2022年5月5日 21:10
実話がベースに? 明治期の神戸を舞台に繰り広げる、化粧品を巡る物語『コスメの王様』
苦労もあった。たとえば、太一がヒットさせた洗い粉の原材料にある「ジョッキークラブ」。これが何を指すのかどこにも記述がない。だが当時、他の大会社が香料に注目していたことから香水に着目したところ、アメリカで競馬の開催を記念して作られた香水の名前が「ジョッキークラブ」であることを突き止めた。
「あれが分かった時は資料室の方も“100年ぶりに解明できた”と言ってくださって。執筆中にそうした喜びがいっぱいありました」
作中ではこの香水のことはさらりと触れられているだけ。たった一単語を書くために、そこまで時間をかけて書き上げられた作品なのだ。
男女のW主人公にしたことで、当時の男女格差も浮き彫りになるが、終盤で利一が漏らす本音も刺さる。
「男性は男性で辛かったことがあったはず。そこをちゃんと書かないとフェアじゃないですから」
幼い頃から惹かれ合う二人の人生はどこへ向かうのか。これがもう、なんとも痛快で沁みる結末が待っている。この後味の良さも、高殿作品の魅力だ。
『コスメの王様』明治期の神戸。実直に働く行商の利一は、幼馴染みのような仲の芸妓のハナから無鉛の水白粉が開発されたと聞き、商機に気づく――。