くらし情報『最果タヒ「千年の時を経ても、ロマンを届けてくれる」 百人一首にみる“恋の歌”』

2020年9月22日 20:00

最果タヒ「千年の時を経ても、ロマンを届けてくれる」 百人一首にみる“恋の歌”

瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末に逢はむとぞ思ふ
崇徳院のこの歌が私はとても好きです。崇徳院は波乱万丈の人生を生きた人。父親には自分の子ではないのではと疎まれ、ついには地位も権力も奪われ、歌に没頭する生涯をおくります。この歌は、川の流れが岩によって二つに分かれても、また一つにまとまっていくように、私とあなたも今別れても、また必ず会おうじゃないか、というもの。背景を知ると、地位への執着とも読める歌であるけれど、やはり私はこれは恋の歌であると思う。そして、帝の地位を奪われた崇徳院にとって「また会おう」と思うことがどれほど難しかったかについて考える。人を信じることも難しく、敵ばかりがいる中で、切れていった縁もあり、阻まれることも多々あったでしょう。それでもきっと「会いたい人」はいて、その人に「また」と思うことは、もしかしたら彼にとって、すがることのできる唯一の希望であり、また希望として強く輝けば輝くほど絶望そのものを照らすものでもあったはず。
それでもこの作品は美しく、悲しいほど貫かれる人の思いが結晶のように残されています。

最果タヒ「千年の時を経ても、ロマンを届けてくれる」 百人一首にみる“恋の歌”


さいはて・たひ詩人。主な詩集に『夜空はいつでも最高密度の青色だ』、著書に百人一首の紹介エッセイ『百人一首という感情』や、百人一首を詩の言葉で現代語訳した『千年後の百人一首』(清川あさみとの共著、すべてリトルモア)。

※『anan』2020年9月23日号より。文・最果タヒ

(by anan編集部)

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