「日本の子ども部屋」に欠けている大事な思想。子どもの個室が持つ本質的な役割とは
そのため、個室をどう使えばいいのかわからず、当初は夫婦の寝室として使われていただけでした。そのうち、高度経済成長時代になると、「子どもをいい大学に行かせよう」という高学歴至上主義のムーブメントが起きました。
親は子どもにしっかり勉強をさせたい。でも、仕事を終えて帰ってきたお父さんはビールを飲みながらテレビでプロ野球中継を観たい。そんな場所で子どもに勉強をさせるのは忍びないということで、自分たちの寝室を子どもに与えて勉強をさせた。さらに、1950年代後半に日本で学習机が生まれたことも相まって、日本では子どもは子ども部屋で勉強するという習慣が根づいたわけです。
そう考えると、ここ数十年で偶然できあがったような歴史の浅い習慣を疑問視してみることも大切です。リビングやダイニングで勉強することが子どもにさまざまな力を与えてくれることはすでにお話したとおりです(インタビュー第2回参照)。
だとしたら、子ども部屋は、やはりアメリカ式の自立を促すための訓練をする場所と認識を改めるのがいいのではないでしょうか。
でも、とくに都市部に住んでいて子どもの数が多いという場合には、子どもそれぞれに個室を与えることができないということもあるでしょう。あるいは、子どもが高校生くらいになってふたり部屋や4人部屋の寮制の学校に行かせるといった場合もあります。そういう部屋では自立を促す訓練ができないのかというと、そうではありません。
複数人で部屋を共有する寮がそうであるように、同じ部屋であっても自分のエリアを持つことができればいいのです。きょうだいのあいだでも、「ここはあなたの場所だよ」と決めてあげて、そのエリアを自分でコントロールできるようにするのです。
個室を通じて、自由と責任をセットで教える
もちろん、与えっぱなしではいけません。先に述べたように、個室や自分のエリアは、整理整頓能力とインテリア構築能力といった力を身につけさせるための場所です。
でも、とにかくものを出したら出しっぱなし、すぐに散らかしてしまう子どももいるでしょう。そのとき、親が片づけてしまっては、それらの力を構築するチャンスを奪うことになってしまいます。加えて重要なのは、自由になる空間を手に入れることは、責任が発生することでもあるということ。それを子どもにも認識させてほしいのです。たとえば、親子で話し合ったうえで、「自分の部屋を散らかして3回叱られたら、個室は没収」