、業務の目的が不明)など・大きな節目や行事結婚、妊娠・出産、就職、昇進、卒業、子どもの独立、クリスマスなどの行事など・本人の健康の問題病気、リハビリ、禁酒、禁煙、重病の疑いなど・環境的な問題引っ越し、経済状況、天災や戦争に遭遇など出典 : 人生において上記のようなストレスに遭遇することはよくあることでしょう。ストレスに遭遇した時、重く受け止めるか、さらっと受け流すか、心がそのストレスをどのようにとらえるかは本人の気質によっても変わります。また、ストレスを感じた時に、そのストレスにどのように対応、対処していくかも人それぞれです。ストレスの捉え方・受け止め方である気質と、ストレスへの対応・対処法の2つを合わせて、本人の資質であると言えます。適応障害の発症を左右する原因の一つにその資質が関係しています。では具体的にどんなことがあるでしょうか。・感情の揺れ幅が大きい喜怒哀楽の表わし方、処理の仕方が分からず、感情の起伏が激しいなどです。・傷つきやすい周囲に言われた些細なことを気にしすぎて傷つきやすい気質です。プライドが高すぎる場合も傷つきやすいと言われています。・自立神経のコントロールがうまくいかないストレスは自律神経を介して脳に影響します。もともと自律神経のバランスが乱れやすい人は適応障害になりやすいと言われています。・0か100かで判断してしまう別名、白黒思考や悉無律思考(しつむりつしこう)などといいます。物事を白か黒で判断し、グレーゾーンを認めない気質です。・頼みごとなどを断れない相手に悪印象を与えると思い、頼みごとなどを断れない人はストレスをため込みやすい傾向があります。・まじめだが頑固まじめにコツコツ仕事や勉強を進めるため、いい加減が許せずなかなか許容ができないという気質です。この他には、ストレス経験が不十分なために、ストレス耐性が弱かったり、ストレスへの対処能力が低かったりする場合も考えられます。適応障害はどのぐらいの期間続くの?出典 : 適応障害は、ストレスのもとである明確な出来事や状況の始まりから3ヶ月以内に気持ちの面または行動面の症状が出現します。しかしそのような出来事や状況が終わったり離れることができれば、6ヶ月以内に症状は治まると言われています。つまり、適応障害の期間は、ストレスの原因と状況次第であると言えます。その期間が6ヶ月未満の場合には急性、6ヶ月以上の場合には持続性と呼ばれます。・急性(6ヶ月未満)ストレスの原因が急に起こった場合はすぐ発症し、その原因がなくなれば比較的短い間(数ヶ月以上は続かない)で症状は消えます。・持続性(6ヶ月以上)ストレスの原因またはその結果として起こった出来事が長引く場合、障害も長期間存在し持続性の病型となります。日本精神神経学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』2014/医学書院/刊他の疾患との違い・関わりは?出典 : 先に説明したように、適応障害は、他の精神疾患の基準を満たしていない・すでに存在する精神疾患の単なる悪化でもないという条件に当てはまった場合に診断されます。以下で紹介する疾患の中には、適応障害とよく似た症状が見られる疾患もありますが、その疾患の診断基準を満たしている場合、適応障害ではなくその疾患の診断がつきます。うつ病とは、繰り返し気分が落ち込んだり、意欲がなくなることが特徴の精神疾患です。とくに適応障害の精神症状はうつ病の症状によく似ていると言われています。うつ病という診断を下すほど重症ではない場合、適応障害の診断がされます。しかし一度適応障害と診断されても、5年後には40%以上の人がうつ病などの診断名に変更されていることから、適応障害はより症状の重い疾患に至る前段階とも言えます。適応障害ではストレスの原因から離れると症状が改善することが多くみられますが、うつ病の場合ストレスの原因から離れても気分は晴れず、持続的に憂うつ気分は続き、何も楽しめなくなります。厚生労働省みんなのメンタルヘルス-適応障害-パーソナリティ障害とは、一般の人と比べて著しく偏った考え方や行動パターンのために家庭生活や社会生活、職業生活に支障をきたした状態を指します。パーソナリティ障害は、回避性パーソナリティ障害、境界性パーソナリティ障害、自己愛性パーソナリティ障害などをはじめ10のタイプに分類されるほど、人によってかなり違いが見られます。適応障害との鑑別に関しては、一般的に、適応障害発症以前から、どのような症状が見られていたかによって、パーソナリティー障害との区別や、合併の有無を判断します。例えば、感情が不安定であり些細なことでも大きく反応してしまう場合、急に怒ったり反社会的な行為が見られたりする場合などは、パーソナリティー障害との合併が考えられます。不安障害とは、状況や具体的なものに対して、過剰に不安、恐怖心を感じ、それによりさまざまな影響が身体と精神に現れ、社会生活を送ることに支障が出てしまう疾患です。症状も適応障害ととてもよく似ていて、憂うつな気分、不安感、意欲や集中力の低下、イライラ感などといった精神的な反応や、頭痛、動悸、汗が異常に出るなどの身体的な反応が現れます。適応障害との違いは、症状の持続する期間が一番わかりやすいかもしれません。急性適応障害の場合、6ヶ月未満であるのに対し、不安障害は6ヶ月以上症状が確認されることが診断基準の1つでもあります。ただ、6ヶ月以上症状が続いても持続性の適応障害であると判断されることもあるため、自分がどちらに当てはまるかわからない場合は専門家の判断に従いましょう。日本精神神経学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』2014/医学書院/刊発達障害とは、生まれつきの脳機能の発達のアンバランスさ・凸凹(でこぼこ)と、その人が過ごす環境や周囲の人との関わりのミスマッチから、社会生活に困難が発生する障害のことです。発達障害の特性から生きづらさを感じたり、生活を送る上で困難が生じたりすることがあります。そんな困り感からストレスを多く感じ、適応障害になることもあります。友達とのコミュニケーションがうまくとれなかったり、自分の居場所を見つけられず孤独感を感じたりといった、発達特性と周囲の環境との不適応経験が、本人にとっての強いストレスとなる場合があります。そのため、発達障害の二次障害として適応障害が発生することは考えられます。適応障害かもしれないと思ったら?出典 : もしかしたら適応障害かも?と思ったら、早めに専門家に相談することが重要です。どこに相談すればよいのかについて解説します。まずは、全国精神保健福祉センターや身近な精神科、心療内科へ行き相談しましょう。病院へ行くことに抵抗を感じる方は、電話での相談もおすすめです。相談できる時間帯は自治体によりますが、全国精神保健福祉センターには相談ダイヤルが設置されており、電話で相談できる環境が整っています。全国の精神保健福祉センター一覧l厚生労働省心療内科、精神科、プライマリーケアクリニックなどの総合的な診断ができる病院、メンタルクリニックなどを受診しましょう。適応障害は、頭痛や倦怠感、体の部分的な痛み、かぜの症状などの症状が表れるので、はじめは内科や整形外科に相談へ行くこともあるかもしれません。しかし、適応障害ゆえの身体症状である場合、内科や整形外科では数値的異常が認められず、問題ないといわれてしまうことがあります。内科や整形外科で問題ないといわれても症状が続き、またストレスの原因となることが思い当たる場合は、心療内科などを受診することをおすすめします。適応障害の治療方法出典 : 適応障害の治療は、ストレスの原因を突き止めることから始まります。ストレスの原因を取り除く、または解決することができれば、適応障害は6ヶ月以内に回復することがほとんどです。中には、ストレスの原因を特定できても、それを除去できないケースも存在します。たとえば、身近な人の死別や離婚などは、原因となるその出来事自体を無かったことにすることはできません。そのような場合は、本人のストレスに対する考え方、捉え方を変えていきます。精神療法により、ストレスの受けとめ方を変えていく一方で、薬物療法により現在現れている症状を軽減していきます。薬物療法は必ず行うわけではありません。カウンセリングなどを中心とした精神療法とともにストレスへの対処を中心に治療します。とくに、支持療法を中心に行うことが多いです。支持療法とは、医師が本人の話を聞いて、医師と信頼関係を築きながら、自尊心や自信、適応力を身につけていくことを目指す治療法です。その他にも補助的に認知療法や暴露療法、生活療法を取り入れる場合があります。薬物療法では、不安、抑うつ、気分、興奮、睡眠を安定させるために薬を使用します。ストレスによって起こるつらい精神症状を軽減することが目的の薬を、向精神薬といいます。主な向精神薬としては、抗不安薬、抗うつ薬、気分安定薬、抗精神病薬、睡眠薬の5つがあります。これらの薬は脳に直接作用するため、医師の指示通りに用法用量を守った正しい服用を心がけましょう。また体質によっては副作用が起こることもあるため、こまめに医師に相談しながら服用することをおすすめします。適応障害のある人のために、周囲の人はどう対応すべき?出典 : 適応障害のある人は、ストレスを自覚せずに考えすぎてしまうことがあります。ストレスでないと思い込み、頑張りすぎてしまうことがありまうす。周囲の人は、本人の相談や話を聞き、抱えている問題やストレスに気づいてあげましょう。適応障害は、それ自体が重い精神疾患ではありませんが、重症化するとうつ病や不安障害を発症します。そうならないために、休みを十分とり、本人が主体的にストレスに適応できるように環境を調整・支援することが大切です。「気持ちの問題だ」、「甘えではないか」、「元気を出して頑張れ」、「薬ばっかり飲んで」などの言動を避けましょう。適応障害は疾患です。本人がストレスに感じていることをしっかり考え言葉がけをしましょう。そのほかにも、過剰な同情、支援、配慮をすることは本人の主体性を奪い、社会的責任を回避させることとなり現実逃避を助長させることになります。注意しましょう。まとめ出典 : 適応障害とは、ストレスに適応できないためにさまざまな心身症状が現れ、日常生活をうまく送れなくなってしまう疾患です。よく健康状態と病気の中間と表現されますが、適応障害をそのまま放置しておくと重症化し、うつ病や不安障害、またパーソナリティー障害などといった精神疾患へと発展してしまうことも少なくありません。適応障害の原因であるストレスは普段だれもが感じるものです。だからと言って我慢したり、無理をせず早めに周囲の人たちや専門家に相談しましょう。
2017年07月04日「スマホへの依存度がどんどん高まっていくと、スマホを片時も手放せなくなります。現実的にやるべきことのほぼすべてを放置してしまう状態になり、社会生活・家族関係に支障をきたすようになりますので、“スマホ廃人”と表現しました。中高生にも増えていますが、私が取材したなかには、主婦たちの例も多かったのです。日中ひとりで過ごす時間の長い主婦だけに、スマホに依存しやすいのだと思います」 そう話すのはジャーナリストの石川結貴さん。石川さんはこの春に『スマホ廃人』(文春新書)という著書を出版している。スマホに依存するあまり、夫や子どもたちからも愛想をつかされて……。そんな状態の主婦が増えているという。石川さんが取材した“スマホ廃人”主婦たちの驚きの肉声とは−−。 「スマホを通じて関係しているせいか、浮気をしているなんて実感はないです」と、語る関東地方に住む山本恵子さん(30代・仮名)は、SNSを通じて、ある男性と知り合ったという。意気投合していくうちに、《キミと顔を見て話がしたい》と言われ、ライブチャット(インターネットを通して、互いの映像を見ながら行うコミュニケーション)をするようになった。 「昼間は、家に夫も子どももいませんからね。相手から《服を脱ごうか》なんて言われ、私もその気になってしまいました」(山本さん) スマホを片手にお互い裸になり、行為は日々エスカレートしているそう。だが、あくまでもスマホでの交流であり、現実の肉体関係はないためか、山本さんに良心の呵責はないようだ。 石川さんによれば、山本さん以外にも、昔の恋人SNSで再会し、ライブチャットなどを利用し、“深い関係”を続けている主婦たちがいるという。石川さんが、「相手に動画も保存されているんじゃないですか?」と聞くと、みんな「そうかも……」と一瞬顔を曇らせる。しかし彼女たちが浮気相手との関係を断つことはない。 「別れた後に、裸になっている動画がネット上に流出する危険性があります。彼女たちは、そんなリスクを知りながらも、“スマホ浮気”をやめられないのです」(石川さん) 成城墨岡クリニック院長の墨岡孝先生は、早くからネット依存の問題に取り組み、「スマホ依存も急速に増えている」と話す。クリニックを訪れる主婦も増えているという。自覚して来院するケースもあるが、「家族に目もくれない状態なので、子どもが放置されることが心配で……」と、夫が相談に来るケースもあるそう。 「アルコールやギャンブルなどと同じで、手元にスマホがなくなると禁断症状が出るケースも。対処法も含めて、家族で取り組むことが大切です」(墨岡先生) それにしても、なぜスマホ廃人が増えているのか?墨岡先生はこう分析する。 「来院する方の多くが『バーチャル世界のほうが楽しい』と言います。日常生活では得られない称賛を受けたり、自分が多くの人に影響を及ぼす存在になれたりする世界に惹かれるのでしょう」(墨岡先生) また廃人化を防ぐために、石川さんはこんな提案を。 「ベッドには持ち込まないとか、外出から戻ってきたら、1時間は玄関に置くなど、スマホから離れる時間を作ることも大切です。不安を感じている人は、1日に何時間使用したかを1カ月だけでも記録してみましょう」(石川さん) 自分の利用状況を客観的に見ることで、「使いすぎ」に気づき、それが抑制効果を生むという。確かにスマホは便利なものだが、自分が依存しすぎていないか、常にチェックが必要なのだ−−。
2017年06月14日心身症とは?定義をご紹介します出典 : 心身症は特定の疾患を指す疾患名ではなく、身体疾患のなかでもこころの状態と身体の状態が相互に影響を及ぼしている状態を指す言葉です。例えば、胃潰瘍(いかいよう)とは胃の粘膜がただれて深く傷ついてしまう疾患です。この発症には様々な要因がありますが、仕事がつらい、プレッシャーがあるといった過剰なストレスを受けたことが要因となって関わる場合があります。このような時に心身症であると言えるのです。胃潰瘍であっても心理的な影響がない場合は心身症とはいいません。また、あくまでも心身症は心理的な要因が関わる身体疾患であり、精神疾患ではありません。参考:日本心身医学会用語委員会/編 『心身医学用語事典第2版』2009年 三輪書店/刊参考:筒井末春ら/著『心身医学 (心身健康科学シリーズ)』2008年人間総合科学大学/刊日本心身医学会の定義による心身症の定義は以下のとおりです。「心身症とは身体疾患の中で,その発症や経過に心理社会的な因子が密接に関与し,器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし神経症やうつ病など,他の精神障害に伴う身体症状は除外する」(引用:日本心身医学会用語委員会/編 『心身医学』1991年10月第31巻 第7号 日本心身医学会 /刊)心身症の種類・分類・症状出典 : 心身症には現実心身症と性格心身症という2つの種類があります。◇現実心身症現実の生活における強いストレス環境に影響されるものです。この場合は大方、環境を改善すれば身体の症状も改善されることが多いとされています。◇性格心身症本人のストレスの受け止め方やストレス対処の仕方に問題があるものです。この場合、身体面からの薬物療法だけでなく、認知行動療法などの心理療法により本人の思考パターンや行動パターンの偏りの改善が必要になることもあります。参考:心身症|Kumano’s Information Base HP参考文献: 筒井末春/著 『心身医学的ケアとその実践』 1989年南山堂/刊心身症の症状は胃潰瘍なら上腹部の痛みや吐き気、片頭痛なら激しい頭痛といったように、疾患ごと、そして患者ごとにそれぞれ異なる症状を持ちます。症状が現れる身体の部分ごとに、以下のように分類されます。心身医学的配慮が必要な代表的疾患◇呼吸器系気管支喘息、過換気症候群など◇循環器系本態性高血圧症、本態性低血圧症、起立性低血圧症、冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)など◇消化器系過敏性腸症候群、胃・十二指腸潰瘍、機能性胆道障害、潰瘍性大腸炎など◇内分泌・代謝系糖尿病、甲状腺機能亢進(こうしん)症、神経性食欲不振症、神経性過食症など◇神経・筋肉系筋緊張性頭痛、片頭痛、慢性疼痛(とうつう)性障害、チック、痙性斜頸(けいせいしゃけい)、筋痛症、吃音など◇皮膚科領域アトピー性皮膚炎、慢性蕁麻疹、円形脱毛症、皮膚瘙痒(そうよう)症など◇外科領域頻回手術症、腹部手術後愁訴(いわゆる腸管癒着症、ダンピング症候群ほか)など◇整形外科領域関節リウマチ、腰痛症、多発関節痛など◇泌尿・生殖器領域過敏性膀胱(神経性頻尿)、夜尿症、インポテンス、遺尿症など◇産婦人科領域更年期障害、月経前症候群、続発性無月経、月経痛、不妊症など◇耳鼻咽頭科領域メニエール症候群、アレルギー性鼻炎、嗄声(させい)、失語、慢性副鼻腔炎、心因性難聴、咽喉頭部(いんこうとうぶ)異常感など◇眼科領域視野狭窄(しやきょうさく)、視力低下、眼瞼痙攣、眼瞼下垂など◇歯科・口腔外科領域口内炎(アフタ性)、顎関節症など心身症は、一般的にライフステージごとに現れる症状の性質が異なるとされています。小児期の心身症の傾向としては、特定の器官に限定されず全身に症状がでるとされています。思春期、青年期には、偏頭痛や過敏性腸症候群などの身体の機能の障害が、成人期、初老期、老年期になるにつれて消化性潰瘍などに代表される身体の臓器(構造)の障害としての心身症になりやすい傾向があります。子どもがかかりやすい心身症については以下のページで詳しく解説されています。参考:小児の心身症-各論|小児心身医学会HP心身症になりやすい方の特徴出典 : 心身症になりやすい方には特徴があると言われています。性格面では、生真面目、頑張り屋、人からの頼まれごとを断れない、自己犠牲的、模範的な方がなりやすいです。また、空腹感・疲労感などの身体の感覚への気付きが鈍かったり、自分の内的な感情への気づきや、それを言葉で表現することが難しい方も心身症にかかりやすいとされています。ただし、これはあくまで傾向であり、全ての心身症にかかる方がこのような傾向があるわけではありません。参考文献:日本心身医学会用語委員会/編 『心身医学』1991年10月第31巻 第7号 日本心身医学会 /刊心身症の原因はストレスなの?出典 : 心身症は、強い心理的ストレスが過剰に、長期間持続することが原因になりやすいです。長期にわたり同じストレスが繰り返されることで、身体の弱いところに症状が現れてしまうとされています。ストレスには家庭や職場、学校における人間関係だけでなく、妊娠、出産、災害、親族の死などがありますが、個人により何にどの程度ストレスを感じるかは大きく異なります。参考文献: 筒井末春/著 『心身医学的ケアとその実践』 1989年南山堂/刊参考文献: 小牧元ら/編 『心身症診断・治療ガイドライン〈2006〉2006年協和企画/刊心身症と似ている病気は?仮面うつ病、自律神経失調症との違い出典 : ここでは、心身症と類似する代表的な病気である仮面うつ病と自律神経失調症を紹介いたします。似ている病気と間違えると、適切な治療方法が受けられず、症状が長引いてしまう場合もあるので注意が必要です。仮面うつ病とは、「他の症状という仮面によって、うつ病本来の症状が見えにくくなっている」うつ病のことで、患者本人が身体的な症状を強く訴えているが、実は抑うつ症状が隠れているタイプのことです。心身症と非常に類似している概念ではありますが、仮面うつ病の中心的な治療は薬物療法としても抗うつ薬の使用が中心であるのに対し、心身症は身体とこころの両面からの治療が重視されます。症状の相違点としては、仮面うつ病は倦怠感や食欲不振、頭痛や肩こりなどの多種多様な症状が全身にみられるのに対し、心身症は胃潰瘍にみられるように身体のある箇所に症状が限定されることが挙げられます。自律神経失調症とは、検査しても明らかな異常がみられないのに、肩こりやめまい、不安感等の様々な不快な症状が現れる状態のことです。心理的な問題やストレスが原因である点は自律神経失調症と類似していますが、実際に身体の臓器もしくはその機能に明らかな異常がみられる点において自律神経失調症とは異なります。詳しくは以下の記事を御覧ください。参考文献: 筒井末春,中野弘一/著 『心身医学入門』 1989年 南山堂/刊心身症の診断はどのように行われるの?出典 : 心身症の診断は、いままで罹った病気や現在の症状、検査の結果に基づく身体面からの資料と面接や心理テストなどの心理・社会面からの資料を総合して病気の様子全体を把握します。重大な身体の病気を見逃さないために、まずは十分な身体面の検査が行われます。どのような身体の病気なのか把握したあとは、その症状にこころと身体の相互影響があるかを確かめ、治療の目的や方針が設定されます。こころと身体の相互影響を確かめるため、面接に加え心身両面の全般的健康状態を把握することを目的として行われるCMI(コーネル・メディカル・インデックス)検査、パーソナリティの特性やタイプを把握することを目的とした矢田部・ギルフォード性格検査(Y-G性格検査)などの心理・社会面の検査が行われることがあります。また、心理的ストレスに由来する身体生理反応を調べるために心電図、脳波、マイクロバイブレーションなどの検査が行われることもあります。参考文献:日本心身医学会用語委員会/編 『心身医学』1991年10月第31巻 第7号 日本心身医学会 /刊)参考文献:小牧 元ら/編 『心身症診断・治療ガイドライン〈2006〉 』2006年 協和企画/刊)参考文献: 筒井末春/著 『心身医学的ケアとその実践』 1989年南山堂/刊心身症に心当たりがあるときの診療科は?出典 : 心身症を対象としている診療科は心療内科です。とはいえ、心療内科と標榜していても実際は心身症ではなく精神疾患を専門としている場合もあるので、もし通いたい心療内科がある場合は、事前に電話して、自分が抱える悩みが対象かどうか調べることをおすすめいたします。心身症の治療出典 : 身体の症状に合わせた治療とともに、薬物療法や各種心理療法などを組み合わせて行われます。治療の期間は一般的には2~3ヶ月から半年、長い場合には1~2年くらいかかるとされています。参考:日本心身医学会用語委員会/編 『心身医学』1991年10月第31巻 第7号 日本心身医学会 /刊胃潰瘍や喘息などの本人が抱えている症状にあわせて、一般内科や各診療科で行われるような身体面からの治療が行われます。食生活や運動、睡眠などにおける生活習慣の歪みも、症状と密接に関連します。生活療法では、規則正しい生活に正すために諸々の生活習慣や症状の経過などの記録を参考にしながら指導がおこなわれます。薬物療法には、身体症状に対応する薬を用いた治療と、抗不安薬や抗うつ薬、睡眠薬などの向精神薬、漢方を用いた治療などがあります。心身症を対象とする心身医学的治療法にはさまざまな理論・アプローチがあります。身体からこころに働きかける自律訓練法やバイオフィードバックなどの行動療法、交流分析などが代表的です。その他にも音楽療法や森田療法などが行われることもあります。まとめ出典 : 心身症がある方は、胃の痛みや頭痛などの身体症状が前面に出ていることがほとんどのため、心理的アプローチを受けることに抵抗がある方もいらっしゃるのではないでしょうか?心理的アプローチの必要性があるのに放っておくと症状が長引いてしまう可能性もあります。まずは医師に相談してみましょう。参考文献: 矢吹弘子/著筒井末春/監 『心身症臨床のまなざし』 2004年 新興医学出版社/刊参考文献:石津 宏/編『精神科領域からみた心身症 (専門医のための精神科臨床リュミエール)』2011年中山書店/刊
2017年05月31日角質は表皮の表面に位置し、外部からの刺激から身体を守り、身体の水分を保持する重要な働きをもつ組織です。この角質が硬くなるとどのような症状が起きてしまうのか、日常のケア方法とあわせて見てみましょう。角質が硬くなる原因とは角質は、角化細胞がブロックのように並んだ構造をしており、その間を細胞間脂質が埋めています。細胞間脂質は、肌に水分を保持するために重要な働きをしており、細胞間脂質が低下すると角質でキープしている水分量が不足することで乾燥し、硬くなってしまいます。細胞間脂質の低下は肌の病変や乾燥が原因であることが多く、皮脂分泌の低下によるバリア機能の低下も乾燥の原因となります。また、角化細胞からできた角質が生まれ変わり、はがれ落ちるサイクルをターンオーバーと呼びます。このターンオーバーが正常に働いていないと角質がはがれずに残ってしまい、角質層が厚くなります。これも角質を硬くする原因であり、硬く厚くなった角質は、乾燥とターンオーバーの不調の両方が起こっている状態といえます。これに加えて、足の裏などは歩行のたびに体重がかかり大きな刺激を受け続ける場所であることから、素足でサンダルを履くクッション性の低い履物で歩くと刺激が過剰となり、皮膚の内部を保護する反応があらわれます。これによって角質が徐々に厚くなり、ゴワゴワの角質になってしまうこともあります。角質ケアをしないと起こりやすい症状硬く厚くなった角質をケアせずに放置すると、以下のような症状があらわれます。皮膚のひび割れかかとなど、特に角質の層が厚い部分が乾燥すると、表面の皮膚がひび割れることがあります。角質でとどまらず真皮に達した場合は出血をともない痛みも出ます。ひび割れの場所や痛みによっては歩行に支障が出る場合もあります。細菌への感染皮膚のひび割れが起こる状態とは、古い角質が蓄積されて厚みが出ている状態です。古い角質が溜まっていると白癬菌などの細菌の温床になることがあり、においやかゆみなどを発する場合もあります。白癬菌は水虫のもとともなりますので十分注意するべきでしょう。タコや魚の目の発生足の裏への刺激によって特定部分の角質が厚く硬くなってしまうことがあり、これがタコと呼ばれています。また、厚く硬くなった角質層に集中的に力が加わることで、硬くなった角質層が皮膚の内部に向かって突起していくこともあり、これが魚の目の症状となります。魚の目は、硬く芯のある突起が真皮を刺激して痛みを感じることもあり非常につらい症状となります。角質のケア方法体の部分によって、適切なケア方法があります。顔のケアは過剰にならないように顔は皮膚がやわらかいため、やさしいケアが求められます。ピーリングジェルスクラブ洗顔パックなどがあり、使いやすいものを使用するとよいでしょう。これらは古い角質を除去するために使用しますが、ピーリングジェルやスクラブ洗顔などを使用して強くこすったりすると過剰な肌への刺激になってしまいます。肌のうえで滑らせるようにマッサージを行いながら使用すると効果的です。また、ケア後は念入りな保湿を行い、角質の減少による乾燥を防ぎましょう。角質のケアを頻繁に行うと肌への刺激となり、黒ずみなどが起こる可能性もあります。角質のケアは、1か月に1回程度に留めるほうが無難です。ターンオーバーの周期も考慮して過剰なケアになりすぎないよう注意しましょう。体のケアは角質をやわらかくしてからかかとの他にもひじ、ひざは角質が溜まりがちです。ひじやひざのケアまず、角質をやわらかくふやかすために、コットンに化粧水を染みこませたものを貼り付け、5分放置します。コットンを剥がしてスクラブを使ってマッサージするように角質を落とし、よく洗い流しましょう。ケア後は乾燥を防ぐため、ジェルやクリームを使って十分に保湿しましょう。かかとのケア入浴やフットバスなどで足を暖めて角質をふやかせてやわらかくし、足裏専用のやすりを使用します。荒れがひどければ粗い面を、それ以外であれば細かい面を使用しましょう。力は入れずに一定方向に動かしながら、角質を少しずつ除いていきます。角質が取れてきたら細かい面で全体を整えて仕上げ、ケア後には、化粧水とハンドクリームでしっかりと保湿をします。可能であればラップでかかとを覆って靴下を履き、一晩そのままにすることで保湿が行き渡り、効果的となります。クリニックやサロンでのケアセルフケアも可能ですが、サロンなどでケアを受けることも可能です。化粧水や保湿が肌に届きやすくなる効果や、ターンオーバーの改善が期待されます。フットケアやピーリングを行っているところもありますので、利用してみるのもよいでしょう。角質ケアの注意点ケアするうえで共通して注意すべきことは、角質を取りすぎないことです。角質は、体を守る重要な役割を果たしているため、角質をはがしすぎることは肌へのダメージを増やしてしまうことを意味します。特に、かかとのケアの際、軽石やあかすりなどでこすると力の加減が難しく、過剰な角質除去となる場合もあります。安価なものでも専用のやすりを使用し、余分なものだけを取るという意識で、保湿を十分に心がけましょう。また、定期的なケアも重要ですが、日常生活でも以下のようなことに意識することが重要です。靴や中敷の選択に留意し足裏への刺激を抑える歩き方をバランスよくして、特定部への刺激を集中させない足元を温めて乾燥を防ぎ、角質が厚く硬くなってしまうことを予防する監修:スキンケア大学参画ドクター
2017年05月04日生まれたばかりの赤ちゃんの肌はとにかくデリケートです。いつも清潔に保ってあげていないとちょっとした汚れや刺激で肌のトラブルを起こしてしまうと考えられています。乳児脂漏性湿疹も多くの赤ちゃんが発症する肌トラブルの一つですが、もし症状が出てもしっかりとした対処法を知っておけば慌てる必要はありません。症状や原因とあわせて見ていきましょう。乳児脂漏性湿疹の症状赤ちゃんが発症する湿疹のことを総じて「乳児湿疹」と呼びますが、脂漏性湿疹は発症する赤ちゃんが多いといわれています。特徴としては体ではなく首から上にできます。頭部や眉毛が黄色いかさぶたで覆われる、おでこ、頬などにフケのようなものができる、赤い湿疹ができて、かゆみはあまりないというのが主な症状です。乳児脂漏性湿疹の原因とは新生児、乳児期(生後1か月〜2歳)までの赤ちゃんは、お母さんの体内ホルモンに影響され、生理的に脂を分泌する働きが高くなっています。そのため、頭、眉、耳など顔を中心に赤い湿疹や黄褐色のかさぶたができることがあります。これは乳児脂漏性湿疹と呼ばれています。原因は赤ちゃんの皮膚の洗い方が十分でないときなど、清潔に保てていない場合が多いといわれています。乳児脂漏性湿疹のピーク乳児脂漏性湿疹は主に生後から2歳くらいまでの乳児特有の湿疹ですが、一番発症しやすい時期は生後3か月くらいまでとされています。これは個人差がありますが、生後3か月くらいまでは胎児副腎由来のデヒドロエピアンドロステロンの血中の濃度が高く皮脂分泌が活発になります(生後2〜3か月で低下)。このため脂漏性湿疹になる赤ちゃんが多いといわれています。乳児の肌は非常に薄く敏感なため、環境・体質だけでなく、食べこぼしや汗、ちょっとした汚れが原因で赤くカサカサになってしまったり、かゆみ・痛みをともなった腫れを引き起こしたりすることがあります。症状が続く場合は乳児脂漏性湿疹ではなく、アトピー性皮膚炎の可能性もありますが、乳児湿疹の症状が出ている間はアレルギー性かの判断ができないため、1〜2歳くらいまでは経過観察する必要があります。乳児脂漏性湿疹の受診のタイミング赤ちゃんの皮膚に異常が見られたからといって、どの程度なら医療機関で受診するべきなのか悩むお母さんも少なくありません。乳児脂漏性湿疹は完治までに個人差があるため、まずは患部を清潔に保つことを心がけましょう。湿疹ができてから、正しい方法で洗ってあげて保湿などをしてあげれば2週間程度で一度よくなり、3〜4週間もあれば完治することが多いとされています。それでも治りが遅い、どんどん症状が悪化するという場合には、小児科や皮膚科に行って医師の診断を受けることをおすすめします。乳児脂漏性湿疹の治療症状が重く医師に相談する場合は、処方された保湿剤やプロペト(ワセリン)でしっかりと保湿してあげることが大切です。乾燥している肌がしっとりするくらいが保湿の目安となります。赤ちゃんは乾燥によってかゆみを覚えることもあるため、乾燥している部位をみつけてしっかりと保湿してあげましょう。特にお風呂上りは乾燥しやすいためしっかりとこまめに保湿を心がけましょう。ステロイド系の塗り薬と併用する場合は、まず保湿剤で肌をしっとりと潤してから、ステロイドを必要な箇所に必要な量だけ塗ってあげます。先にステロイド剤を塗ってしまうと、保湿剤を塗るときにステロイドを塗り広げてしまい、肌への負担が余計にかかってしまうためです。湿疹は皮膚のバリア機能が低下している状態で、そこに食物タンパク質、ダニ・花粉が侵入することで免疫反応(アレルギー反応)が起こるリスクがあります。そのため、乳児脂漏性湿疹は早くスキンケアをして治すことで皮膚のバリア機能を強化してさまざまなアレルゲンから皮膚を守ることが大切です。「皮膚の状態を正常に保つことが将来のアレルギーにかかわる」ということもできます。乳児脂漏性湿疹の対処法乳児脂漏性湿疹は皮脂の分泌を抑制したりするような方法が取れないため、分泌された皮脂を溜めないでなるべく清潔な皮膚環境を保つことが最善のケア方法と言えます。毎日お風呂に入れてあげて、しっかりと皮脂、かさぶたの脂を落としてあげることが大切です。さきほど述べたとおり、乳児の肌は非常にデリケートなので、ごしごし洗うのはNGです。ベビーソープやベビーシャンプーをたっぷり使って円を描きながらマッサージするようにやさしく洗ってあげます。頭皮や眉毛の部分で頑固な皮脂がついている場合、入浴する前にベビーオイルやオリーブオイル、ワセリンなどをつけてあげることで取れやすくなります。赤ちゃんが自分で患部を掻き壊さないように、赤ちゃんの爪も短く丸い状態に切ってあげることも重要です。監修:コッツフォード 良枝
2017年05月01日唇や口の周辺がウイルスに感染することで起こるとされる「口唇ヘルペス」は、一度感染して免疫を持っていたとしても再感染や再発の可能性があるといわれています。ここでは、口唇ヘルペスの基礎知識について詳しくご紹介します。口唇ヘルペスとは「口唇ヘルペス」は、単純ヘルペスウイルスというウイルスに感染することによって、口周辺や唇に小さな水ぶくれができてしまう病気といわれています。単純ヘルペスウイルスは、唇をはじめとする顔面などの上半身に発症しやすい1型と性器などの下半身に発症しやすい2型の2種類があるといわれています。いずれも非常に感染力が強いといわれており、直接的な接触だけでなく、物を介しても感染する可能性があります。最近は抗体を持たない人が増えている以前は、子供の間に家族から感染して抗体を持っていたといわれています。しかし、核家族化などのライフスタイルの変化や衛生状態の改善により、現在は20歳代〜30歳代のうち半数程度しか抗体を持っていないといわれるほどです。初めての感染が子供のうちであれば、ほとんど症状がなく、症状があらわれたとしても軽症で済むことがほとんどといわれています。また、1型の抗体をもっていれば2型の感染率が低くなるといわれ、発症したとしても症状が軽いとされています。年齢が高くなるほど抗体を持っているといわれていますが、最近は大人になってから初めて感染するといるケースがあります。この場合、まれに重症化してしまうケースもあるため、子供のうちに感染していない場合は、感染しないように注意した方がよいでしょう。口唇ヘルペスの症状ウイルスに感染して起こる症状は、皮膚症状がほとんどといわれており、2週間ほどで症状が治癒するといわれています。経過によってあらわれる症状にも特徴があるとされています。前駆症状口唇ヘルペスは、水ぶくれなどの視覚的な症状があらわれる前にその兆しがみられるといわれてます。具体的には、ピリピリ、ムズムズ、チクチクといった感覚や熱感、かゆみなどとされています。皮膚症状症状があらわれ始めた直後と数日経過したときで、皮膚症状が少し異なるといわれています。・初めにあらわれる症状前駆症状を自覚して半日くらいすると、唇やその周辺の一部の皮膚が赤みを帯び、腫れてくるといわれています。患部でウイルスが増殖をしている時期と考えられており、このタイミングで治療を始めるのがよいとされています。・2〜3日経過後にあらわれる症状赤くはれた後、その上に水ぶくれの症状があらわれはじめるといわれており、軽いほてりや痛み、かゆみなどの症状をともなうことがあります。初感染の場合は5mm大の水ぶくれができやすく、場合によっては発熱するケースもあります。水ぶくれは、再発を重ねるほど小さくなるとされていますが、やぶれた水ぶくれに触れることで感染してしまう可能性があるため、注意しましょう。回復期水ぶくれは、やがてかさぶたとなって徐々に回復し、10日〜2週間ほどで症状がなくなることが多いといわれています。口唇ヘルペスの感染経路単純ヘルペスウイルスは、患者との接触など直接的な接触が主な原因といわれています。ただ、感染力が強いウイルスのため、患者が触れたタオルやグラスなどの食器といった物を介しても感染する可能性があるといわれています。口唇ヘルペスの予防口唇ヘルペスの予防は、発症させないための予防と発症後の予防の2つに分けることができます。発症させないための予防方法日常生活で受ける精神的なストレスや肉体的なストレスが体力や抵抗力を衰えさせるといわれています。すると、口唇ヘルペスを再発させる可能性が高まるとされています。また、疲労しきっているときや体調不良の際に紫外線を浴びることで、全身の免疫力を低下させてしまうことがあるといわれています。口唇ヘルペスを再び発症させないためにも、バランスのよい食事や十分な休息を心がけて身体の健康をキープするだけでなく、ストレスをうまく発散して精神的な健康の維持にも努めましょう。発症後の予防方法発症後は、感染の拡大を防ぐための予防が重要といわれています。・自分自身に対する予防患部に直接触れたり、水ぶくれを故意的に破ったりすると感染が拡大する可能性があります。また、場合によっては細菌感染が加わって、痕が残ってしまうことにもつながるといわれています。気になっても、患部に触れないことが大切です。触れてしまった場合は、しっかりと手を洗うようにしましょう。・接触に対する予防口唇ヘルペスを起こす単純ヘルペスウイルスは、物を介して感染する可能性があるため、症状が出ている間は家族をはじめとする身近な人と接触する際に注意を払う必要があるとされています。特に、母親が感染しておらず抗体を持っていない新生児が、免疫機能の発達が未熟なために重症化する可能性があります。白血病や悪性腫瘍、アトピー性皮膚炎などの病気を患っている人も感染しやすいだけでなく、重症化する可能性が高いといわれています。また、口唇ヘルペスの抗体を持たないパートナーとのキスも控えたほうがよいでしょう。口唇ヘルペスの治療法治療薬は、抗ヘルペスウイルス薬を使用するケースが一般的で、軽症であれば外用薬を1日数回患部に塗るよう指示されることが多いといわれています。しかし、中等症以上の場合や再発をくり返している人、重症化しやすいと判断される人の場合は、内服薬を用いて治療を行うケースが多いとされています。いずれも薬もウイルスの増殖を抑える働きがあるため、症状があらわれはじめた早い段階で治療にとりかかることで、症状が出現しないか出ても軽症で済むといわれています。重症化してしまった場合や内服薬を服用しても症状の改善が見られない場合、内服薬の変更や点滴注射を行うこともあります。ひどい場合は、入院治療となるケースもあるため、前駆症状を自覚した時点で医療機関を受診するようにしましょう。監修:コッツフォード 良枝
2017年05月01日足のむくみは、長時間の立ち仕事などの後にだけあらわれるわけではありません。足のむくみが初期症状としてあらわれる下肢静脈瘤について、くわしく解説します。むくみとはむくみは、医学的には浮腫(ふしゅ)と呼ばれます。身体の皮膚の下にある細胞と細胞の間に通常よりも多くの水分がある状態を意味します。人間の身体は、心臓がポンプの役割をし、きれいな水分と身体に必要な栄養分など動脈を通して、身体のすみずみの細胞まで届けます。そして、細胞でいらなくなった水分や老廃物などは、静脈やリンパ管を通して心臓まで戻ります。しかし、なんらかの原因でこの流れが滞ってしまうと、水分や老廃物の排出も滞ることとなり、むくみへと繋がるのです。むくみは長時間にわたる立ち仕事やデスクワーク、アルコールや塩分の過剰摂取など、生活習慣から引き起こされる場合が多々あります。そのため、むくみが起きても放置してしまいがちですが、むくみを引き起こすのは生活習慣だけではありません。病気が原因でむくみがあらわれる場合も多くあるため、気になるときは、迷わず、専門の医師に相談するのがおすすめです。下肢静脈瘤とは下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)は、静脈を通って心臓に戻るはずの血液の流れが滞ってしまったり、逆流したりしてしまうことで、静脈の壁が膨らみ、足にまるで瘤ができたようにみえる病気です。この下肢静脈瘤は遥か昔、人間が二足歩行するようになった紀元前からあるといわれている病気です。命に支障はない病気といわれていますが、足にいくつも血管のふくらみができるのは、見た目も美しいものではなく、また、進行すると湿疹などがあらわれたり、皮膚が硬くなったり、かゆくなったりします。さらに悪化すると、皮膚が黒ずんだり、皮膚に潰瘍(かいよう)が生じ重症化する場合もあります。下肢静脈瘤は、放置しておいても自然に治ることがない病気ですので、専門の医師による適切な治療が必要になります。下肢静脈瘤によるむくみの症状下肢の静脈の流れが滞るようになると、足のむくみのほか、だるさや重さ、つかれなどの症状を感じるようになります。ほかにも、痛みやつっぱり感なども感じ、足がつったり、こむら返りもおこったりするようになります。多くの場合、それらの症状を単なる一時的な疲れによるものだと思いがちです。しかし、これらの症状を長期に渡って放置しておくと、それはやがて下肢静脈瘤になってしまいます。むくみが起きると静脈に炎症を引き起こしやすくなります。その炎症が慢性化してしまうと、静脈にある血液を心臓に戻すために必要な弁の機能が低下してしまいます。するとさらに症状が悪化してしまい、症状が重くなるほど、完治するのが難しくなるため、早期の治療が非常に大切になります。下肢静脈瘤になりやすい人とは以下の条件に当てはまる場合は、下肢静脈瘤になりやすいといわれています。・教師や美容師、調理師など長時間にわたる立ち仕事をしている。・ある程度、年齢を重ねている。・肥満、もしくは体重が増えた。・昔はよく運動していたが、最近は運動不足である。・親兄弟、祖父母にも同じような症状があらわれている。・妊娠、または、出産を経験している。・女性である。・高血圧である。・糖尿病を患っている。これらの条件に当てはまるからといって、必ずしも下肢静脈瘤になるわけではありません。しかし、下肢静脈瘤になりやすいということを念頭において、日々の生活のなかで改善できる部分は積極的に改善し、予防に努める事も大切です。下肢静脈瘤の治療下肢静脈瘤にはさまざまな治療法があり、どの治療法を行うかは専門の医師の判断によります。●圧迫療法足に適度な圧力をかける弾性ストッキングを履いて、余分な血液がすでにできてしまっている静脈瘤の中で留まらないようにする治療法です。誰でも気軽に使用でき、症状の進行防止と緩和する効果が期待できます。●硬化療法静脈瘤のなかに硬化剤を注入することで、静脈の内膜に炎症を起こさせる治療法です。炎症を起こした後、皮膚の上から圧迫することで瘤になっている静脈を閉じることができます。傷跡が残らない治療法といわれていますが、硬化剤の注入部に色素沈着する可能性や、しこりが残る場合があります。また、20〜30%の再発があるといわれています。●レーザー治療血管内に細いファイバーを入れて、血管の内側からレーザー光を照射して、その熱で静脈を塞ぐ治療法です。傷跡がほとんど残らないため目立たないといわれています。また出血も少なく、身体への負担が小さいうえ、大きな静脈でも、高い治療効果が期待できるといわれています。●IPL治療肌に特殊な光をあてて、血管の拡張を改善する治療法です。最小限のダメージで行うことができる治療法だといわれています。痛みが少なく傷ができない治療法ですが、3〜5回の治療が必要とされています。軽症の静脈瘤への効果が期待できます。●ストリッピング手術ひざの裏や足の付け根などを2cmほど切開して、弁不全を起こしてしまっている静脈を取り除く手術による治療法です。再発率が低いといわれている治療法ですが、まれに皮下出血などの後遺症や、治療した周辺の知覚神経に障害を起こす場合があるといわれています。●高周波アブレーションカテーテル治療高周波をだすカテーテルを血管内に挿入し、その熱によって、静脈の壁を収縮し閉じる治療法です。アメリカやヨーロッパでは下肢静脈瘤のメインの治療法といわれています。傷跡がほとんど残らないため目立たないうえ、出血も少なく、身体への負担も小さいといわれています。また、静脈の壁を高周波によって均一に焼くこと、合併症ができるため合併症を起こしにくいといわれています。しかし、大きな静脈ではその効果を十分に発揮できない場合もあります。下肢静脈瘤の予防法下肢静脈瘤を防ぐには、日頃のこまめなケアが大切になります。●弾性ストッキング適切なサイズの弾性ストッキングを使用することで、血液が静脈内で留まるのを防ぎ、血行を促してくれます。弾性ストッキングは、下肢静脈瘤の予防だけでなく、悪化防止や、治療後のケアにも役立ちます。●アロマレッグケア血流を促してくれる作用が期待できるアロマオイルを使ってマッサージすることで、ふくらはぎの筋肉を柔らかくし、血行を改善する効果が期待できます。●適度な運動立ち仕事や座り仕事などで、長時間同じ姿勢を続けないように気をつけ、こまめに身体を動かすようにすることで、滞りがちな血流を促すことが期待できます。また、軽いウォーキングなど、適度な運動は足の筋力を高め、血管に負荷をかけてしまう肥満の防止にも効果が期待できるので、下肢静脈瘤の予防につながります。●栄養バランスのよい食生活脂質分のとりすぎや高血圧、肥満などは下肢静脈瘤の原因になりやすいため、栄養バランスのよい食生活を心がけることが大切です。監修:池内秀行
2017年04月30日口唇ヘルペスは、以前は子供のうちに初めて感染する人が多い病気とされていました。しかし、現在は家庭内における衛生面の改善により、抗体を持たずに大人になる人も多く、20代〜30代の約半数ほどしか抗体を持っていないといわれています。ここでは、口唇ヘルペスに感染することで起こる症状の特徴や再発の可能性について解説していきます。口唇ヘルペス(単純ヘルペスウイルス1型)とは唇やその周辺にできる水ぶくれが主症状といわれる口唇ヘルペスは、単純ヘルペスウイルスの1型が原因といわれています。このウイルスの感染経験がなく抗体を持たない人や、抗体を持っていても抵抗力が低下している場合は、感染しやすいといわれています。さらに、感染力が強いといわれており、ウイルスを持つ人との接触だけでなく、タオルや食器などの物を、感染者が使用したことによるウイルスの付着が原因で感染する可能性もあるのです。目に見える症状が出ているときは、患部でウイルスが増殖をくり返しているときと考えられており、ウイルスが大量に出ているといわれています。そのときの接触は特に控えるようにしましょう。もし感染すると、接触から3日〜7日後くらいに症状があらわれはじめるとされています。感染者と接触したらその期間は注意深く観察するとよいでしょう。口唇ヘルペスの症状とサイクル多くの場合、症状は4つの段階に分けることができるといわれています。重症なケースでなければ、2週間ほどで回復することが多いとされていますが、早いタイミングで治療を開始するほど治りが早い傾向にあるといわれています。(1)ピリピリ・チクチクする前兆がある水ぶくれの症状があらわれる前に、前駆症状があるといわれています。具体的には、ピリピリ、ムズムズ、チクチクといった皮膚の違和感や痛み、かゆみなどです。初感染の場合は気づかないこともありますが、再発をくり返すほど気づきやすくなるといわれています。(2)赤みや腫れがある前駆症状を感じたあと、半日程度で唇や口の周囲の一部分の皮膚で赤みを帯びた腫れがあらわれはじめるといわれています。患部ではウイルスの増殖が活発になっていると考えられているため、このタイミングに治療を始めることが理想とされています。(3)患部が水疱(水ぶくれ)になるウイルスの増殖が進むと、2〜3日後に赤みを帯びた腫れが水ぶくれに変化していきます。初感染では、水ぶくれが多発しやすく、その大きさも5mm大になるといわれています。体調によっては、発熱や耳の周囲にあるリンパ腺がはれる可能性もあります。ただ、一般的には再発をくり返すほど水ぶくれの大きさは限局し、小さくなっていくとされています。(4)水疱がかさぶたになり回復水ぶくれがしだいにかさぶたとなり、時間の経過とともに症状が治まっていくといわれています。10日〜2週間程度で治まるケースが多いですが、症状の程度や体調によって前後するとされています。水ぶくれの中には、たくさんのウイルスが存在しているとされているため、破れたところを触ると感染が拡大すると考えられています。気になっても触れないようにし、触れてしまった場合はせっけんなどを使用して洗い流すようにしましょう。口唇ヘルペスを再発させない治療方法口唇ヘルペスを引き起こすとされる単純ヘルペスウイルスは、「潜伏感染」タイプのウイルスといわれています。一度感染すると神経節の中に潜み続けるため、抗体を持っているから安心とは言えない病気のひとつです。潜んでいる間は症状が出ることはありませんが、なにかをきっかけに神経節から出てきて症状を引き起こすことから、再発の可能性が高い病気といわれています。病気やストレス紫外線などに気をつける再発しやすいのは、風邪(かぜ)や外傷、胃腸障害によって身体の抵抗力が下がっているときや、老化、疲労、ストレスなどで免疫機能の低下がみられるときといわれています。ほかにも、紫外線を強く浴びることで全身の免疫力を低下させることがあるため、体調がすぐれないときや疲れが溜まっているときは紫外線を浴び過ぎないようにすることも大切です。再発防止のために早めの治療を口唇ヘルペスは、早めに治療を始めることで早く治りやすいといわれています。水ぶくれの出現から2日以内に治療を始めるのが理想とされています。治療では、ウイルスの増殖を抑える作用のある薬を使用した薬物療法が一般的です。症状によりますが、比較的軽症の場合は軟膏やクリームを使用することが多く、中等症以上や重症化する可能性がある場合は錠剤の服用となるケースがあるといわれています。症状がひどい場合、点滴注射や入院治療となる場合もあります。再発の場合、前駆症状に気づきやすくなるといわれているため、異変に気づいたら早めに医療機関を受診するようにしましょう。監修:神林由香
2017年04月30日ニキビは皮脂などがつまることで発生する皮膚炎症の1つです。はじめは軽症のため、スキンケアだけで対応できる場合もありますが、症状が重くなるとだんだんと治りづらくなります。特に、しこりが出てくると普段のスキンケアだけでは対処するのが難しくなるようです。ここからは、しこりのあるニキビの特徴や治し方についてご紹介していきます。しこりニキビの種類肌にできるしこりニキビですが、こちらは紫ニキビと考えられます。ニキビも発生していく過程で、さまざまな状態になるのです。・角栓発生・白ニキビ・黒ニキビ・赤ニキビ・黄色ニキビ・紫ニキビこのような順番でニキビは変化していきますが、紫ニキビはその最終段階となります。紫ニキビはニキビが悪化し、血と膿が混じってできている状態です。一般的な皮脂や化粧の汚れなどでできていないため、従来のスキンケアだけでは治らないといわれています。しこりニキビの原因しこりのある紫ニキビですが、ニキビをずっと放っておくことで発生します。ニキビによって肌周辺が極限まで炎症すると、毛穴内に膿と血が溜まり始めます。次第にその膿が膨れ上がり、紫ニキビとなるようです。紫ニキビはニキビの重症化が一番の原因といわれていますが、同時にさまざまな要因がかかわって発生することがあります。特に、関連が強くなってくるのが血行の悪循環です。血行の流れが悪くなると、紫ニキビの原因ともなる血の塊ができやすくなります。また、血行不順だけでなく、ホルモンバランスや生理の乱れも原因といわれています。肌荒れやニキビはホルモンバランスの乱れによって引き起こされやすくなるようです。睡眠時間の減少や食生活の乱れはホルモンバランスを崩す原因となり、次第に肌の状態も悪くなっていきます。その生活が長期化すると、紫ニキビができやすくなるのです。紫ニキビの特徴紫ニキビができると、従来のニキビと違って触ってみるとしこりがあるのが特徴です。触るとコリコリとした触感があり、かいたりしても簡単につぶれないのがわかります。また、アゴ周りや頬を中心に発生し、色も赤黒くなっているのが特徴です。紫ニキビを放置しておくと、そのままニキビ跡になりやすくなります。膿と血で広がった毛穴がニキビ跡となり、ニキビが治っても目立つ形となるようです。ニキビの治療後もニキビ跡が残りやすく、完全にきれいな肌にするには長い目で見た治療が必要となります。また、炎症がひどいと治りが悪くなり、ニキビが発生している時期も長くなってしまいます。しこりニキビの治し方しこりのあるニキビができた場合には、普段のスキンケアや市販薬での改善は難しくなります。そのため、皮膚科やクリニックでの専門的な治療を受ける必要があります。ここからは、クリニックなどで受けられる治療方法について確認しておきましょう。注射による治療紫ニキビができてしまった場合には、クリニックにおいて注射治療をすることが多いようです。ニキビに直接注射をすることで、炎症だけでなく腫脹や痛みを和らげるのが一番の目的です。また、注射によってニキビの炎症を抑え、徐々に回復しやすい状態にしていく効果も見込めるといわれています。また、紫ニキビが引いた後には、ニキビ跡が長く続いてしまうことも考えられます。その後にもヒアルロン酸の注入をすることで、ニキビ跡の改善を計ることがあるようです。紫ニキビの治療に注射を用いるのは、その即効性の高さにも理由があります。ニキビのひどい部分に直接注射をすることで、現在進行しているひどい症状を止められるのは大きなメリットです。紫ニキビになると炎症がピーク状態なので、はやめに治療を受けましょう。ひどい場合は切開も行うしこりのある紫ニキビができると、ひどい場合には切開をして膿と血の塊を取り出します。いちど肌の中に膿と血の塊ができてしまうと、これを自然治癒やスキンケアで治すことはほぼ不可能のようです。また、注射治療でも難しいと医師が判断した場合には、こちらの方法を取ることを知っておきましょう。漢方薬を使うこともある紫ニキビを治療する場合には、肌を直接治療するだけでなく内側の状態を改善することも重要です。そこで、漢方薬を使った内側からの治療を行うこともあります。漢方薬には膿の原因とされている老廃物の排出を促すものがあり、クリニックなどで処方されることがあるようです。・星火温胆湯・冠元顆粒この2つの漢方薬が使われることがあります。漢方薬は副作用も少ないというメリットがありますが、各患者の状態にあったものを選ばないと十分な効果が得られないというデメリットもあるのを知っておきましょう。しこりニキビのケア方法しこりニキビができた場合は、クリニックでの治療を受けながら生活習慣の見直しを行うのが重要です。睡眠時間が短いと肌のターンオーバーがうまくいかず、肌の状態がだんだんと悪くなっていきます。睡眠時間を6時間は確保できるように心がけましょう。また、食生活の乱れも肌荒れやしこりニキビの原因となります。野菜が少ない人は、食事の中に野菜をとり入れるようにしていきましょう。特に、ビタミンAやビタミンC、ビタミンEを含んだ食べ物は肌にいい影響をおよぼすといわれています。監修:稲葉岳也
2017年04月29日目が勝手に動く…眼振(がんしん)とは?出典 : 眼振(がんしん)とは、以下の3つの条件を満たしている眼球の動きのことです。・動き方に規則性がある・周期性がある・本人が意図しているわけではない眼振と聞いて、なじみのない人が多いとは思いますが、実は健康な人も含めてすべての人が日常生活のなかで眼振を行っています。例えば、電車に乗っているときに、目の前を次々と通り過ぎていく建物を見ようとすると、動くものを追跡するゆっくりした動きと、次の建物に視線をずらすためのはやい動きが交互に行われます。このように、日常生活で目のゆっくりした動きとはやい動きが交互に起こっている場合も眼振の一つだと言えます。他にも、ぐるぐると回ったときや、急に立ち上がったときなどの場面でも眼振は起こっています。こうした、日常生活のなかで起こりうる特に困りごとのない眼振を生理的眼振といい、困りごとのある眼振を病的眼振といいます。病的眼振はさらに、先天性の眼振と後天性の眼振の2種類に分類できます。眼振の患者さんは、例えば、視力の低下が伴ったり、「眼球が動く」という見た目が目立つことから、将来のことや他人とのかかわりに対して不安を感じたりして困っています。この記事では、病的眼振を中心に扱っていき、その要因や症状、治療法などを紹介していきます。参考書籍:江本博文清澤源弘藤野貞/著者『神経眼科臨床のために第3版』(医学書院・2011)眼振による眼球運動の種類出典 : 眼振とひとくくりに言っても、さまざまな眼球の動き方があるため、眼球の動き方によって眼振は分類されています。具体的には、眼球が動く方向・眼振特有の動きである緩徐相(かんじょそう)の有無・眼球が動く頻度・眼球がどれくらい揺れるかなどによって分類されます。ここでは、眼球が動く方向と緩徐相について詳しく紹介しています。眼球が動く方向は、おおまかに水平方向・垂直方向・回旋性の3種類に分けることができます。水平方向は右や左に、垂直方向は上下に眼球が動きます。回旋性というのは、眼球の位置は変わりませんがその場で回転します。ペットボトルのふたを閉めるときの、キャップのように眼球が動くとイメージするとわかりやすいかもしれません。ですが、眼球の動く方向は、水平方向と回旋性が合わさっていることもあり、きれいに3つに分けられるということではないので注意が必要です。眼球には、緩徐相と呼ばれる特徴的な動きがあり、この動きがあるかないかで律動眼振と振子眼振の2種類の眼振に分類されます。緩徐相は、眼球のゆっくりとした動きのことです。ゆっくりとした動き以外にすばやく眼球が動く急速相もありますが、急速相は緩徐相によってできたズレをなくすために生じます。よって眼振で重要に考えられているのは、緩徐相の方です。緩徐相と急速相の目の動きは、イメージとしては「仕事中や勉強中など椅子に座っているときにうっかり寝てしまうとき」に似ています。うたた寝の際、ゆっくり頭が下がっていき(緩徐相)、突然目が覚めて元の姿勢に戻った(急速相)ような動線を描いて、眼球が動くのです。◇律動眼振律動眼振は、上述の緩徐相と急速相が区別されて現れる眼振のことを言います。律動眼振の中でも、ゆっくりとした眼球の動きの速度が一定なのか、それとも少しずつ速くなったり、遅くなったりするのかでさらに分類されることもあります。◇振子様眼振振子様眼振は、緩徐相と急速相の区別がつかず、眼球が往復運動をするときに、往路と復路の揺れ方が等しい眼振のことを指します。このように眼振は、いろいろな観点から分類することができますが、詳細な分類ができないケースも多くあります。参考書籍:三村治/著者『神経眼科学を学ぶ人のために』(医学書院・2014)先天性の眼振が発症する要因は?出典 : 眼振が発症する要因は遺伝によるものもあるとされていますが、細かい原因やメカニズムはまだ判明していないものも多く見られます。先天性の眼振は、ヒトがものをしっかりと見るために必要な3つの要素のうちのどこかに問題があると発症します。次の3つのうちいずれかまたはいくつかに異常が見られると、眼振の症状が起こりえます。・固視固視とは、じーっとなにかを見ることです。「見たいものを眼球の中心に置いておけるかどうか」と言い換えることもできます。ヒトの眼は無意識のうちに常に少し動いていたり、視線をうつすときに一直線ではなく微妙にぶれながらうつしたりしています。このような眼の動きのなかで、見たいものから視線が外れてしまうような動きを抑制することも固視するためには必要です。・固視の継続1度、見たいものを眼球の中心にいれることができても、その状態を維持できなければものを見ることはできません。眼と脳をつないでいる中枢神経のはたらきがうまくいかなかったり、眼の周りの筋肉が麻痺してしまったりすると維持することが困難になります。・正常な前庭眼反射前庭眼反射とは、頭の位置が変わっても、それにあわせて眼の位置を調整する仕組みのことです。例えば、目の前にあるモノをじーっと見ながら、少し首を回してみてください。もし眼の位置が調整されなければ、モノから視点がずれるはずですが、前庭眼反射によってモノを見ながら首を回せるのです。参考書籍:江本博文清澤源弘藤野貞/著者『神経眼科臨床のために第3版』(医学書院・2011)先天性の眼振の特徴出典 : 先天性の眼振は、生後まもなく発見されることが多いですが、軽度な眼振の場合にたまに成人になるまで気づかず、大人になってから眼科検診等で見つかることがあります。先天性の眼振には、以下のような特徴が見られます。・両眼性である。・振れ幅は左目、右目で差が見られない。・眼振はじっと見つめようとすると目立つようになる。・周期性後退眼振を除いて、視界が揺れたりめまいを起こしたりしない。・目を閉じたり、暗いところにいくと眼振の症状が軽くなる。・両目を内側に寄せる(=輻湊)と眼振の症状が軽くなる。・頭位異常や異常な頭部運動が多くみられる。・視力が悪く、乱視を合併しやすい。・静止位(=眼振の症状が軽くなる視線方向(null point))があることが多い。先天性の眼振は、律動眼振、振子眼振、周期性交代眼振や新生児点頭痙攣(けいれん)などの種類があります。律動眼振と振子眼振は、先天性の眼振のなかで、緩徐相があるかないかで分けられる眼振です。詳しくは先の章で紹介しましたので、以下では周期性交代眼振と新生児点頭痙攣の特徴を紹介します。◇周期性交代眼振周期性交代眼振は、100~240秒ごとに眼振の方向を変える水平方向の眼振です。先天性の眼振だけでなく、後天性の眼振でも見られることがあります。先天性の眼振では、視界が揺れているなどの自覚症状が見られないのが一般的ですが、周期性交代眼振では先天性であっても周期的に変化する見え方を自覚している人がほどんどです。◇新生児点頭痙攣この眼振にかかった子どもは点頭という、首をこっくりと頷くような動作や首をひねるようにまわす動作をすることが多いです。新生児点頭痙攣は、生後3ヶ月から1歳半までに発症し、多くは数年以内に、遅くとも8歳までには自然に治ります。しかし、最近では新生児点頭痙攣は内斜視や弱視を引き起こすという報告もされており、眼振は自然に見られなくなるが長期的な検査や治療が必要だと考えられています。弱視は、メガネやコンタクトを使っても視力が上がらないような状態のことを言います。参考書籍:三村治/著者『神経眼科学を学ぶ人のために』(医学書院・2014)眼振がある子どもに見られる特徴出典 : 眼振のあるひとは、眼球が揺れているため、ふだんからものが揺れて見えていると思われがちです。しかし、上の章で見てきたように先天性の眼振では、ものが揺れて見えることは珍しく、ほとんどめまいや耳鳴りがみられません。そのため、本人みずから不調を訴えることは少なく、子どもの場合は特に気づきにくいです。眼科に行ったときや第三者に眼球が動いていることを指摘されたときにはじめて眼振かもしれないと疑うことになります。視覚的に眼球が動いていることが確認できた場合以外にも、子どもの眼振が疑われるケースがいくつかあります。◇注視・追視が見られない赤ちゃんは生まれた直後から、目の前のものを見つめること(=注視)ができます。また、生まれた直後は視力が低く、目の前を動いているものを目で追うこと(=追視)はできませんが、数か月すると視力が発達して動くものを目で追えるようになります。眼振のある子どもは、注視や追視ができないことがあるので、ずっと目がきょろきょろしていたり、目の前で手を振っても目で追わなかったりします。これらの様子が見られるときは眼振の可能性があり、注意が必要です。◇不自然に頭を動かしている子どもが、不自然に首を傾けていたり、あごを上下に動かしたりしているときも眼振が疑われます。先天性の眼振の多くでは、眼振の症状が軽くなる静止位(null point)という視線方向があります。先天性の眼振には視線の方向によって、眼の揺れ方がひどくなったり、おさまったりすることがあり、静止位は、もっとも眼振がおさまる視線方向のことです。子どもはその視線方向でものを見るために、顔を動かして調整しようとします。そのため、不自然に頭を傾けるなどの様子が見られます。これらの様子が見られたからといって、必ずしも病的な眼振というわけではありません。しかし、万が一のために、もし子どもにこのような様子が見られたときは、眼科で相談することがおすすめです。先天性の眼振の治療法は?出典 : 先天性の眼振に対して、さまざまな治療法が考えられていますが、いまだに眼の揺れそのものを治す方法は見つかっていません。先天性の眼振の治療は対症療法になります。子どもの視力がメガネやコンタクトで矯正できる場合には、できるだけ矯正することが推奨されています。具体的な対症療法を紹介します。プリズム療法は主に、乳幼児を対象に行われます。プリズム療法は、メガネをかけると視力が矯正できるのと同じように、特殊なメガネを使うことで眼振の症状を軽減する療法です。そもそもプリズムは、光の進行方向を曲げるものです。ヒトがなにかを見えたと感じるのはすべて、光が目の中に入り、その情報が処理されるからです。プリズムによって光を曲げるというとイメージがつきにくいかもしれませんが、光の進む向きが変わることは身近なところで起きています。例えば川の底を見て浅いと思ったのに意外と深かったケースも実は水によって光が曲げられているために起こります。このように、目と見たいものの間に、水やプリズム、ガラスなどがあると光の進行方向が曲げられてしまいます。プリズム治療はこの光が曲げられる性質を利用した療法です。プリズム治療のメカニズムは大きく2つあります。1.静止位にあわせる眼振の子どもには、見やすい位置(=静止位)があります。その位置で見るために不自然に頭を動かすので頭位異常が起きていました。それなら、特殊なメガネで目に入ってくる光の位置を調整してあげれば、頭を動かさず正面を向いたままでも見やすくなるのではというのが1つ目の考え方です。2.輻湊(ふくそう)による眼振の軽減を利用する先天性の眼振では、眼を内側に寄せる(=輻湊)と眼振の症状が軽くなったり視力があがったりすることが多いとされています。この療法では、特殊なメガネで遠くのものを見るときでも、まるで近くのものを見ているかのように光の進行方向を変化させ、目を内側に寄せるように促します。そうすることで、眼振の症状を軽くするという治療です。バイオフィードバック療法は、プリズム治療の2つ目と同様に、輻湊を利用した療法です。眼球運動を音に変える装置をつかって、子ども自身が聞こえてくる音で判断しながら、輻湊を意識的におこなって眼振の症状を軽くするコツを体で憶える方法です。この療法は、眼振を完治させるのではなく、子どもが眼球運動を止める必要があるときに意図的に眼振を止めることができるようになるのが目的です。眼振の治療方法の1つとして、薬が用いられる場合があります。近年、内服薬や目薬によって、眼振の症状が抑えられるという報告はいくつかされています。例えば、てんかん治療で使われるガバペンチンが乳児の眼振に、筋肉の硬調に有効なバクロフェンが周期交替制眼振に有効だと報告されています。しかし、それらの薬が眼振に有効だという明確な証拠は見つかっておらず、さらなる研究が必要です。出典:抗痙縮剤劇薬、処方箋医薬品(注意ー医師等の処方箋により使用すること)日本薬局方バクロフェン錠ギャバロン錠5mgギャバロン錠10mg|独立行政法人医薬品医療機器総合機構出典:抗てんかん剤処方箋医薬品(注意ー医師等の処方箋により使用すること)ガバペン錠200mgガバペン錠300mgガバペン錠400mg|独立行政法人医薬品医療機器総合機構出典:三村治谷原秀信/編集『知っておきたい神経眼科診療』(医学書院・2016)p223手術療法が行われるのは以下の場合です。顔の向きが正面を向いていない。かつ、顔の向きが正面でないほうが、視力がよかったり眼球が動きにくくなったりする。手術療法は、眼球の周りの筋肉を調整することで、眼振の症状が治まる顔の向きが正面でなかったのを正面に変える療法だといえます。こうすることで、眼振自体を治療することはできなくても、眼振が原因で生じていた頭位異常を抑えることができます。参考書籍:三村治/著者『神経眼科学を学ぶ人のために』(医学書院・2014)参考書籍:三村治谷原秀信/編集『知っておきたい神経眼科診療』(医学書院・2016)参考書籍:江本博文清澤源弘藤野貞/著者『神経眼科臨床のために第3版』(医学書院・2011)後天性の眼振の特徴出典 : ここまで、先天性の眼振を見てきましたが、この章では後天性の眼振についてみていきます。後天性の眼振は、先天性の眼振とは異なり、めまいや耳鳴りなどの症状が起こりやすいのが特徴的です。後天性の眼振は大きく5つの原因に分けることができます。3章で触れた、ものを見るときに必要な・固視できるかどうか・前庭眼反射が正常かどうか・固視を維持することができるかどうかのいずれかに異常が見られる場合と、これらの他に、以下で説明する・薬剤性眼振・てんかん眼振の2種類が加わります。◇薬剤性眼振薬剤性眼振は、水平性と垂直性が混ざったような眼球運動がおこります。薬剤性眼振は中枢神経を抑制するような薬を服用していることが原因で発生する眼振です。ヒトは全身に神経を張りめぐらしていますが、中枢神経はそれらのなかで中心的な働きをするもので、脳や背骨のなかにある神経のことです。◇てんかん眼振てんかん眼振は、てんかん発作中に生じる水平性の律動眼振(目がゆっくりずれていき、急に元の位置に戻る)です。てんかん眼振には次のような傾向が見られます。・通常、数分間でおさまる。(持続する場合もあるので注意が必要)・けいれんが止まったときに、両目が同じ方向を向いたままになるが、眼振は静止する。・脳波を調べると、てんかん特有の波長が見られることがある。・こわばりからけいれんが起こる強直(きょうちょく)間代(かんたい)発作が伴う。また、てんかん眼振の治療は抗けいれん薬で行われます。後天性の眼振の治療法は?後天性の眼振は、さまざまな原因が考えられ、多岐にわたるため、まずはその原因を追究することが大切です。頭位異常が見られる場合には手術が行われたり、後天性の眼振のもとになっている疾患を治療したりすることで、眼振を治療していきます。参考書籍:江本博文清澤源弘藤野貞/著者『神経眼科臨床のために第3版』(医学書院・2011)まとめ出典 : 眼振は、その原因や症状の表われ方に非常に多くの種類がある疾患です。人によってはめまいを訴えたりすることもあるほか、本人の自覚症状がなくとも、眼振によって頭位異常が起きて、周りから目つきが悪いと思われたり、そっぽを向いていると勘違いされたりしてしまうこともあります。現在、眼振そのものの治療法は確立されていませんが、眼振の種類によっては後遺症もなく治る場合もあります。それに、眼振そのものを治すことが難しくても、眼振の症状にアプローチしていくことで、眼振のある子ども自身が生活しやすくすることはできます。もし、子どもに少しでも眼振が疑われるような様子が見られたときには、眼科にかかり専門家に診てもらうようにしてください。
2017年04月28日解離性健忘とは?出典 : 「解離性健忘」とは、強いストレスの原因となった過去のできごとや感情などの一部やすべてを忘れ、思い出そうとしても思い出せなくなってしまうことです。思い出せないことで、日常生活や社会生活で支障をきたし、本人が精神的につらい思いを抱えている場合には治療が必要となります。アメリカ精神医学会が監修している『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)では、解離性健忘を定義する特徴として以下の2つを挙げています。1.確かに記憶されているはずで2.通常なら簡単に思い出せるような、体験など自分にまつわる大切な情報が思い出せないなお、DSM-5のほかにも、精神障害の診断基準には世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)が用いられています。いずれの診断基準でも、解離性健忘は「解離性障害」という大きなカテゴリのなかのひとつの種類として分類され、解離性障害の中で中心的な障害であると考えられています。解離性障害のほかの障害でも、ほとんどの場合で解離性健忘の症状がみられます。言い換えると、解離性健忘は健忘以外の症状がみられません。解離性障害については、発達ナビの記事で詳しい解説をしていますので、ぜひお読みいただければと思います。なお、解離性健忘は、女性や若い人に多いと言われています。(出典)岡田尊司/著『子どもの「心の病」を知る: 児童期・青年期とどう向き合うか』(PHP研究所、2005年)解離性健忘の原因出典 : 解離性健忘は、極度のストレスや心の傷などといった、精神的な原因がきっかけとなって生じます。解離性健忘の原因となるものには、以下のような体験がふくまれます。・事故・事件・戦闘・災害のような急激なもの・虐待やDV、いじめ、家族間の葛藤など、精神的苦痛や葛藤が慢性的なもの本人の心が耐えきれないつらい体験を受けているときは、いつもの記憶の仕方とは異なる方法で、脳の別の場所に記憶されます。そのため、他の記憶のようによみがえらず、思い出すことができないのです。一方、解離性健忘によってつらい体験を忘れることができると言い換えることもでき、解離性健忘は本人の心を守ってくれる側面もあると考えられています。自閉症スペクトラム(特にアスペルガー症候群)と、解離性障害との関連が指摘されています。自閉症スペクトラム(特にアスペルガー症候群)のある人・子どもは、解離性障害をおこしやすいのではないかと考えられています。一般的に、自閉症スペクトラムのある人や子どもは、日常生活で困りごとが多い傾向にあります。さらに、コミュニケーションをうまくとることができないために、対人関係を構築することが難しく、つらい思いを抱えている人も少なくありません。したがって、生活上の困りごとや生きづらさ自体が、解離性障害を引き起こす大きなストレスとなってしまっている可能性が指摘されています。なお、解離性障害の記事でも自閉症スペクトラムの関係性について解説していますので、お読みいただければと思います。解離性健忘はどんな症状があらわれるの?出典 : 解離性健忘では、「自分は誰か」「どこへ行ったか」「何をしたか」「そのときどう感じたか」など、自分が関わったできごとについての情報を思い出せなくなってしまいます。解離性健忘のために思い出せなくなっている期間は、人によってさまざまです。数分から数時間のことを忘れてしまうこともあれば、数日間から数年間にわたることを忘れてしまう場合もあり、なかにはこれまでに経験したことをすべて忘れてしまう例も報告されています。解離性健忘の患者さんでは、日常生活を送っているさなかにも、その時々の自分の行動や発言について忘れてしまうことがあります。【例】・メールの送信履歴を確認してみると、見覚えのないメールを送っていた・クローゼットの中に、買った覚えのない服が入っていた日常生活でこのような身に覚えのないことが続くと、不安に感じてしまい、抑うつ症状を示す人も多いようです。一方で、解離性健忘に自覚のない人も少なくありません。これは、体験したできごと自体を忘れているために、忘れていることに気づかないためです。◇限局性健忘・・・ある限定的な間に起こったできごとを思い出せない症状です。解離性健忘のなかで、もっとも一般的であると考えられています。◇選択的健忘・・・限定された間におこったできごとの一部が思い出せるだけで、他の部分は覚えていないのが選択的健忘です。戦争に赴いた兵士が、連日の激しい戦闘の一部分しか思い出せずそれ以外のできごとを思い出せないといった例があげられます。◇全般性健忘・・・自分が今まで体験してきたことすべてを忘れてしまう症状です。自分が誰であるのかさえも忘れてしまう場合もあります。ただ、これまでのすべてを忘れてはいるものの、現在からの新しい記憶を追加することは可能です。日本では、1950年に全般性健忘が初めて報告されて以来、これまで130例以上の報告があります。ちなみに、限局性あるいは選択的健忘の報告は20例未満ですが、忘れていることの自覚がないために報告されないのではないかと考えられています。岡野憲一郎/責任編集『専門医のための精神科臨床リュミエール20解離性障害』(中山書店、2009年)97ページ◇系統的健忘・・・ある特定の領域についての情報を思い出せなくなってしまう症状です。たとえば「家族」「恋人」など「ある特定の人物」などについての記憶が思い出せなくなってしまうことなどがあります。◇持続性健忘・・・新しいできごとが起こるたびに、そのできごとを忘れてしまう症状です。日本精神神経学会/監修『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版(医学書院、2014年)296-297ページ解離性のフラッシュバックと呼ばれる症状が起こることもあります。フラッシュバックとは、映像や音、においなどがよみがえり、過去に心の傷を負ったできごとを再体験してしまうことです。突然、止まっている画像で思い出すことが一般的であるものの、動画であったり、声を伴ったりする場合もあります。フラッシュバックは、本人にとってとても恐ろしい体験です。過去に引き戻されたように感じる、もしくは同じできごとが目の前でまた繰り返されているように感じてしまうようです。フラッシュバックに引き続いて、限局性健忘があらわれることもあります。何がフラッシュバックの引き金となってしまったのか、本人が自覚できないことも多いために、恐怖感がさらに高まってしまうこともあるそうです。恐怖を感じる以外にも、体にも症状があらわれることが分かっています。頭痛・動悸・吐き気などのほかにも、性機能障害もしばしばみとめられます。高橋三郎/監訳『DSM-5鑑別診断ハンドブック』(医学書院、2015年)203ページ解離性とん走は、解離性健忘のひとつです。とん走とは逃げ走ることを意味しており、家庭や職場から突然いなくって、どこかへ行ってしまうのが解離性とん走の特徴です。また、いなくなってしまっている間、「自分は誰であるのか」「どんな人生を送ってきたのか」などの記憶を失ってしまっています。これまでの記憶を失ってはいるものの、電車に乗るための切符を買ったり、歯を磨いたりといった日常生活で必要な動作の記憶は失われていません。また、それまでに習得した技術も覚えています。たとえば、ピアノを弾ける人が解離性とん走で、自分のことをすべて忘れてしまっていたとしても、ピアノを上手に弾くことはできるそうです。小学生以下では稀ですが、中学生以上の若い人にも多くみられるようになるようです。身元不明の少年として保護される子どものうち一定割合を占めるとも言われています。(出典)岡田尊司/著『子どもの「心の病」を知る: 児童期・青年期とどう向き合うか』(PHP研究所、2005年)器質的なことを原因とする健忘との違いは?出典 : 器質的なことが原因で生じる健忘もあります。例えば、認知症、事故が原因で脳の損傷を受けた場合、アルコール依存症などによって脳の機能が失われることによっても健忘が起きることがあります。それでは、解離性健忘との違いは何でしょうか。解離性健忘では通常、解離のきっかけになったできごと以降のことを思い出せなくなります。一方、脳の損傷など器質的なことが原因で生じる健忘では、損傷が起きた時点より前のことも一緒に思い出せなくなることが多いようです。心理療法研究会/著、岡野憲一郎/編『わかりやすい「解離性障害」入門』(星和書店、2010年)59-61ページ、102-103ページ解離性健忘と器質的な健忘は、コンピュータにたとえられる場合もあるので、以下にご紹介します。「解離性健忘」・・・開くにはあまりにも危険なファイルであるため、記憶の記載されたファイルにアクセスできないようになっています。この場合の「危険」とは、本人の心に傷を与える危険があることを意味します。「器質的な健忘」・・・ハードウェア自体が壊れてしまっているために、記憶ファイルがなくなってしまったり、容量が低下して記憶の書き込みができなくなったりしている状況です。なお、解離性健忘は、自分にまつわる体験や自分が誰であるかを忘れてしまうことが中心的です。しかし、認知症の場合では、自分が誰だか分からなくなってしまうのは、認知機能がかなり低下してから生じると考えられています。岡野憲一郎、柴山雅俊、奥田ちえ/編『こころのりんしょうa・la・carte 第28巻2号〈特集〉解離性障害』(星和書店、2009年)242ページ解離性健忘の診断基準出典 : 米国精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)での診断基準は、以下の通りです。A.重要な自伝的情報で,通常,心的外傷的またはストレスの強い性質をもつものの想起が不可能であり,通常の物忘れでは説明ができない.注:解離性健忘のほとんどが,特定の1つまたは複数の出来事についての局限的または選択的健忘,または同一性および生活史についての全般性健忘である.B.その症状は,臨床的に意味のある苦痛,または社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている.C.その障害は,物質(例:アルコールまたは他の乱用薬物,医薬品),または神経疾患または他の医学的疾患(例:複雑部分発作,一過性全健忘,閉鎖性頭部外傷・外傷性能損傷の後遺症,他の神経疾患)の生理学的作用によるものではない.D.その障害は,解離性同一症,心的外傷後ストレス障害,急性ストレス障害,身体症状症,または認知症または軽度認知障害によってうまく説明できない.【出典】日本精神神経学会/監修『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版(医学書院、2014年)296ページ診断にあたっては、器質的な原因による健忘でないかも含め、専門医による診断の上で解離性健忘かどうかを判断します。解離性健忘かなと思ったら出典 : 解離性健忘かなと不安に感じることがあれば、精神科や心療内科を専門とする医療機関で相談しましょう。どの医療機関で相談したら良いか分からない場合には、保健所、精神保健福祉センターの相談窓口などで聞いてみると良いかもしれません。近年、かかりつけ医と精神科専門医との連携が進められているので、かかりつけ医に相談して専門医を紹介してもらえる場合もあります。なお、以下のリンクからお住まいの精神保健福祉センターの相談窓口を探せますので、参考にしてみてください。全国の精神保健福祉センター一覧|厚生労働省おもに精神療法での治療が行われます出典 : 解離性健忘の治療には、医師や臨床心理士などによる精神療法が有効だと考えられています。精神療法の目的は、思い出せないことを思い出すことではありません。本人が日常生活で支障をきたさず、安定的な生活を送るようになることです。思い出せないできごとは、そのほとんどが本人の大きなストレスの原因であるため、思い出したからといって、本人の抱える問題が解決するわけではないからです。もちろん、患者さんと治療する側との安心、かつ信頼できる関係性の中で、健忘の原因への理解が進み、思い出せるようになることもあります。しかし、思い出さないことで本人の心が安定する場合には、無理して思い出させるようなことはしないようです。小学校からの記憶をすべて失ってしまった患者さんで、治療をすすめていくなかで夫のもとで情緒が安定しているために、記憶の回復がないままで治療を終了したという例もあります。岡野憲一郎/責任編集『専門医のための精神科臨床リュミエール20解離性障害』(中山書店、2009年)家族や周りの人の正しい理解とサポートが解離性健忘の患者さんの支えになります出典 : 治療以外で多くの時間をともに過ごしている周囲の人々とのかかわりは、解離性障害の治療に向けてとても重要です。解離性障害の子どもであればその両親、成人であれば恋人や配偶者など、患者さんのキーバーソンとなる人は症状について正しく理解し、できる限りの患者さんの気持ちにより添った協力体制を整えることが望ましいとされています。ある患者さんの例では、解離性健忘の症状でパニックに陥ってしまったときには以下のような仕組みを作り、パニックから解放される対処法を身につけるようにしたそうです。1.恋人に携帯電話で電話をする2.決まったセリフを口にしてもらう解離性健忘の患者さんでは、抑うつ気分と自殺を考えてしまうことが特徴的にみられることも知られています。治療をすすめるなかで、健忘のために忘れていたできごとを思い出し、そのたびに気分が不安定になってしまう患者さんもいるようです。したがって、解離性健忘はストレスの元となることを「忘れてしまう」ことで、患者さんの心の負担を軽くし、心を守っているという側面もあることを忘れないようにしましょう。健忘やそれに伴う離人症状は、破局的な体験や孤立した抑うつ状態に対する防衛(defense)であるので、催眠や麻酔面接などを用いて無理に崩すことは治療的ではない.なによりも健忘を認めるあいだは、患者が心身の消耗を回復して、現実に再び直面して受容するための猶予期間であるという視点が必要である。症状の背景にある持続的で緊迫した孤立状況とそれに伴う抑うつ気分や自殺念慮などに焦点を合わせ,休養と環境調整を第一とする.次いで行き詰まった状況になっても誰にも助言や援助を求められないことを問題として取り扱っていくこと,さらには対人関係における適切な自己表現を可能とすることが課題となろう.治療の原則は,このような段階的プロセスを支持的に援助することである.【出典】岡野憲一郎/責任編集『専門医のための精神科臨床リュミエール20解離性障害』(中山書店、2009年)102ページ一方、患者さんの家庭環境が、解離性健忘の引き金となっている場合には、家族の関係性を見つめ直す必要があります。もしかしたら、家族のことが原因かもしれない、など悩むことがあれば精神科医と家族相談という形の受診をしてみるのも良いかもしれませんね。岡野憲一郎/責任編集『専門医のための精神科臨床リュミエール20解離性障害』(中山書店、2009年)まとめ出典 : この記事では、解離性障害のひとつである「解離性健忘」をご紹介しました。解離性健忘の人は、不安や抑うつ気分を感じていることが多いようです。そこで、周りの人は本人のストレスができるだけ減らせるような環境を整えてあげることが大切です。ただ、サポートすることが周りの人にとって過度の負担となってしまっては、本人だけでなく周りの人もつらい思いを抱えてしまうことになります。そこで、「できる範囲内のサポートをする」と心がけるようにしましょう。
2017年04月27日脱毛症の症状はさまざまありますが、一般的に円形などコイン大に抜けてしまうのが「円形脱毛症」です。薄毛で悩んでいるなら自分の症状と類似していないかをまずは確かめてみましょう。円形脱毛症が発生する原因や、それを予防する方法などもご紹介するので、今後の対策に役立ててください。円形脱毛症は皮膚の疾患(病気)によるもの円形脱毛症は、円形や楕円形などコイン大の大きさで脱毛してしまう疾患です。一般的に10円ハゲと呼ばれるような大きさを想像しがちですが頭全体に脱毛が広がってしまうもの、眉毛やまつげにおよぶもの、その他の体毛や陰毛にまで影響する重度のタイプもあります。病型の種類として単発型、多発型といわれる通常型、汎発性、全頭型、蛇行状脱毛症などに分類されます。円形脱毛症の代表的な症状円形脱毛症にはいくつか特徴があります。自分に当てはまる項目がないか確かめてみましょう。突然なんの前触れもなく髪の毛が減り始めた頭部を見ると地肌が見える箇所がある脱毛している周辺の髪の毛を引っ張ると痛みもなく簡単に抜ける脱毛部分が円形や楕円形になっており、生えている部分との境界がはっきりしている起床後枕に抜けた毛が落ちている円形脱毛症になりやすい人脱毛している部分の周辺を引っ張り、毛が数本抜けるようなら進行型の円形脱毛症と考えられます。脱毛している部分の皮膚は少し凹んだ状態になっており、赤くなっていることも見受けられるのです。進行が止まると数か月後に新しい柔らかい毛が生え始め、その後徐々に硬い毛に成長することがあります。ほとんどの人が自然治癒するといわれているのですが、円形脱毛症になりやすい体質の人は再発をくりかえし、治療を施しても40%の確率で再発することがあるのです。全身の毛が抜けてしまう汎発性脱毛症は予後の状態が悪いことが多くなり、最近では大人だけではなく子供も発症するケースが増えています。円形脱毛症の原因円形脱毛症の原因の1つとしては、リンパ球という免疫機能を持つ白血球のひとつが原因と考えられています。リンパ球の自己免疫機能が働き毛包組織に対して攻撃してしまうケースがあるのです。明らかな要因は発見されていないのが現状ですが、疲労、ストレス、感染症などにより精神的、肉体的ストレスを受けることで発症するのではないかと考えられています。女性の薄毛は女性ホルモンの減少やダイエットなどが原因円形脱毛症にはさまざまな種類がありますが、女性に多く見られるのが「びまん性脱毛症」です。これははっきりとしたハゲの状態ではなく、髪の毛全体が薄くなり頭頂部や髪の分け目の皮膚が目立つようになります。びまん性脱毛症の原因は、急激な女性ホルモンの減少、ダイエットなどによる栄養不足、ストレスなどがあげられます。また、頻度の多いシャンプー、リンスのすすぎ残しなども原因と考えられるのです。円形脱毛症の皮膚科での治療方法円形脱毛症は医療機関や病型によって治療法が異なります。しかし、毛根への破壊がはっきりしており頭皮が赤く炎症している場合は、炎症を抑制する働きがあるステロイドを使用するケースが多いです。また、アトピー性皮膚炎を合併している円形脱毛症患者も多いので、アレルギーを抑えるような薬が処方されることもあります。ステロイド外用薬、内服薬、注射:炎症を抑える効果が期待できる。紫外線療法、ドライアイス療法:頭皮を刺激する目的の治療法。ドライアイス療法はとても痛いため子供向けではありません。局所免疫療法:かぶれを人工的に引き起こし、炎症の矛先を変えて発毛を促進させることが目的。円形脱毛症を繰り返さない対策方法円形脱毛症ははっきりとした要因が解明されていませんが、髪の育成や成長にとってよくないような行動を取らないように気をつけることが大切と言えるでしょう。シャンプーで頭皮を清潔に保つ髪の毛が抜けることをおそれて洗髪を避けてしまいがちですが、清潔で良好な頭皮の状態を保つためには必要と考えられます。1日おきに頭皮や毛髪をシャンプーし清潔な頭皮をキープしましょう。しかし、過度な頭皮マッサージは控えたほうが無難です。ストレスや疲れを溜めない生活をするストレスが原因だとははっきりしていませんが、体を健康に保つことも重要視されています。疲れを溜めないようにする、睡眠不足を改善するなど規則正しい生活を送るようにしましょう。また、喫煙をできるだけ控え、アルコールを適量にするなど工夫するのがおすすめです。バランスのよい食べ物をとる毛髪を作るためには必要な栄養素を摂取することが大切と言えます。過不足なく亜鉛や鉄など毛髪に必要とされるミネラルをとりましょう。また、バランスのよい食事を心がけることも大切です。監修:馬野詠子
2017年04月25日吹き出物用の市販薬と処方薬の違い吹き出物ができたときには、市販の薬を使う、病院処方の薬を使うという2つの方法が考えられます。市販の薬と処方薬とはどのような違いがあるのかを解説します。私たちが通常購入する市販薬には、吹き出物用の化粧品や医薬部外品があります。しかし、これらは吹き出物を予防することはできても、できてしまった吹き出物を治療することはできません。病院で処方される薬は、厚生労働省から吹き出物に対して有効性が確認されたものです。また、医師が処方するということは、それだけ効果はあるけれど、副作用もあるということです。医師が症状を診ながら処方してくれますし、副作用が出た場合にもすぐに対処してくれるので安心です。薬の効能吹き出物の薬には、吹き出物の症状によって効能や目的が違ってきます。皮脂の分泌を抑える吹き出物の原因のひとつである過剰な皮脂の分泌を抑えます。この効能は、主に硫黄が入った塗り薬に多く、男性や比較的若い年齢にできる吹き出物に効果をあらわします。腫れを抑える赤ニキビ、黄ニキビといった炎症を起こしている吹き出物に対して、熱や腫れを抑えます。吹き出物の痛みを落ち着かせたいときに効果をあらわします。あくまでも対処法であり、吹き出物の原因を取り除くものではありません。角質を柔らかくする吹き出物の原因のひとつである、毛穴の詰まりを改善します。ターンオーバーがうまくいかないときやホルモンのバランスが崩れるなど、大人ニキビと呼ばれる症状を緩和する効果が期待できます。殺菌する吹き出物は、アクネ菌の増殖によって、毒素が出るために炎症を起こします。アクネ菌を殺菌することで、化膿するといった吹き出物の悪化を防ぐ効果が期待できます。栄養を補給する吹き出物の原因となる皮脂の過剰分泌を抑えるために、ビタミンB2、ビタミンB6といった栄養を補給します。また、ターンオーバーを促進する効果もあるようです。吹き出物の薬の種類吹き出物の薬には、吹き出物の状態によって使われる成分が違ってきます。抗生物質吹き出物の原因となっているアクネ菌を殺菌する効果があります。とくに、炎症をともなう吹き出物の治療では最初に使われる薬となります。赤ニキビや黄ニキビなど、腫れ、膿を持って痛むときなどに処方されます。塗り薬と飲み薬があります。ただし、炎症を抑える効果だけなので、炎症が起こっていない白ニキビや黒ニキビには効果はありません。消炎効果に特化した薬なので、予防効果も期待できないとされています。レチノイド製剤角質が硬くなって、柔軟性を失うと毛穴が詰まって、角栓ができてしまいます。レチノイド製剤は、角質を柔らかくする効果があるとされています。吹き出物の原因そのものを抑えるという点で、新しい吹き出物の発生を予防することも期待できます。ただし、吹き出物の原因である角栓を予防する薬のため、炎症のある吹き出物には効果はないといわれています。硫黄(いおう)製剤殺菌、角質を柔らかくする、皮脂の分泌を抑えるの3つの面から吹き出物を治療する薬です。副作用が少ないので、市販の吹き出物用の薬にも含まれています。ニキビ全般の症状に使えますが、肌を乾燥させる副作用があるため、大人になって乾燥肌が原因でできる吹き出物には使わないほうがいいでしょう。サリチル酸製剤角質を柔らかくする効果があります。毛穴の皮脂を外に出やすくして、吹き出物の原因である角栓を発生させないようにします。初期の白ニキビや黒ニキビの段階で、一気に除去することが期待されます。ただし、角質を溶かすほどの成分ですから、敏感肌やすでに炎症を起こしている「赤ニキビ」「黄ニキビ」には向かないとされています。薬の使用上の注意点吹き出物で多く使われる治療薬は、ほとんど塗り薬です。これらの薬はすべて対症療法であり、根本的な治療ではないことを念頭に置いておかなくてはなりません。なぜなら、薬を塗るのを止めてしまえば、再発する可能性があるからです。病院で処方される薬は、効果が高いぶん、副作用も強くなる場合があります。副作用として多いのが皮膚の赤味ヒリヒリ感かゆみ皮がむけるといった症状です。しかし、これは副作用というよりも随伴症状といわれるもので、治療の効果が出ているからこそ現れる症状です。吹き出物の処方薬は、このように随伴症状が現れることが多く、定期的に医師からの経過観察が必要になってきます。随伴症状を和らげるためには、薬を塗る前に化粧水などで保湿してから使用する塗布する量を少なくするしばらく使用を控えるといった方法があります。いずれにしても、自分で判断せずに医師に相談するようにしましょう。市販の吹き出物用の薬は、手軽に使えるので愛用している人も多くいます。しかし、なかなか治らない症状がひどくなってきたくりかえし吹き出物が出るといった場合、やはり皮膚科を受診して処方薬を使うほうが、結果的に早く治療でき、安心できるようです。監修:スキンケア大学参画ドクター
2017年04月23日【2017年4月23日更新】<ドクターズインタビュー>ストレス社会の現代では、不眠など睡眠に関する症状が他の精神的な症状の一部として現れていることも少なくありません。精神科領域の病気や睡眠障害を幅広く専門的に診断・治療している新橋スリープ・メンタルクリニック院長の佐藤幹先生に、ストレスとうつ病、不眠症の関係、特に職場のメンタルヘルスと不眠の問題についてお話をうかがいました。【佐藤 幹(さとうみき)先生】新橋スリープ・メンタルクリニック院長東京慈恵会医科大学付属病院本院精神神経科外来非常勤勤務睡眠障害を中心に精神科領域全般における診療を行なう。睡眠学を専門とし、過眠症(ナルコレプシー等)、不眠症、睡眠時無呼吸症候群、時差ぼけなどの研究を行う。特に不眠症に関しては認知行動療法を取り入れた治療法を研究。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医日本睡眠学会認定医不眠が「うつ病」のリスクとなるストレス性障害は、精神医学的には適応障害といいます。その症状のひとつに不眠があります。原因のストレスがなくなれば睡眠がよくなる方もいますが、不眠だけが残る方たちもいます。また、ストレスがなくなってうつ症状はよくなっても、不眠症状だけが残る方たちもいます。そういう方たちは再びうつ病になりやすいといわれています。つまり、不眠症がうつ病を再発させるリスクファクターになるということです。ストレス性障害では、まずストレスの原因をはっきりさせる必要があります。ストレスの原因が明確な場合、例えば、上司との関係など職場の人間関係でうつ状態になっている方のケースは、配属を変えてもらうことが、症状を改善するためのひとつの選択肢になります。症状がうつ病もしくは適応障害の診断基準を満たした上で、患者さん本人が仕事を休みたいと思っている場合は、自宅静養することをお勧めしています。うつ症状が軽度であれば、仕事をしばらく休むだけで症状が改善し、抗うつ剤や睡眠薬などの薬を使わずに済むことがよくあります。ところが、もし休まずにうつ状態のまま会社に行き続けると、結果的に抗うつ剤などの薬が必要になるケースが多くみられます。いったん抗うつ剤を使い始めると、ある程度継続して抗うつ剤を使って行く必要があります。脳の機能が低下すると、主観的に頭が働かなくなって回転が悪くなったような感じがします。この症状をインヒビション(inhibition:抑制制止症状)といいます。たとえばメールがすぐ返せなくなる、簡単な指示が理解できない、などといったことが起こります。また、仕事中だけではなく、家でTVを観ていても内容が頭に入ってこないといったこともそのひとつです。これらはうつ病の兆候でもあります。「適応障害」と「うつ病」の違いは?inhibition(抑制)は、かつては「適応障害」ではなく、内因性のいわゆる「うつ病」だと捉えられていました。しかし、現在は必ずしもそうではないと考えられています。ストレスが強くかかって頭が働かなくなり、うつが疑われるようなケースでも、実際に仕事を休んで一週間もすると改善する方がいらっしゃいます。その場合はうつ病ではないと考えられるのです。臨床の現場では「適応障害」と「うつ病」の線引きは、難しいケースも少なくありません。例えば、24時間ずっと落ち込んでいるかどうか、ということは「うつ病」のひとつの目安になります。ほとんどのストレス性障害の場合は家に帰ればリラックスできるので、そのような場合はうつ病とは診断しません。しかし、ストレスが強すぎて家でもずっと仕事のことを考えて落ち込んでいるようであれば、適応障害も訴えによってうつ病に見えてしまいます。適応障害とうつ病が連続した病態なのか、二つの疾患を区別すべきなのか、現在の診断基準だけを元に考えると明確な線引きが困難になります。治療経過の中で、時間をかけて複合的に診断をつけてゆくことが必要です。「適応障害」は誰でもなりうるものです。たとえば恋人に振られるなど、今の状況に適応できず気持ちがついていかなくて予想を超えて落ち込んでいる、というのが「適応障害」です。ただし、その中でもうつ病の遺伝負因(いでんふいん)がある方、つまり脳の脆弱性を持っている方はうつ病に移行していくこともあります。内因性の「うつ病」の場合には、それまで楽しい気分であってもいきなり脳にスイッチが入ったように落ち込み、状況が良くなっても落ち込んだままの状態が続きます。クリニックに来られる方の多くは非常に多忙で時間がない方たちなので、いったん仕事を休むとそれだけでよくなる適応障害のことが多い傾向があります。しかし、何回も気分の落ち込みを繰り返している方、若い頃からうつ症状を認める方は、うつ病の可能性があります。また、少し判断が難しいケースとしては躁うつ病(双極性障害)のうつ状態である可能性もあります。そのため、うつ状態だけでなく躁状態があるかどうかの確認も必要です。こういったことをしっかりと見極めていかなくてはならないため、初診ではすぐに診断を決められないことも少なくありません。「うつ病」と不眠は切っても切れない関係脳にストレスがかかると生理的には覚醒度が上がるため、多くの例では不眠がつきまとうことになります。しかし、最近はうつ病で過眠を訴えて来る方もいらっしゃいます。精神的なストレスが、様々な形で睡眠の異常として表現されるのです。精神的な疾患がある場合には、睡眠だけを取り出してよくするということはできません。脳の状態全体をよくしていき、日中からのストレスを取り除くことによってようやく夜眠れるようになります。あるいは夜の睡眠をよくすることによって日中のストレスを少なくしていくことにもつながります。睡眠薬を上手に使い、夜にゆっくり休むことができると、日中の抑うつ気分も少なくなります。そのため、うつ状態の時には、睡眠薬は積極的に使うことが推奨されています。不眠とうつ病の関係についてはさまざまな方向から研究されています。たとえば不眠があるとうつ病がどれくらい再発するか、その逆にうつ病がよくなって不眠が残っていない人はどれくらいうつ病が再発していないか、また不眠が最初にあってうつ病になる人がどのくらいいるのか、といったことについて検討されています。今のところまだ結論は出ていませんが、どうやら不眠とうつ病は互いに移行するものだと考えられています。つまり、不眠があってもうつ病になるし、うつ病があっても不眠になりやすいということです。ビジネスマンの不眠には職場のサポートが大切ビジネスマンの方も含め、不眠で悩んでいる方にとっては、周囲からのサポートがとても重要です。会社から仕事を休んでもいいと言ってもらえたり、医療機関から診断書を出してもらえたりすると、患者さんはそれだけで楽になります。当院では、患者さんは会社のほうから病院に行って来てくださいといわれることも多く、ご本人がひとりで悩んで診断書をもらいに来るというようなケースはむしろ少ないです。最近では、職場のメンタルヘルスチェックをきっかけに受診をすすめられることもあるようで、紹介状にもメンタルヘルスチェックの結果について触れられていることがあります。単なる不眠ではなく、自分で何かおかしいと気づくきっかけには次のようなものが挙げられます。仕事上のミスが増えている遅刻が増えてきた仕事中に寝てしまうぼんやりしているしかし、自分で異変に気付かないうちに、症状が悪化していく方も少なくありません。若い方の場合は自分から不調を訴えて来ることが比較的多いのですが、年齢的に上の世代になるとなかなか自分からは言い出せず、むしろ周りから言われて病院に来ることが多くなります。キャパシティのある会社ならば「仕事を休みなさい」と言えるかもしれませんが、ある程度無理をしても仕事をしてもらわなければならない状況の会社も多いので、雇用側も従業員側もどちらからも言いにくいところがあるようです。しかし、睡眠時間が短いとどうしてもうつ状態などになるリスクが高くなる印象があります。雇用する側でも従業員の睡眠時間が6時間未満にならないように配慮すべきです。睡眠時間が6時間を切り、5時間台の状態が一定期間続くと、ひと晩徹夜をしたときと同じ程度に仕事の効率が落ちてしまうといわれています。毎日の勤務状況を改善することが難しくても、せめて週に2日ぐらいは7時間以上の睡眠が確保できるよう早く帰宅させるなどの工夫をすれば、うつ状態になるリスクを減らすことができるはずです。睡眠時間は1日に30分〜1時間程度長くするだけでもかなり違いますので、30分でもいいので早く帰って寝られるようにしてみてください。仕事上、帰宅時間が遅くなることが避けられない方は、フレックス・タイム制を利用するなどして出勤時間を遅くするのもひとつの方法でしょう。睡眠衛生と現代のライフスタイル不眠にはいろいろな理由があります。睡眠衛生が守られていない方に対しては、まず睡眠衛生を守ってもらうようにして、それでも眠れないという方が「不眠症」ということになります。仕事上、睡眠衛生を守ることが難しいという方も多くみられ、本質的な「不眠症」かどうかの判断は難しいところです。睡眠衛生を守るといっても、本来はそれほど難しいことではなく、すでに仕事をリタイヤした方などであれば健康を主体にした生活が可能ですが、現役で働いているとなかなか難しいところがあります。就寝1時間前ぐらいからTVやスマートフォンなどを見ないようにするのが睡眠にとっては理想的ですが、実際には就寝直前までパソコンでメールの返信をしていたり、TVでニュースをチェックしたりしている方が大勢いらっしゃいます。また、布団の中に携帯端末を持ち込んで見ていることも多いのですが、これもよくありません。このようにひとつひとつみていくとなかなか守るのが難しいところもあり、こうした睡眠衛生は、もはや現代社会では現実的ではないのかもしれません。社会や生活の変化に合わせて、睡眠衛生指導の内容もカスタマイズする必要があると思います。医療者側が、一方的に守れと指示するだけでは治療効果が少ないと感じています。不眠の背景にある長時間労働の影響多くの方は帰宅してから寝るまでの時間が短いため、生理的に睡眠の方向にシフトダウンすることが難しくなっています。たとえば、お風呂から上がって2時間ぐらい経たないと脳や内臓などの深部体温が下がらないため、その間は覚醒度が高く寝つきにくくなります。深部体温が下がれば眠りが深くなるので、入浴自体は眠りのためによいことなのですが、帰宅時間が遅いと食事や入浴を短時間で済ませなくてはなりません。また、仕事のことなどで神経が興奮している状態で床につくことも、不眠になりやすい要因のひとつです。帰宅時間が毎日遅くなるような生活では理想的な睡眠の確保が難しくなってきます。夜遅く帰宅したとき、お風呂に入る?入らない?夜遅くに帰宅して翌朝早く起きなければならないようなときには、寝る前にお風呂に入るよりも朝起きてからシャワーを浴びることをおすすめします。眠りに関しては、本来はバスタブに入って深部体温を上げないとあまり意味がありません。もちろん、汗を流さないとさっぱりしないという意味での寝苦しさはあるかもしれませんが、それが気にならないのであれば、朝起きてからシャワーを浴びると覚醒度は上がります。睡眠には気分的なものも関係するので一概には言えませんが、バスタブに入って深部体温を上げ、睡眠の2時間以上前に出られるという条件がクリアできるときにはバスタブに入るようにすればよいでしょう。また冷え性の方の場合は、体の末端が冷えていると体温が放出しにくくなり、深部体温が下がりにくいので、靴下を履いて寝ることをおすすめします。エアコンをつけたまま寝ることもよくないと思われがちですが、寒いと覚醒度が上がってしまうので就寝中はエアコンを使って構いません。休日の睡眠不足解消にもコツがある休日の前の日など、翌朝に起きる時間を気にしなければ眠れるという方は多いのですが、その場合にも注意しなければならない点があります。起きる時間が遅くなり午前10時〜11時ぐらいまでずれ込んでしまうと、週明けに時差ぼけのような状態となり月曜日の朝がつらくなってしまいます。また、午後3時以降に昼寝をするとその夜に眠りにくくなり、寝不足な状態から一週間が始まってしまうことになります。ですから、休日でも遅くても9時ごろまでには起き、いったん外に出るなどして日光を浴びるとよいでしょう。その後、午前11時〜午後2時ぐらいの時間帯であれば夜の睡眠には影響しないので二度寝をしてもかまいません。しかし、11時〜お昼頃までずっと寝てしまうと翌日の午前中に眠気が残りやすくなります。仕事中にどうしても眠いときは無理をせず仮眠をとる寝不足による眠気は寝ること以外では解消できません。眠らないでいると睡眠圧(すいみんあつ)というものがどんどん高くなります。お腹の中でガスがたまって便を我慢できなくなることをイメージしてみて下さい。睡眠も同様に圧力が高まってくると、最終的には気がつかないうちに眠ってしまうようなことになります。特に、車の運転中に眠ってしまったりすると生命に関わります。昼食後の眠気は、サーカディアンリズムや概日(がいじつ)リズムとも呼ばれる体内リズムのピークがお昼と夜中に2つあることが主な理由であると考えられます。もし食事によって眠くなるのであれば、朝食後や夕食後にも眠くなるはずです。よくいわれている血糖値の上下もある程度影響はあるにせよ、眠気の体内リズムのピークが二峰性(にほうせい)になっているということのほうが要素としては大きいでしょう。仮眠の前にカフェインを摂るとよいとされていますが、それはカフェインを摂った後30分ほどするとその効果が立ち上がってくるからです。ですから、カフェインを摂った直後に昼寝をして、昼寝が終わった頃にカフェインが立ち上がってくるとちょうどよいのです。ただし、寝不足だとカフェインを摂ってもあまり効きはよくありませんし、摂りすぎは夜の睡眠を悪化させてしまうので注意が必要です。仮眠をするときは、横になれなくてもイスに座ったまま目を閉じているだけでも効果があります。目や耳からの情報がなくなると睡眠に似た状態に入りやすくなります。どうしても眠気に耐えられないときは、トイレの個室などで5分ほど目を閉じるだけでも効果的でしょう。忙しい日々においても、ちょっとした工夫でより良い睡眠を手に入れることが出来ます。ぜひ実践してみてください。 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2017年04月15日先天性ミオパチーとは出典 : 「先天性」とは「生まれつき」、「ミオパチー」とは「筋肉に現れる病気」を意味する言葉で、先天性ミオパチーとは、生まれつき筋肉に何らかの異常がある疾患の総称です。日本には1,000人~3,000人の患者がいると考えられているものの、正確な数字は把握できていません。推計によると10万人に3.5~5人が発症するきわめて稀な疾患で、国に難病として指定されています。筋肉にかかわる遺伝子の異常で発症すると考えられており、乳児期に発見される場合や、成人になって診断される場合など、発症時期は人それぞれ違います。乳児期に症状がみられる場合には、体を支える筋肉の張りが弱く、体がくにゃくにゃとしていることが多いようです。幼少期には座ったり歩いたりする運動発達の遅れ、成人期には疲れやすかったり、力が入らなかったりする自覚症状がみられます。先天性ミオパチー(指定難病111)|公益財団法人難病医学研究財団/難病情報センター先天性ミオパチーにはさまざまな病型があります出典 : 先天性ミオパチーは遺伝子の異常が原因で発症しますが、遺伝子検査で病型を分類することはせず、顕微鏡で筋肉の組織を詳しく調べ、その特徴からおもに4つの病型に分類します。同じ遺伝子に異常があっても筋肉組織に共通の特徴がみられない場合もあり、原因となる遺伝子を遺伝子検査で確定することはできても、病型を判別することはできません。また、あらわれる症状も病型ごとに決まっていないことからも、病型を確定する際には筋肉の組織を調べる方法を採用しています。・ネマリンミオパチー先天性ミオパチーのなかでも、発症頻度のもっとも高い疾患です。顕微鏡で筋肉の組織を見ると、糸くずのようなもの(ネマリン小体)が筋繊維の中にあるかどうかでわかります。心臓の筋肉に異常を引き起こすことはほとんどないと考えられています。・セントラルコア病、ミニコア病ネマリンミオパチーの次に発症頻度が高いことで知られています。軽症の方が多く、多くは乳幼児期の発達の遅れから発見されます。顔の筋肉にはあまり異常がみられず、体幹に近い筋肉に異常がみられることが多いため、この病型では側弯症や関節がかたくなってしまうことがあります。筋肉の組織は大きさが均一ではなく、細胞の真ん中にコアと呼ばれる果物の芯のようなものが見えることが特徴です。・ミオチュブラーミオパチー、中心核病遺伝形式から、男性だけに発症すると考えられており、軽症から重症まで症状の程度はさまざまです。筋肉の組織をみてみると、筋肉繊維になる前の段階の筋管細胞(ミオチューブ)に構造が似ていることが特徴です。・先天性筋線維タイプ不均等症、全タイプ1線維ミオパチー筋肉には、赤筋と白筋というふたつのタイプの繊維があります。この病型では、2つの筋肉繊維の量が均等ではなく、サイズも小さいことが分かっています。筋繊維が細く、未熟なことが多いために症状を発症するのではないかと考えられています。・その他、分類不能な先天性ミオパチー詳しい検査をしても病型がわからない場合には、分類不能な先天性ミオパチーと診断される方もいらっしゃいます。先天性ミオパチー(congenital myopathies)|日本筋ジストロフィー協会筋肉の障害や筋力低下をきたす難病『先天性ミオパチー』の新たな原因遺伝子を発見|横浜市立大学先端医科学研究センター市原靖子他/著『悪性高熱症とセントラルコア病』(日臨麻会誌26(2)、2006年)先天性ミオパチーはどんな症状がみられるの?出典 : 以下の2つの症状は、どの病型でも共通しています。・筋力低下、筋緊張の低下、運動発達の遅れ筋力が低下することで、転びやすかったり、階段の昇降がつらかったり、すぐに疲れやすかったりする症状が出ます。乳幼児では、筋肉の張りが弱いために姿勢を保てない症状のほか、首の座りや自立歩行など体を動かす発達に遅れがみられます。・深部腱反射の減弱または消失膝をたたくと、足がぽーんと上がる反射を深部腱反射と呼びます。先天性ミオパチーの人では、この反射が弱いか、もしくは反射がみられません。病型や重症度によって症状や合併症は異なります。以下におもな症状をご紹介します。・顔筋肉の異常:顔にある筋肉が弱いために細長い顔立ちとなり、表情が乏しくなることが多いようです・高口蓋:上あごのドームが高い形をしています・呼吸障害:呼吸不全や、痰が出しにくい症状などがあらわれます・心臓に関連した合併症:心臓が収縮するときに使われる筋肉の異常で心筋症、不整脈などがみられます・関節に関連した合併症:関節がかたくなってしまったり、側弯症など脊椎が変形してしまったりすることがあります・飲み込む障害:飲み込むための筋肉が弱いため、乳児では哺乳障害、離乳期以降では摂食障害がみられることもあります・てんかん:突然意識を失ってしまうなどの「てんかん発作」を合併する場合があります。脳のある部分の神経細胞が、異常な電気を突然発射してしまうことで発作が起きます。どのような発作が起こるかは、電気発射の部分で異なります。・知的障害:てんかんを繰り返すことで知的障害がすすんでしまうこともあります。先天性ミオパチー(指定難病111)|公益財団法人難病医学研究財団/難病情報センターインターネット講義:神経内科|浜松医科大学第1内科てんかん|厚生労働省各病型では、「重症先天型」「良好先天型」「成人型」と3つの重症度で区分されています。・重症先天型:新生児期から症状があらわれるのが重症先天型です。呼吸をすること、おっぱいを飲むことが自力では難しいので、人工呼吸器や経管での栄養補給が必要となります。・良好先天型:先天性ミオパチーを発症する方の大半は、この良好先天型です。良好先天型では、多くが乳幼児期の運動発達の遅れから発見され、特に首のすわりが遅いことが特徴です。他にも、歩き始めが2~3歳と遅いことが多く、転びやすかったり、階段で手すりを使わないと上り下りできなかったりという特徴がみられます。なお、筋力の低下は進行しないか、進行してもゆっくりであることが分かっています。心臓の筋肉に影響がある場合は少ないものの、呼吸筋が弱いこともあるので呼吸管理は重要です。良好先天型では、本人や周りも気づかないほど軽症のために、大人になってから診断される人もいます。目立った症状がない場合でも、アキレス腱が短い、高口蓋などの症状はあるようです。・成人型:成人になって全身の筋力、もしくは体幹に近い部分の筋力が突然低下してしまい、先天性ミオパチーを発症する場合には成人型に区分されます。なお、肺炎となって診断されることもあるようです。呼吸に関係する筋肉が低下して、飲み込むことが難しくなってしまった結果、誤嚥による肺炎を引き起こして診断につながるのかもしれません。先天性ミオパチー|一般社団法人先天性ミオパチーの会先天性ミオパチー(指定難病111)|公益財団法人難病医学研究財団/難病情報センター石黒 卓、他『呼吸不全と右心不全が初発症状であった成人型ネマリンミオパチーの 1 例』(日呼吸会誌 47(2)、2009年)先天性ミオパチーの原因は?出典 : 遺伝子の異常が原因で、筋肉をつくりだすたんぱく質がうまくつくられない、うまく働かないことで、筋肉の症状として発症します。先天性ミオパチーを発症している人を調べると、筋肉にかかわる遺伝子のひとつが異常が見つかるのが一般的のようです。なお、先天性ミオパチー全体でみてみると、発症にかかわる複数の遺伝子が発見されていますが、研究途上にあるために未解明の部分も多いのが現状です。遺伝子の異常ですので遺伝するものの、原因となる遺伝子の遺伝形式によっては発症しないこともあります。また、突然変異で発症する可能性もあります。ヒトは22対(44本)の常染色体と、1対(2本)の性染色体を持っています。先天性ミオパチーの遺伝形式は、「常染色体優性遺伝」「常染色体劣性遺伝」「X染色体劣性遺伝(性染色体の遺伝形式)」の3つのタイプがあります。同じ遺伝子であっても、「常染色体優性遺伝」と「常染色体劣性遺伝」のどちらかを取る場合があるなど、その遺伝形式はさまざまです。・常染色体優性遺伝:対になっている遺伝子のうち、片方が異常だと発症します・常染色体劣性遺伝:対になっている遺伝子のうち、2つとも異常だと発症します・X染色体劣性遺伝:X染色体上に遺伝子の異常があると発症します。ミオチュブラーミオパチーでの遺伝形式で、男性50%で発症する可能性があり、女性では通常では発症しません。女性の性染色体は「XX型」ですので、両方のX染色体に異常がないと発症しないためです。ただし、XX染色体のどちらかに異常遺伝子を持っている場合には、発症せずに保因者となります。先天性ミオパチー(指定難病111)|公益財団法人難病医学研究財団/難病情報センター先天性ミオパチーかなと思ったら専門家に相談を出典 : さまざまなかたちであらわれる症状に対して適切な処置を行うためにも、先天性ミオパチーを早期に発見することがとても重要です。そこで、幼少期に以下のような症状があれば、まずは小児科で相談をしてみてください。・体がグニャっとしていて首が前に起きない。(右写真)・ジャンプができない。・階段を昇るときに手すりを使う。・床から立ち上がるときに膝を使って立つ。・走ると遅い。・立ち上がるときにおしりをちょっと上げて立つ。先天性ミオパチーを疑う症状|一般社団法人先天性ミオパチーの会だた、先天性ミオパチーは、筋ジストロフィーなど、ほかの筋肉の病気と症状が似ていることも多いこともわかっています。精密検査をしなければ病気を確定できませんので、お近くに小児神経内科の病院があればそちらで相談してみましょう。遺伝カウンセリングで相談することができます。家族や親戚に先天性ミオパチーの方がいらっしゃるなど、不安な方は相談してみるのも良いと思います。遺伝カウンセリングは、大学病院など大きな医療機関に併設されていることが多いので、相談にあたっては紹介状が必要です。まずは、遺伝カウンセリングの希望を受診する医師に伝えましょう。先天性ミオパチーの診断出典 : 医師の診察では、顔立ちの特徴や体の動かし方を診るほか、高口蓋、頸屈筋の筋力低下があるかどうかなどを診るようです。医師の診察にくわえて、血液検査や筋電図検査、心電図、骨格筋画像検査なども行われます。これらの検査結果から、先天性ミオパチーの可能性が考えられる場合には筋肉組織の精密検査を行い、病気の確定と病型を判断します。また、遺伝子解析をしてどの遺伝子に異常がみとめられるのかについても分析します。埜中征哉『ここがポイント! 筋疾患患者の診察』第54回日本神経学会学術大会配付資料|一般社団法人日本神経学会先天性ミオパチーの治療出典 : 遺伝子の異常は、残念ながら現状では治せません。そこで、あらわれている症状や疾患にあわせて治療を進めていきます。筋肉は体全体にあるため、全身に症状があらわれます。そこで、複数の専門科の医師が医療チームを組んで、包括的に治療を行うことが多いようです。難病でもあることから、複数の専門科がそろっている大きな病院での治療が中心となります。・筋力低下の症状筋力が低下するのをできるだけ防ぐ、また今ある筋力量を維持するために、リハビリテーションでの治療が行われます。筋力低下で、歩くことができないなどの場合には人工装具や車いすを使います。・顔筋肉の異常、高口蓋(口の中の空間が広い。上あごのドームが高い)歯に影響が出ることもあるので、歯科治療が必要な場合もあります。・呼吸障害( 呼吸不全、痰が出しにくい)呼吸リハビリテーションを行ったり、非侵襲的人工呼吸器などを使ったりします。(非侵襲的人工呼吸器とは、気管切開をせずに鼻マスクを使って人工呼吸ができる器具のことです。)呼吸にかかわる筋肉に異常がみられると、呼吸障害を引き起こしてしまうため、早期の呼吸リハビリテーションがとても大切です。また、痰を出しやすくすることで、感染症を予防するも目的のひとつです。呼吸リハビリテーション施設の一覧のリンクで、お近くにある施設を探してみてください。呼吸リハビリテーション施設一覧|一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会・心臓が収縮するときに使う筋の機能が低下することで心筋症や不整脈などの合併症がある場合には、薬の処方など内科的処置をします。・関節がかたくなってしまう、側弯症など脊椎が変形してしまう症状には、定期的なリハビリーションで関節を柔らかく保つ、人工装具を使うことなどで対処します。・飲み込むための筋力が弱いと、乳児では哺乳障害・離乳期以降では摂食障害を引き起こします。言語療法や、栄養管理が必要になるかもしれません。・知的障害を併発している場合には、環境作りや療育など、本人にあった支援方法を実践することが大切です。・てんかんがある場合には、薬を服用して予防するといった内科的処置をする必要があります。症状が軽い場合には、日常生活を支障なく送れる人が多いようです。そのため、つらい時でも周囲にあわせなければ・・・と、つい無理をしてしまうこともあるようです。まずは体の負担を増やさないように無理はしないようにしましょう。体の負担が大きい場面、たとえば、長時間歩く遠足、体育の授業などでは、車いすを使う、見学するなどの配慮をしてもらうことも考えてみてください。体育で疲れ果てる、息がしづらくなる時には、もしかしたら呼吸筋の異常があるかもしれません。定期的にかかりつけの医師に相談しましょう。筋疾患では、筋ジストロフィーでの臨床研究が進んでいます。先天性ミオパチーでも、厚生労働省による「難治性疾患制作研究事業」が進められ、研究体制が整備されているところです。また、国立精神・神経医療研究センターが運営する患者登録サイト「Remudy」で、先天性ミオパチーのためのページが2016年8月に起ち上がりました。登録すると、最新の臨床研究や、ワークショップ、治験の情報などを受け取れるようです。Remudy(Registry of Muscular Dystrophy)は、臨床試験/治験を目的として、患者さまと製薬関連企業・研究者との橋渡しをする登録システム神経・筋肉疾患患者登録|国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センターこのほか、患者会に登録して、同じ先天性ミオパチーの方とつながりをもち、悩みなどを共有するのも良いかもしれません。先天性ミオパチー|一般社団法人先天性ミオパチーの会先天性ミオパチー患者会以外にも、筋肉疾患全体の患者会があり講演会や交流会が開かれているようです。ミオパチーの会オリーブ先天性ミオパチーの人が受けられる支援出典 : 国の指定難病のなかでも医療費助成の対象です。助成を受けるためには、医療受給者証が必要です。医療受給者証を発行してもらうためには、診断書と必要書類を合わせて、都道府県の窓口に医療費助成の申請をします。なお、「臨床調査個人票」と呼ばれる診断書が必要になるので、まずは医師に相談してください。参考リンク:平成27年7月1日施行の指定難病(新規・更新)|厚生労働省先天性ミオパチーは、小児慢性特定疾病にも指定されているので、通院や入院を問わず18歳未満の子どもの治療には医療費が助成されます。症状や検査の結果によっては、対象と認められない場合がありますので医療機関に相談してください。反対に、「重症」と認められた場合には自己負担金がなくなります。医療費助成のほか、日用生活用具の給付や、ピアカウンセリング(当事者やその家族などとのカウンセリング)も受けられる場合があります。支援内容は、自治体で異なるため、お住まいの地域のの保健センターに相談してみましょう。参考リンク:小児慢性特定疾病の医療費助成について|小児慢性特定疾病情報センター小児慢性特定疾病 重症患者認定基準|小児慢性特定疾病情報センター1ヶ月にかかった医療費の自己負担分が、一定の限度額を超えたときに高額療養費として返金される制度です。所得金額で自己負担分の限度額が異なるので以下のリンクを参照してみてください。高額な医療費を支払ったとき|全国健康保険協会症状によって、身体障害者手帳・精神障害者保健福祉手帳・療育手帳などの取得も可能です。障害者手帳を取得することで、障害の種類や程度に応じて様々な福祉サービスを受けることができます。障害のある子どもを対象にした国の支援制度です。支給される金額や必要書類は、障害の状態で異なるので、発達ナビでは制度の概要と申請方法を詳しく紹介しています。障害年金は、障害のある方を対象とした国の年金制度のひとつです。申請すると、障害の程度によって決められた一定の金額を毎月受給することができます。制度の概要や申請方法や支給金額などについて詳しく解説していますので、申請をお考えの方は参考になさってください。障害のある人とその家族への税金には、障害者控除などの優遇措置がとられています。障害のある人を対象とした税の優遇制度についてまとめた記事がありますので、ぜひご一読ください。ときには、医療型短期入所(ショートステイ)を利用して家族もリラックスしましょう。医療型短期入所は、重い障害のある人を自宅で介護している場合、医療型の施設に一時的に預けることで、介護している人も休息できるようにするサービスです。レスパイトケアサービス・子どもホスピスとも呼ばれていて、重い障害のある人と家族をともに支援をする動きが増えています。レスパイトとは「休息」「息抜き」「小休止」という意味です。また、親子のお出かけや旅行などのサポートをしているNPO法人もあるようです。親子レスパイトケアとは|特定非営利活動法人 親子はねやすめ家族もしっかり休めるように、施設をいくつか探しておくと良いかもしれません。以下のリンク先で、施設を検索できますので参考になさってください。短期入所(ショートステイ)|独立行政法人 福祉医療機構まとめ出典 : 遺伝子の異常が原因で発症する筋肉の病気、先天性ミオパチーをご紹介しました。非常に希少な疾患ですので、情報も少なくまわりに同じ病気の方がいらっしゃらず不安に感じていることも多いかと思います。分からないことや不安なことがあれば、医療機関で相談してみましょう。また、患者会などに参加し患者さん同士のつながりをもつのも良いかもしれません。国による研究体制が整いつつある段階です。運用が始まった国内の患者登録システムは、国際的な患者登録システムとの連携も想定しているそうです。すでに研究が進んでいる筋ジストロフィーの研究とともに、先天性ミオパチーの治療研究も進むことを願っています。
2017年03月31日大人のチック症とは?出典 : チック症とは、まばたきや首振り、咳払いなど、一見癖のように見える行為が間欠的に持続して現れる症状が特徴の、脳と神経の機能障害です。チックが出る子どもは10人に1,2人くらいと多く、その95%は脳の発達・成長に伴い症状が減少するといわれています。日常生活に困難がなく、周囲が受け止めてくれる環境なら、基本的に薬物治療は不要とされています。ただ、大人になってもチックが続いたり、治まっていた症状が環境や体調の変化をきっかけに再発したりするケースもあるそうです。2013年に出版されたアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患のための診断と統計のマニュアル』第5版)においては、チック症群/チック障害群という疾患分類に位置づけられます。かつてチック症は、家族関係の不調和などをきっかけとした精神疾患とされてきましたが、近年になって脳と神経の発達のアンバランスさが引き起こす症状であり、発達障害の一群と分類されることも増えてきました。参考リンク:厚生労働省|みんなのメンタルヘルス本記事では疾患の呼称を「チック症」、症状からくる動作や言動を「チック」と定義して説明していきたいと思います。『DSM-5』では、チックは以下のように定義されています。チックは, 突発的, 急速, 繰り返される不規則な運動もしくは発声(例:瞬目, 咳払い)である.(DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル 日本精神神経学会医学書院p239より)チックの種類は多種多彩で、首をかしげる、瞬きをするといった単純な動きから、モノに触る、相手の言葉を何度も繰り返すといった、複雑な動きを伴うものまであります。チックが起こる部位も様々で、脚に出ればジャンプ、口に出れば不自然なあくびなど、バラエティが豊富です。共通する特徴は、日常風景になじまない動作や声が、本人の意思では止め難く出てしまう、ということです。Upload By 発達障害のキホン『DSM-5』によると、チック症は1種類またはいくつかの運動性チックか、音声チックのみが18歳未満で発症し、1年以上継続しているもの、と定義しています。複数の動作のチックと音声のチックが重なって出現すると、トゥレット症候群と呼び名が変わります。こちらも発症の時期は小児~青年期が多いそうです。トゥレット症候群の発症率は10000人に4,5人で、神経系疾患の難病に認定されています。参考リンク:難病情報センター『DSM-5』によれば、チック症の診断基準には18歳未満で発症したものという定義があり、大人になって初めてチックが発症するケースは非常にまれだそうです。大人でチック症が出た場合は、小児期に未診断だったものの継続・重症化、あるいは再発である場合がほとんどだといわれています。大人になってから初めて症状が出た場合、チック症ではなく以下のような別の病気やその後遺症、薬の副作用の可能性があります。・ハンチントン病やウイルス脳炎などの後遺症による脳の中枢神経障害・コカインなどの薬物使用による副作用・てんかん、ジストニアなど、別の脳神経疾患また、チック症は他の発達障害や強迫性障害などの精神疾患を併発しているケースが一定数あるという指摘がされていて、研究が進められています。チック症は症状が多彩で一見すると癖と見分けがつかないため、本人も周囲も深刻にならずに生活しているケースは多々あります。また、チック症であるという認識があってもなくても生活に違いが出ないのであれば、診断や治療を受けなくても問題ない障害ともいえます。チック症の原因は?大人でチックが出やすくなる誘因は?出典 : チック症は脳の発達のアンバランスさによって引き起こされる障害です。なぜ突発的で生活風景になじまない動きや声が出てしまうのかは、いまだに解明されていない部分も多いそうですが、近年の研究によるとチックには以下2つの原因と3つの誘因があると考えられています。原因1: 神経伝達物質の代謝や分泌が影響している脳から分泌されるドーパミンという神経伝達物質の働きを抑える薬を服薬すると、症状が改善することが臨床医学的に証明されています。このことから、チック症はドーパミンを代表とする神経伝達物質の代謝と、代謝に反応した神経回路の活動過剰が原因ではないかという仮説が立てられ、研究が進められています。出典:チックとトゥレット症候群がよくわかる本星加明徳/監修(講談社,2010)P48より参考リンク:心療内科:前田クリニック|チック症原因2:神経が過剰に活動しやすい体質であるチックを起こしやすい体質には遺伝が関わっているとも考えられていますが、チックは子どもの10人に1,2人に症状が出るという事実から、体質自体は特に珍しいものではない、といえるようです。出典:星加明徳/監修「チックとトゥレット症候群がよくわかる本」(講談社,2010)P22~28より誘因1:成長や一時的な体調の変化がチックの増減に関係するチックが出た子どもの95%は、成長に伴いチックが目立たなくなるそうです。言い換えれば、第二次性徴期を過ぎると症状が落ち着くということになります。その一方で、臨床で月経前緊張症がチックの再発や悪化に関係したとみられる症例や、慢性的な頭痛、腹痛、長びく睡眠不足がチックの増減に影響したと推測される症例も確認されているそうです。誘因2:環境の変化がきっかけで症状の出方が変わるチックは精神的ストレスで症状が変わることから、環境要因が関与していることが指摘されています。具体例をあげると、親しい人との離別や転職、昇進などのプレッシャーをきっかけにしてチックが出て、環境に慣れるにつれて症状が減っていく、というようなケースです。誘因3:性格的にまじめで、繊細、誠実な人に出やすい環境要因と重複しますが、性格とストレス感受性は関係が深いため、繊細な人ほどプレッシャーを強く感じることが多く、チックを誘発しやすいという臨床心理的な推論があるそうです。参考書籍:森谷寛之著「チックの心理療法」(金剛出版,1990)大人のチック症の困り事って?出典 : チック症によってもたらされる困り事で、大人にも子どもにも共通するのは以下の4つです。・自分の意思では止められない/止めにくい・周囲に障害だと理解してもらえない・場合によっては誤解されたり悪意をもたれてしまう・苦しいのに援助の求め方がわからないこれまで述べてきたとおり、チック症は学校や仕事を休むほどの症状にならないことも多く、癖と見分けにくいため「障害」と認知されにくいのも特徴です。また、「発達障害」や「精神障害」に対する社会の誤解と偏見から、当事者や周囲の人々もチック症の理解や受容が困難になりやすいという面があります。つまり、チック症当事者のいちばんの困難は、「見えない障害」であるがゆえに誤解され、社会から排除される恐怖を感じること、と言えるのではないでしょうか?そして大人にとっては、社会から排除されることは生活困窮に直結しやすいため、その恐怖はさらに増すと推測されます。チック症のいちばん効果的な対処法は、前述の通りストレス回避とそのための環境調整です。しかし、大人は自活のために仕事上のストレスを慢性的に抱えています。それはチック症当事者も同様です。つまり、チック症の大人はストレス回避がしにくく、そのため症状が長引きやすく、それが当事者の困難をさらに助長するという悪循環になっているのです。言い換えれば大人のチック症の困難は社会が生んでいるともいえるわけです。実際に、チック症とその重症例であるトゥレット症候群で悩む人たちは、長い間、情報と治療法の少なさ、周囲の誤解と偏見に苦しんできたそうです。しかしこの10年来、障害の研究と理解は徐々に進み、当事者や支援者による訴えも実を結びつつあります。今ではNPO法人が運営する当事者支援協会も発足し、自助グループの活動も各地域に広がってきています。参考:日本トゥレット協会参考:トゥレット友の会このように長い間苦しみを抱える人がいた一方で、人生のうち1度でもチックが出たことのある人は10人中1,2人いて、そのうち5%は慢性化したり再発したりすることから、計算上は200人に1,2人が間欠的にチック症に悩んでいることになります。この人数から考えると、実はチックはごく一部の人の悩みではない、ともいえるのではないでしょうか?大人のチック症、医療機関で受診したほうがいい?出典 : チック症は本人に生活上の不便がなく辛さも少なければ、必ずしも受診が必要なわけではありません。しかし、仕事や学校生活に支障が出る可能性があるようでしたら、対処法を知るために一度受診してみることをおすすめします。チック症は心療内科や精神科で診察を受けることができます。チック症は脳神経の働きの乱れで症状が出るので、精神神経科、神経内科がある病院はさらにおすすめです。上で紹介した日本トゥレット協会のHPには治療・診察ができる病院のリストがあるので、どうぞご利用ください。参考:日本トゥレット協会|医療機関リスト大人のチック症、どんな治療をするの?出典 : チック症の治療は、一人一人の症状の程度に応じて治療方針が決められます。軽度の場合:身体や心理的なストレスを減らす本人に対してはまず、ストレスを減らすための環境調整の工夫が提案されます。具体的には医師や臨床心理士による本人へのカウンセリング、箱庭療法・認知療法・行動療法などの心理療法です。本人だけでなく家族やパートナーへの症状理解を促すガイダンスも治療の一環になることもあります。重度の場合:服薬や認知行動療法の指導を受ける環境調整だけではつらさが解決しない場合は薬物療法が有効です。症状が長期・慢性化していて頻繁だったり激しかったりする場合には、ドーパミンに作用する抗精神病薬が処方されることが多いそうです。これらの薬はふらつくなどの副作用が出ることもありますが、チックが出る回数が減ったり、動きや声が小さく目立ちにくくなったりすることが確認されているそうです。薬物療法の他に、チックをコントロールしやすくする認知行動療法も最近では注目されています。参考:前田クリニックチック症がある大人の方の、暮らしの工夫は?出典 : チック症は一時的に激しくなっても時間が解決することもある病気です。しかし、脳神経の働き方の癖が原因であるため、環境が変わったり体調が変化したりすると症状が再発する可能性があります。ケガや風邪のように薬や安静で完全に治癒する、とはいえないのがチック症の悩ましいところです。ただ、チック症はもともと自然経過のなかで軽減していくことも多く、環境調整が効果的な治療なので、本人がリラックスできる生活習慣を身につけておくことに一定の効果はあると思われます。そこで、以下に3つの生活上の工夫を提案します。周囲の人に理解をしてもらえると、不安や緊張感にさいなまれる気持ちはだいぶ軽くなるのではないでしょうか?チック症を診察してくれる医療機関や自助グループでは、症状理解のためのパンフレットを作成し、啓発を促しています。下記に参考リンクを2つ紹介するので、ぜひご覧ください。参考:厚生労働省|障害者対策総合研究事業「チック」や「くせ」をよく知ってうまくつきあっていけるように参考:NPO法人 日本トゥレット協会|もしかして「トゥレット症候群」ではありませんか?チック症の説明を自分ですることが難しい時に、これらのリンクをメモしておいたりパンフレットを印刷して携帯しておいたりすることも、理解者を増やしていく工夫の1つです。しかし、現実には周囲の理解は得にくい、チック症が出ていると伝えること自体に羞恥心や恐怖心があるとお悩みの方も、中にはいらっしゃることでしょう。そのような、一人で悩まれている方々には、ぜひお知らせしたい言葉があります。それは「合理的配慮」という言葉です。合理的配慮とは、障害のある人が障害のない人と平等に人権を享受し行使できるよう、一人ひとりの特徴や場面に応じて発生する障害・困難さを取り除くための、個別の調整や変更のことです。障害者差別解消法では、合理的配慮の対象は“法が対象とする障害者は、いわゆる障害者手帳の所持者に限られない”としており、様々な社会の誤解や偏見により困難がもたらされている人も含むと規定しています。不安や緊張感にさいなまれるチック症当事者には配慮を求める権利があり、配慮は行政や事業者の義務であると法律が定めています。また、当事者を支援するために家族やパートナーが代理で配慮を求めることも認めているのです。このような法律を持ち出さなくても、人間の多様性を認め互いに合理的な配慮を行うことで社会は円滑に運営できる、社会はそこまで成熟しつつある、という考えは今後も広まっていくことでしょう。チック症においては孤立しないということも広い意味での心理的治療になるといえるので、支援の手を憶することなく利用できるとよいですね。チックの兆しを感じたら一人になれる場所をあらかじめ作っておくのもおすすめです。個別の状況によりますが、上記で紹介した合理的配慮の具体例として、学校では保健室や空き教室、会社では会議室や備品置き場などを一時避難場所にしてもらったケースもあるそうです。ストレスをためない工夫や自分にあうリラックス法を見つけておくことは、長期的にわたるチック症の軽減、再発防止に役立つのではないでしょうか?リラックス法の例として、睡眠や深呼吸、ストレッチ、好きな香りのする小物や飲み物を携帯するなどがあります。ヨガなどの軽い運動は「体が心地よい状態」を自発的に作れるので、心身を整える効果があると言われています。リラックスした状態を自分の意思で再現できるようになれば、緊張することは減り、脳神経の反応も安定していくかも知れません。ご紹介した工夫以外に、最近では「ハビット・リバーサル」と呼ばれる認知行動療法がチック症の治療に有効であると言われています。具体的には、まばたきのチックが出そうな時、あえて指先など一点を凝視し、まばたきをしないように意識するというような行動訓練で、衝動を感じた時にあえて逆の行動をすることでチックを打ち消すという方法です。参考:トゥレット障害を含むチック障害ただし、ハビット・リバーサルはあえてチックを意識する行動療法なので、軽いチックには逆効果になることもあります。治療としてとり入れたい場合は、専門家の指導を受けながら計画的に進めていきましょう。大人のチック症、周囲の人にできることは?出典 : チック症はわざとではないのにやめられない、止まらない動きや発声が主な症状です。この症状に誰よりも苦しんでいるのはチック症の当事者です。ここでは、チック症に悩む当事者を支援するために周囲の人ができることを考えていきます。1. まずはチック症を理解する当記事でここまで述べてきたとおり、チック症は脳の機能障害で、脳の神経活動の不安定さが引き起こす症状です。チック症特有の言動の繰り返しに、とまどいやイラ立ちを覚えることもあるでしょうが、故意や悪意でやっているのではないことをぜひ理解してください。2. 日常生活では「温かい無視」を「温かい無視」とは、簡単に言うと症状を理解した上で見て見ぬふりをするということです。チックに苦しむ当事者にネガティブな感情をぶつけるのは論外ですが、はれものに触るような扱いも当事者を傷つけることはあります。症状のささいな変化には目をつぶり、チックは当事者の特徴の一つでいつかは消える、消えなくても大したことはない、とおおらかに受け止めることは、じゅうぶんな当事者支援になります。3. 求められた時には手助けする大人のチック症はまだ認知度が低いため、周囲の人がなかなか理解できないのと同様に、場合によっては当事者自身も気づいていなかったり、受容できずに苦しんでいたりすることがあります。周囲の人にできることの基本は「温かい無視」なので過度の手助けは考えものですが、チック症であるという自覚や受容ができないまま苦しんでいる場合は、相談に乗るなどの支援をしてもよいかもしれません。支援の仕方はチック症当事者との関係・距離感に応じて変わりますが、症状を抱えながらも努力し成長しようとする人が、社会に阻まれることなく暮らしていける世の中こそ、誰にとっても暮らしやすい社会であるはずです。チック症のあるなしに関わらず、すべての人がのびのびと暮らせる社会になるとよいですよね。まとめ出典 : チックは一見するとただの癖に見えるため、自分の意思でやめられると勘違いされやすいのですが、脳神経の発達のアンバランスがひき起こす障害です。時にはわざとやっていると誤解されたり、悪意を向けられたりすることもあるため、当事者は社会適応に困難を感じているのが現状です。チックは子どもによく見られますが、大人でも症状がある人はいます。学校や会社を休むほどの症状ではなくても、本人が苦しいと感じているのであれば、一度病院へ行き、相談をしてみてください。周囲の人々はチック症の特徴を理解し、当事者の困りごとに寄り添った「温かい無視」を心がけてあげてください。チック症の根本的な治療法はまだ確立していませんが、研究も日々進められています。チックとのつきあい方を知り、服薬などの治療を受ければ症状は緩和できます。その症状や当事者の暮らしぶりは少しずつ周知され、支援の輪も広がってきています。社会適応に困難を感じているチック症の方々は、「合理的配慮」という考え方をこの機会にぜひ知ってください。当事者も周囲の人々もチック症の知識と対応を学んで、チックで孤立する人を生まない社会を目指していきましょう。
2017年03月08日長男が受けた2度目の発達検査。そのとき受けた問診で…出典 : 約2年半前、長男が2度目の発達検査を児童精神科で受けたときのことです。知能検査と心理士さんによる問診が終わり、ホッと一息ついたところに、心理士さんから「気になることがあるので検査を追加したい」と言われ、たくさんの質問でいっぱいの問診票を渡されました。問診票には乳幼児・幼児期・学童期の年齢のグループごとに、それぞれ質問が並んでいました。質問の内容は、視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚など五感全てに関するもので、同じようなものが繰り返して出てきたため、さっきはなんて答えたっけなんて、少し混乱しながらチェックしていきました。初めて知った「感覚過敏」のこと。長男はどれほどつらかったのだろう出典 : 約4週間後、検査結果を聞きに行くと、長男の検査結果は、軽度の自閉症スペクトラムと強い「感覚過敏」があると言われました。このとき、初めて「感覚過敏」という言葉と症状を知りました。この日、主治医からは「これだけ感覚過敏が強いと、感覚過敏だけで不登校になってもおかしくない状態」「学校生活は、しんどくて大変だったはずだ」だと言われびっくりしました。主治医は、長男の聴覚過敏の状態を「長男が私語などでざわざわとした状態の教室で過ごしている状態=感覚過敏のない人が工事現場の中にいる状態」と私にもわかりやすいように具体的な説明をしてくれました。当時、長男からは、クラスの教室の状態はかなりうるさく、「後ろの席では先生の声がきちんと聞こえない」と聞いていましたし、立ち歩いたりちょっかいをかけてくる子もいるほど落ち着きのない時間もあったようです。そんな教室の状態に感覚過敏が加わっていたとは、どれほど辛い毎日だったのかと胸が苦しくなりました。長男に落ち着きがなく気が散りやすいのは、ADHDというより視覚過敏(目に入るもの全てが刺激になり集中しにくい)の影響が強いとも言われました。長男を苦しめた、感覚過敏の激しい症状とは出典 : 長男は、二次障害を起こして2年前の冬頃に体調の悪化が激しくなり、不登校になりました。体調が戻り始めるまで、いろんな感覚過敏の激しい症状が出ていました。感覚過敏の症状は、本人の体調やメンタルの状態によっても変わってくるようでした。たとえば一番体調の悪かった時期は、「服が肌に当たると痛い」と言って、真冬でも半袖でいました。本当は何も着たくないほど辛かったようです。食事は、味がなく「砂を噛んでいるみたいだ」と言いながらも頑張って食べていました。他にも、ちょっとした匂いが不快で気分が悪くなるようで、真冬に自室の窓を全開にしたりする日も結構ありました。雑音が辛くて、好きな音楽を大音量でかけることでかき消したりもしていました。他人にはなかなか理解してもらえない感覚過敏のつらさ。存在を知ることで変わることもある長男の感覚過敏を知り、それがきっかけで次男の感覚過敏にも気づきました。それから感覚過敏についても情報を集める中で、Twitterでの交流で知ったのが「ひといちばい敏感な子」という本です。Twitterでの交流やこの本を読むことで、息子たちだけでなく自分自身も感覚過敏を持っていることに気づき、とてもびっくりしました。Upload By でめきんちゃん『ひといちばい敏感な子』エレイン・N・アーロン (著), 明橋大二 (翻訳)、2015年、1万年堂出版息子たちの感覚過敏を知り、視点を変えて関わる中で感覚過敏への理解や対応の難しさを感じています。まず、「感覚過敏」そのものが世間にまだあまり知られていません。そして、知っていてもあくまで個人の「感覚」なので他者にはそのつらさが伝わりにくく、理解も得にくいのです。こうした状況だと、感覚過敏から起きる症状や言動が、神経質やワガママと誤解されやすいのだと思います。そのため、違和感や苦痛を感じながらの集団生活で我慢の限界を超えてしまい、二次障害を起こしたり不登校などになる子もいるのです。感覚過敏は、自分の感覚なので他者との比較をすることなく過ごしていることが多く、知らなければ本人や家族も気づきにくいことが多いことも、追い詰められてしまう一因になっていると思っています。実は次男も、味覚過敏で給食が食べられないことからイジメに発展し、不登校になりかけました。でも次男の場合は、先生の適切な対応で危機を乗り越えることができました。それは先生が、感覚過敏を知っていたからこその対応でした。周囲の理解と少しの配慮で、感覚過敏があってもしんどい思いをせずに過ごす事もできるのです。だから、まず「たくさんの方に感覚過敏というものの存在を知ってもらいたい!」と強く願っています。給食が苦手じゃダメですか?その偏食、もしかして感覚過敏かもしれません|Conobie
2017年03月05日