2020年9月22日 20:00
最果タヒ「千年の時を経ても、ロマンを届けてくれる」 百人一首にみる“恋の歌”
本の中には、私たちの胸を打ち、励まし、時に道しるべとなる言葉がたくさん詰まっている。ここでは、詩人の最果タヒさんが“百人一首”の楽しみ方について語ってくれました。
恋と共存していた時代
好きと思う気持ちを伝えられるかどうか、ということを、今の人は考える。好きという気持ちを伝えられなくて、そのかわりSNSで呟いて、その気持ちをすこしだけ落ち着かせる人もいる。もちろん、伝えるために言葉を選んで、LINEしたり、直接言ったり。けれど、好きという気持ちを、「作品」として伝えるのが当たり前だった時代もある。歌で気持ちを詠み、伝えた平安時代のこと。
百人一首を訳する仕事をしていたころ、この「当たり前」さについて、わかる気もしながら、どこか、簡単にわかってはいけないような気もしていた。
気持ちを伝えるということにどうして「作品」という形を選んだのか、それは当時の人にとってはその方が自然だったからで、その自然さは突き詰めても、今の私には共感が難しい。気持ちを自分だけのものだと捉えて、それを相手にさらけ出すかどうかを悩む今の人と違って、もしかしたら彼らにとっての恋は、人と人の間に流れる水のようなもの、自分だけのものではなく、恋は人と人の間に芽生えて、人々の営みの一部として育っていくものだと捉えていたのかもしれない。