インド発の世界にひとつだけの絵本『夜の木』は、手にするだけで胸がときめく
をゆさぶる?
そうなんです。絵と言葉だけではなく、ざっくりした紙の手ざわりやインクの匂いも、原初の世界を彩るのに一役買っています。この紙も、『夜の木』のためにつくられた手づくりのものなんです。
第4版の「森で踊る孔雀」に使われている若草色は、日本版だけのオリジナルだという。
■紙漉き・印刷・製本――すべてが手作業でつくられる
『夜の木』は、すべての工程が――なんと絵本に使う紙までが、人の手でつくられています。
古いコットン生地の繊維を溶かし、職人が手で漉(す)いて、自然の風で乾燥させた紙からは、なんともいえない独特の風合いが伝わってきます。黒を背景にした『夜の木』のための紙をつくるときは、原料に黒い古布だけを使い、漂白や品質調整のための化学薬品は使わないのだとか。
笑いながら、おしゃべりしながら、時には昼寝をするほどのゆとりの中でつくられた紙。
この紙ができたら、次は一枚一枚、シルクスクリーンでの印刷作業です。
木製のスクリーンにインクを盛って手刷りする人、刷った紙を取る人、刷った紙を乾燥棚に載せる人と、3人1組で一色ずつ色を重ねること数十回。機械を使えば一度に数十ページを印刷できるこの工程も、『夜の木』の場合、なんと1ページにつき82回も刷っては乾かすことを繰り返しているそうです。