『しあわせのパン』原田知世 「自分を見つめなおす、そのためにこの映画に出会った」
「同じ景色なのに、光によって時間帯によって景色が変わっていくんです。そういう中にいると、ふだん使っていない動物の本能というか、眠っていた感覚が研ぎ澄まされて、小さな変化に気づけるようになるんですよね。心静かに自分を見つめることもできた。肩の力を抜いて、いま起きていることをしっかり見て感じることが、芝居につながると思えたんです」。
月浦での感覚はやはりその土地だからこその感覚であり、撮影後、慌ただしい街・東京へ戻ってきた原田さんの心は、しばらく「ざわざわしていた」と表現する。
「月浦に心を置き忘れてきたんじゃないかしら?と思うほどの脱力感があって、“社会復帰”するのが大変でした。しばらくして、東京でこの作品に関わった方たちと会ったとき、みんなもざわざわしていたって言うので、私だけじゃなかったんだと(笑)。東京にいると、いくつもの仕事や物事を同時にこなさなくてはならなくて、目の前のことに集中しているようであっても、頭の中では同時進行でいくつも考えごとをしている。
おまけにあふれんばかりの情報が次々と入ってきますからね。けれど、月浦ではじっくりと腰を据えて映画のことだけを考えていた。だから、みんなの顔がものすごくやわらかだったんです。