「金と自由は欲しいけど、何もしたくないーー」を貫いてきたタレントで漫画家の蛭子能収さん(74)。2020年夏に認知症を公表した後も、その“人生哲学”はまったく変わらない。絵を描くよりもテレビの仕事のほうが楽だしギャラもいいと言い続ける蛭子さんに突如湧いた「絵画展プロジェクト」。果たしてプロジェクトは成功するのだろうか……。(第9回/全10回)「蛭子さんの絵は、どこか人を幸せにする魅力があるんですよね」蛭子さんの「最後の絵画展プロジェクト」の第一作となる絵が完成したとき、この日、動画を撮影していたフリーのディレクター・小松隼人さんがぽつりと口にした。〈東京に負けた男〉(仮題)は、「東京で夢破れた」と思い込んでいる蛭子さんが自分の姿を描いたものだ。隣に立つのは、長崎に住んでいたときに勤めていた看板屋の社長だという。東京に打ちのめされた男は「もうだめだ……」と語っている。たしかに悲惨な状況かもしれないが、どこか見る者の心を惹きつけてやまない魅力がある。40年来の盟友・根本敬さんが語る。「無意識過剰の蛭子さんは、人間というよりも、動物的としかいいようのない生き方をしてきたんですよね。自意識や自我が手枷足枷となっている人たちにとって、蛭子さんが、自由に漫画で表現してきた絵や言葉、普段の自然体の発言や指向が心に刺さるんでしょう。認知症になったからこそ、アーティストとして、心に浮かんだものを思い通りに絵にぶつけてほしい。今、蛭子さんは、東京に負けた、負けたと思い込んでいる。それなら、東京に負けた男を徹底的に描き続ければいいんですよ」それにしても根本さんは本気だ。担当記者の私は「蛭子さんの認知症の進行をおさえるために絵を描かせる」程度に考えていた。さらに、その絵が、ほかの認知症の人たちを勇気づけられたらと思っていた。だが、根本さんはこう語る。「リハビリのための絵、では面白くない。“認知症になった蛭子さん”が描いた絵ではなく、あくまでも“芸術家・蛭子能収”として、今の蛭子さんが自由に描いた絵を見てみたい。次はアクリルで書いてもらうのがいいと思います」蛭子さんの絵画展プロジェクトに向けて体制は万全だ。あとは、蛭子さんがやるか、やらないか、だけの問題だ……。
2021年12月05日「金と自由は欲しいけど、何もしたくないーー」を貫いてきたタレントで漫画家の蛭子能収さん(74)。2020年夏に認知症を公表した後も、その“人生哲学”はまったく変わらない。絵を描くよりもテレビの仕事のほうが楽だしギャラもいいと言い続ける蛭子さんに突如湧いた「絵画展プロジェクト」。果たしてプロジェクトは成功するのだろうか……。(第6回/全10回)「あれ~どうやったっけ?」“最後の絵画展プロジェクト”に向けた作品を描いていた蛭子さんの手が止まった。絵のわきに添える文章を描こうとしたが「東京」の「東」の漢字が思い出せない。そばでみていた「蛭子能収の人生相談」担当記者の私・山内は、ノートに「東」と字を書いて蛭子さんに見せようとした。40年来の盟友である根本敬さんは、そんな“おせっかい”を手で制してこう問いかけた。「間違えたっていいんだよ。正しくなくてもいいよ。ひらがなでもいいじゃない」蛭子さんは安心した表情をみせた。絵を描きはじめて20分ほどが過ぎた。「せっかくだから色を塗ろうよ」と根本さんが声をかける。ところが蛭子さんは、少し遠くに座っているマネージャーの森永真志さんのほうをチラチラ見ながら、「次の仕事はなかったっけ?」「まだ大丈夫?」としきりに話しかける。あきらかに注意力が散漫になっている。やはり……。認知症の症状として「もの忘れ」が代表的だが「集中力の低下」も始まる。毎月1回1時間ほどの人生相談の取材でも、30分を過ぎると、蛭子さんは困った顔をして森永さんに「まだ大丈夫?」と聞く。森永さんが「大丈夫ですよ。次に仕事は入っていませんよ」と答えても、蛭子さんはソワソワがとまらない。蛭子さんの落ち着かない様子を前にして、いつも私は慌ててしまう。本日中に聞いておかなければいけない読者の悩み事はまだ残っている。なんとかしなければ。急かすように蛭子さんに“ゆるゆる”の回答をしてもらおうとしていた……。再び蛭子さんが森永さんに“ねえ助けてよ”という表情で「まだ大丈夫?」と声をかける。電池がとまったように、蛭子さんが右手にもったペンはピクリとも動かない。もはやこれまでか……。蛭子さんの集中力が切れたようだ。スケッチブックに描かれた絵は、黒いサインペンで描かれたまま。色が塗られていない。未完成といってもいい。蛭子さんのかつてのイラスト作品は、シュールさも魅力だが、グラフィックデザインを目指していただけに、独特な色彩感覚による色遣いも特徴のひとつだった。蛭子さんのキレやすい集中力──。絵画展プロジェクトの大きな壁となって立ちはだかった。
2021年12月05日「金と自由は欲しいけど、何もしたくないーー」を貫いてきたタレントで漫画家の蛭子能収さん(74)。2020年夏に認知症を公表した後も、その“人生哲学”はまったく変わらない。絵を描くよりもテレビの仕事のほうが楽だしギャラもいいと言い続ける蛭子さんに突如湧いた「絵画展プロジェクト」。果たしてプロジェクトは成功するのだろうか……。(第7回/全10回)“最後の絵画展プロジェクト”の初作品の製作は順調に進んでいたが、蛭子さんの集中が途切れるという問題が発生した。心配そうにキョロキョロとまわりを見渡しはじめる蛭子さんは、気持ちが乱れ、いまにも口から「面倒くさいんですけど」という言葉を出てきそう。サインペンはスケッチブックの横に置かれたまま。この状態から、なにか作業を進めることはほとんど不可能だ。「今日はこれまでか?」と記者の私が思ったとき、「休憩しましょうよ。お菓子でも食べませんか?」根本敬さんに同行した青林工藝舎『アックス』の漫画編集者・高市真紀さんが、絶妙のタイミングで声をかけた。担当編集者として、蛭子さんとは20年以上の親交がある彼女は、手土産の『チーズケーキ』を蛭子さんの目の前に差し出した。「あ~、おいしそうですね」大好きなスイーツを目にして、蛭子さんの表情に落ち着きが戻って来た。根本さんも一緒に、おやつタイムになった。根本さんが語りかける。「ねえ、横尾忠則さんの展覧会に行った?」「あれ~、行ったかな?どうでしたっけ」蛭子さんの代わりに、マネージャーの森永さんがかわりに答える。「蛭子さん、斬新な構図と色彩に目を奪われて“すごい、すごい”と息を荒くしていましたよね」蛭子さんにとって、グラフィックデザイナーの横尾忠則は憧れの存在。2021年10月17日まで東京現代美術展で行われていた横尾忠則の大規模展『GENKYO 横尾忠則』を見て、感激し、圧倒されたことを『サンデー毎日』の連載コラムに記していた。蛭子さんが、なにか思い出したように語り出す。「あ~、横尾さん、すごい大きな絵を描いていましたね。オレには、ちょっと、もうあんな絵は……。もうオレは負けました。アイデアや体力がもうない。もう横尾さんには追いつけないですよ」それを受けて根本さんが穏やかに話しかける。「横尾さんは、蛭子さんより10歳上だよ。それに蛭子さんが本気出したら、横尾さんにも負けないくらいの作品が描けると思うよ」「いや~、もう無理ですよ」とポリポリと頭をかく蛭子さん。「蛭子さんは『負けた、追いつけない』とかネガティブな考えになっているけど、オレは今でも蛭子さんがしっかり取り組んだらすごい作品が描けると思っているよ。そんな絵が完成したら、きっと100万円、200万円で買う人だっていますよ。これから本気を出して絵を描いていけば、蛭子さんが希望する、何歳になっても稼ぐことを実現できると思う。さあ、色を塗って、絵を最後まで描いてみようよ」「本当ですか?オレの絵が100万にも200万円にもなるなんて信じられないな……」根本さんの声に背中を押されて、蛭子さんはカラーサインペンに手を伸ばした。
2021年12月05日「金と自由は欲しいけど、何もしたくないーー」を貫いてきたタレントで漫画家の蛭子能収さん(74)。2020年夏に認知症を公表した後も、その“人生哲学”はまったく変わらない。絵を描くよりもテレビの仕事のほうが楽だしギャラもいいと言い続ける蛭子さんに突如湧いた「絵画展プロジェクト」。果たしてプロジェクトは成功するのだろうか……。(第10回/全10回)「なんか、すごい楽しかった」“最後の絵画展プロジェクト”のための作品を書き上げて、蛭子さんは晴れ晴れしい表情を見せた。「こんなに夢中になったのは、競艇を予想していたとき以来ですね……、あ~、最近、競艇場にいっていませんね」口も滑らかだ。そこで改めて「蛭子能収の人生相談」連載の担当編集・吉田が、最後の絵画展プロジェクトについて説明をはじめた。「蛭子さんが絵を描いている姿を見て、本当に、すごく感動しました。ぜひ絵画展をやってみませんか?この調子で作品を描いていけば、きっと素晴らしい絵画展ができますよ。実は今日は、そのプロジェクトの一環と考えて根本敬さんに来てもらったし、蛭子さんに絵を描いてもらったんですよ」蛭子さんから予想通りの返事が戻って来た。「絵画展?それはちょっと、面倒くさいですね……」吉田も引かない。「絵画展をやれば、入場料などのお金も入ってきますよ。そのお金で競艇にも行けますよ」それでも蛭子さんの心は揺れない。「オレの個展なんかしても誰も来ないと思いますよ。それにもう競艇に行く気がしないんですよ。お金をとられるばっかりですから……」吉田もさらに食い下がる。「絵画展で絵が売れるかもしれませんよ。さっき根本さんも言っていたじゃないですか。フランスやイギリス、世界中に蛭子さんの絵のファンがいます。もしかしたら100万円、200万円出すという人もいるかもしれない。きっと売れますから、絵を描いていきましょうよ」蛭子さんの口もとが緩んだ。「えっ、本当ですか?じゃあ、面倒くさいけど、ちょっとやってみようかな」汗だくになって説得を続けた吉田はホッと息をついた。そんなわけで、人を幸せにする、蛭子さんの「最後の絵画展プロジェクト」が、ーー蛭子さん気持ちが「お金」で動いたことはともかくとしてーー本格的に動き出した。(了)
2021年12月05日「金と自由は欲しいけど、何もしたくない──」を貫いてきたタレントで漫画家の蛭子能収さん(74)。2020年夏に認知症を公表した後も、その“人生哲学”はまったく変わらない。絵を描くよりもテレビの仕事のほうが楽だしギャラもいいと言い続ける蛭子さんに突如湧いた「絵画展プロジェクト」。果たしてプロジェクトは成功するのだろうか……。(第8回/全10回)スケッチブックに体をグーッと寄せながら、蛭子さんは黄色のサインペンで色をつけていく。どこか無骨だった絵が、色遣いが独特な蛭子カラーで彩られていく。黄色のペンを置くと、蛭子さんは消しゴムを手にした。鉛筆を使っていないのに、蛭子さんはサインペンで描いた線になぞって消しゴムをかけていく。まるで鉛筆で描いた下絵を消すように……。疲れが出て、なにか勘違いしていると思った「蛭子能収の人生相談」担当記者の私・山内は、「消しゴムを使う必要はありませんよ」と声をかけたが、蛭子さんは、ずっと消しゴムを使い続けている。40年来の盟友・根本敬さんがこう声をかけた。「いいよ、いい感じ。消しゴムで、黄色がぼやけて、紙に馴染んでくるね」うーん、蛭子さんと根本さんのコンビは、やはり絶妙だ。「ま、これでいいでしょ」と〈東京に負けた男〉(仮題)に、最後に赤いサインペンで着色し終えた蛭子さんが顔を上げた。満足そうに顔をほころばせている。蛭子さんが絵を描き始めて50分ほど。プロジェクトに向けた1枚の絵が仕上がった。「色がついた蛭子さんの絵はやっぱり違う!」「ペンに迷いがない!」「夢中に描いていましたね!」まわりからあがる感想を耳にして、蛭子さんは照れくさそうに笑う。根本さんもこう語る。「前の蛭子さんなら、白い空間をうめるためにUFOや女性の裸を描いていたけどな……。でも、まあ、ちょっと前の、手抜きのイラストよりは断然いいよね」テーマを自分で決めて、思い通りに絵を描く。昨今の蛭子さんには珍しいことだったのかもしれない。そのためには、周囲は、焦らせないで、気長に待つ姿勢が大切だが……。いずれにしても「最後の絵画展プロジェクト」に向けた第一作目が完成した。
2021年12月05日「金と自由は欲しいけど、何もしたくない──」を貫いてきたタレントで漫画家の蛭子能収さん(74)。2020年夏に認知症を公表した後も、その“人生哲学”はまったく変わらない。絵を描くよりもテレビの仕事のほうが楽だしギャラもいいと言い続ける蛭子さんに突如湧いた「絵画展プロジェクト」。果たしてプロジェクトは成功するのだろうか……。(第4回/全10回)40年来の盟友・根本敬さんが蛭子さんを動かした──。サインペンを手にし「なにを描けばいいですかね?」という蛭子さんに、根本さんはこう語りかける。「蛭子さんの好きなモノを描いてごらんよ。今、気になっていることとか、自由に描いてみてよ」蛭子さんは少し考えたあとで、「今は東京が怖い。金が稼げるけど、金をとられていくのも東京。すこし前は東京に勝ったと思ったけど、手強くて、なんか東京に負けたと思って……」と話す。「じゃあ、東京にやっつけられた人の絵を描きましょう」という根本さんの声とともに、蛭子さんが持つサインペンが動き出す──。一心にスケッチブックに向き合う蛭子さんを見ながら、根本さんが語る。「蛭子さんの漫画はどれもすごいんだけど、とくに脱サラして再デビューして描いた『地獄のサラリーマン』がすごい。81年に『ガロ』に載った作品だけど、それをみて“蛭子さんの漫画すごいな、おれも『ガロ』に載りたいな”と思っていたんだよね」作家で編集者の都築響一は、復刻された単行本『地獄のサラリーマン』の帯文に「漫画のひとりセックスピストルズ!破壊せよ、とエビスが叫ぶ」と記している。「蛭子さんは『これを書いて下さい』とテーマが決められるのは苦手でしょう。生活が苦しかった頃、虐げられていたこと、抑圧された気持ちなど、蛭子さんの地がダイレクトに出ている作品はやっぱりすごい。むき出しの欲望と暴力を描いた作品は、日本だけじゃなく、フランスやイギリスにも蛭子ファンがいる。蛭子さんの絵ならお金を払ってでも欲しいという人が世界中にいるんですよ」動いていた蛭子さんのペンが止まった。「ホントですか?世界中から金が入るんですか」蛭子さんの目がキラリと光った。
2021年12月04日「金と自由は欲しいけど、何もしたくない──」を貫いてきたタレントで漫画家の蛭子能収さん(74)。2020年夏に認知症を公表した後も、その“人生哲学”はまったく変わらない。絵を描くよりもテレビの仕事のほうが楽だしギャラもいいと言い続ける蛭子さんに突如湧いた「絵画展プロジェクト」。果たしてプロジェクトは成功するのだろうか……。(第5回/全10回)絵画展プロジェクトの1枚目になるであろう絵を、鉛筆で下絵を描くことなく、フリーハンドで仕上げていく蛭子さん。40年来の盟友・根本敬さんが語る。「本人も平気で言うじゃないですか、『漫画は原稿料が安い。テレビならみんなにバカにされるだけで10倍稼げる』って。たしかにそうなんだろうけど……。かつては狂気を内側から描いていたのに、お茶の間の人気を得てからは、まったくの手抜き状態でしたけどね。やっぱり蛭子さんは絵を描いていたほうがいいんですよ」蛭子さんにどんな作品を残してもらいたいのだろうか?「正直、今から漫画を描くのは難しいですよ。ストーリーも考えないといけないし、なにか締め切りに追い詰められでもしない限り描けないと思います。これからの蛭子さんは、一枚の絵で勝負すればいいんです。これまでのテキトーな絵じゃなくて、しっかり労力をかけて仕上げた蛭子さんの作品にはそれこそ100万円払ってもいいという人がいますよ」そんな根本さんの言葉に、突き動かされるようにペンを動かす速度が増す蛭子さん。〈狂気の漫画家〉から〈お茶の間の人気者〉になったことに、寂しい思いをしている人は少なくない。根本さんはその代表格だ。「蛭子さんのすごいところは、人間の基本である『自我』と『自意識』というのが欠落していること。つまり無意識過剰なところ。理想もプライドもない。見栄を張る、自惚れることもない。だから、漫画やイラストを描いても、いつかこういう作品を描きたいとか、目標や夢、製作欲が一切ない。金さえもらえたらいい。そんな世にも珍しい無意識過剰の人間だからこそ、自意識過剰な人たちばかりのテレビの世界で人気ものになったんでしょう。でも蛭子さんの才能はやっぱり絵で発揮してほしいんだよね」〈金さえもらえたらどんな仕事も引き受ける〉〈葬式で笑ってしまう〉〈自分の子どもの成長に興味がない〉〈蛭子さんのサインをもらうと不幸になる〉──根本さんは数々の蛭子さん伝説の発信元でもある。そんな伝説をまとった“タレント・蛭子能収”はさらに人気を博していった。そんな根本さんが、今、蛭子さんを芸術の世界に引き戻そうとしている。「蛭子さんは、日本のサブカルチャーに大きな影響を与えたアーティストとしての高い評価があるのに、本人はまったく無自覚。気づいていないんですよね。蛭子さんの作品を、もっと多くの人に知ってもらいたいよね」“日本一のクズおじさん”のイメージを世に広めた根本さんが、キュ、キュッと、スケッチブックにサインペンを滑らしていく蛭子さんを柔らかい眼差しで見ている。
2021年12月04日「金と自由は欲しいけど、何もしたくない──」を貫いてきたタレントで漫画家の蛭子能収さん(74)。2020年夏に認知症を公表した後も、その“人生哲学”はまったく変わらない。絵を描くよりもテレビの仕事のほうが楽だしギャラもいいと言い続ける蛭子さんに突如湧いた「絵画展プロジェクト」。果たしてプロジェクトは成功するのだろうか……。(第2回/全10回)蛭子さんが連載している『サンデー毎日』のエッセイ「ニンゲン画報」にはイラストが毎回添えられている。ただ、その筆力は、全盛期の蛭子さんの絵とはほど遠い。サブカルチャー業界を震撼させた、あの独特のタッチにも精彩がない。それ以上に「絵を描くのは面倒くさい」という蛭子さんの思いがひしひしと伝わってくる。今の蛭子さんに、絵画展を開催するまでの絵を描かせるなんて不可能だ。「じっくり絵に向き合ってもらうのは難しいですよ」と、担当編集の吉田に話しても聞く耳を持たない。「とっておきの秘策があるんですよ。最強の助っ人を呼んだんです。このプロジェクトに欠くべからざる最重要人物を」と吉田はにやりと笑った。──2021年11月某日、蛭子さんの人生相談の取材。その取材場所に、相談相手として現れたのは漫画家の根本敬さんだ。蛭子さんの40年来の盟友である根本さんに「友達が絵を描いてくれません」という相談をぶつけてもらい、そのまま蛭子さんに作品を描かせようというのが吉田の思惑だ。伝説のサブカル漫画誌『ガロ』を牽引した根本さんは、過激な作風の“特殊漫画家”としてカリスマ的な人気を誇る作家。さらに『蛭子博士』『蛭子ウォッチャー』という顔も持ち、<葬式で笑ってしまう>などの“蛭子さん伝説”を世に広めた張本人だ。2008年には漫画共作ユニット「蛭子劇画プロダクション」を結成してともに活動するなど、蛭子さんのすべてを知り尽くしている根本さんが協力してくれるなら、絵画プロジェクトも夢ではない!そんな根本さんと蛭子さんの再会──。ところが、根本さんをひと目見て蛭子さんが発した言葉は、「あ~どうも、初めまして」「え?」と表情を引きつらせる根本さん。蛭子さんは、根本さんの存在をすっかり忘れているのか……?蛭子さんの絵画展プロジェクトは、ガラガラと音を立てて崩れた……。(続く)
2021年12月04日「金と自由は欲しいけど、何もしたくない──」を貫いてきたタレントで漫画家の蛭子能収さん(74)。2020年夏に認知症を公表した後も、その“人生哲学”はまったく変わらない。絵を描くよりもテレビの仕事のほうが楽だしギャラもいいと言い続ける蛭子さんに突如湧いた「絵画展プロジェクト」。果たしてプロジェクトは成功するのだろうか……。(第1回/全10回)いつも笑顔を絶やさない蛭子さんの表情が固まってしまった──。それは、『女性自身』で連載中の「蛭子能収の人生相談」を担当する記者の私・山内太が、2021年夏に行った取材の合間の出来事だった。その日、軽い気持ちで蛭子さんに「デジタル庁のロゴ作成者を推薦で募集するという話があるんです。ちょっと書いてみてもらえませんか?」とお願いをした。手渡されたスケッチブックを前にした蛭子さんに、「“デジタル庁のロゴ”からイメージして、ロボットでもパソコンでも何でもいいので」と、ペンを渡したが、いっこうに描き始めない。「デジタルっぽいものを、テキトーに描いてくれればいいですよ」こちらがお願いすればするほど、蛭子さんは戸惑うばかり。時間だけが過ぎていく。「ロボットってどういうのやったっけ?」という蛭子さんに、スマホで検索した画像を見せながら、「いいですよ、ささっとで」と。蛭子さんは、ロボットらしき絵をなんとか描いたが、今度は「デジタル庁」の「デ」の文字が出てこない。「どうやったっけ?」──。時計を気にする蛭子さんのマネージャー。無表情のままの蛭子さん。「蛭子さんがテキトーに描けば、どんな絵でも“シュール”や“不条理”の味が出る」と高をくくっていた私。かつて、サイン会での蛭子さんは、サインを希望する人の似顔絵を添えていた。似ているかどうかはともかく、ささっと30秒ほどで書き終え、色紙を手にしたファンを喜ばせていた。認知症という病が、そんな蛭子さんの才能を奪っていった──。ところが、2021年秋、人生相談連載の担当編集者・吉田健一がこう口にした。「やっぱり今こそ“芸術家・蛭子能収”の作品が見たいんです」青春時代、サブカルチャーの影響を受け、蛭子さんが80~90年代に漫画を描いていた月刊漫画雑誌『ガロ』を愛読していた吉田は、“タレントの蛭子さん”ではなく“漫画家・蛭子能収”を信奉。「できればプロジェクトとして、絵画展ができるぐらい絵を描いてもらいましょう」とまで、のたまう……。デジタル庁のロゴを描いてもらったときのことを思い出すと、そのプロジェクトは成就しないことが明らかだった──。(続く)
2021年12月04日「金と自由は欲しいけど、何もしたくないーー」を貫いてきたタレントで漫画家の蛭子能収さん(74)。2020年夏に認知症を公表した後も、その“人生哲学”はまったく変わらない。絵を描くよりもテレビの仕事のほうが楽だしギャラもいいと言い続ける蛭子さんに突如湧いた「絵画展プロジェクト」。果たしてプロジェクトは成功するのだろうか……。(第3回/全10回)絵画展プロジェクトを成し遂げるための重要なカギを握っている“特殊漫画家”根本敬さんと蛭子さんの久しぶりの対面。だが、40年来の友人である根本さんのことを、蛭子さんはすっかり忘れていた。戸惑いながらも根本さんは、「漫画雑誌『ガロ』で80年代に一緒に描いていた根本だよ」と、自身の代表キャラで、気弱な丸めがねの中年男性「村田藤吉」の絵を描いて蛭子さんにみせた。しかし蛭子さんは「すみません、ちょっと忘れてしまいまして……」とポリポリと頭をかく。動揺をかくせない根本さんは、「ほら昔さ、みうらじゅんさん、平口広美さん、スージー甘金さん、杉作J太郎さん、霜田恵美子さん、山崎春美さんとか、みんな仲間で。一緒にソフトボールやったり、温泉に行ったりしたでしょ」と、蛭子さんになんとか思い出させようと、根本さんは昔話を次々と繰り出す。「あーなんか……ありましたね」根本さんと話をしていくことで、蛭子さんの頭がクリアになっていく。「でも、本当に根本さん?」「そうだよ、オレだよ、オレ!」「あ~声がそうですね。声をきけば根本さんですね」蛭子さんの表情がおだやかになっていく。「あ~本当だ、根本さんだ。ずいぶん年とったね……、あ、すみません、オレ、失礼なこと言うことがあって……」「知っている、知っている。蛭子さんは前から失礼なことしか言わないから」かすみがとれたように蛭子さんのなかで、目の前の男性が「根本敬」だと認識されていく。「蛭子ウォッチャー」の根本さんが語る、2人だけしか知らない昔話が盛り上がったところで、根本さんが蛭子さんに相談事をぶつけた。「実はさ、絵を描いてもらいたい友達がいるんですけど、いくら言っても絵を描いてくれません。すごく才能があるけど、自分にそれだけの力があると思っていない。でも、日本中だけじゃなくて、世界中にファンがいるんですよ」神妙な顔で聞いている蛭子さんは、「え、誰やろ、なんで描かないんやろ?」と首をかしげる。根本さんが続ける。「蛭子能収というんですが……」「……えっ、オレのこと?オレなら、ササッと描けるよ」と、蛭子さんは、根本さんが持ってきた画材道具に手を伸ばした。「根本さんは、何もしないの?」と根本さんに毒舌を吐きながら、蛭子さんはスケッチブックに向かい始めた。(続く)
2021年12月04日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「かわいがっていたワンちゃん『ミルク』(ビーグル犬)を亡くしてしまいました。7年間も離れずに一緒だったのに!!亡くなって3年ですが、テレビで犬を見ると今でも悲しみに落ちてしまいます。どうしたらいいですか?」(チャンエビさん・67歳・茨城県・主婦)【A】「こらえきれない悲しみや寂しさも、他人にとってはどうでもいいこと」(蛭子能収)オレは生き物をかわいいと思ったことがありません。ペットと一緒に暮らすなんて面倒だし、そんなに動物が好きなら動物園に行けばいいんですよ。(マネージャー「蛭子さんの奥さんも、かわいがっていた猫の「マロン」が亡くなったときはショックを受けて落ち込んでいましたよね」)あ~、そうでしたね。オレは世話が大変だったから猫が死んだときに「これで気兼ねなくパチンコに行ける」とちょっと思いましたが、女房に怒られるから「かわいそうだね」と言っときました。毎月の墓参りにも付き合って一緒に行きましたが、女房の悲しみはわかりません。たとえ夫婦でも、相手の悲しみや寂しさはわからないものですよ。まして他人にとってはどうでもいいこと。よその人がどうこうできることではありません。今でも悲しいと考えているだけでも、その犬は喜んでいると思えばいいですよ。女房にもそう言いました。本心では死んだら喜ぶはずはないと思っていましたけどね……てへっ!
2021年11月29日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「40代は仕事をバリバリやって、独立して、家も建てようと目標を立てましたが、50歳を前にしてすべて実行できず……。意志が弱くて根性のない自分、50代、60代はどうなっているか心配です」(リチさん・49歳・福井県・飲食店勤務)【A】「オレの生涯の願いは『金は欲しい。自由は欲しい。でもなんにもしたくない』」(蛭子能収)オレが40代のときはどうやったろ?もうすっかり忘れてしまいました。(マネージャー「そのころ、蛭子さんが作詞したあるバンドの曲では“金があればの40代”と書いていましたよ。この前、歌詞を見たじゃないですか」)あっ、そうでしたね。歌詞には「金は欲しい。自由は欲しい。でもなんにもしたくない」と書いていました。たぶん、40代でも70代でも、認知症になってもならなくても、考えることはそんなに変わらないですよね。それに意志が弱くても、49年間も生きているんだから、これから先も真面目にやっていけばたぶん大丈夫ですよ。(マネージャー「ギャラをもらっているんだから、もっといいアドバイスをしてください!」)ヘヘヘ……、こうやって、マネージャーに怒られてもニコニコしていればいいんですよ。あまり深く考えずに笑顔でいれば、意志が弱くても、根性がなくても、なんとか生きていけると思いますけどね。
2021年11月15日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「退職後、自由に過ごしたいと思っているが、妻に『歯を磨け』『風呂に入れ』とうるさく言われ、ほとほと困っている。誰に会うわけでもない毎日、そんなに小ぎれいでいないといけないのでしょうかね?」(サトピンさん・67歳・宮城県・無職)【A】「風呂に入ったり、歯磨きしたりするのは、自分のためではなく人のため」(蛭子能収)オレは小さいときから、トイレに行ったらいつもせっけんで手を洗います。オレ自身は気をつけているつもりはありませんが、母親にうるさく言われたからだと思います。(マネージャー「蛭子さんは意外ときれい好きですよね」)えっ?意外というのがちょっと傷つくけど……、いまでも食事のあとは歯を磨くし、風呂にも毎日入ります。面倒ですが、女房に嫌がられないためにしたことが習慣になっただけです。この人も、自分のためだけだったら身ぎれいにしようと思わないはずです。気持ちいいとかスッキリするとか自分にはどうでもよくて、奥さんのために風呂と歯磨きをすればいいですよ。(マネージャー「蛭子さんにも数年前からテレビに出演するときにスタイリストをつけて小ぎれいにしたら、その後、仕事が増えました」)えっ?知りませんでした。適当な変な服を着せられていると思っていました。年をとったら、人の言うことを黙って聞いたほうがいいことがあるんですね。
2021年11月08日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「BTSとファッションや美容が大好きな18歳の女子です。いつかはインフルエンサーになって、SNSで有名になって、いっぱいお金を稼ぎたいです。インフルエンサーとして活躍するために大切なことはなんですか?」(サッチンさん・18歳・山梨県・学生)【A】「人の気持ちがわからない人はインフルエンサーになれない」(蛭子能収)あわあわ……、この相談の意味がサッパリわかりません。インフルエンザになると高熱が出て大変だと思いますけど……。(マネージャー「インフルエンサーは、一般の人でもネットでの発言で影響力があって、広告でお金をもらえるんですよ」)でも、オレに相談しているのに、相手にわからない話ばかりしているんですね。そんな発想の人は人気も出ないし金を稼げないと思いますよ。オレが影響を受けた人は横尾忠則さんですね。この前、展覧会に行ってきました。(マネージャー「蛭子さん、興奮して『すごい、すごい』と見入っていましたね」)そうなんですよね。漫画家の根本敬さんやショートステイで知り合った人に「蛭子さん、絵を描け、描け」と言われますが、ペンを持つ気持ちにはちっともなりませんでした。でも80歳を過ぎても描き続けている横尾さんの絵を見ていたら、オレも絵を描きたいと思うようになりました。人に影響を与える人は、自然にそんな力があると思いますよ。
2021年11月01日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(73)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「上司から、旅先のお土産や実家から送られてきたという野菜をよくいただきます(あまりおいしくないけど……)。そのお返しに和菓子を買って渡しています。わずらわしくて嫌……。なんとか断る方法はないのでしょうか?」(シピロンさん・35歳・千葉県・会社員)【A】「贈り物は、お返し、お返しと繰り返される迷惑なもの」(蛭子能収)えっ?これは「こんなのいりませんよ」と笑いながら言えば終わりじゃないですか。(マネージャー「上司だから言いづらいんですよ」)そうですかね、贈り物って迷惑ですよ。今年の夏の甲子園に、オレが卒業した長崎商業高校が出たみたいで、差し入れをしたほうがいいよ、と言われましたが、オレなんかから何かもらったら選手たちが困ると思ってやめました。この上司にお返しをするから、贈り物が繰り返されるんだから、今度から何かもらっても、お返しをしたら迷惑になると思って、なにもしなければいいと思いますよ。オレはお中元もお歳暮ももらったほうが面倒くさいだろうと思ってやめたら誰からも来なくなりました。(マネージャー「先日『有吉クイズ』〈テレビ朝日系〉で、有吉〈弘行〉さんに結婚祝いに、2人の似顔絵を描いてあげたら、すごく喜んでくれたじゃないですか」)あっ、15分くらいでテキトーに描いた絵ですね。あれなら有吉さんもお返しなど考えなくてもいいですよね。
2021年10月25日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(73)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「私はバツイチですが、若く見られるせいか、男性のお客さんから声をかけられます。なかでもある60代半ばのおじさまは積極的。私もそばにいてホッとするような男性が欲しいなと思うことも……。勇気を出して付き合ったほうがいいですか?」(えみりんさん・49歳・宮城県・スーパー店員)【A】「恋愛をするなら他人の迷惑なんて顧みず、自己中心的に考えよう」(蛭子能収)うん!?(と、ペットボトルの飲み物を見ながら)え・び・す……、あれ?オレの名前が書いてある。(マネージャー「エビアンですよ。エビしか合っていませんよ」)な~んだ、最近、なんでも自分のものだと思うほど、ちょっと自己中心的になっています。え~と、この人の相談の手紙には「タレントの安めぐみさんみたいな癒し系のルックスです」と書いてありますが、たぶんですけど、お客さんから好意を寄せられているというのは思い込みですよ。でも、そのくらい身勝手なほうがいいと思いますよ。オレも、前の女房が亡くなってすぐに再婚を考えたのは、一緒に暮らして話したり笑ったりする女性が必要だから。(マネージャー「ファンレターを読み返して、かたっぱしから電話をかけていましたよね」)そうでしたっけ?でも結婚とかもそうだけど、誰かに自分から声をかけるなんて、他人の迷惑なんて考えていたらできませんからね。なんでも自分のものだと思う気持ちが恋愛には必要ですよ。
2021年10月18日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(73)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「異性の知人が亡くなって2年になるのに、心が苦しく死んでしまいたくなります。どうやったら、亡くなった人との楽しい日々を思い出せるのでしょうか?ああしておけば、もっと言うことを聞いてあげていれば、と考えています。」(ベンさん・?歳・愛知県・無職)【A】「笑いが止まらなくなるので深刻な相談はしないでください」(蛭子能収)オレは、こういう相談の答えはわかりません。でも自分としては、大事なときや困ったことがあるときは、とにかく笑っていればいいと思っています。オレも国語の授業でも1人だけ立って教科書を音読させられることがありましたけど、緊張するからかケタケタと笑いだして、一度も最後まで読んだことがありません。先生も笑ってるオレを見ると怒れなくなるみたいです。あと周りの同級生も面白がってくれました。ちょっと恥ずかしいけど、いじめられていたときもヘラヘラしていました。笑っていれば、なんとかなると思ったのかもしれませんね。この(相談者の)人は、悲しい顔をしていたら、よけいつらいと思いますけどね。笑うのは難しいかもしれないですけどね。(マネージャー「というか蛭子さん、この相談者の手紙を読みながら、さっきからすごくニタニタ笑っていますけど!」)いや~、こういう深刻な話を聞くと、笑いが止まらなくなるんですよ。だからこういう相談しないでくださいよ。
2021年10月11日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(73)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん〜介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「私は競馬が大好きで、週末は馬券を買って、テレビを見るのが生きがいです。みんなは『金をどぶに捨てるようなものだ』とケチをつけます。借金しているわけでもないのに。蛭子さんはギャンブル好きですよね、どう思いますか?」(心の叫びさん・69歳・東京都・無職)【A】「認知症になっても、みんなが笑ってくれればそれでいい」(蛭子能収)借金もしないでギャンブルをしているのならまったく問題ありません。誰になんと言われても、稼げるうちに稼いでいたほうがいいと思いますよ。でも、テレビじゃなくて競馬場に行ったほうがいいと思いますよ。雰囲気や馬を見ることで馬券の買い方も変わってくると思います。(マネージャー「蛭子さんもずいぶんボートレース場に行っていませんね?」)あれ、そうやったっけ?あまり覚えていませんし、あまり競艇をやる気もないです。2〜3日前に競艇をやっている夢を見たんですが、やっぱり負けてしまいました。もうどんなときでも勝てる気がしません。(マネージャー「最近のインタビューでも、競艇をやめたいと話していますけど……」)えっ、そうなんですか?まったく覚えていません。(マネージャー「でも最後にやりたいことを聞かれて「競艇」と答えてみんなを笑わせています」)それも思い出せません。でもボケたとしても、みんなが笑ってくれればオレはそれでいいんです。
2021年10月04日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(73)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん〜介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「町内のスーパーに「シニア募集」との張り紙があり、働くことにしましたが1カ月もたたないうちにイジメられて辞めてしまいました。前向きにファイトが信条。職探し中ですが、仕事がうまくいく方法を教えてください」(トッピィさん・64歳・岩手県・無職)【A】「仕事がうまくいく方法は、自分を受け入れてくれる場所で働くこと」(蛭子能収)シニアでも仕事がうまくいく方法ですか?テキトーでいいんじゃないですかね。(マネージャー「人生相談の回答も仕事ですよ、もっと真面目にやってください!」)あっ、すみません。でも、仕事は嫌なことをして金をもらうもの。よけいな信条とか持たずに、後ろ向きで頑張らないほうがいいですよ。それにしても職場で年寄りをいじめたり怒ったりする人は、すごく気の毒な人ですね、まいっか。オレは緊張するような場面で笑ってしまうクセがあります。なんか、人が真剣になっていたり泣いたりしている姿を見ると笑いが止まらなくなります。(マネージャー「笑いそうになったら、太ももをつねって、痛みでこらえたらどうですか?」)そんな痛い思いしなくちゃいけないなら、他人の目なんかどうでもいいですよ。オレはそんなクセがあるから人の葬式には行きません。でも、テレビでは面白おかしい人として受け入れてくれました。自分のクセを生かして仕事すればいいですよ。
2021年09月27日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(73)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん〜介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「妻が家事をしなくなっています。今は朝ご飯作りから、弁当作り、食器洗い、ゴミ出し、洗濯、風呂&部屋掃除、晩ご飯作りまで一手に引き受けている状態。現代の旦那はどこまで家事をやるのが適切ですか?」(苦郎丸さん・45歳・静岡県・会社員)【A】「オレの得意料理はカレーライスとライスカレー」(蛭子能収)今どきの旦那がどこまで家事をやるべきかわかりませんけど、そもそも、よその家とあまり比べないほうがいいですね。モヤモヤするだけですよ。適切な家事は、その家の奥さんが怖いかどうかで決めればいいですよ。そういえば、ここ何日かのオレは、女房が誰だかわからないときがあったようで、さっき「私は誰?私は何?」と怖い顔で問い詰められました。すごく緊張しましたが、なんとか名前と「嫁さんです」と正解が言えました。家事は女房に任せきりで頭が上がらないから、もっと家事を手伝おうと思っています。(マネージャー「蛭子さん、家事できるんですか?」)昔は、オレが好きなカレーライスとかライスカレーを作っていたと思いますけど。(マネージャー「カレーライスとライスカレーは何が違うんですか?」)なんやったっけ?たしかカレーライスのほうがちょっとおいしいです。とにかくカレーライスとライスカレーを交互に毎日作れば、女房も喜んでくれるはずです。
2021年09月13日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(73)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「私の彼はギャンブルが好きで、仕事が終わるとパチンコをして、休日には旅をしながら全国のボートレース場を回っています。ふだんはいい人ですが、ギャンブルになると目の色が変わります。一緒になるのが不安です」(ハチのプーさん・31歳・千葉県・OL)【A】「本当のギャンブルは結婚。たいてい予想は外れて負けるもの」(蛭子能収)目の色が変わるって、すごいですね。オレに相談するということは「大丈夫!」と断言してほしいのかもしれませんがどうでしょう?(マネージャー〈以下、マ〉「えっ?蛭子さんは前からギャンブラーは休日もお金を増やそうと努力している人だと言っていたじゃないですか?」)あれ、そうでしたっけ?でも、競艇やパチンコ以上のギャンブルは結婚だと思いますけどね。これから先、相手がギャンブルをやめるかもしれないし、もしかしたら、すごい万舟を当てて、大金持ちになるかもしれません。しっかり目の色を変えて読み切ることが大事だと思いますよ。まあ、たいていの予想は外れますけどね。オレは競艇やパチンコにつぎ込まなければ、今ごろはたくさん貯金があったはずだ、と女房に言われて反省しているんですよ。(マ「貯金がいっぱいあったら、何に使うんですか?」)それは、やっぱり賭け事をするしかないですね……。あれ、なんかおかしいですか?
2021年09月06日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(73)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】23歳の息子は、この春から東京で生活しています。私はずっと田舎で暮らしてきて、怖い都会で暮らすなんて信じられません。悪い誘惑も人も多そうなので心配です。なんとか連れ戻そうと思っていますが……」(黒い彗星さん・54歳・青森県・自営業)【A】「冷静になって先を見通せれば、どこでも負けない(競艇の話)」(蛭子能収)オレも東京はすごく怖いところだと思っています。お金を稼ぐところもいっぱいあるし、成功すればお金はたくさん入ってきますが、稼げなくなったら崖から落ちるようにダメになっていくのが東京です。オレは長崎の看板店から逃げるようにして上京しましたが、東京には平和島、江戸川、多摩川のほかに、すぐに近くに戸田(埼玉)と競艇場が4つもあって夢の世界だと思いました。ただ、オレの地元の大村競艇場は、インコースを走る1号艇が勝ちやすくて、配当金は安いけどけっこう当たっていたんです。でも東京にある競艇場ではインコースの選手でも簡単に勝てないから、予想がかなり難しいんですよね。(電話で席を外していたマネージャーが戻って来て「大丈夫ですか?」)冷静になって、しっかり先を見通す力があれば、どこでも負けないと思います。息子さんも大丈夫だと思って信じてあげたらいいですよ。(マネージャー「よくわからないけど、なんかいいこと言っていますね、蛭子さん」)
2021年08月30日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(73)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん〜介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「小学生の息子は要領が悪くて、授業で絵を描いても完成できなかったり、出された課題が終わらなかったりして先生にいつも注意されています。大人になっても不器用な人生を歩むのかと思うと心配です」(光GOーさん・39歳・滋賀県・主婦)【A】「要領が悪かったら、要領のいい人と仕事をすればいい」(蛭子能収)要領が悪いって、どういう意味ですか?(マネージャー〈以下、マ〉「段取りが下手だったりうまく処理できなくて失敗しちゃったりするんじゃないですか」)そんなことでも先生は怒るんですね。なんだかかわいそうな大人ですね。どんな人でも得意なことがあるから、息子がそれを見つけられるようにしてあげたらどうですかね。オレも要領がいいとは言えなかったと思いますけど、漫画を描くことを見つけて、それで金を稼ぐことができましたから。(マ「そういえば『サンデー毎日』の連載をまとめた『おぼえていても、いなくても』の漫画がいいと評判ですよ)最初のころの漫画は背景をしっかり描いていて、自分でも丁寧に描いていましたが、今は面倒くさいからテキトーになっています。(マ「認知症になってからの漫画には味があると言われています」)そんないい加減な作品を描いても、1冊にまとめられる編集者はよほど要領がいいんでしょうね。そんな人と付き合っていきたいです。
2021年08月23日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(73)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん〜介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「職場にあった雑誌を見てメールしました。社員として固定給で働いていますが、フリーになった先輩から一緒にやろうと誘われています。収入が不安定になるフリーになるのが不安で迷っています。どうしよう……」(ヤッシー春さん・26歳・宮城県・美容師)【A】「ボケていても、いなくても、フリーには稼ぎ続ける覚悟が必要」(蛭子能収)あれ〜、フリーと正社員はどちらがいいかという相談は何回も来ていませんか?雑誌に載ることがわかっているのだから、おもしろい困りごとだったり、違う角度の悩みごとだったりしたほうがいいですよ。それがわからないんだったら、フリーにならないほうがいいと思いますけどね。(マネージャー〈以下、マ〉「まあ、そう言わずに。蛭子さんが7年半勤めたダスキンを辞めたときは不安がなかったんですか?」)よく覚えていません……、というか、オレはフリーでしたっけ?(マ「漫画家として独立したから、30歳からフリーランスですよ」)あ、そっか。家族4人で暮らしていかなくちゃいけないから、覚悟を決めたら、ぽつぽつと原稿依頼が来たような気がします。(マ「フリーとして40年近く働いて『サンデー毎日』の連載をまとめた新刊『おぼえていても、いなくても』を出版するんですから、すごいですよ」)フリーには“ボケていても、いなくても”稼ぎ続ける覚悟が必要ですよ、ポリポリ……。
2021年08月16日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(73)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「働きはじめて3カ月の新入社員です♪前は友だちと会うことが楽しかったのに、今は仕事のことで頭がいっぱいで会うのが面倒くさ〜い。でも、友だち付き合いがおっくうになっていくと思うと寂しいです♪」(なっちゃんさん・22歳・群馬県・会社員)【A】「『おぼえていても、いなくても』のほうが、『認知症になった蛭子さん』より面白い」(蛭子能収)ハートマークがいっぱいで、本当に悩んでいるんですかね……ま、いいか。オレにとっては理解できないけど、仕事も友だち付き合いも優先順位が上のほうで、今は仕事がちょっと勝っているんでしょうね。(マネージャー〈以下、マ〉「何かを得るためには、何かを捨てなくてはならない!いいこと言いますね」)どちらも面倒くさいものだから、テキトーにやっていればいいのに。そういえば優先順位ではないけど、最近は、オレも一応、ギャラが高い安いとかいろんな理由で重要かどうか考えて仕事しています。(マ「8月2日に出版される蛭子さんの『おぼえていても、いなくても』〈毎日新聞出版〉はエッセイだけでなく、イラストや漫画をぎっしり描いていましたね」)あ~、あれは、担当の人が、いつもアップルパイとかどら焼きとかオレの好物を買ってきてくれるので一生懸命描きました。この、どうでもいい人生相談をまとめた本(本社刊『認知症になった蛭子さん』)よりも面白いですよ♪♪♪
2021年08月02日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(73)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「蛭子さんが好きで、競艇やパチンコなどギャンブルもやってみたいと思っていますが、私はのめり込みやすい性格なのでどんどんドツボにはまっていく気がして……。ハマらない方法を教えてください」(オリオリさん・26歳・東京都・会社員)【A】「ギャンブラーは、休みの日にもお金を増やそうとする働き者」(蛭子能収)18歳からパチンコ、20歳から競艇をしていて、オレの人生からギャンブルをとったら何も残らないかもしれませんね。(マネージャー〈以下、マ〉「『認知症になった蛭子さん』を読んだ人が、新婚旅行で3日連続、競艇場に通った蛭子さんを“クズすぎる!”と話していました」)えっ、そんなことあったっけ?オレはギャンブルをしてお金を増やそうとしていただけ。休みの日でも競艇場に通っていたから、自分ではすごく働き者だと思っていました。気をつけていたのは、帰りの電車賃は残しておくことと、人から金を借りてギャンブルをしないこと。これさえ守っていればハマりませんよ。それにしても、認知症になってからは賭けごとに興味が湧きません。前までは、競艇でもパチンコでもギャンブルをやらない人は、いったい何が楽しくて生きているのかまったくわかりませんでしたが、今のオレはその人たちと同じです。(マ「本当ですか?」)ええ、もうギャンブルはやりません、賭けてもいいですよ。
2021年07月26日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(73)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「私は、恋愛小説を書いています。小説家になりたくて、それを目指してがんばっています。蛭子さんにその小説を読んで感想を聞かせてほしいんです。ダメですか?それなら、何かいいアドバイスを!」(苺ベリーズさん・21歳・栃木県・専門学校生)【A】「本を書こうと思うなら人がやらないことをやるべき」(蛭子能収)恋愛なんか興味ないし、そもそも字を読むのが嫌いだし……。たぶんオレがその小説を読んでも何にも感じないと思いますよ。アドバイスですか?オレが漫画を描くときに心がけていたことってありましたっけ?(マネージャー〈以下、マ〉「蛭子さんのデビュー作の『パチンコ』はパチンコ店に辿り着けない男の話で、パチンコ台が一切出てこない衝撃作でしたよ」)そうそう、とにかく、人がやらないことをやろうと思っていました。チリ紙交換のときも、みんなが行かないようなところで古新聞を探していましたし。あとは関係ないコマに毛沢東とかUFOの絵を入れたり、タイトルを不可解にしたりして、読んでいる人に「?」と思わせようとしていました。大事なのは、最後まで描き切ることですよ。あとはなんとかなりますよ。(マ「がんばって『認知症になった蛭子さん』も書き切りましたものね」)あ、オレ、その本、書いていないし読んでいません。(マ「著者がそれを言ってはいけません!」)
2021年07月12日神様・仏様に願掛けしたいことのひとつが病気の平癒。’20年に認知症であることを公表した蛭子能収(73)の妻・悠加さんがは、小さいころから祖父母の影響で神社やお寺に行くことが多く、今でもよく参拝しに行くという。そんな悠加さんが、以前から会いたかったという神社仏閣ナビゲーターで心理カウンセラーの尚さんと語り合いましたーー。尚「初めまして。『認知症になった蛭子さん』を読ませてもらいましたが、ご主人の介護を1人で抱えられていた時期は大変でしたね」悠加「今日は初めてお会いできるのを楽しみにしていました。尚さんの“霊視”に関する本を読むなどして、ぜひお話を伺いたいと思っていました」尚「小さいときから霊的なものが見えていたそうですが?」悠加「小学校3、4年生までは布団に入ると、目の前に天使か妖精のようなものが帯状に光って見えたことがありました。あとは旅行先の宿で『これはヤバいな』という雰囲気を察して部屋を変えてもらうこともあります」尚「ふとした瞬間に、なにか霊的なエネルギーのようなものが見えているはずです。神社仏閣に行かれることも多いそうですね」悠加「はい。小さいときから祖父母の影響で、神社やお寺に行くことが多く、今でもよくお参りに行っています。実は、認知症を発症する前の主人は、霊をはね返してくれていました。一緒にいても、禍々しいものははね返してくれる安心感が。それでも症状が進むと、その力が弱くなったようで……」尚「気持ちが沈み込むと、エネルギーが弱まりますからね。霊は助けてくれる人を見つけて頼ってきます。でも、蛭子さんに訴えても聞いてもらえないことを霊はわかっているようです(笑)」悠加「主人は霊的なものなどはまったく信じていませんからね」尚「たぶん、もともとは信仰のあつい家系だと思います」悠加「だから、蛭子家がもともと氏子だったといわれる日和佐八幡神社(徳島)に行ったり、えびす様をお祭りする西宮神社(兵庫県)に主人を連れて行ったりしました」尚「蛭子さんに限らず、今の時代、信仰心を受け継いでいくことは困難です。だから、信仰に理解のある悠加さんとのご縁が、蛭子さんのご先祖さまの計らいでつながったという気がします」■神社からいただく縁により状況が好転することも悠加「(ぼけ封じ寺社の一覧を見ながら)玉川大師(東京都世田谷区)さんは、よくお参りしています。認知症に御利益のあるお寺だとは思っていませんでしたけど……」尚「今ほど医療が発達していなかったから、昔の人は、疫病に関して神社仏閣がよりどころ。わりと健康祈願はどこの神社仏閣でもできますが、ぼけずに健康で長生きすることに特化した寺社をあげてみました」悠加「どのようにお参りすればいいのでしょうか?」尚「ぼけ封じの寺社だけではなく、神社ならご祭神、お寺ならご本尊、その土地の神様であるお稲荷さんが祭られていたら、ぜひご挨拶してください。また、ご祈願されることがあれば、お礼参りも忘れないでくださいね」悠加「介護で感じたのは、認知症の人だけでなく、介護している家族もつらい思いをすることです」尚「神社やお寺に参拝することは、ご神仏とのご縁をいただくことです。そしてご神仏はさらに、参拝者にとってのよりよいご縁をつないでくれます。以前、義理のお母さまが認知症になって悩んでいた方にお参りを勧めたら、施設にすんなり入ることができたことがありました。素敵なヘルパーさんやいい施設など、人や場所などとのいいご縁がもらえたりすることもあるのです」悠加「なるほど。私は『自分がやらなければ』と1人で背負い込み、介護しているときは、視野がすごく狭くなっていました」尚「神社やお寺に行って、少し落ち着いた気持ちになれば、違う視点から物事を考えられるきっかけにもなります。ぜひ、介護するご自身の幸せのためにもお願いしに行くことも大事です」悠加「主人のように自分ファーストのスタンスで、霊や介護とも接したほうがいいのですね。ありがとうございました」
2021年07月07日神様・仏様に願掛けしたいことのひとつが病気の平癒。’20年に認知症であることを公表した蛭子能収(73)の妻・悠加さんは、小さいころから祖父母の影響で神社やお寺に行くことが多く、今でもよく参拝しに行くという。そんな悠加さんが、以前から会いたかったという神社仏閣ナビゲーターで心理カウンセラーの尚さんと語り合いましたーー。尚「初めまして。『認知症になった蛭子さん』を読ませてもらいましたが、ご主人の介護を1人で抱えられていた時期は大変でしたね」悠加「今日は初めてお会いできるのを楽しみにしていました。尚さんの“霊視”に関する本を読むなどして、ぜひお話を伺いたいと思っていました」尚「こちらこそお会いできてうれしいです」悠加「主人に認知症の症状があらわれたのは’17年ごろからですが、芸能ネタになってしまってはいけないと、悩みを誰にも打ち明けられませんでした。その3年間はずごくつらかったですね。いまも『おかしい』と『しっかり』が混在していて、症状がよくなることはありません。でも、最近は主人の調子や表情が穏やかな気がします(と、スマホを取り出し、蛭子さんの近影を見せる)」尚「明るい笑顔が印象的ですね。悠加さんも穏やかで、壮絶な介護体験をされたとは思えません。介護サービスなど人の手を借りることで心に余裕が生まれたのでしょうか。認知症の人は、介護者の気持ちを映す鏡のようなものです」悠加「今は明るく楽しく接してあげられているかなと思います」尚「(蛭子さんの写真を見ながら)日常生活で働くはずの脳の部分に靄がかかっているように見えるのが気がかりです。でも好きなことをやっているときに働く脳の部分には問題がないようですね」悠加「主人の好きなことといえばギャンブルですね(笑)」尚「ただ、その一方で、日常生活のことを考えるエネルギーが弱々しい。『日常生活』と『好きなこと』が融合できれば、脳にも好影響が出そうです」悠加「本当は、主人に絵を描いてほしいなと思っていますが……」尚「絵を描いても認知症の進行が遅らせられるかというと、必ずしもそうでもないようです」悠加「たしかに本人は、認知症になってもギャラの出ない絵は描きたくないと話しています(笑)」尚「小さいときから霊的なものが見えていたそうですが?」悠加「小学校3、4年生までは布団に入ると、目の前に天使か妖精のようなものが帯状に光って見えたことがありました。あとは旅行先の宿で『これはヤバいな』という雰囲気を察して部屋を変えてもらうこともあります」尚「ふとした瞬間に、なにか霊的なエネルギーのようなものが見えているはずです。神社仏閣に行かれることも多いそうですね」悠加「はい。小さいときから祖父母の影響で、神社やお寺に行くことが多く、今でもよくお参りに行っています」尚「お参りした瞬間は心が軽くなるけど、帰るころにはずっしり気持ちが重くなっていることはありませんか?」悠加「あ!はい、あります。なんとなく、お参りした後に、自分で、自分ではないと思うような感覚になり……。そんなときはお風呂に御神酒を入れたり、部屋にお塩や榊のスプレーをまいたりしておはらいをしています」尚「悠加さんは性分として、霊的なものの声を聞いて差し上げている感じがします。声を聞いたうえで『自分ができることはないか』とつねに考えているようですね」悠加「はい……」尚「お優しい悠加さんのエネルギーはとても繊細で、そこに頼ってくる霊体も少なくありません。ご縁のある霊だったらいいのですが、神社仏閣を巡ると、そのぶんいろんな霊を連れて帰ってきてしまう。さぞおつらいだろうなと……」悠加「実は今朝、3、4年ぶりに金縛りにあったんです。この1週間、心が乱れることがあって、つい先日、神社に行って気持ちを整えたばかりでした。でも、それ以降、なんだか怒りっぽくなり……。なにか霊障的なものがあるのか見てもらいたいんです」尚「実は女性の姿が見えます。女性の霊なのかなと感じます」悠加「そうなんですね……」尚「でも、今までどおりのおはらいをしていればいつか離れていくでしょう。ただ、悠加さんは生まれつき自己犠牲の精神が備わっていて、それを頼ってくる霊を背負い込みやすいエネルギーをもっています。霊が離れたとしても、いずれまた助けを求める別の霊を背負い込んでしまいます。その繰り返しでは、体が持ちませんよ」悠加「はい。でも、どのようにすればいいのでしょうか?」尚「ある程度、霊を手放すことをしていかないと。『私はなにもできません』という気持ちで突き放すことも大事です」悠加「金縛りにあったときなどにも『もう私はなにもできない』と言えばいいですか?」尚「そうですね、そんな気持ちがバリアのような働きをするのです。ご主人の病気もありますからね、今はちょっと無理ですと」
2021年07月07日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(73)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん〜介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1,320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「私は、今、とってもつらく、闇の中にいます。死ぬことすら考えています。すべて父のせいです。お金には恵まれています。でも、これから先の人生を考えると……、生きていくのが嫌になりました」(匿名希望さん・新潟県・無職)【A】「死んだことがないからわからないけど、たぶん生きているほうが楽しいはず!」(蛭子能収)これまで一度も死んだことがありませんけど、オレは、死ぬよりも生きているほうが楽しいことがあると思うんですよ。でも、チャラチャラした回答はしにくいですよね。お父さんと何があったかわかりませんが、やっぱり、生きていれば楽しいことがあると思うんです。もしかしたら楽しくないかもしれないけど、楽しいと思うしかありません。それにオレは死ぬのがすごく怖いんですよね。(マネージャー〈以下、マ〉「子どものときに流れ星を見てから死が怖くなったんですよね!」)あ、そうそう!死ぬときは、流れ星のようにフッと消えちゃうのかなと……。そういえば、オレは認知症になってから、流れ星なら、もう輝いていない状態かもしれませんね。(マ「そんなことないですよ。『認知症になった蛭子さん』も出版したし、何歳になっても仕事をしたいと思えることはすごいです」)あ、そっか。じゃあ、オレは“認知症の星”になって、もっと稼がせてもらおうかな。
2021年07月05日