60年以上に及ぶ表現の集大成! 記憶を巡る、田名網敬一の大規模回顧展
まるでそれぞれの時代の田名網さんの脳内を、トリップしているような感覚に陥る。
「非常に多作な方で、とにかく点数が多いのも本展の特徴です。『制作するときに迷うことがない』とおっしゃっていて、その決断力があるからこそ、これだけの作品を完成させることができたのだと思います」
小野寺さんいわく、田名網さんは「とても記憶力が良く、昔のことを昨日のことのようにリアルに話してくれる」そうなのだが、そういった記憶との向き合い方も興味深い。
「時間とともに記憶が変化して、話が噛み合わなくなるような経験は誰しもあると思うのですが、田名網さんはそれ自体も肯定的に捉えて、制作のプロセスに取り入れています。近年はたくさんのイメージが集合した作品が多く、まるで“記憶の曼荼羅(まんだら)図”のようです。時系列に関係なく、記憶が縦横無尽に配置され、塗り替えられていくところに、思考の軌跡を感じることができます」
今でこそデザインや絵画、映像などジャンルや媒体を問わず表現する人は珍しくないが、活動初期からデザインとアートを自由に行き来していた稀有な存在でもある。「現代におけるクリエイティブ・ディレクターの先駆けといえるでしょう。