ソロシネマ宅配便 第13回 香取慎吾、あがきながら前へ進む - 映画『凪待ち』
白石作品の『日本で一番悪い奴ら』の夜の街もそうだったが、とにかくノイジーで、埃っぽく渇いていて生々しい。汚れちまった悲しみと、そんな空間が悲しいくらい似合っちゃう男と女。
○■香取慎吾が演じる“40代の無精髭姿の中年男”
注目すべきは本作の香取慎吾は、演じる際にメイクをせずにカメラの前に立っている。そこにいるのはキラキラしたアイドルではなく、白石ワールドでのたうち回る40代の無精髭姿の中年男だ。
時に彼女のへそくりにまで手を出して競輪のノミ屋でカネを溶かし、すぐ自暴自棄になり酒を飲んでケンカをする。かと思えば、仕事は意外とできて職場でイジメられている同僚をかばったり、彼女の娘・美波に信頼されなつかれたりする一面もある。救いようのない最低のヤツだと思うときもあれば、生き方が不器用なだけと擁護したくなる男を、香取慎吾が文字通り剥き出しで演じている。
故・ジャイアント馬場は、プロレスラーにとってリング上で映える体のサイズはなによりも大きな説得力を持つと何かのインタビューで答えていたが、映画のスクリーン上でも体の大きさは武器になる。
香取慎吾の持つ獰猛な肉体性と童顔は郁男のアンバランスさの象徴でもあり、夏祭りのケンカシーンやヤクザとの乱闘で大きな説得力を持つ。