『WAVES/ウェイブス』に込められた、フランク・オーシャンへの熱烈な想い
フランク・オーシャンを取り巻くファンダムは、歴史に名を残すようなスーパースターが群雄割拠している現在のアメリカのポップカルチャーにおいても、特に熱狂的であることで知られている。ライブではリリックを暗記したオーディエンスによってすべての曲で大合唱が巻き起こり、ソーシャルメディアでは彼の音楽に人生を救われたことを告白する投稿が絶えない。トレイ・エドワード・シュルツがそんなファンダムの熱を共有している一人であることは、『WAVES/ウェイブス』を観れば一目瞭然だろう。
マチズモ的価値観が支配的なラップ/R&Bのシーンにおいてゲイであることをカミングアウトして、自身の痛みや弱さを極めて詩的にリリックへと昇華させた先駆的な存在であること。メジャーレーベルから自作の権利を取り戻して、完全なインディペンデント体制で完璧に自身のイメージをコントロールした、特に黒人アーティストとしてはほとんど前例のなかったロールモデル的存在であること。そして何よりも、白人のインディーミュージックや国外のクリエイターを含む同時代の音楽シーン、及び過去の音楽アーカイブへの広範な素養と批評的視点から、常に独創的で卓越した音楽を生み出していること。