2023年12月30日 14:00
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』に見る現代ノワールの新たな可能性
2015年の韓国映画『暗殺』には、戦争中に日本軍に取り入った実業家のカン・イングク(イ・ギョンヨン)が、双子の娘を生んだ妻と、大きくなった双子の娘のうちの一人をいとも簡単に殺害し、その理由を「家のためだ」と言い訳する場面がある。『ゲゲゲの謎』でも、戦争によって私腹を肥やした龍賀家の当主・時貞もまた、娘や息子はもちろんのこと、まだ子供である孫の時弥や沙代のことを人間とも思っていない様子が描かれる。時貞もまた、それは龍賀という家のためと考えている。
しかも、カン・イングクも時貞も、窮地に陥ると、それは家を守るためで仕方がなかったのだと、自分を弱いものに見せようと言い訳をするところまでそっくりであった。『暗殺』や『ゲゲゲの謎』を見ると、戦争が家父長制とつながっていて、当の家父長は、「家のため」と言いながら、実際には自分のエゴのために行動していて、家を存続させるために「母」となる女性たちのことを、まったく尊重する気がない使い捨てのコマとしか思っていないことを意識させられる。
『暗殺』で戦争や家父長制に翻弄されているのは実業家の娘であったし、『ゲゲゲの謎』では当主の孫の沙代であった。沙代は、東京からやってきた水木ならここから一緒に連れ出してくれるかもという気持ちもあり、彼に恋心のようなものを抱くが、結局、一緒にこの村を出るという願いはかなわなかった。