女の節目~人生の選択 (17) vol.17「初めての、一人旅」【31歳】
とくに目的もなく生き、どこにも身の置き場がなく呑んだくれている若者の、泥酔した脳への刷り込み効果は絶大である。
海外への一人旅をしたことは一度もなかった。父親の定年祝いで家族旅行したのが最後、場所はインドネシア・バリ島のリゾートで、帰省しての家族サービスと大差なかった。スケジュールも実家任せ、出発前日まで校了で慌ただしくしていた私は、渡航先を「パリ」と勘違いして荷造りしていたくらいだ。実家に変圧器が要るかと問い合わせて発覚したのだが、パリとバリは電圧が同じだったりする。
ともあれ、手始めに、一人で台湾へ行こうと思った。台湾を舞台にした小説を読んで以来ずっと興味を持っていたし、高速鉄道の開通後、ちょっとしたブームが起きて雑誌の特集などもよく組まれていた。行ってきた人たちが口を揃えて熱っぽく魅力を語り、その多くが気軽な一人旅であることも背中を押した。
会社には夏期休暇の申請を出し、ガイドブックをいくつも買い込んで、仕事の合間にうきうき眺め、印をつけたりもした。ところが結果的にこの旅は実現しなかった。どうしても外せない用事が入ってしまったのだ。一緒に働いている人々から、大変申し訳ないが夏期休暇は数日ずらして取ってほしい、と頼まれて、実際そのようにした。